第四十九話 修復不能な兄弟の亀裂
麻帆良祭を翌日に控えた夕方、保健室には相も変わらず淫らな吐息が吹き荒れていた。
病人よりも乱れた性に使われるパイプベッドの上での事であった。
エヴァンジェリンの魔力の糸により、刹那は両腕を頭上で一括りに縛られていた。
制服は愚か、胸のさらしもショーツでさえ剥ぎ取られ、全裸の肢体を上を汗が流れている。
その刹那の正面にて同じく全裸のエヴァンジェリンが舌なめずりをしていた。
首筋に舌を這わせては、徐々に降りていき小さなふくらみの上の突起を口に含んだ。
「コリコリに立っているぞ。いやらしい雌犬が、クラスメイトがあくせく働く中、貴様は何をしている。答えろ」
舌で転がしていた突起を唇ではなく、前歯で強く噛み付いた。
普通ならば苦痛を訴える程の痛みを前に、刹那は身悶え嬌声を上げる。
「はぅっ……刹那は、エヴァ様に縛られムド様におめこを虐められて、悦んでいます」
「だ、そうだ。ムド、悦んでいてはお仕置きにはなるまい」
エヴァンジェリンが語りかけたムドは、刹那の直ぐ後ろにいた。
刹那のお尻を掴んで、素股をしながら秘所とその先のクリトリスを責めていたのだ。
ただエヴァンジェリンの笑みの前にそれもお預けらしい。
秘所から垂れてきていた愛液に濡れた一物を離し、代わりに手を振り上げた。
音が響く程に強く真っ白な刹那のお尻を打ちつけ、紅葉の形の赤を貼り付ける。
「くぅぁっ、ムド様。もっと刹那にお仕置きを、手形が取れないくらいに強く!」
「私の手も結構、痛いんですけどね。コレ」
「ぁっ……駄目、優しくされては。酷い事をしぎぃっ!」
「ん、酷い事をして欲しかったんだろ?」
手形のついたお尻を撫で回すムドの代わりに、エヴァンジェリンが噛み付いた。
赤く充血している刹那のクリトリスにである。
乳首にしたのと同じように、千切れる程に強くだ。
さらには充血したそこに片方の牙を差し込み、ちゅうちゅうと血を吸い上げる。
さすがの刹那も嬌声を上げるどころではなく、悲鳴を上げてばかりであった。
「痛、キィァっ……エヴァ様、痛い。けれどもっと、痛いのが良いです!」
「刹那は本当にマゾですね。私の方が見ていられませんよ」
「申し訳ありません。刹那は、痛いのが大好きなマゾです。ムド様も、お尻を苛めてください!」
その台詞の通り、ムドは刹那のお尻をたたき上げた。
ただし手の平ではなく、一物周りの肌をお尻に叩きつける事でだ。
つまりは、後ろから刹那の膣に挿入して、思い切り突き上げていた。
「あ、馬鹿。もう少し苛めてから」
「もう十分ですよ。刹那が望むからしますけど、私あまりこういう事は好きじゃないです」
「ぁっ、ムド様のモノが私の中に……んぁっ、大きい」
「本当に従者に甘い、先日の明日菜の事もあのままモノにしてしまえば良かったものを。所詮は一緒にいた時間がものを言う。その点で高畑を越えれば、今以上に笑えもしたさ」
あの件は一部始終、和美の渡鴉の人見で見られていた。
ネカネやアーニャには褒められたが、エヴァンジェリンはあの結果に不満らしい。
もっともそれは、高齢であるが故に長い目でモノを見る事ができるからだろうが。
「私は今の明日菜が好きなんです。できるなら、その笑顔は壊さないまま欲しいんです」
「お前、他人の女を寝取る趣味でもあるのか? なら、坊やの従者から一人ぐらい寝取ってみるか?」
「嫌ですよ、そんな後ろから刺されそうな真似。今はまだ弱いとしても、兄さんに狙われるなんてぞっとします」
以前、亜子に誘われまき絵を手篭めにしかけたが、アレはノーカウントと心の中で呟く。
暢気に喋っているようで、二人共しっかり刹那を責め上げている。
ムドは腰を使いながら、エヴァンジェリンの歯型の残る胸に手を這わせていた。
それからエヴァンジェリンは、跪くようにして前から刹那の秘所に舌を這わせている。
ムドと刹那の結合部に舌を伸ばしては、愛液をすすり、時に一物の裏筋にも伸ばす。
もちろん、刹那を吊り下げる魔力の糸を締めたり、釣り方をきつくしたりする事も忘れない。
「痛っ……はんぅ、あぁ。ムド様、そろそろ私イク、んぁっ」
「エヴァの虐めが効いたか、ちょっと早めですね。もう少し待って、もう少し」
「私は何時でも良いぞ。零れたのも含め、全部舐め取ってやる」
宣言をした刹那に待ったを掛けたムドとは違い、エヴァンジェリンは仰向けに寝転がっていた。
刹那の太ももに両手を伸ばして自分を支え、結合部を見上げる形で再び舌を伸ばし始める。
これまでは少ししかエヴァンジェリンの舌が一物に届かなかったが、接触する面が増えた。
おかげで背筋を上る射精の予兆が一気に脳髄へと上りつめていった。
「刹那、イってください。好きなだけ、注いで上げますよ」
「あぁ、ムド様お情けを頂きます。エヴァ様も、私のいやらしいおめこがムド様のお情けを頂く瞬間を。ぁっ、んぅっ……ぁっぁっ、ゃぁ、あぁっ!」
一際大きく刹那が嬌声を上げた瞬間を狙い、ムドも膣の奥の方で射精を行った。
きちんと子宮の中に精液が流れ込むように、幸せが満ちるように。
その証拠に掴んだ刹那のお尻が、ふりふりとさらに多くの幸せを求めていた。
まだ足りないかと、さらに刹那の中に精液を吐き出し全てをムドで染めていく。
いくらか飲みきれずあふれ出した精液も、エヴァンジェリンが残らず舐め取っていった。
「ぁっ、ぁっ……ムド様のお情けが、もう飲みきれません」
「ククク、安心しろ。飲みきれない分は、全部私が貰ってやる。だいたい、お前は一度で体力を使いすぎだ」
魔力の糸が消え、パイプベッドの上に刹那が崩れ落ちた。
真下で口を開いていたエヴァンジェリンに秘所を押し付け、頭と足を逆さ体を重ね合わせる。
肌を桜色に変えてとても満足そうに、情事の余韻に浸りながら微笑んでいた。
ただ重なり合った弾みでより秘所から精液を噴き出し、エヴァンジェリンの口からも溢れてしまった。
その為、エヴァンジェリンが上下入れ替わるように転がり、上から吸い付いた。
流石に膣の中の精液まで吸われた時には抵抗を示したが、基本はされるがままである。
その刹那の顔がある方に移動したムドは、エヴァンジェリンのお尻を鷲掴みにした。
今度は下になった刹那に袋を甘噛みされつつ、次の狙いとして定めた。
「あふ……ムド様のお情けがまだこんなに一杯。エヴァ様を犯そうと」
「刹那、続けて。エヴァ、入れますよ。反論は聞きませんから」
「私に欲情しているのだろう。構わん、好きなだけ犯せ」
そう呟いて振り返ったエヴァンジェリンの顔は、精液で白く汚れている。
赤い舌を伸ばしてそれを舐め取る仕草の前に、理性がキレる直前、保健室の扉が開けられた。
刹那が事前に人払いの符を仕掛けておいたのにも関わらずだ。
術者の気の緩みのせいで失敗したか、そんな不安は入ってきた人物を前に霧散した。
「ああ、ムドはんの濃い精液の匂い……帰って来た気がしますえ。あは、タイミングのええ事で、ウチも混ぜておくれやす」
「月詠、お帰り。人は一杯斬れましたか?」
「二、三人だけですえ。フェイトはん、あれで無用な被害は好まないお人ですから。だから足りない分はムドはんが埋めて貰うとしますえ。文字通り、おちんちんで」
服を脱ぐ手間も惜しんで月詠がベッドの上に上がりこんできた。
匂いに誘われる犬のように鼻をスンスンと鳴らしながら、ムドの一物へと近付いていく。
だが順番的には次はエヴァの為、目と鼻の先で取り上げられる。
自然と刹那の口の中からも袋が遠ざけられてしまっていた。
「あん、ウチのおちんちん。放置プレイは先輩へのお仕置きだけにして欲しいですえ」
「月詠、貴様のせいで私まで……」
「ええい、途中参加の癖に注文が多い。加わりたければ順番を守れ。ムド、背面座位にしろ。月詠に舐めさせながらスルぞ」
「はいはい、分かりました。月詠も、エヴァを気持ちよくさせてあげてください」
ムドがエヴァンジェリンを後ろから抱えて、挿入を行った。
まだまだほぐれず狭い膣内を無理やりこじ開け、精液と刹那の愛液を塗りたくる。
やや苦しそうに身悶えるエヴァンジェリンを振り向かせ、うめき声も封殺してしまう。
無毛の恥部を一物で蹂躙しつつ、ムドはやや後ろに倒れこむ形で結合部を見せ付けた。
これから二人で仲良く舐める番となった刹那と月詠の為に。
「うっ、相変わらず狭い……刹那、月詠頼みますよ」
「エヴァ様、失礼させていただきます。こんな可愛らしい場所に、ムド様のグロテスクなものが。んっ、私がもっと滑りを」
「早く、ウチもこの太いので貫かれたいですえ。エヴァはん、早く早く」
「ぁっふぁ……入って、あぁぅ。月詠、貴様……私を早漏みたいに、ぁっやぁっ」
三人に徹底的に秘所を責められ、エヴァンジェリンの口から艶やかな悲鳴が止まらない。
じゅぶじゅぶと豪快に秘所を責める音が一つに、ぴちゃぴちゃと細かく舐める音が二つ。
一心にエヴァンジェリンを責め立て続けていく。
そんな四人の元へと携帯電話での呼び出しが掛かるのは、エヴァンジェリンが果て、月詠の番が回ってくる直前の事であった。
直前でお預けとなった月詠がごねたせいで、ムド達が一番最後であった。
学園祭前日にも関わらず、世界樹前広場には人の姿は殆ど見えない。
魔法による人払いの結果、そこにいたのは魔法関連の関係者ばかり。
学園長を筆頭に、高畑や瀬流彦、他にも魔法先生や生徒達が集まってムドを待っていた。
そこにはもちろんネギを含め、アーニャやネカネの姿もあった。
「あ、ムド……」
「もう、ムド遅いわよ。皆、待ってたんだから」
「あらあら、こんなに汗をかいて急いできたのね」
だいたい何をしていたのか、察したアーニャは膨れている。
反対にネカネは察しながらも、直ぐにムドにかけよりハンカチで汗を拭いた。
それだけでより一層、ムドも急いでましたとアピールできるからだ。
「改めて、ネギ君達に魔法先生や生徒の紹介はいるまい。特にネギ君は、大暴れだったようだしの」
「すみません、強くならなければいけない理由があるもので」
一先ずムドへのお叱りもなく、学園長が含み笑いをしながらネギを名指しした。
地下図書館の件以降、多くの魔法生徒や時に先生と手合わせしてきた実績がある。
まだ顔を合わせた事がない人もこの場にはいたが、ネギはそれだけ有名であった。
ただそのネギは謝罪の言葉と共に頭を下げながら、何故かムドをちらりと見ていた。
「今日、わざわざ皆に集まってもらったのは他でもない。問題が起きておる。解決の為に諸君の力を貸してもらいたい」
「詳細は僕から説明させてもらうよ」
学園長が皆の視線を集めてから、高畑が一歩進み出た。
まだ正式発表はまだだが、高畑が来年から学園長となる事は皆も薄々感づいている。
さらに一部の者はその問題解決を高畑に任せ、組織運営の練習代にするのかとも気付いていた。
ムドはその上で、その問題とやらがたいした事ではないと睨んだ。
まずは簡単な問題から任せて経験を積ませるのは、常套手段だからである。
「現在、生徒の間でも世界樹伝説というものが流行っていて、実際に耳にした人もいると思う」
「学内発行の新聞でもクラスの皆さんが読んでるのを見ました」
「あー、寮の掲示板でも張り出されてたわね。学園最終日に世界樹の前で告白すると高確率で成功するとか。好きよね、皆そういうの」
「あら、素敵じゃない。私はそういうの好きだわ。お祭り騒ぎの周囲を置いて二人きり、世界樹の前で告白なんて。ロマンチックじゃない」
そんなネカネの言葉に耳をそばだてたのは瀬流彦であった。
「そうなんですか、ネカネさん。いや、それなら僕頑張っちゃおうかな、なんて」
「あら、意中の方がいらっしゃるんですか? 応援してますね、頑張ってください」
「あ、そですか」
瀬流彦はあっさりネカネにかわされて、ガックリと肩を落としてしまった。
ドンマイと男の魔法先生達から肩を叩かれて慰められている。
思い起こしてみれば、修学旅行当初もネカネの前で妙に嬉しそうにはしゃいでいた。
ただし、さすがに瀬流彦が相手では、明日菜に対する高畑のようにムドも嫉妬はできない。
元々ネカネが相手にしていない為、役者不足でもあった。
「おいおい、瀬流彦君勘弁してくれ」
「高畑先生、僕そんなに駄目ですかね?」
「いや、そうじゃなくて。最終日に告白でもされた日には、必ずそれが叶ってしまうからさ。二十二年に一度、そういう年があるんだ」
もはや恥も外聞も捨てて泣いている瀬流彦を冷静にさせつつ、高畑は続けた。
「皆には学祭期間中、特に最終日の日没以降。生徒による世界樹伝説の実行……つまり告白行為を阻止して貰いたい」
「よ、良くある迷信ではなかったのですか?」
「学園の七不思議等、迷信もあれば真実もあるのさ。この樹の正式名称は神木・蟠桃と言ってね、強力な魔力を秘めているんだ」
刹那の疑問にも高畑はよどみなく答えていた。
「二十二年の周期でその魔力は極大に達し、樹の外へとあふれ出し、世界樹を中心とした六箇所の地点に強力な魔力溜まりを形成する」
「最悪です……私、最終日は何処にいても高熱確定です」
「ムドはん、ウチがキッチリ看病しますえ。安心しておくれやす」
すすすと近寄った月詠が、ムドの耳元で一日中しっぽりと囁いた。
先程、寸止めをされたばかりで、折角人を斬ってきたのに発情してしまったらしい。
小さめの胸をムドの腕に押し付けており、アーニャにピシャリと叩かれていた。
「ああ、ネカネ君はその日はムド君の看病で外れてくれて良いから。その代わりと言ってはなんだけど、ムド君には刹那君達を借りてもいいかな?」
「高畑さんからのお願い、ですからね。一度に全員は無理ですが、少しずつ戦力をお貸ししますよ」
「すまないね、何しろ即物的な願いは無効だけど、こと告白に関しては成功率百パーセントらしい。呪いのような代物に生徒を巻き込むわけにはいかないんだ」
正直、あまりムドは興味がなかった。
別に何処で誰がカップルとなろうと、関係ないからだ。
それに仮に告白が成功したとしても、それはそれで良いとも思っていた。
例え直前まで相手が嫌いであったとしても、経過はどうあれ結果的に好きになれば問題ない。
元々色恋なんて理屈ではなく、吊り橋効果なんて言葉さえある。
その吊り橋でさえ、ある意味で魔法のようなものに分類されるのではないだろうか。
(カップルになることがゴールではなく、その後に幸せかどうかだとは思いますが)
その後、幸せであれば世界樹の力だろうと切欠の一つに過ぎない。
亜子のいまはない背中の傷しかり、ムドによる刹那へのレイプしかり。
まあ、高畑や周囲の魔法先生、生徒と波風立てない程度には強力も惜しまないが。
「本当は来年のはずだったんだけど、異常気象の影響で一年早まってしまってね。皆を緊急招集させてもらったのさ」
「で、でも恋人になれちゃうのならいいんじゃないの?」
「ネギ君、それはいけないよ。人の心を永久に操る事は魔法使いの本義にも反するし、告白する生徒にその意識はない。無意識であろうと相手を操ってしまう、それは悲しい事だよ」
「あう……言われてみれば、そうかも」
ネギの子供らしい言葉も一蹴される。
「先程、ネギ君やアーニャ君も言った通り情報媒体や噂を通じてかなりこの話は生徒達の間に広まっている」
「麻帆良スポーツの記事やネットの書き込み等により、現在学園生徒への噂の浸透率は男子三十四パーセント、女子七十九パーセント。本気で信じている人は少ないと思いますが」
「占いや迷信が好きな女子生徒を中心に実行したがる人は少なくないと思われますね」
「一番危険なのは最終日だけど、今の段階でも影響は出始めている。生徒にも、君達にも折角の麻帆良祭で悪いけど、この六箇所で告白が起きないよう見張って欲しい」
刀子と裕奈の父でもある明石教授のレポート報告を受けて、改めて高畑が命を下した。
「ムドはん、あの人も神鳴流のお強いお方ですえ。ちょっと年増ですけれど、斬ってええです?」
「こら、月詠。斬るかどうか以前に、そんな事を」
「えー、またお預け……」
ウズウズと内股で太ももを擦り合わせる月詠を押さえ、ギロリと睨んできた刀子に苦笑いで返した。
そんな一幕もありはしたが、異論は特に上がる事はなかった。
そしてつつがなく緊急招集が終わろうとしたその時、とある魔法生徒がふいに空を見上げた。
佐倉愛衣、麻帆良女子中学一年の魔法生徒である。
一斉に皆が空を見上げた先にいたのは、頭頂部にプロペラをつけた偵察機械であった。
その存在を察するや否や、顎鬚を蓄えサングラスをした魔法先生が腕をすっと持ち上げた。
声もなく素早く指を鳴らした瞬間、風が刃となって撃ち出されて行った。
「無詠唱、早い!」
偵察機よりもそちらにネギが目を奪われている間に、偵察機は真っ二つに切り裂かれていた。
「魔法の力は感じなかった……機械か」
「侵入者、スパイですえ。ならウチが、ぱっと行って斬ってきますえ!」
「あ、こら月詠。待て、お座り!」
ビクリと体を震わせ、半泣き状態で月詠が振り返っていた。
お預けに次ぐお預けにより、随分と溜まっているらしい。
抱いて欲しい内情を知らないムド以外の男性人もその涙に一瞬、ドキリとしていた。
おかげで、命令されたわけでも無いのに本当にお座りしてしまった刹那の姿は誰にも見咎められなかった。
周囲の視線は、涙ながらにぐるぐるパンチをムドに行う月詠に釘付けである。
「もう、ムドはんのお馬鹿。侵入者ですえ、スパイですえ。斬っても、ええやないですか」
「神多羅木先生の言葉を聞いてました? 完全機械制御なら、生徒の確率が高いです。生徒を斬っちゃ駄目です。斬って良いのは、私を害する人だけです」
「高畑先生、私が追います」
「うん、一応お願いするよ。相手を確認する程度で良いから、手荒な真似は控えて」
愛衣の主である高音・D・グッドマンが名乗りを上げ、追っ手となった。
その一方で、高畑は緊急招集の纏めに入る。
「警戒のシフトは至急作成して通達するよ。先程の事もある。生徒のバイタリティは侮れないから、くれぐれも油断はしないように。以上解散」
最後まで学園長の役割を高畑に譲ったまま、解散となった。
直ぐに人払いの効果は消され、世界樹前の広場には人が集まりはじめた。
さて帰って続きかと発情中の月詠の手綱を締めて、帰ろうとしたムドの前に一人の女性が立ちふさがる。
魔法先生の一人でもある神鳴流剣士の葛葉刀子であった。
「ムド先生、少しよろしいですか? そちらの神鳴流剣士、月詠の事ですが。最近、この辺りをうろついてるとはお聞きしていましたが、ムド先生の従者なのですか?」
「ええ、修学旅行の件は聞いていると思いますが。敵方で働いているところをかどわかしました。人斬りの衝動が強いのが悩みの種ですが」
「ちゃんと、ムドはんのいう事を聞いとりますえ。それよりも、はよう帰って続き」
「まあ、この通り人斬り衝動に恋愛感情を織り交ぜて制御しているのが実体です。他に何か?」
同じ神鳴流剣士として、月詠の言動の一切を気に掛けていたのだろう。
隠すと為にはならなさそうなので、恋愛感情までもをあっさりばらした。
「そうですか、ですがそれにも限界はあります。刹那、麻帆良祭が終わったら彼女を剣道部に。私が直々に性根を叩きなおしてあげます」
「え、ですがムド様の断りもなしに」
「へえ、私の言葉が聞けないと?」
「いややわ、この人。うら若き乙女の先輩やウチに嫉妬しとるんやわ。お肌も荒れ気味やし、ちゃんと彼氏におめこしてもらっとるんですかぁ?」
ビキビキと音が鳴ったかと思う程に、強く刀子の額に血管が浮き出てきた。
瞳も人斬り衝動に飲まれた月詠の様に、黒目と白目が反転したかのようになる。
正直なところ、さすがのムドもびびる程であり、とっさに月詠のお尻を抓り上げた。
だが叱ったつもりが、あんっと月詠が艶のある声を出してお尻を振ったため逆効果だった。
「と、刀子さん落ち着いてください。そんなに剣気を発しては月詠が喜ぶだけです」
「ぞくぞくして濡れてしまいますえ。ウチは構いませんよ、巻き添えで何人死ぬか。楽しみですえ」
「くっ……刹那、必ず連れてきなさい。ムド先生も、神鳴流剣士が闇に飲まれた時の恐ろしさは、もう少しご理解ください」
最後に思い切り月詠を睨んでから、刀子は何処かへと帰って行った。
その後ろ姿が見えなくなると同時に、ムドは深く溜息をついた。
ネカネやアーニャ、その他に愛しい少女達に囲まれて気付かなかったが、女性は案外怖いものらしい。
「ムド、大丈夫。凄い汗だよ」
「死ぬかと思いました。怖、大人の女性は怖いです」
「私も大人なんだけどなあ」
「あ、姉さんはもちろん別で」
ネギに肩を貸してもらい、ネカネにフォローしつつそう呟いた。
「でも月詠が悪いわよ、アンタわざと怒らせてるでしょ」
「だって、寸止めお預けの連続でウチ、もう我慢ならしまへん。先輩はたんと苛められてすっきりしたばかりやからええですけど」
「うるさい、黙れ。よりにもよって刀子さんに喧嘩を売って。あの人は私の数段上の腕前でお前とて簡単に敵う相手ではない!」
「あーん、アーニャはんや先輩が怒る。ムドはん、助けておくれやす」
アーニャや刹那のお叱りも何処吹く風、月詠はマイペースであった。
むしろ叱られてこれ幸いにと、ムドに背中から抱きついて胸を押し付けていた。
こんな姿を見る限りは、確かに刀子の心配も分からなくはない。
一応ムドは月詠を制御しているつもりではあるが、何時ばっさりされる事か。
もっと重点的に愛を注ぎ、月詠の心をムドの精液で染め上げておく必要がありそうだ。
「後でどろどろの精液漬けにしてあげますから、もう少しの辛抱です」
「先輩も一緒ですえ。少し離れていたせいで、お二人の匂いが体から薄れてしまって、ウチ寂しくて一人で何度も慰めてたんですえ」
耳打ちされた言葉に、もう少しと返して帰途につく。
既に高畑を含め、魔法先生や生徒の姿はムド達以外には誰もいなくなっていた。
世界樹前広場は、賑やかな喧騒を完全に取り戻している。
「告白阻止の警備か。こっちに来て、初めてそれらしい仕事だけど……告白しようとした人の勇気を思うと憂鬱よね」
「六箇所以外なら構わないんだから、そこは腕の見せどころよ。上手くカップルを移動させたり。単純に誰かを倒したりするより、機転が必要よ」
「機転かぁ……あれ、警備あれ!?」
ネカネの言葉を聞いてネギが何やら慌てたように鞄から名簿を取り出した。
開いた名簿を見て更に汗を流し始め、それが気にならないはずが無い。
皆でネギの後ろから名簿を覗き込むと、予定がぎっしりと詰め込まれていた。
ムドの従者の分を引いても、二十人以上の予定に三日で付き合わなければならない計算だ。
「あらあら、ネギってばモテモテね。最終日には、ふふ。木乃香ちゃんとデート?」
「あ、そうだムド。最終日の予定、空いてるなら私と」
「もちろん、その為に空けてありますよ」
ムドもネギ程ではないが、従者の数だけ時間はとってある。
その台詞にアーニャが喜びをかみ締めようとした瞬間、背後で大きな物音がして屋台の売り物である果物が散らばり飛んで来た。
何事かと振り返ってみれば、フードを目深に被った誰かが屋台の売り物棚に突っ込んでいたのだ。
「だ、大丈夫ですか!? あれ、貴方は」
「ネ、ネギ坊主、丁度良かった。助けてくれないか。私、怪しい奴らに追われてるネ」
フードが剥がれたそこにあったのは、ネギの受け持ちクラスの生徒の一人。
超鈴音その人であった。
口ぶりから察するに、その怪しい奴らに追われ吹き飛ばされてきたという事か。
本当にそれが単純に怪しい奴で済むのならば。
確か、超鈴音は麻帆良最強の頭脳と謳われ、大学の工学部にも顔が利く。
そして先程、魔法先生の緊急招集の会議現場を除いていたのも機械制御されたスパイロボットだ。
「大変だ、直ぐに逃げないと。ムド、手伝って!」
超を連れて逃げるならまだしも、手伝ってという言葉にムドは目を見開いた。
これがネカネやアーニャ、刹那に手伝ってというなら分かる。
しかしその言葉が真にムドを指している事は、明らかであった。
ネギはまだ、ムドの了解を得てからその従者の力を借りると言う発想はない。
特にネカネやアーニャは家族同然で、刹那は超のクラスメイトでもあるからだ。
「お断りしますよ、兄さん。追っ手の想像も、幾ばくかはついてます」
「そんな……どうして」
「ネギ坊主、構ってる暇はないネ。来た、悪い魔法使いが来たヨ!」
超が指差した屋根の上には、黒い身なりに白い仮面の何かがいた。
何処かで見た事のある影人形であった。
麻帆良祭の仮装を思わせるピエロのような風貌で、超を狙い屋根の上を跳んでいる。
一瞬あれはと思いつつも、ネギが超を抱きかかえた。
「ねえ、ムド。もしもムドに力があったら、こんな時はどうしてた?」
似ていると、尋ねられた時ムドは思った。
あのエヴァンジェリンの別荘にあるお風呂場での雰囲気と。
迫る危険や超の安全より差し置いて、ネギの意識はこの質問に集中していた。
「変わりませんよ。追っ手に超さんを差し出しました」
「ごめん、僕は……ムドの本気が知りたい」
そう小さく呟いたネギが路地裏へと駆け込み、そこから壁を伝って屋根の上へと飛んだ。
そのまま超を抱えて、影人形に追われて逃げていった。
当然の事ながら、影人形の後ろからは高音やガンドルフィーニが続いて空を跳んでいく。
この時に、遅まきながらネカネやアーニャもムドが断りを入れた理由を察した。
そして憤りの矛先は、自然とネギへと向かってしまった。
「さっきの会議を覗いてたの、鈴音ちゃんだったのね。ネギ、無茶しなきゃ良いけど」
「良い薬、何よネギの奴。変な仮定したり、わけのわからない事を言ったり」
「最近は、何かに悩んでいる様子でしたが。それがアレなのでしょうか?」
「さあ、それは分かりませんが。私、そんなに本気で生きてないように見えるんでしょうか?」
張本人であるネギが居ない状況では、ムドのそんな疑問に答えられる者はいなかった。
-後書き-
ども、えなりんです。
さすがに牙刺したらクリがつぶれるw
ま、軽く先端だけとか色々解釈してください。
さて、今までろくに描写のなかった子が登場。
そしてムドは華麗に無視される。
このあたり、超の勘違いに起因してます。
あとネギの不穏な台詞は、今後に響きます。
それでは次回は土曜日です。