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No.27288の一覧
[0] ◇過去に戻って幼馴染と再会したら……IF√(オリ板からの外伝です)[ペプシミソ味](2011/04/19 15:16)
[1] ・第XX話 IFルート 下[ペプシミソ味](2011/04/19 16:16)
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[27288] ◇過去に戻って幼馴染と再会したら……IF√(オリ板からの外伝です)
Name: ペプシミソ味◆fc5ca66a ID:710ba8b4 次を表示する
Date: 2011/04/19 15:16
 
 ◇ 過去に戻って幼馴染と再会したら、とんでもないツンデレだった模様

・第XX話 IFルート 上(※18禁です。高校生も禁止)


 ◆


 僕が東京の中学へ進学して2年と数ヶ月が経ち、今日から中学生として最後の夏休みが始まろうとしている。
 と言っても、進学校だから大量の課題が出たし、部活――合気道部――の副主将としての練習もあるから、休みだという開放感はあまり感じられないけれど。
 だからだろうか? 寮の自室で目覚めたあと、日課のイメージトレーニングを終わらせた僕は、何をするでもなく椅子に座ったまま、ぼんやりと窓の外へ目を向け、朝の景色を眺めていた。

「家、帰れるかなぁ」 

 寮から見える東京の景色は、育った田舎町とは違いどこかくすんで見える。それに今日はあいにくの曇り空。いつ雨が降り出してもおかしくないような、どんよりした雲が遠くまで広がっていた。
 実家に帰りたい……という気持ちはもちろんある。義母さんに会って色々なことを話したい。電話――いらないと言ったのに、送ってきてくれた携帯――で、週に1度は会話しているけど、やっぱり大切な家族。顔を見て義母さんが元気だと直接確認したい。
 まあ、もう1人の家族――幼馴染の桜――は同じ中学という事もあり、ほぼ毎日会っているからどうでもいいけれど。
 中学生になってほんの少しだけ大人びてきた妹同然の存在、桜の事を考える。

「そっか……。今日帰るって言ってたな」

 現在2年生で水泳部に所属している幼馴染は、夏休みの中頃に合宿があるため、「前半は実家に帰る」と一昨日に食堂で言っていた。それに、桜のお父さんが寂しがっているらしい。
 僕の目の前で学食のカレーを食べながら、あきれたようにため息をついていた姿を思い出す。髪をポニーテールに結び、室内プールの練習で少し日焼けしている肌。消毒用塩素の為なのか、ほんの少しキャラメルっぽい髪色。学校指定のセーラー服を着て、小学生の頃より少し大人っぽくなった表情を見せる。

「聞いてよっ。お父さんったら、いつまでも私を子供扱いしてるの」
「だって子供だろ、バカ桜」
「兄さんまでっ。このっ、もう一回言ってみなさいよ」

 整った顔立ちを少し不機嫌そうにふくらませ、学食のテーブルの下、スリッパのままで蹴ってくる桜。トンッと軽くあたる幼馴染の足。そして、どうだ……という感じのニンマリした微笑。その笑顔が一瞬、憎らしいはずなのにとても可愛く見えた。
 最近、桜のふとした動作にドギマギさせられる時がある。グロスをうっすらと塗ったピンク色の唇や、パッチリした二重の瞳。スカートからすらりと伸びた足、そして女らしくなってきた体のライン。

「ね、兄さんも一緒に帰ろ? アッチって暇だから一緒に遊ぼうよっ。えへ、あと勉強も……」
「それは自分でしろよ」

 食事が終わり、一緒に図書館で過ごした後……昼休みが終わる直前、ぎゅっと腕にしがみつき、にっこりと微笑みかけてきた桜。よりにもよって僕のクラスの前でそうされた為、クラスメートからかなりからかわれる羽目になった。
 しかし、無邪気な桜の顔を見ると冷たくするわけにもいかず――何といっても、大事な妹のようなモノだし――結局、「少しだけな」と言ってしまった自分が情けない。

「ったく、精神はいつまでたっても子供だよな」

 天真爛漫というか、無邪気というか。幼馴染は小学生の頃と変わらず、どこでもすぐに手をつなぎたがるし、よく笑いよく怒る。僕が部活で寮への帰宅が遅れてメールが出来ないと、5、6通ほど怒りのメールが溜まってたりなんて日常茶飯事。
 それに自分勝手。暇だからと女子寮を抜け出して、夜に僕の部屋へ遊びに来たことさえあった。まあ、即刻追い出して女子寮まで送っていったが……。あの時はメチャクチャ苦労した。

「でも帰りたいのはやまやまだけど……部活がなぁ」

 合気道部の副主将をやっている為、夏休み中も鍛錬を怠ることは出来ない。二学期が始まればすぐに、演舞形式とは言え大会も行なわれる。あまり部員はいないけれど、それでも皆、一緒に稽古を積んだ大切な仲間だ。僕がしっかりしないと申し訳ない。
 それに……と、脳裏へ1人の同級生の姿を思い浮かべる。合気道部の主将を務めている、同じ町出身の女子生徒。

「……新江崎さん」

 小学生の頃は長かった真っ黒な髪を肩くらいのショートに切りそろえ、主将として皆を引っ張っている彼女。小学生の頃もとんでもない美少女だったけれど、中学生になった現在、その美しさに更に磨きがかかっていた。
 腰は折れそうなくらい細いのに、胸は胴着の上からでもわかるほど大きく豊か。袴の上からでさえ腰からお尻にかけてのラインは艶かしく、モデルのように手足もスラリと長い。
 街に出かけるたびにタレントのスカウトやナンパが引きも切らず、校内はおろか校外にまで密かにファンクラブがあるほど。
 キリっと鋭い眼差し、固く結ばれたピンク色の唇。クールな美貌と冷静沈着な性格で、生徒、教師の信望も厚い。勉強の成績は常にトップ3入りで、運動も抜群、品行方正、更には良家のお嬢様……とあればモテない筈がない。
 そして誰の告白も受け入れない孤高さ。噂で聞いた話では、告白し撃墜された男子(女子も数人いるらしいが)は3桁に届くとか届かないとか……。

「……ん?」

 ぼんやりと物思いにふけっていた僕の視界に、パカパカと携帯の点滅が映った。隣室の迷惑になる為に部屋では常にマナーモード。
 一体誰? と思いつつ携帯を手に取ると、着信画面には……。

「主将……? はい、柊ですけど」
「副主将、ちょっと部室に来てもらえるかしら?」
「ええ、わかりました。大体30分後くらいで、はい」

 ぷつっ、とそっけない会話を終了させ、僕は椅子から立ち上がった。
 主将、新江崎さんとは小学校低学年からの知り合い――と言っても当初は犬猿の仲だったけど――になる。改めて思うと、結構長い付き合いだ。
 小学校6年の頃にいくつかの出来事があって、かなり親しくなったのだけれど……。中学に入り、同じ部活になって2年生くらいごろからあまり会話をする事がなくなった。
 もちろん、主将と副主将という関係や、同じクラスだから必要最低限の事は話し合うのだけれど、あの頃のように一緒に図書館へ行ったり、買い物に出かけたり、という事は無い。
 それは思春期という互いの時期の所為なのだろうか?

「はぁ……」

 かつて誓った想い。何があろうと彼女の味方をする、というのは今も胸にある。
 けれど、あまりにモテすぎる彼女の近くにいつまでも僕がいるのも逆に迷惑になるだろうと、自然に距離を置き始めた。
 いや、それは言い訳なのか。本心……僕が本当は……。

「ああもうっ、行こうっ」

 ごちゃごちゃした思いを振り払うように、バッグを持ち急いで部屋を出る。ここから学校まで徒歩で15分くらい。主将、新江崎さんが待っているであろう部室へ、僕は足を踏み出した。



 ◆◆ 



 僕の通う都立中学校は進学校として全国的に有名だけれども、実は部活動もかなり活発だ。強制ではないが、ほとんどの生徒は部活に所属して日々汗を流している。勉強でどうしても溜まるイラ立ちを解消するかのように。
 伝統的に部活の規律が緩く、各自の都合で休んでも問題なし……という点も大きいのだろう。その為、かけもちで部活に所属している生徒や名前だけの幽霊部員も相当多い。
 今日も夏休み初日だというのに、学校の中は多くの生徒で賑わっていた。皆、部活か友達と勉強するんだろう。普通の制服を着ている生徒と体操着を着ている生徒で半々といった感じ。

「入ります」
「……どうぞ」

 そんな生徒達の間を抜け、1階校舎の奥――少し薄暗いけれど静かな場所――にある合気道部の扉を叩く。中から、凛と響く主将の声。
 ガタンッと少し立て付けの悪いドアを開け、中へ足を踏み出した。

「副主将、夏休みに御免なさい。そこに座って頂戴」
「はい。で、何の用ですか?」

 部室の窓は開け放たれていて、そこから夏の暑い風が吹き込む。部室の中には新江崎さんしか居らず、奥にある長い机の前、窓際の椅子へ姿勢良く座っていた。
 セーラー服に身を包んでいる彼女のショートヘアがサラサラと風になびく。少し気になるのか、細い指で耳に髪をかけながら主将は口を開いた。

「あのね、色々と難航していた合宿の件なのだけれど、どうにか算段がつくかもしれないの」
「えっ、そうなんですか」
「ただ、期待させるのも悪いと思って、まだ皆に話していないけど」

 茶色の長机の上へ置かれていた紙の束。それを彼女は僕のほうへと滑らせる。受け取った後、パラパラとめくり目を通しつつ、僕は合宿の事について思いを馳せた。
 ――合気道部も合宿をしよう、という話はずっと以前からあった。それこそ僕が入部した1年生の頃から。
 けれど、弱小の部活で予算が貰えない事や、男女混合である事、顧問の先生が面倒くさがりの中年の女性である事、などがあって毎年行なわれた事は無かった。

「ひいら……、その、副主将なら知っているでしょう? 私の家の施設が借りられるかもしれないの。でも、ずっと放置されていた所らしいから、下見に行かなければいけないけどね」
「へぇ……、それがココなんですね」
「ええ、母の秘書からこの間郵送されてきたの。ただ……お手伝いなどは手配できないらしくって、最初の掃除、食事準備から後片付けまで、全部自分たちでしなきゃならないわ。まあ、使えれば……の話だけど」
「ふーん」

 施設の場所、内部構造、元々はどういう所だったのか? などが記された紙へと目を通す。場所は主将の実家関連の施設だから、僕達の出身地である町……かと思っていたけれど、予想に反して東京にあった。
 とは言っても東京都の最西端、西多摩郡にある施設で、かなり田舎のようだったけれど。

「でも中々楽しそうじゃないですか? 電車で1時間くらいですし、良いと思います。それで下見は誰が?」
「……ん」

 虚を突かれた……といった感じで体をピクンッと痙攣させる主将。そして、どことなく言い出しにくそうな感じで一瞬押し黙る。
 見間違いか? と僕は思う。いつも冷静沈着な彼女が……、いや、咳か何かが喉につまっただけだろう。

「それは……下手に部員に期待させるのも悪いでしょう? もし駄目だった場合、無駄足を踏ませるのも申し訳ないし。それに、ここの部員はほとんどが女生徒ばかり。だから……」
「え、それってつまり……」

 この話の流れだと、もしかして僕が行く事になるのか……夏休みの初日から、こんな何もない田舎へ?
 少し理不尽だと思わないでもない。けれどまあ、部員の為か……と納得する。

「なるほど、解りました主将。まあ暇だし、今から行ってみます。場所……は、この資料に書いてある通りでいいし、じゃあ鍵を……」
「その……副主将、私も行くからっ。えっと……使ってない施設だけど、仕方ないでしょう?」

 どことなく言い難そうな新江崎さん。
 つまり、部外者に鍵を渡したくないという事か……。はっきりそう言わないけれど、まあ仕方ないとは思う。小学校の頃からの知り合いで、主将と副主将の関係とは言っても所詮他人。全く信頼されていないと解ってしまい、少しショックを受けたけれど……。

「戸締りするわ。少し用意するから外で少し待ってて。副主将も準備があるでしょう? その……しょうがないから、男子寮の前まで一緒にいくわ」

 キツイ感じの早口で言い放ち、窓を閉める為に素早く振り向く主将。そんなささいな動作でさえ、ピンと気品があって美しく見えてしまう。さっき、信頼されていないと解ったはずなのに……。
 最近の僕はどこかおかしい。

「わかりました」

 ガタンッとあい変わらず立て付けの悪いドアを開け、部室の外へ出た。窓の外に見える天気はあい変わらずの曇り空。グレー色の雲が、どこまでも途切れる事無く広がって見えた。



 ◆◆◆



 無言……1時間以上も続いた沈黙の後、目的の駅へ僕達を乗せた電車は到着した。時刻はまだ10時くらいという事もあり、人が少なく閑散としている。ここが東京都だと信じられないほど……。
 僕達は小さな駅の改札を抜けた辺りで立ち止まり、周囲を見渡しながら口を開く。

「なんというか、予想以上ね」
「そうですね。でも、少し似てるかも」
「……そう、ね」

 ポツリとした会話。学校の制服――セーラー服――のままの主将が、髪を耳にかけながら呟く。でも、その表情がどことなく柔らかいように見える。この場所が、僕達が育ったあの町に似ているからかもしれない。

「ここ、バスってどうなのかしら」

 駅前にあるバス停は、雨にうたれてたまま放置され続けてる感じのシロモノだった。そこへスタスタと歩み寄り、真剣な顔で見つめている新江崎さん。ほっそりした腰へ左手を置き、右手では何度も髪を耳へかける動作を繰り返す。多分、彼女のクセなんだろう。

「副主将……ちょっといい?」
「あ、はい」
「これってバスが1時間に1本しか書いてないのだけれど……、雨で消えちゃったのかしら?」
「え?」

 冗談だろうか……いや、それにしては目が真剣すぎる。鋭い眼差しで、心底不思議そうに何度もバス停の時刻表を見つめている主将。
 ゴクリと唾を飲み込みながら、僕は恐る恐る彼女へ質問を投げかけた。

「えっと主将? 今まで東京――いや、ここも東京なんですけど――以外でバスに乗った事ってあります? その、故郷の田舎みたいなトコで」
「……ないけど、それが何? もう、管理放棄だわ。バス会社に電話します」

 ふと……ここに来るまでの事を思い出す。普段、皆の先頭に立って引っ張るタイプの彼女。しかし今朝、電車へ乗るときに彼女は、チラチラと僕の動作を見てから同じ切符を買っていた事を。
 それに部活などで遠征の時、いつも主将はタクシーで来ていた。そう、彼女は普段、タクシーしか乗らないのだ……と気付く。
 ――つまり、これは冗談ではなく本気、

「全く……」

 見ると、新江崎さんは左親指を唇へあてたポーズで、すでに携帯を操作し始めていた。いかにも憤懣やるかたない……といった様子で何かをブツブツ呟いている。
 彼女は決断、即実行するタイプ、更に弁が立つ上に性格もキツい。すぐに止めないとバス会社の電話担当が可哀想すぎる。

「ちょっ、ま、まって新江崎さんっ!! 電話しちゃ駄目だったら」
「えっ、柊君。今、え、あっ、きゃっ」

 急いで彼女の右腕を掴もうとする。が、さすがというか……新江崎さんは素早く振り向くように体を入れ替え、腕を掴ませない。しかし、僕の体も咄嗟に動く。お互いこんな事をするつもりじゃない筈なのに。

「あ……」
「――っっ!?」

 どうしてこうなったのか? 一瞬後、僕は新江崎さんを背後から抱くような体勢で立っていた。僕の右手は主将の左手に掴まれており、まるで柔道の一本背負い直前の形だけれど。きゅ……と僕の手を掴む彼女の手に力が入る。
 すぐ目の前に見える新江崎さんの首筋から髪の香り――とても甘い香水のような――が漂い、あまりの艶かしさから、僕の意識は真っ白になりそう。けれど、気力を振りしぼって口を開く。

「電話……しちゃ駄目だよ。田舎ってバスはこんなモノなんだから」
「……そう、なの?」
「うん」

 他人から見たら、僕が背中から彼女を抱きしめているように見えるだろう。シャツ越しに新江崎さんの体温、背中の柔らかさが伝わってくる。物凄く恥ずかしくって離れたい……という気持ちと、いつまでもこうしていたい気持ちがせめぎあう。
 それに、腕を掴む新江崎さんの手も弛まない。きゅ……と白い指先に力が入ったまま、僕の腕を掴んでいた。

「柊君……、さっき、主将って言わなかった……」
「え?」
「な、なんでもないわ。離れなさいよ」

 新江崎さんがうなじから耳まで真っ赤に染めて怒鳴る。その声に反応し、咄嗟に離れようとする……けれど腕が掴まれたままで、身動きが取れない。

「いや……。でも、新江崎さんが腕を握ってるから……」
「――ッッッ!!!」

 バッと制服が風になびくほどの音を立てて飛び退く彼女。キリッと眼差し鋭く睨み、真っ赤な顔で口を開く。まるで僕が全て悪いというように。

「な、なによっ。だって電車なんて柊君と一緒の時しか乗った事ないし、バスなんて初めてなんだもの。その……」

 セーラー服に身を包んで髪はショートカット、スタイルは完璧だって言えるくらい成長しているけれど、まるで、それは小学校時代の姫そのままで……。
 僕はなんだか、とてもおかしくて楽しくって、思わず笑ってしまった。

「――っっ!! そ、そんな笑う事ないじゃないっ。うぅぅ、柊君って少しは成長したと思ってたけど、最悪っ。なによ、この変態ッ!」
「あははっ、姫だってそのまんまじゃん。小学校の頃と一緒」
「うううぅ、また姫って。このっ!」

 この田舎町の景色の所為か、それとも周囲に誰もいないからか? 僕達は本当に小学生の頃へ戻ったように、文句を言い、笑い合う。

「でも、他の部員じゃなくって良かったよ。誰も指摘できなかった筈だし。だって姫だもん。あははっ」
「このっっ、意地悪。あい変わらずムカつくヤツっっ!!」

 ポンポンと軽く叩いてくる新江崎さんの手を掴み、互いに至近距離で悪口を言い合う。彼女の真っ黒な瞳から視線が外せず、新江崎さんも真っ直ぐに僕を見つめてくる。
 小学校のように軽口を叩きあい、けれどあの頃とは『何か』が決定的に違う。体が熱い……思春期特有のドロドロした欲望。新江崎さんの笑顔、ツンとした表情、体が動くたびに少し揺れているとわかってしまう胸。ヒラヒラと舞うスカート。どうしようもなくそういった部分へ意識が向かってしまう。
 けれど、僕の胸の奥に誓いが蘇る。『何があっても新江崎さんの味方をする』という誓い。それが、僕自身のドロドロした欲望を許せない。

「あの……主将。暑いから駅で待ちましょうか?」
「え……、あ、うん……そうね」

 掴んでいた手が離れていく。今までの気安さが全て嘘だったかのように。僕はスタスタと振り返りもせずに駅のベンチへ向かって進む。

(僕は何を……)

 あふれ出す自己嫌悪。あの時に吐いた残酷な嘘……それがズキズキと僕の心を苦しめる。
 背中越しに痛いほど感じる新江崎さんの気配。それを意識しないように努めながら、日陰にあるボロボロなベンチへ腰掛ける。主将……新江崎さんが遠い場所へポツンと座ったのを知りながら。




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