すらりとした気品ある顔立ち。薄いブルーの瞳に高い鼻。生まれと育ちから来る高貴な雰囲気。プロポーションは完璧で、出るところは出、引っ込むところは引っ込んでいる。
何とも瑞々しい色気だった。魔性とはこのことであろうか? なるほど、いささか大仰な「ハルキゲニアに誇る可憐な一輪の花」。そんな形容も納得するしかないだろう。
にこりと微笑めば如何なる献身をも厭わせない雰囲気を、そんなオーラを放っているのだ。ハルキゲニアの全ての民が、この方のためと死ぬであろう。
アンリエッタ・ド・トリステイン。トリステイン王国、その王女であって、次代の女王と目される美女である。
さて、そんな彼女だが、憂鬱な気分で表情が曇っていた。婚姻をすることになったのだが、ある問題によってそれが壊れてしまう恐れがあったのだ。
もしあの手紙が公になったらどうしよう? 同盟が壊れてしまったらどうしよう? もしそうなって祖国が蹂躙されてしまったらどうしよう?
アンリエッタは考えていた。全てはこれからに掛かっている。何としても説得し、任務を受けてもらうしかないのだ。
「……いきましょう。ルイズに会わなくてはならないのです……」
そうしてアンリエッタは寝所を抜け出す。目立たないように黒いマントとフードを被り、目的の部屋へと向かったのだった。
◇
才人はアンリエッタの依頼を検討する。だからマチルダからの報告でアルビオン情勢を確認し、キュルケにゲルマニアの思惑を推測してもらった。まずは現状を認識しないと、動きようがないだろう。
――行けと命じられた国はアルビオン。浮遊大陸として存在し、空軍の充実から強国とされている国である。この国はレコン・キスタ軍(貴族派)と、アルビオン軍(王党派)とで、絶賛内戦の真っ最中である。
――アンリエッタの依頼は王党派のウェールズ王子に謁見して親書を渡し、恋文を回収して来いというもの。だが、現在の戦況は王党派の圧倒的不利。よって王党派の拠点までたどり着けというのが、そもそも非常な困難と予想される。
――恋文を回収する目的はゲルマニアとの同盟締結のため。ゲルマニア皇帝はトリステインとの同盟締結の条件として、アンリエッタ王女をアルブレヒト三世に嫁がせることを要求した。
――アンリエッタは恋文でウェールズ王子に永遠の愛を、しかもラドグリアン湖の精霊に誓ってしまった。故に恋文の内容を暴露されると、ウェールズ以外と結婚をすることができない。何故なら水の精霊への誓いはハルキゲニアで絶対のものであって、このままだと重婚の罪を犯してしまうことになる。
「……まあ要約するとこんな感じになるわけだ。マチルダ、これで合ってるか?」
「はい。それで王党派ですが、決戦に敗れて戦力が枯渇しているはずです。もはや貴族派の進軍を食い止める術はなく、ニュー・カッスル城に籠城しているものと思われます」
「キュルケ、ゲルマニアの目的はアンリエッタ…っていうより始祖の血筋なわけだよな? 国内を纏めるのに高貴な血筋を欲しがってるってわけだ。それで合ってるよな?」
「うん、それで合ってるわ。アルブレヒト三世は言ってみれば諸侯の代表って立場だし、ゲルマニア貴族に忠誠心は薄いの。だから始祖の血筋を取り込んで、その状況から抜け出したいって考えだと思うわ」
才人は考える。
……ふむ。んで、レコン・キスタのスローガンは聖地の奪還。そのためにはハルキゲニアを統一する必要があって、んで、地理的にアルビオンの次の目標はトリステインになる。味方が欲しいトリステインはゲルマニアと同盟を結ぶ必要があるっと……。
なるほどと思う。そうした理由を聞かされてはトリステイン貴族としては断りにくいだろう。しかも“おともだち”を連発されて、頼れるのはあなただけとまで言われては、単に危険だからでは通らないかもしれない。だが
「よし。んじゃ結論を言うぞ? アルビオンには行かないことにする」
才人の結論は否であった。
「ったく、冗談じゃないっての! 別に俺たちが行く必要ねーじゃねーか!」
確かに成功した方がいい任務ではあろう。だが、だからといってルイズが、引いては使い魔として同行しなければ不自然となる才人が、そんな死んで来いと言うような任務を受ける謂れはない。それにだ、才人には手紙の一つで状況が変わるとも思えなかった。
――当初は絶対王政の世界であると思っていた。だが、どうやらハルキゲニアは封権制に近いと、今ではそんな風に才人は捉えている。つまり統治には正当性が必要なのだ。そして力で諸侯を抑えている皇帝だから、始祖の血を取り込んで立場の強化を狙っている。ならば手紙の一つくらいは敵の謀略と済ますのではないだろうか?
――レコンキスタがトリステインの次に目標とするのはゲルマニアになる。粛清によって貴族たちに動揺が走り、内情が不安定とされるガリアであるが、ゲルマニアに比べれば一枚岩だろう。諸侯の連合体であるゲルマニアの方が、各個撃破は容易いのだ。
――トリステインはゲルマニアの盾として有効である。つまりトリステインの次の目標がゲルマニアなら、始祖の血が得られなくとも支援する価値がある。
才人はポイントがガリアにあると見た。双子の王冠とも呼ばれ、文化的にも似通ってるガリア。過去に何度も血のやり取りをしたガリアである。それなのにトリステインは野蛮と蔑むゲルマニアとの同盟を選んだ。これは厄介事を嫌われ、断られたとみていいだろう。またガリアはレコン・キスタが攻めてきたとしても、充分に対処する自信があるということだろう。
つまりトリステインほど致命的ではないが、ゲルマニアも追い詰められているのではないだろうか? 条件を付けるほど渋っているように見えるゲルマニアだが、同盟を望んでいるのはかの国も同じではないだろうか?
それともう一つ。あるいは国内を纏める手段として、ゲルマニア皇帝は敵を欲している可能性があるのではないか? 外敵を作ることで団結し、諸侯を消耗させることで、相対的に権力の強化を狙うやり方だ。うまくやらないと反乱や国力の低下を引き起こす諸刃の剣であるが、有効な手段である。
才人はこれらのことからゲルマニアとトリステインの同盟であるが、必然であると判断した。レコン・キスタを共通の敵として、トリステインとゲルマニアは手を結ぶに足りうる。
アンリエッタが重婚云々で同盟が取りやめと言ったのは、これ以上トリステインの立場を弱くしたくない、そんな建前である可能性が高いのではないだろうか?
「よし。んじゃ、そういうことだから断る口実を考えるぞ。それと万一断り切れなかった時の対応を考えておく」
ベッドに腰掛けた才人は集まった奴隷たちを見下ろす。あれから追加で召集したケティを含めて五人。ルイズ、モンモランシー、キュルケ、マチルダ、ケティの五人である。
無理やりであろうが何であろうが、いったん引き受けた以上は、断るのにそれなりの理由がいる。任務の達成は不可能である、そんな不自然でないだけの理由である。それをこれから考える必要があったのだ。
……やれやれだぜ……。まぁ別にかまわんけどよ、そんなこと伝えに戦場へ行けなんて、んなもん冗談じゃないってーの……。
それともう一つ気が付いたことがあった。ルイズの話を聞いていて気付いたのだが、どうやらアンリエッタはウェールズを亡命させたいらしい。
レコン・キスタの目的からすると、王や王子を匿った位でトリステイン征服を諦めるとは思わない。だが火種の一つとはなろうし、出来るなら亡命なんてして欲しくない。才人にとって見ず知らずの人間の命より、自分の安全の方が大事なのだ。
……とはいってもなぁ、そうすっと王女の恨みを買うことになる。ルイズがそうなっちまうと、俺まで迷惑がくる可能性が高いしよぉ、ったく、こいつもどうしたもんかね……
どうしたものかと検討する。才人は時間のない中頭を捻り、奴隷たちに明日の対応を考えさせたのであった。
◇
アンリエッタは出発する一行を学院長室の窓から見つめていた。目を閉じて、手を組んで「彼女たちに、加護をお与えください。始祖ブリミルよ……」と祈る。
困難な任務であることはわかっていた。だからだろう、ルイズはじっと考え込んで、なかなか返事をくれようとしなかった。それを頭を下げることで驚かせ、「おやめください」というのを「では、引き受けてくださるのね」と、半ば強引に承諾させたのである。
……わたくしはなんと罪深い女なのでしょう。友情に縋って唯一のおともだちに無理をいってしまったのです……
そして翌朝、ルイズは申し訳なさげに現れた。なんと任務のことを考えながら歩いていて、それで不注意となったルイズは階段から転げ落ちてしまったのだと言う。
それでもルイズは「姫さま、申し訳ありません、これでは馬に乗ることがかないません」と、足首の痛々しい包帯を見せながら謝ってくれた。そして「ギーシュが協力を申し出てくれました」と、次善の策を考え付いてくれたのだ。
アンリエッタもグラモン家なら知っている。グラモンといえば当主が元帥の家系である。単なら伯爵家では特使としての格に問題があるが、その点グラモンなら不足はない。
……でも、結局はいいわけですわ。こうして怪我をしてしまったルイズに無理をさせてしまっている。ああ…始祖ブリミルよ。わたくしはなんと罪深いことをしているのでしょう。どうか…どうか始祖ブリミルよ、愚かなわたくしをお許しください……
信頼の点でルイズには格段に落ちるが、怪我をしてしまった以上はしょうがないだろう。アンリエッタは「では特使の任を……」と言い掛けた。だが、その時護衛として同行させようと思っていたワルド子爵が現れた。「姫殿下、ではわたしのグリフォンに乗せればいいでしょう」と現れたのである。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。子爵の爵位を持ち、三隊ある魔法衛士隊の一つ、グリフォン隊を預かる貴族である。
ワルドは茫然として驚いているルイズに「久しぶりだね、でも大丈夫。ぼくがきみを抱えてグリフォンに乗せるから安心するがいい」と微笑んだ。そうした経緯があって、ルイズはアルビオンへと旅立つことになったのだ。
……始祖ブリミルよ、どうかルイズにそのお力を……
アンリエッタ視線を外す。そうして後ろで悠然と立っているオスマン氏へと語り掛ける。
「見送らないのですか? オールド・オスマン」
「ほ、ほほ、姫、すでに杖は振られたのですぞ。見送ったからとて、結果が変わるものでもありますまい。違いますかな?」
「それはそうですが……」
アンリエッタは納得しなさげな視線を送る。学院長室で待ち受けていたオスマン氏だが、アンリエッタの入室から立ち位置を変えようとしなかった。困難な任務に赴く生徒たちなのだ。せめて窓際まで来て見送るくらいはしてもいいと、アンリエッタなどは思うのだ。
「! っ、あ、あいだっ!」
「? どうしたのです? オールド・オスマン」
「は、はは…姫、見てのとおりおいぼれですじゃ、時おり身体の節々が痛みましてな」
「そうですか……」
アンリエッタはふぅと溜息をついた。考えてみれば齢100とも300とも噂されるオスマン氏である。ルイズだけでなく、オスマンにも無理をさせてしまっている。学院長を望む貴族は多いのだが、派閥争いに結びついてしまう。だからオスマン氏はなかなか引退できなかったのである。
……わたくしは本当に罪深いですわ、ですが祖国の危機なのです。どうかこの困難を乗り越えてルイズが戻ってきますよう……
アンリエッタは遠い目となって、はるか先にあるアルビオンの大地を目蓋に浮かべる。「祈りましょう……」と目を瞑り、異国の王子を想像した。
こうした経緯があって、才人はアルビオンに行くことになったのである。
……くっそう……あのアマ、絶対に奴隷にしてやる。皇帝に嫁ぐそうだから非処女はマズい? くく…んなもん今更だよな。演技とかさせりゃあいい。
ギーシュに押し付けることで難を逃れようと思った才人。こんな時のためのギーシュだったのに、思惑通り運ばず不機嫌なのであった。
ギーシュ一人をアルビオンに行かせ、『水のルビー』だけは確保しておこうと思った。身分の証明に預かった『水のルビー』だが、デルフリンガーから虚無覚醒のアイテムだと教えてもらっていたのだ。あとはギーシュが依頼を達成するもよし、異国の地に果てるもよしと思っていた。
……くっくっくっ…、力を使って妊娠させるかどうか、それだけ決めりゃあいいんだ。どうしてもマズいってんならケツ穴専門にでもしてやるさ……
それなのにワルドである。全く余計なことをしてくれた。ルイズを行かせ、才人が行かなければ済む、そんな問題ではないのである。ルイズが死ねば、ルーンが消える可能性が濃厚なのだ。
才人はギーシュが死んでもいいとは思っている。だが、殺そうとまでは思っていない。やはり才人は日本人として、殺人への忌避感は残っていた。
シエスタへの仕打ちや土下座させられたことで、殺意を覚えた才人ではある。そんな時なら勢い余ってというのはあるだろう。だが激情が覚めると、殺したいとまでは思わなかった。
そして任務だが、やはり失敗よりは成功の方が、いい結果に繋がるだろう。
ふぅぅ……ったく、プラン変更だな。……まあ、ああなるとは思ってなかったが、考えてみりゃこの方が良かったかもしれん。ギーシュ一人だと不安だったのは確かだしな。……くくっ、となりゃあ……
そう、そこで都合よく現れてくれたワルドなのである。
ワルドは魔法衛士隊の隊長だという。つまり正規の軍人である。貴族であろうと民間人を守るのが軍人というものであろうし、軍人が国のために死ぬのはある意味当たり前である。護衛をして、ギーシュ生還の確率が高まるならその方がいいのだ。
ふむ……となりゃあ、打ち合わせする必要がある。アルビオンの窓口、ラ・ロシェールまで早馬で二日って話だし、そん時奴隷にして、んで今後どうするか考えるとするか……。
こうして才人は方針を決めた。最初の宿で打ち合わせするとだけ奴隷たちに囁き、ワルドを示しながらニヤリと嗤ってみせた。そうすることでだいたいの思惑を伝えたのである。
◇
「では諸君! 出撃だ!」
朝もやのなか、ワルドは恰好よく吠える。愛騎のグリフォンの前足を持ち上げ、疾走を開始させた。ラ・ロシェールの街を目指しての出発である。
一行はモンモランシー、ギーシュ、才人である。そしてその他に、ワルドの胸に抱えられたルイズがいた。
で、ワルドの思惑は出発の時から狂う。彼はルイズの前に颯爽と現れ、劇的な再会で印象を良くしようと企んでいた。だが入口で見張っていたルイズは馬小屋に行かず、代わりにアンリエッタを訪れていた。しかも足首に包帯を巻き、びっこを引きながら現れたのである。
……思えばこの時点で何かおかしかった。引き受けた次の日に怪我なんておかしかったのだ……
不審に思ったのであとをつける。するとルイズは貴賓室へと行き、アンリエッタに足首を示した。
怪我をしてしまった、二三日で治るだろうがこれでは馬に乗れない。だから任務を辞退させてもらえないだろうか?
任務の重要さはわかる。だからギーシュを推薦するので、任務を辞退させてはもらえないだろうか? といい始めたのだ。
冗談ではないと思った。そんなことが認められるかと思った。
――ゲルマニアとトリステインの同盟を阻止する鍵であるアンリエッタの恋文奪取。
――レコン・キスタでの地位向上のための武勲、ウェールズ・テューダ―の首。
――ハルキゲニアにおいて無視しえない意味をもつ虚無。その使い手である可能性が高い、そう睨んでいるルイズの心。
ワルドは三つの目的を持っていた。彼は祖国トリステインを裏切り、聖地への近道であるレコン・キスタの一員となっていた。だからルイズが旅をしないとなれば、その目的の一つであるルイズの心、それを奪うチャンスが無くなってしまうのだ。
「姫殿下、それではルイズをわたしのグリフォンに乗せましょう。そうすれば問題はないはずです」
慌てて学院の貴賓室へと入った。様子をうかがい、盗み聞きしていたのがバレてしまったのだが、まあそれはいい。どうせこの国とは縁が切れるのだ。叱責される情けない姿を見られてしまったのだが、何とか誤魔化して、渋るルイズを強引に任務に就かせる。
っくっ……! 欲張るべきではなかったのか? 手紙とウェルーズで我慢しておけば良かったのか?
そこからは全てが誤算の連続である。
「久しぶりだな! ルイズ! 僕のルイズ!」
「……お久しぶりでございます」
ルイズは何の感情も乗せないで返事をする。あの純真だったルイズなのだ。ここでおかしいと思うべきだったのである。確かに10年もほっぱらかしだっだが、逆に言えばほっぱらかし故に悪く思われる要素もないはずだ。
懐かしいと嬉しくなるのが当たり前ではないのだろうか?
ほがらかに笑い掛けたのに平坦に返される。それは明らかな悪意だと、そう判断するべきだったのではないだろうか?
「あ、相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」
「……ワルドさま。相変わらずと言われましても、十年も昔の話ですわ。それはわたしが育っていないと言いたいのでしょうか?」
「…………」
抱きかかえ、グリフォンの上へと乗せる。叱責される情けないところを晒してしまったからなのだろう。ルイズの冷やかな反応だった。
……っく……ここだ! ここで目がないと諦めておけば良かったのだ! いいところを見せて挽回すればいいなど、思わなければ良かったのだ!
「っワルド! サイトが追い付いて来てないじゃい!」
「ん? 別にかまわないだろう? へばったならおいておけばいい」
「っ馬鹿言ってんじゃないわ! そんなこというならわたし、降りる。アルビオンへは一人で行きなさいよっ!」
グリフォンを疾駆させればルイズは怒った。馬と段違いな幻獣を見せつければ印象が良くなると思ったのに、怒ったのである。
そしてハラハラとして後ろを振り向くばかり。最後には杖を引き抜いて「降ろしなさい」と宣告してくる。
っこ、ここもだ! 意識を奪ってそのままアルビオンへと行けば良かったのだ! 10年も前の恋心なんて、そんなものが残ってるわけないじゃないかっ!
慌ててスピードを落とすしかなかった。誤魔化そうと「ル、ルイズ、あの使い魔のサイトという少年は恋人かい?」と聞く。するとルイズはふぅと溜息をついて「……恋人なんかじゃないわ」、である。
恋人ではないと少しだけ安心したので「そうか、なら良かった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたら、ショックで死んでしまうからね」とおどけた。するとルイズは馬鹿を見る目で嫌そうに見る。
っく……いいところを見せようとした奇襲は失敗するし、プロポーズで同じ部屋にしようとしたら「下心が見え見えだわ」だと? っふざけるな! 僕だってそんな貧相な身体なんか興味はないわ!
傭兵を雇って決行した自作自演の奇襲。華麗に立ち回ってスクウェアの実力を見せつける。それで、さあもう直ぐ襲撃場所だと思っていた。すると伏せさせていた場所に着く前にキュルケ、マチルダ、タバサと三人もトライアングルメイジが来るし、しかも風竜と一緒の有様である。
それはもうあっけないものだった。キュルケは飛んできた矢を纏めて燃やすし、マチルダは巨大なゴーレムで追いかけまわした。そして風竜に乗ったタバサは疲れ果てた傭兵たちを一か所に集め、逃げようとしたら氷を飛ばして串刺しにした。ワルドが手を出すまでもなく、傭兵たちは全滅してしまったのである。
「ダーリン、頭らしいのを捕まえておいたわ。物取りだって言ってるけど、念のためダーリンも聞いておく?」
「ん? ……ああ、じゃあそうするか。くく…んじゃ、ワルドさん。強行軍でしたけど、流石に今日はラ・ロシェールで泊まるんでしょ? 先に行って宿を取っておいて下さいよ」
ニヤリとして才人は言う。そうして先行し、宿を取ったワルドである。同室にしてもらおうと「大事な話があるんだ」とルイズを誘えば、馬鹿を見る目で「下心が見え見えね」なのだ。
ワルドはどうやらキュルケがルイズの友人で、才人はそんなキュルケと付き合っているらしいと思った。そしてルイズはそんな才人に恋をしているのだが、友人から略奪するわけにもいかずに悩んでいるのだと思った。
……もしあの時「時間の無駄だ」と切って捨てておけば……。打ちのめしてやればルイズの見る目も変わってくると思ったりしなければ……
そしてワルドは決心する。翌朝、最後の勝負に出たのである。
「……おはよう、使い魔くん。随分と立派な剣じゃないか。さぞかし相当な使い手なんだろうね?」
「ん? そんなことないですよ。使い手なんてとんでもない。持ってると警戒してくれますからね。今回は念のため持ってきただけですって」
くっくっくっと忍んで話す才人にワルドは嫌な奴だと思った。
「んで? そんなこと聞いてなんだってんです? 船が出るのは明日だから、今日は休みなんでしょう?」
「そうよ! 朝から押しかけるなんて非常識だわ! 勝手に扉を開けるなんて何考えてるのよ! っこの礼儀知らずっ! お里が知れるってもんだわ、ひげ男っ!」
シーツで身体を隠し、キュルケはワルドを非難する。結局部屋割りはワルド、ギーシュ。マチルダ、タバサ。ルイズ、モンモランシー。そして才人、キュルケとなったのである。
っうるさいわ! この淫売が! 少しは慎みを持てって言うんだ!
昨晩は眠れなくて大変だった。隣の部屋だったので、それはもう淫語丸出しで「まんこいいっ、まんこいいっ」だの「ダ、ダーリンっ! 次はケツッ、ケツ穴にも入れてぇっ!」だの漏れ聞こえて大変だったのである。
だがワルドはぐっと怒りを抑える。どれだけノックして出てこなかったとしても、悪いのは自分だ。だからワルドはぐっと怒りを抑えつける。本題は「喘ぎ声を抑えてくれると助かった」。そんな出歯亀してたと、告白するも同然なクレームではないのだ。
「くく…で? 何の用で来たんです?」
「……ああ、その、あれだ。そんな立派な剣を持っているきみに興味を抱いたのだ。それでどのくらいの腕前だか知りたくなってね、ちょっと手合せ願いたい」
そう、目的は才人を叩きのめすことである。メイジとしての力量に加え、剣の腕前を示すことである。そうなればルイズは才人に失望するであろうし、その状態で甘い言葉をささやいてしまえば、小娘一人くらい、丸め込んでしまうのは簡単なのである。
さあ乗ってこい! 乗ってこなければ散々馬鹿にして、無理やりにでも乗らせてやるぞ! さあ乗ってこい! 魔法衛士隊の隊長がどれほどのものか、教えてやるから乗ってこいっ!
ワルドはにこやかに笑って誘う。もう観客としてルイズを誘っているのだ。だからどうしたって乗ってもらう必要があった。すると才人はキュルケに向かってニヤリと嗤い掛けて「……だってよ」と呟く。
「いいですよ。手合せですね? ただワルドさんは風のスクウェアと聞いてます。魔法を使われたんじゃ勝ち目ありませんからね、“ワルドさんは魔法無しって条件なら受けますけど?”」
「構わんよ。元からそのつもりだ。安心して掛かってくるがいい」
「そうですか、それなら構いません。……ああ、それと念のため聞いておきたいんですけどね。“風のスクウェアってことは偏在が使えるんですよね? 今のワルドさんは本物なんですか?”」
「もちろんさ。僕は本当のワルドだよ。偏在は使えるが本物さ。さっ、そうと決まったんなら早く行こう。この宿は昔、アルビオンからの侵攻に備えるための砦だったんだよ。中庭には昔の練兵場があってね。手合せするにはもってこいの場所なのさ」
そうしてワルドが去っていく。だが、その背後には口角を釣り上げている二つの笑顔があった。
……くっくっくっ…、なんとまあ都合のいいことで。偏在使いってだけがネックだったんだよな。くく…しかも練兵場ねぇ……確か物置みたいになってたよな? しかも古びた壁で視線が遮断できるような造りになってたよな?
うってつけのシチュエーションであった。一言二言キュルケに対して囁き、それが終わると準備のために服を着始める。
さてさて、傭兵たちは仮面を被ったとある貴族に頼まれて俺たちを襲ったってか? アンリエッタの依頼を知ってて、んで傭兵を雇えるのは偏在使いのワルドだけって思うのは間違ってるか? まあ仲間がいるって線はあるだろうが、そうだとしてもワルドが洩らした可能性が高いよなぁ?
くっくっくっと才人は嗤う。
どんな目的で襲撃させたかはわからない。いろいろと想像はつくが、重要なことはワルドは純粋な味方ではなく、なにがしかの思惑があるということだ。そしてそのことに才人が気付いていると、悟られた雰囲気がないことである。
……もしもワルドの後ろ目があったなら、その邪悪さに勝負を回避して逃げる。そんな選択が生まれたかもしれなかった。そして場面は練兵場へと移り変わるのである。
「……昔、といってもきみにはわからんだろうが、かのフィリップ三世の治下には、ここでよく貴族が決闘したものさ」
「ほほう、決闘ですか」
才人は馬鹿じゃねえのと思う。手合せといっておきながら模造刀や木剣を用意せず、そうして来てみれば決闘を匂わす。が、まあ話に付き合ってやろうと思った。
「古き良き時代、王がまだ力を持ち、貴族たちがそれに従った時代……、貴族が貴族らしかった時代……、名誉と、誇りをかけて僕たち貴族は魔法を唱えあった。でも、実際はくだらないことで杖を抜きあったものさ。そう、例えば女を取り合ったりね」
才人はニヤリとする。ここまで露骨だといっそ笑えてくる。
ふぅ……いやいや、わかりやすくていいね。……でも、何でルイズに執着してるんだ? 虚無だって知ってるのか? でも家族やジジイさえも“爆発”を失敗とみなして不思議に思わねーんだ。それなのに何で虚無だって知ってるんだ? ……それともロリでツルペタが好みなのか?
才人は不思議に思う。一体何でルイズに執着してるのか? 才人も使っているのだが、それはそれ。あれだけ露骨にキュルケとの恋人関係を示したのだ。それなのに何故? 婚約者に付きまとう虫と、そんな風に考えたとは考えられない。
正解はレコン・キスタの盟主が虚無の使い手だと噂を聞き、それで虚無のことをずっと考え、調べていた。そんな時にルイズが平民を使い魔として召喚したと聞き及んだのだ。
始祖は人を使い魔としていたらしい。ならばルイズはもしかしたら虚無ではないだろうか? それがワルドのルイズにこだわる理由だったのだが、そんなことは才人にはわからないのである。
「ワルド、来いって言うから、来てみれば、何をする気なの?」
と、ここで助演女優の登場であった。才人は思考を切り上げる。詳しい話ならあとでゆっくり聞けばいいだろう。
ワルドは「任務の途中に馬鹿なことを」と食い掛かるルイズに「彼の実力を、ちょっと試してみたくなってね」と笑い掛けていた。才人はそれを聞いて「よくいう」と苦笑いする。「貴族とは強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」ともワルドはいう。“ちょっとした手合せ”はどこにいってしまったんだという話だ。
はぁ……、コイツ、タチわりぃわ。腕に自信があって叩きのめす気満々なんだろ? それにもし仮に分が悪いと見たら、約束破って魔法を使ってくるタイプだな。負けるくらいなら何でもやるタイプだわ。
「……ルイズ。もうそのくらいにしとけ。始めるからどいてろ」
「! わ、わかった」
疲れた才人は始めることにする。大事なことはここにいるワルドは本物であるということ、それだけなのだ。
「ふぅ……じゃあワルドさん、始めましょう。ただいくつかルールを決めたいんですが構いませんか?」
「なんだね? 構わんから言いたまえ。今更怖気づいたってのはないぞ!」
才人は視線を合わせながらにっこりと嗤い掛けた。
◇
そしていくつかのやり取りを経て、ルイズは才人の足元にひざまずいていたのだった。
「はぁっ、はぁっ……んっ…はぁぁぁ……べろぺろ……ん…っ…ぢゅ……ちゅぷ……えろ……」
「っば、馬鹿な……こんなことが許されるのか……」
古樽の上に腰掛ける才人、その股の間へと顔を埋め、取り出した肉棒に対してキスをする。細かいキスを繰り返し、袋を頬張っては唾液を啜り取り、肉棒をすっすっと擦り、カウパーを味わおうと唇を被せる。
「くっくっく…大分うまくなったもんだ。褒めてやるぜ? この調子で精進し続けろ」
エラの裏の恥垢を絡め取る。見せつけるようにしなければならないだろう。限界一杯にまで舌先を突き出し、その頭は根元の根元から、れろぉ、れろぉ、れろぉっと何度も何度も往復した。やわやわと袋をもてあそび、もう片手でぎゅっと肉棒を握り、しこしこしこしこっと高速で動かす。
「よし。次はマンズリしながらしてみろ。くく…触ってみりゃあハッキリする。多分いつもより興奮してると思うぜ?」
熱い吐息を吹きかける。もう慣れてしまった匂いである。この匂いの持ち主がルイズのご主人様だった。片手で肉棒を支え、大きく開いた口で肉棒を咥え、鼻息の荒いルイズ。スリットが上手くほどけず、もどかしい手つきでショーツを摺り下ろす。
っはぁっ、はぁああぁぁあぁっ……な、なんでこんな匂いで安心するの? っく、臭いのにっ、ち、ちんぽの臭いなのにっ! はぁあぁぁぁっ…っぁぁあ……く、臭いのがいいわっ、臭いからいいんだわ……
触れてもいないのにその秘所は濡れていた。あとからあとから愛液は沸き出し、ひくひくと蠢いているような、そんな錯覚を覚えるほどに湧き出してきた。必要のなくなったショーツを勢いのままに投げ捨て、激しく自慰に耽りながら奉仕していく。
「どうだ、美味いか? くく…ルイズ、今の気持ちを正直に言え」
「! ぱはっ……はぁ、はぁ…っお、美味しいわ。っはぁっ、ち、ちんぽしゃぶるとメス汁が溢れてくるの…サイトっ、ち、ちんぽ汁美味しいわ……」
才人はニヤリと嗤う。このルイズの成長ぶりはどうだ?
露出調教を始めてから、ルイズは明らかに淫乱へと成長してる。蔑みの視線に対して堂々と胸を張り、部屋へと戻れば思い出す。そうして興奮して、自慰へと耽る有様になったのだ。
「くっくっくっ…そうか、そうか、そいつは良かった。じゃあ次だ、手を使わないでやってみろ」
「っはぁ…はぁ…っ、わかったわ」
才人は立ち上がる。それでルイズは頭の後ろに両手を回す。どんなことを要求されているか、それを悟ったので膝立ちになる。
「お、お願いします。口まんこ使って下さい」
限界一杯まで口を開き、舌を差し出し、微動だにしないよう気を付ける。ニヤリとした才人は「おう、使ってやるぜ?」と嗤い、そうして髪を引っ掴んだ。
髪ごと頭を動かし、喉の奥まで肉棒を突き入れる。乱暴に往復させ、えずこうともそんなことは関係はない。仮に声を出そうものならお仕置きであろう。何しろ膣が声など出すはずがないのである。
ぐっぽぐっぽぐぉっぽと、ルイズの頭はリズミカルに動く。
涎が垂れ、口元からはカウパーの糸を引き、それは地面へと落ちて染みとなる。そしてひたすらぐっぽぐっぽぐっぽとリズミカルに。ルイズは才人が「よし」というまで、この状態を維持し続ける。
動いたらお仕置きなのだ。オナホールと化したルイズはただひたすらに耐え、粗相をしないようするしかない。
「…………」
ワルドは声も出なかった。あんぐりと口を開け、ルイズの痴態に目を見開くしかなかった。
決して興奮しているのではない。ただただ唖然として見つめるしかなかった。
……ぼくは夢を見ているのか? あ、あのルイズが平民のモノを咥えているだと? いいように口を犯されてるのに動こうともしないだと? …………っく、薬か? だが、操られているようにはどうしても思えない……。
ぐちょぐちょと激しい水音が聞こえた。それはルイズが蜜壺を掻き回している音であって、ぐぽぐぽとした音は口元から出ていた。
息継ぎの音は甘い吐息交じりに荒々しく、お尻をフリフリしながら、ルイズはフェラチオへと熱中する。
そうしてそれが終わればオナホールだ。
薬で操られているのか? ならばここに現れる前からおかしくないと不自然だ。では脅迫されてやっているのだろうか? それではあれだけ熱中し、興奮していたのを何と説明すればいいかわからない。
……くっくっくっ、驚いてるみたいだが…見りゃあわかるってもんじゃないか? 出来なかった朝の日課をここでしろっていったんだ。つまりルイズは毎朝フェラしてるってこったろ? んでバリエーションをいくつか取得したってだけたろ? ったく、そんなことも貴族ってはわからないのかねぇ?
「さっ、とりあえずそんなもんだ。出しちまうから用意しろ」
「! ぱぁあああっはっ……! ……はぁ…はぁ……っ、ぺろぺろっ……だ、出して…そうだった。っはぁ…はぁ…っご、ごめんなさい、サイト。っ……い、今準備するから……」
唐突に解放されてルイズは驚いた。このまま才人は射精すると思っていたのだ。だが、目的を思い出したので荷物へと駆け寄り、戻ってきたその手には『破壊の杖』が握られている。
さあ、わくわくすんね? 男でもこの瞬間だけは楽しみなんだよな?
呆け方からして、そろそろ見せつけるのは頃合いである。ルイズは杖の持ち手を外した。そうして肉棒の先にセット完了。逆手に竿を握り、しこしこしこしこしこっと手コキする。
「くぅっ……! くく…思うんだけどマヌケだよな、まあ仕方ないんだけどな?」
準備が完了する。どぴゅるるるるるっと射精された精液は『破壊の杖』に充填された。才人はニヤリと嗤い、「始めろ」と顎をしゃくる。
「っな、何をするつもりだッ!」
ルイズは破壊の杖をすちゃっと構え、余分な空気を抜くべくピストンを押す。
っ、せ、精液をそんなものに詰めてどうするっていうんだッ!!
「ル、ルイズッ! 何をするつもりなんだ! こ、答えてくれっ! 答えるんだ、ルイズッ!」
才人は眼前に立って見下ろす。ニヤリと嗤いながら「“四つん這いになれ、ルイズの指示に従って動くんだ”」と命令した。
「……ふぅ、……ワルドさま、そのままじっとしていてください」
「! ま、まさか……よ、よせっ! や、やめろっ、ば、馬鹿なことをするなっ! 正気に戻ってくれ、ルイズッ!」
かちゃかちゃとベルトを外した。マントをめくりあげてズボンを露出させた。そしてぺろんと丸出しにし、眼前にはその筋の人間に堪らないお尻。流石は魔法衛士隊の隊長、鍛えられたその肉はしっかりと締まっていた。
っな、何故だ!? 何故身体が動かない!? こ、このままだとアレを入れられてしまうではないかっ……!!
「や、やめろっ! 何だってするからそれはやめろッ! っ頼むッ! た、頼むからやめろぉぉっっ……!!」
ワルドは必死になって訴える。だが、これだけ懇願してるのに、ルイズは構わずお尻を割り開いていく。
「!! た、たの……」
もう何がなんだかわからない。それでも「やめろやめろ」と繰り返すしかなく、気が付けばひんやりとした嘴がセットされ
「!? う、うぉおぉぉぉおおぉぉぉぉおぉぉっっっ……!」
注入開始であった。ルイズはぎぅうっとピストンを押し切り、中身を入れきってしまう。そうしてからぬぽっと音をさせてソレを抜く。
「……ごめんなさい、ワルドさま。でも、もうこれで一生ご主人様には逆らえないから。……昔は王子様だと思っていたわ。でも、これからはわたしの奴隷だから……」
悲しそうな声だった。ルイズはワルドの境遇を憐れんでいる。命じられてしまえば、どうしたって従わなければならない。それはルイズだって同じだ。何故ならご主人様とは絶対の存在なのである。
「くっくっく…ルイズのいうとおりだぜ。これからオマエはルイズの奴隷だ。くく…とりあえず身分ってモンをこれからしっかりと教えてもらうんだな?」
……言い返す気力が持てなかった。絶望感に包まれて、息を整えることしかできなかった。
才人を平民と侮ったばかりにこのざまである。メイジとして努力を重ね、スクウェアまで上り詰めたというのに、そんなものは何の役にも立たなかった。どれだけ抵抗しようとしてもピクリとも身体は動かず、命令されればそのとおりに動いた。
「さっ、“ワルド、これからはルイズの命令は俺の命令だと思え、どんなことにも従ってもらう”。……よし。そんなわけだ。俺はもう行くから、身分ってモンを弁えさせておいてくれ」
「……わかってるわ。それでサイト、どのくらい言い聞かせておけばいいの?」
「ふむ……そうだな、キリ良く五回ってところか。やりやすいようにしといてやるから頑張ってくれ」
才人はワルドの髪を掴みあげる。そうして顔を覗き込むとニヤリと嗤う。“五回”とは何だろうとワルドは思ったが、どうせろくでもないことなのだろう。
「…………さて、ワルド」
才人は去っていった。それを見送ったルイズはへたり、座り込んでいるワルドへと語り掛ける。
「ふぅ……サイトはね、女王様として振る舞えって。ギーシュみたいにワルドを扱えって言っていたわ……」
ルイズは懐かしむような口調で青空を見上げる。ワルドは一体何を言っているんだと、悪い予感に怯えながらも、ルイズの方へと振り返る。
「だからね、ご褒美を教えてあげる。しつけも大事だけど、まずはご褒美をあげる。これから戦場に行くんだから、死んでも悔いのないよう、ご褒美から奴隷の身分を教えてあげるわ」
ルイズは見慣れないものを持っていた。
がさごそと何かを探る音は聞き違えでなかったのだ。ルイズはその手に奇妙な物体を握っていた。それは黒い革で出来ているようであり、棒状のものをくっつけていた。
……あの可愛かったルイズはもういないんだな……。
こんな状況に陥ってしまえば、それをどのように使うか、それは嫌でも予測できるだろう。
野望の果て、たどり着いたのは奴隷だった。死は覚悟していたが、こんな決着となってしまえば、もう笑って受け入れるのも一つの選択かも知れない。
くっ、くくくっ……ルイズはもう身も心も、あの平民の奴隷になってしまっている。そしてこれからは僕もその一員ってわけか……。
ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。聖地にこだわり、待遇への不満もあってレコン・キスタへとその身を投じたグリフォン隊の隊長。がっくりと首を落とし、敗北を認めざるを得なかった。
◇
処分を終わらせた才人は宿へと戻る。ワルドについては、ルイズに任せておけばいいだろう。これからじっくりと身分を教えてくれるに違いない。
「さてと、モンモランシー」
入口ではモンモランシーが控えていた。
「くく…夫婦で経営してるって話だったよな、準備はもう出来てるか?」
「……出来てますわ。縛り上げて、猿轡を嵌めさせてます。今は泊まっていた部屋に押し込んでありますわ」
「そっか、そっか、まあ単なる保険なんだからそんな顔すんなって。支配して、忘れさせたらそのまんまだからさ、これまで通りに生活してくさ」
「……わかってますわ。単なる保険ですものね……」
モンモランシーは神妙な面持ちだった。
昨晩、ワルドをからかおうとサイレントなしでキュルケを責めた。大丈夫だとは思うが、噂になってしまう可能性は否定できない。それともう一つ、トリステインを裏切っていた疑いが濃厚のワルドだ。そのワルドが指名した宿だったので、連絡員などで宿の主人は仲間の可能性がある。万が一を考え、才人はこの宿の夫婦を支配し、尋問することにしたのである。
「……くく…で、本命の方はどうだ? 準備の方はどうなってる?」
「……そちらも大丈夫ですわ。ギーシュに使ったのと同じ薬を使いました。念の為に縛り上げて、今はベッドで眠ってますわ……」
才人は大きくうなずいて満足の意を示す。
「よし。んじゃ、まずは夫婦の方から片付けていくぞ? それが終わったら本命といく。キュルケとマチルダ、それからギーシュはどうしてるんだ?」
「キュルケはタバサのところにおりますわ。便女とギーシュは万が一に備えて周囲を警戒しています。ですから外にいて、この宿にはおりせんわ」
「くく…そうかそうか、んじゃ、これを渡しておく」
才人は『破壊の杖』を手渡した。
「まっ、ワルドに一回使っちまったしな、一応水洗いしておけ。洗い終わったら二人を支配する」
「……わかりました」
才人はニヤリと嗤う。オスマンから正体を聞きだしていた。
「んでメシ食ったらタバサだ。くく…不確定要素は潰しておく必要があるしな?」
「……わかりましたわ、ではそのようにいたしますわ」
奴隷として嬲るには不足である。故に才人はこれまで放置していた。
だがマチルダの実力をバラし、宿でキュルケに嬌声をあげさせるなど、その正体の一部を晒してしまった。ならば支配しておいたほうが良いだろう。手駒としてなら充分に価値があるのだ。
……王位争いに負けた王弟の娘ねぇ……、まあどんな事情で留学してたのかしらんが…偽名で身分を隠してるってのは、後ろ暗いことがあるってこったろ?
タバサ。本名シャルロット・エレーヌ・オルレアン。雪風の二つ名を持ち、風竜を使い魔とする風系統のトライアングルメイジ。この少女がこれからどうなっていくのか? それはこれから明らかになる。