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No.25212の一覧
[0] 【完結】ろくでなし子供先生ズ(ネギまでオリ主)[えなりん](2011/08/17 21:17)
[1] 第二話 打ち込まれる罪悪と言う名の楔[えなりん](2011/01/01 19:59)
[2] 第三話 脆くも小さい英雄を継ぐ者の誓い[えなりん](2011/01/05 21:53)
[3] 第四話 英雄を継ぐ者の従者、候補達?[えなりん](2011/01/08 19:38)
[4] 第五話 ムド先生の新しい生活[えなりん](2011/01/12 19:27)
[5] 第六話 第一の従者、ネカネ・スプリングフィールド[えなりん](2011/01/15 19:52)
[6] 第七話 ネギ先生の新しい生活[えなりん](2011/01/22 21:30)
[7] 第八話 強者の理論と弱者の理論[えなりん](2011/01/22 19:25)
[8] 第九話 闇の福音による悪への囁き[えなりん](2011/01/26 19:44)
[9] 第十話 勝手な想像が弱者を殺す[えなりん](2011/01/29 20:15)
[10] 第十一話 私は生きて幸せになりたい[えなりん](2011/02/05 20:25)
[11] 第十二話 棚から転がり落ちてきた従者[えなりん](2011/02/09 20:24)
[12] 第十三話 他人の思惑を乗り越えて[えなりん](2011/02/12 19:47)
[13] 第十四話 気の抜けない春休み、背後に忍び寄る影[えなりん](2011/02/12 19:34)
[14] 第十五話 胸に抱いた復讐心の行方[えなりん](2011/02/16 20:04)
[15] 第十六話 好きな女に守ってやるとさえ言えない[えなりん](2011/02/23 20:07)
[16] 第十七話 復讐の爪痕[えなりん](2011/02/23 19:56)
[17] 第十八話 刻まれる傷跡と消える傷跡[えなりん](2011/02/26 19:44)
[18] 第十九話 ネギパ対ムドパ[えなりん](2011/03/02 21:52)
[19] 第二十話 従者の昼の務めと夜のお勤め[えなりん](2011/03/05 19:58)
[20] 第二十一話 闇の福音、復活祭開始[えなりん](2011/03/09 22:15)
[21] 第二十二話 ナギのアンチョコ[えなりん](2011/03/13 19:17)
[22] 第二十三話 満月が訪れる前に[えなりん](2011/03/16 21:17)
[23] 第二十四話 ネギがアンチョコより得た答え[えなりん](2011/03/19 19:39)
[24] 第二十五話 最強の従者の代替わり[えなりん](2011/03/23 22:31)
[25] 第二十六話 事情の異なるムドの従者[えなりん](2011/03/26 21:46)
[26] 第二十七話 いざ、京都へ[えなりん](2011/03/30 20:22)
[27] 第二十八話 女難の相[えなりん](2011/04/02 20:09)
[28] 第二十九話 大切なのは親友か主か[えなりん](2011/04/06 20:49)
[29] 第三十話 夜の様々な出会い[えなりん](2011/04/09 20:31)
[30] 第三十一話 友達だから、本気で心配する[えなりん](2011/04/16 21:22)
[31] 第三十二話 エージェント朝倉[えなりん](2011/04/16 21:17)
[32] 第三十三話 ネギの従者追加作戦[えなりん](2011/04/20 21:25)
[33] 第三十四話 初めての友達の裏切り[えなりん](2011/04/23 20:25)
[34] 第三十五話 友達の境遇[えなりん](2011/04/27 20:14)
[35] 第三十六話 復活、リョウメンスクナノカミ[えなりん](2011/04/30 20:46)
[36] 第三十七話 愛を呟き広げる白い翼[えなりん](2011/05/04 19:14)
[37] 第三十八話 修学旅行最終日[えなりん](2011/05/07 19:54)
[38] 第三十九話 アーニャの気持ち[えなりん](2011/05/11 20:15)
[39] 第四十話 友達以上恋人未満[えなりん](2011/05/14 19:46)
[40] 第四十一話 ネギの気持ち、ムドの気持ち[えなりん](2011/05/18 20:39)
[41] 第四十二話 契約解除、気持ちが切れた日[えなりん](2011/05/25 20:47)
[42] 第四十三話 麻帆良に忍び寄る悪魔の影[えなりん](2011/05/28 20:14)
[43] 第四十四話 男の兄弟だから[えなりん](2011/05/29 22:05)
[44] 第四十五話 戦力外従者[えなりん](2011/06/01 20:09)
[45] 第四十六話 京都以来の再会[えなりん](2011/06/08 21:37)
[46] 第四十七話 学園祭間近の予約者たち[えなりん](2011/06/08 20:55)
[47] 第四十八話 麻帆良学園での最初の従者[えなりん](2011/06/11 20:18)
[48] 第四十九話 修復不能な兄弟の亀裂[えなりん](2011/06/15 21:04)
[49] 第五十話 アーニャとの大切な約束[えなりん](2011/06/18 19:24)
[50] 第五十一話 麻帆良祭初日[えなりん](2011/06/26 00:02)
[51] 第五十二話 ネギ対ムド、前哨戦[えなりん](2011/06/26 00:03)
[52] 第五十三話 仲良し四人組[えなりん](2011/07/02 21:07)
[53] 第五十四話 麻帆良武道会開始[えなりん](2011/07/06 21:18)
[54] 第五十五話 この体に生まれた意味[えなりん](2011/07/06 21:04)
[55] 第五十六話 フェイトの計画の妨げ[えなりん](2011/07/09 20:02)
[56] 第五十七話 師弟対決[えなりん](2011/07/13 22:12)
[57] 第五十八話 心ではなく理性からの決別[えなりん](2011/07/16 20:16)
[58] 第五十九話 続いて欲しいこんな時間[えなりん](2011/07/20 21:50)
[59] 第六十話 超軍団対ネギパ対完全なる世界[えなりん](2011/07/23 19:41)
[60] 第六十一話 スプリングフィールド家、引く一[えなりん](2011/07/27 20:00)
[61] 第六十二話 麻帆良祭の結末[えなりん](2011/07/30 20:18)
[62] 第六十三話 一方その頃、何時もの彼ら[えなりん](2011/08/03 20:28)
[63] 第六十四話 契約解除、ネギの覚悟[えなりん](2011/08/06 19:52)
[64] 第六十五話 遅れてきたヒーローユニット[えなりん](2011/08/10 20:04)
[65] 第六十六話 状況はより過酷な現実へ[えなりん](2011/08/13 19:39)
[66] 第六十七話 全てが終わった後で[えなりん](2011/08/17 20:16)
[67] 最終話その後(箇条書き)[えなりん](2011/08/17 20:18)
[68] 全体を通しての後書き[えなりん](2011/08/17 20:29)
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[25212] 第六十六話 状況はより過酷な現実へ
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/13 19:39

第六十六話 状況はより過酷な現実へ

 ムド以外、誰も他に居ないかのように見つめていたネギが、ふいに空を指差した。
 つられて幾人かが空を見上げるも、発光する世界樹と夜空以外には何も見えない。
 その先に一体何があるというのか。
 ネギはその遥か頭上より、杖に乗って現れた。
 となればその指が示す先に何があるかは深く考えるまでもなく見えてくる。

「ここから頭上四千メートルの位置に超さんはいる。止めたければ、行けば良いよ」
「さすがに超さんの計画は止めたいですか?」
「別に、ムドの気が散って全力を出せないと困るから」

 本気で超の計画が成功しようがしまいが、構わないような口ぶりであった。
 今のネギには嘘偽りなく、本当にムドの事しか頭にないようだ。

「フェイト君、調さん達を連れて超さんのところへ行って下さい」
「悪いね、ムド君。そうさせて貰うよ。君の勇姿が見れないのは残念だけど」
「勇姿と言えるかどうか……アキラ、それに月詠。金剛手甲と次元刀を、栞さん達に貸してあげてください」

 ネギはムドがフェイトを行かせようとする間も、身動き一つ取らなかった。
 強いてあげれば瞬き程度、ムドの準備が整うのをただまっていた。

「結構力使うから気をつけて」
「ん、借りとく。サンキュ」
「栞はんは真っ先にやられそうですから、失くさんといてな」
「酷い、私は確かに非戦闘員ですけど」

 アキラが金剛手甲を焔に、月詠が次元刀を栞に手渡した。

「じゃあ、行こうか。健闘を祈るよ、ムド君。それにネギ君もね」

 フェイトが軽く地を蹴ると、その体がふわりと浮き上がり空へと上っていく。
 続いて調が背中から木の翼を生やし、環が竜化、焔が炎精霊化して空へと上がる。
 獣化しても翼がない暦や非戦闘員の栞はそれぞれ調と環の背に掴まり飛んでいった。
 世界を変えようとする者を、このままで留めようとする者達が止めに。
 まさに天下分け目の戦いである。
 文字通り力なき民草は、天上人の考えを理解もできず見送る事しかできない。
 天上人は言うまでもなく超や、フェイト達。
 民草はこの戦いの裏の意味を知らず、ゲームと思い込んでいる裕奈達麻帆良学生。

「さあ、生き残っていたヒーローユニット。謎の少年と少女達が、ラスボス超鈴音の待つ麻帆良学園上空四千メートルへと向かいます」
「ていうか、本当にあの子達誰!? 中等部にあんな子達いたっけ!?」
「ねえねえ、あの眼鏡の男の子。ちょっと可愛くない?」
「美砂、あんた彼氏……」

 裕奈のみならず、美砂もあの子はと色めき立ち円に突っ込まれていた。
 他の麻帆良学生達も、アレは誰だという視線を向けて空を見上げ騒いでいる。
 あれだけいたロボ田中も、千雨がプログラムし直した鬼神が掃討を続けていた。
 はっきりと言って、最後の砦であった世界樹前広場も今や安全地帯に等しかった。
 地上に残ったネギやムドには、殆ど誰も注意を払ってはいない。
 力がありながらもネギは天上から降りてきた身である。
 そしてムドは最初から天上に上がるだけの力がなかった。
 騒ぐ麻帆良学生達に背を向けて、ムドが尋ねた。

「兄さん、場所は?」 
「変えよう、ここは賑やか過ぎるから」

 ネギが杖を手にして、跳んだ。
 一度二度と建物の屋根伝いに跳んで、振り返る。

「正直、意味わかんないけど。やるからには、負けるんじゃないわよ。掴まりなさい、連れてってあげるから」
「では遠慮なく、お願いします。少しでも体力は温存したいです」

 明日菜に抱きかかえられ、ネギを追う。
 と言っても、それ程まで離れた場所に移動したわけではなかった。
 より世界樹に近い、とある場所。
 先日、フェイトやネギに超が会談を行った建物の屋上である。
 世界樹の大発光によりそこは昼間のように明るく、麻帆良学生の声は少し遠い。
 どちらが勝っても何も変わらない、ただの兄弟喧嘩をするにはおあつらえ向きの場所であった。

「ほら、頑張って」

 ネギに数歩遅れそこへ辿り着き、明日菜の腕の中から降ろされ背中を押される。

「ムド、今はお姉ちゃんじゃなくて貴方の従者。勝ちなさい」
「馬鹿ネギなんて張り倒しちゃいなさい」

 ネカネにアーニャ達が次々に応援の言葉を投げかけてくれる。
 だがそれは本心からではなく、大部分は不安な心からであった。
 ムドは元々、前に出て戦うような、そもそも戦って良い人間ではない。
 ネギが望み、ムドが了承したからといって快く送り出せるはずもなかった。
 ただ惚れた男が望むならと、その無事だけを願って必死に耐え忍んでの言葉だ。

「ネギ坊主……なにも言えないアル。瞳すら、合わせてはくれないアル」
「ネギ君、頑張れ」

 それでも古や木乃香よりは、マシだったろうか。
 二人は惚れた男に捨てられ、今はそばにいるのにその眼中にすらなかった。
 木乃香の小さな呟きも、虚しく夜風と世界樹の大発光の中に消えるのみ。

「始めようか」
「そうだね、上でも始まったみたいだ」

 自分へと振り返って言ったネギへと、ムドが少し頭上を見上げて呟いく。
 それだけでぐらりと揺らぐ視界の中で、大きな炎が巻き上がるのが見えた。
 詳細は不明だが、天上人の戦いが始まったようだ。
 あれだけ遠くに聞こえていた麻帆良学生達の歓声が大きく、こちらまで響いてきた。
 多くの羨望が集まるその戦いの影で、極々少数の人に見つめられながら二人が身構える。
 ネギは古より習った中国拳法の構えを。
 ムドはエヴァンジェリンより習った合気道で構えた。
 武術の違いはあれど、お互いに錬度はそこまで大きくの開きはない。
 始めた時期はネギが先とはいえ、一ヵ月の違いがあるかどうか。

「戦いの歌」

 最大の違いはそこ、魔法が使えるかどうかであった。
 ネギは躊躇なく自らの体を強化の魔力で覆っていた。

「あんたムド相手に魔法を使うの!?」

 アーニャが叫ぶが、ネギの気を引く事はできなかった。
 ネギが強化された拳を握り締め見せ付けるように、呟いた。

「やっと戦える。やっと、やっと。この時の為に、夕映さんやハルナさんを未来に置いて来た。間に合ったかもしれないあやかさんを見捨て、仮契約も全て解除した」

 今のネギには、自分以外の何もなかった。
 血肉を分けた双子のムドは敵で、近しい同郷の家族もムドの従者である。
 麻帆良という新しい地で手に入れた絆、従者でさえ捨てた。
 さらには英雄の息子として生まれ、約束された輝かしい未来でさえ。

「ムド、がっかりさせないでね」
「私も少しは強くなりました」

 その言葉に満足したように、似つかわしくない影のある笑みをネギが浮かべた。
 そして床一面に敷き詰められたレンガを踏み壊しながら、ネギが瞬動術に入った。
 レンガの破片や砂煙、巻き上がったその場にはもういない。
 次に踏み砕かれたレンガはムドの直ぐ背後。
 そこでネギは魔力によって強化された拳を振りかぶっていた。
 あまりにも力を込め、握りこんだ手の平の皮が破れ血がにじんでいる。

「う、あぁぁぁっ!」

 暴風を伴ない繰り出される拳に対し、ムドはまだ振り返る気配を見せてはいなかった。
 この程度かと、僅かにネギの気が緩んだ。
 言ったそばから実力差に虚しい風が心に吹き込もうとした時、鼻が僅かに潰れた。
 潰したのは肘、腕を曲げる事でそれなりに鋭利になったそこであった。
 振り返り目で確認する事なく、正確無比にムドは全てを察していた。
 ネギの体さばき、拳の軌道。
 気が付けばムドは拳の軌道から頭をずらし、カウンター気味に後方のネギへと肘を突き出していたのだ。
 半ば自分で自分の顔を殴るようにどかし、突き出された肘を手の平で受け止める。
 飛び散る鼻血を前に瞳を閉じず、ネギは逆の手の平をムドの腹部へと添えようとした。

「魔法の射手、雷の一矢!」

 直撃すれば、魔法障壁が張れないムドは腹を破られ臓物を焼かれる。
 添えられた手の平から逃れようとするも、肘を掴まれ動きを制限された。

「くっ、あぁ!」

 体を捻り直撃こそ避けたが、逃れきれない電流が体を走った。
 心臓が破裂したかと思った程に、大きく跳ねた。
 痙攣後の硬直のみならず、命の危機に瀕して体が使えもしない魔力を増産し始める。
 瞳はその役目を放棄し、視界が真っ白に染まり目の前のネギを見失う。
 脳内ではネギの次の行動を読み取り回避を選ぶも、体がついてこなかった。

「先手は取れなかったけど、これで一発同士」

 まるで無防備な状態のムドを、ネギは流れる鼻血をそのままに思い切り殴りぬけていた。
 頬を打ち貫き、レンガの上をバウンドさせながら吹き飛ばす。
 地の上を転がり体を擦りむきながら勢いを弱めたムドが、やがて止まる。
 誰の背にも走ったのは怖気だ。
 先程のアーニャの台詞もそうだが、誰もネギがここまでするとは思わなかった。
 兄弟喧嘩の延長上、戦えなかった武道会の続き、そんな考えが一気に吹き飛んでいく。
 なにしろ視線の先で倒れるムドが、ぴくりとも動かないのである。

「もうええやん、ネギ先生の勝ちで。そんなんしたらムド君が死んでまう」
「待って、亜子!」

 ムドのもとへと走ろうとした亜子の手を握り、アキラが止めた。
 その直後、止められなければ踏み出していたであろう場所に魔法の射手が突き刺さる。
 ネギが放った光の一矢であった。
 手を出すなという警告の一撃が、容赦なく放たれていた。

「邪魔をしないでください。今しかない、もう今しかないんです」
「兄さん……言いまし、ね。カハッ、私の女……に手を、あぅな」

 ネギの言葉通り、呼吸を乱しぜえぜえと喉を鳴らしながらムドが体を起こした。
 何度もふらつきながら立ち上がり、痰と交じり合った血を吐き出す。
 その中には白い粒のような、砕けた歯も含まれている。
 歯はまだ乳歯なので時と共に生え変わるが、頬の腫れぐらいから頬骨にもダメージがあるかもしれない。
 現状、暴走した魔力による熱で朦朧とし、痛み半減しているがそれでも相当なものであった。

「ねえ、これって何の意味があるの? 武道会の続きじゃない、喧嘩でもない。ネギがムドをなぶりたいだけ!?」
「申し訳ありませんが、私には耐えられそうにありません。それ以上、ムド様を害するのであれば、ネギ先生といえど」
「珍しく、先輩と意見が合致しましたえ。ウチも、許せそうにありませんえ」
「ネギ坊主、私はこんな事をする為に私の武を教えたわけじゃないアル。袂を別ったといえど師弟アル。弟子の不始末は、師がつけるものアル」

 ようやく起き上がったにしろ、立っている事もやっとなムドを見てアーニャが仮契約カードを取り出した。
 刹那や月詠、果ては元ネギの従者であった古でさえ事を構えるつもりである。

「年下だけど、折角手に入れた恋人なのよ。私からムドを取り上げる奴は、ぶっ倒す!」
「ウチも、ムド君を失うなんて絶対に嫌や。もっと一杯幸せにして欲しいから!」
「金剛手甲は焔ちゃんに貸してないけど、素手でもそれなりに戦える!」

 皆がアーティファクトを手に、一歩進み出る。

「待って皆、もう少しムドの好きにさせてあげて」

 そんな誰も彼もがこの暴挙を止めたいと声を上げる中で、両手を広げ立ち塞がる者がいた。
 ムドを傷つけさせない為にネギを倒すという総意に逆行したのは、ネカネであった。
 誰よりも早くからムドの傍で守り続けていたネカネが止めていた。

「これはネギが望んだだけじゃない。ムドもまた望んだ事なのよ?」
「ありがとう、姉さん。私だって好きで痛い思いをしてるわけじゃない。ただ、責任を取る為にこうして無理をして戦っています」
「一体何の責任よ。超ならフェイトが止めようとして、十分手伝ったじゃない」
「今回の騒ぎとは関係ありません。私が、兄さんの人生を弄んだ責任です。私は兄さんを私だけの立派な魔法使いにする為に、色々と手を尽くしてきました」

 やや唐突なムドの告白に、ハッとしたのは古と木乃香であった。
 修行場所の提供から魔法先生や生徒との模擬戦に、エヴァンジェリンとの激突。
 知っているだけでもそれだけあり、大小合わせてムドはかなり動いてきた事だろう。
 最終的に、ネギは父を追う事に決め、その思惑は大きく外れる事となる。

「ですが、袂を分かっても自立し合おうと言っても結局兄さんはこうして私のもとに戻ってきた。まるで私のコレまでの行動に呪われているかのように」
「理由なんてどうでも良い。責任でもなんでも、全力で戦ってくれさえすれば」
「勘違いしないでください兄さん。誰も兄さんの為に責任をと言っているわけではありません」

 ある意味で、告白に対し許しを与えようとしたネギの言葉をムドが切り捨てた。

「あくまで私の目的は、愛する者達と共に幸せになる事。その為に、邪魔なんですよ。兄さんという存在が。これ以上、追い掛け回される事が」
「分かった。これが終わったら、麻帆良学園を去る。もう二度と、ムドの前には現れない」
「そう、当然の事です。自業自得、自分で起こした行動のツケを払う。それが私の責任。そのツケをここで払いきり、私は兄さんとは異なる道を歩みます」

 そこまで言われて、誰がこの個人的で世界的に無意味な戦いを止められるだろうか。
 全てを捨ててこの場を望んだネギの独りよがりではなかった。
 ムドもまたこの場を望み、自分が歪めてしまったネギを受け止めようとしている。
 相変わらず想いは欠片も重なり合わない兄弟だが、戦いを望んでいるのは明らか。
 そして改めて、二人はお互いだけをその瞳の中に映し合う。

「ムド、これ以上体力回復はいらないよね」
「そうですね。これ以上時間を貰っても、視力は回復しそうにありません」

 瞳の焦点がズレ何処を見ているのか分からないムドを前にして、ネギが先に地を蹴った。
 再びの瞬動術、今度現れたのはムドの目と鼻の先である。
 見えているのかいないのか、反応を示さないムドへとネギは下から顎先を狙い拳を放つ。
 その瞬間、ムドが上半身を僅かにそらし手をそえ拳を上空へといなした。
 相変わらず視線は先程までネギがいた場所に注がれている。

「見えて、あっ」

 まるで瞳以外の何かで見ているかのような動きに、ネギが小さく零す。
 いなされた拳を振り上げる腕を、ムドが手首と肘その二点を掴んだ。
 脇には肩をそえて、背負い投げるままに肩と肘、手首を破壊しようとする。
 初手で肘で鼻を突かれた時はまだ障壁のおかげで、鼻は折れず血を流す程度に収まった。
 だが完全に密着されてしまえば、障壁を張って力ずくで防ぐ事はできない。
 そこでネギはあえて自分から地面を蹴って跳び、そこからさらに虚空瞬動。
 ムドの投げ技よりも先んじて、自ら跳んだ。

「くっ」

 今度は逆に、ムドの手首がネギの手により掴まれていた。
 腕が抜ける程に引っ張られ、前のめりにバランスを崩される。
 その時、虚空を蹴ったネギが掴んでいた手首を離し、真上に小さく跳んだ。
 くるりと一回転、その瞳で見下ろしたのはバランスを崩し、自分に背を向けるムドであった。
 その背中を狙い、回転中の体から膝を突き出した。
 膝先が触れる直前、ムドの体もまた回転し始める。
 ネギが縦ならばムドは横に、まるで一枚のパネルを捲ったように膝が避けられた。

「ムドォ!」

 独楽のように回転するムドの体から手が離れ、ネギの首後ろに手刀を叩きこんだ。
 魔力による障壁が破られる事こそなかったが、首後ろを突かれた事実はそこにあった。
 実際のダメージ如何に関わらず、一瞬だけネギの呼吸が止まる。
 先に体勢を立て直した方が明らかに有利な状況で、それはあまりにも大きなハンデ。

「兄さん!」

 もはや焦点が合わないどころか、白く濁った瞳でネギを見つめムドが叫ぶ。
 おぼつかない足取りで地面を踏みしめ、今まさに地面に足を着こうかというネギに掌を打ち込んだ。
 咄嗟に身を捻ったネギのおかげで、胸ではなく肩を。
 だがまだムドの猛攻はここからである。
 よろめくネギのローブを掴み取り引き寄せ、密着した状態から頭突き。
 コレにはお互いうめき声を上げたが、事前に覚悟しただけあってムドは止まらない。
 ネギの足を払い、大きくその体を振り回してレンガが敷き詰められた地面の上に叩き落した。

「ぐぁっ!」

 今度は地面の上でネギが体を弾ませ、悲鳴をあげた。
 魔法障壁に体は守られていても、心まではそうはいかない。
 あくまでムドは身体強化なし、さらには鍛え上げられた肉体というわけでもないのだ。
 体へのダメージは蚊に刺された程度である。
 ネギがよりダメージを受けたのは、心の方であった。

「なんで、僕の方が強いんだ。僕の方がお兄ちゃんで、守る側なんだ。ムドに負けるわけ……」

 何故自分が倒れていると、この世の不思議を見たようにネギが呟いた。
 余りにも不可解、いやある程度想像はしていたが実際起きてみると尚更であった。
 これでもしあの時ヘルマンが言ったように、ムドが健常者であったなら。
 一体自分はどうなっていたのかと思い至り、慌ててその想像を振り払う。
 だが、ムドも万全無事にというわけでもなかった。

「ッ、はぁはぁ……げほっ、うぇ」

 試合ではなく、どちらかというと死合に近いこの状況で神経をすり減らしていた。
 最初の一撃はまだしも、ネギの本気の一撃を受ければ死ぬ。
 死なないにしても重傷は確実で、白く濁った瞳を持つ顔を焦燥感にこけさせている。

「そうだ、負けるはずがない。僕は戦う為だけにじゃなく、ムドを倒す為に戻ってきたんだ」
「かはっ……本当に、迷惑です。象が蟻に勝って勝ち誇ろうなど、愚かの極みです」
「自分を蟻だなんて思ってるのは、ムドだけだ。弱いだけの蟻に、従者はこうも集まらない。それが何かは分からないけど、僕はそれごと打ち勝ちたい」
「兄さんこそ、自分が象である自覚を持ってください。自分の才能に気付かず、伸ばす事もしないで怠けてばかり。挙句の果てに、弱い者虐めを正当化ですか。反吐が出ます」

 双子の兄弟でありながら、かつてここまでお互いの心の内をさらけ出した事もないだろう。
 口にした言葉が本心だからこそ、腹が立ち怒りが湧き上がる。
 一体その目で何を見ているのか、理解と言う言葉は遠く募るのは苛立ちばかり。
 双子であるが故の近親憎悪でもあった。

「それに、気付いてますか? 今の兄さんは魔法学校で私を苛めていた人達と同じです。自分が強いと錯覚したい、だから弱者を求める。私のような」
「違う、ムドは自分を弱者と周りに錯覚させて、騙してるだけだ!」

 跳ね起きたネギが、弾劾するムドを殴りぬける。
 魔力の篭らない拳でだが、それでも十分にムドを吹き飛ばし尻餅をつかせた。

「ずっと騙されてきた僕だから分かる。ムドは何時だって、自分でなんとかできたはずなんだ。それを何時も遠まわしに僕を前面に押し出して、僕は僕だ。君の操り人形じゃない!」
「何を言うかと思えば、私は兄さんの望みを叶えただけだ。誰よりも先で、誰よりも強い力を振るう誤った立派な魔法使い。けど切れたはずの操り糸を手繰り寄せ、戻ってきたのは兄さんだろ!」
「確かに僕は立派な魔法使いになりたかった。だけど、ムドにそうしてくれって頼んだ覚えはない。そうだよ。操り主が糸を切っても意味がない、僕が僕の意志でこの糸を断ち切るんだ!」

 尻餅を付いていたムドが立ち上がり吼える。
 だがネギも撒けずに吼え返し、今再び拳を握り締めて身構えた。

「ネギ先生!」

 その時、とある一人の少女の声が二人の間に割り込んできた。
 もしもこれがアーニャ達や古、木乃香ならば止める事はできなかった事だろう。
 だがこの時、少なくともネギは我が耳を疑い声がする方に振り返っていた。
 そこにいたのは、気絶したハルナを支え、ひきずりながら歩いてくる夕映であった。
 一週間後に置いてきたはずの、ネギが投げ捨ててきたはずの従者。

「夕映さん、どうやって……」
「あの後、唐突に私とハルナの仮契約カードが消えて……居ても立ってもいられず、それでも何もできず。神頼みに向かった龍宮神社でコレを見つけました」

 ハルナを支えたまま苦労して夕映が見せたのは、カシオペアであった。
 それは恐らく、武道会直後に超に渡されムドが捨てたアレであろう。
 気絶したハルナや、夕映も疲労困憊な様子から随分と無茶な賭けではあったようだが。

「ネギ先生、やはり貴方は間違っています。ですが、既に間違った事をとやかく言っても詮無い事。いっそ、気の済むまで間違えてください。そして、皆で償いましょう」
「夕映、そうやな。今度は自分の意志で、ウチもネギ君の従者になるえ」
「気持ちはきっと楓も同じアル。ネギ坊主、私はまだまだ諦めないアル!」

 それらの言葉を受けても、ネギは何も応えずにふいっと顔をそらしていた。
 だがやや俯かせた顔に僅かに笑みを浮かべていたのをムドは見逃さなかった。

「ラス・テル、マ・スキル、マギステル!」

 声を張って始動キーを口にし、ネギが握りこんだ拳に魔力の光を集め始める。
 許容量を超えて魔法の射手、光の矢を腕に装填し続け肉と皮を裂いて血が噴き出す。

「ムドこれが最後の勝負だ」
「分かりました。本当にこれで最後です」

 その場から姿を消してムドとの距離を詰めるも、光を内包した右の拳は使わない。
 確実に叩き込む為に、ムドの正面に現れては左手による軽いジャブ、
 ムドも多少のダメージは覚悟で、左手で無造作にそれを払った。
 ゴキンと骨が折れたかひびがはいったような音が鳴るも、二人は瞬き一つしない。
 ネギが見つめるのはムドが生み出すであろう隙だけ。
 ムドが見つめるのはネギが繰り出すであろう拳だけ。

「ムドォァッ!」
「ネギィァッ!」

 障壁を無視する為に、あえてムドが一歩を踏み出して体を密着させる。
 肩からぶつかるようにして、ネギの右の拳にだけは注意を払いながら。
 そして次には、驚くべき事に明らかに異常な動きを見せる折れたであろう左腕を鞭のようにしならせ振る。
 激痛はもう脳で処理しきれず、何も感じられない。
 ただ目的の為に、怪我の状態を無視して振るった。
 折れた腕での無意味にも見える攻撃に、明らかにネギが目を剥いていた。
 そこに深い意味があるのか、それともこれこそが致命的な隙なのか。
 ダメージを与える事をなどはとても見込めない、逆に自分がダメージを受けそうな左腕をだ。
 その腕がネギの目と鼻の先まで来た時、決断する。
 ネギもまたそんな腕を無視し、好きに頭を打たせ、瞳だけはムドを見つめる事に。
 ムドが明らかに歯軋りする素振りが露となった。
 せめて避ける素振りでもしてくれればと、ムドの誤算が生まれたのは明らか。
 真っ向から左腕にぶつかられ、走る痛みに体が痙攣を起こしたのだ。

「うグッ」

 慌てて最後に取っておいた右の掌を打ち込むも、ネギは既に懐の中であった。
 ムドとは違い、無造作に伸ばされた頭髪を僅かながらに散らす程度。
 小さなミス、穴で全てが瓦解する。

「桜華崩拳!」

 光を纏ったネギの拳が、ムドの胸の真ん中に撃ち込まれる。
 速さはさほどでもなく殆ど、胸に拳を置かれたようにも見えた。
 だが胸の上に置かれた直後、その腕に装填されていた魔法の光が炸裂する。
 周囲一帯を震わせるような震動が、ムドの胸を中心に響き渡った。
 純粋な破壊の魔力。
 ムドの生命活動が一瞬、全て停止していた。
 そして次の瞬間、血の華を咲かせる様に体の穴という穴から血を噴き出してムドが倒れこんだ。

「勝った……」

 血まみれで地面に沈むムドを前に、そうネギが呟いた。
 自身もまた返り血で体を赤く染めながら、感慨深げにだ。
 震える拳を握り、空に掲げてネギは叫ぶ。

「勝った、ムドに勝った。あ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 もはや想像を遥かに越えた凄惨な結果を前に、声を上げるのはネギのみであった。
 そして同時刻、天上での結果も出たようで世界樹の上には煌びやかな花火が打ち上げられ始めていた。









-後書き-
ども、えなりんです。

この双子、ろくでなしである。
もう互いに自分が幸せになる事しか考えてません。
殺そうとしたり、見捨てようとしたり。
分け与えあう事もなく、幸せの果実をむさぼりあうだけ。
仲良くなって父親の言葉も何処へやら。

こんな二人のろくでもないお話も残り一話です。
とりあえず、最高の幸せは誰も手にせず。
救いのない状態という目にも誰もあわず。
もやもやした現実的なエンドをお届けします。

それでは次回は水曜です。


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