長く開いたお詫びも兼ねておまけを投稿します。
友人との与太話で東方の同人誌を出そうかみたいな話になったさいに
原作のつもりでいくつか書いた話を弄ったものです。
結局それ以上話は進まなかったのですが^^;
蛇、天人娘と酒盛りす、の巻(前編)
「何よ、あんなに邪険にしなくてもいいじゃない」
ぶちぶちと文句を垂れながら、少女は空を行く。
空飛ぶ大岩に腰かけた少女、名を比那名居天子という。
天人である。
「本気で嫌がらなくたっていいじゃない……」
暇を持て余し、異変を起こした時ならいざ知らず、間欠泉が湧いた、と聞いてちょっと遊びに行っただけ。
だと言うのに巫女を筆頭に皆、蜚蠊でも見たような扱いに、密かに天子は傷付いていた。
ぶちぶちと文句を垂れつつ、何気なく髪を手で梳く。
じゃりとした感触に表情を歪める。
段幕ごっこで巻き上がった砂埃が付着しているのだ。
「やだなぁもぅ……あれ?」
ふと地上を見ると山中から湯気が上がっている。
「あんなところに家?なんだろう?」
興味を引かれた彼女は一軒の庵へと降下してゆく。
まず、湯気の源を確認する、庵に隣接する半露天風呂がそれであった。
「へぇ~地上の物にしちゃ風情があるじゃない」
大岩をくりぬいた立派な浴槽から、ほかほかと湯気が上がっている。
「ちょうど良いわ」
弾幕ごっこで汗もかいたし、髪も埃っぽい、どこかで水浴びでもしよう。
そう思っていた矢先だったのだ。
主の許可を得ようと言う発想は無いらしく、天子はぽいぽいと服を脱ぎ捨てると浴槽に飛び込む。
「あ~ちょうどいい湯加減だわぁ、気持ちい~!」
ぐ~と伸びをすれば、惜し気もなく裸身が晒す。
生憎胸はさほど大きく無い、正確にはか、なり残念な大きさ、しかし均整のとれた肢体は、若い牝鹿を連想させる健康的な美しさに溢れていた。
鼻歌を歌いながら髪を梳いて砂埃を落とす。
「お酒の一杯もあれば完璧なのに~♪」
「呑むか?」
「え?あるの、ちょうだい……ひいっ!」
全く気配を感じさせず一人の男が天子の後ろで座って居た。
庵の主なのだろう、風呂に入りに来たのか当然全裸、手には酒器が一式。
「きゃぁ!ちょっと何見てんのよ!」
慌てて胸と恥部を手で隠す天子、男の視線から逃げるように背を向け、体を縮ませる。
「人様の家の風呂を無断使用しとるくせに何をいっておる」
まぁいいがな。そう男は笑い、ざぶりと風呂に入る。
「呑まんのか?遠慮はいらんぞ?」
「うぅ~~何よ何よ何よ!私の体を見て無反応なわけ?逆に失礼よっ!」
「ワシは風呂場では欲情せん性質なのさ、浴場だけにな」
カカカと下らない冗談を言って男が笑う。
「ワシは夜智王、ご覧のとおりの蛇だ、お主は?」
「……」
「だんまりか?まぁ神社を倒壊させたと噂の天人殿であることは知っとるがな。ほれやらしいことはせんから、出会いを記念して一杯呑もう」
「嫌よ!ばか!すけべっ!」
そう言って天子は風呂を飛び出すと服を拾い隣接する脱衣所へと逃げていった。
おやおやと蛇は楽しそうにその後ろ(と形の良い尻を)見送り、また一杯盃を干した。
「おや天女殿、まだおったのか?」
「私の裸見て、ただで済むと思ってるわけ?罰としてお酒とご馳走を用意しなさい!」
「酒はともかくこんなあばら屋でご馳走は無理ぞ?味噌でも舐めるか?」
「しみったれた話ね!まぁ良いわ、お酒!ほら早く!」
「ははは、いかにも天人らしい高慢ちきだの、まぁそんな女子もワシは嫌いではないがな」
先日香霖堂で買った旧式(氷を入れて冷やす型)の冷蔵庫から麦酒の瓶を出し、壺中天からジョッキを取り出し天子に渡す。
「上手い具合に冷えておるぞ、風呂上がりはこれに限る」
黄金色の液体が泡を立てながら酒杯に注がれる。
「何これ?泡?面白い!」
「ほれ乾杯だ」
「乾杯!」
ころころと良く表情の変わる娘だな、可愛らしい、そう蛇は思う。
炭酸の刺激にビックリしている様はどこかあどけなくも見える。
「くぅ~冷た~い、にが~い、でもこのしゅわしゅわがおいし~」
「それは良かった、いまいち受けが良くなくての」
幻想郷では麦酒を製造している物がおらず、これは夜智王の手製だった。
幾人かに呑ませたがあまり評判が芳しく無い。
夏になれば評価も変わろう、その時は天狗と河童を誘って、大量生産し一儲けしようか。などと考えているのだった。
「でもあんまり強くないのね」
「その分沢山呑める、ほれもう一杯」
「そっか、それもそうね」
「らいたいひろいとおもふぁない?みんなひててんひのことひゃけんいして!」
「そうだのぉ天子はこんなに可愛いのにのぉ」
完全に呂律が回っていない天子が何度目になるのかわからない愚痴を吐き、ぐいっ!とまた酒をあおる。
空になったジョッキにとぽとぽと夜智王は酒を注いでやる。
酒精ではなく、炭酸に酔っているらしく、天子はへべれけになっていた。
夜智王の膝の上に座り、くてんと背を預けている有り様である。
「ひぅ……やひおうはやふぁひいね」
「おお何故に泣く?天子。ワシは女子の涙が弱点じゃ、泣かんでおくれや」
「らって……」
急に涙声になり始めた天子がぽつぽつと語り出す。
それは天界でのことらしかった。
偶然だった、男達が集まり酒を呑んでい近くを通りがかったのは。
漏れ聞こえてきたのは、聞くのが不快になるような、女の品定めのだった。
あちらの娘がどうの、こちらの娘はどうの。
暇を持て余す天人がする、どうでもよい話。
下世話な内容に顔をしかめ、その場を離れようとした、その時、不意に天子の名前が出た。
比那名居の総領娘はどうか?
一瞬の沈黙後、男達は大笑いを始める。
嘲りを含んだ、嫌な笑いであった。
「それはあり得ぬ」
「おこぼれで天人になった小娘ぞ」
「それにしても不良すぎる」
「せめもう少し器量が良ければなぁ」
「器量は悪くはないさ、だがあの貧相な体では」
耳を疑うような言葉の数々と嘲笑が響く。
ぐらりと地面が揺れた、いや天子がそう感じただけであり、実際はあまりの精神的な衝撃に天子がよろめいたのだ。
弾けるように天子は走ってその場を去る。
自室に閉じ籠り、寝具を被っても、男たちの嫌な笑い声が耳にこびりついて離れない。
耐えかねたように天子は天界を飛び出し、地上へと降りたのだ。
「嫌な事を思い出せてしまったな」
えぐえぐと幼子のようにぐずる天子を抱きよせ、背中をさする。
酔っぱらってタガがはずれているのか?泣きじゃくりはじめた、天子をあやす。
「そう泣くな。天子は十分過ぎるほどに可愛いぞ」
「ほんろ……?」
「本当だ、まぁ乳は控えめだがな」
「ひどいよ、ひにしてるのに……」
天子はおためごかしを言う男は好きか?
そう問う夜智王に、ふるふると天子は首を振る。
「乳の大きさで女の器量が決まるわけではあるまい」
「……やひおうははどっひがふき?」
「でかい方が好きだ」
「ばかっ!」
即答した夜智王を天子が思いきり殴りはじめる。
「痛い痛い、やめておくれや」
「おっぱひなんれ、たらのにふのからまりひゃない!」
「悲しい事を言うで無いよ天子、女子の乳にはな、男の夢が詰まっておるのだぞ」
「わるかったふぁね!ふまってなふって!」
「ん?」
ふと天子が目を覚ますと、秋の太陽は既に落ち、外は闇の帳が落ちていた。
ぱちぱちと音を立てて燃える囲炉裏の炎と、部屋の隅に置かれた、灯籠の淡い明かりだけが辺りを照らしている。
「(あたし、いつのまに眠って……なんだかあったかい……)って!?」
「目が覚めたか天女殿」
「や、夜智王……」
身を包み込む、幼子の頃父親の膝の上で眠った時にも似た、心地好い温もり。
酔って、泣いて、怒って、疲れ果てた天子は、夜智王の膝の上、その胸に背中を預けて眠ってしまっていたのだ。
粗末だが清潔な毛布が掛けられており、屋内に忍び込んでくる冷たい夜気から天子を保護していた。
この程度の寒さで天人が風邪を引くことは無い、だが女が体を冷やすと良くない、という夜智王の配慮だった。
「(あたし……なんで……あ、ああああああぁぁ!!)」
酔っていたとはいえ、晒した醜態を一気に思い出した天子の全身から血の気が引く。
次いで叫びだしそうな程の恥ずかしさに、首まで真っ赤に染まった天子は、そんな様を見られまいと、ぐいっと毛布を引っ張り顔隠す。
「段幕ごっこで疲れたのであろ?布団を敷こうか?」
「う……あ……えと……」
「どうした?」
泣き疲れて寝てしまったことを知っていながら、わざと夜智王はそんなことを言った。
気遣いが優しさが、身に染みる。
天子には分かっていた、夜智王は確かに優しい、だがその優しさには、下心がある、女を「その気にさせる」嫌らしい優しさなのだ。
しかし、心の隙にするりと忍び込んでくる“それ”に抗うのはひどく難しかった。
「夜智王」
「なんだ?」
「あたしのこと可愛いって言ったよね?」
「ああ、天子は可愛い、お世辞ではないぞ?」
「おっぱい小さいよ?」
「乳の大小で女の器量が決まるわけではないよ。天子を笑った男共、モテぬ男の戯れ言など気にするな」
「うん、ありがと……でも、夜智王はおっぱいの大きい、艶っぽい女の方が好きでしょ」
「そうだな」
「……少しはおべっかも使おうよ」
「ふふ、すまんな、これも性分よ。そんなに乳のサイズが気になるのか?」
「ふぇ?」
天子の胸を、ごく自然に夜智王の両手が包む、突然のことに天子がすっとんきょうな悲鳴を上げる。
「やぁっ」
殆ど起伏の無い天子の胸を、すっぽりと包んだ夜智王の手が、やわやわとマッサージし始める。
優しげなその動きに、天子が堪え切れず、甘い声をあげる。
心地よさに、はぁぁと熱い吐息が漏れる。
「敏感な可愛い乳ではないか、ん?」
「だめっ、て……動かすな、ひぅっ!」
「小さなおっぱいには希望が詰まっておるのだぞ?可愛い女子の可愛いおっぱいを育てる楽しみは、また格別でなぁ」
きゅうっと夜智王の手が嫌らしく天子の胸を揉みしだく。
びくん!と天子の体が痙攣する。
「ふぁっ!……だめ、やらしいのだめ、やめてぇ」
「可愛い声でそんな事を言われても説得力が無いぞ?」
「あっ……やめっ!はずかしいよぉ」
すっかり涙腺が弛んでいるせいか、ぽろぽろと泣き出す天子。
夜智王は手を止めると、そんな天子の涙を拭ってやり、なでなでと、童にするように頭を撫でてやる。
「の?小さい乳でも気持ち良いだろ?」
「やちおうのすけべ……」
「男の膝の上でそんなことを言っても説得力は無いぞ」
「……お尻になんかかたいのが当たってる」
「天子があんまり可愛く喘ぐから、愚息が元気になってしまったわ」
ははは、と悪びれもせず夜智王は笑う。
「あたしに、欲情してるの?」
男達に嘲笑されたのがよほどに堪えたのか、天子はか細い声で夜智王に問う。
恥ずかしいのだろう、顔を見られたくないのか、体をずらして、夜智王の胸に顔を埋めてしまう。
なんともいえず愛らしい様子だったが、意地悪をするように夜智王は、くいと天子の顔を上に向けさせる。
潤んだ瞳で天子は夜智王を見つめてくる。
「身体は正直だぞ?」
「あたしを……抱きたい?」
「ああ、天子が諾と言うならな」
「い……良い」
つっかえがちに、了承の返事を返そうとする天子の唇を、指で押さえ夜智王は黙らせた。
「そんなに簡単に男に体を委ねてはだめだぞ、天子。世の中には初な女を騙すのが得意な悪い男が多いのだからな」
その筆頭のくせに、いけしゃあしゃあと夜智王は説教をする。
「……いや」
「何が?」
「あたしが可愛いっていうなら、あたしを抱いて証明してよ、夜智王」
頭にこびりついた、男達の嘲笑を忘れさせて頂戴?
そう掠れた声で、だが傲慢な口調で呟いて、天子は夜智王を見やる。
その瞳に宿った力強さが、夜智王には惹かれた。
「承ろう」
「気持ち良くしてくれなかったら、承知しないんだからね、こんなボロ屋、すぐに潰しちゃうんだから」
「それは困るな」
強がるような天子のセリフを塞ぐように、夜智王は天子の唇を啄ばんだ。