第八話 強者の理論と弱者の理論
エヴァンジェリンは、かなり気分が良かった。
満月でもないのに体には多くの魔力が満ち、まるで封印が解かれたと錯覚する程である。
それもムドの血を献血程度に抜いただけでだ。
ちなみに献血程度で止めたのは、ムドの熱がとりあえず下がったからで、魔力が濃すぎる血を前に吸血鬼が胸焼けを起こしそうになったからでは決してない。
しかし、学園長はこの事を知っていて、ムドの存在をエヴァンジェリンに隠していたのだろうか。
知らなかったら知らなかったで、エヴァンジェリンは全く困らないのでこのまま黙秘を決め込むつもりだが。
そして今エヴァンジェリンは、頼みがあると言い出したムドにつれられ保健室へと来ていた。
ムドが用意した丸型のティーテーブル、その備え付けの椅子に腰掛けている。
従者であるガイノイドの茶々丸はその後ろに控え、ムドはエヴァンジェリンの正面に腰掛けていた。
テーブルクロスもエヴァンジェリンが来たからと、変えられたばかりだ。
真っ白に装飾されたテーブルの上にはもちろん、ムドが入れた紅茶が湯気と共に芳香を漂わせエヴァンジェリンを誘っている。
その誘いに乗り、エヴァンジェリンはティーカップを手に取った。
寒い二月にも関わらず胸を駆け抜ける爽やかさに嫌味がなく、味も申し分ない。
ネギやムドがイギリス出身であった事を思い出し、ならば嗜好が合うのも当然かと一口含んでからテーブルに置きなおす。
「しかし、奴の息子でありながら体質的に魔力も気も使えないとはな。魔法学校では随分と、辛酸を舐めて来たんじゃないのか?」
「そうですね。それなりには……」
何処か諦めたようなムドの言葉に、エヴァンジェリンは心の中だけで疑問符を浮かべる。
それなりの一言であっさりと流されてしまったからだ。
六百年を生きた自分が、今の様に過去の辛酸をそう流す事は出来る。
達観、多くの年月を重ねる事で、自分の人生すら一歩引いて見る事ができるからだ。
だが目の前のムドが達観しているかと言えば、それは絶対にない。
「それで、私に頼みたい事とはなんだ? 貴様が強くなれる方法を教えてくれという事ならば、とりあえず幾つか思い当たるが」
「百年単位で体術を研磨するや、人から人外への転生以外でなら聞きたいと思います」
「その程度の結論には、既に至っているか。頭はそれなりに良いようだな。で、頼みとはなんだ? 今の私は機嫌が良い、内容次第では聞いてやらなくもない」
「それでは、闇の福音と呼ばれた最強の魔法使いにお願いします。兄さんを高畑さんのように、鍛えてくれませんか?」
その申し出に、思わずエヴァンジェリンは持っていたティーカップを落としそうになった。
まるで予想外、まだ吸血鬼にしてくれという申し出の方が理解できた。
直前に魔力や気が使えず、人外への転生しかないと話していた事も関係ある。
それに過去、力を求めてエヴァンジェリンにそう申し出てきた魔法使いは数人いた事があった。
だが申し出られたのは、あのネギを鍛えてくれと言う事だ。
正直な所、エヴァは評価をくだせられる程度にすら、ネギの事を殆ど知らない。
とある理由からいずれ事を構えるつもりではいたが、まだその時ではなかったからだ。
「理由を言ってみろ」
「単純です。兄さんには立派な魔法使いになってもらいたいからです」
「立派な魔法使いか、その為に悪の魔法使いの弟子に? 矛盾しているだろう」
「高畑さんを鍛えたのはエヴァンジェリンさんだと聞いています。立派な魔法使いと呼び声の高い高畑さんを……言葉に矛盾があろうと、それが事実です」
それを知っていたかと、眉根をひそめる。
「貴様とは違い、あの坊やの素質は魔力を探れば分かる。まさか、自分の代わりに兄には立派な魔法使いに、などと言う詰まらない理由ではないだろうな」
「もちろん、違います」
その一言に興味を抱いたエヴァンジェリンが、身を乗り出した。
「兄さんには立派な魔法使いになって、私や私の家族を守って貰います。家族を捨てて、世界の為にその力を使った父さんのような立派な魔法使いではなく、家族の為には世界すら切り捨てる立派な魔法使いに」
語るにつれ言葉に熱がこもり、焦点が合っていなかった瞳が合い始める。
そんなムドの表情を見て、やはりとエヴァンジェリンは思った。
ムドは人生を達観などしてはない。
ナギを語る時の、恨みさえこもっていそうな言葉。
ネギを立派な魔法使いにと言いながら、その根幹にはナギが存在している。
それも程よくエヴァンジェリン好みに歪んだ形で。
「貴様にとって、立派な魔法使いとは、力を示すただの言葉なのだな。それはどちらかと言えば悪の魔法使いの領分だ。だが面白い、奴の息子を悪の魔法使いにか」
「お願い、できないでしょうか?」
意外な好感触に、今度はムドが身を乗り出した。
「だが断る」
一瞬、何を言われたのか分からず、ムドの目が点となっていた。
「確かに貴様の話には興味が湧くし、面白そうだ。だが、これはあくまで貴様が、私に頼んだ事だ。私が何を言っているのか、分かるな?」
「対価、ですね。それなら私の血を好きなだけ差し出します。最初会った時、全く魔力を感じなかったのに、今は正直怖いぐらい魔力を感じます。何か、封印でも受けていますよね?」
頭が良いのも考えものだと、小さくエヴァンジェリンが舌打ちしていた。
対価であるムドの血は、確かに魅力的だ。
だがそんなものは、言ってしまえば何時でも強奪出来る。
供物として差し出されるのも悪くはないが、力ずくでの方がエヴァンジェリン的には好みだ。
それに、余計な事まで思い出させられたのだ。
このままムドの頼みを受け入れては、気分が晴れない。
「確かに私はナギのふざけた魔力で、登校地獄という呪いをかけられている。本来ならば、満月の前後以外では魔力を使う事すらままならない」
「エヴァンジェリンさんも、父さんの被害者なんですか……」
「同情を向けるな、殺すぞ。だがそれでも、貴様と私の力の差は考えるまでもない。貴様の血ならば、何時でも好きな時に吸う事ができる」
それは否定するまでの事でもないので、ムドは頷いた。
「つまり、私が上で貴様が下だ。私の前に跪け」
エヴァンジェリンの言葉に、何一つ逆らう事なくムドは椅子を降りて床に膝をつけて座った。
その表情に、屈辱という二文字は全く映っていない。
「このまま頭を下げれば、良いでしょうか?」
しかも、ムドの方からさげようかと言い出してきた。
それでは意味がない。
段々と、エヴァンジェリンもムドの顔が屈辱に歪む時を見たくなってきた。
済ました顔で物事を達観した振りをする奴は好ましくないからだ。
だから、エヴァンジェリンは、片足のニーソックスを脱ぎ、後ろに控えていた茶々丸に渡した。
そして椅子をズラして足を組み、目の前で跪くムドの前に素足を差し出して言った。
「私が良いと言うまで舐めろ。丹念に、指の間までもな。悪の魔法使いにモノを頼むなら、服従の証を身を持って示せ」
「あのマスター、さすがにそのような仕打ちは……」
「黙れ、茶々丸。さあ、どうした。貴様の決意など、その程度か?」
茶々丸を制し、顔に影を浮かべ正に悪人の顔でエヴァンジェリンはムドを見下ろしていた。
ムドの頬をニーソックスを脱いだ足で、ふにふにと触りながら。
さあ唇を噛み、屈辱に身を振るわせろと。
だが焦点の合わない瞳で、差し出されたエヴァンジェリンの足を見つめていたムドの行動は以外に速かった。
「は?」
パクリと、殆ど躊躇を見せずにエヴァンジェリンの小さな足の親指を咥えた。
奉仕をするように瞳を閉じ、口に含んだ親指にちろちろと舌を這わせていった。
見た目が可憐な少女とは言え、一日中靴を履いていればどうしても蒸れてくる。
何処か酸っぱい味と匂いに、さすがのムドも眉根に皺を寄せていた。
だが、それでも舐める事だけは止めなかった。
一定の時間で消える屈辱を耐えるぐらいで、ネギが立派な魔法使いに慣れるならば、小さなプライドも惜しくはない。
「ちょ、ちょと待て、んっ……」
ふやける程に親指を舐めたら、谷間を通って次の指へ。
大量に出てくる唾液も使い、舐め続ける。
「エヴァンジェリンさん」
「待てと、貴様……何を考えて、気分のある声を出すな」
指を全て舐め終えると、今度は小さな口で全ての指を咥えこもうとするが流石に出来なかった。
仕方がないので、指は諦めて舌を伸ばし足の甲へと滑らせていく。
足首からくるぶしへ、アキレス腱もと舌で舐め上げ、もう一度甲に戻ってキスをする。
もはや足首から舌で舐めるべき場所は残ってはいなかった。
だが、まだエヴァンジェリンはもう良いとは言っていない。
ならば続けなければと、ムドはエヴァンジェリンのふくらはぎへと吸い付いた。
そのつもりはなかったがふくらはぎと唇の間でちゅっと音が鳴る。
「んっ、ぁ……あまり、吸い付くな。跡が」
要望に答え、ぷるぷるのふくらはぎへは甘噛みで抑えておく。
骨付き肉にかぶりつくように、甘くかぶりつきながら舌を動かす事も忘れない。
さすがに同じ足とはいえ油の浮き上がらない場所だけに、少女の甘い匂いが多くなった。
実際、柔らかなふくらはぎは甘く感じる。
苦行から一転、ムド自身も自ら望んで舌で舐め始めていた。
もう少し堪能したいと思いつつ、硬いすねへと舌を這わせ、ぐるりと一周する。
その時、思わず足を大きく持ち上げてしまい、まずかったかと薄く目を開けた。
「はぁ……はぁ…………止め、るな。つ、続き」
当たり前だが、組まれていたはずのエヴァンジェリンの膝は解かれていた。
少し白さの過ぎる肌が僅かに火照り、体が椅子から半ばずり落ち、片手でお尻を乗せる部分を必死に掴んでいた。
もう片方の手は、声を押し殺そうとしているのか指を鍵型にして咥えている。
椅子の上で足を持ち上げられ、ずり落ちればもちろんスカートなんて殆ど意味がない。
下腹部を包み込む面積が少ない、黒のタンガショーツが露となっていた。
秘所を覆う部分が他よりも少し濃くなっているのは、気のせいではない。
「続けます」
ムドは言葉通り続け、膝の裏部分に唇を寄せた。
ここなら大丈夫だろうと少し強く吸い付いては、ついた赤みを癒すように舌を這わせる。
「んん、そこ……もっと重点的にやれ」
言われた通り、膝の裏にキスの嵐を降らせ時に強く吸い付く。
小さく痛いとでもエヴァンジェリンが呟けば、吸い付くのを止めて舌先で癒す。
そこが性感帯の一部だったのか、益々エヴァンジェリンの息遣いが荒くなり、艶のある声が漏れていた。
だが繰り返すうちに感覚が麻痺したのか、慣れてきたのか。
反応が全く薄れきらないうちに、ムドは膝の裏を離れてさらに進む。
幼い肉体のまま時を止めた為、張りというものはあまりないぷっくりとした太ももであった。
流石にコレまでとは違い、表面積が大きい。
それに太ももまであれこれいじっては、今度こそエヴァンジェリンが椅子から転げ落ちてしまう。
舌だけは這わせながら、運動場のトラックを突っ切るように、太ももの上を一直線に突っ切っていく。
太ももの根元へ、局部の色を変えたタンガショーツへと。
「ば、ばか……そこは、まだ誰にも」
意外な言葉を聞きながらも、ムドは止まれなかった。
ネカネですら滅多に履かない黒のショーツ、しかも際どい形のそれが包むのは見た目だけなら自分と変わらない少女のものである。
ムドにとっても全くの未知の領域、はっきりと分かる香しい少女の匂いにさそわれ舌を伸ばし、
「そこまでです、マスター。それにムド先生。それ以上は、淫行となってしまいますので。僭越ながら止めさせて頂きました」
何時の間にか背後に回りこんでいた茶々丸に、抱えられて引き離された。
未知の領域が一気に遠ざかり、思わずムドは振り返って茶々丸を睨んでしまった。
だが返されたのは無機質な瞳であり、その瞳を見るうちに我に返る。
そして、恐る恐る振り返りなおした。
つい先程まで全力で奉仕していたエヴァンジェリンへと。
そのエヴァンジェリンは、椅子に座りなおし、スカートを抑えたまま俯いて打ち震えていた。
茶々丸に抱えられていると、椅子に座るエヴァンジェリンより視点が高い為、その顔をうかがい知る事はできない。
だがそれでも、彼女が怒りを抱いている事は考えるまでもなかった。
やがて、赤みを帯びた顔を持ち上げたエヴァンジェリンは、震える手で取ったティーカップから冷えた紅茶を一口飲んだ。
「ふん、貴様の覚悟は見せてもらったぞ」
腕同様、震えた声でいきなりそう言い出した。
どうやら、局部まで舐められそうになった事はなかった事にするらしい。
一体何処までなかった事にするかは定かではないが、従っておいた方が無難なのは間違いないだろう。
ちなみに本音では今すぐうがいもしたいのだが、口を噤む。
「茶々丸、そのひよっこ以下を降ろせ。そのままでは、話も出来ん」
「ムド先生、失礼をしました」
「いえ……」
元々座っていた椅子の上に降ろされ、多くは語らずに会釈だけで済ます。
それから改めてエヴァンジェリンと向き合ったのだが、まだその顔は赤かった。
「それで、ぼうやを鍛える件だが具体的にどういう方向かは考えているのか?」
「強くなりさえすれば、兄さんの自主性で構いません。ただ……」
「ただ、なんだ? 言いたい事は今のうちに言っておけ、後でこんなはずじゃなかったと言われたくはないからな」
「一度、完全に兄さんの心をへし折ってください」
ピクリとも眉を動かさず言ったムドを見て、エヴァンジェリンは静かに頷きその先を促がした。
「兄さんは、頭も良いし魔力も豊富で素質には事欠きません。だから、挫折を知りません。強くなる前に一度折っておかないと、強くなってからじゃないと遅いと思うんです」
「一度目で、立ち直れなかったらどうする?」
「ありえません。兄さんを信じてますから」
なるほどと、エヴァンジェリンは納得して椅子から立ち上がった。
だいたい、ムドと言う人間の本質が見え始めたからだ。
自分が弱者である事を否定せず、ある程度の辱めを受け入れる度胸もある。
兄を立派な魔法使いにしたいと言いつつ、その実全ては自分の為だ。
それを他力本願と責めるのは酷であり、ムドは強くなる為の努力を封じられた存在。
そして最後の兄さんを信じていると言う言葉。
「どうせなら、心を折るなら鍛える前だ。ぼうや自身から死にもの狂いで鍛えてくれと言うようなるように」
「はい、ありがとうございます。エヴァンジェリンさん」
「ただ効率的に心を折るにはもう少しぼうやを観察して、見定める必要がある。それまで、サボり場として保健室を提供しろ、あと定期的に血を飲ませろ。行くぞ、茶々丸」
「それでは、失礼します。ムド先生」
別れの言葉もないエヴァンジェリンと、頭まで下げてくれた茶々丸を見送る。
そして、保健室の扉が閉められると同時に、へなへなと椅子の上で体をずり落とす。
疲れた、本当に疲れた。
特に文字通り足の先から奉仕を始めた舌が。
だが疲れたで済む辺り、ネカネに鍛えて貰った事が役に立った証拠だ。
今夜の魔力抜きは、精一杯ネカネに奉仕してあげようと心に決める。
ネギの師匠も思わぬ形で決まったし、またこれで一歩立派な魔法使いに近付いた事だろう。
「ムド、入るわよ」
「え、アーニャ?」
意外な人物の声とノックに、立ち上がる。
保健室の扉を開けて入ってきたのは、本当にアーニャであった。
実はアーニャがここへ来たのは、初めての事である。
エヴァンジェリンとブッキングしなくて良かったと胸を撫で下ろしながら尋ねる。
「急にどうかしたんですか?」
「明日菜が、ムドの顔色が悪かったって教えてくれたのよ。心配になって来たけど、結構平気そうね」
高畑の事を教えたお礼だろうか。
心の中でありがとうございますと、明日菜にお礼を言う。
「ここがムドの仕事場か……あ、駄目じゃない。仕事中にお茶なんか飲んでちゃ。二つ、ネギでも来てたの?」
「いえ、兄さんの生徒さんです。アレルギー持ちの人なので、少しお話を聞いていたんです」
「ふーん、この匂いなんだか高そうな紅茶」
片づけを手伝おうとしたのか、紅茶の匂いを感じたアーニャがピタリと手を止めた。
そしてクルリと回れ右をして、入ってきた扉へ一目散に向かう。
「じゃあ、私帰るから」
「待ってください、アーニャ。絶対、勘違いしてます!」
「別にしてないわよ。紅茶が全然減ってなくて、それは楽しくお喋りしてたんでしょうねとか思ってないわよ。ムドの馬鹿、もう知らない!」
言っている事は的外れだが、それ程遠いわけでもない。
乙女の感とはなんと鋭い事か。
制止するムドの手をすり抜けて、アーニャは保健室の扉を大きな音を立てて閉めて帰って行った。
エヴァンジェリンと茶々丸の目の前を、赤い髪の少女がスキップをしながら通り過ぎていく。
麻帆良女子中の制服すら着ておらず、白のパーカーに赤のミニスカートに黒タイツ、それらの上から何故かエプロンを羽織っていた。
エプロン以外は街中で見かければ普通の女の子の格好だが、ここは女子中学校である。
しかもその少女の行き先は、今しがたエヴァンジェリン達が出てきた保健室であった。
「なんだ、奴は? まさか、スプリングフィールドの三人目とかではないだろうな」
「彼女はアーニャさんです。ちなみに、ネギ先生の歓迎会が行われた日に、ムド先生共々挨拶に来たそうです」
「ぐぅ……隠されていた割には、そんなに堂々としていたのか」
「はい、そしてムド先生はアーニャさんを好きだと公言していらっしゃいます」
最後の付加情報に、ほうっとエヴァンジェリンは笑みを浮かべた。
ネギの鍛錬については了承したが、まだあの辱めについては許していないのだ。
と、あの時の事を思い出して、体がぞくぞくと震えてくる。
屈辱もあったが、確かな快楽もそこに存在したのだ。
そして人知れず足をもじもじさせたエヴァンジェリンは、茶々丸に命じた。
「おい、茶々丸先に帰ってろ。私は用事を思い出した」
そう言ってさっさといこうとすると、
「マスター、お体を持て余しているのであれば、お手伝いいたしますが」
「ええい、うるさい。さっさと帰れ、それから保健室での映像は消去だ。絶対に葉加瀬や超鈴音には見せるな!」
思わずこけそうになり、捲りあがりかけたスカートを咄嗟に抑える。
現場を目撃されては言い訳も出来ないからだ。
だから大声でまくし立てると、エヴァンジェリンは近くのトイレに駆け込んだ。
個室の一番奥に飛び込み、硬く鍵を掛けるとスカートの前をたくし上げた。
「くそぅ……自分でも、殆ど触った事がないというに」
秘所を包む黒のタンガショーツは、しっとりと濡れている。
これ以上、汚して溜まるかと下げた途端、ツッと生々しい愛液の糸が引いた。
頭が暴発しそうになるぐらいに熱くなり、ムドの舌の生々しい感触を思い出してしまう。
「だいたい、なんであんなひよっこ以下が、あんな舌使いを。反則過ぎるだろう。しかし、ここから一体どうすれば……やはり茶々丸を」
「お呼びでしょうか、マスター」
「ひャッ! おい、帰れと言っただろうが。何を扉越しに普通に話しかけている!」
帰れと命令したはずの従者の突然の声に、可愛らしい悲鳴が出てしまう。
濡れていた秘所、もはや割れ目と呼んで良いそこを指で恐々触ろうとしていた時だったのでなおさらだ。
思わず触ろうとしていた指を、割れ目に突っ込んでしまいそうになる程に。
こんな馬鹿な事で六百年守り続けた処女を失ってたまるかと、心を落ち着ける。
トイレで深呼吸などしたくはないが、仕方がない。
一分強と多くの時間を費やしてしまったが、なんとか落ち着く事はできた。
その間も割れ目から溢れる愛液は乾かず、もどかしい気持ちは残ったままであった。
もう我慢出来ないと、扉の鍵を開け、隙間から顔を出して茶々丸に来いと手招く。
「ではマスター、便座カバーの上にお座りください」
「お、おい……私はまだ何も」
「一応、この時のような知識も私にはインプットされています。マスターの体が夜鳴きした時の為に」
「あいつら、私を一体なんだと」
製作者二人の顔を思い浮かべ、エヴァンジェリンが怒りを蓄える間に、茶々丸は着々と準備を進めていった。
まずはエヴァンジェリンの長い髪が汚れないように、ポニーテールにしてからお団子にした。
それから便座カバーを二枚とも降ろし、その上にエヴァンジェリンを座らせる。
やや腰を前に出させ、ムドに膝以降を舐められていた時と同じ格好にさせた。
恥ずかしそうに身をよじるエヴァンジェリンの足をM字に開く。
「待て、この格好はひよっこ以下を思い出すから止めろ」
「いえ、マスターの愛液量が五パーセントの増加、この格好が最適かと」
「殺す、あの二人は絶対に許さん。余計な機能をつけよって!」
「ではマスター失礼します」
そう茶々丸が呟いた途端、エヴァンジェリンがピタリと静かになった。
ここに第三者がいれば、とても貴重な光景が見られた事だろう。
目を瞑って天井を仰ぎ見ながら、小刻みに震えるエヴァンジェリンである。
目の前にしゃがみ込み、自分の割れ目に顔を近づける茶々丸から必死に目をそらす為だ。
「や、破るんじゃないぞ」
「心得ています」
そこまで舌は大きくはないと、主の無知を混ぜ返す事なく呟く。
茶々丸のやや硬い舌が、愛液という湧き水を流す割れ目へと触れた。
「んッ」
いきなり割れ目をこじ開けるような事はせず、その表面上をなぞっていく。
赤ん坊の警戒心を解くように、敵ではない、安心しろと舌の形や感触を憶えさせる。
丹念に、辛抱強く続けていると、ピッタリと閉じていたはずの割れ目が茶々丸の舌を敵ではないと判断したようだ。
肉の硬さがほぐれ、軽く舌で押すだけで入り口が開く。
その穢れを知らない奥地へと、茶々丸が棒のように真っ直ぐにした舌を挿入していった。
そしてある程度挿入した所で、肉壁へと舌を押し付けながら引き抜いた。
「くぅん、ゃっ……くちゅくちゅ音をたて、るな。んっ、だがいいぞ茶々丸、続けふぁ」
ガイノイドである茶々丸は唾液が存在しない為、水音の全てはエヴァンジェリンの愛液であった。
その愛液を奥からかき出しては舌を皿にした上に溜め、膣の浅い部分に塗りたくる。
元々ムドのおかげででき上がった状態であったが、それですべりはさらに良くなった。
幼く小さい膣の中を、何度も舌を行き来させた。
「気持ち、いい……ナギ、気持ち良いぞ。貴様なんかの息子に、あぅ。持て、遊ばれこの様だ。くそ、どうして死んぅ。ああ、来る。何か、来る!」
「マスター、声に気をつけてください」
「構わん、人払いは既に……喋るな、続けろ。もっと、早く!」
自分でも高ぶらせようと胸をまさぐるエヴァンジェリンの命に従い、茶々丸は挿入の速度を上げた。
そして舌を忙しく動かしながらも、そのカメラアイで最後の一点を捉える。
割れ目の上部、そこからさらに皮の下にまるまる隠れた小さな突起物。
だが自慰さえ殆ど行わない主には酷かと、次回以降にそれは取っておく事に決めた。
代わりに、より奥へと下を伸ばしていく。
その伸ばした先で舌を上に曲げ、特に敏感であろう恥骨がある部分を擦りあげる。
「ひぃぁっ、ぁっ……そこ」
「Gスポットです。恐れず、果ててくださいマスター」
「そ、そうか信じてぁっ……白いのが、光がッ!」
エヴァンジェリンの体が腰から跳ねた瞬間、茶々丸は咄嗟に舌を引き抜いた。
ガタガタと便座を揺るがしながら、エヴァンジェリンが大きく果てる。
その表情は恍惚としており、こんなに激しく果てること事態、初めてなのか。
茶々丸は余韻に浸る主を前に、トイレットペーパーで事後の処理に当たった。
拭いても拭いても湧いてくる愛液にやや苦戦しながら。
だが興奮過ぎ去れば、後に残るのは隙間風が吹いたような虚しさだけである。
茶々丸に処理をされ、ショーツまで履かされたエヴァンジェリンは、膝を抱えていた。
「マ、マスター……私が、何か粗相を?」
「いや、貴様のせいではない。誰だって、こうなるものだ」
やはりいくら人に似せて造られたガイノイドと言えど、自慰の後の虚しさまでは分からないらしい。
データとしては知っているかもしれないが、その意味を理解できないのだろう。
十分過ぎる快楽はあったが、何一つ満たされたものがない。
それが分かっているからこそ、今まで殆ど触れてこなかったのだ。
死んだモノの名を呼んでも答えてくれるはずはないのに、呼んでしまう。
「くそ、あのひよっこ以下があんな事をしなければこんな気持ちには……」
「では、ネギ先生の鍛錬の約束を反故にされますか?」
「いや、私があのひよっこ以下に与えたいのは屈辱だ。約束はもはやどうでも良い。あの顔を屈辱に歪めさせ、涙を見せながら殴りかかってくるような」
その為には、ムド自身に対する力の行使はさほど意味を持たない。
いくら兄を理想に近づけたいとはいえ、簡単に他人の足を舐めるような奴だ。
どんな屈辱や暴力であろうと、その先に目的をかなえる何かがあればきっと耐え切ってしまう事だろう。
「タカミチの進言とはいえ、迂闊にも悪の魔法使いにコンタクトを取った事を後悔させてやる。絶対に」
強く奥歯を噛んでギシリと音を立てながら、そうエヴァンジェリンは固く心に誓った。
-後書き-
ども、えなりんです。
ネギまの二次創作で、避けては通れないエヴァの道。
なんだかややこしい事になりました。
弱者が強者に恨まれるとか、意味分からん。
あと、ガイノイドという言葉の定義でダッチワイフ云々と言う人がいますので。
本当にそういう機能を茶々丸に搭載してみた。
もっとも、その機能が使われるのは今回限りですが。
もう一話、エヴァで使ってから図書館島編に入ります。
それでは、次回は水曜の投稿です。