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No.25212の一覧
[0] 【完結】ろくでなし子供先生ズ(ネギまでオリ主)[えなりん](2011/08/17 21:17)
[1] 第二話 打ち込まれる罪悪と言う名の楔[えなりん](2011/01/01 19:59)
[2] 第三話 脆くも小さい英雄を継ぐ者の誓い[えなりん](2011/01/05 21:53)
[3] 第四話 英雄を継ぐ者の従者、候補達?[えなりん](2011/01/08 19:38)
[4] 第五話 ムド先生の新しい生活[えなりん](2011/01/12 19:27)
[5] 第六話 第一の従者、ネカネ・スプリングフィールド[えなりん](2011/01/15 19:52)
[6] 第七話 ネギ先生の新しい生活[えなりん](2011/01/22 21:30)
[7] 第八話 強者の理論と弱者の理論[えなりん](2011/01/22 19:25)
[8] 第九話 闇の福音による悪への囁き[えなりん](2011/01/26 19:44)
[9] 第十話 勝手な想像が弱者を殺す[えなりん](2011/01/29 20:15)
[10] 第十一話 私は生きて幸せになりたい[えなりん](2011/02/05 20:25)
[11] 第十二話 棚から転がり落ちてきた従者[えなりん](2011/02/09 20:24)
[12] 第十三話 他人の思惑を乗り越えて[えなりん](2011/02/12 19:47)
[13] 第十四話 気の抜けない春休み、背後に忍び寄る影[えなりん](2011/02/12 19:34)
[14] 第十五話 胸に抱いた復讐心の行方[えなりん](2011/02/16 20:04)
[15] 第十六話 好きな女に守ってやるとさえ言えない[えなりん](2011/02/23 20:07)
[16] 第十七話 復讐の爪痕[えなりん](2011/02/23 19:56)
[17] 第十八話 刻まれる傷跡と消える傷跡[えなりん](2011/02/26 19:44)
[18] 第十九話 ネギパ対ムドパ[えなりん](2011/03/02 21:52)
[19] 第二十話 従者の昼の務めと夜のお勤め[えなりん](2011/03/05 19:58)
[20] 第二十一話 闇の福音、復活祭開始[えなりん](2011/03/09 22:15)
[21] 第二十二話 ナギのアンチョコ[えなりん](2011/03/13 19:17)
[22] 第二十三話 満月が訪れる前に[えなりん](2011/03/16 21:17)
[23] 第二十四話 ネギがアンチョコより得た答え[えなりん](2011/03/19 19:39)
[24] 第二十五話 最強の従者の代替わり[えなりん](2011/03/23 22:31)
[25] 第二十六話 事情の異なるムドの従者[えなりん](2011/03/26 21:46)
[26] 第二十七話 いざ、京都へ[えなりん](2011/03/30 20:22)
[27] 第二十八話 女難の相[えなりん](2011/04/02 20:09)
[28] 第二十九話 大切なのは親友か主か[えなりん](2011/04/06 20:49)
[29] 第三十話 夜の様々な出会い[えなりん](2011/04/09 20:31)
[30] 第三十一話 友達だから、本気で心配する[えなりん](2011/04/16 21:22)
[31] 第三十二話 エージェント朝倉[えなりん](2011/04/16 21:17)
[32] 第三十三話 ネギの従者追加作戦[えなりん](2011/04/20 21:25)
[33] 第三十四話 初めての友達の裏切り[えなりん](2011/04/23 20:25)
[34] 第三十五話 友達の境遇[えなりん](2011/04/27 20:14)
[35] 第三十六話 復活、リョウメンスクナノカミ[えなりん](2011/04/30 20:46)
[36] 第三十七話 愛を呟き広げる白い翼[えなりん](2011/05/04 19:14)
[37] 第三十八話 修学旅行最終日[えなりん](2011/05/07 19:54)
[38] 第三十九話 アーニャの気持ち[えなりん](2011/05/11 20:15)
[39] 第四十話 友達以上恋人未満[えなりん](2011/05/14 19:46)
[40] 第四十一話 ネギの気持ち、ムドの気持ち[えなりん](2011/05/18 20:39)
[41] 第四十二話 契約解除、気持ちが切れた日[えなりん](2011/05/25 20:47)
[42] 第四十三話 麻帆良に忍び寄る悪魔の影[えなりん](2011/05/28 20:14)
[43] 第四十四話 男の兄弟だから[えなりん](2011/05/29 22:05)
[44] 第四十五話 戦力外従者[えなりん](2011/06/01 20:09)
[45] 第四十六話 京都以来の再会[えなりん](2011/06/08 21:37)
[46] 第四十七話 学園祭間近の予約者たち[えなりん](2011/06/08 20:55)
[47] 第四十八話 麻帆良学園での最初の従者[えなりん](2011/06/11 20:18)
[48] 第四十九話 修復不能な兄弟の亀裂[えなりん](2011/06/15 21:04)
[49] 第五十話 アーニャとの大切な約束[えなりん](2011/06/18 19:24)
[50] 第五十一話 麻帆良祭初日[えなりん](2011/06/26 00:02)
[51] 第五十二話 ネギ対ムド、前哨戦[えなりん](2011/06/26 00:03)
[52] 第五十三話 仲良し四人組[えなりん](2011/07/02 21:07)
[53] 第五十四話 麻帆良武道会開始[えなりん](2011/07/06 21:18)
[54] 第五十五話 この体に生まれた意味[えなりん](2011/07/06 21:04)
[55] 第五十六話 フェイトの計画の妨げ[えなりん](2011/07/09 20:02)
[56] 第五十七話 師弟対決[えなりん](2011/07/13 22:12)
[57] 第五十八話 心ではなく理性からの決別[えなりん](2011/07/16 20:16)
[58] 第五十九話 続いて欲しいこんな時間[えなりん](2011/07/20 21:50)
[59] 第六十話 超軍団対ネギパ対完全なる世界[えなりん](2011/07/23 19:41)
[60] 第六十一話 スプリングフィールド家、引く一[えなりん](2011/07/27 20:00)
[61] 第六十二話 麻帆良祭の結末[えなりん](2011/07/30 20:18)
[62] 第六十三話 一方その頃、何時もの彼ら[えなりん](2011/08/03 20:28)
[63] 第六十四話 契約解除、ネギの覚悟[えなりん](2011/08/06 19:52)
[64] 第六十五話 遅れてきたヒーローユニット[えなりん](2011/08/10 20:04)
[65] 第六十六話 状況はより過酷な現実へ[えなりん](2011/08/13 19:39)
[66] 第六十七話 全てが終わった後で[えなりん](2011/08/17 20:16)
[67] 最終話その後(箇条書き)[えなりん](2011/08/17 20:18)
[68] 全体を通しての後書き[えなりん](2011/08/17 20:29)
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[25212] 第五十五話 この体に生まれた意味
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/06 21:04

第五十五話 この体に生まれた意味

 一時、クウネルの登場に心は乱されたものの、乗り越える事はできた。
 まだ完全に安心しきる事は出来ないが、一応はクウネルからも明日菜を託された事になる。
 それでも、三回戦の勝者は明日菜ではなく刹那であった。
 こちらはこちらで、駄目な方に覚醒したような気もしたが、覗き込んだ瞳は普段通り綺麗だ。
 恥ずかしそうに小首をかしげる様子が、猫耳もあいまってとても可愛らしい。
 そうムドは今、刹那の瞳を覗きこんでいた。

「ではムド選手のキス争奪戦、勝者へのキスの贈呈です」

 もはやこれが超の作戦の一環なのか、ただの和美の悪ふざけなのか。
 観客からのキスコールに押され、屈んだ刹那の頬にムドは精一杯背伸びをして唇を押し付けた。

「ムド様、お返しです」

 その言葉通り、刹那からお返しのキスが頬に与えられた
 割れんばかりの歓声に半ば投げやりのムドであったが、それで刹那が笑ってくれるならまあ良しとする。
 明日菜もやれやれと苦笑しており、悪い事ばかりではなかった。
 二人の手を取り能舞台上を去って、選手控え席へと戻っていく。

「そういえば、結局何が凄かったんですか? クウネルさんの幻術でうつ状態になって、見てなかったんですけれど」
「ああ、クウネルさんが教えてくれて……左手に魔力、右手に気。それで」

 途中思い出したようにムドが尋ねると、明日菜が言葉通りに手に力を集める。
 それから両手を胸元であわせるようにし混ぜ合わせた。
 瞬間光が溢れ風が巻き起こり、ムドの目の前で明日菜のスカートがまくれ上がった。
 白のランジェリーにガーターベルト、運動した後で汗ばみ少し透けている。
 気のせいか、何処か甘酸っぱい匂いが漂って来ているようにさえ思えた。

「ギャ」
「確かに凄いものです。無毛の割れ目まではっきりと、ぶっ」
「このエロガキは本当に……」

 当然の事ながら、ムドの頭の上には明日菜から拳骨が落とされた。
 もちろん、光を巻き起こすその効果は打ち消した後でだ。
 そのまま殴られていたら、冗談抜きにして死んでいたかもしれない。

「咸卦法、気と魔力を融合して身の内と外に纏い強大な力を得る高難度技法」
「あれ、魔力と気は相反する力のはずじゃ。前に刹那も体内で魔力と気が相反して爆発しましたよね」
「ですから高難度なんです。才能ある人が何年も掛けて得る技術、確か高畑先生も使えるはずです。アレは痛かったですね」
「何してんのよ、二人共。でもなんで、私が使えるんだろ」

 のんびり歩いて控え席に戻った頃には、クウネルの姿は影も形も見えなかった。
 エヴァンジェリンや月詠、ムドに恨みを買って当分は近付いてこないだろう。

「それでは続きまして第四試合、三D柔術の使い手山下慶一選手対」
「なにソレ?」
「三D柔術?」
「眼鏡いります?」

 今去ってきたばかりの能舞台上からの和美の説明に、それぞれが呟いた。

「ムド、次は私の番だ。しっかり応援しろよ」
「ええ、もちろん。エヴァも頑張ってください。勝ったらご褒美にキスしてあげます」
「思ったんだけど、あんたら毎日それ以上の事をしてんじゃない」
「いえ、それも良いですが和美さんの言う通りアクセントはあった方が良いかと。事実、勝って手に入れたムド様のキスは嬉しかったですし」

 すれ違いざまに放たれたエヴァンジェリンの言葉に、明日菜が突っ込んでいた。
 ただ刹那が本当に目の色を変えていたように、拘るだけのものはあるらしい。
 理解できるような、できないような微妙な面持ちで明日菜はムドの後頭部をデコピンしていた。
 その心境は複雑に入り混じっており、デート一つであたふたした自分が悔しかったり、軽々しくキスを連発するムドに何かイラっとしたり。

「麻帆中囲碁部エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル選手」

 ご褒美の提示を前に、足取りの軽そうなエヴァンジェリンを能舞台上へと見送る。
 対する山下がどうなるかは、やや安否が気遣われてしまうが。
 何度か能舞台上へと振り返りながら選手控え席へと向かうと、月詠の他に待ち人が増えていた。
 選手控え席と銘打っているのに良いのか、アーニャやネカネ達従者であった。

「ちょっとちょっとあんた達、ネカネさんまで」
「明日菜、固い事は言わんといて。変なおじさんが来たとかで、エヴァちゃんが呼んでくれたんよ」
「おじ……まあ、父さんの仲間ならその年代ですけれど」
「ええ、あの人紅き翼のメンバーだったの!?」

 アーニャの驚きの声を筆頭に、観客席には劣るが賑やかに言葉を交わしあう。

「こら、お前達。特にムド、私の試合をちゃんと見ろ!」
「あ、デジャヴです」
「さあ、皆でエヴァちゃんの応援をしましょう」

 先程の試合で明日菜が叫んだように、エヴァンジェリンもまた能舞台上から叫んでいた。
 まだ試合開始前とは言え、目の前で無視された山下が唖然としている。
 だが直ぐに気を取り直した模様で、身構えては心身に気を張り巡らせ始めた。
 三D柔術とは聞き覚えのない武術だが、我流とすればかなりの使い手だろう。
 何しろその我流にて、気を扱えるまでに自身を鍛え上げているのだから。

「それでは第四試合、ファイト!」

 そう和美が試合開始の宣言を叫んだ瞬間、エヴァンジェリンの拳が山下の腹部に深く突き刺さっていた。
 多少気が練られていようと関係なし、あっさりと貫いている。
 冗談のように山下の体がくの字に折れ曲がり、端整な顔が残念になってしまった。
 観客席からは一部そういった意味でも悲鳴があがっていた。
 当然、山下の意識はそれで捻りつぶされ、後は能舞台上に倒れこむだけであった。

「一撃、一撃でダウン!」

 一般人からしたら番狂わせにしか見えない結果に、観客席から歓声が上がる。

「子供のような少女の一撃で山下選手ダウン。この大会、何が起こるか分かりません!」
「はーっはっはっは、どうだムド。最強種たる私にその辺の学生が勝てるわけあるまい」

 あっさり終わりすぎだと和美が引き伸ばす中で、高笑いを行いながらエヴァンジェリンが勝ち誇る。
 だがそう言われたムドは、若干ながら引いていた。
 第三回戦で刹那が明日菜に対し、追い詰めようとした時とはやや状況が異なる。
 山下が気を扱えたとしても、あくまで一般的な常識内での事だ。
 最強種であるエヴァンジェリンが一撃で鎮めたとしても、褒めるに褒められない。
 できればもう少し技術的な点で、上手い試合運びをして欲しかった。
 例えば山下の気の総量と同じ魔力量で戦うといった、ハンデを消した状態などで。

「おい、なんだそのしらけた顔は。勝ったぞ、私が勝ったんだ!」
「えーっと、おめでとうエヴァ」
「すごい、すごい。エヴァ、つおーい」
「あらあら」

 能舞台上でエヴァンジェリンが地団駄を踏もうと、ムドやアーニャからおざなりな反応が返る。
 観客席の盛り上がりとは対照的で、さすがのネカネも苦笑が精一杯だ。
 明日菜達には苛めじゃないのかとこそこそと話される始末。
 これに納得がいかないのは、エヴァンジェリンであった。

「テン、マクダウェル選手勝利!」
「ええい待て、今のカウントは若干早かったぞ。再試合だ、再試合。起きろ、この若造!」
「それでなんでエヴァっちが文句つけるのさ。完全に気絶してるから無理だって。本部、タンカお願いします」
「いや、私は正々堂々とだな。いいから起きろ!」

 ガクガクと気絶中の山下を揺さぶり、鬼畜とムドに呟かれショックを受ける事となった。









 結局、エヴァンジェリンは誰からも理解される事は無かった。
 選手控え席に戻るとすんすんと泣き出してしまい、ムドに頭を撫でられ慰められていた。

「うぐ……私は、ただ。ムドに……格好良い所を見せて、惚れ直してほしぅっ」
「よしよし、格好良かったですよ。それに元々これ以上ない程に私はエヴァに惚れてますから」

 実力は果てしないのだが、こういったところが人生上手く行っていないらしい。
 我が道を行き過ぎて空気が読めなくなったところが敗因か。
 そのエヴァンジェリンを慰めている内に、試合はどんどん進んでいた。
 第五試合であるクウネル対田中もまた、ある意味でショーのようなものであったが。
 工学部で研究中のロボット兵器のビームやらロケットパンチやら。
 それら全てを謎のボディで透過させ、無効化していくクウネル。
 もはや単に能舞台を破壊するだけの行為を前に、遅まきながら動いたクウネルが田中をスクラップに。
 工学部の開発者達の悲鳴が聞こえそうな程に、田中は真四角に押し潰されていた。 
 その悲鳴を前に、フードの下の顔は明らかに微笑んでおり性格の悪さが浮き上がる。
 一時、能舞台の修復の為に麻帆良土木建築研の登場で修復作業が行われた。
 その後の第六試合は大豪院対中村と学生同士の割と高度な戦いであった。
 遠当てという気弾を飛ばす中村と近接格闘の大豪院の距離の取り合い。
 これを制した大豪院が二回戦へと駒を進めていた。
 そして第一回戦は、残り二試合となった。

「お待たせしました。お聞きくださいこの大歓声、本日の大本命」

 和美のアナウンス通り、第四試合までの内容が霞むような歓声であった。
 真の実力はどうあれ、前評判と言う意味では和美の言う通り大本命なのだ。

「前年度ウルティマホラチャンピオン、古菲選手。そして対するはここ龍宮神社の一人娘、龍宮真名選手!」

 観客の声援がどちらに向いているかは、明白である。
 この麻帆良武道会が復活する前までは、ウルティマホラが最大の格闘大会だったのだ。
 つまりは表向き、前年度までは古が麻帆良最強の格闘家だった。
 古が中学生ながら中国武術研究会の部長を務める所以である。
 特に観客席からは、男らしいまたは男臭い連中からだみ声の声援が飛んでいた。
 中国武術のファンなのか、古のファンなのかはまた別にして。

「くーふぇが強いのは知ってたけど、龍宮さんって強いの?」
「あ、龍宮とは私の二年来の仕事仲間で……強いですよ。気を覚える前の古さんなら、確実に勝ちを得ていた事でしょう」
「それって滅茶苦茶強いやんか。凄い試合になりそう」

 明日菜の疑問に、刹那が皆は親しくなかったかと説明した。
 そう言えば真名は刹那のルームメイトだと思い出しつつ、付け足された言葉に驚く。
 その二人は今、能舞台上にて何やら言葉を交わしている。
 詳しい内容は歓声に打ち消されて聞こえないが、楽しそうに笑っていた。
 古は特に強敵を前にした時のように、不敵な笑みにて。

「それでは第七試合、ファイト!」

 和美の開始宣言直後、甲高い何かを弾いた音が歓声を裂いていた。
 ゴッと鈍い音が響き、次に古の足元にチャリンと軽い音が鳴り響く。

「え、五百円玉?」

 和美が視線で追った先に辿りついたのは、古の眉間部分であった。
 気の渦巻きで空気が揺らぎ、五百円玉との衝突のせいか小さく煙さえ上がっている。

「まさか正面から弾き返されるとはな。たいした気の練りようだ」
「真名は私が認めた数少ない強者、開始直後だろうと油断大敵アル」

 またしても不敵に二人は笑みを浮かべあい、嵐の前の静けさをかもしだしていた。
 ただムドの従者とはいえ、アーティファクトを持つ事以外一般人と変わらない和美には理解しきれなかったようだ。
 一体何が起きたのか、助けを求めるように解説席へと視線を飛ばす。

「今のは羅漢銭のようですね」
「羅漢銭とは何でしょうか。解説の豪徳寺さん」

 解説席などというものがあった事は、参加者のムド達でさえ知らない。
 というか、茶々丸が解説をしている事をマスターのエヴァンジェリンでさえ知らなかった。

「平たく言えば、銭形平次の銭投げです」

 それ以外にも妙に詳しい説明を続ける豪徳寺と、一時ムドは目があった。
 言葉なく、ガム食うかと一回戦突破のお祝いを提示される。
 ただ仕事の邪魔をしては悪いので、大丈夫だと手を振って先を促がした。

「何処にでもあるコインをただ投げるだけの技ですが、達人は一息に五打撃つそうですから侮れません。それが頭部に直撃したようですが」
「なるほど、以上解説者席でした」
「ハイ、しかしこれは優勝候補トトカルチョナンバーワンの古菲選手と言えど、苦戦は免れないか。無名の羅漢銭、龍宮選手!」

 さすがに刹那が仕事仲間というだけあって、真名も只者ではなかったようだ。
 ムドが初戦で当たっていたら、脳髄が吹き飛ばされていたかもしれない。
 その真名が本格的に戦闘が始まる前に、和美を能舞台上から下げさせた。
 それ程までに危険な戦いになるのだろう。
 つい先程まですんすんと泣いていたエヴァンジェリンも、涙を止めて見入っていた。

「アーニャ、炎の衣でこっそり和美を守ってあげてください」
「和美ってば全然、修行しないんだから。もう、仕方ないわね」

 能舞台上に観客の視線が集まっている事を良い事に、アーニャが炎の衣を飛ばした。
 池の水の上を滑るように飛び、和美の体の周りを包むように伸びて消える。
 これで緊急時には自動で危険物から守るはずだ。
 それを待っていたわけではないだろうが、和美が安全になると同時に二人が動いた。

「さあ、行くアルよ」
「お互い、遠慮なくな」

 古が飛び出した直後、真名がコートの袖から大量の五百円玉の束を滑らせ取り出した。
 それら全てを手の平で受け止め、親指で弾き羅漢銭として撃ち出していく。
 まるでマシンガンのような攻撃に、外れた羅漢銭が能舞台をえぐり破壊していった。
 和美に羅漢銭を直撃させる間抜けを真名は行わなかったが、能舞台の破片はそうはいかない。
 炎の衣が襲いかかる破片を焼き尽くして、しっかりと和美をガードしていた。

「細かい気配り、嬉しいね。惚れ直しちゃうよ、和美さんは」

 一瞬だけ余所見をした和美は、ムドとアーニャにウィンクで感謝を伝えてきた。

「凄まじい攻撃の嵐、だが古菲選手はこれを弾く弾く。一進一退、いや。やや古菲選手が前進を続けているか!?」

 さすがの古も初撃のように体で止める事はなかった。
 基本は気を纏った腕で直撃コースの五百円玉をそらし、じりじりと距離を埋めていっている。
 いかに羅漢銭と言えど、極度に練りこまれた気の壁の前には無力に近い。
 それに実際のマシンガンとは違い、指で弾いている為、技の使用者の呼吸がそこに現れている。
 羅漢銭の嵐を弾きながら、古はしっかりとそれを把握しタイミングをうかがっていた。

「今アル!」

 豪徳寺は達人は一息に五打と言ったが、真名はその上の七打。
 七枚羅漢銭を撃つごとに、呼吸を整える為にか一瞬その弾幕に隙ができる。
 それを見計らい、古が瞬動術に入ろうとした時、真名が僅かに微笑んだ。

「それがわざとだとしたら?」

 リズムが変わる、まさかの八打目が放たれ古が踏みとどまろうとする。
 だが一度瞬動術に入ったら、止まるどころか方向を変える事すら難しい。
 できたのは全力で気を纏い、自ら羅漢銭の嵐の前に飛び出す事であった。
 顔の正面だけは両腕で庇い、巨大な岩の塊になったつもりで羅漢銭を弾いていく。
 おかげで見事、真名の目論見の上を行き、そこは懐の中であった。

「惜しかったな」
「な、がっ!?」

 拳が届く直前、まさかの背後から後頭部に衝撃を受けてしまった。
 視界がぶれる中で聞いたのは、やはり羅漢銭に使われた五百円玉が落ちる音だ。

「まさかの背後から、これは兆弾か!?」

 ただし能舞台上は木造で真名の羅漢銭を弾き返せるだけの金属はなかったはず。
 真名自身が使っている五百円玉を除いて。
 つまりは、そういう事であった。
 マシンガンのようにばらまいているだけにみせかけ、何箇所か重点的に撃ったのだ。
 能舞台上に反射台を複数作り上げ、そして今、古を背後から撃ち取った。

「なに!?」

 だが一瞬の気の緩み、気を爆発させた直後を狙われたとは言え、古は踏みとどまっていた。
 崩れ落ちそうな体は、能舞台を踏み抜く事で無理やり立たせ呼び出す。

「来たれ、神珍鉄自在棍」

 こちらも同じく能舞台に垂直に突きたて、命じた。
 伸びろと。

「ぐっ!」

 後頭部を撃たれ鈍った体では満足な一撃が撃てないと、アーティファクトに頼り真名を天高く打ち上げた。
 古自身は、本来ならば頼りたくはなかった。
 だがまだ実戦経験という意味で、真名には及ばなかった事を認めたのだ。
 認めた上でそれでも勝ちたいと、古は形振り構わず己の相棒を手にして吼えた。

「斉天大聖の如意坊のコピー、まったく楽しませてくれる」
「真名、今日こそ……勝ってみせるアル!」

 空から撃ち下ろされる羅漢銭を、古は全て神珍鉄自在棍で弾き返していく。
 手に汗握る名勝負を前に、さすがのムドも観客席と同様に手の平の中の汗を握っていた。
 興奮してやや熱も出てきていたが、寧ろもっとと体が熱くなる事を望む程にだ。
 アーニャもまた試合に集中していた為、ネカネの手によりハンカチで汗を拭かれる。
 間逆の位置にある選手控え席からも、今だけはムドの事を忘れてネギが声をあげていた。
 好意があるかは不明だが、従者であり師である古を精一杯声を張り上げ応援している。

「古さん、しっかり。がんばってください!」
「もちろんアル、ネギ坊主の応援があれば私は負けないアル!」
「やれやれ、私も少しばかり愛ある応援が欲しいところだな」

 今度こそ、本当に一進一退。
 真名と古の勝負は、結果から言えば古の勝利で幕を閉じる事になった。
 ズタボロの能舞台上に二人がたたずみ、息を切らせながら向かい合う。
 二人もまた能舞台に負けないぐらい衣装は破れ、血が滲む場所さえある。
 それでもまだ戦おうと真名が次の弾薬である五百円玉を取り出そうとし、気付く。
 そして、潔く手の平を上げて和美へと宣言した。

「朝倉、玉切れだ。ギブアップ……私の負けだ」
「え、玉切れ……なんと龍宮選手、ここでまさかの玉切れ。羅漢銭の唯一の弱点が露呈、古菲選手の勝利です!」

 そう和美が宣言する事で勝者ではなく、名勝負を行った二人を賞賛する歓声があがる。
 だが古は、この終わりに少々納得が行かなかったようだ。
 額から唇に流れた血をペロリと舐め取りながらも、頬を膨らませていた。

「古。分かっているさ。だが、これ以上は麻帆良祭の域を逸脱してしまう。それはお前も本位ではないだろう?」
「む、確かに……お祭りにはそぐわないアル。だから今度は、お祭りの外で、心行くまで戦うアル。勝者からの再戦の申し出、断る事はできないアル」
「そうだな。また、いつかな」
「いつかじゃ、駄目アル!」

 まだまだ元気な古は引き下がる様子を見せなかったが、それもネギが能舞台上に現れる前までであった。

「古さん、素晴らしい試合でした。おめでとうございます。龍宮隊長も格好良かったです」
「ふふ、褒めるなら意中の相手一人に絞る事だよネギ先生。それとも、最初から私の事も狙っているのかな?」
「ネギ坊主、浮気は許さないアル。真名も、ネギ坊主は我が古家の婿ある。手出しするならば、修羅の道に入っても阻止するアル」
「そうか、ならば早々と退散する事にしよう」

 やはり色々な意味で実戦経験は真名が上か、すっかり論点を摩り替えられてしまっている。
 ネギをしっかりと抱きしめた古は、あっさり真名を見送ってしまった。
 本人がそれに気づいたのは、ずっと後の事だが。
 今は真名との真剣勝負以上に大事なネギを見下ろす。

「ネギ坊主、一回戦を突破すれば次は私アル。ちゃんと上って来るアルよ」
「それはどうでしょうか。ついにこの時が、貴方をこの手で懲らしめる時が来ました。この影使い高音、近接戦闘最強モードを出して本気でお相手させていただきます」
「近接戦闘最強……ハイ、僕も精一杯実力を出し切ってぶつかります」
「うっ……と、当然です。本気で来てくれなければ意味がありません」

 ネギの真摯な瞳を受けて、一瞬だが高音が頬を赤らめた。
 古も当然それには気づいており、ますますネギを抱き寄せその胸を顔に当てる。

「あの古さん、あまりその……大きくなってしまいますので」
「おお、すまんアル。こほんっ、ネギ坊主。次の二回戦、楽しみに待っているアル」

 少し恥ずかしそうに、だが力一杯ネギの背中を叩いて古は能舞台を降りていく。
 その言葉もネギは嬉しかったが、チラリと向けた視線は古ではない。
 直ぐ試合が行われる高音でもなく、選手控え席で従者に囲まれているムドであった。
 第一試合を見て、その実力が現在のネギからみても遥か格下なのは分かっている。
 だと言うのにムドは、魔法使いである愛衣を下して二回戦に駒を進めていた。

「僕は、ムドと戦いたい。守るべき相手だった君と」

 ネギが信じている力の概念とは異なる何かをムドは持っていた。
 その考えが生まれたのはヘルマンが現れた時である。
 捕らわれたアーニャを助けにムドが先頭に立ち、悪魔の攻撃でさえかわしてみせた。
 その点に関してはエヴァンジェリンの教えの賜物だろう。
 だがネギや自分の従者を駒に詰め、かすり傷一つなくアーニャを助けて見せた。
 もしもムドが魔法を使えたら、どれだけ強くなっていた事か。
 それだけを思い、高音が待つ能舞台上へと赴く。

「聖ウルスラ女子高等学校二年、高音・D・グッドマン選手。対するは第一試合の勝者であるムド選手の兄、麻帆良女子中学三-Aの担任。ネギ・スプリングフィールド選手!」

 第一回戦最終試合を前に、観客席はさらなる盛り上がりを見せようとしていた。
 高音は一応普通の生徒となっているが、ネギが噂の子供先生であるからだ。
 病弱と名のつくムドでさえ一回戦を突破したのだからと、期待が集まるところである。

「それでは第八試合、ファイト!」
「ふふ……私の真の力を、え!?」

 試合開始直後、何かを喋ろうとした高音の背後に回りこみネギがその背中を強打した。

「きゃんっ!」
「あれ、今なにか高音さんが」

 思い切り不意をつかれた高音は、能舞台上でワンバウンドして池の中に落ちた。
 がぶがぶと溺れる様さえみせず、しんみりと沈んでいく。
 あれ程の歓声が一気に静まり返り、誰かが死んだんじゃねえかと呟く程だ。
 これにはネギもあれだけの大口を前にこれで終わりかと、むしろやり過ぎたと慌てていた。
 直ぐさま高音が沈んでぷくぷくとあわ立つ場所に駆け寄ろうとしたが、その足を止める。
 高音のものでは明らかにない、黒くて太い腕が這い出てきたからだ。

「いきなり何をなさるんですか。まだ私の前置きの途中で、けふ……少し水を」
「高音さんこそ何をこんなところで出してるんですか!」

 黒くて太い腕は高音の影人形を一体に凝縮した巨大な影人形であった。
 びしょ濡れの高音をもう片方の腕に抱えながら、池の中から現れた。

「おおっと、高音選手。なんだかよくわからないものを取り出しました。これは一体!」
「これが操影術、近接戦闘最終奥義。黒衣の夜想ぎょく、えほ……少々お待ちを。鼻にも」
「す、すみません。隙だらけだったものでつい」

 その物言いにカチンと来たのか、高音は咳き込みながらもネギを睨みつけていた。
 どちらが正しいかは置いておいて、戦意はさらに高揚しているらしい。
 影人形の力で池の中から高らかに跳躍し、能舞台上へと戻る。
 それから腕をネギへと伸ばすようにして、背負った影人形に命令した。

「もう許しませんわ。やっておしまいなさい!」

 高音の影人形から、触手のようなものが何本も伸びてネギに襲いかかった。
 さすがに数が多く、速さもそれなりにあるようでネギが飛び退る。
 素早い触手が主な攻撃方法かと思えば、本体の巨大な重量を思わせない速さで高音自身が動いた。
 多少びちゃびちゃと水しぶきはあげていたが、瞬動一歩手前ぐらいの速さでネギの背後に回りこんだ。
 今度は触手ではなく、影人形の太い腕で殴りかかる。

「未熟な貴方を懲らしめるぐらい。正義の何たるかを、お教えしてさしあげます!」
「僕は、最初から正義を信じてるわけじゃない。そんなものは、数ヶ月も前に見限りました!」

 ネギがその細腕で高音の影人形の拳を受け止めた。
 正義を否定するネギの言葉に眉を怒らせ、高音が放ったもう片方の拳でさえも。
 両手が塞がり、足が止まれば何本もある触手にただ撃たれるのを待つだけであった。
 それこそ高音が勝利の笑みを見せたが、ネギはさらにその上をいく。

「う、わあぁぁ!!」

 足が止められたのではなく、自分で止めたのだと腕を支えに高音の影人形を持ち上げた。

「え、嘘!」
「これは凄い、その小さな体の何処にそんな力があるのか!」

 触手に体を打たれるより早く、高音を影人形ごと放り投げた。
 パワーに頼った行動はややネギらしくないが、流石に少し怒ったのだろうか。
 愛衣よりは確実に腕前が上の高音をネギが圧倒していった。
 そんなネギの奮闘を前に、ムドは僅かに唇の端をあげて笑みを浮かべていた。

「ネギが圧倒して、嬉しいの?」
「兄弟ですから、活躍されると嬉しいですよ」

 純粋な疑問をアーニャにぶつけられ、ムドは正直にそう答えていた。
 立派な魔法使いになる手伝いはしないが、応援ぐらいはするとネギには伝えてある。
 全くその通り、ムドは応援だけはいつもしているのだ。

「ただ、兄さんがこうして強くなっていくのを見てるといつも思います。何故、私はこんな体に生まれてしまったのだろうかって」

 ネギの試合を見ていたアーニャ以外の従者達さえ、はっ息を飲むのが聞こえた。
 別にそう呟き、困らせたいわけではないので深くは考えないでと前置きする。

「妬んでるつもりはありません。ただ、私も偶には考えます。もしも魔法が使えたら……兄さんと私はどうなっていたか。だから兄さんが私に拘っても仕方ないと思います」
「何も変わらないわよ、きっと。仲が良いのか悪いのか。見てる方向がてんでばらばらで、偶に喧嘩して。私が迷惑を被ったり、ネカネお姉ちゃんが心配したり。それだけなんじゃない?」
「そうですね。きっと、それでも私はアーニャが大好きだったんでしょう」
「はいはい、そう言いながら一杯女の子に手を出すのも一緒よね」

 今は納得してるから良いけどと、小さくアーニャは零していた。
 納得した上で、明日菜に一人では無理だからとお願いした程であった。
 この暴れんぼうと、軽く座っていたムドの股間部分にアーニャが拳をコツンと当てる。
 ウッと呻いたムドを見て、もうっと一人で憤り腕を引っ張り抱きついた。

「あらあら、大変。アーニャったら、ムドのおちんちんが腫れちゃうわよ。両方の意味で」
「ネカネお姉ちゃん、次は一周回ってムドの試合よ。相手は月詠だけど」
「ほな、前哨戦という事で今からおめこしますえ。今は運動後でむんむん匂い付きの先輩らが相手ですえ? 興奮しますやろ?」
「こら、月詠。今夜です、今夜。大事な試合の前なんですから。緊張感は継続して持たないといけません」

 一応は断りを入れたムドであったが、夜にはするんだと今度はお腹にアーニャの拳を当てられた。









-後書き-
ども、えなりんです。

古菲の試合がたぶん、一番気合が入ってました。
ムドは戦えない、ネギは活躍しても微妙……そんなところです。

題名からして、まさか秘密がって感じですが。
そんな事はありもせず、ムドの体質に深い意味はありません。
もちろん物語の上で、エッチする理由にはなってますが。
変えられないのなら、おりあいつけて生きましょう的な感じです。
ムド、ちょい老け込みすぎか?
そのぶん、早朝と深夜にハッスルしてるので、とんとんです。

次回は千雨と月詠がメインの回です。
前者はエッチで、後者はなんというかヒロインっぽい感じです。
それでは次回は土曜日です。


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