-Rance-if もう一つの鬼畜王ルート
第十四話 ~negotiate~
-リーザス特別療養所-
「というわけでお待ちかねの心の交流の時間だぞ」
ランスは真っ白なベッドの上で口を開く。身体のあちこちには包帯がまかれていた。先日の魔人サテラとの戦闘で受けた傷は深く、治療を受けた後もしばらく静養が必要な状態だ。
リーザス城内にある王家専用療養施設だった。100平米ほどの広い空間は落ち着いた色合いで統一されており、中は快適さを保つために空調完備、魔法冷蔵庫のついたキッチン、大型の魔法ビジョンなども設けられている。その上、見えない形ながらも壁には魔法による遮音、中庭を眺める窓は内からは見えるが、外から覗くことが不可能なプライバシー性の確保など患者の居心地を最優先としたスペースだ。
室内の椅子には一人の見舞い客が座っている。天使を思わせる麗しい容姿の女性。魔人ラ・ハウゼル。その表情は困ったような、それでいてどこか緊張したような色が見えた。
当惑げな視線を正面から受けてもランスは構わず続ける。
「見ての通り今の俺様には献身的な看病が必要だ」
「その……具体的には、どのようにすればよろしいんでしょう?」
ハウゼルの問いにランスは小さく笑みを刻んだ。
「取りあえず、手や口、胸とかを使って気持ち良くしてほしい」
どうせHするのならガンガンついて喘がせてやりたい欲望は強くあった。しかし、怪我でろくに動けない現状、それがベストな選択だろうと言えた。
腰まで伸びる長い髪を弄りながらハウゼルは言いづらそうに目を伏せた。
「恥ずかしい話ですが、そういったこととは無縁で過ごしてきたのであまり詳しいことまではわからないのです。それでも大丈夫でしょうか?」
「問題ない。やっていくうちにわかってくる」
声が隠しきれない興奮を帯び出す。心はもう勇み立っている。
「さあ、脱いでくれ」
やや早口気味に促すとハウゼルは小さく頷きを返した。
上部をきつく締めあげている赤い衣服に手をかける。静かな病室に衣が擦れる音だけがやけに響く。袖からゆっくりと腕を抜かせるとパサリとずり落ちた。
下着はつけてないのかいきなり白い肌が目に飛びこんだ。胸の膨らみが拘束から解放されて自由を得たように躍動を見せつける。
その一点に吸い込まれるように視線を注いでいるとそれを感じたのか、隠すように手を胸に当てられた。
なおもしなやかな曲線を描く肢体を無遠慮に眺めていく。ハウゼルはもじもじと太ももを擦り寄せながら、羞恥に耐えがたそうにうつむく。
そうした仕種ひとつとっても実に興奮を煽り、むらむらと劣情をかきたてた。すでにランスのハイパー兵器は準備万端。立派なテントが張っている。
抑えつける全てを解放するようにこちらも衣服を脱ぎすてて、モノを取り出した。びんびんになり、雄々しく反りたった自慢の象徴が堂々と姿を現す。
ハウゼルは一瞬、驚きに目を見開くが、まじまじ見るのが躊躇われたか、すぐに視線を外した。
初心な反応はなかなか面白いが、そればかりを楽しんでいてもしょうがない。ランスは自分のすぐ隣をぽんぽんと叩き、側に来るよう命じた。
「失礼します」と囁くように一声。ハウゼルはベッドに腰を掛けると身を寄せる。彼女の髪が太腿に触れて滑らかな心地とこそばゆさを感じさせる。
二人は見つめ合う形となった。透き通った青玉のごとき瞳にランスの栗色が映り、溶けるように混じっている。
ランスは視線を下らせていき自身のハイパー兵器へとやる。それに導かれるようにしてハウゼルの目線も向いた。そっと彼女の手がランスの股間に伸ばされた。
寸前で一瞬止まるが、意を決したように進んでみせると、まるで腫れものに触れるかのような手つきで接する。
「……あ」
甘く品の良い唇の隙間から微かな声を漏らす。
「どうだ? 初めて触ったんだろう?」
ランスは少し股間のものをピンと反応させてみた。ハウゼルは珍しいものをみるように瞬きを何度か重ねた。
「えっと、思ったより熱くて、固いですね」
なんとも素直な感想だった。
「じゃあ、そのままそれを撫でたり、触り続けたりしてくれ」
ハウゼルはおずおずと亀頭に手を宛がい、やわやわと揉むようにゆっくりと撫でる。
敏感な部分を刺激され、快感に歓喜するようにそこが震えた。
「悪くないぞ、ハウゼルちゃん」
「はい」
茎部にそっと手を添えるようにして、撫でさするように動かす。不慣れな手つきだが、ゆるゆるとしごいていく。ソフトに上下に。
むず痒いような刺激が走っていく。昂りが抑えきれず、ハイパー兵器がまた跳ねる。
ハウゼルの面差しも眼差しも実に真剣で懸命だった。こうして真面目そうな女が一生懸命奉仕している姿というのは中々にそそるものがある。エッチなことをしたいという欲求はまだまだ膨らむ。
ランスの手は自然と動いた。行きつく先は、ふくよかな胸の隆起。より目立つように手で寄せ上げる。
ハウゼルは身を固くした。小さく息をのみ、豊かな膨らみが上下に揺れる。そして、疑問符ののった視線がランスに向けられた。
「ふ、俺様の怪我は治って来ているがしかしリハビリが必要だ。こうして手を絶えず動かすことで回復を促す。これは立派な手の動きの治療的訓練だな。うむ」
ランスはニヤリとし、円を描くようにして揉みしだく。弾力と柔らかさを備えたそれは実に手に優しい。
「俺様はリハビリを頑張るから、ハウゼルちゃんはそっちのマッサージをよろしく頼むぞ」
ハウゼルは困ったように赤くなる。それに構わず包み込むように愛撫を続けていく。
回すように揉みながら、ゆっくりとした動きでじっくりと滑らせる。手のひらに吸いつくような感触を楽しんでいく。
「おっと、ちゃんと指先のリハビリもしないとな」
淡く美しい色の乳頭に意識が吸い寄せられる。双丘の形をなぞるようにすると頂きへと昇り詰めていった。
つまんだりして刺激を与えると、反応するように乳首が膨らみ、つんと尖る。それを二本の指で挟み、くりくりと弄る。思うままに揺すり、引っ張りと責めたてる。
指の腹で弾くようにした時、ハウゼルの体がびくっと跳ねた。その頬が桃色に火照って徐々に熱を帯びだす。
また執拗にこねくり回していくと、堪えらず、ハウゼルは小さく喘ぎを漏らす。白い頤が痙攣していた。
そこで、握る力が抜けていっているのをハイパー兵器が感じとった。
「こら、手が止まってるぞ」
「ん、ぁ……す、すい、ません」
「こっちは遠慮なく吸うぞ」
手と入れ替わる様に口を寄せて、ピンク色の突起を舌先でつつくとむしゃぶりつくようにする。
しかし、
「うぐ、おおおおおお!?」
悶えたのはランスだった。体勢を変えて、動いたことで身体に忘れかけた痛みが呼びさまされる。
「だっ、大丈夫ですか?」
「ぐっ……このままだとダメかもしれん。ハウゼルちゃん、痛みをわすれるほど、癒してくれ」
全身が鈍くひどい重苦しさに助けを呼んでいるのを感じる。もはや対処方法は気持ち良く抜いてもらうよりほかは無い。ランスはそう結論付けてハウゼルに迫った。彼女は、ランスの顔と股間との間をぼんやりとした目をしばし行き来させると口を開く。
「一つ、聞きたいのですが、姉は……姉さんは、その、どのようにしていたのですか?」
「サイゼルか? あの時は口でしてもらったな。舌を使ったり、含んだりしたり……君の姉さんは中々悪くなかったぞ」
「口で……」
ハウゼルは呟くと得心したように頷く。
そして、徐に髪をかき上げると、ランスの下半身に顔を近づけていった。
まずは触れるか触れないかの口づけ。その唇を割る様に薄紅色の舌が現れた。それが当たる寸前で吐息がふきかかる。微かな緊張や逡巡が伝わってくるようだった。
息の名残を失ったその時、生温かい感触が襲った。訪れを歓迎するようにぴくんとハイパー兵器が跳ねあがる。ぎんぎんと脈打ち、さらなる膨張を遂げていく。
一瞬、ハウゼルの肩に力が入るのが見えた。しかし、彼女は動きを止めることはしなかった。
ぺロリ。ハイパー兵器の表面に舌先を這わせていく。舌使いそのものはやはり稚拙だ。しかし、手厚い。
時折、上目遣いにランスの顔色を窺ってくる。反応を探る様に、舌の動きを柔軟に変えていこうとする。彼女は初めてのはずで頼りにする感覚などないはずだが、手の時よりも幾分迷いがない気がした。
ちょっとした疑問が過るが、すぐに消えはてた。ハウゼルが新たな動きを見せる。何をするのかと思えば、口を大きく開いた。そしてぬらりと唾液がまぶされたハイパー兵器を咥えこもうとする。
根元まで呑もうとして、しかし、喉の奥まで届きそうになったか思わず外した。彼女は苦しげに表情を歪めるが、また口腔に潜り込ませた。
口内のぬめりが絡みつき、ランスは股間の先からじんわりと温かさが広がっていくのを感じた。
やがて中で何か蠢く気配を捉える。
緩慢な速度で舌がねっとりと這うように進んでいく。初めてのモノを深く味わうかのようにねぶられていく。
拙くも懸命な口全体での愛撫だった。
悪くない。が、まだ足りない。そんなランスの密かな物足りなさを嗅ぎとったか、ハウゼルはにゅくにゅくと上下に往復させる。まずはゆっくりと、深く絡めながらの緩徐なるストローク。そして少しずつ速度を上げて、緩急をつける。
「お、おお。良い感じだぞハウゼルちゃん」
精神的にも肉体的にも快感が満たしはじめる。
「ん……む……ちゅ……」
喝采に応えるようにより刺激を与える激しい舌使いをしたり、くすぐるように責めたててくる。
口を窄めて吸いつき、ちゅうちゅうと舐めすする。それも強弱をつけていく。心地よい吸引。卑猥な音が連なる。
淫らなおしゃぶりが続けられていく。そして、
「む。きたぞ」
快感が駆けのぼり、大きく跳ね上がるように蠢く。
ハウゼルの頭にランス手が添えられた。瞬間、猛烈な勢いで皇帝液が放たれた。突然のことに彼女は目を白黒させ驚きの表情を浮かべる。それでも迸る熱いものを懸命に口で受け止めようとした。
ランスの射精の勢いも量も少しでは収まらない。溢れるように口から零れ出し、周りを白く汚していく。そこからいやらしく糸がひかれた。
「ほへほへ、すっきり……」
ランスは満たされた快感に身を委ねる。その余韻を楽しみつつも、ここでこのまま終わらせるなんてもったいないことをするつもりはなかった。まだまだお楽しみはある。
「よーし、ハウゼルちゃん、俺様のハイパー兵器を綺麗にしてくれ」
ドロドロのそれを差し出す。
ハウゼルは自分の口許を一回拭うと、もう一度下腹部へと寄せた。ここまでくるとさすがにもう躊躇いもなかった。
まるでにゃんにゃんがミルクを飲むようにちろちろと小さな舌を滑らせ、白い精液を舐めだす。鈴口の割れ目、そして裏側を丁寧に磨くように舐めあげる。時折ちゅっと軽くキスをするようにして吸っていく。
その仕種と容貌の愛くるしさ、訪れる刺激の数々があいまった末――じゃきーん。ランスのハイパー兵器は再度発射準備万端となってしまう。
ハウゼルは目を見開いて声なき凝視。そこからなんとかランスの顔へと視線を滑らせた。
「え? あ、あの? どうして?」
「君の献身的な看病のおかげで元気を取り戻しているのだ」
ぴくぴくと動かし、元気さをアピール。茫然とするハウゼル。
「この調子でいけば、退院も近い。さ、今度は俺様のリハビリも本格的になるぞ。もうちょっとつきあってもらうからな、ハウゼルちゃん」
その後、ランスはしばらくハウゼルとのエッチを心ゆくまで楽しんだ。
そして充実したランスは本当に数日ばかりで身体の調子を取り戻すという脅威の回復力をみせつけ周囲をあきれさせたのだった。
-リーザス王室専用食堂-
壁も天井も落ち着いた雰囲気の装いがなされた小部屋。
その中央、白い敷布が敷かれただけの簡素で小さなテーブルをランスとリアの夫婦が囲んでいた。面積的にも立場的にも二人とともに食事の席につくものは他にいない。
慎ましい空間の中で食卓に並ぶものだけは対照的に、JAPAN料理や大陸の様々な国の料理、さらにその中でも高級料理や庶民料理までと質も量も贅沢なものだった。
いまいち統一感が見れず節操なく思えるそのメニューはリアがランスのことを考えて取り計らったものだ。しばらくの入院で健康のための料理ばかりの日々に不満を感じていただろうと快気祝いもかねて特別彼の好きなものを好きなだけ用意させた。
ランスは遠慮するはずもなく、素直にその饗応を受けいれると飢えと渇きを満たすべく無造作にかきこみ、貪る。
パスタを啜り、カレーを流し込み、肉まんじゅうに齧り付き、テンプラを頬張る。
「すごーい。さすがダーリンかっこいい食いっぷりだよー」
リアはランスの食事する様を目を丸くして妙な感心をしながら実に楽しげに見入っている。
絶品の料理に舌鼓を打つランスは無論非常に満足していたが、それに負けずリアも非常に満足した様子だった。
その光景を傍から眺めていた給仕役のマリス・アマリリスにはその理由まで察せられた。
リアは誰よりも案じていたランスの元気の姿を見れたこと、そして夫婦水入らずの食事という大切な時間を味わっているからこそ幸せの笑顔を見せている。特に少し前に不愉快な出来事が立て続けに起こっただけに反動は大きいものがあり、その機嫌は今では最高潮だ。
だからこそマリスは侍女でありながら、女王の御心の配慮の為に最低限のことしかしなかった。リア自らがおかわりをついであげたり、料理を取り分けたりと甲斐甲斐しく世話できるこの至福の時間を決して邪魔など出来るはずがない。
影で追加の料理を手配させ、配膳室から運ぶことと皿を裏に下げることだけに徹していたが、側に人の気配が突然現れた。
それは見当かなみだった。報告すべきことがあるらしい。
マリスはちらりとテーブルの方を窺った。巨大な肉の塊にかぶりついているランスとジャムを塗りたくったパンをもふもふと幸せそうに味わうリアの姿がある。それを確認して、かなみに再び視線を戻し相手をする。
用件を最後まで聞くと、マリスは自分の眉間に皺が寄るのを感じた。しばらく思案を続けた後、かなみに短く指示を出して返す。
と、その背にランスからの呼び声がかかった。
「ほい、ほうはひはほは?」
食べ物を口いっぱいに含んでいるためろくに言葉の体をなしてないが、ようするに何があったのか聞きたいのだろうとは察せた。
「あまり耳にして愉快な話ではありませんが」
「んぐぅ、ん……面白いか面白くないかは聞いた俺が決める。話せ」
「暗殺を企てようと侵入したものがおり、それをこちらで適切な処理を致しました。それだけの話です」
ランスはわかりやすいほど不快げに唇を曲げた。
「またそれか。今週だけで何度目だ? 毎日毎日飽きもせず送られてきやがるな。魔人問題がとりあえずの収まりを見せたっつうのに休まる暇がありゃしねえ」
大国の王と言う立場もそうだが、ランスの性格、そして世界統一を進めている以上とかく敵が出来る条件は多い。
ランスがいることを不都合と思うもの、消えたほうが得となるものは首を狙って暗殺者を送ってくることもままあることだった。
「うーん。今後のことも考えればダーリンの警護もう少し増やした方がいいかもね、マリス」
人差し指に口をあててリアが心配そうに告げる。その考えはマリスも同意するところだ。
「すでにかなみには伝えております」
ランスが鼻を鳴らす。
「その暗殺者ってやつはやっぱり送られてくんのはヘルマンからか? 向こうからしたらこっちがこのまま自由都市を支配したら都合悪いだろうしな。そういや、この前も工作行動をしにきたスパイがいたとかもあったな」
「いえ。全てが全てヘルマンと言うわけではないでしょう。なかには自由都市国家から差し向けられたものもいたはずです」
「自由都市? 恨みを買った覚えなぞないが」
「少なくともポルトガルに関しては明確な理由をもっていますね」
「俺様はなんもしとらんぞ」
「我々はもともとコパ帝国に対抗するため、コパンドン様に敵対するポルトガルの商人に協力をとりつけようとしていましたが、それを裏切るようにコパンドン様と結婚をしてしまいました。あっさり手の平を返されたことも、商敵が妃となった国が自由都市に影響をのばすのも当然向こうにとっておもしろいはずもないでしょう」
マリスがちらりとランスを見れば彼は視線を逸らしてわざとずるずるとうるさく音をたてながらスープを啜りだす。
「まあ、実際のところ彼らが暗殺者を放ったのかは定かではありませんが、しかしヘルマン以外でもっとも我々に不満を抱いている勢力であろうことは事実。このまま放っておくのもよくありません。我々はコパ帝国を呑み、いよいよもって自由都市支配完了間近というところです。しかし潜在的な敵までこちらにかかえてしまえば力がつくどころか足をひっぱられかねません。敵の敵はとヘルマンに隠れて支援などされてはリーザスの今後においてこの上なく不都合です。懸念材料となることが予測されている以上確実につぶしておくべきと考えますが」
「うーむ」
ランスは手に持ったフォークをくるくると振り動かしている。
しばらく繰り返し、ふと止めると、真っすぐこかとりすのソテーに振り落として深々と突きたてた。そして、一言。
「戦争だな」
「戦争、ですか? 我々はこれからのヘルマン戦を考えれば無駄に戦を仕掛けるのは憚られます。単に商人を潰すことに国家間の紛争を起こしてはコストと結果、利益が全くつりあいません。始末するだけならそれよりも効率的な手はいくつもありますが」
「いや、やるなら徹底的だ。敵を潰すのは勿論だが、俺様に逆らえばどのような目にあうかわからせてやらねばならん。そしてそれを大々的に見せつけてやれば、他にも下らない考えを起こそうとする奴に対しても牽制出来るだろ」
ランスは口を大きく開き、肉食獣のような鋭い犬歯をのぞかせた。こかとりすの肉にそれを立てて豪快に噛み千切ると、肉汁が弾け飛ぶ。
「それにようやく完成した砲兵部隊。あれはいきなりヘルマン戦で投入するより、ここで試しに使っておきたい。ポルトガルぐらいなら相手としては手頃で丁度いいだろ。その他兵士の動きも俺様の指揮の下きっちり出来るかある程度確認しておきたいところだしな。金なら死ぬほど溜めこんでいる商人どもからせしめて補填すりゃいい」
どうということはないと言わんばかりだ。
マリスは悩んだ。
強力な力を振るって脅威を訴えるのは確かに一定の効力は示すが、しかし反発もあれば余計な火種をまきかねない恐れもある。
金銭面に関しても経済の要ともなる商業都市のポルトガルを戦火にかければ、相応の不利益も被るはずだ。商人から多少財産を奪った程度でそれらの損失を賄えるとも到底思えない。他にも時期、国内外の情勢も考えれば得るものより後々抱えるリスクの比重が明らかに多いのがわかる。
しかし、ランスは何も考えていないように能天気に顎を反らして大笑いをしている。
マリスは考えを改めさせようとした。説得のための口を開く――そのタイミングに、すっとリアが動きをみせた。
ハンカチをもった彼女の手が、ソースでべたべたのランスの口許に伸びて、汚れを拭う。
そしてリアは素敵に微笑んでみせると、
「ふふふ、やっぱりそういう豪快でワイルドな考えをしている時のダーリンが一番輝いて見える。リアはますます惚れ直しちゃった。応援してるわ。頑張ってね、ダーリン」
なんて言うもんだから、マリスは口を閉じざるをえなかった。
結局、王の決定に従う方向になったのは言うまでも無い。
リーザスでは戦争に向けて準備が着々と進められていた。そんな折、件のポルトガル商人の一人から拝謁の所望があった。
理由など予測するまでも無い。情報に強い商人ならばリーザスが戦争準備に入った事は勿論、ポルトガルがその標的とされているのに気付く頃だろう。間違いなく戦に関する交渉に来たはずだ。
分かった上でランス側はこれを余裕をもって受け入れていた。
「どうもどうもプルーペットどす。ランス王におかれましては、ご機嫌麗しゅう」
玉座に腰を下ろしたランスを見上げ、ポルトガルからの使者プルーペットがぺこぺことお辞儀をした。幼子のような小柄の体躯のために何だか出来のいい人形劇の挨拶を見てる気分にさせられる。
瞳も顔もふっくらまんまるの容貌もいかにもユーモラスであるが、しかしそうした見た目に反してポルトガルでも一、二を争う豪商だ。
「あ、これうちの商会の商品カタログ春の特大号でごんす。今後とも御贔屓に~」
プルーペットが差し出したのは彼の体より少し小さいかという大きさの冊子。
マリスが受け取り、チェックを通した後にランスは手に取った。
それをぱらぱらと捲りながら、
「……で、用件はなんだ? 押し売りにでもきたのか? いっとくが今は無駄金使ってる余裕はないぞ」
そっけない言葉を浴びせた。
しかし、相手はまったく気にせず、へらへらと媚びへつらうような表情を浮かべている。
「いえいえ、そうじゃおまへん。今回はむしろ、買いとりに来たと言っていいでごわす」
「買い取り?」
「はい。おいどんの身の安全だったり今後の活動、その他もろもろですたいね」
「…………ふん。もう少しわかりやすくはっきり言え」
「ポルトガルには商会の本部やうちの屋敷やらがおますんどす。攻撃目標とされて被害の出たらおおじょうするんたい。さかいに、うちのとこやけは見逃してくれまへんかっちゅうお願いに来やはったのどす」
「お前のとこだけを避けるなんて随分とめんどくさいことを頼むな」
「ただこちらの地区への進軍を少しばかり遅らせてくれれば十分たい。建物を覆う結界やシールドを張るだけの時間が欲しいんどす」
「なるほど。んで、買い取りと言った以上、相応の代価を支払うと考えていいんだろうな?」
「こっちには現金1000万ゴールドとリーザス正規軍の食糧一年支給、そして傭兵2000名をポルトガルの詳細な都市情報もおつけしてすぐにでもお渡しできる準備があるでがんすよ」
安定感も緊張感も皆無な言葉から現れたものの価値は大層なものであった。だが、ランスの眉はぴくりともしない。心底つまらなそうな憮然たる面持ちでいた。
「それだけか」
「無論、それだけではあらしまへん」
プルーペットは小さな手をパタパタと振るう。口上商人が商品の一番のポイントを紹介するがごとく、少しもったいぶったように溜めてみせると、声のトーンをやや小さくした。
「ランス王はシャングリラを御存じでっか?」
「そんなもん知ってるぞ。確かポルトガルの性風俗店だったな。女の子の質もサービスも中々良かった記憶があるぞ」
「ぜんぜんちゃいます。おいどんが言ってるのは現代の理想郷と呼ばれるキナニ砂漠のオアシス、シャングリラのことでやんすよ」
ランスはそこでようやく眺めているカタログから顔をあげた。
「理想郷?」
「ほんとに天国のような場所ですますよ~。いっぱいのゴールドで溢れ、食べても食べても尽きぬ果実をつける木が植生し、極上の美酒を浴びるように飲むことができ、そして何より美女もぎょーさんおりまっせ」
「美女がいっぱいだと!?」
聞き捨てならない発言に一際強く反応する。思わず身を乗りだしてしまったその勢いで、カタログが膝から床に滑り落ちた。
その食いつきぶりにプルーペットはいっそう笑みを強めた。
「シャングリラの都はその正確な位置は秘匿され、本来なら砂漠の案内人の手引きなしには辿りつけないような特別な場所なんですたい。ばってん、もしおいどんとおいどんの財産に対して絶対の保障をしてもらえるならこちらのツテでシャングリラの王にかけあってみせましょうたい」
「……うーむ」
ランスは腕を組んだ。
うさんくさい。うさんくさいが、同時にひどく魅力的な話だった。対価として考えればむしろ十分すぎると言っていいだろう。心の天秤は揺れを見せた末、プルーペットの話に乗っておく方に傾いた。
「……よし、わかった。いいだろう、お前の屋敷や商会については手を出さないよう計らってやる」
「まいど~。交渉成立でんな」
その後、二人は戦争開始時期や報酬の支払い日など細かい部分を詰めていった。
密約は取り交わされ、王と商人は互いに「くくく」「ふふふ」と薄い笑みを浮かべあう。
「ああ、一応言っておくが、俺様に対して少しでも舐めたような真似をすれば、その保障はないものと思えよ」
「言われなくてもランス王の機嫌を損ねるような真似はしまへんよ。ランス王の方もあんじょうたのんまっせ」
そう言うと、プルーペットは満足そうに謁見の間から立ち去った。
「へへへ、悪くない取引だったぜ」
ランスもまた満足した心持ちのままに場を後にしようとした。
すると、踏み出したその"丁度"足元に何かがあったのか、滑りそうになる。それを何とかこらえて原因をにらみつけてみれば、それは先ほど落としたプルーペットからもらった商品カタログだった。
何十ページもある冊子の中で"たまたま"開かれたそのページには美しい女性の写真がのっていた。故に目に留まった。
思わず拾いあげてそれを凝視する。
「……ふくマンシスターズ?」
おそらくプルーペットの保有する娼婦というところだろう。淫らな姿を晒した二人の女性が映っていた。
一瞬浮かぶ自分も頼んでみるかという軽い考え。それが吹き飛んだのは姉妹の片方の顔を見た時だ。ランスの笑みは完全に凍りついていた。
「……キサラ……コプリ……」
それはきっと偶然というよりも、むしろ幸運の導きにより引き寄せられた必然だったのかもしれない。