第五十六話 フェイトの計画の妨げ
第一回戦最終戦の勝者はネギであった。
当初は打撃を無効化する高音の黒衣の夜想曲に攻めあぐねていた。
だが打撃無効化を過信し、防御が疎かとなった高音に零距離での魔法の射手を放ったのだ。
打撃はおろか、魔法までもを無効化する魔法など存在しない。
あえなく高音は魔法の射手一発で沈み、ネギの目の前で裸体をさらす事になった。
身につけていた衣装までもが影であり、一瞬気を失う事で影人形ごと消えてしまったのだ。
ネギのローブを借りて能舞台上を去る際に責任をと叫んでいたので、意外にこれを切欠にネギの従者になるかもしれない。
ひとまずそういう経緯によりネギが勝者となり、第二回戦開始前に二十分の休憩となった。
そして現在、修復中の能舞台上には試合結果が特別スクリーンに投影されていた。
真四角の能舞台の各辺ごとの空中に、トーナメント表が映し出されている。
「では休憩の間、一回戦のハイライトをダイジェストでお楽しみください。第一試合、ムド選手対愛衣選手」
和美のものではない、別の誰かの声が放送されると共にスクリーン内の映像が変わった。
愛衣が炎の矢を放ち、ムドがそれを金剛手甲を使い軌道をそらす瞬間だ。
ムドとしては自分の動きの復讐になるからありがたいが、世間的にはどうだろう。
「ねえ、これいいのかしら。思い切り魔法を使ってる場面じゃない」
「良くはないですね」
「ちょっと、超の奴なにを考えてんのよ!」
アーニャにムドが答え、魔法の秘匿を前に明日菜が憤る。
「おい、ちょっとお前ら良いか? これ見てみろよ」
皆の視線を集めるようにそう言ったのは、千雨であった。
選手控え席のベンチを一部空け、そこに手に持っていたノートパソコンを置いた。
見ろというのは、そのノートパソコンの液晶画面だろう。
皆一度立ち上がり、その周りに円を描くように集まって画面を覗き込んだ。
映し出されていたのは、現在スクリーンに投影されているものと同じ画像であった。
ムドが愛衣の炎の矢をさばく瞬間、楓と月詠の気を用いた戦い。
第一試合から第八試合までの特に魔法を使った瞬間を編集して流されていた。
「ネギ先生の試合が終わる少し前ぐらいから流れ始めてる。ここは撮影禁止だから、目の前のスクリーンを見る限りは大会側からの流出だろうな」
「ふん、つまりはこの大会事態、魔法を明かす為の前準備という事だ。その為に奴の名前まで出して、坊やを焚き付けた」
千雨の言葉は、故意に超が映像をネットに流出させた可能性を示していた。
エヴァンジェリンも同意見らしく、超の手際を少なからず賞賛する口ぶりであった。
建前では撮影禁止を打ち出し魔法の秘匿を行う素振りを見せながら、実際は大会側が撮影をしていた。
それも大会を盛り上げる一時的なものだと言えば、ネット流出は事故で済ませられる。
昨今は、大企業でさえ機密文書の流出は日常化している為、疑えても罰則は難しい。
元々超は魔法生徒でもなんでもない為、余計にだ。
「お二人とも何故そこまで落ち着かれているのですか。超鈴音がやろうとしている事は、明らかに混乱を招く行為です!」
「えー、でも魔法が世界に露見すれば強いお人が生まれる可能性も高まりますえ。ウチ、ちょっと超はんを応援したくなりますえ」
「月詠、なにボケた事を言ってんのよ。魔法がバレたら、下手をしたら私達が麻帆良にいられなくなるじゃない。皆、バラバラになっちゃうわよ!」
「それは困りますえ」
アーニャの言葉にさすがの月詠も、うーんと眉をしかめていた。
ムドだけでなく刹那や他のメンバーともエッチできなくなるのは嫌らしい。
「ウチ……ムド君と離れたくない。皆とも、もっと一杯エッチな事をしたいし、色々遊んだりしたい」
「私も、バラバラは嫌だ。なんとか、できない?」
離れ離れという大事を前に、亜子やアキラが尋ねてきた。
「詳しい事は」
「私なら、なんとかできるかもしれねえ」
ムドの言葉を半ば遮り、そう呟きながら小さく手を上げたのは千雨である。
ただし、その上げられた手は小さく震えており、あまり望んではいないらしい。
本来千雨は、こういった事態に対処する時の為に加わったわけではなかった。
ムドの従者の中でも少し特殊で、守られる為に全てを差し出したのだ。
「私のアーティファクト、力の王笏なら。拡散する前の動画を削除して、ある程度は魔法っていうキーワードで盛り上がる馬鹿を誘導できる……はずだ」
「というか、千雨ちゃん。アーティファクト持ってたの?」
「持ってるよ。そりゃ、人様に見せられるような物じゃねえけど。私も一応はこのガキに処女を捧げた従者なんだよ!」
「千雨ちゃん、落ち着いて。千雨ちゃんも立派な仲間なんだから。明日菜ちゃん、駄目よそんな事を言っちゃ。ごめんなさいは?」
ネカネに諭された明日菜がごめんと謝り、それで千雨も溜飲を下げたようだ。
もっとも、千雨がアーティファクトを持っている事を知ってはいても、その効果を知るのは当人を除いてムドだけだが。
「それで、千雨はこう言っているがどうする?」
「いえ、その必要はありません」
「だけど魔法がバレるとお前が」
「千雨、手が震えてますよ。怖い事を怖いという事は決して悪い事ではありません」
意外に食い下がった千雨の手を取り、ムドは正面から見上げるようにその瞳を見据えた。
震える手を温めるように撫で、セーラー服のコスプレ姿の千雨を抱きしめる。
「超さんがこういった手段に出た以上、ある程度の覚悟はあるはずです。千雨のアーティファクトは強力ですが、反面凄く危険なんです。私より詳しい千雨さんなら分かりますね?」
「擬似的にネットワークにダイブしたとはいえ、デリートされればどうなるか分からねえ。最悪の場合、精神のみが死んで脳死状態になるかもな」
「可能性は高いです。だから動画の削除者が千雨と知らず、超さんがデリートを実行すれば危険です。それに、まだ私達が超さんに敵意を持つを明かす時ではありません」
千雨からもギュッと抱きしめられながら、ムドは続ける。
「他の人と同様に、超さんもまた兄さんだけに注視しています。だから、私達の出番は最後の最後。今はそうですね、少し良いですか?」
安堵や何やらで少し泣きそうになっていた千雨を、ネカネに預ける。
従者のなかで誰よりも豊満な胸の中で、千雨は小さく呻きながら肩を震わせた。
主であるムドを含め、従者の多くもネカネの胸に世話になっているのは気のせいか。
そんな事を考えつつ、ムドはアーニャから携帯電話を借りた。
携帯電話のメモリを検索して、とある人へと電話を掛ける。
コールがなる間、皆からも慰められる千雨の背中を叩いた。
なかなか受話されないコールが続き、留守番電話に切り替わりそうなところで繋がった。
「ごめんごめん、アーニャ君。麻帆良祭期間中は忙しくてね、なかなか。おっと、愚痴を言ってすまないね。それで何か用かい?」
「すみません、高畑さん。ムドです」
「はは、少しびっくりしたけど謝罪はいらないよ」
相手がアーニャだろうとムドであろうと、高畑の嬉しそうな声は変わらなかった。
本当に忙しく、こういった電話でも良い息抜きになるのかもしれない。
ただ連絡内容が内容なだけに、和やかな会話を抜きにしてムドは伝えた。
「今年から復活した麻帆良武道会については、ご存知ですか?」
「もちろん、いや僕もできれば参加したかったぐらいだよ。君やネギ君が参戦しているんだろ。それにネギ君とは昔、強くなったら戦おうって約束もあったんだけど、忙しくて」
「そこは学園長室ですか? ネットが繋がるのなら、麻帆良武道会で検索してください。恐らくは、兄さん達が魔法を扱う本選の動画が多数見つかるはずです」
「え、ネギ君達そこまで麻帆良武道会を再現してるのかい?」
やはり驚いた様子の高畑は、キータッチの音が微かに聞こえる程強くキーを叩いていた。
それからしばらくの沈黙の間が訪れる。
動画に見入ってしまったか、それに付随するネット住人の言葉に驚いたか。
こちらでもそれは確認していた。
少し気分を落ち着かせた千雨が、ノートパソコンを操り某巨大掲示板等を見せてくれたからだ。
動画のリンク先と共に魔法という言葉が妙に多く使用されている。
「これは、まずいな。連絡ありがとう、ムド君。こちらでも早急に対策を考えて見るよ」
「ええ、お願いします。超さんはどうも魔法を世間に公表しようとしているみたいです。恐らく、これはその前段階。多少過激でも超さんを捕縛すべきです」
「そこは学園長にも相談してみるよ。あと、参加者の中に魔法関係者がいればこの事を教えてあげてくれるかい?」
「ええ、もちろんです。ではお願いします。あと、いくら忙しくても明日菜さんとのデートはすっぽかさないでくださいね」
もちろんという言葉を受け、こちら側からも通話を切る。
「これでまず学園側、高畑さん達が動いてくれます。だから、大丈夫です」
「す、すまねえ。私から言い出しておいて……」
恥ずかしそうにそっぽを向き、やや顔を赤面させながら千雨がそう呟いた。
だがそれは言葉通り、情けない自分を恥じての事ばかりではなかった。
ムドは様々な思惑こそあれ、何よりも千雨を危険にさらさない方法をとってくれた。
それに対し、愛情を感じずにいろというのは不可能だ。
愛されている、守られていると女の子ならば嬉しくならないはずがない。
「それじゃあ、皆で連絡して回りましょうか。私とアーニャはネギに、亜子ちゃんとアキラちゃんは古ちゃんね。エヴァちゃん達はクウネルさんを探してね?」
「くっ、私はあの変態か。行きたくはないが……仕方あるまい。おい、一応だが一人での行動は控えろよ」
「え、おい私は誰と」
示し合わせたように皆が散る中で、一人残されようとしていあ千雨がそう呟いた。
その声が耳に入らないようにネカネ達は、方々に散っていってしまう。
言ったそばからと憤りかけた千雨は、自分の手を誰かが握っている事に気付いた。
見下ろした先にいたのは、にっこり笑いかけてきているムドであった。
「皆、気を利かせてくれたんですよ。時間はあまりありませんけど、選手控え室に行きますよ。千雨を守ってあげます」
「待て、もう十分と少ししか。嬉しいけど……そんなパッとやってはい、ばいばいは嫌だぞ私は」
「少しぐらい遅刻しても大丈夫ですよ。言い訳は色々できます」
それなら良いかと、千雨もムドの手をギュッと握って走り出した。
選手控え室には、大豪院等他の選手がいた為、急遽他の部屋に入り込む事にした。
明日菜や刹那が着替えを行った臨時更衣室である。
まだ着替えをしていないのか明日菜がメイド服に着替える前の、コスプレ用セーラー服がそのままであった。
そのうち明日菜が来てしまうかもしれないが、時間もない為かまっている事はできない。
千雨も急いていたようで、臨時更衣室に飛び込むなり膝を屈めてムドの唇を奪った。
「んっ……ムド、抱いてくれ。私を守ってくれよ」
「震えながらでも私がって言ってくれた時、嬉しかったです。千雨は私が守ります」
唇同士を触れ合われる間もなく、舌と舌で唾液を絡ませあう。
そのまま千雨を優しく押し倒そうとして、自分が金剛手甲をしていた事を思い出す。
これなら子供の姿ではエヴァンジェリンぐらいにしかできない体位ができる。
ベッドのないココでも確実に千雨が快楽だけを感じられるように。
千雨のお尻に手を這わせながら、唇から首筋へと下ろしていく。
「ムド、時間……ぁっ」
「千雨は気持ち良くなる事だけを考えてください」
うなじからさらにセーラーの隙間から見える鎖骨を舐め上げた。
浮き出た骨やえくぼのようにくぼんだ肌と、普段はあまり攻めない場所まで。
そこが良かったのか、さらに求めるように千雨がスカーフを取り去った。
ただポケットにしまう余裕はないようで、手の中から床の上へと滑り落ちる。
「気持ち良い。ふぁっ、そこもっと。下も指でしてくれ」
「鎖骨を甘噛みしてると、千雨を食べてるって実感できますね。もっとも、本当に食べちゃいますけど。それとも千雨が食べる側ですか?」
「親父くせえ事を、んっ。入っ……ぁっ、私なんだか濡れるの早く。お前が汗臭いからか。お前の匂いで包まれる」
「あ、そう言えば汗をかきっぱなしで」
少し前に月詠が言った逆となっていたようだ。
沢山汗をかいたムドの匂いを吸い込み、千雨が興奮してしまったらしい。
殆ど愛撫もなしに秘所が愛液を染み出し、ショーツに染みが広がってしまっていた。
ショーツをずらし指を入れてみると、ぬるりと抵抗なく入ってしまった。
意図してムドが道着をバタつかせ体臭を扇ぐと、ますます潤っていく。
ぐちゅぐちゅと指の動きに合わせて、増えていく愛液が卑猥な音を立てていた。
「やべえ、癖になる。二、三日風呂断ってヤルなんて、エロ漫画みたいな事を思いついちまったじゃねえか。臭いちんぽとか、妄想止まらねえ」
「千雨が望むのなら、多少お風呂は我慢しますよ。なんならエヴァの別荘で大量に汗をかいて、そのままナメクジみたいにお互いの体を這いずり回るんです」
実際にやってみたくなったのか、潤いほぐれながらも千雨の膣がキュッと収縮していた。
ムドの細い指では物足りない射精のできる本物を寄越せと、叫ぶように。
指が膣内を蹂躙するテンポを速めても膣は十二分にそれを受け入れていた。
思いのほかに早く、準備は整ってしまったようだ。
「ほら、あーんしてください」
「んちゅ、ぱっ……」
指を秘所から引き抜き、千雨に愛液を舐めさせながらムドは袴の帯に手を伸ばした。
手際よく帯を解いて袴をずり落とし、トランクスの中からそそり立つ一物を取り出す。
その時、指を舐めながらチラリと視線を落とした千雨と目があった。
言葉を使わず、これから入れてあげますよと口の形だけで伝える。
その行動自体には特に意味はなかったが、視線を少しそらした千雨がこくりと頷いた。
「ふぅっ、ぁぅん、入って。相変わらず、でか。人の事を考、ゃぁ……」
「ゆっくり、両足を持ち上げてください」
亀頭を秘所にそえ、少しずつ千雨に腰を落とさせていく。
背が低く細い体のムドを前に支えきれるのかと、恐々と千雨が自分の体に埋め始める。
そしてムドに言われるまま少しずつ足の力を抜き始め、両手を首に回した。
意外にビクともしなかった意外な力強さに千雨は驚いたようだった。
ムドとは違い、金剛手甲がある事を忘れているようだ。
それで問題があるわけでもなく、ついに千雨の両足が床を離れてムドにより支えられた。
重力に引かれ体が落ち、体の奥へとぬるりと突き進んだ一物に奥で支えられる。
「はぅぁ……届きやがった、奥まで。馬鹿、揺するな。ごりごりして気持ちよ過ぎるんだよ。馬鹿になったらどうする」
「千雨の面倒を一生みてあげますから、何も心配いりませんよ」
「お前はいつも真顔でとんでもない事を……ぁっ、はぁんもっと。もっと突いてくれ」
千雨が腕を回したムドの首、金剛手甲をした手で掴み上げたお尻。
それから子宮口にまで辿りついた一物の三点で千雨を支え、突き上げる。
小さく揺らせば子宮口を亀頭で擦り上げ、大きく揺らせば膣の中を擦りあげていく。
ムドがどちらを選択しようと千雨は、快楽に喘ぐ以外の選択肢は存在しなかった。
「はっ、ぅ……ぁっ、ぁん、気持ち良過ぎる。絶対、今の私はリア充だ。おまんこの事以外何も考えられねえ」
「おまんこだけですか?」
「ふぅん、悪い言いなおす。おまんことお前のおちんちん以外、ぁぅ」
「でしたら、もっと気持ち良くなってください」
金剛手甲をした腕だけでなく、膝も使って千雨を揺さぶる。
素の状態では滅多にできない駅弁スタイルで、子宮を突き上げた。
揺らされるたびに秘所の結合部からは嬉しそうに愛液が飛び散っている。
もちろん千雨本人も子宮を突かれるたびに、快楽に身震いを起こし続けていた。
「はっ、はっぁ。キス、してくれよ。イきゅ、イきそうなんだ」
「分かりましたよ、千雨」
「うふぅ、んぁ。もっと……」
秘所の結合部に負けないぐらい唇同士で水音を立ててねぶりあう。
さらに強欲に呼吸をする鼻からは、汗ばんだ互いの体臭を吸い込み心をたぎらせる。
千雨は下腹の切なさで膣を締め上げ、ムドは膨張を続ける一物を突きたてた。
男と女、お互いに足りないものを文字通り埋めあい、高めあっていった。
「ふぁっ、イク……ムド、私。イク、ぁっぅぁっ」
「千雨、私も。一回しかできない分、たっぷり出しますから」
「出してくれ、私の中に。それで守って、ぁっ。んぅぁっ、ぁゃぁ……私を守ってよムド。ぁぅ、ぁっぁっイ、イクぅんぁっ!」
「はぅ、ぁぐっ!」
快楽という名の電流がお互いの結合部を中心に、体を貫いていった。
その電流に促がされるままムドは、千雨の中で下半身を爆発させた。
子宮口に密着させた亀頭、その鈴口から精液をほとばしらさせ流し込んでいく。
どろりと流し込むだけでは足らず、竿が届かない子宮の中を精液で打ち付ける。
「ぁっ……んっ、出てる。ムドが一杯、まだ。凄い」
「姉さんに処理してもらわないと、赤ちゃんできちゃいますね」
「ば、馬鹿野郎。あの事は忘れろ、ちょっとヤンデレ入ってた、ぁん」
最高潮が過ぎ、少し余裕が生まれての言葉に千雨が蕩けた瞳で否定する。
さすがに今思い出すと、子供が欲しいと言った事が恥ずかしいらしい。
それでも体は正直なものでその為にもと、ムドの一物から精液を搾り取ろうとしていた。
あの時の事は言葉では否定しても、体は新しい命をほしがっている。
その証拠にキュッキュと膣の中が締まり、さらなる射精を促がしてきていた。
お互いそれが直接分かってしまい、再びキスをしながら求め合った。
「んぁぅ、やっぱり……欲しい。今じゃなくて良い。何時か、お前の子供を生みたい」
「もっと私が大きくなったら。んっ、生んでください。愛の結晶、作りましょう」
「ンッーーーー!」
生んでくれと言われながら子宮を小突かれ、千雨がさらに大きく体を震わせて果てる。
「観客の皆様、そろそろお時間になります。引き続き観戦をご希望される方はお急ぎください。なお、選手の皆様も急ぎ控え席へとお願いします」
だが残念な事に、場内アナウンスが聞こえてきてしまった。
一回だけとはいえ、良く間に合ったといわざるを得ない事であろう。
行かないでと締まる千雨の秘所から一物を引き抜いたムドは、千雨を床の上に立てさせた。
そのまま千雨が座り込んでしまった事には少し驚いたが、トランクスと袴を履きなおそうとする。
「待てよ、ムド。そのままじゃ気持ち悪いだろ。私が綺麗にしてやるかよ」
そう呟いた千雨は、落ちていたスカーフを叩き汚れを払った。
一度だけでは全く硬さを失わない一物に触れ、まずは亀頭に口をつけて残りの精液を吸いだした。
今のうちに出しておけよと袋も転がし、びゅっびゅと小さく射精を促がす。
それら全てを口で受け止め飲み下してから、拾ったスカーフで一物を拭き始めた。
さらさらの布触りに、最後の一滴まで搾り取られていく。
「千雨、それ借り物なんじゃないですか?」
「明日菜達はそうだろうけど、これは私の自前だ。以前はこういう需要があったからな」
「そう言えば……あのブログ、まだやってるんですか?」
「妬いてくれるのか、正直嬉しいな。とっくに止めちまったから安心しろ。知らない男のずりネタになってるって思ったら、気持ち悪くなってさ。ネット上も他人のローカルデータも力の王笏で可能な限り破壊してやった」
ムドはあまりそう言う面に詳しくはないので、説明はしなかったが。
ネットアイドルちうに反感を持った架空の人間を仕立て上げ、ウイルスをばらまいたのだ。
これでちうの画像を保存しようとしたファンのハードディスクはおじゃん。
ちうもそれがショックで活動停止という、なかなかそれっぽいシナリオである。
ただ凝ったウイルスを使いすぎて、逆にネットアイドルちうの名は各所に広まってしまった。
恐怖のウイルスアイドルちうという、良く分からない名と共に。
そこは都市伝説のように尾びれ背びれがついて、原型もなくなるだろうと諦めることにする。
大事なのは、後悔の二文字もなくすっぱりと止められた事だ。
「今の私はムドの女だ。過去のデータだろうと、他の男にはやらねえよ。私が股を開くのは、生涯お前だけだ。ほら、綺麗になった」
「こんな時じゃなければ、押し倒してでも続きをしたんですけど」
「かまわねえよ。続きは夜にでも、それまでまたな」
精液と愛液をふき取り、千雨は最後に小さく一物にお別れのキスをする。
そんな千雨の頭を撫でてから、ムドは急いでトランクスと袴を履きなおした。
名残惜しそうに見上げていた千雨にキスをして、手を繋ぎながら武道会会場へと向かった。
少々遅刻をして現れたムドであったが、特に罰則等は与えられはしなかった。
むしろ良く遅れてくれたと、一部観客からは声援を受けた程だ。
観客席の混雑振りは午前中の比ではなく、急遽特別席が設けられる程である。
それだけトイレ休憩等で席を離れた観客が戻るまで時間が掛かったらしい。
「ムド、ネギにはさっきの事を伝えておいたから。気にせず頑張りなさい。といっても、月詠が相手だから、心配はしてないけど」
「くーふぇにも伝えといたよ。ムド君、頑張って」
「くっ……あの馬鹿は見つからなかったが、多分大丈夫だ。アレでも一応は」
「呼びましたか?」
能舞台へと向かう途中、選手控え席からのアーニャや亜子の声に応え手を振る。
エヴァンジェリンはすまなそうにそう言ったが、直後にその目の前にクウネルが現れていた。
その笑みからわざと逃げ回っていたのではと疑惑が浮かびあがった。
エヴァンジェリンに飛び掛れ首を絞められても笑っている様から、事実その通りなのかもしれない。
「では第二回戦、第一試合を始めさせていただきます」
暴れるエヴァンジェリンを皆で押さえ、なんだか楽しそうな控え席であった。
だが立ち止まりはせず和美のアナウンスを耳にしながら、能舞台上へと上る。
そこで待っていた月詠は、修学旅行で初めて会った時と同じ白の西洋ドレス姿であった。
手にはやや短めの二振りの木刀が握られていた。
「ふふ、実はウチも結構楽しみにしてたんですえ。ムドはんのお兄はんの気持ち分かりますえ。ムドはんなら、きっと素敵な殺し合いができましたえ」
そう呟き微笑んだ月詠は、少し発情しているようであった。
言葉の一つ一つを発するたびに漏れる吐息が熱い。
クスクスと木刀を握る手で隠す口元は妖しく、頬には軽く朱がさしていた。
「でもそうだったら、私は月詠を従者にしてませんでしたよ。単純に力で殴り倒して、はい終わり。私は月詠と愛し合えないのは嫌ですよ」
「その場合は、きっとウチが惚れ込んで付きまといましたえ。それで最後には押し倒されておめこされて、きっとムドはんの隣におりましたえ。そのお命を狙いながら」
「色々な意味で、危ない関係ですね」
「それはそれで、悪くない関係ですえ。さあ、ムドはんお手合わせお願いします」
何か先程から、月詠の口ぶりに嫌な予感がしてならなかった。
「第二回戦、第一試合。月詠選手対ムド選手、ファイト!」
その予感は、和美の試合開始の宣言と共に現実のものとなった。
数メートル先にいた月詠の姿が消え、風が一瞬にしてムドの脇を通り抜けていく。
確認をしている暇はなく、ただ本能に導かれるまま足を運び半回転。
金剛手甲をはめた左腕を掲げ、木刀の一撃を受け止めた。
防具があるとはいえ衝撃は殺しきれず、骨の髄に至るまで痺れと痛みが駆け上がる。
「うふふ」
とても嬉しそうな月詠の微笑む声、その顔を確認するには至らなかった。
「ざんがんけーん」
暢気な声にそぐわない身の毛のよだつ恐怖が襲い、飛んだ。
どちらへ、より安全な方角さえ確認する暇すらなくとにかく飛んだ。
能舞台の板張りに手をつき、先程斬撃を受け止めた腕が痺れ、やや体勢を崩しながら。
ごろりと肩から一回転して、立ち上がる。
慌てて振り返り先程まで自分がいた場所を見ると、舞台の床がえぐれてしまっていた。
「あーん、欠陥工事ですえ。ウチこんな怪力違いますえ」
「凄い、月詠選手の一撃が能舞台上を破壊してしまった。欠陥工事か彼女の力か、これは危険だ!」
くねくねと可愛い子ぶる月詠を睨みつけながらも、プロ根性で和美が実況を続けていた。
そう素人目に見ても月詠が本気で打ち込んできたのは明らか。
もっとも、本気の本気で殺す気ならば、転がったムドの背後に回りこんでお終いだ。
「こらぁ、月詠貴様何をしている。さっさと負もが!」
八百長をほのめかす発言はまずいと、憤ったエヴァンジェリンの口をネカネが後ろからふさいでいた。
つまりは、素人目ではなくとも、打ち込みそのものは本気であったと映ったらしい。
ぶわりと全身に脂汗が浮かび、千雨との性交で温まっていた体が冷えていく。
身の危険を感じて魔力も少なからず生成されて、熱が上がり視界がぼやけていった。
「ムドはん、ぼやっとしとると危ないですえ。斬空閃・さーん」
「くっ」
兎に角、焦り混乱している暇はなかった。
見えない上に、飛ぶ斬撃が月詠から放たれる直前に身構え、備える。
肌で感じた直撃コースは十近い斬撃のうち三つ。
視界がぼやけていたおかげで何故か逆に、視界以外の感覚が鋭敏となっていた。
殆どはムドを直撃せずに能舞台の板張りの床を小さくえぐり破壊していった。
直撃分の内、半歩脇にそれて一つは道着の裾を掠めて外れ、頭一つ分屈んだところで頭上をまた一つ通り過ぎる。
最後に真正面、もう動いている暇はないと金剛手甲をした両腕を差し出した。
形のない斬撃を白羽取り、押されるも足元を踏ん張ってなんとか踏みとどまった。
「こっちですえ、ムドはん」
聞こえたのは真後ろからの月詠の声で合った。
やはり必要以上に弾道をばらまいたのは、視界を防ぐ為か。
そもそも視界が半分以上使えなかったムドには、効果があったとはいえない。
振り返る前に、両手で受け止めた斬撃を背後に放り投げた。
「ひゃっ」
首を竦めたような声の後で、振り返った。
実際首を竦め体勢をやや崩しかけた月詠の背後、観客席の屋根が吹き飛んでいた。
そのまま木刀を振りかぶった直後の腕を捕まえ、腕を捻るままに押し倒そうとする。
これ以上暴れん坊が暴れないように押し倒してテンカウントを狙う。
だが月詠も押さえられていない手の木刀を逆手に持ち、背中越しにムドの後頭部を突いて来る。
見えてはいなかったが、鋭敏な感覚がそれを告げてくれていた。
「くそ!」
月詠を押さえ込む事は諦め、前に飛んで逃げ出した。
後頭部への突きは免れたものの、じわじわと過剰魔力がムドの身を脅かし始めている。
動悸が激しくなり、ますます熱が上がり数メートル先の月詠の顔さえ見えにくくなった。
その月詠は余裕の体さばきで、うつ伏せに倒された状態から跳ね上がっていた。
「素晴らしい攻防です。寝技に持ち込もうとしたムド選手の背後から諦めという言葉を知らない一突きが、逆境を見事に跳ね返しました」
まだまだ平等に実況を務める和美だが、その声は少しささくれ立っているようにも聞こえた。
「ムドはん、ウチがなんでこんな事をしだしたのか。分かりますか?」
「先程、千雨に一発したので過剰魔力を生み出させて準決勝前に一発やりたかったですか?」
「んー、それもありますえ。けれど、女の子はもう少し複雑ですえ。いつも策士のように一つ一つの行動に色々な意味がありますえ」
今度はムドに分かるようにスピードを押さえ踏み込み、月詠が木刀を袈裟懸けに振り下ろしてきた。
半歩下がり、背面からぐるりと円運動で斬撃をかわすと同時に肘で後頭部を狙う。
頭をさげて肘をやり過ごした月詠が、振り下ろした木刀の柄頭をムドの顎先に向ける。
ムドが顎を引いて避けると直ぐに、手首を返して唐竹割り。
直ぐにもう一方の木刀を横薙ぎにと、息をつく間もないがまるで異なる武道で演舞をしているようだ。
演目こそないが、先程までとは違いとても動きやすかった。
「ムドはん、ウチのさっきの言葉は本心ですえ。ムドはんと一度で良いから本気で殺りあってみたかったんです。ウチ、殺しあうのが大好きで。それが愛しい人ならなおさら」
「普通に愛し合うだけでは、いけませんか? 足りないというのであれば、今以上に貴方を愛して見せます」
「それはそれで魅力的ですけど、やっぱりウチ殺しあう事でしか本当に愛せませんえ。だからムドはんがお兄はんとだけ本気を出すのが悔しゅうて」
「月詠も、一度で良いから私と戦ってみたかったんですね」
返答は微笑みかけられたこちらが嬉しくなるような笑顔であった。
「本当、運命は残酷な事をしはります。身体強化一つできひんのに、ウチの斬激を避けたり受け止めたり。健康なムドはんと一度で良いから戦ってみたかったですえ」
パンっと腕を跳ね上げられ、木刀の切っ先で軽く胸を突かれた。
月詠の最後の我が侭、尻餅をついたムドに切っ先を突きつけそこで止まる。
それを受けてムドもまた、僕との切っ先を手で払い、ハンドスプリングで起き上がった。
既に月詠の正中線上はがら空きで、膝を曲げて着地した反動と共に踏み込んだ。
一回戦第一試合の決定打を彷彿とさせるような掌打を放つ。
ドンッと音が鳴り響き、衝撃に月詠の西洋ドレスの裾が震え一部布が裂け、糸が解れる。
「ええ打ち込み、これでウチの負けですえ」
「月詠選手ダウーン、ムド選手へ王手を決めたかに思えましたが大逆転が起こりました。カウントは入ります」
木刀を手放し、仰向けに倒れこんだ月詠を見て和美がカウントに入った。
「月詠、貴方が望むなら」
「ええんよ、ムドはん無理せんでも。元々、ウチとムドはんは間逆の性質ですえ。争いを求めるウチと、争いを遠ざけるムドはん。もしも……もしもウチがふらりと居なくなっても」
「追いかけますよ。地の果てまで追いかけて、二度と馬鹿な事をしないように犯しつくします。バトルジャンキーではなく、私とのセックスジャンキーになるまで」
「ふふ、ウチのおめこがばがばになってしまいますえ。でもその言葉、嬉しいですえ。ウチも安心して今のままでいられますえ。そうそう」
和美のカウントが五を切ったところで思い出したように、月詠が呟いた。
「ムドはん、まだ頭の中の動きと実際の動きにズレがありますえ。精神世界でのみ、修行した弊害ですえ。次の準決勝でエヴァはんに鍛え直して貰うとええですえ?」
「え、そうだったんですか? 後でお願いしてみます。月詠のフォローをした後で」
「皆はん、怒っとらへんとええですけど。ウチ、ムドはんと同じぐらい皆さんも好きですえ。ムドはんに処女を捧げた仲ですし」
そう月詠が呟き皆を見るように首を回した。
怒り心頭のエヴァンジェリンに、ハラハラと行く末を見守っているアーニャ達。
吸血鬼から半妖に人間、歳もバラバラで今さらそこに人斬りが混ざったところで違和感はない。
ムドを含め、彼女らに危険が迫れば人斬りの本能に抗ってでも助けるだろう。
そんな人が意外に増えたと、月詠は自分の変化を少し不思議そうに思いながら微笑んでいた。
「テン、第二回戦第一試合はムド選手の勝利!」
ムドの手を掲げた和美が勝利者宣言を行った。
そのムドは観客の声に応えて手を振りながら、倒れていた月詠へも手を伸ばす。
金剛手甲のおかげとはいえ、力強く月詠を立たせてはその腰を抱き寄せた。
-後書き-
ども、えなりんです。
正妻アーニャ(笑)
今回はどちらかというと月詠がヒロインですね。
なにメロドラマしてるんでしょ、この二人。
ただ能天気そうに見えて、月詠も色々悩んでたんです。
性質の違いから身を引こうとするって、乙女してますよ。
さて、次回は水曜です。
武道会編もあとわずかです。