「(お腹が空いた……)」
死とは何人にも平等に訪れる“安らぎ”なのだと。
そうを悟ったのは、蓬莱の薬を飲み、老いることも、死ぬこともなくなって、しばらくのことであった。
最初の頃辛かったのは空腹、餓えだった。
餓死しても死ぬことはない、だが生き返ったところで腹がふくれるわけでもない。
「うっ、うぇ……(なんで、なんでこんな辛い思いをしなきゃならないの?)」
餓えに負け、野草や木の実を知識もなく食い、毒に中り「いっそ死んだ方がまし」そう思う程に苦しむこともあった。
ある時、親切にしてくれた夫婦が有った。
子供が出来ないのだ、と道端で倒れていた妹紅を保護し。
私たちの子にならないか?と言って貰えた時、嬉しくて妹紅は声をあげて泣いた。
しかし
「いやっ!やめてっ!いや、いやぁぁぁぁ!」
彼らの生業は盗人であった。
人買いに売り飛ばされ、変態男に買われ、凌辱の果てに殺された。
生き返り、絶望のあまり発作的に自ら命を絶っても、果たせず、何度も何度も繰り返すうち、妹紅の心は壊れていった。
山野に隠れ、獣のように生きる。
冬になって食べ物がなくなると、遊女の真似事をし春をひさぐことにも慣れた。
惨めな生活は、ある老陰陽師に出会うまで続いた。
「わしの弟子にならんか?」
異形のモノに親しむ陰陽師は妹紅を気味悪がることもなく、生きる術として様々な陰陽の業を、惜しみ無く伝授してくれた。
師としては厳しかったが、普段の生活では孫のように妹紅を慈しんだ。
すっかり他人という生き物を信用出来なくなっていた妹紅も、少しずつ老人に心を開いていった。
不死の身になって約三百年目。
手にしたささやかな安息。
しかし、その安息が永遠に続く事は無かった。
妖怪退治に出掛け、返り討ちに会い老陰陽師は返らぬ人となった。
悲しみよりも怒りが妹紅の心を支配した。
元より素質があったのだろう、老陰陽師の仇を討つのを皮切りに、片っ端から妖怪を殺戮するうち、妹紅の力は増していく。
妖怪退治の謝礼は食うために貰ったが、ただ殺すために、妖怪を殺す、荒れた日々が続いた。
夜智王との最初の出会いは、もはや並の妖怪では相手にならない程、妹紅が強くなった頃。
三百年近く経った頃だった。
「あ、あな!なに、して!」
顔を真っ赤にした黒髪の少女が、身を寄せ合う二人を指ま
差し、金魚のように口をぱくぱくさせる。
「見てわからないのか?」
妙に勝ち誇った様子で妹紅はそう言うと、少女に見せつけるように夜智王の首に腕を回し、しなだれかかる。
「とりっ!?とりっ!?」
言語中枢が麻痺してしまったのか、まともにしゃべれない黒髪の少女。
「(はて、どこかで見たことがある気がするが)」
絹糸のように美しい、艶やかな長い黒髪。
ふっくらとした頬、ぱっちりとした目元。
和風の上着とスカートはリボンやレースで飾られているにもかかわらず、少女の纏う雰囲気のせいか?まるで十二単のようにも見える。
一度あったら忘れない、印象的な美少女である。
「知り合いか妹紅?」
夜智王の問いに、妹紅はわざとらしく、耳元に唇を寄せ、囁くように耳打ちする。
ひどく艶めいたやり取り。
ますます黒髪の少女の白い肌が羞恥に紅く染まっていく。
「……なよ竹のかぐや姫」
蓬莱山輝夜。
月人の姫でありながら、蓬莱の薬を飲んだ罪で地上に落とされた不死の少女。
道理で見覚えがあるはずだ。
「そなた月に帰ったのではなかったのか?」
のんびりした調子で夜智王が問う。
「夜智王、お前あいつと知り合いなのか?」
「都がまだ飛鳥に会った頃だったか?名だたる貴公子を五人も袖にした美姫がいると聞いてな」
いったいどんな美女かと、心踊らせながら夜智王は竹取の翁の邸宅に忍び込んだ。
「あ、あなた、あの時の蛇さん?」
「人の姿で会うのは初めてだったな。さよ、久しいな、なよたけの姫」
「それで、夜這いでもかけたのか?」
「いや、どんな妖しい姫かと心踊らせて行ったのだがな」
随分と愛らしい少女だったので、少しがっかりした。
蛇の姿のまま、幾晩か、おしゃべりだけの逢瀬を重ねたのだ。
「がっかりって何よ!失礼ね!!」
憤慨する輝夜、妹紅がぷっと思わず吹き出す。
きっ!と射殺しそうな視線を妹紅に向ける輝夜。
一触即発の事態に夜智王が割って入ってとりなす。
「そう怒らんでくれ、なよたけの姫、そなたは美しく、愛嬌のある、可愛らしい女子だ」
月から追放された姫は話し上手だった、古い蛇は他愛もないおしゃべりを楽しんだことを良く覚えていた。
「ただわしはもっとこう……妖しい美貌の、艶めいた美女が居ると期待していたのでなぁ」
つい、と夜智王の視線が輝夜の控えめな胸に向けられる。
視線に気がついた輝夜がさっと胸を腕で隠す。
「悪かったわね!胸のおっきな妖艶な美女じゃなくて!」
「いや、そのけしてそなたの体つきは悪くないと思うぞ」
胸は控えめだが、別段幼児体型なわけではない。
くびれた腰、まろやかな曲線を描く女らしい体型だと蛇は力説をする。
「なんで知ってるのよ!」
「見ればだいたい解る」
「いやらしい事言わないで!」
むきー!と輝夜が地団駄を踏む。
千年以上昔、同じ会話をしたことを思い出し、夜智王はからから笑う。
翻弄される輝夜が可笑しいのだろう、妹紅も夜智王に抱きつき必死に笑いを堪えている。
「ちょっと妹紅、笑い過ぎじゃないかしら!?人の事笑えるような体じゃないでしょう」
「ふん」
「なによ、その顔」
「確かにあたしの乳は、慧音や永琳ほど、たわわに実っちゃいないけどな」
薄い上着越しに薄い胸を夜智王に押し付ける。
「こいつにしっかり開発されてるからな、未通《