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No.33526の一覧
[0] いんこーかていきょうし 【オリジナル】[saki](2012/07/13 19:46)
[1] べろちゅーと手コキ[saki](2012/06/24 10:15)
[2] くんくん[saki](2012/06/28 22:55)
[3] 二人同時にやってみよう[saki](2012/07/13 19:25)
[4] 胸をつついて、先っぽこねて[saki](2015/08/02 15:22)
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[33526] いんこーかていきょうし 【オリジナル】
Name: saki◆c45b560a ID:db494c30 次を表示する
Date: 2012/07/13 19:46










 家庭教師、という職業がある。
 学校や塾などとは違い、勉強を教える側である教師が生徒の家に訪れ、一対一で行う学習方法だ。
 そのなんともハイソサエティーな響きの通り、過去にはお金持ちだけが利用する頃もあったらしいが今では一般大衆も気軽に利用する制度となって久しい。
 とはいえ、家庭教師という名前にはまだまだ不思議な魅力がある。
 学校の先生達よりもずっと親しく良心的で年もわりあい近いから話題も合う。
 そういう環境から、家庭教師の先生と生徒が本来勉強を行う二人だけの密室で秘密の情事に励むという設定は定番でもある。
 だから、決しておおやけにはしないけれど期待してしまうのはしょうがないのだ。
 年の近い異性による一対一のお勉強。
 本来肝心なのは後者だけれど、よりプライオリティーが高いのはどうしたって前者の方。
 
 そんな下心ありありの動機とやる気。
 実はお互いが似たような期待を抱いていたと知るのはずっと先のことになるのだけれど。
 
 
 
 
 ****
 
 
 
 
「えっと、桐嶋ゆきって言います。よろしくお願いします」
 
 
 暖かな春風の吹く午後。
 まずは顔合わせということでリビングに対面して座る二人と一人。
 
 一人は、精一杯小奇麗にしてきましたといった様子が漂うどこにでも居そうな年若い男。
 もう一人は、彼よりも更に若い、というよりも幼いといった言葉が似合う可憐な少女。
 最後の一人は、それを見守るような位置に座る柔らかな物腰の婦人。
 
 それぞれ生徒と先生、そして保護者の母親という構図である。
 シチュエーション的にはお見合いのようでもあるのだけれど、状況からいえば家庭訪問の方が近いだろう。
 とはいっても、その先生側にしたところで普段は他人に物を教えてもらう立場であり、こういう機会などそうあることではない。
 なんとなくやり辛さと居た堪れなさが交じり合った硬い空間。
 ただ、ホームとアウェーの違いはあれ、生徒の方も緊張でガチガチになっていた。
 近いようでどこか遠い存在である大学生。
 兄弟のいない彼女にとって、親戚でもなく、先生でもなく、友達とも違う、少し年上の異性という存在は未知の生物だ。
 そんな人間が自分と同じ空間。しかも家の中にいるというのはなんともドギマギしてしまう。
 自然、目を合わせることが恥ずかしく。
 だけども見慣れぬ男の身じろぎ一つが気になって視線はチラチラ彼処に流れる。
 不躾だとは思うが、今後この人物が自分の家に、しかも自分の部屋という領域に進行してくるのかと思うとしょうがないのだ。
 授業時間は二コマ、だいたい二時間ほどの予定だという。
 最近じゃ父はおろか、母でさえそんなに長時間、部屋に居座っていくことなど有りはしない。
 それは今まで親しい異性も、勿論恋人だって作ったことの無い少女にとって非常にスリリングな体験となるだろう。
 だから、伏せた視線の先にあった男のズボンについた皺や、ちょっと色あせた靴下にまで意識がいってしまうのはしょうがないのだ。
 当然、それらの情報を元に勝手な性格診断をしたり、異性としての点数付けをしてしまうのも。
 
 うん、普段はズボラそうだけど、真面目な場にはきちんと臨もうとする姿勢は○。
 顔は普通っぽいけど、目元がちょっとタレてるのは可愛いかも。
 などなど。
 
 ということで、初顔合わせは終始お堅い説明ばかりとなりはしたが、それでも紅茶のカップが二度ほど空になる頃には無事終了。
 それほど時間はたっていなかった筈だが、じゃあ今日はこれで、と立ち上がる際には二人そろって安堵の息がこぼれた。
 供給過多の家庭教師事情によるものか、教師を選ぶ猶予として置かれたこの場、つまりは本当の顔見せのみの機会があってよかったとお互いに思う。
 短い時間ではあったけれど、なんというか本人しかわからないだろう色々と衝撃的な事実もあったのである。
 それは例えば、思っていた以上に年上の異性という存在が遠いものだと改めて知ることだったり。
 あまり期待しないよう心を落ち着かせてしてやってきたら、びっくりするほどの美少女に当たり、逆に萎縮してしまったことだったり。
 
 ただどちらもが、当初もっていた僅かな期待を更に膨らませたことは確かだった。

 
 
 
 ****
 
 
 
 
 さて、そんなこんなで始まった家庭教師の時間。
 当初の緊張と戸惑いも回数をこなせば、段々とこなれていく。
 玄関と部屋に入ったところで軽い挨拶。
 軽い雑談を交えながら普段学校で勉強している部分や試験範囲などを確認し合い、あらかじめ用意された小テスト形式のプリントをさくさくこなして、後に答え合わせ。
 概ねがこんな感じで、あとは授業の開始直後などに飲み物の差し入れがあるぐらいだろうか。
 回数にして今日で七回目。
 お互いがお互いの雰囲気をある程度掴み、他人行儀な部分も少しずつ薄れ、趣味の話も出来るようになった。
 少女の方は部屋の片づけと自分の服装を念入りにチェックしたり、男の方はあまりジロジロと周りを眺めないよう気を張っていたりしているので、そういう部分では親しいと呼ぶにはまだまだ遠いがそれはそれだろう。
 友達でもなく、学校の教師とも違う微妙な距離感。 
 それを始めに壊したのは、休憩の最中にポロリとこぼした、こぼしたように見せかけた少女の一言だった。
 

「ね、先生」

「ん~?」

「先生っていま彼女いるんですか?」

 
 一軒家の二階にある生徒の部屋。
 つまりはゆきの私室で、先ほど差し入れられたコーヒーと紅茶をそれぞれ傾けながら和んでいた二人。
 今日の勉強開始から約一時間半。
 あらかじめ決めていた勉強範囲も早々に片付き、「じゃあ他の教科で何か悩んでいる所とかある?」という話題からくるくる回ってたどり着いた何気ない質問。
 その瞬間、ピシリと、当人同士にしかわからない微妙な緊張が漂う。


「いや、残念ながら」

「…そうなんですか?」


 別にすぐさま恋人になって下さいだとか、そういう気持ちな訳じゃない。
 少女らの世代にとって、色恋沙汰の話というのは最も身近なものであり、興味を引く題材だ。
 女だったら誰だってそうだと思うかもしれないが、でもそこにはまだ事情がある。
 たまたまなのかそうでないのか、彼女の属する友達グループには彼氏持ちが極端に少なかった。というか皆無だった。
 なので普段する会話の中身は全て空想のものか、他人の又聞きの又聞きといった遠い情報。
 それが自分にとなると及び腰になるけど、けれどもの凄く気になることは確か。
 出来れば生の体験談など聞いてみたい。
 どちらかといえば、そういう意図での質問である。
 
 
「それじゃあ、今までには?」 

「まぁ、それなりに」

「えっと、じゃあキスとかも」

「まぁ、それなりに」
 
「……ぶぅ」


 ということで興味津々の内心を押し殺し、なるだけ自然な感じでふんわり聞いてみたのだけれども結果は見事に惨敗。
 勇気を絞っての質問だったというのにまったくもって暖簾に腕押し。
 まさかここまではぐらかされるとは思っておらず、ついつい地が出てしまい、不満顔が現れてしまう。
 
 ただ、彼女にとって知る由も無いが、先生である男にとってこれだけ答えにくい質問というのもないのである。
 実は彼、今まで一度も彼女というものを作れたことがないのだ。
 親しい女友達であればそこそこに多い。
 その関係で一緒に遊びにいったり、お酒を飲んだり、初体験を致してしまったことはある。
 のだけれど、世間一般でいう普通の恋人同士となれたことはない。
 複雑なようでいて、実際はただヘタれなだけの残念すぎる恋愛遍歴。
 ということであまり触れて欲しくない話題なのだ。
 そんなんでよく若い女の子の家庭教師をやろうとしたと思うが、生徒の人選はまさしく完全な運絡み。
 配属先を知ったときは、教師の性別に拘らない家庭を不思議に感じたり、じゃあむしろ全く気にしなくても平気なくらい個性のあるお嬢さんなのかとビビったほどでもある。
 
 こうして大当たりを引いた今も、平静を装っているが内心ばくばくしっぱなしだ。
 幸いなのは、恋人がいるかどうかを聞かれても浮かれずにいられる程度は、女という生き物を知っていたことだろうか。
 ただ、彼とてこの話題を活かして上手い具合に進めて行きたい気持ちがない訳じゃない。
 けれども、ここで踏み込んでいけないからこそのヘタれ。
 先生として授業を進めることは出来ても、異性として女性をリードをするのは荷が重い。
 彼が知り合いの女性陣から気軽に誘いを受けるのもこのあたりが理由だったりする。
 草食男子はただ遊ぶだけには最適なのだ。
 肉食系とは安全度が違う。


「で、突然なんでそんな?」

「な、なんとなくです」

「そう? ならそろそろ勉強に戻ろっか」
 
「ぅー」

「はい、今日はこれやったら終わりね」


 もどかしい。なんともヤキモキする。
 初めて経験する。知り合い以上、友達未満の距離で接する年の近い異性。
 もっと踏み込んでみたいけど勉強するだけならその必要はない。むしろ邪魔になるだろう。
 こっちの気持ちもしらないで、と睨むように、実際には恐々窺うように様子を見る。
 けれどそこには取り繕ったすまし顔。
 彼にしてみれば精一杯の虚勢なれども、受け取る側には目論見どおり、すまし顔で伝わったようだ。
 この辺り、少女の対人経験の薄さが仇になった形であろうか。
 少しだけ先生である男の方にアドバンテージがある。
 
 実はこの、強引にポンポン突っ込まれないですむ、というのも彼がバイトに家庭教師を選んだ理由の一つでもある。
 情けない話だけれども、同年代との会話は疲れてしまうことが多いのだ。
 これまでの経験上、ある程度敬意を持ってくれる分、年下の方が幾分楽だった。


「じゃあこれ終わったら教えてください」

「うーん、考えとく」


 そんな会話を交えつつ、もうそれほど時間もないということで参考書の後ろ部分にある問題集を指し示す先生と不満を残しながらも真面目に取り掛かる生徒。
 ほどなくしてそれも終わり、今度こそはと生徒である少女、ゆきが顔をあげる。
 
 
「はい、おわりました」

「うんうん、ご苦労様」

「?」

「?」
 
「えっと、さっきの質問の答えは?」
 
「考えてみたけど個人的な質問には答えられません。よって却下」

「え、えぇー」
 
「だいたいそういうのは個人差によるから、あんま期待してるとガッカリするよ」


 なんて話をしながらも、コロコロと変わる少女の表情にときめき、やっぱ可愛いなぁと和む不埒な先生。
 今ここに第三者が居るならば、密かにうなる少女の様子に男が見惚れていたことに気がついていたかもしれない。
 あるいは喜びで鼻の下が伸びていると指摘したりも。
 彼にとって、最近は先生として頑張っているのも、お金を稼ぐ為より既にこちらがメインになりつつあった。
 
 昔、キャバクラを知ったとき、女の子と一緒に話して飲むだけで数万も払うとか馬鹿なんじゃないかと思ったことがある。
 だというのに、普段接点のない若い子と他愛無い話をするというのは、いざやってみると結構嬉しいもので、幸せな気分になる。
 しかもそれがアイドルもかくやという美少女なら尚更のこと。
 今の状況とて、人によってはきっと大金を支払ってでも得たいものだろう。
 
 
「でも恋人欲しいって人は多いし、実際に幸せなカップルは沢山いますよ?」

「いやまぁ、さっきも言ったとおり個人個人で違うから。ただ、夢見る乙女の想像とはだいぶ違うって話」
 
「ふぅん」
 

 判ったような判らないような、はぐらかされただけのような。
 納得はいかないのだけれど、その前にちょっと気になる要素が急浮上したため今までの情報を纏め、少し考えてみる少女。
 先生は今、彼女はいない。
 過去にはいたっぽいし、そうなると当然キスの経験もあるだろう。
 でも、どうやら先生的には恋愛は好きじゃないのかもしれない。
 ガッカリって言葉はそういうことだ。
 そしてそれは誰にでも起こる可能性のある問題らしい。


「せんせー」

「うん? もう今日は終わりだからそっちも片付けちゃっていいぞ」

「ちょっとこっち向いてください」

「? なん、……っ」 
 
 
 ぼんやりしたゆきの様子を尻目に変える準備をしていた彼が呼びかけに振り向くと、そこには差し迫った少女の顔。
 自室ということもあって無造作に流した栗色のショートヘアに、油断はないけれど気負いもないノーメイクの素肌。
 特徴的な大きな瞳は今はそっと閉じられていて、だからだろうか、綺麗に整ったまつげが妙に目立つ。
 そしてなんといっても気になるのは、適度に肉厚のある桜色でぷにぷにしていそうな唇。
 まるで凍えたようにわななくそれが、ゆっくりと近づき


「ぶひゅっ」 


 残念ながら、触れあうのを通りこして衝突した。
 
 
「っ……、おぉま」 
 
「あはは、目をつぶっちゃまずかったかな。意外と力加減むずかしいかも」
 
「そりゃこんな無理な体勢でやろうと思えば、……ってそうじゃなくて!」

「そっか、これが先生の言いたかった理想と現実のギャップってやつなんですね」

「え、……いや、そうだけどそうじゃないだろ」


 キスをした直後にしてはすっとんきょうな会話の応酬。
 少女は勢いあまってやってしまった事への戸惑いと照れ隠しで、もう片方はただただこの状況が信じられず思考がまごついて。
 
 ――今、キスしたんだよな(よね)
 
 なんとなく先ほどの光景が夢のようにも思え、指先で唇をなぞる。
 感触は、というよりもぶつかった痛みがまだ残っているから実感だけはやたらとあった。
 つーっとお互いの視線が唇に寄せられる。
 
 
「え、へへ、なんか恥ずかしいですね」

「……おいおい」

「あ、私とじゃ嫌でした?」

「いや、ご馳走様って感じだけど」
 
「そしたら、もう一回いいですかね? さっきのはちょっと失敗でしたし」
 
 
 そう言って再び近寄る二人の唇。
 だが今度は、寸前で肩を抑えることで留められる。
 

「ちょっ、まっ、そのまえに」

「ふぇ」

「これ、いいのか? キスだぞ?」

「はい、しかもさっきの初ちゅーですよ」

「なっ…!! それこそ良かったのかよ」

「自分でもわかんないです。でも、興味はあったから」

「うぉい」


 ここにきてガラガラと崩れていく、生徒と先生のキャラクター。
 それはお互いがお互いにええかっこしいをしていた象徴のようなもの。
 
 距離、近づけたのかな。
 
 慌てた様子の先生を見て、ゆきは少し嬉しくなった。
 先生のことはまだ男の人として好きってわけじゃないけれど、でも気になってはいる。
 そしてキスにもその先にも興味はあったけど、それと同じくらい不安も感じていた。
 だから自分の性格からいって、いざやるとすれば思い切りよく行かなければきっと機会はいつまで経ってももやってこない。
 ましてその相手が自分と同じ初心者だとすれば、強引にずかずかやられてしまうか、互いに困って沈黙という未来しか浮かばない。
 それなら年上の、このちょっと気になる先生としてしまうのは、ベストじゃないけどベターな答えだと思ったのだ。
 

「いやさ、その、一時的な好奇心でやると後悔するんじゃない? 経験なかったんでしょ?」

「ぅー、はい」

「女の子ってそういうの暫く後悔残るって聞くよ?」

「それは、そうかもしれませんけど」

「そしたら、今度からは好きな人が出来たらその人にしてもらいなさい」

「でも」
 
 
 キスの余韻と次への誘惑、その他いろんな感情を振り切って、なんとかそう諭す先生、もとい野獣の卵。
 ただ本心では彼もかなり嬉しいのは確かだ。
 こんな可愛いことキスできるなんて、もう一生訪れないと思うから何度だってしたいし、出来ればその先もという欲もある。
 だけど彼女はきっと恋に憧れているだけで、自分に恋心は持っていないとなんとなく判ってしまったから。
 そうなれば少女より幾分経験豊富な大人としては、きちんと対応せざるをえない。
 と、モラリストならぬヘタリストの彼は思うのだ。
 

「……ぐす」

「ちょっ、なんで」

「だって初キスがあのままじゃ後悔残りますよね、きっと」

「……うっ」


 確かに、もう既にやってしまったことに対していう言葉ではなかったかもしれない。
 女というのはとても繊細で、同時に酷く身勝手な存在だ。
 なにが引き金になるかわからないから、今まで自分から手を出すことは一切せずにきたけれど、こういうのはあんまりだと思う。
 しかも、なにぶん少女は顔の造詣が優れているため泣きそうな顔をされると実に困る。
 もっとも、どんな女であれ泣かれてしまえばどうしようもないのだけれど。


「じゃあ、良いけど」

「ほんとですか?」

「でも後悔しないでね」

「はい、少なくともあれだけで終わるよりは絶対しません」

「それなら良い、のかなぁ。あ、…でも重いのはやめときなね」

「? 重いの?」

「や、ごめん、なんでもないです」

 
 ということで改めて、と椅子に座った先生の肩に手をやり、みたび近づく少女の顔。
 突発的だった先ほどと違い余裕があるぶん、緊張と好奇心がとめどなく広がっていく。
 それに伴い、知らず高まる五感。
 耳には密かな息遣い。
 魅入られてしまったかのように外せない視線。
 視覚に入る相手の顔が大きくなるごと胸が高鳴るくらいに異性の香りが辺りを漂い。
 そしてたった一点、唇に意識が集中する。
 
 
「っ、んぅ」

  
 今度こそ確かに感じる唇の柔らかさ。
 触れ合うそこから体温と湿り気が伝わり、不用意に身体が動かせない代わりにと心臓が激しく鳴り響く。
 一秒、二秒とそのままでいるうち、キスをしたんだ、という実感が心を満たす。
 自分が嬉しいのか、それとも今更の後悔で悲しいのか、それすらも判らない。
 ただ胸がいっぱいで苦しい。
 
 長く止まったような時間。
 やがて名残惜しげに、ちゅっとお別れの挨拶のような音を残して離れる唇と、お互いの顔。
 息を止めて我慢していたのだろう。
 はふぅ、と漏れる吐息は、うっとりと綻ばせた表情や潤んだ瞳と合わせ、小柄な少女に似合わずぞっとするほど艶っぽい。
 それを目の当たりにし、思わずうっと声を詰まらせてしまったのは男ならば仕方がない事だろう。
 その素直な反応で今しがたの行為に恥じらいを感じたのか、ゆきも顔を真っ赤にさせる。
 

「えへへ、な、なんか凄くあれですね、これ」

「そ、そうだな」


 気恥ずかしさで相手の顔が見れない。
 しかしそれが少女だけならまだしも、いい大人なりかけの男の側も似たような状況なのだから大概だ。
 彼とて、中学生かおのれはと思う気持ちはあるのだけれど、どうにも気持ちと心が一致せず、熱が一向に冷めることがない。
 
 
「あの、…」

「ん?」

「手、握ってもいいですか?」

「? いいけど」

「あと、最後にもう一回だけキスさせて下さい」


 チラリと時計を気にすると、思っていたよりもずっと差し迫っている終わりの時間。
 だからだろう。冷めない熱を維持したまま、二人が共に名残惜しさで心が一つになる。
 
 
「わっ、なんかおっきい」


 ためらいがちに伸ばされた手。
 それが窺うようにして少女よりも幾分硬い指先を撫で、その後にぎゅっと絡められる。
 指先が相手の指の隙間に入り込む、俗にいう恋人繋ぎの形。
 大きさの違いや感触を確かめるみたいに、ぎゅっぎゅっと込められる力。
 何が楽しいのか、そんな無意味な行為を幾度か繰り返し、ただそれだけなのに少女の顔に笑みが浮かぶ。
 
 
「じゃあ、しますね」

「……うん」

「目、つぶっててください」

 
 握られた手に込められた力が、更に硬く、強まる。
 そこから伝わる熱と、痛いほど主張する鼓動の音。
 何故だかそれで目を閉じているというのに、相手の表情や仕草までもがありありと脳裏に浮かび。
 それを機に、鋭角化した五感が匂いや吐息、熱などの様々な情報を拾っていく。


「んぅ…」

 
 吸い寄せられるようにして、触れ合う唇。
 そこに感じる、ほんのりとした甘み。
 なんとも嬉し恥ずかしいシチュのわりに、頭の中では、そういえば匂いの残るようなものを今日は食べてなかったよね、とか。
 息や体臭がくさかったりしないよね、とか。
 目をつぶってる間、変顔になってたりしなかったよね、なんてことが次々よぎってくる。
 どうしても気になり、まだ口付けた状態のまま目を開けると、ちょうど反対側の視線も同時に開き、びくりと二人の距離が開く。
 
 
「ふふっ」

「くっ、はは」


 お互いがお互いに、びっくり顔を見事に晒してしまい。
 ついでにビクンと震えてしまった手もつなぎっぱなしの状態だったから、その様子もあわせておかしさが込み上げた。
 それに伴い名残惜しかった余韻も見事に消え、目配せのあと、そっと二人同時に手の繋ぎを解き、身体も離す。


「キスってもっと砂糖菓子みたいなものと思ってましたけど、実際してみると違いますね」

「そう?」

「はい。さっきのはそれに近かったんですが、今のはオムライスみたいでした」

「いまいち例えがわかんないけど、日常的ってこと?」

「そんな感じです」


 時間もギリギリだし、熱も冷めたことだからこれでお開き。
 持ってきた筆記用具と勉強用の資料、あとは回収した宿題のプリントを全て鞄に詰め込み、さぁ帰るかと立ち上がる先生。
 そんな彼の服をちょいっと掴み、生徒が耳に口を寄せる。
 

「次はもっと色々教えてくださいね」

「うーんとさ。今日のは特別で、今度からはまたいつも通りにしないとマズくない?」

「それこそ駄目ですよ。遊びでキスを奪われたって思うと悲しくなりますから」

「いや、奪われたって……」

「両親や友達に言っちゃいますよ? いんこーかていきょうしに唇奪われたって」

「ちょっ、それは」

「えへへ。まぁ、言っても言わなくても事実は変わらないですけどね」

「ぐっ、卑怯な」

「いいじゃないですか。こんな若い子と色々できる機会ってあんまりないと思いますよ?」

「それは否定しないけど」

「ということで、これから沢山いんこーを教えてくださいね、せんせ」













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