クロードは魔法で濡らしたタオルで目元を冷やしていた。
セリア・フォー・ライドセンスは、クロードと同じくランドセル学園の魔法具科の生徒だった。元々のセリアは別のクラスに所属していたのだが、一年半前に学科を移してきてから2人はクラスメイトということになった。しかし、クロードはその前から――入学式の日から万人の目を惹きつけるドールのごとき容姿を知り、片思いしていたのだった。
当然のようにライバルは多い。
あっというまにセリアは有名人となり、学年に関係なく多くの男子生徒から告白されていた。
日を浴びたことはないのかというほどの白い肌に極上の金髪。麗しの双眸。たとえ、美人に慣れている貴族といえども、神がかってる美貌と子悪魔じみたスタイルには目がいってしまう。その美を称えるのはごく自然の流れだった。学園には美人を見かけたらすぐさま口説く貴族のぼんくら息子が揃っているのだ。セリアにお声がかかることになるのは決まりきったことである。
が……彼女はそのすべてを容赦なく振っていった。
思えば、そのことがクロードとセリアの間に交わされた密約に繋がったのだろう――
クロードとセリアは亜空間に移動していた。
絶対に第三者にバレることはない移動手段によってこの部屋にきているものの、だからといって、これからすることが第三者に知られないとは限らない。クロードの部屋は、学園から借りているもので、部屋を片付けにくる使用人たちも学園に所属しているものだ。窃盗などの犯罪行為はしないように〔ギアス〕をほどこされているが、それは仕事中に見聞きしたことのすべてを口止めするほどの強制力は持っていない。内容によっては使用人同士の噂話にあげられることもある。
これは、かつて噂をすることを禁じていたら生徒たちの生活がとんでもなく乱れたことに由来している。
例えばだが、部屋を汚くしていたらあの人は片づけのできない人だと噂されるとする。そうしたらとくに女性は嫌だから部屋を片付けられるようになる。こういう自制作用がありとあらゆる面で働くようになるのでそういうことになっているのだ。もっとも、使用人たちも心得ているもので、名門の家が傾くようなスキャンダルは口が裂けても外部の人間には話そうとはしない。上司に報告するだけだ。しかし、誰と誰は付き合っているのだという話はかっこうの話題となっているのだった。
室内に留まっていれば、なにかしらの痕跡は残ってしまうものだ。
それを一流の使用人たちは見逃すことはない。
なので、2人はあれから一部屋ついている絨毯型のマジックアイテムを稼働させ、そちらに移っていたのだった。
模様の中に織り込まれている魔法陣によって、特定の亜空間に接続する魔法具――空間に干渉するには貴重な素材を必要とするためあまり数があるものではない。
転移はすぐに終わる。学園の寮とは異なっていて、貴族の生徒たちが自分たちの屋敷に持っている自室くらいの広さはある立派な室内だった。亜空間を備え付けた魔法具などを必要とするのは貴族もしくは大商人に決まっているので、基本的にこのタイプのマジックアイテムはこのくらいの規模となっている。ランプや空調関係、水回りなどはすべて魔法具となっているために購入しようと思ったら小さい屋敷を買える金額になる高級品だ。
クロードのは祖父から受け継いだもののために最新型ではないが、使用に支障はない。
「ここでマジックアイテムを作っていたのね」
セリアはあたりを見回すとどこか感慨深げにつぶやいた。
クロードに訪ねたのではない、自分自身になにかを確かめるようなつぶやきだった。
亜空間の中には、ぎっしりと詰まっている本棚や薬品棚に数種類のインゴット、いくつもの工具や機械が置かれていた。セリアの知識ではまだ理解できないとわかってしまう難解なタイトルの専門書に、クロードとの差を悟ってしまったのだろう。セリアの目つきが険しくなってしまった。そして、ならやら雑に詰まれている一角には疑問を顔に出し、ぴかぴかのベッドには溜め息をついた。
クロードは寝るとき寮のほうの部屋に戻っていたはずなので、このベッドはある意味セリア用ということなのだった。
このベッドを置くスペースをつくるためにどかされたのが雑に詰まれた器具たちだったのだろう。
想像できてしまうためにセリアの気持ちは滅入るのだった。
「『契約』は契約よね――」
「うん。僕のほうの支払いは終わっているんだ。今度は君の番だよ」
「わかっているわ。〔ギアス〕の内容に違反するつもりはないわよ」
あくまでこれは契約によるものだと再確認するとやはりクロードには落ち込むものがあった。
契約によるものとはいえ、実質、セリアのために貢いだことになる金額というのはそこらの貴族では簡単に支払えない桁になる。
ただセリアを妻にするだけならばセリアの父親に直接話を持ちかけたほうが安く済んだことだろう。
彼は、家族愛を知らないわけではないが、大商人としては普通の感覚を持っている人間なのだから金と家柄の両方から攻めれば婚姻関係はすぐ結べたはずだ。
そして、そうなったのならばセリアは父親に逆らおうとはせずに素直に嫁いでくれたことだろう。
そうしなかったのは上辺だけの関係にクロードは満足できなかったからだ。
跡継ぎとして一子二子をもうけたあとには間男に奪われるような、貴族社会ではよくある仮面夫婦ではなく、いつまでもセリアを独占していたかったからだ。だからセリアが困っているときを見逃すことなく話を持ちかけ、賭けに等しい取引を認めさせ、〔ギアス〕によって魂を縛った。たとえそのギアスに『クロード・アス・ログフィートを愛すること』という一文がなくとも、契約の範囲内においてはセリアに拒絶不可能の命令をできるのならば、財も労も惜しくはなかった。
「誰にも言ってないでしょうね」
「言わないよ。絶対に。ライドセンス家の娘がこんなことになっているなんて醜聞、バラしたら契約違反じゃないか」
「……ならいいのよ」
ライドセンス家に迷惑をかけないこと、生死に関わらないこと、などの条件は〔ギアス〕に含まれている。人前ではあくまで婚約者程度に振る舞い、やがて夫婦になったあとも評判を落とさないようにしなければならなく、あまりに違反を重ねるようであれば契約は解除されてしまう。判断するのは契約の精霊のためどこまでが許されているのかは不明だが、それでも奴隷にしていることが知れ渡ってしまったらアウトだろう。彼女はきっとどこか遠くにいってしまう。
クロードにはセリアとのことを見せびらかしたい気持ちはあったもののそのことを考えたら、失う危険性をふまえれば、それはありえないことだった。
二人は黙っていた。
互いの様子をじっと伺っているのはこれからのペースをどちらが掴むのかという勝負だった。
セリアは絶対服従しなければならないけどあくまで軽い内容にしておきたい。
クロードはできるだけ嫌われないようにと思いつつ、それでも、自分の欲望をぶつけたい。
違反されないかぎりは永遠に続く〔ギアス〕ではあるものの人間関係というのはそれとは別にある。
それに、命令できるのはあくまで行動のみ。
惚れろという命じることに意味はなく、あくまで惚れているかのように演じろと命じるのが精一杯の効果しかないのだ。
奴隷のセリアの立場は低いが、ここまできたら心まで手に入れたいと望んでいるクロード相手ならばやりようによっては逆転はありえる。
いわゆる『惚れたほうが負け』というのが彼女の唯一の武器だった。
もっともその武器を器用に振るえるような性格だったら別の未来はあったのだろうが。
「セリアは、今日、どういったことをされると覚悟してきたの? 教えて」
先に仕掛けたのはクロードのほうだった。
正直、このけしからん巨乳ロリをいますぐにでも押し倒したかった。
けれど、これからのご主人様としての威厳を考えたのならば暴走するわけにはいかなかった。
……さきほど泣きまくったあとなのでさほど意味ない計画ではあったのだが。
クロードにはせめてセリアのほうからそういうことを言わせたいという目算があった。
けっこう切羽詰まっているのだった。
「あなたに仕えることになることは覚悟してきているわよ」
「僕の気持ちは前々から伝えてあるよね。それに、処女であることを確かめ、約束を果たすまでの間は貞操を守りぬくことを誓わせたよ。そういう相手に服従することになったのなら一つや二つは覚悟したことがあるんじゃないかな」
「…………〔ギアス〕に叛くつもりはないわ」
「どういったことまで想像したのかな?」
「知らない」
「じゃあ、教えてって命じちゃうよ。できるだけなんでも命じるようにはなりたくないけどさ――いいのかな?」
卑怯者――そう言っているかのような瞳にも見惚れてしまう。
クロードはようやく自覚した。たとえ負の感情だとしても、彼女に意識されているということはそれだけで嬉しいことなのだと。
気付いたことでクロードはさらに強気になった。
「いずれなる妻としての覚悟? そうなるまでの婚約者としての覚悟? 学園ではこれから付き合っているということになるから恋人としての覚悟? それとも、家を助けるために体を売った娼婦としての覚悟なのかな。〔ギアス〕に縛られている性奴隷としての覚悟もいるよ。どういった扱いをされると思ってきたのかな。どうされたい、どうされたくない――君の口から聞きたいよ」
セリアの表情が強張った。
いっそうざいくらいの執拗な質問。いつもだったら張り手の一発でも喰らわせて立ち去ってしまう質問。
けど――今は奴隷という立場にあるのだ。
まだ〔ギアス〕の強制効果は発揮されていないもののどこかで妥協しなければならない。
かたくなに拒んでいては何をされるかわかったものじゃないからだ。
「…………なのよ」
「何?」
「……はじめてなのよ。せめて、優しくしてちょうだい」
絞り出すような音色でセリアはそう願った。
クロードは舞い上がるような気持ちになっていた。口調はともかく、あの≪ラザティートの人形姫≫が自分にねだるような内容のことを口にしたと。これは、これまでになかったのだった。『契約』をもちかけたときだって、「できるものならしてみなさいよ」といった挑発的な言い方を貫いていた彼女が……だ。
望んでいたことまでは言わせられなかったけどもうクロードの股間はいきり勃っていた。
あの発言のあとは伏せ目がちになっていたセリアにつかつかと歩み寄る。
「ちょっと、何――」
「いいからいいから――もう我慢できないよ」
そして、そのままベッドのほうに連れて行く。貴族社会に生まれ育ったクロードにとっては多少強引とはいえエスコートするのは手慣れたものだった。ダンスのリズムに合わせるようにして数歩後ろに歩かせて、ベッドに近づいたら腰を抱きよせて、優しく押し倒す。セリアが我にかえったときにはすでにクロードにのしかかられていた。膝立ちのために体重は感じないものの異性に乗られるというはじめての体験にセリアの美貌が真っ赤に染まった。
「触らせてもらうから」
一方的な通告だった。
クロードはセリアに手を伸ばした。セリアは視線を合わせてくれなかったが不安そうなのが見え隠れしている。
上に乗っかったことで立ち上る甘い薫りを強く吸ってしまい、酔ってしまいそうだ。
こんなに簡単にねじふせることのできる小さい身体なのにもう大人としての成熟した部分を持っているのだと再認識させられる。
ついに分厚い制服の布地に覆われていた甘い果実に手が這わせられた。弾力のある柔らかい二つのかたまりがクロードの指を押し返してしまう。いや、クロードか感動のあまりに手を止めてしまっていた。わずかに食い込んだままの状態をキープしながらしばしの時間が流れる。双方が喋ることのない、けど、ただ息だけが荒くなっていく。
(なんなんだ、コレ……)
クロードは世間に流通しているたいていの素材に触ったことがある。中にはぷにょぷにょと感触の気持ちのいいものもあった。生スライムなど、の種類ごとにわずかな違いがあるもののいつまでもぷよぷよしていたくなる、癖となってしまうようなものも経験してきている。だというのにセリアのおっぱいは違っていた。
揉む。揉んでみる。
重量感のあるふくらみはピチピチの若さで弾き返してくる。衣服にがちがちに固められていながらも逃げ場所を求めてあっちこっちに震えているのがクロードに伝わってくる。まるでそういった感触がそのまま股間に繋がっているみたいだった。ペニスが痛いくらいに堅くなっている。これほどに自分の本能を刺激してくる感覚は生まれて初めてだった。それはそうだ。クロードは性的に女性を抱きしめるなんてことは初めてだったのだ。それも触れているのは長年思い続けてきた初恋の女の子のおっぱい。
「い、いつまでするのよ」
「セリアの胸さえあれば、もうなにもいらないかも……凄くいい」
恥ずかしそうにセリアが身もだえる。
彼女に指摘されるまでいったいどれほどの時間が流れたのか。時間感覚が完全に麻痺していた。
望めるのならばいつまでも触っていたかった。
しかしもっと進めたくもある。
クロードはさらに腰を深くして、これまで触っていた乳房の頂点部分ではなくもっと根元のほうから大胆に揉んでいった。
この爆乳を目当てにいったい何人の男たちが告白してきたのだろうか。
それを好きなだけ揉んでいられるクロードは幸せだった。
当初の目的では、セリアから主導権を奪い取っていたかったのだがもはやそんなことを忘れて熱中している。
一方のセリアはさらなる羞恥に耳まで赤くしたまま戻らなくなっていた。
単純におっぱいに加えられる力が強くなっただけではない。それはそれで恥ずかしいが、性感をダイレクトに刺激するというわけではない。まだ開発されていないボディは気持ちよくなってよがるほどの感度はなかったのだ。だから、それだけだったら我慢することはできる。しかし、クロードが熱にうなされそうなように賛辞してくるのは恥ずかしくてたまらなかった。自分は女なのだと、自分は異性を欲情させるに相応しい雌なのだと、幾度となく教え込まれているようで耳をふさぎたくてたまらなかった。
決定打になったのは、姿勢がほんのわずかに変わったことで押し付けられることになった男性器の熱さだった。
理屈ではない。問答無用にクロードの情感が身体に突き刺さってくる。
コレを――ペニスをこうしたのは自分なのだと脳髄に刻み込まれていくようだった。
初潮を迎えたときにも似た、自分が別の生き物になってしまったかのようなインパクトがある。
(私、クロードの女になってしまったのね……)
覆いかぶさってきたことで恐くなったクロードは一心不乱に揉んでくる。
この男の所有物になってしまい、世間では恋人として扱われ、いずれは嫁ぐことになる。
あえて考えたくはなかったこれからのことがまとめてぐるぐると頭の中に入ってくるようで混乱する。
魔法具科に移ったばかりのころはこの男を超えるぐらいでなければ実家を立て直せないのだと目標にしていた。
なのに、どんなに頑張っても追いつけなくて、屈辱に唇を噛みしめながら教えを請いにいき――なりゆきであんな『契約』をしてしまった。
思い返せばあのときからクロードは熱にうなされているような目で自分を見つめていた。
(あのときにはもう求められていたというの?)
「ああ、この胸をずっと前から触りたかったんだ……最高だよ、セリア」
自分の乳房に夢中になっているクロードにセリアは――
「うんっ……」
クロードは耳を疑った。
セリアの顔のほうから鼻にかかったような声が聞こえてきたのだった。
驚きのあまりに手をとめて彼女の表情をまじまじと見つめてしまったクロードだった。
当の本人も自分が信じられないような顔で愕然としている。
「セリア?」
「…………っぁん」
試しにおっぱいに当てていた五指をぐにゃりと動かしてみると反応があった。
「セリア――君さ、」
「な、何よ」
「もしかして感じているの?」
「そ、そんなわけないじゃない。好きでもない男に触られたくらいで感じるわけがやぁん――――ないじゃない」
喋っているときの不意打ちにこらえきれなかったセリアは取り繕うとしたが無駄だった。
クロードに入念に観察されているときにあえいでしまったのだから。
「っ!」
ベッドの外に放り出されていた両足をばたつかせて暴れたセリアはその勢いでうつぶせになり、シーツに顔をうずめた。
けど、そのことにどれほどの意味はあったのだろうか。
クロードに手応えを感じさせ、セリアを気持ちよくさせているのだという自覚を植えつけたにすぎなかった。
セリアに好かれたい。セリアを触っていると心地いいて満たされる。
結局のところ、これまでのクロードはあくまで自分のために行動してきた。
セリアの実家を支援してきたのもあくまでセリアとの契約を果たすことが自分の欲求に繋がっているからだった。
そのクロードに今芽生えた気持ちがあった。
それはセリアをもっと喘がせたい、よがらせたい――さらにはそのことを認めさせ、自分におねだりするように口にさせてみたい。
元々男の持っている本能がクロードに目覚めようとしていた。
そのことをまだ、ベッドの上で這いずって逃れようとしているセリアは知らなかった。
そしてすぐに思い知ることになる。
クロードは魔法具を作成するだけの器用さと素材の良しあしを見極める観察力を持っていて、さらに豊富なマジックアイテムの知識を所有していることを。
セリアを愛してやまないクロードの本気というものを。
彼女は逃げられない。
【後書き】
主人公にライバル意識を持っているヒロインの需要はどれほどなのかよくわからないですけど、そういう関係でいきたいと思います。
ちなみにセリアがあえぐようになるまでのかなりの時間、クロードは熱心に揉んでいます。
童貞ですから一心不乱に揉みました。制服の上から。
まだまだエロ度は低いですけどこれから盛り込んでいけるように頑張ります。
あと、18禁の勉強中なので描写のおかしなところがあったら容赦なくご指摘ください。大歓迎です。
次回予告――『セリア脱がされる。豊満な乳房に<敏感薬>を塗りたくられた彼女はむせび泣き、懇願する。』を予定中。