#1
退屈きわまる講義の後、遊びに行こうという友人たちの誘いを丁重に断って、大学を後に家へと帰る。
そんな生活リズムになって、もう2年が経っていた。
俺としても、もう少し遊んだりどこかに行ったりもしてみたいが、ちょっとばかり、そうもしていられない事情と言うものがあるのである。
「ただいまー……って、ぅわ」
自宅の扉をあけて、そこで視界に入ってきたある意味想像通りの惨状に、思わずうめき声が漏れる。
最寄駅から徒歩10分。築20年。4階建てのアパートの1階、南側のいちばん端に位置する、何の変哲もない1DKは、いつものように地獄と化していた。
朝はきちんと整理整頓されていた筈なのに、紙屑やらお菓子の屑やらが散乱し、何故かそこらじゅうに水が飛び散っている。本棚にきっちり納められていた筈の漫画やら小説の何割かも、ぼろぼろと床に無造作にこぼれ落ちていた。
地震の被害にでもあったような惨状だ。
「あ、ごしゅじんさまー♡」
そんな地獄の中からぴょこんと顔を出し、てとてとと駆けよって、きゅっと俺に抱きついてきたのは、小柄の愛らしい女の子。
頭の両端でピコピコとせわしなく動いているもふもふの耳や、肉づきが薄い筈なのにやたらと柔らかそうなお尻から生えている、同じくもふもふな尻尾から分かるように、いぬびとの子供である。
もっと小さな仔犬だったころ、棄てられているのを見かねて拾ったのが2年前。世話をしているうちに懐かれて、こちらとしても情が移ってしまって誰かに譲ることもできず、こうして我が家で面倒を見ているのだ。
借りた部屋がペット禁止じゃなくって、ほんとに幸運だったと思う。
「えへへー♪」
ぐりぐりと頭を俺の胸元に擦りつけて甘えてくる。人間で言えば、10代前半のようにも見える幼い顔立ちに、更に子供っぽく素直な笑顔を浮かべて、俺の帰りを喜んでくれているのだ。
うん。可愛い。間違いなく可愛い。可愛過ぎて思わず見とれてしまった。頭を撫でてしまった。
……が、この可愛さに騙されてはいけない。
何せこいつは、綺麗だった部屋を、このような地獄に変えた張本人なのである。
大きくため息をついて、抱きついてくる柔らかな身体を引っぺがす。
まるでご褒美を待っているかのように瞳を輝かせ、ぴこぴこと尻尾を振る我が愛すべき駄犬を、俺は半眼で睨みつけた。
「……ミミ。ちょっとそこ座れ」
「あい」
俺に言われたとおり、とりあえず床の無事だった場所を探してちょこんと正座。
毎度のことで説教されるのは分かっている筈なのに、何かを期待するように尻尾は元気良く振られたままだ。
思わず力ない苦笑が漏れた。
ちなみにミミと言うのは、世話をはじめてから彼女に俺が付けた名前である。犬耳だから「耳」で「ミミ」。
あまりにも安直だとか、いぬびとなのに猫っぽいとか、周囲からは総スカンだが、俺としてももともとそんな長いこと面倒を見るつもりがなく、どうせ新しい里親が気合い入ったものを付けてくれるだろうと適当に与えた名前だったのである。
だけどまあ、結果的に、こいつの気性に合った、いい名前ではないかと思っている。
犬なのに、何と言うか、猫っぽいのだ。甘え方とか。仕草とか。
頭を撫でてやった時なんかは特に猫っぽくって、ごろごろ喉を鳴らして身体を擦りつけてきたりするのだ。猫である。犬なのに。
「ミミ。言いたいことが二つあります」
「あいっ」
待ってましたと言わんばかりの元気なお返事。背筋もピンと伸びている。お尻の尻尾は、ちぎれんばかりにぶんぶんぶんぶん。
説教する側としては徒労感が増すばっかりだ。
「ひとつめ。この部屋のあり様はなんだ」
「……」
俺の言葉にきょとんとした表情になって、ミミは部屋の中を見渡す。
見た目雑種だが、室内犬の血が濃いらしいミミは、自分一人で外を出歩こうとは絶対しない。何をどう考えてもこの惨状はこいつの仕業に違いないのだ。
で、まるまる一分かけて視線を巡らせた後、ミミは再びこっちを向いた。
その小さな顔に浮かんでいるのは、どこまでもあくびれていない子供の笑顔。
「えへ」
いや、えへ、じゃないから。
「何でこんなに部屋が散らかってるの!」
怒った口調で言ってもミミは全然ひるまない。
んとねー、とのんびり首をかしげて、ミミは留守中に自分がやらかしたことを指折り数える。
「おかしたべて、ごはんたべて、ご本読んでた」
「……それだけ?」
「それだけ」
お菓子と本は分かるけど、じゃあこの散らばったティッシュと水は何なんだ。
部屋がぐちゃぐちゃのときには、他のバリエーションは色々変わっても、この二つだけはいつも変わらずに散らかっている。
何をしてたんだと問い詰めても、「やだぁ、ごしゅじんさまのえっちーっ」などと言って、いやいやをして答えてくれないのが常である。意味が分からない。
いや、意味が分からないというか……まあ一つ、心当たりがないでもないけど。いやらしい方面で。でも話をそっちに持っていくと、いろいろ心乱されそうなので気付かないふりをする。うん。平常心平常心。
「はぁ……ああもう。散らかしたんならきちんと片付けなさい。やり方はいっつも教えているでしょ」
「あいっ」
と、言われている事が分かっているのかいないのか、とにもかくにも元気いっぱいな返事を返してくるミミだった。
ため息が漏れる。
わかる。俺には分かる。これからどれだけ躾けても、この散らかし癖だけは絶対治らない。
多分こいつは、こんなお説教のやりとりですら何かの遊びだと思ってやがる。
しかしそうと分かっていても、やはり説教せずにいられないものがあったりするわけで。
「ふたつめ」
「あいっ」
「その格好はなんだ」
「……?」
ミミは再びきょとんとした表情をして、今度は視線を落として自分の身体を見つめる。
素っ裸、である。
もう何の言い訳もできないほど、素っ裸。
ブラジャー一つ、ショーツの一枚も付けていない、完全無欠の全裸そのもの。
「いっつも服着なさいって、あれほど言ってるでしょう!」
言いながら、部屋の隅に脱ぎ散らかされていたミミのための衣服をつかみ、突きつける。白地の下着上下に、ゆったりしたワンピース。服に慣れていないミミが着やすいようにと選んだ衣装ですら、こいつはなかなか着てくれない。
「や」
そしてついさっきまでの素直さはどこへやら、この拒絶である。
ぷっと頬をふくらませ、ふいっとそっぽを向いている。
その仕草は子供っぽくって正直可愛らしいが、しかし飼い主としてはそうも言っていられない。
俺に拾われるまではそういう習慣がなかったらしく、そのためか、とにかくミミは服を着るのを嫌がる。身体の動きを妨げる邪魔ものくらいにしか思っていないようで、わざわざ一から十まで着せてやっても、30分後には全部脱ぎ散らかしているのが常だった。
いぬびとと言って人と区別をされてはいても、耳や尻尾を除けば、ミミの見た目は人間の女の子と変わらない。ひいき目なしに可愛いし、体型もちょっと幼めな感はあるけれど、女の子らしい柔らかい曲線で構成されていて、要するにエロい。
正直に言って、四六時中そんな裸を見られるというのは、眼福ではある、ラッキーそのものではある。
ではあるのだが、いくら室内犬と言っても、獣医に見てもらう時などには外を出歩かなければならないし、やはりそういう時に裸族では困る。
いや――ていうか。うん。
そう。それに、何より。ぶっちゃけた話、たまらんのである。
一緒に傍にいるだけでひっきりなしに抱きついてくるわ(全裸で)、風呂上りの俺の股間を興味深そうに匂い嗅いでくるわ(全裸で)、寝ていても何だかさびしいのか布団に勝手に潜り込んでくるわ(全裸で)、正直たまらんのである。
何を贅沢なことをと思われるかもしれない。実際の話、俺自身も、ミミと出会う前に、知り合いなんかがそういう境遇だったりすれば「もげろ」と野次の一つくらい飛ばしていただろう。
だがよく考えて見て欲しい。人間は、四六時中ムラムラしていては生きていけない生き物なのだ。
大学生の身で言うならば単位のためにレポートの作成や試験の準備などはやらないといけないし、もっと根本的なところで言えば、食事やら洗濯やらの家事をしないとそもそも生活が出来なくなってしまう。そのための時間も、ミミの裸体で延々ムラムラさせられて過ごすとなると、もうこれははっきり言って拷問である。無理である。
なので、トイレと一緒に着衣の習慣もしつけようと奮闘していた訳だけど――結果はまあ、ご覧の有様なのだった。
「そんなこと言わない! 着なさい!」
「やー! やぁだー!」
で。まあいつものごとくなのだが。
力ずくで服を着せようとする俺とそれから逃げるミミ。ただでさえ狭いのに、散らかってさらに動きづらくなった部屋の中で、追いかけっこをする羽目になってしまった。なんだか楽しくなって来たのか、ミミは途中からきゃらきゃらと笑い声まで上げている。
前途多難である。
躾の仕方、もう完全に失敗した。
7畳半の狭い部屋の中で全力疾走しつつ、心の中で根深い嘆息をする俺なのだった。
――で。
20分後。
「……はあ。ああもう……」
何とかミミの腕を捕まえることに成功した俺が、無理やりショーツを穿かせワンピースを着せることで、ようやく追いかけっこの決着がついた。
疲れた。息も絶え絶えになりながらミミを見ると、身体にまとわりつくヒラヒラが気に入らないのか、ぶーぶー拗ねている。それでも服を脱ぐと大目玉を食らうのを分かっているのか、ワンピースの裾をつかんでは放しつかんでは放し、何だか居心地悪そうにしている。
「ごしゅじんさまー……これやだー」
「服にも慣れておきなさい。似合ってるよ。可愛い」
「うぅー……」
居心地はあくまで良くなさそうだが、それでも褒められればまんざらでもないのか、少し頬を染めてもじもじしている。
うん。可愛い。
しばらくはまあ、この格好でいてくれそうだ。ひとつ息をついて、部屋の中の惨状を改めて確認する。
手狭な中を二人で暴れまわったため、部屋の中の散らかり様は2割増しに酷い有様になっていた。
スーツケースのあたりが特にひどい。服嫌いのミミがどさくさにまぎれてひっくり返しやがったのである。
「……ミミ」
「……う―……?」
「片付け、今からするから手伝いなさい」
少しびくりとしてこっちの様子を窺っていたミミは、しかし俺の言葉を聞いて、ぱぁっと表情を輝かせた。
「あいっ♪」
……元気の良い返事に、これ以上ないくらいため息が漏れる。
多分だけど、こいつ、全部分かって部屋を汚しているんだと思う。
怒られるのも承知の上。そのあと一緒に掃除をさせられるのも承知の上。
子供が親に構って欲しくてわざと怒られるのと同じようなものだ。そうやってミミは、飼い主である俺と、少しでも一緒にいられる時間を増やそうとしている。
結果、どれだけ躾けても、言う事をちっとも聞いてくれない駄犬となってしまった。
(育て方間違ったなぁ……)
ミミと一緒に住むようになったから、ため息をつく回数が増えたような気がする。
#2
小一時間かけて部屋を綺麗にした後、身体中が汗まみれほこりまみれになってしまったので、風呂に入ることにした。勿論、ミミも一緒にだ。
役得だと思われるかもしれない。
実際そういう面もあるのだろう。あるのかもしれないが、とにかくミミは水嫌いで、風呂に入れるだけで一苦労なのである。正直なところ、眼福ではあるだろうがそれ以上のアレコレまで気分を持っていく余裕がない。
当然自分で身体を洗ってなんかくれないので、ぎゃあぎゃあと騒いで嫌がる彼女を抑えつけ、石鹸で泡立てたスポンジで、きめ細やかな女の子の肌を傷つけないよう汚れを落としてやる。とにかく体力と根気のいる作業だ。
愛らしい女の子と一緒にお風呂、しっぽりあったか裸のお付き合い、なんてものは存在しない。もうまったくもって存在しない。
じゃあ何があるのかと言えば、戦場だ。
「に゛ゃあああああああああっ」
「うーるーさーいー! ほら目ェつぶって! 髪も綺麗にするから」
ごしごしごしごし
「いーに゛ぁああああああああああああああっっ」
「こら、暴れたら危ない! 蹴るな! 殴るな! って、痛ええっ!? 噛むな! ああもう! 良い子にしてたらご褒美上げるから!」
「うー! ううーっ!!」
ごしごしごしごしごしごし
だいたいまあ↑こんな感じなのである。
そんなだから、湯船につかってゆっくりできるのは、一通りミミの身体を洗い終わって、彼女が飛び出すように風呂から逃げ出した後にようやく、と言うのが常だった。
しんどい事このこの上ない。
体力を無駄に消費するイベントが2連続。ミミが部屋を散らかしているときは結構な確率でこんな有様になってしまう。まだ若いうちの今なら良いけど、この先年を食って色々余裕がなくなってきた時のことを考えると、やはり少しばかり憂鬱にもなってしまう。
「……ふう……」
結局、10分ほど湯船の中でぐったりし、疲れをとりあえず洗い流した後、ようやく俺は風呂を出た。
「……腹、減ったな」
追いかけっこに掃除に風呂にと色々騒いで、そろそろ時間も夕方近く。そう言えば胃袋も寂しい感じになってきたような気がする。
で。
しかし、心底困ったことに、イベントはまだまだ終わらないのである。
今日の夕飯の献立をどうしようかなどと考えながら服を着、脱衣場を出たところで、いつものようにミミに抱きつかれた。
「ごーしゅじんさまーっ♪」
「うぁっ!?」
真正面からいきなり襲いかかってきた衝撃にたたらを踏む。
見れば――なんというか、やっぱりミミは全裸のままだった。よくよく考えれば当たり前だ。苦労して服を着せても、その後風呂に入って裸に剥けば、当然また服を着るのを嫌がってしまうに決まってる。風呂はもう少しでも後にすべきだったかと俺は少し後悔した。疲れきって判断力が鈍っていたのかもしれない。
だけど、当然ミミにとっては、そんなこっちの想いなんぞどこ吹く風である。
パタパタと尻尾を元気よく振りながら、愛らしい笑顔を満開にさせてこちらを見上げてきていた。
「ね、ね、ごしゅじんさま」
「なに、ミミ」
「ごほうび、ちょうだい」
「……あー……」
まったくもう、こいつは。
部屋汚して、お風呂でも暴れまわって。ご褒美もらえるような何をしたって言うのだ。
多分そこらへんのことは、悪い事をしたなんてこれっぽっちも思ってないのだろう。だというのに、こちらが風呂でうっかり言ってしまった「良い子にしてたらご褒美上げるから」の台詞をちゃっかり覚えていやがるのだ。
そしてその台詞を言ったら、あとで必ずご褒美をくれるものだと思っている。アホの子である。いやまあ、仔犬のころに甘やかしすぎた俺が悪いのだが。
で。
「んー。んぅ……♪」
拒否する間もあればこそ。
すっかりミミは「ご褒美もらうぜモード」だ。ちょうど俺の股間が目の前に来るようにと抱きついたまま腰を下ろし、ズボン越しに俺のものに頬ずりしてくる。
「ぅ……」
で、まあ。
俺も、何だかんだで二十歳そこそこの健全な男子な訳で。
そういう仕草を見せられると。流石に。こう。
……たまらん。やばい。
一瞬のうちに粘っこく熱い何かが腹の奥に集中する感覚に、俺はぞっと戦慄した。
……今一度繰り返そう。
ミミは、可愛い。凄く可愛い。
人間の女として見るならば多分に成長しきっていない顔立ちであり身体つきではあるのだが、それは色気がないという事を意味しない。
何せ、ミミはもう、いぬびとの感覚で言うなら「りっぱなおとなのオンナ」なのである。去年、初潮をむかえ発情可能な年齢に達したのだ。
子供じみた姿形は相変わらず。普段の仕草や性格が特に変わったわけではない。だけど今のようにいったん発情すると、異様なまでに艶めかしい表情を見せるようになった。
例えば、年若い少女の特権である、シミ一つない瑞々しい肌。
例えば、薄い肉づきながらもしっかりと柔らかさを示す、そして慎ましやかであるからこそそこに性徴を意識せざるを得ない、胸元の膨らみや丸っこいお尻。
そんな子供じみた身体のありようですら、そこにどこか艶めかしいミミの仕草が加われば、それは背徳を帯びた劣情の対象になってしまう。
それに流される様に何度か肌を重ね、気づけば、薄い桜色の乳首だとか、毛の一本も生えていない、股の間に秘められた幼いすじだとか、そんな子供そのものの場所にさえ、俺は情欲を感じるようになってしまっていた。
ここらへん、飼いならされたのは、果たしてどっちだったのか。
屈辱的なのであまり考えたくない。
「ごしゅじんさまぁ……」
濡れた瞳を向けながら囁かれるのは、いつも抱きついてくる時の元気な声とは全く違う、女性を感じさせるしおらしいもの。
切ないような、焦れているような、そしてどこまでも甘やかなおねだりだ。
(うぁ――……)
あかん。もう無理。もう限界。
そもそもの話、我慢しろってのが無茶な話なのだ。
部屋に戻ってからこっち、必要に迫られていたとはいえ、そしてその時々では気にも止めていなかったとはいえ、ことあるごとに俺はミミの裸体を見、そして触ったのだ。
きつく抱きしめるだけで壊れてしまいそうな小柄で細い体躯。やわらかでしなやかなその体躯。その胸を。お尻を。俺はもう、触って触って触りまくっていたのである。
ふいに掌が、ミミの肌の感触を思い出す。つるりとしてつかむこともできないお尻の感触を。胸元に触れた時の、人より若干速い、心臓の鼓動を。
ぞわりと全身が粟立った。
「ごしゅんさま……えへへ。すきー」
そして、もうこれ以上ないミミの追い打ち。
幸せそうに瞳はとろんと蕩け、しかし何処かせわしない息遣いで、鼻先を俺の股間に押し付け、すんすんと匂いを嗅いでいる。
聞き分けがない駄犬のくせに、何故かこういうときに限って、ミミは許しを得るまで直接触れてくることはない。それでも体内に溜まった疼きは耐え難いほどのものなのか、服の生地越しに俺の雄の匂いを求めているのだ。
いやらしい行為は無防備になるものだからとか、そこらの野生の本能でも働いているのか――まあ理由はさておき、いつものおてんばな表情とは打って変わってしおらしいとも言えるそんな仕草に、変に突き動かされるところがあるのもまた事実。
尻尾もまた興奮を示してピンと張りつめ、肉づきの薄い腰回りを、何かの痒みに耐えているように俺の脚に擦りつけてきていた。心なしか、そうしてミミの股間と触れ合っている部分がじっとりと蒸れてきているような気がする。
もう完全に出来あがっている。
一度発情してしまえば、なにがしかの方法で発散するまでいぬびとはずっとこのままだ。まあ人間もそう言ってしまえばそうなのだけど。
で――まあ。
そうやっていつも、俺は折れてしまうのだ。
(しょうがないな……)
そう考えてしまうのは、やはり俺はどこかで、言い訳がほしいのだろう。
だって。そうだろう。そうじゃないか。
相手は人間じゃない。人間に似ているだけの、いぬびとだ。見た目は思春期前後少女のように見えし、実際に妊娠と発情が可能な年齢にもなっている。
だけど肝心のオツムは、子供のままなのだ。いぬびとの知能は人間で言えば、五歳程度までしか発達しない。
そんなのに誘惑されて、欲情して、TPOわきまえず流されるとか、正直どうよと。子供に欲情している親と何も変わらないじゃないか。
人間としても飼い主としても、節度は守らなければいけない筈だ。
いけない筈なのである。
……筈なんだけど。
「ごしゅじん、さまぁ」
いよいよ我慢ならなくなったミミは、布越しでも構わないとでも言うように、ズボンの中で半勃起状態になっている俺の者を鼻先で探り当て、はむはむと甘噛みを繰り返している。
無理。
「ああ……もう。わかったわかった」
仕方なしと言う風を装いながら、ズボンのチャックに手をかけ、中身を露わにする。
中で溜まり切っていた圧力が解放される様に、それだけでトランクスのスリットからぼろりと男性器がまろび出る。股間の至近距離で待ち構えてミミの顔面にべちんと音を立てて当たったが、そんな突然の肉棒ビンタすら発情した彼女にとっては「ご褒美」らしかった。
「あはっ」
幼げな顔に浮かぶのは、満面の笑み。
ひくりひくりと脈動する俺のものに愛おしげに頬ずりし、男の性臭をひとしきり顔面にしみ込ませた後、何の命令もされてないのに、ミミはソレをチロチロと舌先で舐めはじめた。
その舌使いは、俺に甘えるときに顔を舐めてくるのと同じ動き。
甘えと信頼の混ざりあった、仔犬の仕草だ。
「う……」
きもちいい。
じんわりと痺れるような熱さが腹の奥から性器へと滲みだしていき、それは脈動を更に大きくさせて、ついには先走りとなってあふれ出る。
むわりと、自分でも判るほどのイカ臭いにおいが鼻をついた。
ミミは気にした様子もない。むしろその臭いが大好きとでも言わんばかりに、しきりに舌を這わせ、先走りを舐めとっている。
「……おいしいの?」
「うん、おいし。ごしゅじんさまのこれ、おいし んん……ちゅっ」
返事をする暇も惜しいと言ったご様子。
はじめて”そういうこと”をした時なんかは、興味本位で舐めてみて、苦い苦いと涙目になって騒いでいたというのに、今では立派なお口上手である。
亀頭の先からにじみ出るそれをチロチロと舐めとっていくうち、だんだんその舌使いも熱のこもったものになっていく。
というより、単調な刺激だと性感は飽きが来るものだと何となく理解しているのだろう。あの手この手と動きを変えて、俺が飽きないように、もっと気持ち良くなるようにとこちらの表情を窺いながら刺激を続けている。
しかも、それもどんどん上手くなってきていて――
「あ……うっ」
「~♪」
思わず声があがった。
ミミは鈴口に、自分の舌先を突っ込んできたのだ。熱くなりきったそこに別の熱い何かが焼きごてのように押し付けられて、ひるむ。
無理。きもちいい。
がくんと一瞬、腰が砕けた。
そんな俺の反応を見て、ミミは声もなく嬉しそうに笑う。こいつ、ほんとに日ごとにこういうのが上手くなってやがる。
しかも刺激はそれだけではおさまらず、ねじ込むようにして鈴口に押し付けた舌を、ぐにぐにと蠢かせてきた。粘膜に覆われた筋肉が、外側からはそれと分からないような微細な動きで男の象徴の奥へ奥へと入り込んでくる。
あつい。
既にとめどなく先走りを吐き出していたその場所に、別の体温が入りこんでくるような感覚がある。ミミの涎が俺の性液と混ざり合って、尿道を通り、輸精管を通り、精巣にまで入り込んでくる。
本来、性的なそういう場では、女性器を貫くための器官が、逆にミミに貫かれているような気分。
奇妙に背徳的な熱で胸がいっぱいになりながら、しかし同時に、そんな熱烈な「ご奉仕」をしてくれるミミに対する愛おしさが、どんどんどんどん膨れあがって行く。
(あー……結局こうなるかー……)
男の単純さというか、自分の単純さにほとほとあきれる。
ミミは、駄犬だ。
ものを覚えない。言う事を聞かない。反省することを知らないから成長もしない。迷惑かかることを繰り返す。
でも、ミミは可愛い。
躾もまともにできない飼い主の俺を、ご主人様と言って慕ってくれる。どんな時でも信頼の目でこちらを見ていてくれる。
だから、こんな、肌を重ねるような行為をするだけで、すべてを許してしまっていいような気がしてくる。
自分を気持ちよくしてくれるその小さくて愛おしい女の子とその身体が、可愛くて愛おしくてたまらなくなっていく。
自然と手が動く。
柔らかくてふわふわの髪に覆われた小さな頭を、ゆっくりと撫でた。
「んふぅ……♡」
それもまた「ご褒美」。嬉しそうに尻尾が振られ、獣の耳もぴくぴくとひくついている。
だからミミは、もっとご褒美が欲しいと、ご奉仕にもっと心をこめてくる。
やがて、大した時間もかからず俺の性器は最大径にまで膨れ上がった。
一旦ミミは俺の腰から離れる。でも視線は俺の間をじっと凝視。唇を小さく舐め、じゅるりと涎を垂らすさまは……何というか、獲物を前にしたお預け状態。
「……たべたい?」
いつもの、「あいっ」という無暗に元気な返事はない。
代わりに、無言のままぶんぶんと頭を縦に振ってきた。
返事をする余裕もないのか。心なしか勃起を見る目が、据わっているような気もする。
うーん。何なんだかな。いつもは言う事なんか全然聞かないくせに、何でこういうときはこうまでなっても「待て」状態を守れるのか。ていうか俺、「待て」なんて一言も言ってねえし。
(――「命令される」のを待ってる?)
まあ、ともかく。
待たせる理由なんてありはしない。こっちはこっちで、とっくに限界だ。
「いいよ、どうぞ」
「……っ」
その間、わずか0.5秒。
了承の合図が出るや否や、ミミは室内犬のお前のどこにそんな瞬発力がという勢いで再び俺の腰にかじりつき、はむりと俺のものを一気に咥えた。
「ぉぅ……ッ」
思わず、喉の奥から呻きが漏れる。
与えられた粘膜刺激は、先程までの舌奉仕とは比べ物にならない。舌と、口内と、ねっとりとした熱いうねりが性器全体に絡みつき、かき回してくる。
「ん……んんっ」
頭の小さいミミは、当然口も小さい。性器を咥えこめばもうそれだけでいっぱいいっぱいで、余裕がなくなる。汁気の一切は唇からもれず、ただくぷくぷとミミの口内でくぐもった撹拌音が聞こえるだけだ。
しかしその内部で行われているのは、もはや凌辱と言ってもいいような激しい動き。
擦り上げ、絞り上げ、ひねり上げ、啜り上げ、撫で上げ、吸い付き、食い付き、噛み付き――そんな千変万化が、そのすべての愛撫が口内で入り乱れ、入れ替わり立ち替わり俺を最後の瞬間へと突き動かしていく。
っていうか。これは。ちょっと。やばい。
いつもに増して激しい口愛撫。
それだけミミも焦れていたということなのか。
なんにせよ、これは、やばい。すぐいく。
「うぁ……ちょ、上手くなりすぎ……っ」
思わず腰を引こうとする――が、上手くいかない。
ミミの細腕ががっちりと俺の腰の後ろまで回りこんで、動きを完全に封じていた。頭弱いくせにいったいどこでこういう小技を覚えてくるのか。
とにかくこれは駄目だ。ミミの口の感触を楽しむどころではない。一方的にいいようにされて、精液を絞り取られてしまう。というかここまで早く昇りつめてしまうとなると、何か、早漏みたいでヤだ。
「っ、とにかくタンマ! ミミ、待て! ちょっと待て!」
「んんー、んーむーっ♪」
目いっぱい唇を広げるものを咥えたままだから、何言ってんのか分からん。
だけど妙に悪戯っぽい笑みから、その意図するところははっきりと分かった。
――ううんー、やーだーっ♪
ミミにとっての「ご褒美」は、俺にこうやってご奉仕をすることじゃない。そうやって俺を気持ち良くした末に吐き出される精液が、彼女が今欲しているご褒美だ。
発情してから何度か交わって、興味本位でそれを口にしているうち、その味が癖になってしまったらしい。
だからミミは止まらない。
絶望は今、目の前にあった。
「あ……ぅくっ」
三分もかからずにその瞬間への予感が腹の奥から這い上がってきた。
切ないような、じれったいような、熱くてとろけるような、気持ちよさの塊。
ミミの中も熱い。
頬の裏の柔らかい粘膜でもって俺の竿を擦りあげ、涎まみれになった舌でカリ首をくすぐる。ゆっくりとした頭の前後運動はそのまま唇を極上の襞に変え、一往復毎に、先走りを絞り取り同時に腹に溜まった射精感を亀頭の先まで吸い上げ導いていく。
「あ……う。ううっ」
こめかみの奥のあたりでじりじりと変な音が聞こえる。
視界が白くなっていく。
身体全体が熱い。
性器がしびれてきた。
そして、どこか深くに落ちてしまいそうな不安感だけがはっきりと膨れ上がって――
「うあぁっ」
情けない悲鳴のような声が上がって、俺は思わずミミの肩をつかんで彼女を引っぺがしていた。
だけどミミはそれでも容赦なんてしてくれない。
どこまでもどこまでも意地悪な笑顔を浮かべて、ミミはひょいと頭を前に突き出して――そして鈴口のあたりにキスをした。
ちゅっ――と、粘膜と粘膜がわずかに触れる音。
でもそのささやかな接触を介して、亀頭に溜まりにたまっていた熱い塊に、更に熱いミミの想いが、滲みこんでくる。
だから。それが。限界。
「――――っっ」
びゅくりと音が聞こえた気がした。
視界が一気に白くなる。
文字通り、精も魂も吐き出されるような、究極の排泄感。
何も見えない中、ただミミの温かさだけがあって――そしておれは、そんな彼女の顔に、白い欲望そのもののかぎりをぶっかけていた。
びゅく。どくっ。びゅっ。びゅーっ。
「あ――あはっ」
幼げな顔が白濁で汚されていく。
でも当のミミは、そんなの気にしちゃいない。それがご褒美だから。
射精が終わったところでようやく俺は解放されて、ミミはというと、自由になった両手を使って顔にへばりついた粘液を黙々と口へと運んでいた。
穢れのない白い指先が、穢れそのものの白い塊を丁寧に掬い上げているその様子は、何だか性質の悪い冗談のよう。
「ん……ごしゅじんさまのせーえきぃ……んふっ♪ おいひいれすぅ ぅん、ちゅうっ」
だけどそうだからこそ、そうやって指先にまとわりついた白濁をすすり、指紋の奥に染み付いた臭いまで吸い尽くさんと言わんばかりに、両手の指をいっぺんにくわえて口の中でもごもごくちゅくちゅとしているその様は、幼げななかにもぞっとするほどの色気をたたえていた。
「……あー……」
対して俺としては、もうへたり込むしかない。
激しい運動イベントが+1。きつい。しんどい。つかれた。
心地よい性行為後の倦怠感――と言えば聞こえがいいが、これはもうそんなんじゃないというかコレジャナイというか、一方的に絞り取られただけだ。達成感なんかありゃしない。
そろそろ飯の準備もしなきゃいけないって言うのに、射精後のけだるさが全身にまとわりついて、立ち上がるのもめんどくさい。
ため息が出るばかりだ。汗も若干かいていて、これじゃ風呂に入った意味がない。 また寝る前にでも入り直さなければならないだろう。それを考えるだけでも馬鹿馬鹿しいししんどい。
「……はあ。ああもう」
でも、体力の有り余るお子様はそうでもないらしく。
「ごしゅじんさまっ」
と、顔をすっかりきれいにしたミミが、ぴょこんと跳ねるように正座をして、射精したままその場にへたり込んでいた俺に向かいあってきた。
で。それはもうこれ以上ないくらい無垢に元気にキラキラを目を輝かせて、そしてこいつは言やがるのだ。
「もういっかい!」
……
「なんだと」
「もっと、せーえき、ほしいの!」
「ちょ……!」
制止の声を上げる間もない。
掴みかかるように俺の腰に巻きついて、そしていきなり始まる第二ラウンド。
「やめっ あう!? うぁ、待て! 待てって! 少しは休ませて……ふぁあぁッ!? まって! そこ敏感だから! いったばかりで敏感だから! あ、やらっ らめえええっっ!?」
絶望の時間は、今のこの瞬間、まさにそこにあった。
#3
その後、俺は成す術もなく三回の射精を強いられた。
「――ふ……」
ようやくミミは満足したらしく、美味しいものを食べて満腹、みたいな感じのほっこりした笑みを浮かべている。
対して俺は、もう魂を根から吸い取られ切ったような気分になって、脱衣所の出口でぶっ倒れていた。
性器が萎えきることなく半勃ちなのは……まあ、それだけミミの責めがえげつなかったためというか。何かいまだに舌の感触がまとわりついている気がして、むずむずする。
「ふふふ……ふふふふふふふふ」
いや、そんなことはいい。もうどうでもいいのだ。
俺は今――切れていた。
切れていた。キレまくっていた。
「ふふふふふふふふふふふ……ふふふふふふふふふふふふっ」
ゆらりと立ち上がる。
不穏な空気をまとった俺の様子に気付いているのかいないのか、ミミは不思議そうに小首をかしげて俺の方を見上げるばかりだ。
「ごしゅじんさま……?」
「ふふふふふふふ………」
キョトンとした表情は、幼い作りの顔立ちによく似合っている。
可愛い顔だ。可愛い表情だ。こっちを疑う事も知らない、信頼しきった顔だ。
ミミのその信頼を裏切ってはいけないという思いにとらわれて、何度その表情に惑わされ、振り回されてきたことか。
今日だってそれで流されて、この有様である。
ぺろぺろされた。されまくった。
しまいには尻の穴までぺろぺろされて、いつもの二倍はあるんじゃないかという量を強制的に射精させられた。超気持ち良かった。
しかし、そんなのでいい筈がない。
そう――そもそも俺とミミの立場は何だ。
飼い主とペット――である。俺はご主人様なのだ。ご主人様なのである。
問題。ご主人様とは、ペットにいいようにぺろぺろされる存在であるか。
否。断じて否である。
保護者なのだし、俺はミミを守ってやらねばならない。食事を与え、衣服を着せ、きちんとした生活をさせなければならない。何よりもまずはその関係が最優先だ。そんなことは分かってる。
でも――だ。
これだけ一方的にぺろぺろされるんじゃ、割に合わない。
たまには――そうたまには、こっちが一方的にぺろぺろする時があってもいいじゃないか。
ずっとそれは、俺の中でくすぶり続けてきた欲求だ。
肉づきが薄くて、骨盤も広がり切っていない、エロいお尻。同じく脂肪が足りず、しかし恐ろしく柔らかく滑らかな隆起を描く、エロい胸。毛の一本も生えておらず、ぷにりとした柔らかいすじの奥に秘められた桃色の、エロいまんこ。そのすべてを。心いくまで。舌が、唇が、鼻先がふやけるまで、ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺろしまくっても、いいじゃないか。いいにちがいない。いいに決まってる。
やりたいのはそればかりじゃない。
思う存分ぺろぺろしまくったあと、ミミを押し倒して、べろちゅーキメながら彼女がアヘアヘになるまで犯しぬきたい。後ろからその小さい腰を抱えて、泣いちゃうミミにかわまず、彼女がトロトロになるまでガツンガツンと突き刺したい突き殺したい。そしてその暁には、ゼリーのように濃厚で硬くて臭い精液で、ミミの全身を汚したい。その小さな胸も。若干ぽっこりしたお腹も。お尻も。背中も。足も。勿論顔も髪の毛も。そして何より、幼げなたたずまいを見せる女性器の中、そのすべてを。子宮を。排卵管を。卵巣を。
ああやばい。
想像しただけで超勃起してきた。
なら――そうなのだ。
今が、欲望を現実にする、その時に他ならない。
「ふふふふ……覚悟しろよ、ミミ……」
「ごしゅじんさま?」
薄暗い声色に、しかしやはりミミはひるんだ様子はない。
「これから、悪い子のミミに、おしおきをします」
「おしお……?」
やっぱりその意味が分かっていないらしい。
ミミは、キョトンとした顔をするばかりだ。
構うことはない。むしろ好都合。
その無垢な顔が涙で歪んで、快楽でアヘアヘトロトロになって、俺のチンコ以外何も考えられなくなるくらい、犯して犯して犯して犯して、犯しぬいてやる。
さあ――レッツ。リベンジ。
「腎虚なんて知ったことか、腹上死どんとこい! ご主人様の実力、見せてやらあああああああッッ!!」
「きゃんっ♪」
……ミミから上がった悲鳴が、どこか、してやったりといった感じの喜び含みだったことは、気にしないでおく。
――その後。
延々五時間ほどやりまくっていたら、大家さんに「程々にして下さいッ!」と怒られた。
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「犬小屋にて」が何か重苦しくなったので、当初の目的を思い出すべく軽めのイチャラブものをラクガキしてみました。
「もげろ」と言ってもらえるようなものを目指したつもりですが……何か文体がいつものように硬くなってしまってこれもコレジャナイ感が爆裂。うぐぐ。