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No.29849の一覧
[0] Rance 戦国アフター -if もう一つの鬼畜王ルート-(鬼畜王ランスを含むランスシリーズ)[ATORI](2012/12/07 20:32)
[1] 1-1[ATORI](2012/11/15 20:34)
[2] 1-2[ATORI](2012/09/27 01:33)
[3] 1-3[ATORI](2012/09/27 01:34)
[4] 1-4[ATORI](2012/09/27 01:32)
[5] 1-5[ATORI](2012/09/27 01:31)
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[8] 2-3[ATORI](2012/09/27 01:29)
[9] 2-4[ATORI](2012/09/27 01:29)
[10] 2-5[ATORI](2012/09/27 01:28)
[11] 2-6+α[ATORI](2012/09/27 01:28)
[12] 2-7[ATORI](2012/09/27 01:26)
[13] 2-8[ATORI](2012/09/27 01:26)
[14] 2-9[ATORI](2012/09/27 01:24)
[15] 2-10[ATORI](2012/09/27 01:24)
[16] 3-1[ATORI](2012/11/15 20:33)
[17] 3-2[ATORI](2012/09/27 01:22)
[18] 3-3[ATORI](2012/09/27 01:21)
[19] 3-4[ATORI](2012/09/27 01:20)
[20] 3-5[ATORI](2012/11/15 20:32)
[21] 3-6[ATORI](2012/12/07 20:08)
[22] 3-7[ATORI](2012/12/07 22:51)
[23] しばらくおやすみにはいります[ATORI](2012/12/19 21:04)
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[29849] 2-4
Name: ATORI◆8e7bf1bf ID:08330365 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/27 01:29

 -Rance-if もう一つの鬼畜王ルート
 第九話 ~low gear~





 リーザス城の中心、謁見の間。輝く玉座にランスは腰掛け踏ん反り返っていた。
 眼下には跪いた男女が二人いる。一人は必要以上に畏まっており、また一人は目線だけをきょろきょろと忙しなく動かし、物珍しそうに周囲を眺めていた。ただ、どちらも煌びやかな空間とは不釣り合いな外見をしていたのは一緒だった。薄汚い襤褸布を纏った格好で、ともすればひっ捕らえられて王の前に突き出された罪人にも見える。
 実際のところ、彼らは元盗賊で亡命者である。それもリーザスにとっては敵国とも言える国の出身。まずスパイでないか徹底的に絞りあげるような相手となるのだが、物々しい雰囲気はそこに漂ってはいない。
 ランスは口許に笑みの形を浮かべていた。
 
「しばらくぶりだな、バウンド、ソウル」
 
 気安いほどの口調で男女に言葉を投げる。

「ランス兄ぃ……王族だったんだ」

「おい、ソウル、ランス"王"だろ」

 礼儀も作法もない一言はソウル。それを困った顔で窘めるのがその兄のバウンド。ランスの前にいるのはパラオで出会った兄妹だった。
 ランスは手を面倒くさそうに横に振るってみせる。

「ああ、別に気にせんで良いぞ、堅苦しいのはいらん」

 ソウルやバウンドのような人間に変に恭しい態度を取られても調子が狂う感じがした。

「それにしても、お前らよく無事だったな」

 ランスはヘルマンで軍に捕まってから二人がどうなったのかについて当然知ることが出来なかった。
 話を聞いてみると、あの時別行動をとっていたことが幸いしたのか、二人は軍と接触することは上手く避けられたらしい。その後で、ランスが捕縛されて、ボルゴZに収監されていることを知った二人は救出をする機会をヘルマンでずっと窺っていた。その時にリーザスに新しい王が誕生したこと。さらにはそれがランスであったことの情報が入って来て、二人でリーザスへと目指した。
 ヘルマンからの入国とろくに身分を明かせないことで国境の警備兵に捕まったが、ランス直筆の手紙とランスの荷物をもっていた彼らはこうして何とかリーザス王との面会が叶うことになった。
 ちなみにランスは警備兵からの報告が上がった時になってようやく二人のことを思い出した。

「それでダーリン、この二人どうするの?」

 隣に座るリアが口を挟む。どことなくソウルに対して送る視線には険しいものが含まれている。

「どうするも何もこいつらは俺様の子分みたいなもんだしな。命を救ってやった貸しもあるし、それを返してもらわなきゃならん。ここで俺様のために働いてもらうぞ」

「えー……ダーリンの側にこんなヘルマンの卑しい盗賊風情を置くなんて相応しくないと思うけど」

 リアが膨らました頬からは不満の色が覗く。恨めしそうに向けられた視線にランスはしかし取り合わない。

「うるさい。俺様が決めたことだ。おい、誰かバレスをここに連れて来い」
 
 控えていた侍女の一人が命令を受けて呼びにでる。
 暫くするとリーザス第一軍の将バレス・プロヴァンスが姿を見せた。御前に進み出てくると、一礼し、その場に跪く。

「遅いぞ、バレス」

「はっ、申し訳御座いません」

 開口一番に叱責の声を飛ばす。それを浴びせられたバレスは恐縮してさらに深く頭を垂れた。

「本来だったら俺様が来いと思ったときに既にここにいろ。それが忠臣としてあるべきことだろうが」

「ははっ。しかしこのバレス、ランス王に対する忠義は誰よりも厚いと自負し、この命を投げ――」

「ああ、いい。そんなんいらんからさっさと用件を済ますぞ」

 ランスは鬱陶しげにバレスの話を適当に遮って話を続ける。

「お前にこの二人を預けるから出来るだけ短い間で使い物にしろ」

 バレスは隻眼を細めてランスの指差す兄妹を見やる。

「使い物に……一人前の軍人に育て上げろということですかな」

「そうだ。やれるか? とは聞かんぞ。これは命令で、絶対に満足いく結果を出す以外のことは認めん」

「はっ。必ずや王のご期待に添えるよう――」

「あ、それと俺様が率いる部隊だ」

 再びランスはバレスの言葉を途中で切るようにして話す。

「俺様直属の選り抜き精鋭部隊を編成しろと言いつけたはずだが、当然出来てるだろうな」

「それについては編成は既に終えております。王のご要望通り、実力、実績共に申し分のないものを選出しておきました。残りは"色"を決めるのみでございます」

「色? ……ああ、軍隊のカラーのことか」

 リーザスの軍はそれぞれ固有のカラーというもの持っている。第一軍は黒、第二軍は青、第三軍が赤、第四軍が白。そして特別に編成された部隊として金の親衛隊、紫の魔法隊がある。
 ランスは腕を胸の前で組んでじっと自分に合う色というものを考え込む。しばし無言で思案し、視線を彷徨わせていると、近くにはべる侍女と目があった。

「……マリス、お前何か案があるか?」

 何となしに、ランスはマリスに意見を求めてみる。

「私ですか? では、僭越ですが……緑というのはいかがでしょう?」

「あ! それいいかも。ダーリンにぴったしな一番似合う色よ」

「おぉ……、緑はこのリーザスの肥沃な大地に根付く実り豊かさを象徴する色。王が率いるにまこと相応しい!」

 マリスの提案にリアが手を叩き同意すると、続けてバレスも大きく頷く。

「……緑……緑の軍か。よーし、それで決まりだな。俺様の部隊も出来たことだしさっそくヘルマンを潰しにかかるぞ」

 ランスは膝を叩くと勢いよく玉座から立ち上がった。
 そこにリアが黄色い声を上げる。

「きゃーー! ダーリン。世界統一の第一歩ね」

「がははは。ヘルマンなど田舎国家俺様がひとひねりにしてやる」

 国のトップ二人が盛り上がるが、そこに水をさすような言葉をバレスが放つ。

「お待ちくださいランス王。確かにヘルマンは以前より弱体化はしておりますが、それでもやはり軍事大国。正面から挑み勝利するのは容易いことではございません」

 老年の域に達しているその顔の皺が僅かに形を変える。

「それに王も我々リーザスとヘルマンの間に聳えるパラオ山脈はご存じでございましょう?」

「ああ……あれか」

 ランスは不機嫌そうに眉間に皺を寄せる。
 少し前にヘルマンへ行くために通った山脈だけに記憶に新しい。狭く険しい山道を長々と歩かされたことを思えば決して良い印象は持っていない。

「ヘルマンを侵略するとなるとこの地を必ず通らなければなりません。それこそ攻撃部隊も補給部隊も例外なく……」

「……攻めるのに不都合なわけか」

 モンスターが徘徊する狭くて荒れた山道を行軍するのはそれだけで大変な負担であり、その山を抜けたところを待ち構えるヘルマンの軍勢に叩かれれば一溜りもないということはランスにも予想がついた。

「リーザスとヘルマンの戦争が永きに渡り決着がつかなかった理由の一つです。再び我々がヘルマンを攻めたとして無駄に兵を消費するだけかと」

 バレスは髭を小さく震わせながら強く言う。
 ランスは大きく長い長い溜息をついた。

「おい……そうは言うが、それではいつまでたってもまともに攻め込めないではないか。まさか山を破壊しろというわけではあるまい」

「笑えん冗談だな」と肩を竦めると着座し直し、背もたれに背中をあずける。

「ランス王」

 その時マリスが口を開いた。

「何だ、マリス。まさかお前まで止めろとかふざけたことぬかすのではないだろうな」

「いえ。確かに今の状態で攻めるのが厳しいと言うのはバレス将軍と同意見です。ですが、勝てるだけの見込みが生まれれば……多少準備が必要ですが、ヘルマンに戦争を仕掛けて勝てる条件を揃えさえすればいいのです」

「条件? 準備?」

「非常に出すぎた真似かと思いますが、こちらで一つヘルマン侵略のためのおおよそのプランを練ってみましたが……」

「話せ、聞いてやる」

「有難う御座います。まず、特別に予算を組んでマリアさんに大砲を大量に生産して頂きたいと思います。これは、侵略するとなると相手より大きな戦力を保有することが重要な要素となるわけですが、ヘルマンとの現時点で軍事力の差はいかんともしがたいものです。ですから単純に兵力を増やすよりもこのような強力な兵器を量産したほうが飛躍的にこちらの戦力は伸びると考えられます。それに砲兵は特別な技能が必要でなく、一定の訓練を積むだけで大きな力を発揮することが出来ます。またヘルマンは番裏の砦を代表するようにあらゆる城砦、城壁が堅牢です。火力の高い大砲によりこれの機能をなくさせる狙いもあります。場合によっては組み立て式の大筒をいくつか準備し、パラオにて組み立て、国境にある砦を一掃することもできましょう。次に、戦時の際、敵の混乱を促すためあちらの反乱勢力を利用します。具体的に述べればあのパットン・ミスナルジを擁立している勢力ですね。ヘルマン同士で潰しあってくれればこちらに痛手もなく向こうが勝手に弱体化してくれます。またそれに乗じ、都市でも多く反乱を喚起させれば相手は治安維持に兵を割く必要性がでるため、こちらに宛てる戦力は減り、侵略が容易になることかと……。そしてもう一つ、自由都市国家群と深く結びつき堅固な協力体制を敷きます。この狙いはリーザスの戦力増強を主としたものではなくヘルマンの弱体化と言えます。ヘルマンはご存知の通り土地が痩せていてろくに作物の育たない自給率の低い国家です。そして不足分を何処でまかなうのかと言えば自由都市との交易。つまり向こうで豊富にとれる鉱物資源との取引で得ている訳です。よってここで自由都市国家をこちら側に完全に組み込み、交易路を封鎖すれば向こうに食料は十分にいきわたりません。いかな屈強な軍隊を保有しても補給物資が回らなければまともに動かせませんし、食糧不足により市民の暴動も促せます。長く戦争を続ける体力を削れば降伏への早道となるでしょう。……これら三つの条件を全てクリアすれば我がリーザスの勝算は高いかと」

「う、むぅ」

 バレスが思わず唸り声をあげた。

「確かにマリス殿の仰った全ての条件が揃えば我々にとってヘルマンの侵略は容易くなりますな」

「いかがでしょうか?」

 マリスの冷静な瞳がランスを真っすぐ見据える。

「ふむ。てことはやるべきはヘルマンの前に近隣の自由都市国家制圧か……」

「自由都市国家は我々と同盟を結んでいる国も多々ありますが、そうでない国もあります。ヘルマン包囲のためには同盟をより強い結び付きに、同盟を結んでない国も我々に従うように働きかけねばなりません」

「ぱぱっと武力で制圧しちまうほうが単純で早いんじゃないか?」

「片端から喧嘩を売ってしまっては向こうも反発しましょうし、それに今の段階で無理に兵力を消耗するのも良くありません。幸いほとんどの国とは友好関係にありますし、上手いこと話し合いでいければそのほうが良いでしょう。従わないのならそれ相応の方法もありますし、それでもダメなときがあれば最終手段として武力としたほうがよろしいかと」

「話し合いか。美人の都市長相手ならともかくつまらん作業だな。やる気がおきん。マリス、その辺はもうお前に任せる。策略を巡らすのも得意だろうしな。砲兵の準備や反乱する奴らとの動きの調整と併せて自由都市の攻略のほうも頼んだぞ」

「御意に」

 マリスは静かな声で言って頭を下げた。あくまで王の命令をこなそうとする侍女の動きに淀みはない。






 ランスはマリスに全てを任せて以降思うままに遊ぶ毎日を過ごしていた。メイドに悪戯したり、たまに城下町にでかけ町娘を襲ったり、部下の忍者をいじめてみたりと自由に王としての生活を満喫する。ろくに政務に手をつけていないが、特に問題もない。
 
「うーん、今日は誰とやろうか……」

 謁見の間。玉座に座るランスはピンクウニューンを啜りながら、また一日どう潰すかをぼうっと考えていた。

「ダーリン、どうせならリアと遊んで過ごそ。ね?」

 隣に座る王妃のリアは強請る様にすり寄ってきた。ランスの肩へと片手をあてがい、体を預けるようにしな垂れかかる。白き美貌がいっぱいに広がった。彼女のもう片方の手にも白きものが見える。それはパフェであった。ランスはそれをじっと見つめる。

「あ、ダーリンもこれ食べる? おいしいよ」

 視線に気付いたリアが一口掬ってランスの前に差し出してくる。大きく口を開けると、その中に冷たいジャムとクリームが蕩けるように侵入して来た。

「ふむ。なかなかうまうまだな」

「でしょ?」

 白い蕾が綻びるような頬笑みをみせるリア。その膝でもぞりと動く影があった。

「がおー」

 リアがペットとして飼っているライトニングドラゴンのはるまきが小さい手足をばたつかせ、モノ欲しそうな瞳でパフェをみつめていた。

「はるまきも食べたいの?」

 言葉を理解しているのか、はるまきは頷きのような動きを数度見せて口を開ける。リアは再びパフェを掬うとスプーンをそこに運ぶ。
 そしてそれが届く寸前――パクリ。と、ランスが横からと齧りついた。スプーンの上からパフェが見事に消え去る。
 はるまきは茫然と口をぱくぱくさせている。それを眺めながらランスはクリームがついた口許を舌で舐めずると、勝ち誇る様に大笑いする。

「がははははは、ざまあみろ」

「ああ、もー。ダーリンったら、子供みたいな真似して」

「がははははは」

 ちゅーちゅー。

「……む?」

 ふと、奇妙な音がするとともに何だかランスの手元がどんどん軽いものになっていく感じを覚えた。
 訝りながら、下を見やると、

「て、てめえ、俺様のピンクウニューンを!」

 はるまきがランスの持つグラスから伸びるストローに齧りついていた。液体がものすごい勢いで吸い込まれている。
 遂にはズルズルと容器の底から嫌な音がたつ。ランスは慌ててグラスを引いた。そのまま目線にもっていくと、おそろしく透明感のあるグラスが映った。
 軽く振ってみると、カランと虚しい氷の音がするだけ。止めとばかりにはるまきが盛大なゲップを放つ。

「うぐぎぎぎ、この野郎~~!」

「ダーリン落ち着いて。無くなったならまた頼めばいいじゃない」

「くそくそ……おい! 誰かおらんか!」

 ランスが叫んだ丁度そのタイミングでマリスが謁見の間に現れる。
 黒いタイツに包まれた細長い足をしなやかに動かし、颯爽たる風姿で玉座に歩み寄ってきた。その手にはいくつかの書類がある。

「おお、なんだ、マリス。やっと自由都市の制圧が終わったのか?」

「その自由都市の件で報告することがあります」

「さては美人の都市長が俺様との夜の交渉をしたいっていってきたんだな? ならすぐに向かうぞ、何処だ?」

「いえ、全く違います」

 マリスはきっぱりと言うと、

「どちらかと言えば、その都市長が牙をむいているという言い方が正しいでしょう」

「なんだそりゃ? 俺様達が進める自由都市全攻略を阻もうとしてる奴がいるってことか?」

 ランスが疑問の表情で言うと、マリスは細い顎をしっかり引いて見せた。

「既に自由都市地域の約四割ほどがその国に奪われました」

「よっ……!?」

 ランスは一瞬言葉を失った。

「……おい、それはいったいどこの国の仕業なんだ?」

「コパ帝国です」

「…………」

 ランスは今度こそ完璧に絶句する。ぱかんと口を開いたまま、まじまじとマリスを見返す。

「コパ帝国は、ランス王が即位した時期から急速に勢力を拡大しています。国への買収も活発になったどころか、裏では都市長と秘書の不倫ネタをはじめスキャンダルを発覚させ辞職に追い込んだ後にコパ帝国の息がかかった者を後釜に据えることで実質的な支配を握ったり、都市の裏の支配者とのコネを使って実権を握ったりと工作も激しく、我々と同盟を結ぶ自由都市に対しても次々と手を出してきています。既にいくつかの都市長はコパ帝国にリーザスとの同盟を切るよう求められているようです」

 ランスは腕を組んで呻きを上げた。

「何だってそんな……もしかしてあいつ、俺様がリアと結婚したことに対して怒って邪魔してんのか?」

「おそらくは。このまま勢力を拡大していけば自由都市のほとんどを手中に収めかねません。おまけに金に飽かして傭兵を雇って兵力も大幅に強化しており、我々の脅威になりつつあります」

「戦争でもするつもりか、あいつは」

「最終的にはリーザスに仕掛けてくる気でしょう。いくら勢力が伸びようと我々が負けるとは思えませんが、なるべくでかい戦争は避けなければなりません。ある程度の規模の国家と長期の争いをすればそれは隙となり、逆にヘルマンから侵攻を受ける可能性があります」

 明らかに分の悪い状態になっているのに相も変わらず冷静さを保つマリスにランスは苛立たしげな視線で睨んだ。

「おい、自由都市支配によるヘルマン包囲どころじゃないだろ。どうするつもりだ、マリス」

「現在コパ帝国は自由都市国家の一つポルトガルに狙いを定めています。我々もまたそこを落とされる前に何とかこちらに味方につけられないかと狙っております」

「ポルトガル? 確か大陸の隅っこにある都市だったな。商人どもの都市だ」

「はい。そして唯一JAPANに接する国でもあります。コパ帝国側はここを抑えることで強力な経済基盤を得ると同時JAPANとの繋がりを持ち、彼らに敵対できないように働きかけるつもりです」

「それを防ぐってことは……」

「我々リーザスがポルトガル・JAPANを味方につけるのです。それが出来れば力関係がかなり有利になります。そして現在においてもリーザスと特に結びつきの強いカスタム及び周辺国に協力を求めれば――」

「三方でコパ帝国を囲めるわけか」

「出来る限りコパ帝国にプレッシャーを与え、不利という状況をつくれれば、向こうについた都市をきりとることも容易くなるかもしれません」

「簡単に言っちゃいるが、まずポルトガルが手に入らなきゃどうしようもない。その算段はついてんのか?」

「ポルトガルにおいて市政運営は商人ギルドがほぼ独占する形となっており、権力主体は完全に商人となっています。そしてコパ帝国のドット商会はここ最近の資金集めの為に荒稼ぎばかりをしているためにそのポルトガルの商人連中の多くから恨みや反発心を抱かれているのです。つまりそうした不満をつつけば、交渉次第でポルトガルがこちらの味方についてくれる可能性は高いです」

「なんだ、それなら割と楽にことが済みそうだな」

 ランスは「あー」と口から息を大きく漏らし、肩から力を抜いた。
 マリスから話を聞いた最初は随分やっかいなことになっている気がしたが、今となってはもう問題がすっきり片付いたようなものであると感じていた。こうなるとランスの内心は別の方向へとシフトを始めた。
 椅子から立ち上がると、体をぐぐっと伸ばして、首をコキコキ鳴らす。

「俺様はまたしばらくメイド達と遊んでくる。終わったら、その時教えろ」

 玉座から伸びる赤い絨毯をズカズカと踏みながら、ランスは広間を後にした。



 ランスがいなくなった謁見の間。残ったリアとマリスで二人きりになったとこでリアが口を開いた。既にその顔は先ほどまでのランスに甘えたようなものでなく女王らしい毅然としたものに変わっていた。

「コパ帝国ねえ……それにしてもここまではやく伸びてくるとはね……」

「どんな行動に出るかまでは予想していましたが、正直ここまでのものとは思いませんでした。おそらく彼女は本気でしょう」

「……本気でリーザスを奪い取る気ね」

「ランス王にリーザスの王をやめさせたい。ならリーザスという国を無くしてしまえばいい。なるほどシンプルです。馬鹿げてはいますが」

「ほんと諦めの悪い女……。でも、いくら何でもたかが小さな国のトップ一人風情に自由都市支配の主導権争いで水をあけられるのは少しおかしいわ。他に裏でこっちを妨害したり、向こうを支援してるのがいるんでしょう?」

 その問いにマリスが頷いて肯定の意を示すと、リアは確信に満ちた眼差しで見つめてくる。

「……おデコちゃんね」

「はい。マジック様もまた利害関係が一致していますからね。"リーザス王ランス"でなく"冒険者ランス"に戻そうと考えているようで」

「けど、あの娘が息巻いたところでゼスは動かないんでしょう」

「さすがにマジック様の個人的な都合の為にリーザスという国を侵略することなど他の四天王も将軍も承服しないでしょう」

「そうね。そちらはしばらくは大丈夫そうだけど、でもポルトガルに関してはそう簡単にことが運びそうも無いわね。リーザス御用商人がいるように、ゼスの高官らと深い関係をもつものも多いし……間違いなく妨害にくるわね」

 リアは長い青髪を一房摘まむと指でクルクルと弄ぶ。ランスのために毎日丹念にケアされているそれは柔軟さと瑞々しさを麗しいくらい孕んでいる。その毛先をピンと弾くと憂いを帯びた視線を落とした。

「……それにしても邪魔が多いわ。自由都市にはコパンドン、ゼスにはマジック、JAPANにはダーリンの子を孕んだ女。そしてヘルマンにいけばあの奴隷が復活することも……。ダーリンとせっかく結婚したのに気が休まる日がないわね」

「我々はランス王を巡る争いにはひとまず勝利は得ましたが、むしろここからが大切で、最も大変な時です」

「わかってるわ。絶対勝たなきゃね」

 眉をきゅっと上げ、表情を引き締める。女王の顔から一人の女としての顔への変貌。

「どんな女にもダーリンは絶対にわたさないんだから」

 瞳の覇気が強まる。その奥深くには揺ぎ無い闘志と決意が満ちていた。



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