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No.25329の一覧
[0] 【習作】ふたなりお姉さんと奔放な里【オリジナル】【ファンタジー】[HFO](2012/09/09 09:05)
[1] その1 #非エロ[HFO](2011/01/25 23:51)
[2] その2[HFO](2011/01/25 23:52)
[3] その3[HFO](2011/01/25 23:52)
[4] その4[HFO](2011/02/22 05:32)
[5] その5[HFO](2011/02/11 02:57)
[6] その6[HFO](2011/02/22 05:31)
[7] その7[HFO](2011/04/20 00:33)
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[25329] その6
Name: HFO◆67789e53 ID:f278d826 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/22 05:31

 決してその手を休めないのに、全く下品に見えないのはきっと礼儀作法をしっかりと身に付けて育ってきたからなのだろうとピーネェレンは考える。
ポートーシャも珍しい物を見た、という気配を全く隠さずに視線をヴィージルゥトに向けていて、時折思い出したように自身の手を動かしている。
二人から好奇の視線を受けるヴィージルゥトは全く意に介さず、というよりは気付かずに淡々と、しかし熱心に小さく、というよりは細かく切り分けたアップルパイを黙々と口に運んでいる。
お口に合っただろうかとは思うのだが、パイに手を付けて以降一言も喋らないのだから確認のしようもない。自信の出来映えだったから気に入って貰えれば本当に何よりなのだが。

あの時、ポートーシャの背後から何の感情も篭もらない、がらんどうの視線を向けられ思わず身体を強張らせてしまったピーネェレン。
一方のヴィージルゥトは直ぐに視線をポートーシャに向けると、逆に座って話をしていかれては、と言い出し自身は部屋へ引っ込もうとしたのだが、手紙の件を聞いてしかし淡々と同席していた。
互いに自己紹介を済ませた後は様子を伺い続けるポートーシャを気に留めた風もなく、古語としてヒューマンの世界に残っていたらしい里の言葉を知っていた彼女は独力で手紙を読み続けている。
身動き一つ、瞬き一つせずに動かすのは視線だけ。淡々と淹れられた香り良いハーブ茶に手を付ける事もせず手紙を読み耽っている。
若干の上目遣いでヴィージルゥトの様子を眺めているピーネェレンであったが、その表情にはやはりなんの色も浮かんでいない。
ヴィージルゥトの隣の席に控えるポートーシャに視線を向けると、彼女も困り果てた様子で逆にどうにかならないか、という視線を返される。そんな視線を向けられても何も出来ません!と言いたい。

「……この里の皆さんには本当、何とお礼を申し上げれば良いのでしょう。
 助けて頂いただけではなく、今もポーシャ殿のお世話になっているだけで何も出来ないというのに、私の服にまでこんなに気を使って下さるなんて」

不意に、静かな溜め息を漏らしたヴィージルゥトが声を上げる。同時に今までの硝子細工じみた様子は霧散し、微かにではあるが穏やかな微笑を浮かべてヴィージルゥトはピーネェレンを見ていた。
急に変わった様子にピーネェレンが戸惑っていると、微苦笑しながらヴィージルゥトは言葉を続ける。

「ピーネェレン殿、どうか無礼な態度をお許し下さい。目が覚めてからと言う物、初めてポーシャ殿以外の方にお会いするので緊張してしまったようです」

言い切るなり頭を下げるヴィージルゥトにピーネェレンは慌てて気にしないで欲しいと伝える。言われてみれば確かにエルダー様方から不必要な用件でポートーシャ宅は訪れないように、と触れが出回っていた。
だから家の前の通りから好奇心混ざりの視線を向ける者は居ても、わざわざ触れを破ってまで訪ねてくる者が居なかったという事実がある。
更にこの里に現在居る唯一のヒューマンがヴィージルゥトという事情もあるのだから、その緊張は寧ろ当然であるとも思えてくる。ただこうも丁寧に謝罪されてしまうと逆に申し訳ないような気になってしまうのだが。

そうしてひとしきり謝罪だのを済ませて取り敢えず一息、とハーブ茶と一緒に持参したアップルパイを振る舞っていた所であった。
ポートーシャが淹れたハーブ茶を口にすると、湯冷ましを使って入れられたのだろう、口の中にまったりとした甘みが広がりそれまで感じていた緊張を解してくれる。
自分用に取り分けたパイも平らげて、果たしてヴィージルゥト様のお口に合っただろうかと皿を見れば、細切れになっていた分は綺麗に片づいていた物の、まだ取り分けた内の半分近くが残っていた。
やはりお口に合わなかっただろうか、と内心しょんぼりとした思いをピーネェレンが抱く寸前、ナプキンで口を拭いたヴィージルゥトが口を開いた。

「……こういう時は自分の食の細さが嫌になります。折角、美味しいパイを焼いて頂いたと言うのに」

その言葉に嘘偽りはきっと無いのだろう、名残惜しそうに取り皿へと視線を落として眉を潜めているヴィージルゥトの姿。
それが本当に悲しそうに嘆いて見える物だから思わずピーネェレンは吹き出してしまった。それはポートーシャも同じだったようで釣られて笑ってしまっている。
最も自分もポートーシャも笑いを堪えようとして失敗した様子が見て取れたから、若干憮然とした表情をヴィージルゥトが浮かべると直ぐに慌てて謝ったのだが。

「どうか気になさらないで下さいませ。ハーブのお陰で数日は持ちますから、また後で召し上がって下されば嬉しいです」

その言葉を聞いて本当ですか、と微かな笑みを浮かべる姿を見てピーネェレンは思う。もしかして、ヴィージルゥト様は甘い物がとてもお好きなのではなかろうか?
自身の伴侶であるミトリャスアは凛々しい外見に似合わず可愛らしい物や甘い焼き菓子に目が無くて、それを本人も気にしているから時折自分が欲しいという振りをして用意する事が多々あった。
そうするとミトリャスアはしょうがないなぁ、なんて言いながらも嬉しそうに微笑むのだ。そのいじらしい仕草を含めてピーネェレンは心底ミトリャスアを愛しているから、
あの手この手で可愛らしい衣装を着せたりとか、新しく作られた菓子なんかは機会がある度に手に入れるようにしている。

それでは魔冷器に入れておきます、と話すポートーシャに表情の上では変わらないままの微かな笑みだが、全身から発する気配に大分喜色を込めて頷くヴィージルゥトを改めて見遣る。
自分自身も甘い物を好むから、許可さえ貰えれば時折持ってきたいと思う。何時かはミトリャスアも伴って、里の話などをして貰いたい。そう言う思いがあったから、気付けば口が勝手に動いていた。

「ヴィージルゥト様、もし私の作った物で宜しければまた何かお持ちしましょうか?私、パイの他にも焼き菓子を作るのは得意なのです」

聞いたヴィージルゥトの方は思いがけない申し出に目を丸くしていたが、直ぐに気を取り直してでも、と遠慮を見せる。
初対面の相手に対する遠慮だろうか、はたまた実は美味しくなかったからだろうか?一瞬だけポートーシャに視線を向けて援助を乞うと、判ったとばかりに頷いた彼女が助け船を出してくれる。
ポートーシャにとってもこれは嬉しい申し出であったから、断る理由など何処にもない。一つは彼女の菓子をヴィージルゥトが気に入っていたであろう事を見て取ったこと。
もう一つはこうやって新しい知己を増やして貰いたいと思ったからだ。ヴィージルゥトがこの里に来てそろそろ半月が経つが、未だに面識のある者が自分だけというのは好ましくない。
特にあのような一件があってから、塞ぎ込んでしまっていた気分を変えるにはきっと新しい出会いというのは効果的ではと思うのだ。

「宜しいではありませんか、ジル様。折角ピーネェレンの方から申し出てくれたのですから」

微笑みながら視線を向けるとまだ少し困惑気味に迷いを見せる。後一押しか二押しすれば了承してくれるだろう。
折角の機会なのだから、このままで終わりにしたくないという思いが強い。特にピーネェレンとミトリャスアは信頼できる相手というのも手伝って、ポートーシャは言葉を続ける

「もし迷惑なのでは、とお思いでしたらどうかお気になさらず。そもそも迷惑ならばピーネェレン自身から申し出たりしないものですし、
 何より嘆かわしいことにこのピーネェレンは私の元同僚にして友人であるミトリャスアと先日籍を入れたばかりで、毎日家でまじわ……失礼、いちゃついてばかりいるのですよ!」

だから少しくらい外に出歩かせて生産的な事をやらせるべきです!と大分大げさにポーズまで付けて冗談めかして嘆いてみせると、
今まで生真面目な姿しか見ていなかったヴィージルゥトは呆気にとられたらしくぽかん、と軽く口を開けてしまった。
ピーネェレンはピーネェレンで、そういう冗談が大好きなポートーシャの親友たるミトリャスアの伴侶であるから任せろとばかりに頷くと、一際大げさに身振りを示す。

「まぁ、なんてお言葉でしょう!ポートーシャ様の作る実用性一点張りの食生活では彩りがないだろうと思っての事ですのに!
 ヴィージルゥト様、お気を付けて下さいませ!ポートーシャ様ったら年下のミトに先を越されたからといって妬んでいるのですよ!」

浅ましくも嫉妬だなんて、ハントレスともあろうお方が嘆かわしい、嗚呼嘆かわしい!等とわざとらしく口元に手を立ててヴィージルゥトに伝えつつ、冗談めかした笑顔を絶やさないピーネェレン。
そんな唐突に始まったやり取りをヴィージルゥトは目をぱちくりさせながら見つめていたが、漸く理解が追いついたのか唇を緩めて微笑ではない笑顔を浮かべて口元を抑える。
その後も大げさにやれ行き遅れだのそれ若者は余裕が無いだのと馬鹿馬鹿しい冗談の応酬を延々と続けていたポートーシャとピーネェレンに、遂に堪えていた笑いが抑えきれなくなったらしい。
声を立てて笑うヴィージルゥトを見て、二人も矛を収めて一緒に笑う。そう言えばジル様が声を立てて笑うのを見るのはこれが初めてだなぁと、ポートーシャは思った。





 期せずして和やかな雰囲気になった後、改めてハルペスからの手紙の返事について話し合う。
傍らのポートーシャに返事についてどうしたものかと言葉を交わしていたヴィージルゥトはどうやら紙が高価なものであるからと気にしている様子で、
確かに里でも質の良い紙は高級品の部類だが、ハルペスが今回手紙を出すにあたって使ったのは特に高価でもないし、かといって質の悪い訳でもない普通の紙。
森や木々に縁の深い者達が手ずから作り出す紙や薬品は里でも多くが流通していて、手に入れること自体は全く難しく無い。
だからある物で書いて出せばと思ったのだが、どうやら狩女として里の中心部の者とは違う生活を送るポートーシャの家にはそもそも手紙に使うような紙が無いらしい。
比較的ストイックな生活を送る狩女全般に言える事だから仕方ないであろうに、傍目に見ても判るほど落ち込んでいるポートーシャの、今まで見たことのない情けない姿に
ピーネェレンは笑みを堪えるのが大変だった。とはいえ自分達の家の事情も似たようなものであるからあまり笑ってもいられないのだが。

「……ポートーシャ様、でしたら狩長様に伺ってみては如何でしょうか?エルダー様方とやり取りする事もあると聞いていますから、きっと都合してくださいますよ」
「む、確かに。少々、というかかなり情けないけれどこればかりは仕方ないかな……」

文書のやり取りというのは基本的に大戦以前の慣習を蘇らせたエルダー同士がそのやり取りだとか、商業に関することだとか何かと堅苦しい内容に限られる。
普段里の者が文書を使うとなれば大抵の場合は恋文で、今も昔も変わらず乙女達の間で交わされる恋文の最近の流行りでは封をする際に使う糊に、精子や愛液を混ぜて送り出すのが一般化してきている。
アルラウネやマンドレイクといった樹精、森精達が作り出す糊は同じく彼女らが作り出す紙と相性が良く、更には力の源であるそう言った液体と良く馴染む。
固まると共に濃密な香りも封じ込めるその封は、原料の相性も相まって封を切って直ぐさま大樹の恵みと共に香り立つ性の匂いでしばしば恋文の受け取り主を匂いだけで絶頂に導くと評判が良い。
勿論香りの相性が全てではないが、初めて嗅ぐ香りに絶頂を覚えるならば、きっとその相手とは上手く行くと今日も乙女達の間では信じられている。

そんな自身も結婚してから改めてやり取りをした覚えのある恋文の事を思い出したが、流石にヴィージルゥト様にそんな糊は使わせられないなぁとピーネェレンは思う。
ポートーシャが何処まで里の事情を伝えているのか判らない以上なんとも言い切れないが、ヒューマンの世界の事情をある程度伴侶のミトリャスアから聞いている以上そういう風習は忌避される可能性もある。
ミトリャスアから問題の複雑さは聞いていたが、改めて何がどうヒューマンの常識から外れているのか、と考えるとこれはまだ若いピーネェレンの目から見ても困難な事であるように思えた。

「……すみません、少し宜しいでしょうか?」
「はい、如何なされました?」
「その狩長様とは、どのような方なのでしょう?」

聞かれた二人はふむ、と考える様子を見せる。ピーネェレンにとっては個人的な知己を持たない相手であり手紙のやり取りの件も全てはミトリャスアから聞いた事が全てである。
なので自身の興味もあってポートーシャに視線を向けると、二つの興味の視線を受けた彼女は頷いて言葉を選びつつも口を開いた。

「そうですね、狩長は我々狩女の住むここ第三区画の長を指す役職でして、今の狩長はスキュラ族のヴォーパライナ様が務めております」
「スキュラ族、ですか?」
「はい。元は海洋に住まう海精族の一つであったと聞いております。
 上半身は我々エルフやジル様のようなヒューマンと一緒ですが、下半身が海の生物のような触手で出来ているのです」

触手、と聞いても今ひとつ想像出来ないのか小首を傾げるヴィージルゥトにポートーシャは相変わらず童女のような仕草をするお方だなと微笑ましいものを覚えた。
ただ具体的に触手という身体的特徴をどう言葉で説明したものか、と頭を悩ませる。狩長を筆頭にスキュラに失礼になるかもしれないと思いつつも、くねくねと手振りを交えて説明する。

「具体的にどう表現したら良いのか判りかねるのですが、海の生物に見られるような軟体なのです。
 こう、うねうねと動く吸盤を持った触手が何本も腰から下に生えていると言うのでしょうか」
「海の生物……実物は見たことがないのですが、スクイッドやオクトパスのようなものだと考えれば宜しいのでしょうか?」
「ええ、そうですね。スキュラは器用な種族でして、我らの狩長も巧みに触手を操って音すら立てずに森の中を駆け回る武芸者でもあります」
「窓から、下半身が馬の姿をしている方を窓から見かけた事があります……最初は誰かが乗馬されているのかと思ったので少々、驚きましたが。
 上半身が女性で下半身が、というのはそう言った方達のような姿を想像すれば宜しいのでしょうか?」

それはケンタウロス族ですね、と相槌を打つピーネェレンに同じく肯定の意味を込めて頷きながら、ポートーシャは続けて狩長個人の為人を語る。
現在の狩長、ヴォーパライナ自身は年期だけで言えば寧ろ若手と言える。数百年単位で狩女を続けるポートーシャやミトリャスアの様な例は別段珍しくもない。
また、ヴォーパライナの年齢も78歳と比較的若く、彼女の伴侶であるクリュセスカの方が124歳と年上だ。
その伴侶と出会ったのも狩女の役目から解放された直後で、それから数年してまた狩女の座へと戻ってきた里でも珍しい経歴の持ち主である。
当時は気弱な性格であったらしいが、伴侶と出会って以降人が変わった様に快活になって、今ではその公平さと実直さは里全体に知れ渡る数奇な経歴を持つ女傑、それがヴォーパライナであった。

「……ポーシャ殿から聞いてはいましたがやはり、女性同士で婚姻を結ぶのですね」
「ええ、そもそも男が居ない始まりでしたから……生まれてくるのも女か、えぇと、ヒューマンの世界では『双成』でしたか?の特徴を持つ者だけです」
「寧ろ、私としては男性というのがどういうものなのか全く想像がつかないです……」

首を傾げるピーネェレンに肉体的には女性と比較して、あくまでヒューマンの場合ではあるが、屈強であり、故郷では力仕事は基本的に男性の仕事であったとヴィージルゥトは告げた。
中には女の身で騎士や兵士といった職業を務める者も居たが、割と珍しい例であったのは確かだろう。男上位の社会であったのは否定のしようがない。
逆にこの里では全ての労働を女が担当している。力仕事の筆頭はやはり狩女で、狩や里の守護以外にも建築などの作業に従事する事もある。

日頃から激しい職務に追われる狩女であったから、一度その職務から退くと復帰する例は極端に少ない。里に奉仕した後に平穏を求める物が多いからだ。
何しろ毛皮や食料を得るだけでなく理性のない魔獣から里の守護も司るのが狩女である。よって、奉仕の途中に大怪我をする者や、大樹へと還り輪廻の輪に加わる者も少なくない。
だから50年の奉仕期間を待たずして引退してしまう者が出る事も良くあった。その場合も、心を削ってまで里を守ろうとした者には惜しみない敬意が向けられる。

「……想像以上に、狩女の皆さんは苛烈な責を担っておられたのですね」

動物を狩るだけが狩女の使命であると勘違いしておりました、と伏し目がちに告げるヴィージルゥトの声色は若干暗い。
故郷でも山から現れる魔獣には手を焼かされており、時折ある襲撃で命を落とした領民や兵士の話は彼女の耳にも入ってきていた。そう言う時は決まって窓から黙祷を捧げていた事を思い出す。
両親が治める領地を守る為に命を散らした相手に彼女が出来る、最大限の敬意の表し方であった。

「そうですね……私自身深手を負った経験もありますし、友人を失った事もあります」
「ミトも同じ事を言っていました……ですが、だからこそ誇りを持って職務に当たれるとも」

狩女の誇り、それは日常の守り手である事。先人達が必死の思いで築いたこの里を、ひいてはこの里に住まう誰かの変わらぬ、けれど1000年前には想像も出来なかったであろう日常を守る事。
その為だけに彼女たち狩女は必要とあれば命を捨て、同時に相手が何者であろうと命を奪う覚悟を持つ。故に里の者達からは敬意を持って接され、エルダー達からの信頼も厚い。
使命に誇りと、いつか退いた先にある自分達が守った日常に加わる夢を胸に抱いて里の守護者として狩女達は、里の外縁部にあたる第三区画で日々を過ごすのだ。

ポートーシャの語りを、ピーネェレンは伴侶を思い出しながら目を伏せて聞き入っている。ミトリャスアもまた、こうして狩女の誇りを嬉しそうに彼女へ語った事があった。
ヴィージルゥトは眩しい物を見るように目を細めて見ていた。口元に浮かぶ穏やかな微笑がそれが決して軽蔑や蔑視ではない事を告げる。
誇り高き狩女を、堂々と胸を張って語ることの出来る彼女は正しく、狩女の一員なのだろう。眺める側の表情には賞賛と、その視線には微かな羨望の色が浮かんでいた。

ヴィージルゥト自身にも羨望の根底にあるのは果たして何かを未だ理解する事は不可能だったが、父の言葉を思い出す。
その身を挺して民を守る兵士達、日々の糧をその手で生み出す農民達、更にはどんな醜悪な外見であろうとも対価さえ受け取れば等しく愛する事の出来る娼婦すらも。
正当なる職務には誇りがある、例え統治者として君臨する者の傲慢と言われたとしても決して貴族ならばこの事を忘れてはいけないよ、と父は常に言っていた。
傲慢すらも時として貴族の職務であって、押し付けがましい恩寵を何ら感謝されずとも出来うる限り平等に分配するのが我が祖先の道なのだから。
その道を忠実に歩んできた父は、しばしば他の貴族から非難を受けようとも平等に領民を扱った。娼婦の健康管理の為に医者を呼び込んだり、不作の時には私財を用いて民の生活を保障した。
それこそが、父の、そして父に寄り添う母の誇りであったのだろう。では、誇り高き両親の元に生まれ、今は誇り高き狩人の元で過ごす自分が果たすべき職務とは一体何なのだろうか?

「ポーシャ殿。一つお願いしたいことがあります」

暫くポートーシャを見つめていたヴィージルゥトは、やがて意を決したように口を開いた。






 その日、ヴォーパライナは朝から機嫌が良かった。先日の狩で結構な数の獲物を得た事もそうだし、帰りに出くわした魔獣を手際良く仕留めた事もそうだ。
スキュラの先達から良い話を聞けた事もそうだし、愛用の二対のバトルアクスの手入れのノリが良かった事もそうだ。だが何よりも幸せなのは今日は何も予定が無いことで

「さ、クリュセスカー。朝の鍛錬も終わったから、昼までいちゃつこう?」

それはつまり、伴侶とのんびり過ごす事が出来るからであった。
何せ手練れのポートーシャがまだ名前も知らない御印様の世話に回ってから狩長である自分の出番が増えてしまったので、ここの所暫くご無沙汰だったのだ。
半月程前、御印様を受け入れてくれた時に新たにした誓いを胸に獅子奮迅の働きを見せていたヴォーパライナであったがやはり伴侶の元で過ごすのが何よりも安らぐ。
どんなに夜更けまで職務が長引いても先に休むこと無く待っていてくれるクリュセスカを抱くことなく体力温存と回復の為に眠るというのは、それはそれで幸せではあったがやはり物足りない。
だから狩女達の当番調整が終わって漸く空いたこの日は、ヴォーパライナにとって待望の休日であった。

だが、そんな浮ついた気分を抱えたヴォーパライナが、私室である地下に掘られた地下水の流れる洞窟に入ると伴侶の返事がない。
いつもならこの時間、クリュセスカはこの洞窟奥で編み物だとか書き物をしている。だから呼びかければ壁に反響して返事が届くのだが、一体どうしたのだろうか?
するする、と触手を動かし洞窟を下っていくと、馴染みよい湿気に満ちた空洞が広がっている。先代の狩長が引き継ぎに当たって自らエルダーに掛け合って作られたそこは、
スキュラ族にとっては天国のような住み心地である。湿気もあれば流水もあり、魔導具の穏やかな灯りに照らされるそこはヴォーパライナにとって理想の部屋と断言出来る。

一つ気がかりな事があるとすれば伴侶のクリュセスカがエルフであって、この部屋に馴染めないのではという懸念。
だが流石は狩長の伴侶と言うべきだろうか、当初は体調を崩していたりもしたが、同居後一年もしないうちに平然として『慣れた』と言い放つ辺り華奢な外見の割に剛毅な女であった。
それでもエルフが好みそうな植物、流石に洞窟内でも世話の出来る物となると種類は少なかったが、をなるべく取り入れて二人で形を整えた愛の巣である。
まだ一緒になってから20年やそこらしか経っていないが、それでもこういう時はクリュセスカが何をしているかくらいヴォーパライナは理解している。ほぅ、と欲情を示す溜め息と共に気配を消して忍び寄って行く。

寝所に近づけば近づく程耳に響く微かな息遣い。同時に地下水の流れる音とはまた別に、ぴちゃぴちゃと水の跳ねる音がする。
息遣いの方は段々と距離を詰めるごとに荒さが顕著になって行くし、水音もぐちゅぐちゅと何かをかき回すような音がより響き渡ってくるようになる。
狩女として使う忍び足の技術を使って遂にヴォーパライナは寝所へと潜り込む。微かな灯りだけが部屋を照らす、薄暗い寝所の中。
そこでは伴侶のクリュセスカが四つん這いになって、股座に両手を突っ込んで自らの性器を弄くり回していた。

「……ふぅ、んっ!嗚呼、ライナ、まだなの……早く来て、クリを潰して、ペニス挿れてぇ……」

暗闇の中にあっても夜目の利くヴォーパライナは陶然とした表情で自身の名前を連呼するクリュセスカの姿をはっきりと捉えていた。
肥大化したクリトリスを右手の人差し指と親指で容赦なく磨り潰しながら、もどかしげにヴァギナとアナルへ左手の指を突き込んでいる。
十数秒おきに赤毛を振り乱して痙攣しているのはそんな短いサイクルで小柄な彼女が絶頂を迎えている証左だろう。

これこそがスキュラを伴侶に持った女の幸福である。一度生殖触手を突き込まれ、その触手から分泌される、ねっとりとした促淫効果のある潤滑液を粘膜に刷り込まれてみるが良い。
それだけで敏感になった性器は昼夜を問わず発情し、衣装が擦れるだけで昂ぶりを抑えられぬ程に開発されてしまうだろう、とは昔から伝えられるスキュラ族に纏わる一節である。
クリュセスカも例外なく全身を開発されてしまっており、普段はそんな素振りを見せない物の、一人きりになれば四六時中自身を慰めているオナニー狂いと化している。

ヴォーパライナとの婚姻にあたってこれだけは予想外だったとは本人の弁。
結婚後僅か一年の間に吸盤に吸い付かれ、触手に貫かれ、何よりも触手の潤滑液よりも余程促淫効果の高いスキュラの精子を注ぎ込まれ続けた彼女の性器は万年発情器と化してしまう。
元々はエルダーカーマインの身の回りの世話をする付き人だったから、時として主人であったカーマインの身体を慰めることもあった。
だから性技には自信があったのに、こんなジワジワと寝ても覚めても苛まれる感覚は全く想像の範囲外。目が覚めれば寝具をぐしょぐしょに濡らし続ける日々を送って改めて古人の言葉を思い知る。
最早触れれば絶頂を迎えるくらいに敏感となったクリュセスカの身体だったが、本人は寧ろこの事を喜んでいた。即ちこの淫蕩な身体はヴォーパライナに愛されている証拠であるからだ。
唯一クリュセスカが残念でならないのはペニスの生えていない自分自身で、評判の触手に飲み込まれて精液をまき散らせないことだけが悔しいと漏らしていた。

かくかくと突き上げた腰を振りながら自分自身を嬲る手つきを全く止めないクリュセスカを見るヴォーパライナは幸せ一杯の笑みを浮かべる。
長年気に病んでいたケダモノの性欲を受け止めて貰う事が出来た、これからもっともっとクリュセスカには淫らな身体になって貰わなくてはいけない。
ぷし、と音を立ててもう何度目になるかも判らない潮を吹きながら腰を震わせる伴侶にヴォーパライナは一本の触手を伸ばす。ぱくぱくと口を調節してクリュセスカの淫核ぴったりの大きさを調えると

「へぁっ……、あ"、ひぃ、へはぁっぁぁぁぁっ!」

何の前触れも無しにそれまで自身を慰めていた指を弾かれて、何事かと思う間も無く触手がぱくりと小指の先程に肥大化しているクリトリスを丸飲みされる。
間髪入れずにそれまで自ら散々弄くり倒して敏感になっていたそこを内部の繊毛に根本から先端まで余す所無く扱き上げられて呆気なく言葉としての意味を成さない悲鳴を上げてクリュセスカは絶頂した。

「おぞい、よぉ、ずるい、よぉ……まっでだのに、ずっと、まってたのにぃぃぃぃいっ!」
「ごめんよ、クリュセスカ……これからずっとイキっ放しにしてあげるから」

むにむにとここ最近ですっかり言うことを聞くようになった自らの下半身を巧みに操り、ヴォーパライナはクリュセスカを啼かせる。
命を紡ぐ者に与えられる大樹の加護がなければとっくに水分不足で失神している筈の身体からは、絶えることなく潮と小水が噴きだしてくる。
吹き出る水分を何の抵抗もなくヴォーパライナはあーん、と大きく開かれた口内へ受け入れた。味は正に甘露、下半身を触手で持ち上げ直に啜ってやるとそれでまた絶頂したのか口内に甘美な潮の味が広がった。
まだペニスも触手も入れられていないのに既にぽっかり口を開けてヒクつくヴァギナとアナルは白濁とした愛液と腸液が滴り落ちてきてすら居る。

「ねぇ、クリュセスカ。昨日買い物に行った時に、良いこと聞いたんだ。私の触手って君の身体を淫乱に育ててしまうだろう?
 それでね、他の姉様達に尋ねてみたのさ。もしペニスを持たない乙女のクリトリスを触手で何年も吸ったらどうなりますかって」
「……吸ったら、ひン、どう、なるの?」

責めの手を緩めて上半身を抱き上げてやり、言葉を投げかけると流石は元エルダーの付き人。ただ理性を保った瞳を向ける、激しいだけでは溺れない伴侶をヴォーパライナは愛おしげに抱きしめる。
つ、と右手の親指を突き出してやると、何も言わずともしゃぶり出すのはやはり愛情の深さであっただろう。
まるでペニスに大して奉仕する様にクリュセスカは丹念に丹念に爪で覆われた先端も、指の付け根も舐め、啜り、そして決して歯を立てずに唇で甘噛みする。
舐めさせている方はやはり愛おしげな様子で頭を撫でてやると、不意打ちを期して耳元で囁いた。

「その姉様もね、ペニスの付いてない奥さんを貰ったんだ。そしてね?風に吹かれただけでぐちゅぐちゅに濡れちゃう奥さんのクリトリスを見せてくれたよ。
 凄かったなぁ。私達の触手って時間をかければあのくらい出来るんだね……クリトリス、小さなペニスくらいの大きさになってたよ」
「え――イ、ひぃんっ!」
「毎日今やってるみたくはむはむってしてやると最初の一年でね?親指くらいには大きくなるんだって。
 そこからちょっと時間は掛かるんだけど、5年もすれば私の、ヴァギナに、君のクリトリスが、挿入出来るようになるんだって」

素敵だと思わない?耳元で囁かれた言葉にクリュセスカは一気に目の色を変えた。
加えていた親指を放して、無理矢理背後を振り返ると情熱的なキスをヴォーパライナへと見舞う。言葉は無くとも、その行為が彼女の願いを表していた。
育てて欲しい、あれほど焦がれて止まなかった愛する伴侶を啼かせる自らのペニスに、この哀れな淫核を磨き上げて欲しい。哀願するような視線を向けるクリュセスカに戻ってきた返事は、穏やかな笑み。

「ライナぁ、私の、クリトリスをぉっ」
「うん、任せて。私が育ててあげる。私が居なければ気が狂ってしまうようなくらい、見事な色狂いにしてあげる。
 これからずっと、二人きりの時はこうして君のここを食べてあげる。嗚呼、なんでオナニーで私は膜を破っちゃったのかな?君の為に取っておかなかった自分が憎いよ」

心底悲しげに言う姿に喘ぐばかりだったクリュセスカから笑みが零れた。
嗚呼、私の伴侶はなんと心優しいスキュラだろうか。仲間の負傷に涙し、傷つく者の姿で心に傷を負う程情に厚い貴女はやはり変わっていなかった。
心根の強さは随分と上向いたけれど、他人の不幸に涙を流せる貴女の優しさをどれほど私が愛しているか!

「いいの、私が、改めて貴女の処女、奪うから。変わりに私の童貞、ちゃんと貰ってね?」
「――嗚呼、クリュセスカ。クリュセスカッ!うん、うんっ!全部あげる、全部貰う!」

さぁ、今日から頑張ろう。そう歓喜の表情と共に告げたヴォーパライナは自らの腹に打ち付ける程に勃起したペニスをクリュセスカのヴァギナへと突き込んだ。
同時にしゅるしゅると伸びる触手が乳首をくわえ、緩やかに母乳を吸い取りながら両者のアナルを貫いて行く。突然の挿入だったが事前の行為で緩みきったクリュセスカは容易く受け入れてみせた。
だが、同時に子宮を愛でるペニスを締め付ける事を彼女の身体は決して忘れていなかった。
もっとも愛おしい性器を受け入れたヴァギナは歓喜に充ち満ちて、自らのクリトリスを嬲る触手と同じように脈動を始める。思わずヴォーパライナは三擦り半も持たずに射精してしまった。

「んぅ、ふふ、早いのは相変わらず、ねっ」
「あ、だめぇっ、カーマイン様仕込みの君の、はうぅっ、それ、でるぅっ!」

エルダー直伝の性技で絞り上げられて抜かずに二発目、三発目と絞り上げられるヴォーパライナであったがやはりそこは狩長であった。
子宮に熱い精子を浴びる直前を狙って一気に乳首の吸飲し、アナルの吸盤を無理矢理引き剥がすように触手を引き抜くと、子宮に精子を浴びつつ一気に絶頂に押し上げられた数瞬の後、
意識が降りかけてきた所を狙ってクリトリスを『食べた』。一部の繊毛が硬さを帯びて、痛み寸前の刺激を伴って柔らかにクリトリスをこりこりと磨り潰してゆく。

「え"ぁ、イク――」

開発決定の初日の初回から強烈な責めクリトリスだけでなく全身に受けたクリュセスカは、ビクビクと膣内を震わせながら意識をあっさりと手放してしまった。
だが残されたヴォーパライナも絶え間なく震えるヴァギナに半分意識を搾り取られてしまい、お互い意識を飛ばしたまま互いの性器を刺激し続けるという奇妙な相打ち。

ちょろろろ、とお互いの股間から漏れ出す黄金色の小水が、どれだけ直前の行為が激しかったかを物語っていた。






 意識を取り戻すともう昼前で、苦労と絶頂を迎えながらお互いの性器を引き剥がし合った二人は汚れを落として調理場へと向かった。
赤く腫れ上がったクリトリスに見習い達の視線を集めながら平然としていられるのはやはり、エルダーカーマインの付き人であった実力を物語る。
それでも滴り落ちる愛液は隠せないが、平然としている相手にそれを指摘するのは無粋という物であった。

そんな伴侶の姿にもしここでまたクリトリスを吸ってやったらどうなるだろう?と悪戯心を覚えるヴォーパライナではあったが、
伴侶の艶姿を敬愛するエルダーカーマイン以外には知られたくないが故に思いとどまった。加えて言えばきっと彼女は怒るだろうし、そもそも自分は狩長で立場に見合った振る舞いというのも求められる。
ほんの少し残念な気持ちを抑えてジャガイモの皮を剥いてゆく。が、急にくしゃみが出た。脇でバツが悪そうに調味料の入った瓶を持っている見習いの姿が目に入る。
鼻に入ってしまったのだろうが、せめて手か触手を当てるくらいはしなさいと小言が出る。

「ライナ、調理場でくしゃみなんかしないで頂戴。貴女は弟子に自分の鼻水と涎混じりの昼食を出そうというの?」
「うぅ、ごめん、ごめんよクリュセスカ。けど壁の方を向いたからそこは許してくれないかなぁ」
「はいはい、判りましたから鼻をかんで来て下さい……垂れてるわよ?」

えぇっ!?と分かり切った嘘に大げさに驚き鼻へ手を伸ばす狩長の姿に見習い達から笑いの声が上がった。
狩長の屋敷では大勢の見習いが寝泊まりをしている。多くはまだ先達の指導が必要と判断されている者で、後の少数に一人前と認められる一歩手前程度には育った者がいる。
こうして一緒に日々を過ごすことで連帯感を養い、また技術を切磋琢磨させる事を狙っての慣習だった。

「ですが奥様、狩長の涎だったら自分は味わいたいであります!」

とオークの見習いから冗談が飛ぶ。この色狂い!色情魔!と他の見習い達からやんややんやと笑い混じりの罵声が飛ぶが、誰も調理の手は休めない。
最早定番と化した馬鹿騒ぎの中で、ニヤりと笑ったヴォーパライナは見事な動きで天井にぶら下がる取っ手を藍色の髪と同じ色をしたしなやかな触手を使って掴んで一足飛び。

「ほほぅ、良い度胸じゃないか!何なら味合わせてやっても良いぞ!ほーら、目を閉じて、口を開けなさい……」

オーク娘の元に飛び降りるなり欲情の色に燃える視線で迫るヴォーパライナに見習い一堂は一気に慌ててしまった。
他の見習い達が急な展開に息を呑んで静まってしまうと、あのそのと弁解になっていない言葉を発する快活さを匂わす外見とは真逆のしおらしさを見せるオーク娘は意を決したように瞳を閉じてしまった。
ごくり、と生唾を飲み込みながらも調理の手は休めないどうにもシュールな光景を作っている見習い達を見て、それまで静観していたクリュセスカは溜め息を付いた。
ヴォーパライナがあの娘を本気で手籠めにしようとしている訳ではないのは理解しているし、見習い達に潤いある日常を過ごして貰いたいというのも判る、判るのだが。

「私は素直な子は好きだぞ!どれ、折角だから……ひぃっ!?」
「んえ、わぁっ!?」

唇を舐めるくらいで勘弁してやろうと思ったヴォーパライナであったが、流石に伴侶の怒りに触れたのかオーク娘との間に寸分違わず投擲された包丁に狩長らしくない悲鳴を上げてしまった。
可哀相なのはオーク娘の方で、壁に突き刺さっている包丁の勢いの良さに腰を抜かしてへたり込んでしまった。流石にやりすぎたと反省する狩長であったが突き刺すような伴侶の視線に姿勢を正す。

「ライナ、貴女狩長の立場を忘れているの?それとも私と交わり過ぎて頭がボケた?見習いに手を出すだなんて言語道断でしょう」
「や、その、唇舐めてやる程度で終わらそうかなぁと思ったのだけどね」
「えぇっ、そんなぁっ!?」

絶対零度の視線で睨み付けるクリュセスカに竦み上がるヴォーパライナと、内心濃厚な口吻を期待していたオーク娘の悲哀の篭もった叫び。
他の見習い達はああ、また奥様の嫉妬が始まったなぁとか、狩長もオーク娘も懲りないなぁとか、私も狩長と奥様に混ざりたいなぁといった呆れやら何やらと共にやはり調理の手つきは休めない。
ここで手を休めると人数が多い為いつまで経っても昼餉には有り付けないからである。賑やかさと縁の溢れる狩長の屋敷は、やはり今日も賑やかであった。

「狩長、狩長ぁー!お、お客様ですーっ!」

そこに小柄なゴブリン族の中でも一際小柄な見習いが尋常ではない様子で駆け込んでくる。ヴォーパライナよりも頭一つ小さいクリュセスカより、更に頭一つ小さい小柄さである。
なんだなんだと皆の視線を一斉に受けて一瞬鼻白んだゴブリンであったが、直ぐさま首を振ってヴォーパライナの元へ駆け寄った。

「おや、そんなに慌ててどうしたんだい?」
「お、お客様です、お客様なんです!えぇと、ハントレス様と知らないエルフのお嬢様と、あと、それと、それとですね!」
「ポーシャが?……御印様のことで何かあったのかな」

それまでの情けない雰囲気を霧散させ、真面目な表情を浮かべる。ヒューマンの御印様が来てからと言うもの、半月程ポートーシャは狩女の職務から解放されていた。
御印様のお世話に専念して貰う為であり、その為にヴォーパライナ自身も彼女の家を不用意に訪ねてはならないという触れを出している。
ハントレスというのはポートーシャがエルダー様方から賜った二つ名であるが、それよりも何かあったか?と頭を巡らそうとする。
が、ぐいぐいとエプロンを引っ張るゴブリンに視線を向けるとどうもまだ何か伝えることがある様子で、すっかり興奮しきった彼女はぴょんすか飛び跳ねていた。

「それと、どうしたんだい?エルダー様でもご一緒だったかな?」
「いえ、その、エルダー様じゃないんです!み、御印様!ハントレス様の所のヒューマンの御印様もご一緒なんですぅっ!」

聞いてヴォーパライナはクリュセスカに目配せした。頷いたクリュセスカは手を叩きながら見習い達を食堂と調理場に集める旨を伝え出す。
見習い達の人柄を信用しない訳ではないが、だからといって常識の差から不用意な一言を御印様に放たれては困るというのがやはり大きい。
えぇー、と残念そうな声を出す見習い達を宥めながら、流石に素肌の上にエプロンという出で立ちでは不味かろうと判断して着替える為にヴォーパライナは私室へと向かう。
ふと後ろを見ればなんだなんだと呼ばれてぞろぞろと集まってくる当番外の見習い達と、元から居た者達に質問攻めに合うゴブリンの見習い。
いやはやこういう騒がしさはなんとも好ましい物だと思いつつ、ご愁傷様とゴブリン娘に内心呟いて調理場を後にした。

しかし一体なんの用件だろうか?狩長である自分を頼る必要性というのが今ひとつ推測しかねる。
とはいえ相手はヒューマンの御印様。もしも化け物呼ばわりされたり怯えられたら後でクリュセスカに抱きしめて貰って泣こう。
いや、寧ろクリュセスカにも着替えて貰って一緒に紹介した方が良いかなぁ?それなら彼女は椅子に座らないようにしないといけない、きっと椅子がびしょ濡れになってしまう。

するすると音もなく廊下を歩きながら思い悩むヴォーパライナであったが、
ヴィージルゥト達の訪問理由が『紙下さい』だとは流石に思わなかったと後年、伴侶のクリトリスを自らの膣内に収めながら語った。





 里を訪れてから半月。ヒューマンの乙女は自らの立ち位置を探り出す。
果たして半月とは動き出すまでの時間としては早かったのか、遅かったのか。評価を下す時はまだ、先のこと。


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