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No.27097の一覧
[0] リリカル! マジカル! Kill them All![気分はきのこ](2013/02/28 22:51)
[1] 『作家のオリジナリティ』[気分はきのこ](2011/04/14 15:56)
[2] 『作家のオリジナリティ・2』[気分はきのこ](2011/04/19 11:16)
[3] 『作家のオリジナリティ・3』[気分はきのこ](2011/04/23 11:18)
[4] 幕間 『笑顔』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:16)
[5] 『リアル・リプレイ』[気分はきのこ](2011/05/02 10:16)
[6] 『リアル・リプレイ・2』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:19)
[7] 『リアル・リプレイ・3』[気分はきのこ](2011/05/15 10:27)
[8] 『リアル・リプレイ・4』[気分はきのこ](2011/05/22 13:30)
[9] 『リアル・リプレイ・5』[気分はきのこ](2011/08/20 16:04)
[10] 幕間 『願望』[気分はきのこ](2011/08/20 16:01)
[11] 『∴Y≠U』[気分はきのこ](2013/02/28 22:43)
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[27097] 『リアル・リプレイ・5』
Name: 気分はきのこ◆4e90dc88 ID:30254318 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/20 16:04
過去<未来>の記憶が蘇る。
ヒラルガ・サイトーンの後をつけて行った、佐竹がこの世界<リリカルなのは>に来て初めて目にした殺し合いの現場。
春先とはいえまだまだ寒く感じる真夜中。佐竹は臆する事無く一歩を踏み出し、今から始める死闘に気合を入れた。




















佐竹がバニングス家を出て約30分。ただ一度の記憶を頼りにどうにか辿り着いた先は、老若男女問わず憩いの場である大きな公園。
時刻は午後11時を回ろうとしている。池田隆正<黒金猛>は最長で今ほどの時間までいるという話だが、果たして今も彼がこの公園にいるのか。
覚悟を決めて早々前途多難であるが、しかし佐竹は池田のテリトリー<拠点>を進む。確信は無い。それでも、佐竹は敵がいると信じて、道を歩いた。


【でぇ? 実際どうすんのさぁ? あのカスをぶっ殺すんはダイダイダーイ賛成なんだけどよぉ?
それにしたって、やっぱチッポケな不安はあんだよなぁ。相棒のガッチリムッチリな対策は役立つかねぇ?】


はてさて、と佐竹は両手を上げて首を振るペインの姿を幻視した。しかしペインの抱えている不安は、確かに一番重要な点である。
池田隆正を殺すと決めてからずっと、佐竹はその方法をひたすらに考え続けた。
まずは基礎。池田は『ループ<逆行>』を能力<チート>とした転生者。その基盤となったキャラクターである『白銀武』は、『鑑純夏』という『ループの原因』がいたからこそ、永遠と巡り続けていた。

それを池田に当て嵌めた場合、さて一体何が彼を巻き戻しているのか。原因の一つとして考えられるのが、この現実を作った張本人<黒い人型>である。
しかし仮にそうとすれば、池田はまさしく『無敵』である。『ループの原因』が手の出し様が無いお上<黒い人型>であれば、どう足掻いても逆行<ループ>は止められない。
故にその身に死は無く、永遠と物語<リリカルなのは>は蹂躙され続けるのだ。

だが、その可能性は限りなく低いであろう。佐竹自身も『その可能性』は無いとふんでいる。
本当に件の存在<黒い人型>が池田にとっての『鑑純夏』なら、このゲーム<殺し合い>の勝者は池田隆正以外にあり得ない。そしてそんな最強主人公<設定>を、この作者<黒い人型>が認めるだろうか?
殺し合うように差し向けておきながら、既に勝者が決まっている出来レースに面白味など皆無。
金銭などのチップも賭けて無ければ、予想したキャラクター<転生者>がゲーム勝った事による歓喜も無い。ただ「あー、やっぱコイツの勝ちね」なんていう分かり切った結果が残るだけ。
ただでさえ能力<チート>に凶悪な条件<デメリット>を付けて送りつけているのだ。その様な展開、ほぼ無いと思った方がいいだろう。

だからこそ、もう一つの理由が有力となる。誰しもが真っ先に思いつくであろうそれこそ、池田の逆行<ループ>は『ツール』が原因である、というものだ。

例えば佐竹の場合。彼の身に住み着いたペインという『痛覚遮断ツール』があるからこそ、この先痛みに苦しみ足掻く事は無い。
『寄生』とだけあって完璧に同化しているから引き剥がす事が出来ないため佐竹も確証を持てなかったが、能力<チート>は『ツール』を装備しているからこそ引き出せるのでは、と推測したのだ。

初めてペインと佐竹が出会った時を思い出してほしい。ペインはその時、佐竹に対して『選んだ能力<チート>が、自分<ペイン>である』と、『機能は痛覚を切る事』と明言しているのだ。
であるなら、それは他の『ツール』も同じと見ていいだろう。
既に死んだ明智一真は、舌にピアス<装飾>型の『ツール』を付けていた。だからこそ、彼の笑顔は普通<ノーマル>から反則<チート>へと変貌した。
なら池田隆正はどうか。逆行<ループ>させる事を目的とした『ツール』を肌身離さず持っているから、彼はそれの恩恵<ループ>を受ける事が出来るのではないだろうか。

とすれば、だ。『ツール』とは転生者に与えられた最強の武器。弾丸無制限のロケットランチャー然り。潜入捜査中の段ボール然り。まごう事無き『チート装備』なのではなかろうか。
つまり逆に考えれば、その最強武器<ツール>を取り上げる、又は破壊する事で転生者は一般人へと成り下がるのでは。佐竹はその様に結論付けた。

であるからこその一手は、佐竹の策に含まれている、佐竹と同じ『寄生型』の様な代物では不可能に近いが、幸い池田の『ツール』がどのタイプ<型>か知っていたため、佐竹はその案を採用した。
『知っている』というのも、佐竹は以前の戦闘の際池田の『ツール』を見ているのだ。天に高々と掲げた、押し込む部分が一つしかないリモコン<ツール>を。
あの場で持ち出すのが不釣り合いなリモコン、その形状、予想される使用用途から見て、池田が『操作機器型』であるのは間違いないだろう。そしてそれが物である以上、いついかなる時でも肌身離さず持ち続ける事は出来ない。
ならばこそ、彼のリモコン<ツール>をどうにか出来るとして、佐竹は池田隆正の装備<ツール>を外す事を視野に入れていた。逆行<ループ>を封じられると信じて。

続いて、池田隆正と戦闘する際、佐竹がもっとも気を付けなければならない要素がある。彼の魔法『戦術機召喚』だ。その対策も佐竹は考えたが、ぶっちゃけた話、こればかりはどうしようもなかった。
毎度の事だが、池田が魔法を唱えた瞬間、佐竹の死はほぼ確実。彼自身も9割がた負けるだろうと思っていた。
如何に頑張ろうと、佐竹の手札では有効な致命傷を与える事が出来ない。自慢の釘打ち機も輪ゴム式割り箸銃へ早変わりなのだから。
ここで佐竹があえて『9割』としたのも、単に絶望したくなかったからでしかない。たったの1割。果ては小数点以下の望みになったとしても、そう思った方がまだ気持ちを落ちつけられるから、そうしただけなのである。

以上より導き出した佐竹が勝つための条件が、『奇襲』による先手、『ツール』を奪う、『魔法』を発動させるよりも早く殺す、『逆行<ループ>』の原因が神様<黒い人型>でない、の4つだ。
結局のところ『運』と『自力』がものを言う感じである。
なんとも不利すぎる勝負だよ、このヤロウ。公園に潜んでいるだろう池田に、佐竹は苛立ちを隠そうともせず舌打ちをした。


【ハッハァ! だぁいぶイライラしてやがんなぁ、相棒! でさでさ、まぁずはどっから踏み潰していくんさ?】


一度周りを見渡して、佐竹は池田がいそうな場所を検索する。が、それはもはや一ヶ所しか考えられない。奥に茂る、木々の中だ。
そう断定して、佐竹は鞄から釘打ち機を取り出し、暗く足場の悪い戦場へと踏み入れた。

そうして歩き始めたまでは良かった。そこから先は、佐竹にとって完全に予想外であった。

初心者丸出しの隙だらけな構えで釘打ち機を持ちながら、ガサガサと大地を覆う枯れ葉を踏みしめ、歩く事数分。
何かに足を引っかけた様な感触の後、バンッと、まるで敵侵入の合図を知らせるために、夜の公園を貫く爆発音が高鳴る。
佐竹は思わず飛び退いたが、時すでに遅し。池田が仕掛けたであろうトラップは、その役目を正しく果たした後だった。


「…………くそっ」


もはや佐竹の存在は池田に気付かれてしまっただろう。
暗がりに仕掛けるという在り来たり且つ効果的なトラップに引っかかって、佐竹は策の一つ<奇襲>が失敗した事を悟った。
そしてそれは同時に池田の警戒心を強め、いつでも『魔法』を唱える準備を整わせた事に他ならない。


「ちくしょうっ!」


甘かった。佐竹は、池田を甘く見過ぎていた。
いくら格上としてあらゆる策を練っていたとしても、それは相手も同じ。デス・ゲームに参加する以上、自衛の手段を一つや二つ用意して当たり前なのだ。
加えて、池田隆正が『転生者』であるのも忘れてはいけない。
『転生者』とは、前世の記憶を引き継いだ者。当然、年齢相応の思考をしているはずがない。積み重ねた人生という『経験値』は、時として脅威となる。まさに今この時のように。

しかし、佐竹に残された道は変わらず一つ。狙われていると分かっていながら、今後を警戒しない人間はいない。更に『因果』というリミットを考えれば、佐竹は後退の二文字を選んではいけないのだ。


【オーライ、相棒! まだだ! まだ終わっちゃいねぇ!
ソリッド・スネークもレッド・アラートが鳴り響いたトコで任務放棄はナッスィング! 俺たちゃ伝説の蛇! まだまだ勝ちの要素は残ってらぁ!
おら、行くぜ相棒! 一点目指して、突き進めやぁ!】


ペインの激昂を胸に、佐竹は奥へ奥へと侵入を続けて行く。
途中何度か最初と同じトラップを鳴らせたり、また別のトラップに足を掬われた時は、佐竹も本当に心が折れそうになった。
池田によって巧みに仕掛けられたそれらに注意を払えば払うほど焦り、やはりまた罠が起動してしまう。
焦燥感が冷静さを奪っていく。それは佐竹の命を刈り取る大鎌として、首筋に刃が突き立つ。
ぐっという、今までよりも一等強い圧迫感が脛を押す。刹那、佐竹は背中に生温かい液体が流れていくのを感じた。


【背中に裂傷。深さ18センチのが三つ。幸い重要な血管等に影響ナシ。
ヤロウ、マジでコッチを殺るつもりだぁな。俺は受けより攻め派なんだよ、クソッタレ!】


暗闇で見え難いが、佐竹の背中にはナイフが刺さっていた。トラップの起動として張られていたロープが、佐竹の押す力によって引っ張られ、その先に仕掛けた本命<ナイフ>が彼の背後を刺したのである。
どうにか手を後ろに回し、佐竹は溢れる血と一緒に引き抜いた一本を見た。
一枚の鋼材を削って造られた様に見えるそれは、刺さりやすくするために鋭く砥ぎ、それなりの重量を持たせるなどといった工夫が感じられる、手作りのナイフ。

戦闘のペースは、完全に池田に持って行かれていた。
佐竹はその場で足を止めると、深く深呼吸した。目を閉じる様な愚行はしない。
一寸先は死。集中力を欠いた結果に身震いし――――――――佐竹ははっとした。


「…………やるしかない。いや、やってやる」


死を招く罠。つまり、引っ掛かれば相手は軽くとも怪我をするという事だ。痛手を負って動きが鈍る。そう『思わせる』事が出来れば、或いは。
咄嗟に閃いたのは悪あがきであったが、試さなければ『生』の天秤は傾かない。
だがそれによって強制的に池田との正面衝突が待っているとあって、佐竹は一瞬躊躇するも、しかし首を振って迷いを払う。

まずは、場の準備。
佐竹は蹲る様にして身を屈めると、釘打ち機のモードを『単発』から『連射』へ変え、いつでも拾える位置に置いた。
続いて、ポケットからバニングス製激辛ジュースを引っこ抜く。空いたポケットには、鞄に眠っていた予備の弾丸<釘>を押し込んで。

キャップを開けたジュースを持った左手を身体の陰に隠し、足元の釘打ち機へ不自然に思われない様右手を添える。
これで全ては整った。後は最後の締めとばかりに、佐竹は深く深く息を吸い込み、かっと眼を見開いて天を見上げた。


「ぐぁぁぁあああああああああッ!」


イメージするのは激痛。この世界で感じる事の無くなった痛みを、佐竹は声によって表現する。
彼が思いついた悪あがきこそ、自身があたかも重傷を負ったかの様に演じる事だった。
動きを止めるほどの重症とあれば、これ以上の行動は不可能。となれば、生死を確認する為に動き出すであろう池田を狙ったのである。
その一瞬がチャンス。池田を『視認』さえ出来れば、まだ佐竹にも勝機が残されているのだ。
しかしもし池田が『戦術機<魔法>』を操って来たら、もはや佐竹の敗北<死>は必至。

それでも佐竹は諦めない。先手は取られたが、後手の先はこちらのもの。
緊張と恐怖で震える身体を叱咤し、小さな勝機を待つ。

バクバクとビートを刻む心臓。それに耐えるのが辛く感じて来た時だ。佐竹の前方より大地を揺らして近付いて来る音が響き始める。それはつまり、池田が『戦術機状態』であるという事に他ならない。
理解し、絶望が佐竹を支配する。見通しの甘さ。賭けに負けた悔しさ。これから死ぬ恐ろしさ。その全てに襲われ、佐竹の顔から血の気が失せていく。


「…………約束、守れそうにないや」



ずしんずしんと徐々に大きく聞こえて来た地響き<死の宣告>に、佐竹が最後に思い浮かべたのはアリサ・バニングスとの誓い。
もう逃げる事は不可能。がちがちと小刻みに震える歯が、蹲って固まる佐竹の恐怖を前面に押し出した。

一際大きく大地が軋んだ。同時に、振動が止まった。

何事かと、佐竹は出来る限り俯いたまま、視線を池田がいるであろう方向へ向ける。
木が邪魔してほとんど見えない中、聞こえて来たのは枯れ葉を踏みしめる音。
一歩、また一歩と靴が枯れ葉の道を進む音が近づき、ついにその音源が佐竹の前に姿を現した。
池田隆正である。それも機械<戦術機>ではない、人間の姿をした。

まだ、勝てる。これなら勝てる!
ふっと降りて来た勝機を逃すまいと、佐竹は池田との距離が縮まるのをじっと待つ。
まだ。まだ遠い。後、ちょっと。
息をするのも億劫に感じ、逸る気持ちが先行せぬよう我慢を続けて、佐竹は最高の条件に達する瞬間まで耐え忍ぶ。

待って、待って、待って――――――――ついに時は来た。










「あ、あオァァあああああああッ!? かりャビ! いひハへひなっ!」










喉を押さえて悶える池田には、何が起きたか全く分からなかった。まさか自分の内側が、相手のと同じ『状態』となっているなど、露とも思わないだろう。

それこそが佐竹の『魔法』だった。
魔法発動から先限定の、同調魔法。有効範囲は、視界に入る全ての『人間』。効果は失ってしまった彼の『激痛』を、『現象付き』で相手に押しつけるといったもの。

以前の坂下と溝端の時もそうである。五指、肩の脱臼。それらが彼らに起きた時、佐竹もまた同じ箇所を『脱臼』させていた。
もっとも、自分の意思で簡単に脱臼させる事など無理なのだが、そこは彼に寄生するペインのお陰で成り立つ。

ペインは、佐竹に寄生している。その神経。その臓器。その肉や骨。髪の毛一本血の一滴に至る全てが『佐竹黛<宿主>』であり、ペインの『寄生対象』なのだ。
そんなペインにはある特技がある。佐竹の了承さえ得られれば、彼の身体を弄くり回す事が出来るのだ。
それによりペインは佐竹の骨を外し、魔法として坂下と溝端に映したのである。

して今回。池田が悶え苦しむ理由となっているのが、現在の佐竹の口内である。
佐竹が池田との距離を最高の状態にした瞬間、彼はバニングスの家で貰った凶悪な辛さのジュースを口に含んだのだ。

口内を侵し、食道を流れる劇薬。その刺激<辛味>は『魔法』として池田を攻撃する。
突然の異常事態に池田がのたうつのを確認して、佐竹は釘打ち機に添えた右手を動かし、グリップを握りめて全速で走った。


「うグぅあアッ! いはッ、ゴほっ!」


未だ苦しむ池田に同情はしない。一気に距離を詰めた佐竹は、速度をそのままに狙いを池田に定めて、釘打ち機の引き金を引いた。

バババスッと、連続してガスが白銀の杭<釘>を撃ち出す。元より攻撃手段として設計されていないため命中精度は期待できないが、そこは格言にもある通りに『数撃てば当たる』のだ。
胸に、腕に、足に、顔に。夥しい量の銃創が、池田の表面を塗り潰していく。
残弾全てを吐き出しながら突進し、佐竹は闇の中で血と釘に彩られた池田を蹴り飛ばし、止めとばかりに催涙スプレーを吹き付けた。
水鉄砲の如き勢いで発射された薬剤は、狙い違わず池田の顔面を襲う。


「あがァ! 目ぎャあ! ごふッ! 見えヒャひぃ!」


風に流れた弾丸<釘>が眼球に刺さったのか、両目を押さえて転がり回る池田を押さえつけ、佐竹は彼のポケットを漁る。指に硬い感触を感じ、思いのままそれを抜き取る。タバコの箱ほどの大きさのそれは、まごう事無き池田の『ツール』であった。
これで条件の一つをクリアした。佐竹は奪い取った池田の『リモコン<ツール>』を投げ飛ばし、ポケットから折り畳み式ナイフを取る。


「俺の、勝ちだ」


無数の釘と未知の刺激による激痛<ペイン>にもがき苦しむ池田を見下ろして、佐竹はナイフを振りかぶる。
躊躇はしない。遠慮もしない。気にする必要など、欠片もない。

そして、トスっと。
池田の心臓に終焉を齎<もたら>す一撃が、音も無く振り下ろされた。





















「さぁ、祝宴といこう! サタケくんが帰って来た事に、乾杯!」


長い長いテーブルには今、バニングス家の住人全員が座っている。
各々がグラスを持ち、「乾杯」と声を上げた。

卓に並ぶは豪華な料理。どれもこれもが一級品のそれらに、『彼』は目移りしてしまっていた。


「いっぱい食べてね?」


「むしろ全部独り占めしたいよ」


『彼』の隣に座るアリサ・バニングスに自身の心構えを言って、宴会用に大皿でやって来た料理をどんどん処理していく。
だが悲しい事に、『彼』は何の味も感じなかった。絶品であるはずの料理は、無味無臭のハリボテ。
にも拘らず、『彼』は箸を進めて行く。次々に手を付けては、味の無い料理に頬を緩ませる。


「おいしい?」


「うますぎるぅ!」


幸せそうに微笑むアリサに、『彼』はカロリーメイトを齧ったバンダナ男もかくやと言わんほどの感想を述べた。
そしてまた次の獲物<料理>を求めて動き出そうとした時、アリサの指が『彼』の口元をそっと撫でる。
肉料理にかけられたヨーグルト・ソースだ。『彼』の口周りに付いていたそれをアリサは掬い取り、自分の小さな口へと運び入れる。
その様に照れて俯く『彼』とアリサ。そして何を思ったのか、お互いが同時に顔を上げ、椅子に座ったまま抱きあった。


「ありがとう、黛」


「どういたしまして、アリサ」


すぐ耳元で聞こえる幻聴。彼女の身体からは、もう震えは感じない。
これにて約束は果たされた。『彼』は一切の温もりを感じないアリサを抱いて、彼女と共に世界<リリカルなのは>を生きる事を決心する。










―――――――――そんな夢を、佐竹は見た。





















「今日は皆に大事なお知らせがあります」


これで合計四回目。しかし、やはり他の生徒にとっては初めての言葉。
喪服を着た担任から出るは、クラスメートが死んだというニュース。
この現実が、再度佐竹に実感させる。また『逆行<ループ>』してしまった事実を。


「冬休みからずっと休んでいた明智一真くんと、別のクラスの池田隆正くんが…………お亡くなりになりました」


池田隆正を殺した瞬間、佐竹はまたも晩ご飯中の自宅へと巻き戻されていた。
それによって自分の読みが外れた事を知り、出された飯をほっぽり出して自室へと駆け込み、暴れた。
佐竹が繰り返したという事は、アリサ・バニングスもまた悲劇に狙われてしまう。もう一度彼女は地獄を見る可能性があるのだ。
唇を噛みしめて、佐竹は最悪の結果を悔いた。なのだが、実際は少しだけ違っていた。

池田隆正が、ループした先で死んでいたのである。それを佐竹が最初に知ったのは、ペインのリンク機能による『機器<ツール>』の反応がロストしたという報告だ。
続けて、今日の朝。明智一真の死と一緒に、佐竹は以前には無かった知らない現在<未来>を見る。
明智家の惨殺事件について取り上げられた記事。その隣には『皆の公園で事件発生! 被害者は9歳の子供!?』と、これまた強調されて書かれた殺人事件の知らせがあった。
それこそが、池田隆正の事だったのである。

明智一真が死んだ日。その時間帯、池田は公園にいた。彼の両親とてその事は知っていたが、いつになっても帰って来ない息子を心配して、警察に捜索願を出したのだ。
そうして公園の奥深くで見つかったのが、全身に開いた小さな穴から血を流して絶命していた池田隆正である。
警察は池田の死体から殺人事件として捜査を始める事にしたのだが、周辺に一切の証拠はなく、体中に開いた穴が何かも判明出来ずで、中々進展してはいないのだとか。

以上より、池田隆正は巡り巡ってその一生を怪奇に終えた。そして当然、佐竹は彼の死に、己が身に起きた現象について困惑していた。
何故自分が『戻って』いるのか。何故池田は『帰って来た』時に死んでいるのか。
何一つとして答えを得られなかったが、しかし佐竹はこれ以上この疑問を追及するのを止めた。
何はともあれ、池田は死んだ。つまり彼の『因果』を恐れる必要は無くなり、世界はあるべき姿へと『戻った』のだから。


「皆、目を閉じて明智君と池田君のこれからを祈ってあげてね。…………それでは、黙祷」


各々の想いを捧げだした生徒の中、佐竹はある少女を見つめていた。
金髪が美しい美麗の才女、アリサ・バニングス。彼女は今、一切の穢れを知らない無垢な小学生。
元に戻ったのだから、彼女の身に刻まれた痕は丸々リセットされている。そしてそれは、佐竹たちの約束<誓い>も例外ではない。


「…………ふぐっ…………うぅ」


佐竹は目をきつく閉じ、漏れそうな嗚咽と涙を堪える。
ここで泣いたとしても、明智と池田の死を悲しんでいると誤解されて終わるだろう。
なので思い切り泣いてもいいのだ。だが佐竹は泣かないし、泣いてはいけない。

アリサ・バニングスと親密な関係になるという事は、すぐ様彼の死に繋がる。
彼女は原作のヒロイン。イレギュラーな男が近づいてはいけないのだ。
だから佐竹が泣く必要など無い。正しく『生き延びる』事を祝し、交わした約束<誓い>は泡沫の夢であったと思えばいいのだ。
アリサは元に戻り、佐竹との関係はただの知り合い。それが結末の全て。


瞼の奥に留めた涙が、隙間を通って佐竹の頬を伝って流れていく。
万事解決したにも拘わらず、何故佐竹は涙を流すのか。
原作を取り戻した喜び、ではない。上手くいけばアリサ・バニングス<原作ヒロイン>と恋仲になれたかもしれないあの世界<ループ前>に、少しでも『戻れ』と思ってしまった自分が情けなかったのだ。


「…………ごめん。本当に、ごめん」


佐竹の謝罪は、誰も聞き入れない。彼の言葉の相手である彼女<アリサ・バニングス>にも、聞こえはしなかった。










これにて初めての殺し合いを経験し、その勝者となった佐竹は、今日も今日とて小学生を演じている。
そんな彼の隣に―――――――彼女はいない。






止めろ、止めるんだ<押すな、押すなよ>はフリである。


という事で、これでようやく以前の投稿まで戻りました。
相変わらずの亀更新になりますが、ここから先の展開も、どうぞよろしくお願いします。


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