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No.26700の一覧
[0] 東方蛇精譚・夜話【東方二次・男オリ主】[窓](2015/01/20 03:24)
[1] 蛇、幻想郷に至る、の巻[窓](2011/12/20 13:20)
[3] 蛇、旧友との再会に肝を冷やす、の巻[窓](2011/11/28 01:54)
[4] 蛇、洋館の門前にて門番と戯れる、の巻[窓](2011/11/28 01:54)
[5] 蛇、襲撃を受ける、の巻[窓](2011/11/28 13:39)
[6] 蛇、天狗娘と情を交わす、の巻[窓](2011/12/01 20:48)
[7] 蛇、山の神社にて、巫女に捕まる、の巻[窓](2011/12/01 23:44)
[8] 蛇、ミシャグジ神に苛まれる、の巻[窓](2011/12/06 05:28)
[9] 蛇、ミシャグジ神と共に人里に赴く、の巻[窓](2011/12/06 05:29)
[10] 蛇、ミシャグジ神と人里を堪能す、の巻[窓](2011/12/08 04:49)
[12] 蛇、襲撃されること再び、の巻(加筆)[窓](2011/12/09 00:07)
[13] 蛇、亡霊娘と情を交わす、の巻[窓](2011/12/09 15:03)
[14] 蛇、博麗神社に参拝し、巫女、魔法使いと遭遇す、の巻(冒頭追加)[窓](2011/12/15 17:13)
[15] 蛇、森の古道具屋を訪ねる、の巻[窓](2011/12/15 17:39)
[16] 蛇、半人半妖の店主を美味しくいただく、の巻[窓](2011/12/16 04:00)
[17] 蛇、半人半妖の店主と情を交わす、の巻[窓](2011/12/20 13:32)
[18] 蛇、棲家に帰還す、の巻[窓](2011/12/30 04:17)
[19] 【五万PV御礼】蛇、吸血鬼と情を交わす(前編)【おまけ】[窓](2012/08/30 17:21)
[20] 【五万PV御礼】蛇、吸血鬼と情を交わす(後編)【おまけ】[窓](2012/08/30 17:23)
[21] 【小夜曲一万U記念】蛇、メイド長と乳繰り合う、の巻【おまけ】[窓](2012/08/30 17:25)
[22] 蛇、妖怪の賢者、鬼と宴す、の巻[窓](2012/01/04 04:45)
[23] 蛇、風呂にて妖怪の賢者と戯れる、の巻[窓](2012/02/21 03:40)
[24] 蛇、妖怪の賢者と情を交わす、の巻(前編)[窓](2012/02/28 03:55)
[25] 蛇、妖怪の賢者と情を交わす、の巻(後編)[窓](2012/02/28 04:39)
[26] 蛇と九尾の狐、の巻[窓](2012/03/12 12:40)
[27] 蛇、地底に赴く、の巻[窓](2012/05/31 04:50)
[28] 蛇、鬼と宴す、の巻[窓](2012/07/08 22:05)
[29] 蛇と鬼と飲み比べ、の巻[窓](2012/07/16 04:25)
[30] 蛇と白黒魔法使いのトラウマ、の巻[窓](2012/08/25 04:31)
[31] 蛇、クピドの真似事をする、の巻[窓](2012/09/03 02:56)
[32] 【番外編】魔法使いと魔女、秘密の夜、の巻[窓](2013/02/25 22:01)
[33] 蛇、白黒魔法使いを誘惑す、の巻[窓](2013/02/17 13:10)
[34] 蛇と鬼娘、の巻[窓](2013/06/10 12:02)
[35] 蛇、隻腕の仙人と再会する、の巻[窓](2014/01/13 05:24)
[36] 子鬼の昔語り、の巻[窓](2015/01/02 05:51)
[37] 蛇、さとりの少女に出会う、の巻(文章追加)[窓](2015/01/20 03:26)
[38] 蛇、さとりの少女、新婚初夜、の巻[窓](2015/10/18 05:48)
[39] 蛇と温泉、の巻[窓](2015/10/26 13:21)
[40] 蛇、迷いの竹林に赴き、旧知に再会す、の巻[窓](2016/01/08 00:14)
[41] 蛇と蓬莱人の少女と月の姫、の巻[窓](2016/03/16 07:21)
[42] 蛇と蓬莱人の少女の過去、の巻[窓](2017/08/11 05:28)
[43] メモ。的な物[窓](2016/01/10 16:35)
[44] 【二万PV御礼】それはあったかもしれない世界【おまけ】[窓](2012/08/30 17:26)
[45] 【小夜曲お気に入り300件突破記念】ゆかりんとゆりゆりソープごっこ【これはひどいタイトル】[窓](2012/08/30 17:28)
[46] 【長期休載のお詫び】蛇、天人娘と酒盛りす、の巻[窓](2012/08/30 17:29)
[47] 【↑の続き】蛇、天人娘と情を交わす、の巻[窓](2012/08/30 17:30)
[48] 東方蛇精譚・零れ話 御阿礼の子と蛇[窓](2013/02/27 06:17)
[49] 【番外編】宵闇小妖と蛇・前編【そーなのかーの日】[窓](2013/03/08 04:50)
[50] 【番外編】宵闇小妖と蛇・後編[窓](2013/05/16 19:49)
[51] 【零れ話】蛇、さとりの少女、三日夜の餅、の巻(前編)[窓](2015/10/31 01:02)
[52] 【零れ話】蛇、さとりの少女、三日夜の餅、の巻(後編)[窓](2015/12/31 21:35)
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[26700] 蛇、地底に赴く、の巻
Name: 窓◆0bf2c45e ID:4325365c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/31 04:50
「やぁ巫女殿、魔理沙」

てこてこと雪化粧された参道を登ってきた夜智王は、境内で何やらおしゃべりしているいつもの二人に声をかけた。
霊夢は相変わらず脇がむき出しの可愛い巫女服に、寒さ対策らしい襟巻き。
正直、寒いのにその脇はいいのか?と思わないでもない。
一方魔理沙は完全装備、上着も長袖、薄紫色のケープが良く似合っている。

「あら夜智王さん、いらっしゃい」

これといった感慨も無く霊夢は夜智王に挨拶を返す。
来る度に賽銭を奉じ、土産を忘れない「上客」ではあるが、それはセクハラ行動及び発言の慰謝料、とでも考えているらしく、態度はつれない。

一方で魔理沙は夜智王を認めると「ひっ!」と可愛い悲鳴を上げる。
何事?と怪訝な表情の霊夢の後ろに回り、夜智王の視線から逃れるように隠れ、怯えていた。
ぷるぷると小動物の様に震える魔理沙、常と違う彼女の様子に霊夢は夜智王と何かあった、と敏感に悟る。

「ちょっと魔理沙、何よ、ひっつかないでちょうだい、鬱陶しい」
「つ、つれないこというなよ、あたしとお前の仲だろ」
「どんな仲よ。まぁ暖かくていいけど」

そんな魔理沙をよそに、夜智王は賽銭を奉じ、参拝をすます。
お札を放り込んだ夜智王に、きらん!と霊夢の目が光る。
「これで綿入れが質屋から買い戻せるわね」とか呟いている所をみるに、相変わらず家計は火の車らしい。

「夜智王さん、魔理沙に何をしたの?」
「うん、ちとおしおきをな」

霊夢の問いに、差し入れだよと里で買ってきた饅頭を渡しつつ、夜智王はことの次第を語り出す。
きっかけは紅魔館の地下に住む魔法使い、パチュリー・ノーレッジの依頼だった。
彼女の図書館から無断で本を持ち出して返さない、一般的には「盗難」と呼ばれる行為を繰り返す魔理沙を懲らしめたい。
その手伝いを依頼された夜智王は快諾し、無事その勤めを果たした結果が、この小動物・魔理沙らしい。

「何したのよ……」
「それはワシと魔理沙とパチュリーのひ・み・つ、じゃ」

にぃっと厭らしい笑みを浮かべる夜智王に、霊夢も黙るしかない。
下手に聞き出すと、後ろでびくびくしている魔理沙の精神が崩壊しそうだったからだ。

「なぁ、中々に素敵な一夜であったな?魔理沙」
「ひぅ!やだ、やめて、思い出させないでぇ!」
「これに懲りたら、ちゃんと許可をもらって本を借りることだな」

折角の忠告も、霊夢にしがみつきぷるぷると震える魔理沙の耳には、届いていないようだった。

「あ、あたしは帰るぜ!」

夜智王のばか!すけべ!と捨て台詞を吐きながら、魔理沙は箒に跨がり飛び出す。
天狗顔負け速度であっというまに見えなくなった。

「なにかいやらしいことしたんでしょう?あんまりおイタがすぎると、私も容赦しませんよ」

半目で霊夢が夜智王を睨む。

「おお怖いな巫女殿。今回はお仕置きだったから少々過激だったが、ワシは基本的に女子が嫌がることはせんぞ?」
「……む」

確かにそうだ、この蛇は妙に紳士的な所が有る。
特に霊夢に対してはそうだった。
からかうようなことはあるが、本気でいやらしいこと(胸やら尻を触ったり)や、口説くようなマネは一切しない。

「(なんか……すっきりしないわね)」

蒸したての饅頭を頬張りつつ、霊夢は難しい顔をする。
余計な心労が無く、ほっとするような、逆に女として意識されていないのが悔しいような、複雑な気分に襲われる。

「しかし、二人で何の相談しておったのだ?胸が小さくて悩んでおるならワシが膨らませてやるぞ、いて」

いやらしく手をワキワキさせセクハラ発言をする蛇の眉間に、霊夢の投じた退魔の針がぶすっ、と突き刺さる。

「次は目に突き刺しますよ」
「怖いのぉ」と嘯きつつ夜智王はあっさり針を抜き取る、並の妖怪ならただでは済まない巫女の針も、この蛇には大した痛手ではないらかった。

「妖精並にしぶといのに、妖精程簡単には参らないし……嫌になっちゃうわね」
「ワシは間欠泉の見物が目的だったんじゃが、近いからとわざわざ参拝に来た、貴重な客に対する態度ではないと思うぞ?」

その饅頭も旨かろ?と夜智王は聞く。たしかに饅頭は旨い、肉汁はたっぷりだし、白菜や筍の食感も良い。
だが、それとこれとはまた別の問題であった。
そもそも参拝客が少ない最大の要因は夜智王のように妖怪共がたむろするからである。

「あの間欠泉を上手く使えば人寄せになると思わない?」
「そうさな、巫女殿がお望みとあらば、敷地内にちょっとした温泉をつくっても良いぞ」

化け土竜あたりに穴を掘らせ、天狗か河童に土管でも作らせて、湯を引く、知り合い連中に声を掛ければすぐだ。
と夜智王が音頭を取れば、なんとでもなると宣う。

「……なかなか魅力的な案ね」
「神社の境内から道を整備すれば、ついでに参拝し賽銭を落とす者もあるであろう。問題はここに至るまでが、里人にはちと厳しいがな」

まったく整備されていない参道を見やり蛇が苦笑する。

「ついでに、そこの整備もお願いできるかしら」

霊夢も薄々感ずいてはいるのだ、普通の里人には、あの見通しの悪い参道を通ってくるのは難しいことに。

「さすがにそれはワシの領分ではないよ巫女殿。本来ここは妖怪退治がご利益の神社だ、あまり流行っても困る」
「ケチ」
「巫女殿だけには言われたくないセリフであるな」

カカカと蛇が笑う。

「ではまぁ源泉としてどの程度使えるか見て参るかな……詳しい話はまた後日な巫女殿」
「あら、珍しく早く退散なのね」
「ワシがおっては魔理沙が戻って来づらいであろ?」
「その気遣いを別の方向に生かしなさいよ」
「ははは。では巫女殿、乳の相談は何時でも受け付けるぞ」
「……やっぱり退治しよう」

怒った霊夢がお札を取り出したので、夜智王はからかうのをやめて遁走を開始する。
幸い霊夢は追っかけて来なかったので、上空へと舞い上がり間欠泉が吹き出している場所へと向かう。

「これは、まるきり地獄谷だな」

間欠泉が吹き出したという場所までやってきた夜智王は、立ち込める硫黄臭に顔をしかめながら、そう呟いた。
ぼこぼこと噴出す熱水。
人体には有害な毒の風。
なによりも、辺りを浮遊する怨霊たち。

夜智王に気がついたのか、一匹、また一匹と怨霊たちが近寄ってくる。

オォォォォォォォォ

陰々と、言葉にもならぬ、怨念の声、鬼哭が響く。

「そういえば幻想郷には寺が無かったな、供養に来る坊主もおらんのか」

哀れなことだな、と死してなお生前の業から逃れられぬ怨霊達を、夜智王は憐憫の篭った表情で見る。
それが癇に触ったのか、単に生者が妬ましいのか、どろりとした気を撒き散らし、怨霊達が夜智王を取り囲む。
憑り殺そうとしているのか?
無数の怨霊に囲まれながらも、夜智王は慌てることもなく、小首をひねる。

「はて、こうだったかな」

密教僧のように印を組み、ぼそりと真言を唱える。

「のうまくさんだ かかか びさまえい そわか」

蠢いていた怨霊達がぴたりと動きを止める。
畳み掛けるように、再度同じ真言を唱える。

「のうまくさんだ かかか びさまえい そわか」

幾つかの怨霊が、ぱぁ、と光を放って消える。
そうでない怨霊も、落ち着いたのか、真言を嫌ったのか、さぁと潮が引くように夜智王から離れてゆく。

「やれ、紫が心配するわけだな」

怨霊の厄介な所は生者に憑依することにある。
人間ならば、除霊すればよい。
だが、その有り様が精神に依存する妖怪にとっては、それは「死」を意味する。

「まったく、なんだって放棄されたはずの旧地獄と繋がっただけで、怨霊が湧くのだ?」

なぁ?とその場に現れた人物に夜智王は丁寧に問いかけた。



「説明をしてもらえるか?小町」

夜智王に問われた緋色の髪を左右に結った少女。
死神、三途川の船頭、小野塚小町は、肩を竦めて返した。
怨霊が散ったのは、彼女の登場を察知してことらしい。

「なんだ、だんまりか?知らんのか?まぁ、別に構わんがな、異変の解決は巫女殿にお任せすればよいのだし……とまぁ野暮な話はここまでにして」

久しいな小町、相変わらず素敵な乳だな、揉ませろ、と親しげにセクハラ発言を投げ、笑みを向ける。
相変わらずだなお前は、と肉饅頭のように盛り上がった豊かな胸をガードする、このバカは本当に揉みにくるからだ。

「憑依されかかった直後に呑気な奴だ」
「憑依などされんよ、地蔵様のご加護があるからな」

夜智王の唱えていたのは地蔵菩薩の真言。
六道を彷徨う遍く衆生を救済するため、既に悟りを得て如来になる資格を持ちながらも、菩薩として現世にとどまりつづける、ありがたいお方である。
一方で、閻魔天の本地仏であるともされる。
閻魔として、三途の川で獄卒に子供を責めるように命じながら、地蔵として子供を助ける、おいおいマッチポンプではないか、と言いたくなるような、そんなお茶目な所もあたっり、なかったりする。
そんなことを思い出し、小町は元は地蔵だったという、上司の顔を思い出す。
いきなり、ここへ向えと命じられた時は何かと思ったが……

「地蔵様の加護ね……まったく信心などかけらもない妖怪まで救済されるなんて、懐の深い方だな」
「ああ、まったくな。ありがたく涙がちょちょ切れそうだ。で、じぞ……ではなくて、映姫殿はどうだ?相変わらずか?」
「相変わらずだ、よく説教を食らう」
「それはお主がサボるからだろう」
「五月蝿いよバカ蛇。何しに来たか知らんが、さっさとこんな所はおさらばしようじゃないか」
「そうもいかん、これからこの間欠泉を遡って地底に遊びに行くのだ」
「旧地獄に“遊び”に行くってのが、お前らしいというか、何というか……」

呆れても物も言えない、とばかりに小町が絶句する。

「時に小町は地底……旧地獄の地理には詳しいか?」
「なんだい、そんなもの聞いてどうするんだい?」
「遊びに行く先の地理を調べるのは旅の基本だろう?まぁ未知の土地、というのはそれはそれで乙だがな」

どっちだよ。とぼやきつつも、小町はかつての職場を現状を語りだしてくれた。

「そんなには詳しくないがね。まずは旧都、昔獄卒達が住んでた辺りだな。あそこは、今の幻想郷のしきたりに馴染めない連中が占拠してるよ」

好き放題に暴れ、人を取って食いたい、そんな連中は紫の定めた幻想郷のルールに不満を持ち、幻想郷を去った。その移転先が折り良く経営のスリム化で放棄された旧地獄だったらしい。
他にも、妖怪にすら嫌われるような、土蜘蛛などの妖怪も地底を居としているらしい。と続ける。

「なんとも素敵な話だな」

愉しそうに喉をならして嗤う夜智王に、小町は「どこがだよ」とつっこみを入れる。

「あと地底の管理自体は、旧灼熱地獄を蓋するように『地霊殿』とかいう建物があって、そこに住んでいるサトリに任せてるそうだ」
「ほうサトリ、まだ生き残りがいたのか」
「古明地さとり、とかいう娘だったかな」
「娘?美人か?」

何よりもそれが肝要、とばかりにそれを問う夜智王に、さぁと小町は肩を竦める。
生憎面識は無い。

「では、まぁ自分の目で確かめてみるか」
「・・・・・・サトリに心を読まれるは平気なのか、お前は」
「何も疚しいことが無いからな、むしろ言葉にせずともこちらの心を知ってもらえるなど、好都合ではないか」

言葉を尽くして口説くものもちろん良いがな。
ようするに、どんな妖怪だろうと、女子であるなら、それが夜智王にとっては、情愛の対象らしい。
もはや言葉も無い、とばかりに小町はばんざいする。お手上げ、という奴だった。

「……まったく、精々気をつけてくるこったな。そうそう四季様から伝言「後で説教にいくので覚悟をしておくように」だとさ」
「……しばらく地底に避難しておくか」
「あそこは旧地獄、つまり元々こっちの管轄下にあった場所だぞ?」

どうしたものか、と思案しつつ太陽をみやれば、良い時間であった。
そろそろ地底に赴かないと、囮としての役目が果たせそうにない。

「まぁ、映姫殿の事は後で考えるか……ではな小町、次はもっと色っぽい話をしような」
「いや、結構だ」
「けちけちするな。一度だけで良いから、な?」
「せめて、顔をみて言えよ、この助兵衛」

胸に笑顔を向けてくる夜智王。

「小町の乳が美しいからいけないのだぞ?」
「さっさと行けよ」
「よく考えておいてくれよ?」

そう勝手に言い捨てて、ずるりと蛇身へと変じた夜智王は、するりと間欠泉に飛び込んだ。
かつては土着の神であった夜智王は、蛇神の例に漏れず水と山の神。
水脈を伝って移動する程度の力は今も残っているらしい。

「四季様に告げ口しとくか」

そんなことを小町は呟くのだった。










「やれ、なかなかに難儀であった」

久方ぶりの水脈渡りのせいか、地下から吹き出してくる流れに逆らっていたせいか、少々迷子になりつつも、なんとか夜智王は地底へとたどり着いていた。
出口に選んだ井戸からずるりと這い上がり、人に化生する。
地下だというのに雪が降るのか、と感心しつつ辺りを見回してみるが、何処とも知れぬ場所であった。
しかし

「うん、懐かしいにおいがするではないか」

風に乗ってかぎ慣れた匂いが漂ってくる。
鬼の匂いだ。
その匂いに釣られるように、ふらふらと夜智王は歩き始める。

「これは地獄時代の名残か」

一本の街道の両脇に立ち並ぶ建物。
かつての地獄街道を夜智王は歩いてゆく。
匂いの源に近づくに連れ、濃厚な酒精、焼けた肉等の匂いが混じり始め、更には笑い声も聞こえ来る。
どうやら鬼達が集まって宴会でもしているらしい。
案の定だった、広場に大勢の鬼が集まり騒いでいる。
懐かしい情景に夜智王が目を細める。

「おい、貴様何者だ!」
「地上の匂い……何故に地上の妖怪が地底に来た!」

誰何の声。
気がつくと夜智王は数名の鬼に囲まれていた。

「約定を知らぬわけでもあるまい、すぐに地上に戻れ、今なら許してやろう」
「おい、まてこの匂い、こいつ八雲紫の手の者だぞ」
「何……?彼奴の式か?」

ざわざわと場が騒がしくなる。
鬼は嘘と約束を破ることを嫌う者が多い。
地上と地底の相互不可侵。その約定を破って侵入してきた夜智王に、強い殺意が向けられる。
そんな鬼達に対し、身構えるでもなく、夜智王は深く嘆息した。

「酷いのぉ、どいつもこいつも一度ならず情を交わした仲だというのに……つれない話だ」
「何を……ってお主!夜智王ではないか!」
「ようやく気がついたか冬虎」

別のざわめきが鬼達に広がって行く。
「夜智王だと?」「あの蛇か」「何をしに来た」「どうでも良いわ、酒だ酒!酒を持って来い!」

「夜智王!久しいなぁ!」

ざわめきを掻き分け、一匹の鬼が飛び出してくる。
身の丈九尺は有る筋骨隆々の美丈夫、癖っ毛の頭部からは見事な一本角が飛び出している。

「おお春虎か」
「本当に夜智王だな!おい男はやめろ、女になれ!とびきりの美女に化けて酌をしてくれや!」

夜智王を持ち上げてぶんぶんと振り回す春虎。よほどに再会が嬉しいらしい。

「酌は結構だが、どうせなら童子に化けろ」「いや女童の方が良い」「馬鹿を言うな、女だ女」

鬼たちが自分の性癖にあわせてあれに化けろこれに化けろと口々に言い募り始める。

「落ち着け落ち着け、皆叶えてやるからな、春虎下ろせ」
「おい、美女だぞ美女」
「わかったわかった」

そう言った夜智王は、ぼすんと煙を立て分裂し、化ける。
老若男女、あわせて八体。いずれも可愛らしく、美しく、妖しげな雰囲気を備えた別嬪ばかりだった。
鬼達が歓声を上げる。
銘々自分の好みの夜智王を囲うと、宴を再開する。

「お、おい、まて俺の分の夜智王を連れて行くな!」

美女に化けた夜智王をかっ攫われた春虎が怒鳴る、が。

「まぁまて春虎、お前には礼をせんといかん、とりあえずワシで我慢せい」

中性的な姿の夜智王がそんな春虎を嗜める。

「……よくわからんが、それが済んだら女に化けろよ」
「わかったわかった、お主好みの、十七くらいの美少女に化けてやるよ」
「二言は無いな!絶対だぞ!」
「いや、そのままでいいよ夜智王、私はお前に酌をして欲しい」
「何ィ!」

どこのどいつだ邪魔をするのは!
怒り心頭で振り返った春虎の表情が凍りつく。

「ゆ、勇儀……姐さん」

おおよそ、頭の上がらない相手の登場に、春虎の威勢がしおしおと、青菜に塩の勢いで萎れて行く。

「おう久しいな星熊の」
「ああ、久しぶりだね夜智王蛇……なんだい妙な顔して」
「お主、なんでジャージを着とるのだ?」

長い金髪に、額からは見事な一本角、そして何より夜智王の目を引くのは豊かで美事な双乳。
だが、山の四天王が一人、星熊勇儀はなぜか外界の学生が着る体操服……ジャージを着ていた。









後書き
長らく間が開きまして、申し開きのしようも無い作者でございます。
皆様いかがお過ごしでしたでしょうか?
実は春先から眼病を患いまして、一時は常時目に鈍痛が走り、当然PCのモニタなど眺める余裕も無く。
現在は大分回復しましたが、仕事でもPCやらPOSの画面を見る関係上、どうにもプライベートではPCを使う余裕の無い日々が続いておりました。
今後も以前のペースは難しいですが、ぼちぼちと投稿を再開していきた所存です。
どうぞよろしくお願いいたします。


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