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No.30317の一覧
[0] 【習作・オリジナル】真っ黒ダンジョン(仮)[クラクモ](2019/01/14 10:12)
[1] ・真っ黒なナニカと俺と悪魔[クラクモ](2012/06/01 00:12)
[2] ・状況把握と俺とグループ[クラクモ](2012/06/01 00:13)
[3] ・最初の狩りと俺と獲物[クラクモ](2011/11/06 03:52)
[4] ・初めての食事と俺と初めての……[クラクモ](2011/12/29 16:46)
[5] ・事後報告と俺とお持ち帰り[クラクモ](2011/11/02 21:46)
[6] ・ベッドと俺とその温度[クラクモ](2011/12/29 16:50)
[7] ・魔法と俺と黒い人影[クラクモ](2012/06/04 19:03)
[8] ・瞳の暗示と俺と白色[クラクモ](2011/11/24 19:32)
[9] ・列車と俺と失敗と[クラクモ](2011/12/29 16:55)
[10] ・ラインと俺とアルコール[クラクモ](2011/11/27 03:50)
[11] 幕間 ~それいけ神官ちゃん~[クラクモ](2011/12/29 16:56)
[12] ・わんこと俺と召喚陣[クラクモ](2012/06/01 00:14)
[13] ・獣と俺と、狩りをする人される人[クラクモ](2013/08/24 08:01)
[14] 幕間 ~それいけ狩人さん~[クラクモ](2012/06/04 19:04)
[15] ・宝?と俺と水の音[クラクモ](2013/08/25 21:28)
[16] ・五色と俺と昔の話[クラクモ](2012/11/09 01:00)
[17] ・眼鏡と俺と格闘戦[クラクモ](2013/04/05 02:53)
[18] ・始まる休暇と俺と半分[クラクモ](2013/08/25 21:27)
[19] ・準備と俺と夢見るチカラ[クラクモ](2018/12/12 18:22)
[20] ・記憶と俺と空の色[クラクモ](2019/01/14 09:55)
[21] ・彼女と俺と羽ばたく翼 <New>[クラクモ](2019/01/14 09:55)
[22] ※ こぼれ話 ※[クラクモ](2011/11/07 20:46)
[23] 番外~少し未来のこと『春待ち祭り』[クラクモ](2012/06/01 00:17)
[24] 番外~少し未来の先のこと『国境近くの町で』[クラクモ](2013/12/23 05:40)
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[30317] ・魔法と俺と黒い人影
Name: クラクモ◆5e745eb7 ID:0f7bd90b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/04 19:03
・魔法と俺と黒い人影







結局その日は、怒りを収めてくれた姐御と一緒に互いの温もりを感じながらベッドでごろごろしていた
特にナニをするでもなく引っ付いていたけれど、何だかんだで姐御も疲れていたのかも知れないな



あくる日、充分に身体を休めた姐御と俺は、それぞれに起こった変化を話しながら溜まり場へと向かっていた

「……そう、簡単な攻撃魔法なら扱えるようになったのね?」

「ええ、こんな感じで出せるようになりました」

そう返事をしながら力を集中して、野球のボール程度の大きさの火の玉を浮かべてみる
自らの意思によってそれが形作られていくのが感じられて割と面白い

「わかったわ、皆が集まるまで適当に練習していなさい」

溜まり場へと到着した姐御はいつもの椅子へと腰掛けて、自分も新たに得た術式について色々と考えをめぐらせるようだ
こちらも得られた魔法をいくつか試してみよう



という訳でその辺の石壁に向かって火球の魔法を打ち込んでみる

バシン! という、アニキに思いっきり背中を叩かれた時のような音と衝撃があたりに響く
当たった所は多少焦げているけど……炎というよりは爆発の衝撃によってダメージを与える魔法なのかな
うーん、術式の調整次第では当たった相手が燃え上がるような魔法にもできるのかも知れない

「うるさいわ、もうちょっと静かにやりなさい」

エーー、練習しとけって言ったの姐御じゃないですか
じとーっと抗議の視線を送ってみても、すぐにまた思考の海へ旅立ってしまった姐御は気付きもしなかった
こうなったらラインを通じて――くぅ、姐御の方で閉じてるから駄目かっ!

もう姐御なんて知らないっ、魔法の練習にもどるんだからっ
べ、別にラインが閉じてるのが寂しいわけじゃないんだからねっ! ……うえぇ、このキャラ付けはやめとこう

気を取り直して魔法に関するものへと意識を向ける
そこまで頑張って姐御の邪魔をしたい訳でもないし……とっさに魔法を作る練習でもしておこうかな
力が常時供給されているここならば、パっとしない威力でも瞬間的に打てて数を打てる方が便利そうだ
5の威力を一回放つよりも、同じ間に2の威力で3回放てれば総合的には有利になるだろう
そう目指すのは早い悪魔……いや駄目だ、それは何か男として良くない表現な気がする、性的な意味で

そんな事を考えつつ、先ずは火球を浮かべては消して
次に雷撃を腕に集めては消して、最後に氷刃を作りだしては消すのを連続で繰り返していく

む、どうも俺自身に属性の得手不得手があるのか、同じだけ力を篭めて発動しても強弱に差ができるなぁ
火球を並とするならば、雷撃は半分程度の弱さになり、逆に氷刃は1.5倍程度の強さになるようだ
淫魔の基本魔法に水関係のものがあるから、それで氷との相性が高めなのかも知れない



「さくやはおたのしみでしたね」

おぅふ……いきなり現れた先輩がにやにやしながらそんな事を言うものだから、組んでいた術式が霧散してしまった
何言ってるんですか先輩、折角真面目にやってたのに……ホラ、姐御も顔真っ赤にして怒ってこっちを睨んでますよ


集中が途切れたので周りを見てみると、いつの間にか他の皆も揃ってるし……練習はこれでおしまいかな





         ……◇……◆……◇……





姐御と関係を持った事によって、俺のグループ内での立ち位置は大きく変化した……かと思えば、そうでもなかった
魂的な意味で身近に感じられるようになった姐御も仕事の間はドライなものである

とりあえず姐御の劣化版とは言え、俺も遠距離から魔法を放つ事が可能になったので
正面からの戦闘で探索者パーティを排除する時にも役立つようになれた……と思う、とにかくクビになる可能性は減ったに違いない



「全員揃ったわね? 今日もまた階層を巡回するのだけど……どうしたの?」

俺の横できょろきょろと挙動不審な様子の狼人君が気になったのか、姐御が声をかける

「がう、ぐるる……」

「……そう、わかったわ
  丁度こちらへ移動してきている連中がいるようだから、排除しにいくわよ」

姐御はしばらく鼻をふんふんいわせていた狼人君から報告を受けとると、そう号令をかけた
正面から当たった場合に、現在のグループがどの程度戦えるのかを計る為に今回は普通に戦闘をするらしい





おっさん、おっさんおっさん、それにおっさん……現れたのはおっさんばかりのパーティだった
特に忍んでいなかったのでこちらの接近に気付いていたらしく、探索者達は少し開けた場所で戦闘準備を終えて待ち構えていた

姐御が即座に後衛の魔法使いへと牽制の為に速さを重視した魔法を放つ!

至近距離へと着弾しておっさん魔法使いが動揺したその隙に、アニキと狼人君が前衛のおっさんへと襲い掛かっていく
一度近づいてしまえばゲームとは違って味方を巻き込んでしまうので、後衛は派手な威力の魔法を使えなくなってしまう
血が目的なので吹き飛ばしてしまう訳にはいかない姐御は、そのまま魔法使いとの牽制合戦へと突入していった

先輩はアニキと狼人君の後ろに控えながらも、相手の隙をついて魅了をかけようと狙っているらしい
着ている服(仮)のお陰か、何気に居るだけでもおっさん達の視線を惹きつけて
集中を乱す役目となっているのが凄いというか何と言うか……俺も含めて男ってバカだよね

神術に抵抗力がある(と思われている)俺はハゲでヒゲをもっさり生やしたおっさん神官を相手取り
前衛へ回復をかけようとするタイミングを見計らって魔法を飛ばし、その詠唱を妨害している


うん、我ながらなかなか上手い事戦えているんじゃないだろうか
おっさんパーティの後衛は姐御と俺の妨害で前衛への支援を上手く行えず、焦りが見えてきている
支援を受けられない前衛はアニキと狼人君の勢いに押されて、次第に劣勢となってきているようだ



そんな事を考えていたのがマズかったのかも知れない

突然横合いの通路から飛んできた何かがアニキ達の足元で砕け、そこに炎が広がっていく
火炎瓶!? いや、伏兵!!?  驚く俺、そして一瞬硬直してしまうアニキ達
獣人だから本能的に火に対する恐れみたいなものがあるのかな

そして、それを見たヒゲハゲ神官が「ワレニカゴー!」とか叫びながらこちらへと突っ込んできた!

新たに現れた盗賊っぽい敵(やっぱりおっさんだった)へと、先輩が軽やかに向かっていくのを見ながら
いつでも使えるように尻尾を出して、それから爪を伸ばして構え、やってくるヒゲハゲ神官を牽制する

ぶんぶんとモーニングスターを振り回しながらも、集中して神術を使おうとしてくる熟練のヒゲハゲ神官
接近戦に持ち込まれて上手く妨害をできていない俺、うむむ、どうしたものか

「ヒカリヨー!!」

ついにヒゲハケ神官に神術の発動を許してしまう……が
ああ、この光は聖印を打ち込む神術かー、俺には効かないからひと安心だ


――そう気を抜いた次の瞬間には、目の前に鉄球が迫っていた

なんとおおおおぉおぉぉぉ!

咄嗟に上半身をぐいっと反らすと目の前をトゲトゲの鉄球が凄い勢いで通過していく!

あ、危なかった……もうちょっとで頭がえらい事になってたかも
再生能力があると言っても頭が吹っ飛んだのは再生するか解らないからなぁ……
神官ちゃんから姐御と続けて、何気に一日に納まってしまう短い時間であんなにヤっても問題なかった淫魔の強靭な足腰に感謝である

しかしそんな隙をヒゲハゲ神官が見逃す筈もなく、フルスイングした鉄球の遠心力を殺さないように勢いを曲げて利用しながら
今度はナナメ上からこちらへと振り下ろしてくる……ッ?! あっ、これはヤバ

キュ…ドンッッッ!


最後に神官ちゃんともっと沢山したかった、なんてアホな事を考えていると
激しい音と衝撃の後にヒゲハゲ神官が視界から消えた

「まったく……なにやってるの、貸し一つよ?」

初めて訪れた生命の危機に心臓がバクバクと音を立てているのを感じていると、姐御からそう声が掛かった
どうやら相手をしていた魔法使いは不意をついて魅了をかけ、既に無力化していたらしい

「ホント助かりました。 でも、返済はなるべく軽くでお願いしますね」

なんておどけたフリをしつつ軽口を返しながら、姐御の魔法が直撃し吹き飛ばされた壁際でうめいているヒゲハゲ神官へと近づき
限界まで濃度を上げた麻痺毒を爪の先から滴らせて、抜き手の形で胴体へと直接叩き込む!!

うぅ、ぞぶりと手が肉に入り込む感触が何ともいえない感じだ
神官の役職にある者を倒した事で悪魔的な意味での喜びが沸き起こってくるけど、どうせ肉に入り込むなら女のコのえっちな所がいいです



……よし、これで終わったかな
うめき声が止み、呼吸さえ麻痺してしまったヒゲハゲ神官を見下ろして一息つく

「かなりの力を秘めていそうなのに、喰べれないなんて勿体ないわ……」

隣へやってきた先輩は残念そうにヒゲハゲ神官の傷痕に手をやって、自らの皮膚が煙を上げるのを見て溜息を吐いた
流石の先輩でも触れただけで自分が焼かれるような思いをする相手は無理なんですね


そんな先輩が、後ろでぼーっと突っ立っていた盗賊のおっさんとエロモードに突入するのを見送りながら、改めて周りを見回してみれば
おっさんの前衛は炎を見て興奮したらしいアニキと狼人君にトドメまで刺されていて既にご臨終
姐御は魔法使いのおっさんの首筋へと噛み付いて血を吸っている最中だった


戦闘はこれでおしまいかぁ、どうにか生き残れたらしい





         ……◇……◆……◇……





それにしても、神官ちゃんの後は素敵な女のコに出会わないなぁ
まぁ精子……じゃなくて(淫魔的には合ってるけど)生死のやり取りするような業界だろうし
普通居ないのはわかるけど……うーん、こんなにエンカウント率が低いなんて、神官ちゃん逃がしちゃったのは失敗だったかな

なんて事を考えながら、今日も今日とて、むさいおっさんのパーティを殲滅するのだった
今回のパーティに居た神官は口ひげを整えたダンディな人だったけど
いきなり先輩を口説き始めてあっさりと魅了の暗示に引っかかってたなぁ、この人は一体ここへ何をしに来ていたんだ……




階層を巡回している最中の空いた時間に、姐御や先輩へとそんな内容を愚痴っていたところ
人間の若い女性は、この階層へ来るほど強くなる前に同じパーティの男性とねんごろな仲になって寿退職していくのが多いんだそうな
元々それなりの探索者でなければこの中階層まで入ってこれない事もあって
遭遇する数は圧倒的に男性、それも経験を重ねて30歳前後や、時にはそれ以上の年齢になっている相手も比較的多いのだという
なんてこった! 職場環境の改善を要求する! 一定以上の年齢層は立ち入り禁止に設定するべき

「ふふふ、若いコも良いけど、歳を重ねた渋みもいいものよ?」

先輩はそう言うけれど、男性はともかくとして流石に女性だとなぁ……俺はちょっと遠慮したいですね
あ、姐御は別ですよ、若さが保たれてる種族だったら気にしませんってば


そんな雑談の中で改めて角の話を振ってみれば、悪魔の角は特定の特殊な種族でも無い限り、無くなっても問題ないものらしい
あくまでも「力が強くなったから象徴として角が生えた」のであって「角のおかげで力が強い」のでは無い、との事である
角を折られて弱体化という、漫画なんかで良くある事態にはならないようで、そこは一安心だね

角に対して誇りがある訳でもなく、むしろ不便さしか感じていない俺は、近い内に角を折ってしまおうと考えていたりする
だってほら、普段隠しているから良いとはいっても、もし何かの効果が及んだ拍子に擬態が解けたりしたら危ないじゃん?
あらかじめ折った上で隠しておけば、仮に解除されたとしても根元はフードの中に納まるからバレない可能性も出てくるしねー



         ……◇……◆……◇……



「という訳で、これから断角式を行いたいと思います」

「ぐるるっ」

イエーイとノリノリで、いきなりそんな事を言い出した俺にしっかり応えてくれるのは狼人君である、意外と良い奴なのかもしれない
そんな狼人君へ、なるべく根元で折りたい事や、淫魔の爪でも少し削れる程度の強度である事を伝えてみると
なんとも自信ありげに「まかせろ!」というジェスチャーを返してくれた

そしてすぐさま淫魔よりも遥かに鋭い爪を伸ばして腕を振り絞り……えっ、ちょっとまった! まだ心の準備が

シュ、ガッ!    ……ゴトリ


「ごあ」

……あっけにとられている俺へと狼人君は、「ほら終わったよ」とばかりに落ちた角を差し出してくれた
先日の姐御みたいに、待ってと言っても待ってくれない状況に陥るなんて因果応報だなぁ

にしても、もう少しガキンっと折り取るような感じになって、衝撃を受けるだろうから
石に頭と角を乗せて固定してから折って貰おうと思ってたのに、すげーぜ狼人君!
こんな切れ味だとは……唯一の後輩になる狼人君へと普段は先輩風を吹かせているけど、ハハハ、改めた方がイイカナー?

「ぐる……?」

前衛を担当する者の強さを再確認して戦慄していると、狼人君が怪訝な表情でこちらの頭を指差していた
んん? と手をやってみるとそこには固くて捩れて尖った感触が……

無言で手を見てみれば、そこには綺麗に切断された角
頭に手をやってみれば、そこに生えているのは立派な"二本"の角、あるぇーー?

狼人君はお手上げだという風に肩をすくめると、とてとて歩いて去っていってしまう


なんてことだ、この肉体の再生能力が角にも及ぶだなんて、流石は悪魔ボディ
でも、これじゃあなぁ……ちょっと危険だけど、そのままで隠しておくしかないなぁ
集中して――むむむむむ、これでよし
俺の頭上から紫色の光が走り、感じられていた角の重さが失われる


角を折りたいのはあくまでも保険だから、良いと言えばいいけども、うーん
いやしかし、生存をモットーとしたからにはどうにかして……

でもこの場合……

やっぱ……


……







――気が付いたら溜まり場から出て、一人でフラフラと結構な距離を移動してきてしまっていた

まぁ今は姐御が勝手に設定している業務外時間だから問題ないか
折角だし、前のように通路に落ちている何かに使えるかもしれないガラクタを収集しながら戻ろうかな


 ― 短剣を手に入れた ―

……おっ、この短剣は状態が良いな、まだまだ使えそうだ

そうして歩いていると、黒ずくめの動きやすそうな服に何かの道具類が入ったポーチを腰につけた姿で
今まさに俺と同じようにガラクタを拾い上げようとしている人影と目が合ってしまった、珍しく女性である

「ええと、こんにちは?」

「…………」

返事が無い、ただの屍のよう……って、どう見ても屍じゃないよ
装備やその静かな立ち振る舞いからして盗賊系の職業の人なんだろうか
ここに来てから静かに動くように心がけて、周りの音にもかなり敏感になったけど、視界へ入れるまで全く気づかなかった

「…………」

「…………」

じっと見てくるので、こちらも目ぢからを篭めて無言で見つめ返してみる
これはアレか、目をそらしたら負け的な場面なんだろうか



「……こっちへ」

しばらくの間、俺と反対側の通路の奥を気にするようなそぶりを見せた後に
ややハスキーな声でぼそりとそう口にした盗賊さんは、素早く俺の手をとると静かに滑らかな足運びで通路を歩き出した
そのまま角を一つ曲がった先にある小部屋の中まで引っ張りこまれてしまう

クールでカッコ良い女の人に部屋に連れ込まれるとは……これは勝ち組であると言わざるを得ない
あれ? つい先日も似たような事あったよね? 俺は勝ち組だったのか、気づかなかったぜ、ヤフー!


「むごふ」

ナイスな事実に感動して扉の前に突っ立ったままテンションを上げていると
いつの間にか近寄っていた盗賊さんに、後ろから口を塞がれてしまった
残念ながら手でだけど……え、なに、これはひょっとするとひょっとしちゃうの?
このまま抵抗できない無力な俺は、盗賊さんにあんな事やこんな事をされてしまうんだろうか、なにそれすごい、興奮する!

「……静かに」

短く伝えられたので、手で口を塞がれたまま頷く
すると、程なくして扉の向こう側を獣人さんグループと思われる気配が通り過ぎていった

あぁなんだ、獣人さん達の気配を察知したから隠れただけなのね、ヤる気下がるわぁー
その後もしばらくの間、じっとりと油汗を流しつつ無言で扉の向こうの様子伺う俺と盗賊さんだった



         ……◇……◆……◇……



……いや、もうそろそろ良いんじゃないだろうか、俺のデビルイヤーにも何も聞こえないし
そう思って未だに口を塞いでいる盗賊さんの手のひらをぺろりと舐めてみる

「っ?!」

盗賊さんは短い悲鳴をあげつつ広い方……部屋の中心へと飛びのく
あぁ、精密な作業をする為か、指貫グローブを使ってるから直接肌を舐めちゃったのね、ご馳走様です


「いやー、ここまで一人で入ってこれる人が居るなんて驚いたよ」

「……一人で"入ってこれる"……?!」

はっとした顔で目を細めてこちらを伺う盗賊さん
別に困らないけれど、いきなりの失言である

「あ、気づいちゃった? 実はねー……ふふふ」

言葉を濁しつつ軽く考えてみる

最初の騙し討ちの時にはこれといった戦闘も無くて、楽にパーティを殲滅する事ができていた、美味しい思いもできたし
でも、この前の戦闘では少しの隙を突かれて接近戦に持ち込まれて、危うく死ぬかも知れない所だった
やっぱり今後も警備員ライフを続けるんだから、いざという時の為に接近戦の経験はあった方が良い、のかなぁ

ふむ……こちらを胡乱げに見やってきている盗賊さんをじろじろと眺める
分類的には前~中衛とはいえ、見た感じそれほど強力な武器を持っている様子はない、主な武装は腰の後ろに下げている短剣かな
ゲームや漫画の世界ならばともかくとして、普通の短剣で戦闘中に一撃で首を飛ばすなんてありえないから
一般的な盗賊位の武器と力なら悪魔パワーと再生でゴリ押しできると思うけど……うん、試してみよう

とにかく、ナニをするにしても逃げられる訳にはいかない
すぐ近くの扉へと重なるように、板状に範囲を絞った結界魔法をかけて密室状態にする
――と同時に、即座に無言で切りつけられる

 ─ 8のダメージを受けた ─

痛っ、ちょっとかすった!? 思ったよりも反応が素早いなぁ、これが盗賊の動きなのか

「ッ! ひどいな、そちらからここへ誘ってきたんじゃないか」

 ─ 再生…8ポイント ─
 ― 焦熱の毒の成分を記憶しました ―

うひょ、危険そうな名前の毒表示が出てきた、なにこれ怖い
相変わらず無言の盗賊さんから鋭く迫る暗い色の短剣を回避しつつ、得られた魔法からこの毒の効果をチェックしてみる
なんでも切られた所から燃えるような痛みが全身へ広がるもので、大量に喰らってしまうとショック死する程の毒なんだそうな
でも悪魔……特に色々な毒液を扱う淫魔には毒全般が無効っぽかった、流石悪魔だなんともないぜ!
にしても無効じゃなかったら激痛ダメージと再生で、酷い事になっていた予感がぷんぷんするネ! 危なかった


そうして細かく傷を受けながらも、さっき拾った短剣を抜いて戦闘時の身体の動きを意識して攻撃を受け流していれば
盗賊さんが今度はおもむろに何かのビンを取り出し、こちらの真上……天井へ向けて投げつけた

パリンと割れた中から何かの液体がこっちへ向かって――あちゃ、熱っ、熱ちゃ、ほわっちゃー、皮膚が焼けるっ!

 ― 15のダメージを受けた ―

そのままでは死なないまでも痛くて身動きが取れないので、慌てて回復薬(弱)を創り出し、液体がかかった部分を洗い流す
はたから見ると突然変な色の涎を大量に流し始めて腕に塗りこんでいく俺、キモいです

 ― 回復…15ポイント ―
 ― 溶解液の成分を記憶しました ―

強酸性の液体か! ダメージは再生で相殺すると言っても、付着した範囲によっては相殺しきれなかったかも知れない
それに、さっきも感じたけど痛みで行動が途切れるのは危険だ、攻撃魔法は特に集中する必要があるし
しかしこれ、覚えたは良いけど液体を身体の表面から創り出すのが基本の俺じゃ普段は使えないなぁ
使う時は自爆覚悟のカウンター狙いになるだろうか、自爆魔法というともっと凄そうなのに……汁魔法ときたらこれだから……


「……人間じゃ、ない」

今更ですかっ?! 上の浅い階層に住み着いて探索者を襲っているというゴロツキやアウトローの同類だと考えていたのかな
しかし最初の魔法の時点で致死性の毒を使っておいてよく言うよ、探索者の世界ってのは恐ろしい業界なんだなぁ





俺にしばらく攻撃を回避されて、少し息が上がってきた盗賊さんの動きが次第に鈍くなってくる
身体が資本の業界といってもこの状況で長時間素早い動きを維持するのは消耗が大きいんだろう

うーん、もうそろそろ良いかな、これ位の相手ならそこまで苦戦する事はなさそうだ
相性的にも、致死性の毒によるものを除くと正面からではチマチマとしたダメージしか与えられない盗賊相手は有利だしね
盗賊さんのネタも尽きたみたいだし――という訳で、種も仕掛けもございません、さん……ハイ! きゅぴーん

「……何をした」

短剣を振るう手が勝手に止まり、その事を言葉少なに聞いてくる盗賊さん
いやー、だって毒の効かない相手で警戒していたのか
こっちの動きを目を逸らす事無く、鋭く見据え続けているんだもの、思わず目線を合わせて束縛の暗示を使っちゃったよ



うんうん、効果はばっちりのようだね!

 ─ 盗賊♀を手に入れた ─






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