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No.27097の一覧
[0] リリカル! マジカル! Kill them All![気分はきのこ](2013/02/28 22:51)
[1] 『作家のオリジナリティ』[気分はきのこ](2011/04/14 15:56)
[2] 『作家のオリジナリティ・2』[気分はきのこ](2011/04/19 11:16)
[3] 『作家のオリジナリティ・3』[気分はきのこ](2011/04/23 11:18)
[4] 幕間 『笑顔』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:16)
[5] 『リアル・リプレイ』[気分はきのこ](2011/05/02 10:16)
[6] 『リアル・リプレイ・2』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:19)
[7] 『リアル・リプレイ・3』[気分はきのこ](2011/05/15 10:27)
[8] 『リアル・リプレイ・4』[気分はきのこ](2011/05/22 13:30)
[9] 『リアル・リプレイ・5』[気分はきのこ](2011/08/20 16:04)
[10] 幕間 『願望』[気分はきのこ](2011/08/20 16:01)
[11] 『∴Y≠U』[気分はきのこ](2013/02/28 22:43)
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[27097] 『リアル・リプレイ』
Name: 気分はきのこ◆4e90dc88 ID:30254318 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/05/02 10:16
アリサ・バニングス。世界的大企業の令嬢が殺されるという事件故に、その情報は各国へと流されている。
報道内容は実に胸糞悪いもので、簡潔に述べれば『凌辱された挙句、殺された』というものだ。
もはや世界は形だけが似た別物へと変貌を遂げた。高町なのはの首からレイジングハートは垂れているものの、もはやこれは『リリカルなのは』などでは無かった。




















リリカル! マジカル! Kill them All!!
――第一章 『リアル・リプレイ』――



















アリサ・バニングスの死を佐竹が知って数日後。今度は高町なのはの父親、高町士郎が意識不明の重体として病院に搬送された。
彼の経営する喫茶店『翠屋』にてのガス爆発。厨房内に漏れていた可燃性ガスが、コンロの火に引火したのが原因と見られている。

きっかけは、とあるパーティ。
高町士郎率いる少年サッカーチーム翠屋FCが、試合に勝利したのだ。その祝勝会として、件の店にてパーティが開かれていた時、その事件は起きたのである。
子供とはいえ、チーム全員の食事を作るのは骨が折れる。始めは高町なのはを除く一家総出で、オーダーを捌いていた。
が、それも一段落ついて士郎一人がキッチン、それ以外がホールスタッフとして前に出た瞬間だ。

厨房より響く轟音。フロアに流れる大量の黒煙。
爆発でスプリンクラーが壊れなかったのは、まさに僥倖といえるだろう。火災はすぐに鎮火し、被害は破損したキッチンと重症の高町士郎ただ一人。
不謹慎だが、最近になって事件が多発し記事に困らない新聞会社は、当然の様に今回のガス爆発事件も詳しく取り上げていた。

普通なら不運な事故と見るだろう。しかし佐竹たち<転生者たち>は違う。アリサ・バニングスの件も、そして何より彼らの知る『あの』高町士郎がガス漏れなどという『簡単な』異変を見逃すとは思えない。
原作<リリカルなのは>も、その大元<とらいあんぐるハート>でも、高町士郎は元SP<セキュリティ・ポリス>。死が常に付きまとう職を経験した人間だ。そんな彼が、ガス漏れ如きに気付かないわけがないのである。

だが、現実は違う。高町士郎は今、生死の境を彷徨っている。
失礼と分かっていながら、佐竹は自分の『ある』記憶が確かなものか確認すべく高町なのはに父親の状態を聞いてみれば、生気の無い瞳で「もう、会えないかもしれないんだって」と教えてもらった。
高町士郎の事も気がかりだが、佐竹はここまで憔悴した彼女がジュエルシードを探しているのか心配になった。

例えば、最近佐竹の住む海鳴市で起きた、大規模な魔法災害。アニメ<原作>を思い出せば、翠屋FCが勝利した日であり、本来の歴史には無い高町士郎が倒れた日の出来事である。
地響きと共に現れた敵は、大樹。運命の女神が守る世界樹<ユグドラシル>といっても過言ではないほど、眼下の人々を圧倒していた。
その大樹も、数分後には幻であったかの様に塵となって消えた。もっとも、その傷痕は確かに残っていたが。

更に、例えはある。月村すずかだ。
高町士郎の時と同じく、アリサ・バニングスが死んで数日後。普段から大人しく、引っ込み思案だった彼女が突然、何かに怯えているかの様な態度を見せ始めたのである。
特に『男』対して拒絶を見せる彼女。だが『女』にもその感情はキッチリと込められている。
親友である高町なのはすらも遠ざけている以上、月村すずかは、所謂『対人恐怖症』を引き起こしていた。
アリサ・バニングスの死をきっかけにしているとしては、少々おかしな話である。不審に思っていた佐竹だが、答えはあっけなく出て来た。

月村すずかに異変が起きてしばらく、いつも変わらないヒラルガ・サイトーンが彼女に情熱的なアピールをしていた時である。
アリサ・バニングスの死には訳が分からないといった様子であったが、次の日からはいつものヒラルガ<変態>に戻っていた彼。
普段を知る者からすれば、これもまた不可思議極まりない。嫁だ何だと日夜叫んでいる人間が、いざその死を告げられて何も変わらないのだから。
そちらについては未だ分からず仕舞いの佐竹だが、そんな彼の思考をぶち壊す異常事態が起きた。
ヒラルガが最近独りでよくいる月村すずかに歩みより、相変わらずの声をかけたその刹那。










月村すずかが、ヒラルガ・サイトーンを『押し倒した』のだ。更にそのままヒラルガに抱きついて、彼の首に噛みついたのである。










あり得ない、と佐竹は思った。いつもの月村すずかからは考えられない大胆な行動に、ヒラルガの『いつも通り』を考える脳がすっ飛んでいく。
頬を上気させながら、淫らに血を啜る月村すずか。じゅるじゅるという音だけが、教室を支配する。
どれほどの時間が経っただろうか。一心不乱に血を飲み下していた彼女はようやく正気に戻ったのか、慌ててヒラルガを拘束から解放する。
そのまま立ち上がるが、そこまでの一部始終を佐竹たち生徒に見られていた事に気付き、死人もかくやというほどの青白さで泣き叫んだ。
伸びた犬歯と口元を流れる真っ赤な血が、一層彼女をお伽噺の化け物へと変えていった。人の血を糧にする吸血鬼<ヴァンパイア>へと。

それ以来、月村すずかは学校へ来ていない。当然といえば当然である。非現実の様な行為を見られて、それでもまともに通学出来るなんぞ、それこそ異常者であるのだから。
その区別が付く以上、まだ彼女は『人間』を捨てていないのだろう。

こうして父は死の間際、親友は一人が死に、一人が狂った。高町なのはがいかに大人びていようと、ここまでの惨事を耐える事など出来ようか。

さて、と佐竹は独りぽつんと席に座る高町なのはから、憎らしいほどに澄み切った青空へと視線を変え、前髪を弄り始める。
笑う箇所など一切無い、駄作過ぎる喜劇。だがその中身に覚えがあった佐竹は、重いため息を吐いた。

『アリサ』の死。『高町士郎』の事故及び瀕死。『月村』の吸血。どれもこれも、全て『とらいあんぐるハート』の設定であった。
しかし一部が違う。『アリサ』は『バニングス』であり『ローウェル』ではない。『高町士郎』も『瀕死』であって、まだ『死』んではいない。
とはいえ『アリサ』が『バニングス』なのに死んでいる以上、『高町士郎』もまた、遅かれ早かれこの世を去るだろう。『とらいあんぐるハート』の歴史<ストーリー>が捻じ込まれているならば、その可能性はこの上なく高い。
ただ、分かるのはそこまで。『とらいあんぐるハート』をプレイした事のない佐竹は、この先あるだろう異世界<原作の大元>の介入について考えるのを止めた。

変わりゆくアニメ<原作>に翻弄されながら、佐竹はそれでも生き方を変えない。遊びの計画を始めた男子生徒を見つけて、彼は席を立った。
最後まで考えるのは、やはり自分の命。まだ死にたくない佐竹は他人の気持ちを知りながらも、心の隅っこに感情<心配>を追いやって、またため息を吐いた。




















とぼとぼと歩く帰り道。一緒に帰っていた男子生徒とは、もう別れた後だ。
このまま帰って、何をしよう。大きめの十字路で暇の潰し方を考えていた佐竹だが、その前を見知った人間が横切った。


「ヒラルガ?」


【おっとっとぉ? 何かおもしれーコトになるヨ・カ・ンっ! ストーカーフラグ乱立だなぁ!】


いつものファニー・フェイスはどこへやら。無駄に真面目な顔付きで、ヒラルガは足早に過ぎ去っていく。
彼の『普段』を知るからこそ、何らかの異変を感じた佐竹は動き出す。信号機の色が青へ変わると同時、ペインの言葉通り追跡<ストーカー>を始めた。

周りに不信感を与えない素早さで歩くヒラルガ。それを懸命に追いかける佐竹。
全く緩まない歩みは、一定のスピードを保ち続ける。慌てて姿を見られる様な失態を気にしながら後を追う佐竹は、額に浮かぶ汗をそのままに、疲れを知らないヒラルガの涼しげな顔を思い浮かべた。

そうして歩く事数分。彼らは公園に辿り着いた。公園にしては結構な広さのあるそこを、ヒラルガは奥へ奥へと進んでいく。
木々によって視界を遮られた、舗装の『ホ』の字も無い場所で、彼はようやく足を止めた。同じくして、ヒラルガの正面にある木の陰から姿を現す一人の少年。

茶色い髪を短めにセットした少年は腕を組んでヒラルガを睨むと、口を大きく開けて叫んだ。


「来たな、転生者! 待ってたぜ!」


「来いって言ったのお前でしょうよ。下駄箱の中に果たし状なんて送ってさ。ラブレターかと思った俺の純情返せ!
…………で、ホイホイ釣られちゃった俺と何がしたいわけ? リアルの阿部さん展開はノーサンキューだよ?」


待っていました。そう言わんばかりに、少年は口角を吊り上げる。
彼はポケットに手を突っ込むと、一つしか押し込む部分の無いリモコンを天に掲げ、腹の底より呼び出した声を『呪文』に変えた。


「これは何だ! リリなのはどこに消えた! チクショウ! オレは認めない! こんな世界、認めてたまるか!
最初から飛ばしてくぜ! 来い! 『00式戦術歩行戦闘機』武御雷ぃ!」


両手を広げて天を仰ぐ茶髪の少年を、紫の光が埋め尽くす。
光が晴れその姿を太陽の下に晒した彼は、もはや『人間』ですらなかった。

全長約18m。ゴツゴツとした見た目は、その実『とある世界』において最高クラスの機動力と運動性能を持つ。紫色のボディと数ヶ所に小さく光る赤色が、天を貫く角と合わさって何とも言えない存在感を醸し出す。
誰が見ても同じ台詞を吐くだろう。これは『人間』などではない。完璧な『ロボット』だ、と。


「黒金猛! お前ら<BETA>を殺すオレの名を覚えておきな!」


唸る駆動音。二股の足が大地を踏みしめ、真っすぐにヒラルガへとチェーンガン<87式突撃砲>の銃口を突き付けた。


「いやいや、何言っちゃってんの? 武御雷? …………ああ、マブラヴ・オルタですか、そうですか――――――――神は死んだ!」


マイ・ゴッド! と頭を抱えて仰け反るヒラルガ。裏の木陰で隠れていた佐竹も、同じ感想を抱いた。
敵にすれば恐ろしい、まさかの展開。『マブラヴ・オルタ』とヒラルガが嘆いた様に、少年黒金猛が操縦するそのロボットは、かの世界<マブラブ・オルタネイティブ>にて世界より高い評価を得た高性能機だ。
『生身』で無く『機械』である敵。ただの一歩で必殺となる相手なだけに、ヒラルガが愕然とするのも頷ける。

だがしかし、黒金は悠長に待ったりしない。武御雷のチェーンガン<87式突撃砲>が標的目がけて動き出す。
銃口の先にはヒラルガ。そして彼を越えた先の木に隠れる、佐竹。
マズイ。佐竹が思った時にはもう遅い。甲高い咆哮を上げて、致死の鉛<バレット>が吐き出された。


「――――――――――っと」










瞬間、世界が銀色に包まれた。










「こらこら、ダメでしょ。そんな大っきいオモチャを人前に晒しちゃ」


やれやれだぜ、と無理な体勢で呟くヒラルガ。衝撃だけでも必殺となりうる弾丸を前にして、自分の失態に遅れて気付き死を覚悟した佐竹は、そしてヒラルガはまだ生きていた。
相手の無様に呆れてため息を吐くヒラルガに、武御雷は器用にも指先を震わせながら、機械化したボイスを投げつける、


「お、お前、今『封絶』って!? 『炎弾』って言ったのか!? なら、これは『自在法』なのか!?」


「Exactly<その通り>! お前だけが『ファンタジー』だと思うなよ?」


ヒラルガは受け答えに銀炎の礫<炎弾>を付けて返す。俊敏な動きでそれを回避する武御雷。だが、先ほどまでの余裕はどこへやら。武御雷を操縦する黒金の焦りが、機械の肌に浮き出ていた。
『封絶』、そして『炎弾』。どちらもこの世界<リリカルなのは>とは違う異世界<灼眼のシャナ>で活躍する異能<自在法>だ。
それはつまり、ヒラルガ・サイトーンもまた黒金猛と『同じタイプ』であるという事。同時に、ヒラルガが『指輪型の身体能力を補助するツール』という説が完全に覆された瞬間でもあった。

けど、と佐竹はふと能力<チート>が決まる選択肢を思い出す。二人とも他の原作を持ちこんだ転生者。ならば一体、何を選んだのか?
魔力、そして身体能力からこれらの能力<チート>は考えにくい。となれば、自ずと答えは残る一つ<どうしようもないおまけ>となる。
その中身は何とも酷い有様であったが、彼らの異能<チート>に当てはまる選択肢があったのだろうか。

佐竹の疑問はすぐに解消した。武御雷と姿を変えた黒金がコミカルな動きで悩んだ末、答えを導き出したのである。


「…………そうか。分かった、分かったぞ! オレの『すごいよたけるちゃん』と同じく、お前は『ぱんぱんぱんぱん』を選んだんだな!
チクショウ! にしても神様め! 『ぱんぱんぱんぱん』で『メロンパン!』を想像しろなんて、んなもん分かるかぁ!
どーもあの選択肢は厄介過ぎる! 分かりやすくしろってんだ!」


「はいはい、ゆとり乙」


うるせぇ! と黒金は安い挑発に乗って弾丸をばら撒く。その全てが銀炎に落とされ、またチクショウと叫んだ。
そんな二人のやり取りを見ながらも、しかし佐竹は思考を別の問題へと巡らせる。

ヒラルガが展開した『封絶』。それがもし彼の能力<チート>が原作<灼眼のシャナ>と同じ『封絶』ならば、こちらの原作<リリカルなのは>に出てくる全キャラクターの天敵へとなりうるのだ。

件の作品<灼眼のシャナ>においてこの自在式<封絶>は、内部の因果を世界の流れから切り離す事で、外部から隔離、隠蔽する因果孤立空間を作り上げるのを目的とする。
そうして世界から断絶された空間では、使用者、その敵、またはその二つに関係する物体以外の動作や意識を停止させるのだ。
故に内部の状況も分からなければ、そもそも『封絶』が展開された部分の出来事を『無かった事』にしてしまうのである。思い出す事も、存在に気付く事すらも無い。

ヒラルガは言うまでも無く、佐竹は間違いなく『関係者』だ。黒金もまたそれに同じ。であれば、それ以外はどうなるだろうか。
もし仮にこの世界自体が『それ以外』に部類されていれば、もはやヒラルガに手を出す事は叶わない。知らない間に殺され、だがその死すらも気付かれる事が無いなど、直死の目を持つ少年の一族にさえ不可能である。
まさに無敵。佐竹は今になってようやく知った。三つ目の選択肢が、本当の意味で『どうしようもない』能力<チート>であると。


【関心してるトコにこんなコト言うんもアレだがよぉ。相棒? そろそろ逃げた方がよくねぇ?
俺は相棒に寄生してる。同化って言ってもイイくれぇだ。だから分かるんだがなぁ? あの武御雷ってメカにゃ『自決装置』が付いてんじゃねぇの?
つーコトは、だ。いざとなりゃ大爆発もあんじゃねぇ? どうなんさ? その辺詳しく、略してkwskでどーぞぉ?】


思いついたままに出て来たペインの疑問。聞いた瞬間、佐竹は踵を返して木々の中を駆け出した。
確かにあり得た可能性である。武御雷以下『戦術歩行戦闘機』には基本的に『自決装置』が付けられている。
この作品<マブラヴ・オルタネイティブ>において『自決装置』本来の用途は、人類に敵対的な地球外起源種<BETA>の現場指揮官的立ち位置である反応炉<頭脳級BETA>の破壊を目的としている。とはいえ、これは取り外し可能故に、なにも本当に自決<自爆>して壊すわけではない。
が、BETAの戦略は物量戦を主としているため、いかに戦術歩行戦闘機<戦術機>が凄かろうと、反応炉に辿り着く前に死ぬ時もある。
ならばと、本来の使用方法を変えた、ある意味正しい使い方をするのだ。
それこそが、自爆攻撃。戦術核に匹敵する破壊力を持った、壮絶な爆発<自害>だ。

一心不乱に壁<封絶>の外を目指す佐竹。滴る汗が宙を舞う。
佐竹とて武御雷に搭載されているであろう自決装置の存在を知っていた。だからどれだけ走ろうと、爆発の前ではそれすら無意味と知りながらも、足を止めない。
封絶の外に出れば、生き延びる事が出来るかも。その思いだけで、彼は走り続けていた。
世界から切り離されているならば、その外は安全地帯とふんだのだ。子供の足でどこまで行けるか。そこが勝負所である。
だが、境界は未だ見えない。佐竹の顔に焦りと諦めが浮上して来た時に、それはついに起きた。
銀の炎が舞い散る世界に、突如轟音が鳴り響く。
鼓膜を破壊せんばかりの音。それが爆発の知らせだと佐竹が気付いた時である。


「ごっはぁ!?」


ゴンッと何かの裏に膝をぶつけ、表に彼の上半身がめり込む。陶器が割れた様な音がそれに続いた。


「これ! 一体どうしたんだい!」


「あらやだ、お茶碗が割れちゃったじゃないの!」


「…………じいさんと、ばあさん?」


銀炎飛び交う隔離世界にいるはずのない老夫婦の声。慌てて伏せていた顔を上げれば、そこには箸を片手に佐竹を心配そうに見ている二人。
佐竹が突っ込んでいた『何か』は食卓だったらしく、その上にはいくつかの単品料理や倒れた湯飲みがあった。


「え? なんで? どうして?」


待て待て、と頭を抱え出した佐竹。彼にすればあまりの急展開に追い付けていないからこその行動であったが、老夫婦にとっては違う。『三人揃って』の飯時、孫が何の脈絡も無しに机へ倒れ込んだのだ。病気か何かと疑って、老婆は箸を机に置いた。


「黛や、どこか痛いのかい?」


「あ、いや、どこも痛くないけど…………」


そうかい? と心配そうな老婆の声は、しかし佐竹の脳に入ってこない。
彼の頭の中は今、複雑に絡み合った電子機器の配線の様に、疑問で埋め尽くされてショート寸前だった。
公園の奥で起きたヒラルガと黒金の殺し合い。そこから逃げていた彼が、どうやったら自宅に帰れたというのか。それも老夫婦の様子から、佐竹を含めた彼らは夕飯の最中だという不可思議。
机に突っ込んだのも、もしかしたら俺は元々座っていて飯を食っていたから? そこにさっきまで『走っていた自分』が戻ったから、こうなった?
まるで時間を巻き戻したかの様な現象故に出て来た予想に、そんなバカげた話があるか、と佐竹は鼻で笑った。


「…………いや、待てよ」


佐竹は『バカげた話』と一蹴した答えを思い返すと、散らばる食器をそのままに、新聞を探し始める。四つ折りにされていたそれを開くと、そこには覚えのある日にちが書かれていた。
それは転生者、明智一真が死んだ日。佐竹の記憶が正しければ、これはあり得ない日である。
彼の記憶では既に明智一真は死んでおり、更にアリサ・バニングスも、高町なのはの父士郎も、月村すずかすらも異常に巻き込まれていた。
しかし新聞が間違っていないとするなら、今日は過去。正しく時間が『巻き戻って』いるのだ。


「まさか…………戻った<ループ>?」


カチリ、と歯車がかみ合った気がした。




















心ここに在らず。大半食べ終わっていた夕食をほったらかしにして、佐竹は自室に戻っていた。先の奇行を見て尚何も聞かずに見送ってくれた老夫婦に心の中で礼を述べ、彼はベッドの上で横になると、目を閉じた。


「なぁ、ペイン。ツールの反応が無い奴はあるか?」


【ハッ! 分かってて聞くんじゃねぇよ! でも言ってやる。答えは『あるワケねぇ』だよ】


「…………なら決まりだな。俺はループ<逆行>したんだ。という事は、だ。黒金の能力<チート>は、これに違いない」


不確定要素が確信へと変わる。
自決装置を押したであろう黒金猛。となれば、黒金猛は死んでいなければおかしい。だが、ペインは誰も死んでいないと言った。なら、残る答えはただ一つ。
黒金猛が死ぬ事で『ループ<逆行>』した。それ以外佐竹は考えられなかった。

黒金の能力<チート>が『マブラヴ・オルタネイティブ』関連である事に違いはない。彼が戦術歩行戦闘機<戦術機>に乗っていたのだから、否定しようがない。そしてその主人公白銀武は、目的を達するまで死んでも『ループする<巻き戻る>』事で蘇っている。
どちらが黒金の魔法かまでは佐竹には分からなかったが、正直そこはどうでもいい。
黒金猛は死して『ループ<逆行>』する転生者。それも、他の転生者ごと巻き込むタイプの。これこそが、佐竹の出した黒金猛の能力<チート>だ。


【ソイツぁ、多分正解だぜぇ。つーコトは、ヤロウがこの世界<リリカルなのは>をぶっ壊したゲスだなぁ】


「…………黒金の対価、か。 だけど、どんな対価<副作用>ならこんな事になるんだ?」


【思い出せよ、相棒。白銀武はループすんのとは別に『因果律』なんつーメンドクセーのを持ってたじゃねぇか。
ありゃあクソ汚ぇスプラッタ・ショーを起こしたよなぁ? なんだっけか? ドタマを精肉機で挽肉? バスケのリングが落っこちてプッチン・プリン?
なんにせよ、白銀武が本来いた『日常<平和>』に『非日常<戦場>』の現実を持って帰って来たら、んなコトが起きたよなぁ?】


「…………てことは、何か? 『そういうこと』だってか?」


【ショーユーコトも何も、それ以外ねぇだろぉ! 黒金猛はこっち<リリカルなのは>にあっち<とらいあんぐるハート>の設定を持ち込みやがったのさぁ!
だぁからアリサ・バニングスは死んだ! だから高町士郎はゆくゆくお陀仏! だから月村すずかは血に狂ったぁ! 結局のトコ、あのヤロウが全部の元だったワケだなぁ!
ハッハァ! 神様のイタズラってのは悪くねぇと思ったんだが、読みがダダハズレじゃねぇか! 俺っち、ぜってー競馬やらねぇ!】


転生者それぞれが持っている能力<メリット>と対価<デメリット>。世界すら狂わすそれらに、だが佐竹はこの現象に感謝した。
アリサ・バニングスが死んだ日に捨てた感情が、彼の心の空欄部分にスッポリと収まる。
にやり、と佐竹の口元が吊りあがった。


「過去に戻った…………つまり俺は、この先を止めることが出来る人間になった。そうだろ?」


【…………おい。おいおいおいぃ! ちっと待てやクソが! テメェ、まさか『動く』つもりかぁ!?
止めだ止め、このミソッカスがぁ! テメェは決めたハズだろうが! テメェの命以外はゴミ溜以下! 生き残るコトが最重要! 他は勝手に死にやがれってなぁ!
なのに! ミジンコ級のテメェが鉄火場行くなんて、ホンモンのバカヤロウだぞ、ああっ!】


「お前に言われなくても、これが悪手だって事くらい分かってるさ。でもどっちにしろ、あいつは殺さなきゃいけない。なら、こっちから攻めるのもありじゃないか。
元通りになったら、俺の知識も役立つし、プラスになる事間違いなしだ」


だから、心配すんなって。そう締め括り、佐竹はよいしょっと布団に潜り込む。
舌打ちして【なら勝手にしやがれ! 俺ぁ止めたぞ!】と不機嫌そうに言い放ったペインは、もう口を挿む事は無かった。





これから始まるのは、佐竹の自己満足。
ペインにはいつか誰かがやらなければならないから、という理由ではあったが、結局の所ただの偽善である。
しかし、佐竹はループして取り戻してしまった。捨てたはずの心を。原作キャラクターに対する、救いの感情<愛情>を。
彼の現状に置いて、もっとも持ってはいけないこの気持ちを、だが佐竹はその救い<悪手>を胸に、明日を待つ。

馬鹿な選択をしたと理解していながらも、やはり佐竹は後悔などしていなかった。





ゴールデンウィーク? 休みなんてありませんが、何か?


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