・事後報告と俺とお持ち帰り
「アラ? 生きてたのね」
初めての仕事を終えて、ようやく戻ってきた俺に掛ける第一声がそれって酷くないですか?!
姐御の辛辣な言葉にしょんぼりする俺の肩を、アニキがゆっくりと首を振りながら、気にするなと言わんばかりに軽く叩いてくる
ダメージが出ない程度に抑えてくれているその優しさが今は痛いです
「さっさと戻ってこないから、どこかで倒されたものと思っていたわ
何かやっていたの?」
そんな俺の様子に構わずに続けて言ってくる姐御、相変わらず「我が道をゆく」という言葉を体現したような人ですね!
問われた内容に対して「何って……そりゃあナニですよ」と聞かれるままに、こってりと微に入り細に入り事後報告をしてみる
「ヘぇ? ヤる事はやってきたの……え、今までずっと?
神官相手に良くもまぁ無事だったわね、その角を見る限り何か力を隠していたのかしら」
姐御は露骨な性的描写に対して欠片も動揺する事無く、訝しげな表情でこちらの頭へと視線を向けてくる
力ですか? いえ俺はいつでも全力投球ですよ? この角はコトが終わって気が付いたら生えてました
「えっ?」
「えっ?」
何故か唖然とした表情を浮かべる姐御、それを見て似たような顔をしている俺、なんだろうこの状況
でも姐御のそんな表情がレアで可愛いです
ぼけーっと見つめ合っていても話が進まないので、気を取り直して詳しい事を聞いてみた
「うーん、角に関する細かい話は知らないわよ、種族的に私には無いものであるし」
と、前置きした上で軽く話をしてくれた内容によれば、今まで出会った事のある強い悪魔には基本的に立派な角が生えていたらしい
その経験から先に述べたように、力を隠していたのか? という疑問が出る事に繋がるんだそうな
姐御にも詳しく解らないものがあるんだなぁ、自分に無い物って事で関心も薄いのかなー
そんな風に会話を続けていると通路の先から軽い足音が響いてくる
……これは、どうやら席を外していたっぽい先輩が戻ってきたのかな?
「あっ、戻ってきてたの?」
とことことやってきて、こちらを視認するなりそう言いながら満面の笑みでにじり寄ってくる先輩
目が捕食者のソレになってます、やめて!
その勢いを留めるように、そういえば……と角に関する疑問をぶつけてみる
「なんだそんな事? 一定以上の力を持った悪魔には生えてくるものよぉ」
私も角を隠しているし、なんて言う先輩の頭からぺかーっと紫色の光が走る
こぼれる輝きが曲がりくねりながらも鋭いラインを形成し、その光が消えた場所には俺のものと似たような角が現れていた
先っちょが三角な尻尾にコウモリのような翼、気持ち尖っている耳、そして2本の捩れた角と
悪魔的な特長満載の先輩である、まさにフルアーマー先輩! と、言っても相変わらず服装(?)は紐だけど……
そんな風に変な事を考えつつも目を見張る俺の隣で、何故か姐御も驚愕の表情を浮かべている、なんでやのん
「アナタ……割と力のある悪魔だったのね」
知らなかったんですかっ!
二人はそれなりに長い付き合いにも見えるのに……名前の件もあったし、結構みんな淡白な関係なんだろうか
俺達の反応を見て小首を傾げている先輩へ「なぜ角を隠していたの?」と姐御が問いかける
そして、ちょっと気になるその回答は――
「だって、邪魔じゃない、かわいくないし」
ばっさりである……特に深い理由も、悪魔である事の矜持も、力を持った誇りも、何もなかった
でもその理由には全面的に同意できるね! 服を着る時なんて邪魔ってレベルじゃないよ
なので、さっそく角の隠し方を聞いてみれば、どういう訳か軽く聞いただけで何となく理解できて
その上実際に隠す事も簡単にできるようになってしまった、あっという間にすっかり元通りの俺である
・……ゴメン嘘ついた、本当は5分くらいあれこれ集中してやっとの事で隠せました
それでも、光を放つような、いかにも魔法っぽい動作が知ったその場で成功した事に拍子抜けしてしまう
何しろ今までに使用可能だった、目に見えるような外部に作用する魔法は汁魔法オンリーだし……
光らないよ、じっとり滲み出るよ、ねばねばするよ!
そりゃもう、もしかして淫魔ってスライムの発展系なんじゃないだろうか、なんて思える位だよ!
「ここじゃ前で戦える魔物と組んで襲うから特にしないけど
もともと私達みたいな悪魔は人間を騙して襲うものだから、擬態できないわけがないのよー」
ううむ、言われてみればおっしゃる通りでございます
そういえば作戦を立てた時も、先輩は騙す事に慣れている様子で演技していたなぁ
「と、言ってもキミみたいに魂の色までは隠せないから、見破られる事もあるけどね」
なんて言いながら、てへりと舌を出す先輩が妙に可愛い……いや、だからってシませんってば!
少しばかり好意的な視線を向けた途端に捕食者の目になるのやめて下さい!
……◇……◆……◇……
「それにしても、こんなに早く角が生えるなんて凄い事よ」
先輩はふふふと軽やかに微笑みながら「あれから女商人だけの集団でも襲ってきたの?」なんて冗談めかして言ってくる
ハハハ、この職場で女性の非戦闘員オンリーの集団と遭遇するってどんだけレアな状況ですか
そもそも一度に沢山やってこられても相手をしきれませんよ
「えー、口と……アソコと、後ろと両手で、最低でも五人は同時にイけるわよ」
ごっ、五人ですか……その、先輩は経験がおありで? ……あぁ、やっぱり実体験なんですね――ゴクリ
なるほど、男の淫魔の場合は後ろの代わりに尻尾を使ってやっぱり同数と可能と……ほうほう
さらに多くの場合には……ええっ、足!? おおぅ、そこをそんな風に使うなんて、何とも、ううむ……
そんなエロ談義を交わす間にも地味に寄ってきている先輩……ちょっと、近い、近いです! 距離が近いですよ先輩!
「ま、まぁそれはおいて置いて、別れてからはそのままあの時の神官とシてきたんですよ」
と話を戻しつつ、さりげなく距離をとって答えてみれば
「えっ? それ、本当?」
なんて、最初に姐御へ話した時と似たような反応が帰ってきた
ドライな付き合いかと思ったけど、やっぱり仲良いんじゃないだろうか、この二人
「えっと……何か不味い事でもありましたか?」
隣の姐御と二人して、妙なものを見るような視線を向けてくるので、改めてその理由を聞いてみた
なんでも悪魔にとって、神の加護を受けた神官の肉体は祝福された水、聖水のような……ようは毒薬のようなものであって
下級の淫魔が迂闊にそのような行為をしてしまえば、その魂が焼き尽くされてもおかしく無いらしい
って、姐御はそんな相手に俺をけしかけてたんですかっ! なにそれひどい
「私を余波だけで吹き飛ばした神術の威力からして、かなり高位の神官だったのに間違いないわ」
いじける俺をよそに冷静に分析を続ける姐御、相変わらず冷凍食品かと思う位にドライでクールですね
そういえば確かに神官ちゃんは月神殿の巫女とか言っていたなぁ
なるほど、それだけ高位の……魂の力を多く蓄えていた神官ちゃんだから
たっぷりと力を奪った俺に角が生えるような成長が起こったって事なのかな
「貴方が変にヤる気満々だったから、あの時は引き止めなかったけど……」
通常の場合、神官がパーティに居た場合は可能な限り先に倒してしまい、淫魔的な意味での捕食対象にはならないのだという
そりゃそうだよね、死ぬようなものを自分から進んで食べたい奴なんて普通居ないし
だから俺が神官ちゃんを攫って行った時にも「新人が食事を焦って先走った」位の認識だったのだとか、やっぱり酷い
「そう、それなのに貴方は生き残った、あんなに強力な聖印を打ち込まれて無傷だったなんて、中々なものよ」
い、いやぁ……ほら、俺の魂ってほぼ完璧に人間っぽく見えるじゃないですか
種族の"亜種"というあたりはそこに関係しているんですよ、きっと
それで人間の魂には効果が無い術だから、同じように見える俺にも効かなかったんじゃないかなー、なんて
一応嘘は吐かないで、曖昧に言葉を濁しておく
「……神術が滅する対象としないという事は、神の目から見ても貴方の魂が人間に見えるという事……」
こちらへと、じっとりとした目を向けてそう言ってから
顔が陰になるような感じで俯いて「面白い、面白い特性よ、貴方……フフ、フフフフフ……」とぶつぶつ呟き始めた姐御が怖いです
……◇……◆……◇……
「ねぇ、それで、神官ってどんな味だったの?」
思考の海に沈んでしまった姐御を放置して、語尾に♪が付きそうなノリの先輩が
好奇心に目をキラキラさせて再びじりじりと接近してくる
味って先輩……なんというか、それは普通やらないゲテモノ喰いに対する興味みたいな感じなんでしょうか
とりあえず近寄るか話を聞くか、どちらかにしましょう先輩! もちろん寄って来る事に専念されたら逃げるけどね!
あー、うん……それで、味ですか、えへへ、そりゃもう***で****でしたよ
最初は一度***したんです、ここらでの抵抗が強かったですね、次に*****を一気に***て
そこからガンガンに****してあげて***にした後で、*****ってる彼女を存分に****ったりして
おまけに***な所を****していって*****させてから、最後に自分の魂の一部をアレしてナニで
「え、ちょ、ちょっと待って、自分の魂をどうしたの?」
そこまで話した所で、それまでの性的描写に対してはスイーツの話題で盛り上がる女子高生みたいな軽さで
ウンウンと相槌を打っていた先輩から突っ込みが(珍しく普通の意味で)入った
「ええ、淫魔の男性ってこちらから術式打って吸精する為のラインを作るんですよね?」
だからこちらから少量の魂を打ち込んで……と続けた所でまた遮られる
「えっと、普通はそんな事しないわよ? そもそも吸精する為のラインなんて
物を食べたら唾液が出るのと一緒で、人間とヤったら勝手に出来てるものなんだけど……」
ほえぁ!?
もしかして……以前聞いたのは、実は先輩的には淫魔の性別に関するちょっとした違いに軽く触れた程度の話であって
それを重く大きく受け取りすぎた上で、何か別の妙な知識と混ざって、変な事しちゃってましたか
「そーねぇ、でも、そんな事ができるならキミの成長の仕方もわかる気がする
言ってみれば、普通の淫魔が飴玉の表面を舐めて味わっただけで消えちゃう感じなのに
飴玉を手にとって半分齧って食べてしまったようなものだもの」
神官の力も強かったみたいだし、得られる力は桁違いじゃない? と、続ける先輩
すると今度は横合いから、復帰してきた姐御が考えるように胸の前で腕を組みながら
「それだけじゃないわよ、魂の契約に近い行為を一方的な力関係で押し付けて結んでいるのだから
その相手は使い魔……いえ、眷属にも近い状態になってしまっているんじゃないかしら」
あ、お帰りなさい、思考の海の中は楽しかったですか、なんて思いつつも
「確かにそうなってますね、居場所や状態に、ついでに使えませんけど神術に関する知識なんかも何となく判りますし」
と返事をする――うん、今現在神官ちゃんはここよりずっと上の方で睡眠状態にあるみたい
おそらく神殿か宿か、とにかく自分の拠点に戻って疲れきった肉体を休めているんだろう
「はぁ? もしかして貴方、あの神官始末してないの?」
ちょっと鋭い目つきになった姐御がそう聞いてくる
「あの神官なら今は地上だと思いますよ、巻物で帰還していきました」
そう返しつつ、続けて神官ちゃんの魂へと混ぜ合わせた術式の効果……支配や暗示に関する事を伝えて、特に問題のない事を主張しておく
おまけに一度侵した魂からの継続的な吸精の可能性なんかも話してみる
「あきれた……変な奴とは思っていたけれどそこまで変だったなんてね、でも面白いわ
吸精した時に、相手の技能や知識を奪えるなんて聞いた事がない」
と、こちらへ視線を向けながら
「仕事としてはしっかり無力化した上で結果的にここから排除しているし
貴方としても襲って満足してるんだから、特に問題は無いみたいだし、ね」
そんなに悪い意味でもなく、生暖かいニュアンスでそんな事を言ってくる姐御、お世話をかけます
でも、あんなに可愛くて美味しい神官ちゃんを始末しちゃうなんて勿体無いじゃないですか、リサイクルって大事だと思うんです
……◇……◆……◇……
うんうん、姐御も納得してくれたみたいだし、報告はこれでお終いかな、と思っていたら
「それに……フフ、貴方のその術式はとても興味深いわ……だから」
不意に姐御がそんな言葉を漏らした
――うヒっ、なんか先輩に狙われている時なんて目じゃない強さの寒気がしてきましたよ?
「あはは……がんばってねー」
せ、先輩? どど、どうしたんですか? 隙あらば俺を押し倒してにゃんにゃんしようと狙っていたんじゃないんですか
そんなに距離をとってしまったら俺簡単に逃げちゃいますよ?
「ブハァ……」
えぇっ? 今まで無言で頷きながら話を聞いていたアニキまで……
なななんで俺をそんな、売られていく仔牛を見るような悲しい瞳で見てるんですかっ
「…………」
瓦礫の山から身を起こした狼人君まで……って、居たんだ狼人君、気づかなかったよ
君の気配を絶つスキルが高いのか、単に空気だったのか、どちらだろうね?
そんな風に必死に目を逸らしていても事態は改善されない訳で、接近した姐御にがっしりと腕を掴まれてしまう俺
「だから、一度どんな物か試して見なければ……ね?」
ぺろりとその赤い唇を湿らせながら、粘つくような視線を向けてくる姐御
あぁ……なんて事だ、クールでドライな姐御からこんな視線で見られる日が来るなんて……うん、ちょっと興奮するね!
「フフフ……貴方、そんな風におかしな術式を作れるのだから
もちろん一方的な支配ではなくて、双方向的なラインの構築も出来るわよね?」
そうして知識を受け取れば私にも同じ術式が作成可能になる筈、そうすればもっと……なんて呟いて
マッドな表情を浮かべた姐御は通路の奥へと歩き始める
いやーさすが姐御だなー、その知識への向上心、憧れちゃうなー、と逃避している間にも、どんどん引きずられて行ってしまう
ちょ、ちょっと姐御っ? 俺の腕掴んだままですけどー