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No.27097の一覧
[0] リリカル! マジカル! Kill them All![気分はきのこ](2013/02/28 22:51)
[1] 『作家のオリジナリティ』[気分はきのこ](2011/04/14 15:56)
[2] 『作家のオリジナリティ・2』[気分はきのこ](2011/04/19 11:16)
[3] 『作家のオリジナリティ・3』[気分はきのこ](2011/04/23 11:18)
[4] 幕間 『笑顔』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:16)
[5] 『リアル・リプレイ』[気分はきのこ](2011/05/02 10:16)
[6] 『リアル・リプレイ・2』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:19)
[7] 『リアル・リプレイ・3』[気分はきのこ](2011/05/15 10:27)
[8] 『リアル・リプレイ・4』[気分はきのこ](2011/05/22 13:30)
[9] 『リアル・リプレイ・5』[気分はきのこ](2011/08/20 16:04)
[10] 幕間 『願望』[気分はきのこ](2011/08/20 16:01)
[11] 『∴Y≠U』[気分はきのこ](2013/02/28 22:43)
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[27097] 『リアル・リプレイ・4』
Name: 気分はきのこ◆4e90dc88 ID:30254318 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/22 13:30
「生きてまた会える事を、君の知らない『神様』に祈っていよう」


敷地を区切る大きな門を背に、佐竹はバニングス一家と鮫島に見送られて、深夜の海鳴市を歩き出した。
準備は万全。
自宅の老夫婦には、既に友達の家に泊るとの連絡を入れてある。
また、彼自身の装備も完璧だ。
服装はミリタリー・モデル。機動に重きを置いたジャケットとカーゴパンツは、闇に紛れやすくするために夜間迷彩が施されている。踝<くるぶし>を覆うレースアップ・タイプのブーツは、まだ細く弱々しさを感じさせる子供の足に力強さを与えている。
肩よりかけた小さめの鞄の中には、デビットより貰った釘打ち機が、今か今かと己の出番を待っていた。

黒金猛との戦闘にて佐竹の主要武器になるだろうそれは、バニングス家の中で一等ハイテクな物らしく、先に彼が使った釘打ち機よりも軽く、それでいて弾数も多い。
更に佐竹でも使いやすい様にと、脇に挿んで固定するためにカスタムされた至高の一品である。
ちなみに、ズボンのポケットには廃ビルで拾った折り畳み式ナイフと、催涙スプレー。おまけにアルミ製の容器に入れられた、ハバネロとジョロキアが5:5の混合ジュース。


【過程がどうあれ、大事なのは今! 昔のコトぁ気にせず、心置きなくヤロウを血風呂<ブラッド・バス>に沈めてやろうぜぇ!
いっやー、楽しみだなぁ相棒! レッツぅ・モリモリぃ・クッキーングってなぁ!】


この時まで文句以外の言葉を出さなかったペインも、打って変わってノリノリである。
そんな気移りの激しいペインの声に答える事無く、佐竹は目的地へと歩を進める。
向かう先は、別の未来で行った件の公園。そここそが、黒金猛の『拠点<ホーム>』であるのだ。




















鮫島に呼ばれ、戻って来た応接間。妻のレヴェッカは出て行ったのか、一人佐竹を待っていたデビットは一枚のA4用紙を彼に差し出した。
受け取り、そこに書かれた『黒金猛(池田隆正)』と題された情報を読んでいく。だがそのあんまりな内容に、佐竹は思わず「なんじゃこりゃ?」などと言いながら呆れ返ってしまった。


【へぇへぇへぇ、なるほろねぇ。コイツってバカでゴミムシなクソガキだったのなぁ。
まぁ、あのメカがありや襲われても簡単に死にゃあしねぇだろうけど、それにしてもコレぁ世界ビックリ仰天だなぁ】


渡された用紙に書かれていた内容で佐竹とペインが一番興味を惹かれたのは、黒金猛の意味不明な生活であった。

デビットの調べ曰く、姓が『池田』の家に産まれた一人息子『池田隆正』は、聖祥大付属小学校の三年生で、席は窓際の前から三番目。
池田隆正の不登校が始まったのは、三学期最初の授業からである。同時期、彼は近所の公園へ頻繁に訪れる様になる。公園の奥にある林へ向かっている彼の目撃情報が多数。
そこで何が行われているかは不明だが、両親の意見を無視してまで向かう辺り、何らかの行動を取っているだろう。
四月に入ってから気温が上昇したためか、最長で午後11時まで公園に滞在している模様。尚『黒金猛』という偽名は、彼が不登校を始めた時期より名乗り始めた、といったものだった。

黒金猛改め池田隆正の不可解極まりない行動が綴られた用紙を応接間の机に置き、佐竹は頭を抱えた。
さっぱり分からなかった。池田隆正が何をしたいのかも、何のために公園へ行っているのかも。
逆に混乱しか生まなかった情報に唸る佐竹。デビットはそんな彼を見て、同意するかの様に頷く。


「君もやはりそう思ったか。私もこれを見た時は、君と同じ心境だったよ」


苦笑しながらその時の事を思い出しながら、デビットはもう一枚の用紙を取り出した。
それを見て、佐竹はとりあえずはと、池田隆正の事について考えるのを放棄し、渡された用紙を受け取る。
彼が要請したのは二人の情報。黒金猛<池田隆正>は見た。ならば次は、もう一人の転生者。
だが受け取った用紙には『ヒラルガ・サイトーン』というタイトルだけで、肝心の部分は白紙のままであった。


「ユウキ・ナカムラ、或いはヒラルガ・サイトーンという少年についてだが…………調べたところ、君の言っていた人物像に当て嵌まるターゲットは『この世に存在しない』という事が分かった」


「存在しない、とは?」


「あらゆる情報が無い<UNKNOWN>。出生から現在に至る一切が、だ。それこそ、元々そんな人間などいないと思ってしまえるほどに。
大口を叩いていながらこの様で、本当に申し訳ない」


正直なところ、佐竹とてヒラルガについてはあまり期待していなかった。
存在が消えたのを知っていたからこそ、いくら探しても全てが白紙になっているだろうと思っていたのである。

佐竹はデビットに感謝の意を表すと、そのままソファーから立ち上がる。
それが意味する事を察したのか、デビットは強張った顔付きで言った。


「もう、行くのかね?」


「はい。今は午後7時。となれば外も暗いですし、この間に決着を付けるのが一番好ましいでしょうから。
…………そういや釘打ち機持ってこりゃよかったな。ちくしょう、ミスった」


「釘打ち機? ――――ああ、なるほど。あの時の、か。確かに、アレはハンドガンより反動が少ない分、君の様な子供の身体には適しているかもな。殺傷力、飛距離などは相当劣るが、無いよりはマシか。
…………よし、ならば少々待っていたまえ。家の物を持って行きなさい。その身なりでは持ち運びに不便だろうから、換えの釘やボンベも鞄に詰めさせて持って来させよう。
その辺の三流品とはスペックが段違いだからな。きっと役に立つだろう。ああ、ついでに君でも扱いやすいように、軽くカスタムするのも悪くない」


思い立ったが吉日とばかりに使用人を呼んで準備を始めさせたデビットの心遣いに礼を述べ、佐竹はまたソファーに座って武器<釘打ち機>が届くのを待つ事にした。
その間、応接間に戻って来た時に出されていた紅茶に、初めて口をつける。
もう冷めてぬるくなっていたそれは、しかし淹れた人間のスキルを思わせるほどに絶品であった。なのだが、如何せん小市民な佐竹に味の違いなど分かる訳も無く、ただメチャクチャうめぇ、というリポーター真っ青な感想を抱くに終わったが。


「なぁ、サタケくん」


静かに紅茶の味を楽しんでいた佐竹に、呟く様なデビットの声が飛ぶ。
何事かと顔を向けたが、腕を組んでいたデビットの眼を見て、佐竹は脳内が冷めきっていくのを感じだ。


「先も言ったが、アリサの件は本当に感謝している。なのだが、一つ聞きたい。君は今日アリサが『あの様な目』に合う事を知っていたのかね?
――――いや、愚問か。知っていた。そうに違いない。だろう?」


デビットの睨みが、鋭く佐竹に突き刺さる。彼の射殺す様な視線を浴びて、佐竹は彼が何を思い、何を言わんとするかを察し、それが当然だと納得した。


「そう。君は知っていたのだから、クロガネを探した。その先起きるだろう出来事を未然に防ぐため、君は彼を殺そうとした。
結果的に君のおかげでアリサの命が救われたとはいえ、一分でも、一秒でも、クロガネを探すと決めた時よりも早く私達にアリサが狙われている事を伝えてさえくれれば、そもそもあの娘は一切の『傷』を負わなかったかもしれない。
八つ当たりと分かっている。だが言わせてもらおう。――――何故。何故だ。何故、君は何も教えてくれなかった」


佐竹の全てをデビットは知っている。彼が暴露したから、事の結末に至る過程の全てを理解出来ている。
だからこそ、デビットは佐竹に問わざるを得なかった。可愛い愛娘を無傷で助けられたのに、最善の策を取ってくれなかったのか、と。
無言のまま、時が過ぎていく。当然だ。佐竹がデビットに返せる言葉は、その事を『忘れていた』以外一つも無いのだから。

アリサを救うためには、池田隆正の『因果』が邪魔だ。それがある限り、アリサは常に狙われるだろう。なら最善は彼を殺す事である。
始め佐竹が考え付いた先の答えが、これだ。確かに、アリサを含む様々な『因果』を持って来てしまった池田を始末するのは正しい。原因を潰せば、事は解決するだろうから。

しかし、問題はそこからだ。
佐竹がアリサを救うために行動したのはいい。だが、その方法を『黒金猛<池田隆正>を殺す』としてしまったのが間違いだったのだ。
アリサを救うための手段なら、他にもあった。デビットが言う様に、先にアリサの親であるバニングス夫妻に伝えるのだって、手の一つである。
いくら演技までして自身を隠そうとする佐竹とはいえ、匿名での連絡ならば問題はない。
しかしそれら他の方法を取れなかったのは何故か。答えは、佐竹の『視野の狭窄』である。

そもそも、何故佐竹は池田隆正を殺すと決めたのか。きっかけは、アリサ・バニングスの死で違いない。
しかし、きっかけは彼女の死だけでは無かった。佐竹が救済しようとしたのは、『因果』によって狂った『原作キャラ』なのだ。
アリサ・バニングス。高町士郎。月村すずか。佐竹の知る原作<リリカルなのは>から遠ざかった三人。彼らを救う事こそが、佐竹を動かしたのである。
だからこそ、佐竹は目標を対象<池田隆正>の抹殺としたのだ。そして、そうと定めてしまった以上、後はスピード勝負になる。

如何に相手を探すか。見つからない様に殺す手段は。仮に戦闘を行う場合、どの様に立ち回るか。それら全てが終わった後はどうなるか。
過去<未来>で見た戦闘の光景から、佐竹は池田を格上の敵として見ていた。思考回路は佐竹に分があるのだが、戦闘技能は間違いなく相手が有利。策を練らなければ、まず勝てない転生者なのだ。
その上、相手に勝った後の事もある。対峙したのを他の転生者に見られてはいけない。もし見つかれば、後々面倒になるのは確定である。
だから佐竹は考えた。ただひたすら、黒金猛<池田隆正>を殺す手段を。最中がバレない戦いを。事後の振る舞いを。

途中ヒラルガの消失というイレギュラーも挿んだが、その一点のみに意識を持って行かれていたからこそ、佐竹は失念してしまったのだ。デビットが述べる『最善』の存在を。


「…………いや、よそう。過ぎた事として捨て置くにしては大き過ぎる問題だが、感情的になるのもいけない
悪かったね、サタケくん。君は確かにアリサを助けてくれた。しかし私も、そして妻も『何故』という気持ちを抱いた事を、忘れないでほしい」


デビットとて佐竹を責めるつもりで彼に問うた訳では無いにせよ、やはりそこは人間。感情で突き動かされるのはよくある話だ。
佐竹が自身の娘<アリサ・バニングス>を助けた結果が最善<ベスト>とは到底言えなくても、その事実が覆る事はない。故に、デビットは佐竹を非難すべきではないのだ。
そうと分かっていても、デビットのどうしようもない気持ち<親心>が拭えないのは確かである。彼もまた人間なのだから、その気持ち<親心>が佐竹に最善<ベスト>を求めてしまったのだ。
しかしデビットは、これ以上の追及を止めた。煮え切らないとはいえ、どこかで締めないと堂々巡りになると分かっていたから。


「…………すいません」


デビットの言う最善<ベスト>を選べなかった事に対するものか。それともこの話を終わりにした事に対するものか。
何を思って謝罪としたのかは定かではないが、佐竹は沈鬱とした表情で呟いた。

気まずい空気が二人の間を漂う。自分から切り出した話とはいえ、その空気に居た堪れなくなったデビットは、換気するかの様に別の話題を持ち出した。


「と、ところで先ほどから気になっていたのだが、聞いてもいいかね?」


「…………あ、はい。なんでしょうか?」


未だ晴れない顔付きの佐竹に、デビットは彼の両手を指さす。


「その手。どうして破ったシャツを巻いているのだね? 怪我だとしても、そこまで酷いのに君は痛がる様子を見せない。返り血とも思ったが、それにしては不自然なのでな。
――――いや、待て。確か君は『痛み』を感じない身体だったね? という事は、もしやその中は…………」


嫌な予感がして若干苦笑いを浮かべたデビットに、佐竹ははっとなって傷口を塞いでいたシャツを解き始めた。

廃ビルでバニングス夫妻を待っていた時、佐竹はアリサの身体を拭くために、まずは自身の掌をどうにかしなければならなかった。
釘が貫通した両手は、当然血が止めどなく流れている。そのままでアリサの汚れを拭っても、今度は彼の血が付いてしまう。
そのための処置として、中に着ていたシャツを割れたガラスで裂き、両の掌に巻き付けていたのだ。
ただ、傷は思ったよりも深かったために何重にも巻く必要があったが。その分短くなっていくシャツに、佐竹はちょっぴり悲しくなった。

そうこうして出来あがった止血帯<シャツ>に、デビットが返り血と思ったのも仕方が無い事である。
血の滴る両手で、純白を保ったまま疑似包帯<シャツ>を巻く事が出来るだろうか? 当たり前だが、不可能だ。
結果として、所々が真っ赤な応急処置の出来あがりという訳である。


「ああ、そういえばそうだ。自分もすっかり忘れてましたよ。少し待って下さっておおぅ!?」


まずは右手からと、スルスル解かれていくシャツの包帯。2周3周と解かれた瞬間、シャツを貫通して血が溢れ出した。
慌てて佐竹は左手で血を受け止める。それでも全てを支える事など出来ず、掌から溢れた血が高級感たっぷりのカーペットにボタボタと落ちていく。
うほぁ!? クリーニング代なんぞ払えるか! と、パニックを起こしてどこかズレた思考回路になっていた佐竹だが、それを間近で見たデビットはそれ以上に衝撃を受けていた。

嫌な予感が的中し、それは予想よりも相当な傷であったのだ。
厳選された高級天然素材ウールを100%使用。40ミリの太いフェルトタイプの糸をダイナミックに使い、こだわりの製法によって言葉では語り尽くせないふわふわ感を引き出した、当時30万円ほどで買ったカーペットに鮮血の血が広がって行くのをただ眺めていたデビットは、無言のままに立ち上がる。


「すいません! でもクリーニングは出しますから! いくらでも出しますからぁ!」


まだ頭が治っていなかった佐竹の懇願にも答えず、デビットはくるりと応接間の扉へと歩き出し、ゆっくりとそれを開く。
そして大きく息を吸ったかと思えば、雷鳴の如き怒鳴り声が屋敷に轟いた。











「鮫島! 鮫島ぁ! 大至急医療スタッフを呼べ! オペの準備をしろ! サタケ君がランボーの真似事をしていた! HURRY、HURRY<急げ、早くしろ>!
ああ、Dammit<クソッタレ>! サタケ君! 君、実はターミネーターではないのかね! 今ならシュワルツェネッガーは私です、などと言われても信じて疑うものか! 転生だ何だとか、そんな話より分かりやすい!
ならばぜひともイカした台詞の1つや2つ言ってほしいものだよ! 遠慮などしないで、ほら言ってみたまえ! レヴェッカ! 今から君の聞きたがっていた生<リアル>が出るぞ!
鮫島ぁ! バーガーでも食っているのか!? それともだらしなくPiss<小便>でも垂れ流しているのか!? Fuck’n Jap<くたばれ、日本人>! 鶏の様に締められたくなければ、さっさとしろぉ!」










さっきまでのシリアスはどこへやら。一瞬にして騒然とするバニングス家と、佐竹同様に壊れたデビット。
彼の本性を垣間見た気がした佐竹は、引き攣る顔をそのままに、もしやアリサまでもがそうなのでは? あの釘宮ボイスで、口汚く罵るのか? などと想像して、自分の抱いていたファンタジー<妄想>がズタズタになっていくのを感じるのだった。
最後に、自分はスタローンでもシュワちゃんでもありませんから! と声が聞こえているのか怪しいデビットに叫んで。




















アイル・ビー・バック。
慌ただしくなったバニングス家もようやく一息つき、どうにか無事生還した佐竹は今、何メートルあるのか分からないほど長いテーブルの前で、ナプキンを装備しながら座っていた。
穴を塞ぎ、消毒をして本物の包帯を巻いた掌を見て、佐竹はここに座るまでの光景を思い出す。

囚人の如く連行された処置室。固定される両手。そして始まる治療<手術>。
デビットは佐竹が痛みを感じないのを知っているので、わざわざ「麻酔などいらん! もったいない!」と余計な事を言う始末。
戸惑うスタッフ<使用人>にゴリ押しで治療をさせる辺り、やはりデビットはぶっ壊れていたのだろう。
しかしその後、ついでだからと晩御飯に招待されたから許そうと思ってしまった佐竹は、現金な自分に乾杯<完敗>したのだった。


【おいおい、マユっちよぉ! 大富豪の飯かっ喰らえるって、そりゃマジかよマジですよマジなんだよなぁ!
いいぜいいぜぇ! まぁずは、三大珍味は当たり前。そっから派生して、知る人ぞ知る珍味は男前ぇ!
ヒャッハー! 最高だぜデビちゃん! いよっ、イイ男! イイ男! ホントはどーでもイイ男ぉ! ぶひゃっひゃっひゃあ!】


簡単に説明すればこういう事なのだが、それにしても金持ちの食事とは如何なるものか。腐っても小市民な佐竹は、期待に胸を躍らせる。そしてそれはペインも同じらしく、無駄にテンションを急上昇させ、佐竹の中でエキサイティングしまくっていた。


「待たせたな、サタケ君。大事な客を招待するとあっては、私も見栄を張りたくなる。今日は存分に堪能してくれたまえ」


「あらあら、パパったら張り切ってしまわれて。サタケさん、どうぞリラックスして下さってね?」


「お、お気遣いありがとうございましゅ」


腐っても小市民。何度でも言うが、佐竹は所詮小市民なのだ。
長いとはいえ、そこに座るのは佐竹とバニングスの人間だけである。鮫島以下使用人は、席に座っていない。
そんな中で緊張するなというのが、土台無理な話。その上、佐竹達よりも少し離れた椅子に腰かける『少女』の事を考えれば尚更だ。


「…………なんでいるの?」


それは俺が聞きたいよ、アリサ・バニングス。
まだ体調がいいとは決して言えない彼女がどういう訳か共にいて、佐竹は思わず尋ねた。


「お前こそいいのか? 顔色悪いぞ?」


「…………正直言って、まだ恐いわ。それこそ今すぐこの場を逃げ出して、部屋のベッドに潜り込みたいくらいよ。
でも、でもね? 私は慣れなきゃダメなの。私はアリサ・バニングス。この家を継ぐ人間なのよ。
それは時として、私の事情を無視しなければならないの。なぜなら私は『バニングス』だから。
だから私はここにいる―――――けど、きっとあのままじゃ絶対無理だったわ。
私がここに座っているのも、全部アンタのおかげよ」


あまりにも強すぎる。力ではなく内面の強さに、佐竹は驚愕した。
つい数時間前に思い出すのも忌々しい出来事があったというのに、何故アリサがここまで『強い』のか分からず、佐竹は驚きで半開きの口を閉じるのも忘れて彼女に魅入られていた。
しかし聞き捨てならない言葉を思い出し、首を左右に振ってそれを持ち出す。

「俺のおかげ? そんな重要なこと、言ったか?」


「…………いっぺん、死んでみる?」


それはキャラと中の人が違う。ついでに世界も違う。
メタな突っ込みを頭の中からすっ飛ばして、佐竹はアリサに睨み付けられている原因を脳内から掘り出す。
だが見つからない。ここまで彼女を『彼女<アリサ・バニングス>』に戻すほどの言葉を、佐竹は思いつかなかった。
中々答えを出さない佐竹に腹を立てたのか、アリサは以前より覇気の籠った、しかしまだ本調子とは言えない声で佐竹の記憶を呼び起こす。


「アンタが言ったのよ。汚れてなんかいない。何もかわっちゃいない。私の全部を受け入れるからって。
陳腐な言葉だけど、凄く嬉しかった。抱き締められてあの恐怖が蘇ったけど、それでも嬉しかったの。
だから、ちょっとだけ頑張ってみようと思えた。アンタみたいな人のために、その気持ちに応えられるように。
――――――――でも、これってある意味、愛の告白よね? ホント、あんな目に合ってすぐの私に言う台詞じゃないわ」


少しだけ軽蔑を含んだ視線を向けるアリサに、自分が言ったクサすぎる言葉を思い出して、佐竹の頬が熱を帯びていき、堪らず眼を逸らした。「あ、逃げた」なんて言われても、佐竹は一切気にも留めない。


「告白? アリサ、それはどういう事だね?」


「私も気になりますね。アリサ、どういう事ですか?」


魔王からは逃げられないとはよく言ったもので、野次馬根性剥き出しで娘に迫る親馬鹿が2人。
そんな彼らに、やはり少々の怯えを見せながらも、アリサは質問に答える。


「アイツが言ったの。部屋で塞ぎ込んでいた私を、力いっぱい抱き締めて。
恐くて放してって暴れても聞いてくれず、そのまま今のを言ったの」


「なんと…………サタケ君。君は実に女ったらしだな。女性が参っている時に優しさを見せ、落としにかかるとは。
生前もそうやって女性と夜の関係を築いていたのではあるまいな? とすれば、貴様にアリサはやらんぞ! 表に出たまえ、Yellow Monkey<クソガキ>!」


「それは誤解です、デビットさん! そこまで自分はずる賢く出来ていません!
そりゃ夜の関係があるか、と聞かれればYesと答えれますが…………って、何言ってんのさ俺は」


「生前? 夜のカンケイ? ――――そういえば、アンタって何なの?
あの時も演技がどうこうって、高校卒業出来るほどの学力はあるって言ってたし」


「ああ、アリサは知りませんでしたね。サタケさんて、実は宇宙人で大学生をやっていらしたのよ?」


「宇宙人? 大学生? ママ、それどういう事? まさかU.S.で飛び級したとか言うんじゃないでしょうね?」


「レヴェッカさん! 自分宇宙人じゃないけど、そりゃトップ・シークレットです! ついでにそこ! 俺はコナンだけど天才じゃない新一だ!」


加速する親子+αの会話。どこかユーモアが感じられるそれは、その実この場では非常に有効であった。
今でこそアリサ・バニングスはこの調子だが、それでも彼女に深く根付いた傷は癒えていない。であるからこそ、ユーモア<笑い>は必要なのである。

アメリカの医師ハンター・アダムス。パッチ・アダムスとしても呼ばれる彼が証明した、愛とユーモアの力。
彼の研究が昇華され発表された、この2つが精神の病に効果的だという結果を、佐竹は異世界にて実感したのであった。

アリサの顔色が、最初よりも格段に良くなって来ている。
まだ多少の怯えを見せているものの、彼女に癒しの効果が現れているのは明らかだ。
理解出来ない会話に興味が移っている事もあるだろうが、それで彼女が『アリサ・バニングス』に戻れるならと、佐竹は過去<現在>の話をネタにする事を決めた。
この家において、彼は全てを曝け出している。そこに一人真実を知る人間が増えた所で、もはや今更だとしたのだ。


「…………はっはっはぁ! まぁ、そういうわけでさ。バニングスは知らないだろうけど、こう見えて俺は宇宙人――――いやいや、転生者なのである! 世界の真実を知る、六人の勇者様なのだー!」


ならば道化に。この空気を暖め続けるピエロになってやるさ。
事実は多分に捏造されてはいたが、それを糧に佐竹は乏しいセンスでユーモア<笑い>を撒き続けるのだった。





















「また、助けられてしまったな。君のおかげで、アリサは少しだが調子を戻したようだ」


時は過ぎ、現在。佐竹はバニングス一家と鮫島に見守られる中、門前で佇んでいた。
時刻は午後10時。楽しかった食事が最後の晩餐となるかもしれない、運命の時間の始まりである。


「こちらこそ、何から何までお世話になりました。これで負けたとあっては、皆さんに顔向け出来ませんね」


ぽんぽんとズボンのポケットを叩きながら、意表を突く切り札<エース>は、何もペイン協力の下に出せる『魔法』だけではないのだと言わんばかりに、佐竹は笑った。
その中に潜むは、強烈な刺激性を持つ唐辛子の混合ジュース。ミックスされているのは、ハバネロとジョロキアだ。

というのも、それはご飯の最中。料理に含まれていた鷹の爪を物ともせず同席していたバニングス一家に驚かれ、それにより佐竹は自身が『辛味』を感じない体質である事を思い出したのである。
『辛味』は『痛覚』で感じるもの。つまりそれは、佐竹の『魔法』に利用できる代物であるという事。
故に佐竹は、ハバネロとジョロキアを凝縮して混ぜ込んだ殺人的調味料を用意してもらっていたのである。


「まったくだ。ならば、サタケ君。君はどうやってこの誠意に応える?」


「では、またあの晩ご飯をご馳走になる、というのはどうでしょう?」


「なるほど、ナイスな答えだ」


佐竹の切り返しに声を出して笑いながら、デビットは右手を差し出した。対して、佐竹を相応の笑みを浮かべて彼の手を握り返す。


「生きてまた会える事を、君の知らない『神様』に祈っていよう」


「ありがとうございます。仮に何かがあっても、決してデビットさんたちに迷惑はかけませんので」


「迷惑、かね。もう忘れたか? 私達は自らの意思で君に協力したのだ。
次、もし迷惑などとふざけた事を言えば、君のナニを家の犬に食わせてやる」


「それは恐い怖い――――――――それでは、また会える事を楽しみにしています」


一度強く握手を交わし、佐竹は踵を返した。
一歩目は重く、しかし二歩目三歩目は悠然と。そうして歩き始めた佐竹の背中に、柔らかな感触が広がった。


「さたけ」


背後より抱き留められる佐竹。回された腕と震えが目立つ声色から、その人物がアリサ・バニングスである事を悟った。
「どうかした?」と佐竹が振り向こうとして、アリサより強く「前を見て!」と拒絶され、言う通りに街灯に照らされた夜道に視線を固定する。
そのまましばらくし、ようやくアリサは口を開いた。


「全部、全部聞いたわ。ご飯の後、パパから貴方の……………………佐竹さんの事を全部」


道化と化していたあの時。佐竹は自分が転生者である事は言っても、彼女に起きた惨劇の理由といった重要な部分は一切話さなかった。
だが今の言葉から、アリサは全てを知ってしまったのだろう。

なればこそ、佐竹は解せなかった。震える身体に鞭打ってまで、何故彼女は抱き留めようとしたのかが。
聡明な彼女からすれば、今から佐竹が何をするのかも分かっているはずである。
なのに何故、と佐竹は戸惑う。それに気付いたのか、アリサは一度深く息を吸い込んで、想いを吐き出した。


「ありがとうございます。佐竹さんが私のために命を脅かしてまで助けてくれた事、本当に感謝しています。
ごめんなさい。佐竹さんが私を救おうと必死になってくれていたのに、私は貴方を拒絶してしまいました。それは今も同じです。
お願いします。私の全てを奪った彼に、貴方の鉄槌を下してください。
待っています。次に会う時、私はこの恐怖に打ち勝ってみせます。だからその時にまた――――――――抱き締めてもらえますか?」


ふるふると震える振動を背中で感じながら、佐竹は無言でアリサの告白を受け止めた。
彼女の言葉にどれだけの決意が込められているか。その強さを佐竹は理解しきれていない。
だが、問いには答えを。アリサ・バニングスは今、佐竹の返事を待っているのだから。

血が通っているのか不思議なほどに青白くなったアリサの手に触れ、佐竹はその拘束を優しく解く。
びくっと大きく跳ねた彼女を気にせず、そのまま振り返ってアリサの冷えた手を包み込む。
目線は同じ。涙が滲む瞳を見つめ返して、佐竹は意地悪そうに笑った。


「何よりもまず、敬語は止めよう。俺たちは同い年じゃないか。後はそうだな。俺のハグでよければ、いつでも言ってよ。友達のお願いなら、断る理由なんてないさ」


あっはっは、と笑う佐竹にアリサはぽかんと口を開いて、そしてにっこりと極上の笑顔を見せた。
紛れも無く美少女である彼女の笑顔だけで、佐竹は少しばかり勇気を与えられた気がした。


「けど、これで本当に負けれなくなった。こんな約束したんだ。破っちゃ、後がどうなるか考えたくないよ」


「そう…………それじゃあ、オマジナイが必要ね。
絶対に帰って来れる最高のオマジナイ<護り>を。約束を果たせる様に、絶対のオマジナイ<誓い>を」


天使の様な頬笑みを浮かべるアリサは、そのまま震える両手で佐竹の頬に触れると、その小さな唇を佐竹のそれへと重ね合わせた。
息を飲む佐竹。視界いっぱいに広がる、眼を閉じたアリサ。
頬に触れる手の冷たさが心地よい。唇に触れるキスの熱が気持ちいい。
時間にして5秒ほどの口付けは、佐竹に更なる誓いを突きたてた。


「は、ははっ。これは半端じゃない効き目がありそうなオマジナイだよ。マジで死ねなくなった。仮に黒金に殺されても、その先でデビットさんに嬲り殺されるかも」


「何を言う。奴が君を仕留めるよりも早く、私が死神の鎌を振ってやろう」


「冗談に聞こえないのが本当に恐いですね。くくっ、あはははははっ!」


腹を抱えて笑う佐竹の声が伝染して、アリサが、バニングス夫妻が、鮫島が。近所迷惑もかくやというほどに大声で笑い出した。
その中で佐竹は本当の覚悟を決める。必ず黒金猛、いや池田隆正<因果>を殺してみせる、と。










こうして新たな決意を胸に、佐竹は真夜中の海鳴市を歩き続ける。
向かう先は池田隆正が待つ公園。佐竹に生き残る以外の道は、許されない。


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