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No.27097の一覧
[0] リリカル! マジカル! Kill them All![気分はきのこ](2013/02/28 22:51)
[1] 『作家のオリジナリティ』[気分はきのこ](2011/04/14 15:56)
[2] 『作家のオリジナリティ・2』[気分はきのこ](2011/04/19 11:16)
[3] 『作家のオリジナリティ・3』[気分はきのこ](2011/04/23 11:18)
[4] 幕間 『笑顔』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:16)
[5] 『リアル・リプレイ』[気分はきのこ](2011/05/02 10:16)
[6] 『リアル・リプレイ・2』 R18[気分はきのこ](2011/05/09 15:19)
[7] 『リアル・リプレイ・3』[気分はきのこ](2011/05/15 10:27)
[8] 『リアル・リプレイ・4』[気分はきのこ](2011/05/22 13:30)
[9] 『リアル・リプレイ・5』[気分はきのこ](2011/08/20 16:04)
[10] 幕間 『願望』[気分はきのこ](2011/08/20 16:01)
[11] 『∴Y≠U』[気分はきのこ](2013/02/28 22:43)
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[27097] 『作家のオリジナリティ・2』
Name: 気分はきのこ◆4e90dc88 ID:30254318 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/19 11:16


持久走。それは冬のテンプレと名高い、体育の定番。
縮かむ手足。震える全身。しかし有酸素運動による火照りが心地よい。
だからこれは、持久走のせいだ。女子生徒一同が身に纏う体操服の、特に男のロマン<ブルマ>を見ての興奮じゃない、と佐竹は熱い息を吐きながらノルマを完走せんと走り続ける。
しかしその息すらも欲情しているかのように感じられ、汚れた大人だなぁ、と自身を嗜めた。


【いいねいいねぇ! ナイス・ブルマ! ロリ・ブルマぁ! バックショットもイイ! 上着からのチラリズムもたまんねぇ!
そんな俺っちは断然急進派! あらゆる色がジャスティス! ジークブルマ! VIPは世界を救うんだぜぇ!
しっかし、なんで勃たねぇ。ここはいきり勃つのが男でしょうよ!
…………答え? んなもん決まってらぁな! むっちんボディにしか反応しねぇから! ギャハハハッ!】


訂正。全部この馬鹿野郎が悪い。
後一周となった持久走の最中、佐竹は自分が間違っていなかった事にほっとするのだった。



















佐竹がこの世界<リリカルなのは>に転生してから一ヶ月。彼は人生二度目の小学生という奇妙極まりない生活を演じていた。
『演じる』というのも、彼は見た目こそ何処に出しても文句のない子供だが、中身は成人式で酒に溺れた事もある兄ちゃんである。
そんな彼が正しく小学生になれるだろうか? 当たり前だが、不可能だ。

子供と大人の差。身体的特徴や精神構造など様々だが、今回の場合は後者が挙げられる。
アニメではまるで大人とさえも思えてしまう子供たちだったが、現実は違う。
50分間の授業こそ真面目に受けているものの、いざ昼休みに突入すればフリーダムなキラ様へと変身してしまうのだ。

この学校は給食制でなく弁当持参が主なため、昼休みも90分と少々長い。
一限開始が8時ジャスト。そこから授業が終わるたびに10分の休憩兼準備時間を挿み、12時の鐘と同時に四限が終わる。
そこから90分間が、飯及び遊びの時間となるのだ。

彼の通う聖祥大付属小学校でも他と変わらず最速でご飯を平らげ最高速で遊びに行くのが主流のようで、晴れならば寒さ関係無しに鬼ごっこしよう、サッカーやろうぜ、という元気ハツラツっぷり。
雨天でもその元気は相変わらずだ。廊下を走るな! という教師の制止を振り切って学校一の廊下最速を競ったり、机を使った危ない跳び箱を始める始末。
これが女子生徒含みの大騒動ならまだいい。が、しかしここはやはりアニメ<二次元>が元。影響力はちゃんと生きていた。
一部の生徒が持つ異常な大人っぷりに他の女子生徒も感化されたのか、結果としてある式が出来あがる。

早食い+馬鹿騒ぎ=男子生徒。
それを見ながら、或いは埃が立つと文句を言ってのお昼ご飯+世間話=女子生徒。

なんとも男子諸君の地位が低い気もするが、むしろこちらこそが本当の小学生と思いたいところである。そしてそんな小学生を演じている佐竹は、毎日のように辺りを走りまくっているのだった。

さて。ここで気になる『一部の生徒』だが、もちろんの彼女たちだ。
かの有名なハデス、または魔王などという末恐ろしい名前で有名な少女と、その友人である大富豪二人。
高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかの仲良し三人組である。
この無駄にハイ・スペックな彼女たちのせいかは知らないが、ともあれ先の様な式がある以上佐竹の『静かな一時』は夢のまた夢だろう。

しかし、何故彼がその様な面倒をしてまで学校に通っているのかといえば、理由として二つ。
一つは八歳までの彼。一つは転生者捜索と、その対応だ。

前者は、まだ『佐竹黛』という精神がこの世界に来ていなかった頃の事。知らぬ内に通っていた小学校<聖祥大付属小学校>が原因だ。
しかし生まれが海鳴で且つ一番近い小学校がこことなれば、いた仕方ない。深く考えるならば、おそらくは作者<黒い人型>によって仕組まれたのだろう。
だがこの先一番危険な主人公の巣に何時までも通おうなどと思えるはずが無く、彼も当初は退学を念頭に置いていた。
その考えが変わったのは、ある博打を思いついた事。その内容とリスクを照らし合わせて悩む事冬休みいっぱい。最終的に博打らしくコイントスによって、学校に残る事を決めたのである。

その博打こそが、後者の理由だ。
この世界に転生したのは、佐竹を含めた男6人に女が1人。ランダムで選ばれたとはいえ、アニメ<二次元>の世界に来た以上『オリ主願望』があると見ていい。そう考えたのだ。
オリ主。いわゆるオリジナル主人公だが、彼らの基本的な思考構造は『ヒロインに近付き、シナリオを描き変える事』である。
他に『原作に関わりたくない』といったのもあるが、どちらにせよ多数の二次創作において先の思考が有名なため、その様に行動する転生者がいないとも思えない。
故に、佐竹は聖祥大付属小学校に通う事を決めたのだ。先手を取るために。

とはいえ、この選択はかなりのリスクを背負う。
仮に彼同様最初から学校に通っていた転生者がいたとしても、怪しい動きを見せる生徒がいれば、要注意人物として警戒すればいい。

だから佐竹は、狸になった。葉っぱ一枚で全てを化かす、化け狸に。
そしてその化ける対象が、現在彼が演じている『モブっぽい小学生』である。

『モブ』であるという事は、原作にいて、しかしいないのと同義。木を隠すなら森の中、というやつだ。
ならばこそ、出来る事がある。関係ないと見せかけて、虎視眈眈と相手の背中を刺すチャンスを得る事が。
思わず、見つけたぜ…………このゲームの必勝法をなぁ、なんて何処かの天才嘘吐きを真似たのは、きっと悩みすぎた時間の長さからようやく手に入れた武器に、舞い上がってしまったのだろう。

そんな必勝法だが、その実穴だらけではあった。
まず周りの評価。
変わり過ぎた場合、あの子変わったねー、なんて噂されれば、それを元に探られてゲームオーバー。
これには冬休み中に返されていた通知表と老夫婦の反応を参考にしたため、佐竹自身もある程度は大丈夫と踏んでいる。
昔より触れ合っていた老夫婦。忙しい中でもしっかりと生徒を見ていた担任が彼の長所短所を細かに書いていた通知表のおかげで、それなりの演技が出来るようになっていた。

次に、彼自身の欲望。
彼もまた、数ある二次創作を経て『オリ主』に憧れた一人だ。となれば、やはり原作ヒロインと仲良くなりたいし、彼女に、果ては嫁にもらいたいなんて思ったりもする。
なのだが、いざそれを実行すれば、間違いなく勘付かれてあの世行き。

更には、同じ考えの転生者がいた場合。
考えなしに『オリ主』を目指す転生者ならまだしも、彼と同じく演じてまで素性を隠す様であれば、もう手の打ちようもない。精々が、化かし合いに勝てるか。それカギとなるだろう。

これら全てにおいて、佐竹の行動が自身の命運を決める。一つでも間違えば、待つのは敗北<死>のみ。
いかにその後発生するであろう戦闘での立ち回りが良くとも、十中八九返り討ちだろう。『痛覚』だけを武器に勝てるほど、佐竹は転生者を甘く見ていなかった。
ペインと出会った時に創り上げた『魔法』があるとはいえ、それは少々決め手に欠けていた。どう頑張っても、相討ちになってしまうのだ。
意表を突く事に特化しすぎているため、それを生かせなければ勝利はない。
だからこそ最後の決め手となる武器は、ちゃんと制服の内ポケットに入れている。『隠す』事を第一にしているため、刃物ではないが。

あらゆる対策を考え、拙い策を練り、命を代価<チップ>に勝負に出た意味は、もちろんあった。
小さな可能性に全てを賭けた結果は、今日この瞬間に達成されていた。










「ああ! なのはたんの荒い息が聞こえるよ! アリサたんのナマ足がおいしそうだよ! すずかたんのブルマがぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!
…………だがモブ。テメェはダメだ」










医者も匙を投げだしそうなほどに救いようのない変態チックな台詞を叫びながら、最後尾を元気よく走り続ける男子生徒。
上着に書かれた名前は、ヒラルガ・サイトーン。他で口々に飛び交うあだ名らしきものは、エロ犬。
だが、正直佐竹にとってそんな情報はどうでもよかった。


「おお…………見ゆる、見ゆるぞ! なのはたんのパンティを今、俺は透視したぁ!
色はピンクで間違いなし! 飛行中のモロ見せシーンだってピンクだもんねっ!
ああ、夢が広がりんぐっ! 転生ありがとう、マイ・ゴッド! 羨ましいだろ、単細胞諸君!
見てな! ハーレム王に、俺はなる! フヒヒっ、調子こいてサーセン。
…………だからモブ、テメェには用無いの。ハウスっ! シッシッ!」


原作の設定通り運動が苦手な高町なのはの後ろ5m辺りを、彼女のペースに合わせてストーカーも真っ青の大胆行動を取るヒラルガ。
嫌がりながら、しかしノルマを達成していない高町は走る事を止められないために、若干涙目になっている。
最初は【エンジェルどもを溺愛してるだけのモブかも知れねぇじゃん?】とありもしない可能性を述べたペインだが、この様を見ても同じ事を言えるわけが無く、お手上げとばかりに、ファックファックと無駄に汚い言葉を連呼する始末。
いずれにせよ、ここまで来ればはっきりとする。エロ犬ことヒラルガは、間違いなく『転生者』だということが。

未だおほほぉ! とエキサイトしているヒラルガ・サイトーンと佐竹が出会ったのは、意外にも今この時が初めてである。
高町なのは御一行と同じクラスであった彼とは違い、ヒラルガは隣のクラスにいたのだ。それが今回、三学期最初の体育での事。隣と合同で行っていたこの授業のおかげで、彼らは出会う事が出来た。もっとも、一方的に、と付くが。

しかし、なんだこの変態は。
人となりを知るため、佐竹は同じクラスらしき男子生徒にそれとなく話を持ちかけた。すると悲しそうに顔を伏せる男の子。しばらくして、あいつは僕の親友だったんだ、と話を切り出した。

男の子の話を聞く内に分かったのは、そもそも『ヒラルガ・サイトーン』という名前からして違うということ。本名は中村勇樹らしい。
そんな中村勇樹が『ヒラルガ・サイトーン』として変わったのは、年明けてすぐの学校からだ。

男の子が新年の挨拶をかねて声をかけたら「ふん、ジャリボーイめ」と、まるで人が変わったかの様に冷たくなった彼がいた。
言動や行動は確かに一緒だというのに、数ヶ月前までは確かに親友だったのに、冬休みが終わった後の中村勇樹は、男の子の知る『中村勇樹<親友>』とは別物になっていたのだ。
男の子自身も驚きはしたが、以前の様に「へいへい、どうした親友ポジション! 暗い顔すんなってばよっ!」と気さくな彼が出てくるだろう。そう思っていたのに、しかし返って来たのは「普通オリ主は主人公と同じクラスで親友とまでいかなくても友達は確定だろ! なのになんでモブが!」なんて言いながら突き飛ばされるという、認めたくない現実であった。
以来、男の子と中村勇樹は親友ではなくなった。同日、中村勇樹は教壇の前に立って宣誓を行う。自分は『中村勇樹』でなく『ヒラルガ・サイトーン』だ、と。

ゆっくりとヒラルガに対する情報を出してくれた男の子は、だがまだその時の事を引き摺っているのか、会話の後半から瞳が潤み出していた。そんな彼をあやしながら、佐竹はありがとう、と言ってその場から離れると、また別の生徒を捕まえて聞き込みを始める。
調査を開始する事数分。先の男の子の証言を除き、何よりも大きい成果といえるのは、ヒラルガの生態と、『ツール』の事だ。

曰く、いつもエッチな事を口走っている。
曰く、高町さんやバニングスさん、月村さんを狙っている。
曰く、毎日お姉さん指に趣味の悪い指輪をしている。
曰く、力が凄く強くて、小指一本で逆立ちをしていた。
曰く、ただの馬鹿。あいつ嫌い。

最後はただの悪口だが、中でも『趣味の悪い指輪』というのが一番注目すべき点だろう。
佐竹はようやくゴールした高町とその後ろのヒラルガを見て、鋭く目を細める。距離があるせいでしっかりと見えはしないが、確かに彼は指輪を持っていた。人差し指でなく、ネックレスの様にして首からかけられていたが。
おそらく体育中に指輪などしていれば教師よりお咎めがあるだろうと踏んで、ネックレス状に変えたのだろうと推測する。どちらにせよ、怒られるのは間違いないが。
何にせよまだ確実に決まったわけではないが、毎日付けているらしい『趣味の悪い指輪』、そして年齢に対して異常な身体能力。以上より『装飾型で身体能力関係強化のツール』であると見ていいだろう。

その様に結論付けると、佐竹は次の問題点を挙げる。ヒラルガはなぜここまで自身を曝け出しているのか、という点だ。
果たしてヒラルガ・サイトーンは自覚無しに自分を見せびらかす馬鹿なのか、それともその事すら囮に他を誘っているのか。
未だ底の知れない相手なだけに、佐竹も出方を考えざるを得ない。つまりは、現状最善の手は様子見だった。


【あっそ。まだ殺らねぇんだなぁ? いいぜ、相棒。そのチキンっぷりは一級品で最高級だ。
だけどよぉ? 勝負所を見極めなきゃ、くたばんのはテメェだぜぃ? その辺キッチリ考えて潰しに行きなぁ!】


ペインの乱暴なアドバイスを心に留めつつ、佐竹は高町に寄ろうとして彼女の友人より罵声を浴びせられているヒラルガを見ながら、ぐりぐりと前髪を弄ってため息を吐いた。





















「おい、モブ。お前、俺のキューピッドになれ」


「えっ?」


それは体育の時間が終わり、更衣室で着替えていた時の事。
上着のボタンを止めていた佐竹に、へらへらと笑いながら近寄って来たのは転生者。ヒラルガ・サイトーンだった。


「えっ? じゃないよ、まったくもう。いいか、よく聞けよジャリボーイ。
お前は俺の恋い焦がれるヒロインたちと同じクラスだ。そんなお前と俺は、今から友達になる。
そうすると、俺はいつだってお前のクラスに行けるわけだ。なんたって『友達』だからな。
そうしてお前のクラスに行く口実を得た俺は、晴れてマイ・スッウィーツ・エンジェルちゃんにアタックが出来るようになるのさ。
今までどうやって彼女たちに接触しようか考えてたけど、やっぱこれが一番いい作戦だな。流石俺、そんな策を思いつくなんて痺れる憧れるぅ!
…………で、どうだ? 嬉しいだろ? お前の様なモブにだって、原作に関われるんだからな」


果てしなく上から目線で、且つ自分勝手な言い分を佐竹に言い放つヒラルガ。未だ理解出来ない状況に、佐竹は目を白黒とさせる。
そんな彼に業を煮やしたのか、ヒラルガは佐竹の肩に手を置いた。貼りつけた笑顔は、狂喜さえ感じさせる。


「いいよな? むしろ拒否権なんかやらん! でも優しい俺は、お前に最後の決断をやろう。
答えは『はい』か『Yes』でどうぞ! シンキング・タイム10秒で始めいっ!」


【ヒャッヒャッヒャッ! いや、まったくオモシレー展開になって来たなぁ! いっそのコト、このゴミッカスを利用死ねぇかぁ?
他の同類らにもイイ刺激になって、チラホラとツラ見せ始めっかもよぉ?
どっちにしろ最後にただ一人相棒が生き残りゃいいんだからなぁ。使えるモンは骨の欠片血の一滴まで使い潰して即廃棄ぃ!】


威圧するかの様にギリギリと力が込められ軋みだす肩。いたいいたいと泣き言を言いつつヒラルガの手を払いのけようとしながら、佐竹はペインの出した案について検討する。
確かに、ペインの言う事も一理ある。原作に登場しないヒラルガが主人公の周りをしつこくうろつく以上、誰が見ても転生者なのは明らかだ。故にそのまま潰し合う事もあるだろう。
加えて、仮にヒラルガが死んだとしても相手の出方が知れるのは、メリットとして大きい。あわよくば能力<チート>や思考構造が分かるやもしれない。
デメリットとして、ヒラルガと同類<転生者>と思われる可能性もあるが、そこは何とかなる。
普段を知る周りの評価。そして今も尚同じ転生者である佐竹を見抜けないヒラルガ。バレる事はあれど、その確率が格別高いとは言い難かった。
良くも悪くも五分。勝負に出るには少々苦しいが、それも佐竹にとっては今更だ。生活全てがギャンブル。もう後に引けないなら、賭けるのも悪くない。


「う、うん! よく分からないけど、よろしくね!」


「はっはっは! いい子は好きだぞ! モブだけど!
じゃあ握手と名前を呼んでみよう。友達ってのはそこから始まるって魔王も言ってるからな。
俺はヒラルガ・サイトーン。ハーレム王になる男だ、覚えておきな!」


「ぼくは佐竹黛。えっと、夢はサラリーマンになりたいな」


サラリーなんて夢無さ過ぎっ! なんて大口開けて笑うヒラルガに、佐竹は愛想笑い交じりでその手を握り返した。
精々俺の役に立って死ね。無意識に心の奥底で邪悪な笑みを浮かべながら。




















ヒラルガ・サイトーンと偽りの『友達』となってから、はや数ヶ月。春休みも終わり、桜舞う新学期は始まった。
時同じくしてアニメ<原作>の幕も上がる。いや、もう『上がって』いる。


「なのは? 暗い顔してどうしたの? この間のフェレットがどうかした? それとも、あのヒラルガ<バカ>のせい?」


「にゃっ!? ち、違うよ、アリサちゃん!」


残像が見えるほどに激しく両手を左右に振りながら、いつものにこやかフェイスで否定する高町なのは。
そんな彼女の首には、本当に僅かだが制服の襟の内側に茶色の紐が見え隠れしている。
近寄った上でじっくりと見ない事には分からない小さな異変に、しかし佐竹は気付いていた。近寄った上で、気付かれないようじっくりと確認していたのだ。

全ては、先ほど高町の親友『アリサ・バニングス』が言った『フェレット』から始まる。
つい最近、高町なのはは件の『フェレット』、正しくは変身魔法によって姿を変えていた『ユーノ・スクライア』と出会った。
彼がこの世界に来た事を、佐竹も感じ取っていた。なんと彼にもユーノが出した念話が聞こえたのである。
転生者らしく標準装備だったリンカーコアに、ちょっぴり喜んだのは言うまでも無い。
しかしその後の【魔法の同時使用はムリムリダメダメひぎぃ! 出力底辺残念無念また来週だなぁ】というバイタル管理者<ペイン>の詳細すぎる情報により相当凹んだのもまた、言うまでも無い。

とまあ、こうしてリンカーコアの存在を知ってしまった以上、一層原作主人公に関われなくなってしまったのだが、悲しい事に佐竹は大馬鹿野郎<ヒラルガ・サイトーン>の友達だ。
彼の自由気ままな迷惑行動によって、否応無しに関係を持たされてしまったのである。


「ねぇ、佐竹。アンタってアイツの友達なんでしょう? アンタから言ってやってよ。こっちは迷惑してるんだって」


一応弁解させてもらうなら、佐竹は一度たりとも自ら進んで彼女たちにアクションをかけた事は無い。毎度毎度向こうからやって来ているのだ。
内容は主に愚痴ばっかり、ではあるが。

あり得る話であった。あの変態<ヒラルガ>を見て、触れて、話して、彼女たちが嫌悪感を抱かないわけが無い。
遠くから見ている感じ、ヒラルガの彼女たちに対する対応は佐竹たち『モブ』と違って無駄に紳士的である。
しかし如何せん欲望の強い彼の積極的過ぎたアピールは、見事なまでに空振り。結果、惚れられる所か軽蔑されてしまっている。アリサ・バニングスに至っては、まさにゴミを見る目だ。悪臭を放つ、と頭に付けてもいいだろう。
その尻拭いが全て佐竹に回って来ているのは、まさに悪夢だ。このままでは要注意人物としてターゲットされるのも時間の問題である。
おのれ、ヒラルガ・サイトーン。これが狙いだったのか! イライラを隠さないアリサに向けて、佐竹はため息を吐きながら前髪を弄くり回した。


「ごめんね。ぼくも言ってるんだけど、聞いてくれなくて」


「もうね、ほんっと迷惑! この前なのたたちとフェレット見つけた時もアイツいたし!
後ろから忍び寄って現れるなんて、ストーカーよストーカーっ! なのにどーしてあんなに頭いいのよ!
全科目100点以下取った事無し! 冬休みの読書感想文は金賞! 内容凄過ぎて代筆だって問題にもなったくらいだし!
神様は才能を与える人間間違い過ぎよ! もっとちゃんと選択しなさい!」


「ストーカは言い過ぎだよアリサちゃん。…………でも、そう言えば私の家に無断で入って来たこともあったし…………本当にストーカーなのかな?」


眉を八の字に曲げ、不安そうに身体を小さくするのは月村すずか。
しかしヒラルガは本当に自由過ぎる。自身が熱を持って唱える『ハーレム王』になるよりも速く、ブタ箱<牢屋>に突っ込まれかねない所業だ。
そんな彼の愚痴を話していれば、やはりというか本人が現れるもの。ガラガラピシャーン! と大きな音を立てて教室の扉が開かれた。


「おーい、まっゆずみくーん! お前の親友ポジションがやって来ましたよー! って、おおうっ! そこにおわすは我が姫君たちではありませんか!
いやいや、今日もいい天気ですね。一緒に屋上でランチ・タイムなど如何でしょう?」


「うげっ、また来た」


歪み出したらもう止まらない顔をそのままに、アリサはぶらぶらと自分の弁当箱の包みを揺らしながら近寄って来たヒラルガを睨みつけた。
高町・月村ペアを守る様にしてヒラルガの前に立つ辺り、彼女の強気で思いやりのある心を感じられる。


「何度も言ってるでしょ! 私は、なのはとすずかの3人で食べるの! アンタは佐竹と一緒に食べてなさいよ! 友達でしょ、このバカっ!」


友達だけどそれは上辺だけだぞ、アリサ・バニングス。頼むから俺にあの変態を押しつけないでくれ。
佐竹の願いを余所に、液体窒素よりも冷たい彼女の言葉で「くっはぁ! 釘みー、もっと俺を罵ってぇ!」なんて身を捩りながら悶えるヒラルガ<変態>は、しばらくそうして、その後何事も無かったかの様に取り繕う。
当然、それまでの彼を見ていた佐竹ら4人の顔は引きつっていた。


「ふっ。怒ったあなたも美しい。いいでしょう、今日は引きます。
愛を育む時間はまだタップリありますからね。ええ、悲しくなんてありませんともっ!」


出てもいない涙を拭い、爽やかなスマイルを彼女たちに魅せ付けるるヒラルガ。
もう定番となったやり取りなだけに、アリサは親友たちの手を引いて、一刻を争うが如く足早に教室を出て行った。
ちゃっかり空いた手に弁当箱の入った包みを持っている辺り、しばらく帰ってこないだろう。両手がふさがっていたアリサの分を月村が自分の物と一緒に持っていたので、ほぼ間違いない。

取り残される佐竹とヒラルガ、そして他の生徒たち。
どこか殺伐とした空気の中、ヒラルガは佐竹の対面にあった椅子に腰かけ、腕組み足組み小首を傾げて一言。


「俺、本当にオリ主だよな?」


間違いなくオリ主です。嫌われキャラの、オリ主です。
何を今更なこと言ってるんだと思いつつ、佐竹は自分の弁当を机に広げ、中のいい男子生徒たちを近くに集めた。
精神年齢が低くとも今は同類な彼らを集め、他愛ない話題で盛り上がろう。
仕方ないなぁ、と苦笑気味の友達を周りに、佐竹は弄っていた前髪をピンっと弾いて、ため息を吐いた。

佐竹の小さくも特上の願いが叶う事は無い。故に、さっさと飯を食って走り回るのが、今の最善だ。










こうして過ぎていく佐竹の現実<世界>。その中に死の匂いは、まだ無い。
だが一歩、また一歩と確実に死は歩み寄っていた。


次の日。佐竹はようやく自分の置かれた現実<コロシアム>の在り方を、本当の意味で思い知る事となる。







復活のお祝い、ありがとうございます。
お礼に応えようと必死こいて執筆していますが、時間が足りん…………。
読者の方より以前のデータを貰ったのはいいんですが、それを使って尚この時間消費とは、なんとも情けないですなぁ。

頑張れ俺、速さを手に入れろ。


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