第五十九話 続いて欲しいこんな時間
決勝戦を放棄したムドは、ネギよりも一足早く更衣室にて着替えを始めていた。
汗をたくさん吸いあげ、重くなったように感じられる道着を脱いでタオルで汗を拭く。
拭いたそばからまた熱によって汗が浮き出てしまうが、気分は悪くなかった。
貴重な麻帆良祭の時間こそ削られてしまったが、ナギへの誤解がとけたからである。
これまではムドも少し意固地になっていたと、今では認められた。
気付かれなかった事と、忘れられていた事を混同してしまっていたらしい。
赤ん坊から幼児へと変わった子供に気付けなくても罪はなく、子供がいる事を忘れる事が罪なのだ。
六年前のナギはムドには気付けなかったが、ムドの事は憶えていた。
そして今回は、まだ子供が生まれる前のナギでありながら、ムドが愛する女性との子供だと気付いてくれた。
「もう少し、ちゃんと話しておけばよかったです」
馬鹿だなと悔いがこみ上げ、ネギがナギを探したいという気持ちだけは理解できた。
ムドもできるなら、幻ではなく本当にナギに会いたいと思う。
ただし、実際にそれを実行しようとするかどうかは、また別であった。
「兄さん、人の気持ちが分からない人だからなあ」
ナギはあまり自分の跡を追うなと自分を含め、ネギへと伝えていた。
それはネギの無限にも等しい未来への道を狭め、下手をすれば闘争の日々へと誘うからだ。
少なくともムドは、そう解釈していた。
偉大な人物の二世というものは、それこそ知りもしないような人からさえ勝手な期待を向けられるものである。
戦争時の英雄の息子なれば、結局求められるのはそれに見合う力だろう。
「父さんを探すのは構いませんが、私の言葉を正しく理解してもらえるとありがたいんですけど。後でまた念を押して……いや、それはそれで私が拘ってしまっているような」
「ふむ、ようやく私もムド・スプリングフィールドという人間を理解したヨ」
更衣室にはムドしかいないはずが、唐突に第三者の言葉が掛けられた。
今丁度、袴ごと汗で濡れたトランクスを脱ごうとしていた時だっただけに、思い切りよろめいてしまった。
つんのめっては袴の帯を踏んづけ、今度こそ抵抗むなしく転んでしまう。
「で、でかい男あるネ」
現れた超の目の前で、ムドは不運にも全裸のままM字開脚をしてしまっていた。
ぼろんと垂れる白い肌とは対照的にどす黒い一物を見て、さすがに超が目をそらす。
「今ここで私が叫べば、訴えて勝てると思います」
「んー、それは勘弁して欲しいヨ。誤解を解きに来て、誤解を得ては本末転倒ネ」
チラチラとムドの一物に視線を送りながら、超が手を差し伸べてくれた。
ムドをどうにかするつもりなら、さっさと背後から何かしていただろう。
限りなく敵に近い存在ではあっても、ムドは超の手を借りて立ち上がった。
それから少し待っていてくれと頼み、全身の汗を拭いて匂い消しのスプレーを浴びてから着替える。
本当はシャワーを浴びるつもりが、できないようだ。
「それで、ご用件は? 一応、私の方もあるといえばあるのですが」
「おお、私も授賞式があるからゆっくりはしていられないネ。ついつい、見事なアレに見惚れてしまっていたヨ」
照れ隠しのように笑いながら、超が軽く頭を下げた。
「ネギ坊主は、ナギ・スプリングフィールドの一粒種。私は、前年の冬までずっとそう思っていたネ。だから、実を言うとムド先生の事を幼馴染に見せかけた護衛のようなものだと思ってたヨ」
「それはまた……豪快な勘違いですね。嫌ですよ、疑心暗鬼にかられて学園長のように私を殺しにかかられては」
ムドの言葉を冗談と受け取ったのか、すまないネと超が言う。
それにしても超が未来の火星人だとして、ネギの事を知っているのはまだ良い。
だがそこにそのような勘違いがあるという事は、ムドの存在は望み通り秘匿されたという事か。
「でも仕方がないネ。私に失敗は許されない」
「火星に重ね合わせるように構築された魔法世界。この崩壊を前に、少しでも多くの人をですか?」
ムドの一言に、超の顔色が一気に変わり息を詰まらせる。
その瞳に浮かぶのは解いた誤解を再燃させるような、疑いの色であった。
念の為で監禁されたり殺されたくはないので、ゆっくりと両手を上げた。
「超さん、聞いてください。私の友達がそれを防ぐ為に組織だって動いています。私はその友達から、魔法世界の真実と危機を聞かされました」
「ほう、それでムド先生も父の意志を継ぐように魔法世界を救いたいと?」
「いえ、別に。私はフェイト君が救いたいといったから協力してるだけです」
本音をもう少し突っ込めば、魔法世界がどうなろうとは構わない。
ただ恐らくは凄惨な未来を見てきたであろう超を目の前にして、それを言うつもりはなかった。
「超さん、魔法を世界に明かすのを止めてください。代わりに、私が超さんをフェイト君に紹介します。そして、もっとも混乱の少なく効率的なその手に乗り換えて欲しいです」
「私が苦心して生み出した手が、非効率的だと?」
「誰だって苦心した手段より、効率的だと言われれば怒りも湧くでしょう。ですが、曲解しないでください。フェイト君の案は、少なくともこちら側の世界に何一つ影響が出ない点で効率的だと言っています」
「にわかには信じられない話ネ。せめて概要を明かして欲しいヨ」
確かに現時点では超にとって、ムドの話はただの与太話に過ぎないだろう。
フェイトに確認も取らずまだ敵、味方の区別がない超に全ては明かせない。
だが概要ぐらいならば、直に麻帆良にやってくるフェイトからも話されるはずだ。
「詳細は、三日目にやってくるフェイト君から聞いてください。魔法世界の住人を第三の世界に移住させます。これなら、現実世界への影響は皆無です」
「第三の世界、まさか……魔法世界以外に新たに幻想世界を造ろうというのか!?」
さすが麻帆良最強の頭脳だけあって、ムドのある意味で荒唐無稽な言葉を理解するのが速い。
元々、魔法世界が魔法で生み出された擬似的な世界を知っているからでもあるだろう。
だが同時に、それがどれ程難しい、いや難しいとさえ呼べない行いである事もまた理解していた。
「ムド先生、やはり信じられない内容ネ。もしも信じて欲しければ」
「ええ、フェイト君は明日にも到着予定です。その場で改めて」
ムドは意外にもあっさりと引き、超を引き止めるような事はしなかった。
超が麻帆良学園に現れたのは、中学生になった二年前の事だ。
少なくともこれまでの二年を掛けて、綿密に今回の事を計画してきたのだろう。
それを土壇場で非効率的だと遠まわしに言われたとして、内心は穏やかであるまい。
ムドが強引に引きとめれば、どんな聡明な人間であろうと心の何処かで意固地になる。
「では連絡よろしくネ、再見」
ムドが手を振ると、何の前触れもなく超が目の前から姿を消した。
更衣室の出入り口である障子が開けられた様子もなく、他に出入り口はない。
ただ直前で耳にしたのは、この部屋には見当たらない時計の針の音であった。
「そう言えば、超さんが兄さんに渡したタイムマシンは時計のような形で……」
仮に仕掛けられたのがネギであるならば、麻帆良祭の間は近付かないでおこう。
恐らく超は、ムドからの連絡を待ちつつ超は計画を続行するはずだ。
もっとも、続行という意味ではムドも同じである。
授賞式の後で高畑に命令された魔法先生が超を取り押さえれば、それはそれで良し。
高畑達の尋問に対し、ムドに不利な証言が出たとしても特に高畑からの信頼が違った。
切り抜ける事は可能であるし、失敗したとしても超には知らぬ存ぜぬを貫けば良いだろう。
魔法一つ使えないムドが、学園長候補である高畑や他の魔法先生を操れるはずもない。
「一応後でエヴァにも現状を相談しておきますか。私が気づかないところで騙されたくもありませんし」
そう呟いたムドは、あるモノを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。
だが手に触れたのは、全く別のものである。
何故かポケットに入っていたのは、入れた憶えのない懐中時計であった。
秒針を刻む音が、妙に超が消える直前に聞こえた時計の針の音を思い起こさせる気がした。
「超さんが入れたのか、後で返さないと……」
そう呟きつつムドはその懐中時計を、窓の外の草むらに放り投げた。
「なんて言うと思いましたか。油断も隙もあったものじゃありませんよ」
やれやれと呟き、ムドは今度こそポケットから目的のものを取り出す。
飴玉サイズの丸薬、年齢詐称薬を飲み込んでから、更衣室を後にした。
授賞式の最中、ムドは他の参加者よりも一足早く抜け出していた。
とは言っても麻帆良武道会四強の内、二人はムドとエヴァンジェリンである。
ムドがいなくなれば当然の事ながらエヴァンジェリンも立ち去る以外に選択肢はない。
よって現在は、クウネルとネギが優勝、準優勝者として紹介されている事だろう。
最初から結果は度外視である為、その辺りは特に興味はなかった。
そのムドは現在、大人の姿で茶道部野点会場にいた。
武道会とは対極にある静けさ、日本庭園の芝生に敷かれたシートの上で正座をしている。
「お待たせ、ムド。どうかしら、こういうの初めてなんだけど」
「ムドもどうせなら着付けて貰えばよかったのに」
「二人共、綺麗ですよ。私は先程まで似たような道着を着てましたから、また和服を着るのはちょっと……」
「道着と着物を一緒くたにするな。まったく、まあスーツでも問題ないがな。お前達、座れ。私が直々に茶を点ててやろう」
ムドが振り返った先にいたのは、エヴァンジェリンに着物を着付けて貰ったネカネとアーニャであった。
ネカネは艶やかな桜色の生地の着物で、アーニャは女学生風に着物に袴を履いていた。
ムドのそれぞれ両側にそそと座り込み、エヴァンジェリンと相対する。
エヴァンジェリンが囲碁部と兼部している茶道部の催しに呼ばされていた。
この後もムドは、ネカネとアーニャと共に従者達の各部を巡る予定であった。
元々はネカネとの二人きりのはずだったが三日目がどうなるか分からないので、急遽アーニャも一緒にとなったのだ。
作法は三人とも全く分からないので、とりあえず黙ってエヴァンジェリンがお茶を点てるのを眺めていた。
「そう緊張するな。何よりもまず楽しむ事が先決だ。お茶の楽しさを知り、より楽しむ為に作法を知る。その作法の中に拘りを持って始めて茶器に手をだす。大抵の者は、順番が逆だがな」
「て事は……普通の喋って良いの? あはは、正直ちょっと息が詰まりそうだったのよね。あー、苦しかった」
「ふふ、実は私も。こんな良い天気なのに、まるで雨の日に部屋で閉じこもってるみたいだったわ。もう少し、早く言って欲しかったかしら」
「これでも茶道部十五年目だからな。知っていて当然と思っていた。済まなかったな」
エヴァンジェリンの素直な謝罪と共に、目の前に差し出されたお茶を頂く。
一瞬飲む前に作法があるのかと過ぎったが、その疑問ごと飲み下す。
普段飲んでいる日本茶よりもずっと、苦いと言うか渋いというか。
ネカネは割りと平気そうにしていたが、ムドとアーニャは思い切り咳き込んでいた。
「はっはっは、味覚はまだまだ子供だな。ただムド、大人の姿でアーニャと同じ反応をするな。周りから笑われているぞ」
「えっ?」
指摘され、他の場所でも行われている野点や庭園を散歩している人達に視線を向けた。
こういう場所柄かやや女性が多い中で、確かにムドは注目を集めている。
特に茶道部らしき人達からは、クスクスと笑われてしまっていた。
年齢詐称薬を飲むべきじゃなかったと後悔しながら、照れ笑いで周囲に返す。
「あー、びっくりした。これもう飲み物じゃないわよ。うえ……」
「苦いと思ったら茶請けの甘味で打ち消せ。苦いと思っても直接は言わない事だ。あえてはっきりものを言わないのが日本の文化だ」
私には向いてないと、眉を潜めるアーニャを宥めつつエヴァンジェリンに持て成される。
しばし歓談した後に、ムド達は席を立ってエヴァンジェリンに別れを告げた。
本当はもっとゆっくりしたかったが、そうも言っていられない予定があったからだ。
この二日目は、従者を中心に知り合いの出展に足を運ばなければならない。
明日菜の美術部の個展にアキラの水泳部のたこ焼き屋。
他に刹那の剣道部の企画から和美の報道部、そして最後に亜子のライブである。
まだ昼を過ぎたばかりだが、一つ一つに時間を掛けていては回りきれない。
茶道部の野点会場から、人ごみの隙間をぬって露天を見て回る余裕もなく次へ向かった。
「すみません、神楽坂明日菜さんはおられますか?」
「はひ……」
美術部の部室を利用した個展会場にて、受付の美術部員へと尋ねる。
丸眼鏡の女子生徒は声を掛けられたから一瞬固まってしまい、フルフルと震え出した。
喉がからからに渇いたように声がかすれ、良く聞き取れない。
「凄いわね、ムドの威力。あの子が私達の思いのままよ、アーニャ。あーんな事やこーんな事まで」
「ネカネお姉ちゃん、それって女の子の私達の台詞?」
そう思ったのなら尋ねる役を変わってくれとも思ったが、なんとか明日菜の行方を聞きだした。
どうやら先程、高畑から連絡が入って急遽他の部員と担当時間を変わったらしい。
一応ムドには、ごめんと一言伝言が残されていた。
「そう、明日菜は高畑さんとのデートの時間が変わったんだ」
「恐らく、ですけどね。超さんの事で三日目が多忙を極めると察しての事でしょう。せめて断らず、時間を割いたのは高畑さんの思いやりでしょう」
所変わって、麻帆良女子中学水泳部の出し物であるたこ焼き屋の前。
たこ焼きを頬張りながらムドが喋っているのは、アキラであった。
もう慣れたものだが、他の女子部員の視線にさらされながらの事である。
「アーニャ、とっても美味しそう。はい、あーん」
「ネカネお姉ちゃん、熱っ。うわっほふ、あうあう」
「ほら、アーニャ。お返ししても良いのよ」
一方、ネカネはアーニャの口に熱々のたこ焼きを放り込んでいた。
慌てふためく様を見て微笑んでは、口移しでたこ焼きを返してもらおうとしている。
さすがに公衆の面前では恥ずかしいようだ。
アーニャはなんとか我慢して口の中のたこ焼きを転がしては冷まし始める。
大丈夫なのかと、少しはらはらしていたムドへと、アキラが尋ねてきた。
「ねえ、ムド君。明日菜と亜子、どっちが好き?」
「皆好きですよ。ボケや誤魔化しではなく、誰一人優劣なく大切にして愛したいです。もちろん、アキラさんも」
「考えておくね。ただ……亜子、ライブみたいな大舞台初めてだろうから。演奏前に、一杯勇気付けてあげて。その時だけでも良いから、亜子を一番にしてあげて」
「本当にアキラさんは何時も控えめで、亜子さんを立てて……分かりました。その前に、お願いを聞く前払いです」
不意打ち、他の水泳部員の前でムドはアキラを抱きしめた。
年齢設定をネカネに合わせて少し高くしておいたので、背の高さも申し分ない。
低く見積もってもアキラと同じ背丈で、抱きしめるには十分であった。
驚き体を硬直させるアキラの背をやんわりなでつけ、その耳元へと愛していると囁いた。
「本当に、考えておくから」
「はい、楽しみにしてます。その時は、亜子さんと一緒に一杯、気持ちよくしてあげますね」
「ムド君のエッチ」
ほんの少しだが体を預けてくれたアキラを、これでもかと抱きしめてまた出展めぐりに戻る。
ムドに抱きしめられた後、部員に質問攻めを受けたアキラを置いてだ。
少し恨めしそうに見られたが、悪い気はしなかったようで小さく手を振られた。
その仕草がより他の部員を刺激したようで、しばらくは屋台の仕事にならない事だろう。
ムドはそこからまたネカネとアーニャを連れて、刹那の剣道部の出し物へと向かった。
そこでは、剣術から剣道への移り変わりのレポートや過去の剣豪のレポート等が張り出されていた。
他に特別に模造刀にて刀の握り方を指導されたりしてから、次へ。
報道部にはまだ和美がいなかったので、過去のスクラップ記事から和美のものを見せてもらったりなどした。
そして三時を過ぎたところで、リハーサルをしているであろうライブ会場へと向かった。
場所は世界樹前広場のあのヘルマンの時にアーニャを救い出したステージである。
ただしライブを行うバンドは何組もある為、亜子が何処にいるかまでは分からない。
次々にバンドのメンバーのリハーサルが進むも、亜子が出てくる様子はなかった。
携帯電話も繋がらないようで途方に暮れそうになったところで、ネカネがとある人物を見つけた。
「あ、円ちゃーん」
「ネカネさんにアーニャちゃ……ちょっと、後ろの人は誰?」
「亜子の良い人よ。あの子、あがり症みたいだから強力な安定剤をね」
ネカネやアーニャから大人版のムドを紹介され、へえっと円が見上げてきた。
ただしその視線はこれまでのものとは異なり、興味こそあれ気は引けなかったらしい。
亜子の良い人だといわれたからか、それとも好みから外れていたのか。
「以前程じゃないけど、それなりに緊張してるみたいだから良かった。キスぐらいまでなら、隠れてしても黙っておいてあげる」
その円に特別に控え席まで案内して貰い、よろしくねと頼まれる。
「亜子さん、ムドです。入っても良いですか?」
「ムド君? ええよ、何時でも入ってきて」
控え室の扉を開けると同時に、普段とは違い小さく見える亜子が腕の中に飛び込んできた。
リハーサル前で既に着替えは済ませてあるようだ。
亜子にしては珍しいノースリーブのシャツにネクタイ。
下はスリットのある長めのスカートでそこからストッキングを身につけた足が伸びている。
「亜子、私達もいるんだけど」
「え、あれアーニャちゃん? ネカネさんも、そっか。そういえば二人のデートやった。あはは、独り占めしてもうた」
そう呟きムドの胸元を脱しようとした亜子を、今一度強めに抱きしめなおす。
「あ、あかんてムド君。今はネカネさんの番やし、ウチはライブを見に来てくれただけでも」
「小動物みたいに震えているのに、それは聞けません。緊張、してるんですね。恋人なんですから、それぐらいは分かります。アキラさんも、随分と心配してました」
「相変わらずアキラは心配しょうやな。やけど、ほんならもうちょい」
鼻っ面ごと顔を胸板に押し付けた亜子が、嬉しそうに深呼吸していた。
ムドの匂いを胸一杯に吸い込んで、溜め込んでおくように。
その亜子を後ろからネカネがムドごと抱きしめた。
「亜子ちゃん、捕まえた。私も、協力して緊張ほぐしてあげるわ」
「ひゃ、ネカネさん。それ緊張やなくて胸……ア、アーニャちゃん。そこ、衣装汚したらあかんから……」
「だったら、パンツだけでも下げとくわ。亜子はいいから、ムドとキスしてなさい。震えが止まるまでずっとね」
ネカネが亜子のノースリーブのシャツの中に、手を伸ばしていった。
ブラジャーとシャツが一体化した衣装らしく、こういう時だけはノーブラと変わらない。
ムドの胸元に顔を埋める亜子の首筋に吐息を吹きかけながら、両手の指で胸の先の突起を転がす。
一方のアーニャは、抱き合う二人の股の間をくぐり膝立ちで亜子のスカートに顔を突っ込んでいる。
スカートの中の僅かな光を頼りにホットパンツごとショーツを下ろし、少し汗ばんでいる秘所へと舌を伸ばした。
子猫がミルクに舌をのばすようなぴちゃぴちゃという音がスカート内部から響いてくる。
「んっ、アーニャちゃん何時の間に……ぁっ、アーニャちゃん舌が短いから、ぺたぺた叩かれとるみたい」
「うふふ、毎晩お勤めの後にもネカネさんと花嫁修業してるのよ。上手になってきたでしょ?」
「あかん、立ってられへん。ムド君、ギュってして。んはぁ、キスはええのに」
膝をがくがく言わせる亜子を腰から抱き寄せ、口付ける。
あくまで主役はこちらだとばかりに、ネカネやアーニャに亜子の意識を持っていかれないように。
緊張からか、カラカラに乾いている亜子の口内をムドが舌で湿らせていく。
舌だけでは圧倒的に湿り気が足りない為、唾液を直接流し込んでは亜子に飲ませていった。
一通りそれが済んだ頃にキスから解放すると、二人の唇の間に銀色の橋が掛かっていた。
「亜子が主役になれる日まで一生付き合うって、以前に約束しましたよね。今日がその日です。成功のお守りを、ここに欲しくはないですか?」
ネカネが後ろから亜子の脇に腕を遠し、ムドが両膝を抱えて持ち上げた。
ふわりとする浮遊感に一瞬亜子が小さく悲鳴をあげ、スカートの中からアーニャに嘗め尽くされた秘所が露となる。
その涎を垂らす秘所へと、ムドが勃起した一物の亀頭を擦りつけた。
ちなみに何時の間に脱いだかというと、アーニャがベルトを外してズボンを下げてくれたのだ。
ある意味で内助の功、すっかりアーニャもこういった事に慣れてきていた。
「亜子、無理しないで貰ったら? 本当に緊張から震えてるじゃない。私はまだそういう事ができないけど、安心するものなんでしょ?」
「欲しいけど、でもリハとか本番で垂れてきたら……」
「そんな時はネカネさんにお任せ。こんな時の為に前張り、用意しておいたから。想像してみて亜子ちゃん。ライブで皆が熱狂する中、亜子ちゃんの子宮の中でムドの精子が暴れまわるの」
「へ、変な事言わんといてネカネさん。今日の段取り、全部忘れてまう!」
亜子はそう拒否に見えなくもない声を上げたが、体はとても正直であった。
ネカネに囁かれた状況を思い描いたのか、秘所の奥からツッと愛液が溢れ流れ出した。
アーニャの愛撫によるものではなく、明らかに亜子が自ら流したものである。
それをムドが亀頭ですくい上げては割れ目をなぞり、すくい損ねた分をアーニャがチュッと吸い取った。
「あかん、ほんまにあかんて。ライブの事そっちのけで、ムド君の事ばっか考えてまうて!」
「亜子、本当に止めて欲しければあかんではなく止めてと言ってください。そうすれば本当に止めます。亜子さんの気持ちを無視してまでは、するつもりありませんから」
「え、あ……そやね。ムド君はウチを愛しとるから、嫌がる事なんて」
ほっとした表情を浮かべながらも、亜子の視線は一点に集められていた。
ぬるぬると秘所の割れ目の上を行ったり来たりする剛直である。
子供の姿の時よりさらに大きい、凶器とも呼べるようなムドの一物であった。
ごくりとムドに水気を分けてもらった喉で亜子が唾を飲み込んだ。
「あかんやのうて、や……止め。そう言えばええんやよね。ライブあるから、一言言うだけで」
亜子が迷う間、ネカネもアーニャも自分の意見を言葉で伝える事はしなかった。
ただ亜子と同じように、無言で秘所の上を滑るムドの剛直を見ていた。
「や、止め……やっぱり言えへん。今ここで止められても一緒や。やから、おめこして。一杯ムド君の精子、ちょうだい!」
そんなお願いの直後、ムドはまだまだ狭い亜子の中へと挿入を開始した。
幻術による擬似的な剛直とはいえ、亜子自身はその剛直が入れられたと感じている。
めりめりと膣を押し広げられる間ずっと、亜子は彼女から見て上にいるネカネを見上げていた。
そうするしかなかったとも言える。
「ひぁっ、ぁぅぁ……ィ、ぁっ」
喘ぎ声というよりは悲鳴に近い声を上げながら、亜子がムドの剛直を受け入れていく。
狭い膣に対し異物が大きすぎると、亜子のお腹がぽっこり挿入の度合いに比例して膨らんでいった。
「凄い、ムドってやっぱり大きいんだ」
「アー、ちゃ。褒めたっ、あか。大きくぅぁ。あはぅぁ、ぁっゃぁ……んぐぁ、はっ……」
「亜子ちゃん、頑張って。もう少し、ムド最後の一押し」
「あうぁっん!」
ネカネの言葉で、ムドが本人に確認を忘れて最後の一押しをしてしまった。
ごすっと子宮口を亀頭で殴られ、電流が走ったように亜子が体を痺れさせ果てた。
思わずネカネもびっくりして亜子を落としかけてしまい、ムドが亜子の全てを受け取る。
今の体ならば、亜子の体ぐらいはなんとか支える事ができるのだ。
腰を落とし、亜子のお尻に両手を添えてその体を一気に抱え上げた。
「ひィ!」
今再び子宮口を小突かれ、続けてもう一度亜子が小さく果てた。
「亜子、大丈夫ですか?」
「らい、らいじょうぶ。ちゃんと分かっとる、ムド君がウチの中におるの」
「ゆっくり、今度はゆっくりしますから」
とんっとムドが跳ねるのに合わせ、亜子の体が浮いては自分を貫く剛直に着地する。
小刻みにとんとんと跳ねられ、時に子宮口と亀頭でキスしながらごりごりと揺さぶられた。
それが続けられると、完全にライブ前の不安は消し飛んでいしまった。
考える余裕さえ失くしたとも言うが、亜子は幸せに浸っていた。
短い人生の中でもトップに君臨するであろう晴れ舞台、その不安でさえ敵ではない。
今の亜子の敵は、自分を幸せに溺れさせてしまうムドの剛直そのものであった。
「アーニャ、下からチロチロしてあげて。ムドじゃなくて、亜子ちゃんをね?」
「うん、ネカネお姉ちゃん。亜子、私達も気持ち良くしてあげるから」
「ウチ、死んでしまう。これ以上、気持ちんぁっ」
ギチギチに拡張された膣口へと、しゃがみ込んだアーニャが必死に舌を伸ばした。
真後ろからではお尻が邪魔だと、九十度体の向きを変えて再挑戦。
ネカネもムドに抱っこされた亜子のステージ以上の裾から手を伸ばし、背中をなぞり上げた。
何度も一緒にムドに抱かれているのだから、亜子の弱点ぐらいは知っている。
今はもう薄っすらとして傷跡すら見つけられない、元傷があった場所を指先で撫で付けていく。
「背中、ぁぅっ。はぅぁ、ぁっ……ムド君、キスして。キスでも勇気欲しい」
バンドの控え室で、楽器の音ではなく四人の男女が絡み合う生々しい音が響く。
こんな時、人間もまた楽器の一種だという言葉が頭に浮かぶ。
剛直という名の弓をムドが引き、膣というなの弦を引かれて亜子が喘ぎ声を奏でる。
この時ばかりは、アーニャもネカネもサブの演奏者であった。
亜子を際立たせ盛り上げる為に、ムドの補助として自分を抑えて支え続けた。
「ムド君、ぁっ。アーニャちゃん、ネカネさん。ウチ、イきそうやぁんっ。ぅぁ……」
「アーニャ、垂れた分はお願いします。ステージ衣装を汚さないように」
「うん、直ぐに亜子に返してあげる。何時でもいいわよ」
楽器が最高の音色が近いと訴え、演奏者であるムドがリズムを上げた。
壊れそうな程に亜子の体を振り回しては突き上げ、演奏を続ける。
最高の音色はもう、直ぐそこまで来ていた。
「んはっ、ぁっ。ぅぁ、イ、イク。ムド君に、皆にイかされ、ぅぁっ。あイくぅぁっ!!」
ビリビリと控え室全体を振るわせる程の声を、果てると共に高らかに亜子が奏でる。
それに合わせムドもピッタリと子宮口に鈴口を添えて、中に精液を放出させた。
演奏はまだまだ続くとばかりに、リズムを刻んで亜子の子宮内に精液を叩きつけていった。
その度に亜子はムドへとしっかりと抱きつき、ずり落ちまいとしがみ付く。
「あ、ぅ……んっはむ。ネカネお姉ちゃん、交代。量が多くて、んふ」
「はいはい、アーニャもまだまだね」
子宮から溢れた精液が秘所から流れ出し、アーニャが宣言通り吸い始めた。
だが思った以上に量が多かったらしく、手早くネカネと位置を代わり立ち上がる。
リスのように頬を膨らませ、口の中に溜めたムドの精液と亜子の愛液を見せ付けた。
「んーん、んえる」
「ぅぁ……アーニャちゃ」
朦朧とした瞳で振り返った亜子が、ムドの首にしがみ付きながら必死に顔を伸ばした。
唇を合わせて直ぐに、膨れ上がっていたアーニャの頬が萎んでいく。
代わりに亜子が少し頬を膨らませ、こくりこくりと飲み下していった。
自分の子宮にそそがれ溢れた精液を、口移しで貰ったのだ。
下でも上でも満足に飲ませて貰った亜子だが、その満足気な顔を今度はネカネが振り向かせた。
「ん、んーっ。ネカ、んんっ」
「ぷはぁっ、まだまだ次が来るわよ亜子ちゃん。分かるでしょ、次から次にムドが射精してるのが」
「前張りしても、歩くだけでたぽたぽくぎみー達に聞こえてまうかも。んっ、また。ムド君、出し過ぎやて」
「なら姉さん、次にアーニャが飲んだら前張り頼めます?」
はいはいと、ポケットから前張りを取り出したネカネが、アーニャの隣にしゃがみ込んだ。
まだまだ出るぜとばかりに膨張している剛直を前に、アーニャは一生懸命あふれた精液を吸い込んでいる。
少しばかり夢中になりすぎているアーニャの肩を叩いて気付かせ、場所を交代。
接着する秘所の周りをハンカチで簡単に拭き、オッケーの合図をネカネが出した。
「抜きますよ。よっと」
「んっ……ぁっ、ん」
ずるりと引き抜かれる感触に亜子が悶える間にも、ネカネが全ての作業を終えていた。
再びのオッケーの合図でムドが亜子を降ろし、少しふらつくその体を支える。
「どうですか?」
「なんか幸せが詰まっとりそうで、一生このままでもええかも」
少し膨らんだようんも見える下腹部を亜子が愛おし気に撫で付けていた。
それもなくはないが、聞きたかった事は違うとムドが尋ね返す。
「緊張の方ですよ。震えは収まったみたいですけど」
「せやった……うん、大丈夫や。ありがたい事に、段取りの方もちゃんと頭の中に残っとるわ。ムド君はもちろん、アーニャちゃんもネカネさんもありがとうな」
「当然よ、同じムドの従者じゃない。私達は家族も同然よ」
「アーニャの言う通りよ、亜子ちゃん。同じ人を好きになって抱かれて、私達はこれからもずっと一緒。晴れ舞台、楽しみにしてるわ」
声援を受けて亜子は支えてくれたムドの手を離れて、きちんと自分の足で立ち上がった。
幸せが詰まったお腹に触れながら、一つ深く深呼吸。
それから手にしたのは、そばの壁に立て掛けられていた傷跡の旋律である。
引きなれた楽器としてこれを使うつもりのようだ。
肩紐を掛けて弦を一本ビンッと鳴らし、亜子が自分のパートの演奏を始めた。
「歌はあらへんし、ベースやから地味やけど本番やリハ前に一度聞いて」
「ええ、もちろん。聞かせてもらいますよ」
「その前に、それなんとかしなさいよ。まだ小さくならないわけ?」
アーニャの指摘を前に慌ててズボンをはこうとするが、そそり立つ剛直がそれを許さない。
「あらあら、それじゃあネカネさんとアーニャは尺八で参戦かしら」
「ちょっ、ウチが格好良く決めたのに。エロエロは続くん? それやったら、ウチも尺八吹く。リハまでまだ時間あるんやし!」
「結局、こういう流れなのね。もう……私、口でするの苦手なのよね。顎が外れそうになるから」
何処か諦めたような言葉を吐いたアーニャも、遅れをとってはいなかった。
一戦終えただけでは衰えを見せない剛直に、三人がかりで襲いかかり始めた。
-後書き-
ども、えなりんです。
人の気持ちが分からない人だとネギを評するムド。
実は、かなり初期にネカネから、人の気持ちが分からないと評されていたムド。
どっちもどっちだと象徴する台詞でした。
あとネカネはもう作者にも分からん。
前張りの使い方が激しく謝ってる、いやエロとしては正しいが。
本当、この人がいなかったらお話が成り立たなかっただろうな。
アーニャも徐々に感染中。
さて、次回は土曜日です。