決闘してから三日が経った。
決闘の結果、ギーシュは女子学生を中心に嫌われるようになった。シエスタにした仕打ちに悪びれる事がなく、反省もなかったからだ。
それから決闘に惨敗したので友人たちに馬鹿にされることが増えた。学院での地位は著しく低下したと言える。
だが、意外なことにギーシュは平気な風を装ってみせた。勝負とは時の運だし、レディたちの誤解は近いうちに解いてみせる、と言う事だそうだ。
それにケティが「おかわいそうなギーシュさま」と、慰めに回っていることも大きいだろう。
こりないやつだ、そして馬鹿なやつだと、才人は呆れたものである。
もっともギーシュは今の境遇に追い込んでくれた才人を深く恨んでいるようだが、もちろん才人は気にしていない。
目につくようならもう一度思い知らせてやればいいし、近いうちにケティを使って絶望に追い込むつもりなのである。終わった人間を気にしていてもしかたがない。
「油断してしまっただけじゃないかね。魔法を使っていれば、僕の勝利は揺るがなかったんだよ? 平民らしい卑怯な手ではあったが、まあ決闘は決闘だ。貴族の寛容さをみせてやることにしたのさ。一体何の問題があるのかね?」
今のギーシュはそう言って強がり、友人達からしらけた目線を向けられ、才人が現れれば用事ができたと逃げる有様となった。魔法さえ使えればと思うギーシュだが、そんなことをすれば恥の上乗りになるし、才人はキュルケと一緒にいる。
流石のギーシュもトライアングルのキュルケに勝てるとは思わないし、下手な事をしたら報復されるだろう。魔法抜きでの力の差を思い知らされ、ギーシュとしては逃げるしかなくなったのである。
その日、才人はいつものように厨房で食事を取っていた。すると学院長の秘書と名乗る人物が現れた。心当たりはあるが、一体何ごとなのであろう? とはいえ、応対しないわけにもいかない。せいぜい愛想よく対処するしかないだろう。
「学院長は今回のことは不問に付すとおっしゃっています。原因はミスタ・グラモンにありますし、怪我をしたのもお互いに了解してのことですから」
「はあ……ギーシュのやつ、なんて言ってました?」
やはりその件かと思った。あれだけの騒ぎになったのだからバレないわけがない。決闘、あるいは喧嘩の体裁を取ってはいたが、暴行事件は暴行事件である。
それに貴族に手をあげる平民、という形にはなっているので、何かしらの処分があるのでは? そう警戒していたのだ。
「ミスタ・グラモンは納得しておりますから問題ありません。口に出しては『許してやることにした』と言っておりました。
ですが虚勢であることは間違いありませんでしたし、今後同じ問題を起こしたら退学もありえると注意しておきました。ですからあなたやシエスタに報復に動くことはないと思います」
その人物はロングビルと名乗り、観衆に遮られて決闘騒ぎを止められなかったと説明した。
ギーシュも完治とは言えないが回復したので、学院としての処分を通達に訪れたのである。
「ですが、あなたにしても少しやりすぎです。今後注意するようにとのことです」
「わかりました。気を付けるようにします」
その通達に才人は安堵した。致命的な処分、例えば追放とか言われれば、何がしらの手を打てばいい。だがギーシュの報復には危惧していたのだ。
自分は対処する自信があるし、護衛だってつけている。だがシエスタを始めとして才人と親しい厨房の従業員が問題だったのだ。その心配がないというのはありがたかった。
……ふぅ、これで一安心だな。マルトーさんは簡単にやられるタマじゃないけど、シエスタや他の奴らは違うからな。
厨房のメンバーも喜んでいる。安心した才人は去っていく秘書の後ろ姿を眺めた。
……ほほう……いいケツしてるねぇ……。キュルケとは違う大人の魅力って感じだな。 ……う~ん、22、3ってところか? 学生と社会人の中間ってところだな。
タイトのスカートが素晴らしい。きゅっと上を向いたお尻の形が良くわかる。それに何と言っても眼鏡であろう。スッキリとした顔立ちに似合っていて、フェチでなくとも目を引かれる。
しかもである。それでいて優しげな風貌なのである。秘書というより、新任の学校教師というより、家庭教師のお姉さんと言った感じ。キツメの細いタイプではないのが心憎い。
そんな女が水準以上の武器を誇り、きゅっと締まったお尻とくれば、これはもう、才人には真ん中高めのストレートであろう。
うん、決めた! 学院長の秘書なら、手駒にしたら何かと都合がいいだろ。顔もスタイルも合格点をやれるしな。…くく…次の奴隷はあんただぜ!
才人はロングビルを奴隷とすべく、動くことを決意した。
ミス・ロングヒル。学院長の有能な秘書。理知的な面差し、緑がかった髪が特徴的である。これから彼女がどうなっていくのか? それはこれから明らかになる。
◇
才人はロングビルについて調べた。モンモランシーを中心に情報収集をさせ、キュルケを中心に監視をさせたのである。その結果、幾つかの情報を得ることが出来た。
――秘書となって日が浅く、二か月前までの経歴は不明である。
――どの程度かは不明だが、学院長のセクハラを受けている。
――実力は不明だがメイジである。
――コルベールなど何人かの教師や従業員からアプローチを受けている。
――学院長の命令で秘宝の目録作りをしている。
「……正直大した情報でもないんだよな。あんまりあからさまにやると怪しまれるし。…ルイズ、どう動けばいいと思う?」
問われたルイズだが、うまい手が思いつかなかった。才人も言っているが、大胆な行動は躊躇われたのである。しいて言えばいい結果が出なかったのだから、これからはリスクを恐れずもっと大胆に動くべきではないかと思った。
「ふむ、モンモランシーはどうだ?」
モンモランシーの感触ではコルベールがロングビル攻略の鍵であるように思われた。一緒に食事をしているのを目撃した女生徒がおり、ロングビルも満更ではない雰囲気だったと言うのである。
これ以上の情報を知りたいならば、リスクを承知でコルベールからだろう。
「あのハゲか? くく…そういやアイツも報いをくれてやらんといかんかったな。…まあ、それはそれとしてだ。キュルケの方はどうだった?」
キュルケはロングビルを怪しく思った。何か隠しごとがあるのでは? 考えてみれば二か月前のロングビルが何をしていたか、知っている生徒は誰もいないはず。
そして学院長の命令ならば堂々としていればいいのに、宝物庫に向かうときにあたりを警戒する仕草を見せたことがある。
考えすぎかも知れないが、何か引っかかるものを感じた。
「……ふむ。なるほどね。そうすっとどうしたもんかね……」
才人は考える。モンモランシーやキュルケを堕とした時のようなわけにはいかないだろう。何故なら相手は学院長の秘書である。接触できる機会が極端に少ないし、その時回りに誰かいる可能性がある。
一人でいるのを期待する、そんな僥倖を計画の段階で入れるべきではないだろう。
……まあリスクを恐れないで強引にやろうと思えば何とでもなるんだけどな。それじゃあスマートじゃないし、何より面白みに欠ける。
せっかくだから楽しみたいし、奴隷にしたときの立ち位置を決める必要もある。となると……
考えた才人は決めた。
「キュルケ。ロングヒルの行動をもう少し踏み込んで調べてみよう。特に夜だ。何か隠してるんなら、動くのは夜だろ? ハゲはそのあとだ。監視して不審な点が見つからなかったら、その時はハゲに聞いてみることにしよう」
キュルケの意見を採用することにした。もっとロングビル個人のことを知らなければならないだろう。
出来る事ならコルベールの顔など見たくもない。召喚されたときの傲慢さと仕打ちは忘れていない。
才人の意志など無視してルイズに使い魔であることを納得させ、苦しむ才人など知ったことかと、そんな態度でルーンのスケッチをしていったコルベール。絶対に許すわけにはいかないのだ。
くく…まっ、おかげで今は奴隷を四匹飼うなんてレアなことをさせてもらってるが…ソレはソレ、コレはコレだかんな。いずれきっちり落とし前はつけなきゃあな。
今となってはハルキゲニアの世界をそれなりに楽しんでいる。帰りたいか? と問われれば答えは微妙だろう。せっかく手に入れた奴隷を失うのは面白くない。
だが、ネットもなければゲームもないし、鼻に付く貴族の相手をさせられイライラしてもいる。
破滅の危険が去ったわけではないし、そもそも家族や友人から引き離された事実は覆らない。
もしコルベールがルイズを止めていれば、才人はこんな目に合わずに済んだのである。
「そんじゃそんなわけだからさ、協力してロングビルを見張るようにしてくれ。何日かして動きがなかったら、ハゲに聞くようにする。そんでも駄目だったら仕方がない。適当な理由をつけて呼び出すようにするさ」
才人はニヤリと笑ってみせる。それなりに妥当な判断であろう。こうなると奴隷の身の上としては反対する理由はない。ルイズたちは昼間は学生たちから情報収集。夜はロングビルの監視に動くことになった。
◇
さあ、考えてみよう。
ミス・ロングビルは教員用の寮塔に居室を持っている。つまり学院の教師と同じ待遇を受けていると言う事である。それなのに食事は一般の従業員と同じ場所で取っている。これは何故なのだろう?
仕事は学院長の秘書であるミス・ロングヒル。当然職場は学院長室となる。スケジュールの管理をし、書類を作成し、教師や従業員への連絡を受け持っている。
注目すべきは連絡を受け持つので頻繁に外出することだろう。これは問題ない。だが、こっそりと音を立てない様に扉を閉め、宝物庫までいくと何か考え事をしていた事があったと言う。これは何故なのだろう?
メイジであるのは間違いがない。杖を持ち、コモンマジックを使ったのを見たものがいるのだから、間違いない。
だが、マントを付けていないし、杖にしたって普段は伸縮する小さな杖をポケットに入れていると言う。これは何故なのだろう? まるでメイジであることを隠しているようではないか?
「……なんかさ、目録作りすんなら普通は宝物庫の中に入ってやらないか? 昨日、今日と宝物庫までいったのにさ、考え事するだけで引き返してきたって話だよな? 本当に学院長の命令で目録作りしてんのか?」
情報を纏めてみた才人は疑問に思った。キュルケがコルベールに話し掛けた結果得た情報である“学院長の命令による目録作り”。これは本当の事なのだろうか?
「そうよ、ダーリン。コルベール先生に聞いたわ。
宝物庫の壁が強固な固定化で頑丈なのに驚いていたミス・ロングビルにね、物理的な力なら破れるかもしれないって教えたら、博識ですのねって褒められたって、照れて喜んでいたもの。
その時になんで宝物庫に興味を持つのか聞いたら、学院長の命令で目録作りをする事になったから、警備が気になったんだって答えたそうよ」
にっこり微笑みながらキュルケは答えた。ご主人様のお役に立ててると嬉しいのである。
「……なぁ、モンモランシー。二か月前のロングビルが何をしてたとか、休日に何をしてるとか、誰も知らないって話なんだよな? ぶっちゃけロングビルって怪しくないか? なんか目録作りってより、下調べしてる感じじゃないか?
「……そうですわね。従業員の方がアプローチするときに聞いたら、優しい微笑みをして、とてもそれ以上は聞けなかったってお話ですわ。ミス・ロングビルのプライベートを知っている方は殆どいらっしゃらないのではないかと……」
モンモランシーは答える。纏めると確かに変だった。
教員待遇だし、仕事に必要だからメイジであるのに間違いはない。図書館で蔵書を探すのにライトやレビテーションは必要だし、ディティクトマジックで不審者を調べたりする必要があるだろう。
それなのにどんな系統の魔法が得意なのかわからないし、マントや杖を身に着けないで平民のように振る舞っている。
確かにこれはおかしい。まるで目立たないように気を付けているようであると、モンモランシーは思う。
「ルイズ。かなり突拍子のない話なんだがな。街で買い物した時、“土くれのフーケ”って泥棒が話題になってたよな? でっかいゴーレムを使うメイジだって話だ。
ぶっちゃけた話、ロングビルってそのフーケじゃないか? 宝物庫のお宝をどうやって失敬するか考えてたんじゃないか?」
「……それは流石にどうかと思うけど…でも、そう考えると疑問が解けるのも確かよね? もしミス・ロングビルがフーケだとしたら、土属性のメイジだって知られたら疑われるかもしれないし……」
本当にロングビルがフーケ? いくらなんでもそれはないんじゃなかろうか? でもそう考えると確かにつじつまは合ってしまう。
ロングビルは人当りがいいにも関わらず、これと言って親しい人物がいないのである。なんで親しい友人を作ろうとしないんだろう?
学院の秘書ならけっこうな高給取りのはずよね? それなのに泥棒? そんなことってないと思うんだけど……
二か月しか経っていないのだからとも考えられるが、アプローチを受けても表面的な付き合いに留めている感がある。そうして休日になると外出していなくなるという。
例えば家族や友人に会いに行っている? でも、それと目立たない様に振る舞っているのは別問題だろう。指摘され、改めて考えてみると確かに怪しく思えてくる。
「なあ、もしもそうだとしてだ。ロングビルがフーケだとして、学院のお宝を狙っているとして、どうやったら確かめる事ができる? 何を狙ってるとかわかるか?」
才人の問い掛けに奴隷たちは考え込んだ。
一番簡単なのは何とかして一人になるのを待ち、その際に支配して質問することだろう。
そうして答えを得たら、そのあと忘れさせてしまえばいい。
……でも、そんな答えをダーリンは望んでいないわよね? そんな機会を作れるなら、そもそもフーケかどうか確認する必要がないんだもの。
それに第一それじゃあ面白くないって言うに決まってるわ。楽しい確かめ方を考えなくっちゃいけないわよね?
キュルケは思う。なんとかうまい手を考えなくてはならない。そして褒めてもらって、出来うるなら褒美を受け取りたいのだ。だからキュルケは考える。必死になって考える。
……流石に何を狙ってるかはわかりませんわ。学院の宝物で知っていると言えば真実の鏡ですとか、眠りの鐘とかですけど、他にもいろいろ宝物はあるでしょうし……。
モンモランシーも考える。キュルケに続いてケティを奴隷にするのに協力してしまった。もう引き返すことはできないのである。
役に立てばご褒美。そうでなければケティのように精神を弄られるかもしれない。
だからモンモランシーは必死になる。今のままでも役に立つと、そうアピールしなくてはならない。
……要はミス・ロングビルが宝物を盗むか、盗もうとすれば、それがフーケだって証明になるのよね? ……だったらずっと監視してればいいんだけど、それじゃあいつまで掛かるかわからないわ。となると……
ルイズだって考える。罰を与えられるのは嫌だし、ご褒美は欲しい。どうせ逆らえないのだから一生懸命考え、ご褒美をもらったほうがいい。
うまい手を考えればご褒美、そうでないなら罰となれば、これは真剣に考えざるをえないだろう。
「どうだ? うまい手は考え付かないか?」
才人は奴隷たちに返事を促す。奴隷たちは銘々考えたことを答えていく。皆、それぞれの理由で真剣なのだ。
そして三人寄ればと言うが、その格言通りにうまい手と思われる作戦が生み出された。
「ふむ、なーるほどね。そうかもしんねーよな」
大まかな方針が決まれば、次は具体的な方法に昇華させる必要があるだろう。奴隷たちは再度必死になって考え、そのうち骨組みには肉がついていく。
「よ~し、じゃあソイツでいこう」
満足した才人は計画にGOサインを出したのだった。
◇
犯行現場の壁に『秘蔵の○○、確かに領収いたしました。土くれのフーケ』とサインを残す。マジックアイテムの類を好んで盗む。錬金によって壁や扉を土くれに変え、巨大なゴーレムで屋敷を壊す。
時に繊細に盗み、時に大胆な行動。それが巷で噂の大怪盗、土くれのフーケである。
才人たちは考えた。もしロングビルがフーケだとして、何で学院の秘書などやっているのか? 間違いなく学院所有の秘宝を狙っているからだろう。
普通の屋敷と比べれば、学院の宝物庫は各段に警備が強固なのだ。下準備に潜入する必要があると考えたに違いない。
そして何を狙っているかだが、残念ながらわからない。秘宝の種類が多すぎ、絞りきるのは不可能なのだ。
ではどうやって盗むつもりなのだろう。繊細に忍び込むのは不可能である。何故なら宝物庫の壁は強固すぎる。錬金で土に戻すことは出来ないはず。となると、ゴーレムで強引に破壊するつもりなのでは?
秘書となって二か月。それなのに何故宝物を盗もうとしないのか。第一に下調べをしている最中である。第二にすぐさま疑われないよう溶け込む準備期間中である。第三に決行に最適な日を選んでいる。
そして第四にゴーレムで壁を壊し切れるか、確信が持てなく躊躇っているのでは?
才人たちはそう考えてロングビルを罠にはめようと考えた。そして現在だが
「……あっさり引っかかったな」
「……そうね、やっぱり焦ってたのかしらね」
ルイズに向かって才人が呟いていた。
才人の打った手は単純と言えば単純なものである。モンモランシーとケティを使ってフーケの恐怖をあおり、学院長の腹心であるコルベールに警備の強化を訴えたのだ。
コルベールは学院長に学生の要望として伝える。もちろん進言を受けてもオスマンは取り合わないだろう。
学生の要望にいちいち応える理由はないし、費用だって掛かってしまう。適当な理由をつけて却下するか、受け入れた振りをして時間を稼ぎ、うやむやにしようとするに違いない。
だが、秘書として同席し、それを聞いていたロングビルはどう考えるか?
愚図愚図してたら手が出せなくなるかもしれない。そうなってしまうとオスマンのセクハラに耐えていた意味がなくなるかもしれない。
「おースゲェな、こりゃ。手加減なしってやつだ。一点集中で破壊しようってんだな」
「……壊れるのかしら? いえ、それよりあんまり手を掛けると先生達が起きてくるわよ。そろそろ壊れないとマズイんじゃない?」
ただでさえ二か月もの期間を費やしているのだ。例え警備の強化がなされなくても、宿直の教師の意識が変わってしまったら面倒なことになるかもしれない。ロングビル、いやフーケはそう考え、今夜行動に移すだろうと期待したのだ。
「……せっかくいろいろ考えたんだけどな。ロングビルにフーケの事を聞いて反応を窺うとか、直接ジジイに談判するとか、あとルイズやモンモランシーの実家経由で警備強化の圧力をかけるのを匂わすとかさ。
上手くいったのはいいんだが…なんか納得いかん。全部無駄になったじゃねーか……」
「……上手くいったんだからいいじゃない。それより成功したみたいよ? おっきな岩をぶつけたらヒビが入ったみたいだわ。表面を鉄かなんかに錬金したのかな?」
果たしてロングビルは罠に食いついた。なるほど、噂になることはある。その巨大なゴーレムは見事学院の壁を壊し切ったのである。
それを見ていた才人はやれやれと頭を振り、ルイズもちょっと呆れた風に犯行現場を見ていた。
「おっ、出てきたぜ、ルイズ。何のお宝かわかるか?」
「……遠いし、暗いし、よくわかんないわ。でも、見たことないと思う。一体何の宝物なのかしらね?」
才人とルイズは窓から見物し、キュルケとモンモランシーは寮の入口と窓を見張っていた。今は偶然の目撃者として監視を続けているはずである。
「くく…まっそりゃそうだ。何のお宝だろうと意味はないしな。あとはロングビルが帰ってくるのを待つだけだ。
いきなり消えたんじゃ犯人ですって自白するようなもんだしな。ほとぼりが冷めるまでは秘書を続けるはず。……大丈夫だよな? このまま消えるってないよな?」
「うん、それは大丈夫だと思うわ。フーケが捕まらなかったのは正体が不明だったからだもん。似顔絵つきの手配書とかバラまかれたら逃げ切れないし、例え逃げ切れても次の盗みがやりにくくなるもの。帰ってくると思うわ」
ゴーレムが学院の壁を跨いで消えていく。それを見届けた才人は「いくぞ?」とルイズに促した。
何といっても大不祥事である。オスマン始め学院の教師たちは、目撃者であるキュルケとモンモランシーに事情を聞くに違いない。才人はそれに合流しておく必要がある。
何故ならこの後の展開に関わるためには目撃者の一人になっておく必要があるし、今後の予定を打ち合わせする必要もある。そして、才人はのこのこ戻ってきて、話に加わるだろうロングヒルを嗤う必要があるのだ。
くく…ホントにフーケだったとはねぇ。自分で言っておいて何だが、それはないだろうと思ってたんだけどな。一体どんな演技をしてくれるのやら。くく…笑わない様気をつけなくっちゃあな。
ロングビルはフーケであった。つまり犯罪者で魔法使いであるとわかった今、もう手加減する必要などないだろう。奴隷として、手駒の一つに加えるのに何ら遠慮を覚えない。
さて、フーケだってわかったんだから、それを利用する形で奴隷にするのがいいよな?
黙っていて欲しけりゃやらせろだとか、逆に突き出す前に制裁だとか言ってやるとかさ。どんな方法にしましょうかね?
くっくっくっと、抑えきれない嗤いを洩らす。才人はルイズを伴い、中庭へと降りていった。