どっかと椅子に腰を下ろし、両脇に奴隷を抱え、才人はにやにやと楽しげに笑っていた。そして一方のギーシュだが部屋の中央で後ろ手に縛り上げられている。
下半身を丸出しにされ、シャツを手首まで下ろされ、半裸の情けない状態である。それでも何とか身を起こしていた。憎むべき才人を睨み付ける事で、屈辱に耐えようというのである。
……さあて、始めるとしますかね? くく…そんな睨み付けてくれるなって。おいちゃん、怖くて怖くてちびっちまうだからよぉ……。
才人はギーシュへの説明をしていくことにした。忠実な奴隷を見せつけ、これからの運命を突き付けてやらなければいけないのだ。
いったいギーシュはどんな反応を示すのであろうか? なんとも心躍ってくる才人であった。
「くっくっく…そんなに睨むなって。これはさ、ギーシュ。オマエのためを思ってやったんだぜ? つまり純粋な好意ってやつだ。そんな怒る事はねーじゃねーか」
「!っき、きききみはふざけてるのかねッ!? これが僕のためだと? っいったい何処が僕のためだと言うんだねッ!!」
酷い言われようだと思った。これからのことはともかく、今までしてきたことは才人にとっては本当に純粋な好意なのだ。
「ん? だってそーじゃねーかよ。そんなおっ勃ててよ。嬉しかったってことじゃねーのか? それによ、この二人の裸を見たくはなかったってのか? それを見せてやったんだ。好意じゃなくて何だっていうんだ?」
ギーシュはその指摘にぐっと言葉に詰まってしまう。一面を取り上げれば、確かにその通りだった。だが
「っっふざけるのもいい加減にしたまえッ! それなら何でわざわざ縛り上げるのが僕のためになるんだねッ! どうしてケティを使ってまで僕を騙す必要があるんだねッ!」
それは酷い詭弁と言うものであろう。都合の悪い一面だけしか取り上げていないのだ。だから態勢を整えたギーシュは才人を非難していく。
素直に聞いてやろうと思っていたのだが、あまりの身勝手な言い分に我慢ならなくなったのである。
「サイトッ! きみは恥ずかしくないのかねッ? レディをそのように扱って恥ずかしいとは思わないのかねッ! 貴族である僕に対してこんなことをして、ただで済むと思ってるのかねッ!」
だって当たり前ではないか。惚れていた女に二人掛かりで誘惑され、片方は乳房を押し付けてくるし、片方は肉棒を擦ってきたのである。勃起してしまって何が悪いと言うのか。
反応してしまうのが健全な男と言うものであろう。
「それにだッ! まさかとは思うがモンモランシーもケティもだっ! 彼女たちをそんな風に扱っているのは、僕に対して逆恨みしたっていうんじゃないだろうねッ?
っもしもそうならサイトッ! きみはクズだ! 必ずや殺してやるからそう思いたまえッ!」
それなのにそんな都合の悪い一面だけ取り上げ、それをギーシュのため、純粋な好意と言い切る。そしていやらしく嗤って悪びれない態度とくれば、それはギーシュの冷静さを奪うのに充分だった。
だから憤怒のあまりに真っ赤な顔になってしまう。後先を考えないで激高してしまったのだ。
……くっくっくっ…相変わらず沸点が低いと言うか、単純な奴だぜ。
冷静さを装ったギーシュの仮面。それはほんのちょっとの指摘で脆くも剥がれてしまった。なんとも気の短い奴だと、才人としては呆れざるをえないであろう。
何故ならだ。縛り上げておかないとギーシュは話を聞きはしなかったであろうし、そして杖を取り上げておかないと、魔法で抵抗しようとしたであろう。
奴隷の仕上がり具合と、運命を説明しなくてはならなかったのだから、これは仕方がないと言うものではないか。
だが、これは才人にとって好都合な展開と言えた。怒気の感情が強ければ強いほど、耐えきれなくなったときの絶望は深いのである。
「ほっほう…なるほどねぇ。そんな風に思ってたわけだ。ならその誤解を解かなくちゃならないよなぁ?」
「っ…………!」
ギーシュは恐ろしい形相で睨み付けてくる。才人がカエルの面に小便とばかりに何も堪えていないのだから、それは当然の反応であった。
そしてそれどころかにやにやと嫌らしく嗤い掛けてくるのだから、ギーシュは怒りのメーターを振り切ってしまった。糾弾するのさえおっくうになり、ただただ真っ赤になって才人を睨み付ける。
っこの平民っ! 杖を奪っているからっていい気になっているんじゃあないッ! この場は良くても、僕を解放するときには返さざるを得ないんだッ!
そうしたらだ、サイトッ! 絶対に殺してやるッ! 決闘で負けてしまったのは油断してしまっただけだと、そう証明してやろうじゃあないかねッ!
さあ、正真正銘ここからだった。才人もまたニヤリと笑い返し、殺気を隠さないギーシュを受け流す。今は相手にする必要がないのである。
これからギーシュに運命を突き付けなければならないだろう。そして奴隷を見せつけることによって、その証明をしていかなければならないのである。
「くくく…モンモランシー、説明してやれ」
だから才人はモンモランシーに声を掛ける。自身では説明しないことにしていたのだ。そして当初の予定ではケティに説明させようと考えていたのだが、才人はその役目をモンモランシーにさせることにしたのだ。
何故なら……だってその方が面白そうではないか? より執着している女から説明させた方が、ギーシュの屈辱と絶望は大きいのではないだろうか? そうした方がもっともっと楽しいというものではないだろうか?
「……はぁぁ…ン…はぁ…はぁ…んんぅ……、ギーシュ。ご主人様のご命令ですわ。っふぅぅ……答えてあげるから、質問してきなさいな……」
ご主人様の命令であった。モンモランシーは才人の身体から名残惜しげに離れていく。散々に悪戯されてしまい、それなのに肉壁を引っ掻いたり、クリトリスを摘ままれたりといった決定的な愛撫はなされず、その身体は欲求不満でうずいている。
だからモンモランシーはいらだっていた。中途半端に責められたまま、これから説明をしなければならない。モンモランシーにとって、これはすべてギーシュの所為というものだったのだ。
「っ……モ、モンモランシー……き、きみは、サイトのことをご、ご主人様と呼ぶのかね?」
「……そうですわ。普段はサイトと呼ばせて頂いてます。ですがこのような時にはけじめをつけなくてはなりませんわ。…サイトはご主人様。何の問題もありませんわ」
なんと下らない質問をしてくるのだろう? まだ現実が認められないのであろうか?
モンモランシーのいらいらはつのる。だからギーシュのことを嫌そうに、そして軽蔑の視線で見るのである。
っふぅぅ……ん…、命令なのですから仕方ありませんわね。わかりやすく説明しなくてはなりませんわ……。
モンモランシーは正面へと回り、腰に手を当て、足元のギーシュを見下すように立った。
そうするとどうなるであろうか? 座り込んでいるギーシュなので、その目線と股間の高さが同じくなるであろう。じっとりと濡れ、ランプの灯りでテラテラ光ってしまう秘唇である。だがモンモランシーは隠そうとは思わなかった。
ギーシュなんていりませんわ。でもこれから主人となるのですから、しっかりとしつけなくてはなりませんわね……。
そう、何故なら才人はギーシュの管理をモンモランシーとケティに丸投げすることに決めていた。使うつもりがないのだから当たり前であろう。
だからモンモランシーとしては主人になるのだから奴隷に対して気後れしてもしょうがない。裸を見られたくらいで恥ずかしがる主人など、そんなことはありえないのだ。
っく……見たくない。見たくないよ、モンモランシー。僕はそんなきみを見たくはなかった。っ……ちくしょう! 全部サイトの所為だ! いったいどうやって、二人をここまで変えてしまったんだッ!
だがギーシュにとっては違った。かつてとのあまりの違いに耐えきれなかった。才人をご主人様と呼ぶことにまったく躊躇いを覚えず、そして堂々と全裸に首輪の姿で恥ずかしがっていないのである。
だから辛くて辛くて、それでどうしても正視できなくなった。顔を伏せ、がっくりと肩を落としてしまう。とてもではないが質問を続けていく気力などもう無くなってしまった。だが
「!っギーシュ! 答えてあげるから質問しなさいって言ったでしょう! 顔を伏せるなんて何を考えてるのよッ!」
これはモンモランシーにとって我慢できなかった。何故ならギーシュはこれから自分の奴隷となる。更には自らの主人である才人が、やり取り興味深そうに見ているのだ。
だからモンモランシーはギーシュの顎を掴むことで強引に顔をあげさせた。そしてそのまま手加減なしに引っ叩いた。
「!っモ、モン…ぐぁあぁあぁぁぁぁぁっ……!」
縛られ、受け身の取れないギーシュ。バッシィィンとそのまま床へと叩きつけられる。全身を強く打って呼吸が止まる。そしてそのあとは内部からの激痛。だが、それよりもモンモランシーの行動が信じられず、茫然として仰ぎ見る。
「このッ! 早く立ちなさい! 寝た振りなんてしてるんじゃありませんわッ!」
モンモランシーはギーシュの髪を引っ掴んで身を起こさせる。そう、この程度でモンモランシーは許すわけにはいかなかったのである。
「っごあはぁっっ! っが、がはッ! っ~~モ、モンモランシー! 一体なにを……っ!」
何故なら面倒な説明をさせているギーシュなのに、ありがたみが全く感じられない。その所為で自分は悶々とした状態で才人から引き離されてしまった。
だから膝立ちまでにしたギーシュに対し、モンモランシー往復ビンタをかましていく。するとギーシュはえぐっ! ごほっ! と叩かれるたびにくぐもった悲鳴をあげる。
「!づっ~~がああぁぁっ……! や、やめてくれっ! い、痛いんだよっ、モンモランシー!」
モンモランシーは手を休めない。この機会に徹底的に身分を叩きこまなくてはならないだろう。だから彼女は顔の形が変わるまで殴り続ける。この程度の試練はどの奴隷だって受けてきたのだ。
っっ男のくせになんてだらしない! なんてみっともないのかしらっ!
モンモランシーは口元を切って、それで血しぶきが飛ぶようになっても手を休めない。「やめてくれ」とか細い声で哀願されてもそれを無視した。
恰好ばかりつけてイザとなったら泣き事ばかりのギーシュにいらついてしまった。そして――
「!ひいいっっ、ぎっ、ぎぎゃがぁあぁぁあぁぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁッッ……!」
最後には乱暴に床の上へと叩きつけ、股間の上へと足を乗せる。恐怖によって縮まってしまった肉棒ごと、全体重を掛けて踏みつけたのである。
っふんっ! いい気味ですわ! 奴隷は奴隷らしくしてなさいなっ!
モンモランシーはそのままぐりぐりと踏みつけ続ける。こりっこりっと棹が転がり、その度にギーシュは「ぎぎゃあああっっ」と悲鳴をあげる。
「……うるさいですわ」
「!げぇぇがっ、ぎよぇぇぇぇぇえええぇぇっっ……!」
足の目標を変える。それは棹ではなく、その根元の袋へと標的を変える。そしてそのまま踏みつけた。ギーシュはあまりの苦痛から失禁し、七転八倒で辺りを転がりまわる。
部屋のそこらに小便をまき散らしてしまうが、モンモランシーは気にしない。ぐりぐりと踏みつけてその行き先を調整し、才人の方へといかないように気を付けるだけだ。
そしてギーシュ。生憎と縛られている身の上であった。いくら転がり回ろうとも限界があった。モンモランシーがひょいと足先を動かすだけで、その身体は押さえられてしまうのだ。だから――
「……うるさいって言ってるんですわ。まだわからないのかしら?」
失禁の勢いが弱くなると腹の上に足を乗せ換え、ぐりぐりと体重を掛けながらモンモランシーは言い放つ。つまりこれ以上騒ぐようなら今度は胃の中身を吐かせてやると、ギーシュにそう示唆してみせたのである。
っがっ、っがああっッ…~~~~ッモ、モンモランシー! っぐつ、ぐぉぉお~~き、きみはいったい……!
ギーシュは何がなんだかわからなかった。だが、悲鳴をあげるのが拙いことだけはわかった。いきなり豹変したモンモランシーに戸惑い、そして怖くて怖くて堪らなかった。
それでも、とにかく悲鳴をあげるのは拙いのはわかった。モンモランシーはうるさがっているのだ。なれば声をあげれば容赦なく踏みつけられるであろう。
ギーシュは歯を食いしばって堪えきれないうめきを抑え、そしてぶんぶんと頷くことで「わかった」とアピールする。今はとにかく、それしか方法がないと思った。
「……ギーシュ。あんたに任せてたら下らない質問ばかりしそうですわ。それはそれでご主人様は楽しまれるかもしれませんが、それでは手間が掛かりすぎますの。ですからわたしの方から必要な事を説明していくことにしますわ」
ギーシュはぶんぶんと首を振った。何といってもモンモランシーはまだ足を乗せたままなのである。それ以外に方法はなかった。
……いやいや、一瞬俺まで縮みあがっちまったぜ。…ホント、女ってのは怖いねェ……。
ちらりと振り向いたモンモランシーが同意を確認してくる。才人に異存はなく、ケティの身体をまさぐりながら、鷹揚にうなずいてみせる。
なんでかわからないが、モンモランシーは機嫌が悪いようだ。任せておいたままで、必ずやいい仕事してくれると思う。
っさ、どうなる? この流れだと…もしかして心が折れちまって、唯々諾々と奴隷の立場を受け入れちまうか? それともやっぱり、最後には無駄な抵抗で罵りでもしてくるか? くっくっく…いったいどっちなんでしょうね?
才人の興味は尽きない。一体どんな決着になるんだろう? わくわくしながら続きを見る。果たしてギーシュは最後まで心が持つであろうか? なんとも興味深いと、そう才人は思うのである。
モンモランシーは汚れてしまった足でギーシュの腹を踏みつけ、なすりつけ、それからその足をすっとずらして解放させる。このあとを考えればこうしておく必要があった。何故なら恐怖で強制させて答えさせるのではなく、できるなら自主的に答えてもらいたいのだ。
「ふふふ……じゃあギーシュ。これからのあなたの立場を説明していくわ」
モンモランシーはにっこりと微笑んだ。足を退かしてもギーシュはおとなしいままで、それが彼女の機嫌をよくさせたのである。
それに何と言っても勝手に進めたのに、才人は咎めるどころかニヤリと笑ってうなずいてくれた。これならもしかしたらご褒美の対象となるかもしれない。
ああ…ご褒美よ、ご褒美。頑張ってしつけなくちゃいけないわ……。
あの圧倒的な快楽に余韻としてのありえない幸福感。もう、一度味わってしまうと病み付きになってしまう。それはもう、想像するだけで痺れてしまうほどだ。
身体がこなれていくに従い、モンモランシーはご褒美の甘さを味わえるようになってきている。
だからもしかしてと思ってしまい、そうなるともう我慢ができなくなってしまった。そしてそれは今回のミッションをやり遂げれば味わえるかもしれない。そうなればだ。
更に気分が良くなったモンモランシーはにんまりと嗤う。
っっぐううっ……モ、モンモランシー……。た、立場って一体なんなんだ? っそ、それにだ。ぐむっ~~~っっ、ど、どうしてそんなに嬉しそうなんだ……。
ギーシュはとにかく訳が分からなかった。才人の目的は奴隷を見せびらかして自慢する事ではなかったのか? 惚れた女を奴隷にしたと、土下座させた意趣返しをしたいだけではなかったのか?
それなのにいきなりモンモランシーは豹変し、自身の立場を説明するという。
平手打ちばかりか容赦なく己のシンボルを踏みつけ、あまりの苦痛にのたうちまわることになり、失禁までさせられたというのにそれを気にする素振りさえ見せず、これから自身の立場を説明していくのというのである。
っっな、なにを言うつもりなんだ? づっぐぉぉぉっっ……っ、はぁ…はぁ…た、立場ってなんなんだい? っづ…っく、な、何を言うつもりなんだい、モンモランシー……。
とてつもなく嫌な予感しかしない。なにやらとんでもない勘違いをしていたのかもしれない。ギーシュの疑心は膨らんでいく。
そう、なにかとんでもない勘違いをしていたのかもしれないと、ようやくにしてこの時ギーシュは気が付いたのだ。
「ではギーシュ。よく聞きなさい」
モンモランシーが嗤っている。だが、ギーシュにはおとなしく聞くより術がない。痛みを堪える為に、その場所を押さえることすら、今のギーシュにはできないのである。
歯を食いしばり、鼻で呼吸することによってうめきを抑える。これから何を言われるのかまったく予想がつかず、閉じようとしてしまう目蓋を堪えて見上げるしかなかった。
そしてモンモランシーはそんなギーシュに満足した。今後の説明を始めることができると、そう判断をした。だから当たり前のことを突き付けたのである。
「うふふ……あんたはね。これから一生、わたしとケティの奴隷として生きていくのよ」
瞬間、ギーシュはモンモランシーが冗談を言っているのだと思った。だってそうではないか。想像もしてなかったことを、嗤いながら言ってくれたのだ。
「だからね、ギーシュ。これからそのちんぽの管理は私たちがやるわ。もう女に使う事はないと思いなさいな」
ギーシュはこの時、痛みを忘れてしまう。なにやらじんじんと熱のある場所があるように思えるが、関係がない。あまりの言葉に呆けてしまい、まじまじとモンモランシーの表情を確認してしまう。
モンモランシーは口の端をニンマリと釣り上げていた。
「当然のことよね、ギーシュ。奴隷なんだから当たり前よ。まったく、だから何度も聞いてあげたんじゃない。これが最後のチャンスなんだって。
ああ、もう、せっかくのご主人様のご好意だったのにね。一回くらいは使わせてあげようって。……ギーシュ、もうあんたはちんぽを使う必要がないわ」
やれやれと頭を振るモンモランシーだった。だが、ギーシュはそんな彼女を見ているようで、見ていなかった。
ショックが大きすぎてどこか他人事のように聞こえ、考えが纏まらなくて聞き違えてしまったと思い込んだ。
……は…はははは……、僕が奴隷って冗談を言うもんじゃあないよ。……お、おかげでモンモランシー、何を言ってるのか聞こえなかったじゃあないかね……。
だからモンモランシーがもう一度言ってくれないかと期待して、それでまじまじと見詰めるより方法がなかったのである。
◇
ギーシュは己の耳を疑った。どう考えても冗談か空耳だとしか思えなかったからだ。だがモンモランシーはやれやれと頭を振った後はニンマリと嗤い、そうしてそのあとは一転して厳しい視線で睨んでくる。
きょろきょろと辺りを窺ってみた。すると才人は興味津々で覗き込んできているし、ケティは才人の胸に身体を預けながら、幸せそうに微笑んでいた。
状況の示すのは“本気”だった。モンモランシーは自分を自身とケティの奴隷とし、今後は肉棒の管理をすると言っている。
……じょ、冗談じゃあ、な、ないのかね? そ、空耳でもないっていうのかね?
仕方のないギーシュはモンモランシーが本気であることを認めた。認めざるをえなかった。何故なら自分を除いて驚愕の表情を浮かべているのはいなかったのである。
「っっふざけるなっ! そんな馬鹿なことが認められるわけがないじゃないかねッ!」
ギーシュは思った。モンモランシーもケティも、洗脳されるか薬でも飲まされるかして狂ってしまったのだ。これはもう、弱みを握られて言わされているとかのレベルではない。
才人によって狂わされ、正気を保っていないのだと、そう判断せざるをえなかった。
「っモンモランシー! きみは狂ってしまったのか! そんなことが認められるわけがないじゃないかッ! 馬鹿も休み休み言いたまえッ!」
そしてだ。いくら狂わされたのだとしても、これはもう限度を超えているだろう。例え被害者であろうとも、怒りをぶつけるのになんらの躊躇も覚えない。
だって酷過ぎるではないか。一生奴隷となって生きろと言われ、肉棒の管理をするなど、これはもう我慢の限度を超えている。
冷静に考えれば才人に怒りをぶつけるのが正しいのかもしれない。だがギーシュの沸騰した頭では、直接言った相手に怒りをぶつけるよりしょうがなかったのだ。
「……ギーシュ。うるさいって言ったのがまだわからないのかしら? それからわたしはあんたの主人になるって言ったはずよ? ……どうやら、まだ、身分がわかってないみたいね……」
「!っ来るな! 来るんじゃないッ! モンモランシー、きみは狂ってしまったんだ! 狂わされてしまったんだよ! だ、だから僕はきみを恨んだりはしないッ! っだからモンモランシー、来ないでくれっ!」
冷たい視線で睨んでくるモンモランシーが怖い。とてつもなく怖い。だが、奴隷などとてもではないが認められない。もしこのまま話が進んでしまえばそうなってしまうかもしれない。
そしてギーシュには思い付かなかった。取りあえず頷いておいて、解放されてから約束を反故にするというのも、恐慌に陥った頭には思い付かなかった。
だからギーシュは縛られた不自由な身体で必死に後ずさり、そして股間の痛みを堪えて足を出した。それでもって精一杯の抵抗をし、モンモランシーを近づけたくなかったのである。だが
「……仕方ないわね。ケティ、手伝ってもらえるかしら?」
「あ、はい。モンモランシーさま」
モンモランシーはケティを手伝いに駆り出すことで解決しようとする。下手に取り押さえようとすれば手間が掛かり、最悪は転んでしまうかもしれないと思ったのだが、二人掛かりならわけはない。
協力して取り押さえ、そのあとケティに片方の足を持たせ続ければ、後ろ手に縛られているギーシュにはどうしようもなくなってしまうのだ。
ニヤニヤ嗤う才人から「いってこい」と送り出されたケティ。ご主人様のお役に立てるし、それにモンモランシーは尊敬すべき先輩である。手伝えるのは嬉しく、躊躇いなどあるはずもない。
「っひっ、っぁあぁぁあぁぁ……、や、やめてくれ、モンモランシー。お、お願いだ……」
そうして、ギーシュは取り押さえられてしまったのである。
「モンモランシーさま。ギーシュさまをどうなさるおつもりですか?」
とんでもない不手際を才人に晒してしまったと、モンモランシーは怒りに震える。一体ギーシュをどう扱うべきだろう?
取りあえずだ。ギーシュなぞを自分の仲間が“さま”付けで呼ぶなど我慢できるであろうか? それは否、断じて否である。
「……ケティ。まだ説明の途中だけど、もう“さま”はいらないわ。呼び捨てにしなさい」
だから片足を抱えるケティに命じた。ケティは素直に「はい、モンモランシーさま」と応える。チラリと確認した才人が嗤っていたのだから当たり前なのである。
ギーシュはもうそんなやり取りだけで歯の根が合わない。がちがちと震え、怯える視線で見上げるしかない。
っはぁあぁっ、っぁあああああああああっ……! ぼ、僕はこれから、どうなってしまうんだ……。
モンモランシーが怒っているのがわかる。オーラが立ち上っているかのように、途方もなく怒っているのがわかるのである。
つい先ほどは視線をずらしてしまったくらいで顔の形が変わるほどに殴られ、肉棒を容赦なく踏みつけられてしまった。ならば今回はどうなってしまう?
口ごたえをし、狂っているとまで言ってしまったのだ。想像するだに恐ろしい目に合わされるに決まっていた。
……くっくっくっ…こいつは面白え。モンモランシーはどうするつもりなんだ?
才人はモンモランシーの怒りぶりに興味深々である。何故これほどまでに怒っているのであろう? それはわからないが、予想以上の展開だった。これならもしかして、本当に唯々諾々として奴隷の身分を受け入れるかもしれない。
「……ギーシュ。黙ってわたしの話を聞きなさい。答えなくてもいいわ。ただ黙ってわたしの話を聞きなさい」
ギーシュはぶんぶんと頭を振る。選択肢など他になかった。今のモンモランシーは危険である。ちょっとでも逆らおうものなら、容赦なく踏みつけてくるに違いない。
ようやく治まってきた股間の痛みだがまだまだ酷いし、この上から重ねられようものなら気が狂ってしまうだろう。ごくりと生唾を飲み込み、逆鱗に触れない様に注意しなければならないと思ったのだ。
っっよくも恥を掻かせてくれたわねッ! ギーシュ、覚えてらっしゃいッ!
そしてモンモランシーだが、表面上の冷めた視線とは裏腹に怒り狂っている。何故なら奴隷をしつけられていないのを才人に見られてしまったのだ。せっかく任してくれたというのに、これでは台無しではないか。
だが、ここで思い知らすわけにはいかない。でないと話が進まない。ぐっと怒りを堪え、モンモランシーは淡々とギーシュの境遇を説明していく。なに、あとでたっぷりと思い知らせばいいのだ。ここはぐっと怒りを抑え、ギーシュへの説明を優先すべき。
っ……モ、モンモランシー……。ほ、本当に正気なのか? っ、やっぱり怪しげな薬でも飲まされて、狂わされてしまったのじゃあないのかい?
そしてモンモランシーは説明を終える。全ての説明にいちいちうなずいていたギーシュだったが、その顔色は真っ青になってしまった。それでもいちいちうなずくしかなかった。
っだ、だってだよ、きみ。し、信じられるわけないじゃないかね……
そう、モンモランシーは本気だった。鋭い視線でギーシュを睨み、返答にうなずくのが遅れる素振りを見せようものなら、それはもう明らかにイラついていた。
素直に、黙って、モンモランシーの話を聞くよりしょうがなかったのだ。
「さあわかったかしら? わかったんなら教えられた通りにやりなさい」
モンモランシーはぐいっと股間を突き出していく。それを見たケティはギーシュの足を解放し、「ギーシュ、モンモランシーさまのご命令ですわ」と、正座へとなるようにうながしたのである。
だがあまりの内容だった。ギーシュは躊躇い、逡巡してしまう。
「ッ早くしなさい! ご主人様がお待ちなのよッ!」
するといらだっているモンモランシーはギーシュの髪を掴む。顔を上げさせ、そして往復でビンタを食らわしていく。既に口中を切っているギーシュは辺りに血をまき散らしてしまうが、モンモランシーは気にしない。何故ならご主人様が見ているのである。
モンモランシーはこれ以上待たせるわけにはいかなかった。これ以上の不手際を見せるわけにはいかなかった。だからついつい力が入り、それは全く容赦のない張り手となってしまった。
バジィイイイン……! と頬が鳴るたびにギーシュは明後日の方向を向き、むんずと髪の毛を掴み直すとパラパラと髪の毛が落ちる。五回、六回…。そして八回、九回…。
涎と血しぶきがその度に飛び、憤怒のモンモランシーは手の感覚がなくなるまでギーシュを殴った。
「ッげええっ、か、かがあぁっッ……ぅぐ…モ、モンモランジーざま! どうがぼぐを奴隷どじで認めてぐだざい! な、何でもやりまふっ! で、でふからどうがっ、ぼぐはモンモランジーざまの奴隷とひて認めでぐだはいッ!」
「……そう。それでいいんですわ。やっと素直になりましたわね。認めてあげるから忠誠のキスをなさいな」
ああ、やっとギーシュが納得したと、穏やかな声になったモンモランシーが先を促す。文字通り血を吐く思いで屈辱の言葉を口にしたギーシュだが、やっぱり狂ってしまったんだと思った。
元凶である才人をついつい睨みたく思ってしまうが、慌ててその考えを打ち消す。バレてしまったらモンモランシーが何をするかわからない。
っ……い、今だけだ! とにかく今を乗り切らないと……!
とにかく今日に限っては完敗を認めるしかないと思った。才人の罠にまんまとかかってしまったのだ。しかしである。明日を覚えていろと、ギーシュは復讐を誓う。
どうやったかは知らないが、二人もの貴族を狂わしてくれた才人は危険であった。貴族の一員として、ギーシュには平民の反逆の芽を潰す義務がある。そのためには従順に振る舞って屈辱を堪えるしかない。そうして解放されたなら、その足で学院長室に行かなければならないと思ったのだ。
「っ……モンモランジーざま。ギージュはじょうがひのじゅうへいをじがひますふ……」
目の前にはすっかりと潤んでしまっている恥丘がある。そしてモンモランシーが髪を掴んだ。逡巡してしまったなら、またもや殴られてしまうだろう。
選択の余地はなく、ギーシュはあこがれていたモンモランシーの秘口へとキスをした。酸味としょっぱさが傷口へと沁みる。
直ぐにも口を離したいが、モンモランシーは頭を押さえつけたままだった。仕方のないギーシュは口づけたままに時間を数える。モンモランシーが「よし」というまでキスし続けなければならないのである。
「……うふふふ……さ、飲みなさいな……」
「!っっげへっ…が、がはっ……はぁ…はぁ……っ、ど、どうほ、モンモランジーざま……」
説明では「ギーシュ、忠誠のキスのあとはわたしのおしっこを飲むの。うふふ…これからのあんたの仕事よ」と言われた。選択の余地がなかったギーシュは青褪めた顔でうなずいていた。
そして主人となるモンモランシーとケティの顔を見上げ、口を限界まで開け、すべて飲み干すようにと言われていたのである。
「!っ……が、がばばっ……! ぐっ、がぁ~~ッ、っげっ…げばばばばっ……!」
しゃぁぁぁぁぁっと顔全体へと飛沫が降りかかってくる。口元を中心に血が洗い流され、代わりに傷口へと塩が刷り込まれたようなものだった。とにかく沁みる。もう勘弁してほしいと訴えたい。
「っっご、はンぐぅぅ~~ごっ、ごくっ…~~ご、ごくごくっ……!」
だが、それでもギーシュにそんな選択はできなかった。説明された通りに小水を飲み続けるしかない。
何故なら相変わらず髪を掴まれたままだで顔を離せなかった。そしてもし拒否をして口を閉じようものなら何をされるかわからないのだ。
そしてだ、そもそも飲み続けないと溺れてしまう。だからギーシュはどうしたって飲み続けるしかなかった。屈辱だろうと、傷口にいくら沁みようと、ギーシュには選択の余地はなかったのである。
……くくく…いいねいいね。ギーシュの奴屈服しやがった。自分から奴隷だって認めやがったぜ……。
何を考えているのかはわからない。だが、ギーシュはモンモランシーへと自らの言葉で「奴隷にしてください」と訴えた。これは心が折れているのだろうか?
五分五分だろうと才人は判断する。従順に振る舞っているが、縛られている上に実際に暴力を振るわれているのだ。才人が相手なら心に秘めているものがあるだろうが、モンモランシーだ。
惚れていたレディだから自己陶酔して奴隷を受け入れた可能性も、ないではない。
「……さ、次はケティに誓いなさい。ギーシュ、あんたは以前言ってたわよね? 永久の奉仕者だの、僕は君のためなら何でもするだの。
うふふ……だからね、ギーシュ。これから一生を賭けてそれを証明していくのよ」
モンモランシーが離れていく。目へと小水が入ってしまい、痛くて開けられなかったギーシュにはそれを見ることが敵わない。だが髪を離されたのだから、おそらくモンモランシーは離れていったのであろう。
このチャンスにとごほごほとえずいて呼吸を楽にしようとし、首を振ってしぶきを取ろうとする。モンモランシーにしぶきを掛けてしまったら、どんな目に合うかわからないのだ。
「っ~が、ががはぁぁッ…はぁ…はぁ…かっ、…けぼっ、ごっ~~ッ、はぁ…はぁ…はぁ……」
そうしてギーシュがやっとのことで目を開けると、ぼんやりと見えたのはケティの股間だったのである。
「さ、ギーシュ。わたしにも忠誠を誓って下さいな」
「っ……ゲ、ゲティざま。ば、ばんでもはりまふがら、ぼ、ぼぐを奴隷どしで認めでぐださい……」
断ると言う選択肢はなかった。だからギーシュは首を差し出していく。するとケティはその髪を引っ掴み、秘裂へのキスを強要する。ケティの股間もまたねっとりと濡れていて、それがまたギーシュの絶望を深くした。
本当は今日自分こそがケティを濡らし、その初めてを貰うはずだったのに、なんで今はこんなことになっているのか。
情けなくて情けなくて、そしてあまりにも絶望が深くて、涙が溢れてくるのをギーシュは感じる。
本当に、何で、今自分はこんなことをやっているんだろう?
っああ、ああっ、ケティはしっかりとしつけてみせますわ! そうしたらサイトさまっ! どうかケティを褒めてやってくださいまし!
そして長い長いキスを施し、それが終わると再びの放尿。
二度目であるからだろうか? それとも諦めが入ってしまって従順になってしまったからなのか? ギーシュは格段に上手に、しゃあぁぁぁぁっと放たれた小水をごくごくと飲み込んでいく。
そして飲み終われば後始末をしなければならないだろう。ぺちゃぺちゃと水音が部屋中へと響き、かすかな嗚咽もまた、漏れている。
……いやいや、ホント、女は怖いねぇ。見捨てたとなったらまったく容赦しねえんだからな。くくく…さ、ギーシュはどっちを選ぶんでしょうね?
そんな中、才人はくっくっくと薄く嗤っていた。
そう、まだギーシュへのネタばらしはしていないのである。これまでの奴隷は支配してからネタばらしをしてきたのだが、今回は違う。ヒントを与え、そして決断をさせる。
支配してからのネタばらしは同じだが、その前に運命をこれでもかと匂わせるのである。これが今回の計画の肝だった。
その時、ギーシュはどんな反応を示してくれる?
絶望し、しつけが怖いばかりに唯々諾々と受け入れるか。あるいは最後の抵抗を試み、そしてしつけを受けたあげくに手駒に堕とされることになるか。
「よし、始めろ。奴隷とはどんなものか、その一端を体験させてやれ」
最後の準備が始まろうとしていた。これから奴隷の身分とはいかなるものか、その身体に叩きこもうと言うのだ。
だからギーシュの身体は引き起こされた。後ろ手に縛られ、髪を引き掴まれていては、もうどうしようもない。ギーシュは才人の正面になるよう、身体の向きを調整されてしまう。
「っザ、ザイトざまっ! ゆ、ゆるじでぐだざい! ぼ、ぼう、ざからいまぜんがら、ゆるじでくだざいっ!」
引き立てられたギーシュが許しを請うた。これからしなければならないことを考えると、とにかく謝るしかないと思った。何を謝ると言うのではない。とにかく謝るしかないと思った。この状況を止められるのは才人だけなのだ。
この窮地を救ってくれるのならば誰であろうと、例え悪魔であろうと助けを求めるしかないではないか。
「っ往生際が悪いわッ! さっさとケツをあげなさいって、っっ言ってるのよッ!」
「!ぎぇ、ぎょべぇぇぇええぇぇぇえええぇっぇぇぇえぇぇっっ……!」
だが、ギーシュの後ろにはモンモランシーが立っていた。己の奴隷の不始末が許せない。
だから手にしていた乗馬鞭を振り上げ、そしてその背中に叩きつけたのである。
「っこのクズ! のろま! 早くケツをあげなさい! ご主人様をお待たせするんじゃないわよッ!」
ギーシュの背後でひゅんと風を切る音がする。モンモランシーが振り落とした鞭を再度構えたのであろう。
「!っ~~がっ~~~~ッ、っっ~~だ、だだいまっ! モンモランジ―ざまぁっ!」
打ち身によって身体中が痛む。腫れ上がった口では上手くしゃベることが適わない。今受けてしまった鞭によって痺れ、身体の力が抜けてしまった。ギーシュのやるべきことは一つだったのである。
「……さ、始めなさい。サボったり、ケツが少しでも落ちるようなら鞭ですわ。それが嫌なら早くなさいな」
希望であった才人はニヤニヤと嗤うだけで取り成してくれなかった。ならば、もう諦めるしかなくなった。ギーシュは水たまりの中へと頭を入れ、舌先だけでそれを懸命に舐めていく。
「っじゅ…ずずっ…ぺちゃ…ずずずっ…じゅるるっ…ぺちゃ…ずず……」
ギーシュは始末しなければならなかった。失禁してしまった己の小水と、飲みきれなかった二人分の小水である。己の不始末は己で片付けるのは当たり前の話であろう。
そして奴隷なのだから、手を使うなんて上等なことが許されるはずもないのである。
……くっくっくっ…惨めだよなぁ、ギーシュ。でもな、便女なマチルダより下にするって満場一致だったんだ。多分モンモランシーの扱いはこんなもんじゃあ終わらないと思うぜ?
ぺちゃぺちゃと水音の末、ようやく一つ水たまりが始末された。モンモランシーは鞭でお尻を撫でることで、始末したことを褒めた。だが部屋の各所にはまだまだ始末すべき場所が残っている。
「ほら、次よ。早くなさいな、クズ」
まだ先は長いわねと溜息をつき、鞭で尻を撫でることをやめる。モンモランシーは「次にいきなさい」と、合図にぴしっとギーシュに鞭をくれたのであるが……
「っっ早くしなさいって、っ言ったでしょぉ……ッ!」
彼女には不自由な身体から行動の遅いギーシュを叱るために、鞭を一際高く振り上げる必要があった。
◇
憔悴しきった様子でギーシュが座り込まされていた。視線を合わせて嗤ってやると、ギーシュは情けなさそうに愛想笑いをしてみせる。
何とかして呼吸を整えようと努力している最中であり、全身が痛むのでその表情を歪ませている。そして目を離すと床に倒れ込もうとするギーシュだったので、それをさせまいとモンモランシーが手を貸していた。
具体的には髪を掴んで才人の方を向かせ、背筋を伸ばすように「姿勢が悪いですわ」と、その背中に鞭を振るうのである。ギーシュは疲労困憊となって、才人の顔を見上げていた。
「くっくっくっ…こう見えてモンモランシーは怖いからな。あんまり怒らせないようにするこったぜ?」
ギーシュは泣きそうな顔になって、いや泣き顔で才人の指摘にコクリとうなずく。
っ……はぁ…はぁ…ぐっ~~~~ッッ、かはぁぁっ……! な、なんてことだ。っモ、モンモランシーは天使だと思ってたのに……。
「で、どうだ? モンモランシーとケティの奴隷になる踏ん切りはついたか?」
ギーシュの未来は奴隷である。それはどうあっても変わらない。だが、その将来を自主的に受け入れるか? それともそれは嫌だと泣き事を入れるか? その選択がまだなされていない。この選択をさせるために、これまでこんなにも回りくどいことをしてきた。
……くっくっくっ…どっちだ? どっちを選ぶんだ? それとも予想外の行動を取ってくれるのか?
才人はニヤリと嗤う。いよいよ選択の時間であった。
すると一瞬だけ逡巡したギーシュだが、やがて何かに気付いたような顔をする。そしてびくりと身体を震わせたかと思うと、ぶんぶんと大きく首を振ってイエスと応えた。
まあ、ここまでは予想通りといえるであろう。脅されている最中であるし、解放されるならと、ギーシュならずともうなずくのが当たり前。そう、問題はここからであった。
「そうかそうか。じゃあ儀式をしなくっちゃあな」
視線を横へと向け、うなずいて合図を送る。すると才人に寄り添って幸せそうだったケティは微笑み返し、荷物のもとへと走っていく。戻ってきたその手には破壊の杖が握られていた。
「いいか? これからコイツをオマエのケツの中に入れる。今ロープを解いてやるからさ、覚悟ができたんなら思いっきりケツを開いて『お願いします』って言ってみろ。そうすりゃ二人ともオマエを奴隷として認めてくれるって寸法だ」
破壊の杖を確認したギーシュの顔は真っ青になった。
透明な円筒の容器に入っている白みがかった透明な液体。ギーシュに杖の正体や用途はわからなかった。だが尻に入れると言っているのだから、アレでもって肛門へと液体を入れるつもりなのであろう。
そしてギーシュはその液体を怪しげな秘薬の類だと思った。それはそうであろう。常識からも、その量からも、とてもではないが才人の精液だとは想像できまい。
っ……あれか!? あれが二人をおかしくしてしまったタネなのか!?
しかし肝心なことはそこではない。おそらくはアレを入れられてしまうと、もう取り返しがつかない。ギーシュにはそのことが理解できた。
何故ならモンモランシーとケティがおかしくなったのは、あの液体の所為に違いない。そうでないととてもではないが、二人の異常を説明できないのである。
っくっ……ど、どうする? 逃げるにしても裸だし、杖だって奪われてしまってる。逃げきれるとは思えないし……
考えるギーシュ。だが、いい考えがどうしても浮かんでこない。魔法なしで才人に勝てないのは決闘のときに嫌というほど理解させられた。それに容器の液体がアレ一つという保証もない。
っっも、もしもだ。もしも逃げようとして失敗したら、ぼ、僕はどうなってしまうんだ?
それに成功の確率の低い賭けに失敗してしまったら、どんな目にあわされるかわかったものではない。万全でも才人には勝てそうもないのに、今の自分は殴られ、鞭打たれ、ボロボロの身体なのだ。
まさに八方塞がりだった。反逆しても成功の確率は薄い。薄すぎる。そして失敗したら恐ろしすぎる目に合わされるだろう。だがおとなしくしたままだと、おそらくは自分は奴隷となって抜け出せなくなってしまうのである
「くっくっく……モンモランシー、ギーシュの縄を解いてやれ」
「わかりましたわ、ご主人様。…ギーシュ。手首から力を抜きなさい」
しゅるしゅると音をさせて、手首から縄が解かれていく。少しだけ安心したギーシュだった。どれだけぶりかで縄がほどかれ、身体が楽になったのだ。見れば手首はうっ血し、縄目の痕がクッキリと残っている。
今は指先にまで血が回り始め、少しずつ握力が戻ってくるのがわかる。これならあと少しで物だって握れるように回復するだろう。
「さっ、ギーシュ。儀式の時間だぜ? くくく…そのまま限界までケツを上げろ。んで限界まで広げろ。“もしそのつもりになったんなら、俺の目を見ながら『お願いします、モンモランシーさま』と言ってみろ”」
そうやって痛む手首を擦っていたギーシュに才人が問い掛けていく。きょろきょろと辺りを見渡せば才人だけではなかった。ケティはにこにこ微笑んでいるし、モンモランシーはにんまりと嗤いながらピストンを操作していた。
っ……ぼ、僕はどうすればいいんだ……
そう、ケティは破壊の杖をモンモランシーへと手渡してしまっていた。全員が自分を注視している。ギーシュはそのことに気が付いてしまった。全員がどう動くかに期待して、一挙手一投足に注目しているのである。
っき、決められないよ! っき、決められるわけが、ないじゃ、ないかね……。
だがギーシュは決断をしなければならなかった。そして、その余裕はあまりないだろう。何故なら早く決断しないと、後ろのモンモランシーがどう動くかわからない。
っ……このクズ! のろま! 早く決めちゃいなさいな! ご主人様がお待ちでしょう!
反逆か、屈服か、わくわくしながら才人は待つ。これを楽しみにこんな回りくどいことしてきた。そしてそれはもう直ぐなのだ。逡巡していたギーシュだが、やがてゆっくりとその顔を上げてきたのである。
っ来いっ! どっちなんだよギーシュ! くっ、あんまり焦らすもんじゃねえってーの!
果てしてその決断やいかに? 才人は生唾を飲み込んだ。これからギーシュが口を開くのである。