第二十五話 最強の従者の代替わり
色々と、呪いの具合を確かめていた為、現在はお昼休みの真っ最中。
エヴァンジェリンは、保健室の扉の前で弱々しく拳を握り締めて深呼吸をしていた。
ここ数日、意気揚々と潜り抜けていたはずの扉が、やけに大きく禍々しい物に見える。
「マスター、体調が優れないのであれば、またの機会に」
「大丈夫だ、臭いも消えている。体調が問題なんじゃない」
背後に控えていた茶々丸に、そうじゃないと伝える。
本当は茶々丸も体調云々ではない事は分かっていて、次の機会にと勧めたのだろう。
昨晩は、ネギ達の師事の件を一旦保留にしたまま解散となった。
やはりと言うべきか、何度挑んでもネギは登校地獄の解呪に失敗。
どんな細工がされたかは分からないが、本人でさえ解けない難解なモノらしい。
となると解呪ができるのはやはり、ムドだけということになる。
おおよそ、何を代価に求められるかは予想がついている為、強気に行けと心に秘めて扉をノックした。
ガンガンと殴るように、そして返事も待たずに入り込んでいく。
「おい、弱者。入るぞ」
「失礼します、ムド先生」
「お待ちしていました、エヴァンジェリンさん」
大げさに両手を広げ迎え入れたムドに、エヴァンジェリンは聞こえるように舌打ちをした。
普段は焦点が合っていない瞳が、キラキラと輝いている。
そのムドはお茶が用意されているティーテーブルへと、エヴァンジェリンを勧めた。
何時も通りの真っ白なテーブルクロスに、良い香りの紅茶に茶請けのクッキー。
忌々しく思いながらも、一応の立場を弁えて茶々丸が引いてくれた椅子に座った。
茶々丸がティーポットに手を伸ばしたのを見て制し、ムドが自分でお茶を振舞う。
「色々と予定とは違う事もありましたが、概ね予定通りで助かりました。呪いの具合はいかがですか?」
「最悪だよ。全く、してやられた。ナギのものより正確に、より複雑になっている。真面目に授業さえ出ていれば、放課後以降は何処へ何しに行こうと自由だ。麻帆良の外でさえ。ただし、魔力は完全に封じられているがな」
「元々、登校地獄はそういうものですからね」
ムドの言う通り、登校地獄とは真面目に授業を受けない生徒に与える罰為の呪いであった。
魔法の力は本人の素質に大きく左右され、大人と子供の力関係が容易く反転する。
その為、この呪いで魔力を完全に封じて、真面目に授業を受けさせる罰。
今まで不完全だったからこそ、学区から外へ出られない、満月の夜には魔力が使えたりしたのだ。
呪いが完全となった今、魔力は一切失ったが、学区の外へ出られる自由度を得ていた。
「神楽坂明日菜のタイミングの良い登場も、貴様の手の内か?」
「とんでもないです。明日菜さんは正直、こちらが驚いたぐらいです。私がしたのは、父さんの手記に手を加えた状態で、兄さんに渡した事です。読みましたよね、メッセージ」
「どうやら坊やは、父親に幻想を抱いているようだな。奴が純粋な力に関して悩みを抱くたまか。相手がいくら強かろうと、知るかボケとでも叫んで殴り倒している」
「父さんの性格は知らないですからね。でも、エヴァンジェリンさんがそう言うのなら、そうなんでしょう」
エヴァンジェリンは、あくまで普段通りの態度で会話する。
登校地獄の呪いは受けたにしても、まだ立場は上だと。
ただそれに対し、ムドもまた普段通りの態度の為、胸の内が読めない。
(自分で悪の教育を施しておいて困るとは、我ながら馬鹿な事をしたものだ)
学園に来た当初のムドならば、まだなんとでもなっただろう。
だが現在は色々と油断がならないと、エヴァンジェリンは気合を入れなおして言った。
「おい、当初の貴様の要望通り坊やには、サービスでその従者にも稽古をつけてやる。だから、今一度仮契約を行って呪いを破壊しろ」
あくまで強気の姿勢で、それが当然だとばかりに。
「エヴァンジェリンさん、それ本気で言っているのですか?」
「もちろんだ、何か不満か?」
「はい、不満です」
やはり強気で返してくるかと、エヴァンジェリンは紅茶を飲みながら耳を傾けた。
「前回に呪いを解いた代価は、兄さんを鍛え、その一環として心をへし折る事でした。なのにもう一度というのは、強欲ではありませんか?」
「貴様の従者である神楽坂明日菜が乱入したせいで、呪いをかけられたのだ。監督責任を負えと言っている」
「監督責任ですか。これは不思議な事を仰いますね。ど素人の小娘一人の乱入であの闇の福音が窮地に追い込まれてしまったと? それはありえないでしょう?」
ヒクリと、顔全体が引きつるのをエヴァンジェリンは自覚した。
同時に、なんて嫌らしい言い回しをするのかと。
最強を自称するエヴァンジェリンにとって、ムドの言葉は肯定以外にはない。
事実、明日菜はアーティファクトを持つだけのど素人である。
春休みの間に訓練こそ積んではいたが、そんなものはあってないようなものだ。
結果はどうあれ、明日菜が決定打だったとは撤回するしかなかった。
「神楽坂明日菜の事はもうよい。時に、坊やの師事の件だが、それも私に一任で良いんだな? 私が坊やを煮るも焼くも好きにしてよいと」
「はい、兄さんもそれぐらいの覚悟はあるでしょう。どうぞ、お好きになさってください。私は結果的に、兄さんが強くなりさえすれば問題ありません」
ムドの即答に、エヴァンジェリンは主導権を完全に握られた事を認めるしかなかった。
ニコニコと笑っているムドが、本心で言っているのか分かりもしない。
それに最も大きな懸念は、それで本当に呪いが解けるのかどうかである。
ムドはナギの手記に手を入れたと言っており、アンチョコ部分にも手が入っているかもしれなかった。
いやネギが自分で掛けた呪いを解けなかった以上、何かあると見て間違いない。
魔法こそ使えないが、ムドはちゃんと魔法の知識を持っているのだ。
(やはり確実なのは、前回と同じ破壊だ。だが力ずくで仮契約をしてもこいつが契約執行をしなければ意味がない。今の私は完全に魔力を封じられ、半吸血鬼化させる事もできない)
ならば本当の意味で力ずくか。
そう思い、チラリと見上げたムドは相変わらずの笑顔でこちらを見てきていた。
(暴力、か)
茶々丸をけしかければ一瞬だろう、それは間違いない。
だが本当の意味で力を持たない無抵抗のしかも、子供になどプライドが許さない。
それ以上に、今目の前にあるムカつく程の笑顔を暴力などで壊したくはなかった。
ふいに浮かび上がったそんな考えを頭で振り払い、言葉を懸命に置き換える。
自分が悪である自覚はあっても、下衆にまで成り下がるつもりはない。
だから、暴力はいやだと。
「エヴァンジェリンさん」
その時、ティーカップに添えられていた手に、ムドの手が重ね合わせられた。
小さくも温かな手と共に添えられた言葉に、瞳を開き驚愕する。
「私は、貴方を愛しています」
「なッ……調子の良い事を言うな」
これまで誰一人として口にしてくれなかった言葉に、心が疼く。
「どうせ、私の力をだろう。貴様を守れるぐらいに大きな力、吸血鬼の真祖としての力」
自分で呟いた言葉に、何故か胸が痛む。
内心の動揺を悟られないように、添えられた手と言葉を跳ね除け、紅茶をまた一口飲む。
琥珀色の液体が喉元を通り抜け、胃へと流れ込むのに何故か温かくない。
ティーカップに残る紅茶からは湯気が出ているというのにだ。
やや俯きかける顔の頬に、再びムドの両手が添えられ睨みつける。
再び添えられた手の暖かさにほんの少し、胸の中の疼きが薄まったとしても。
「馴れ馴れしいぞ、立場を弁えろ」
「いいえ、諦めません。女の子に対する強引さは、ある意味思いやり。亜子さんの言葉です。今日の私は、強引ですよ」
頬を指先で撫でられ、エヴァンジェリンは離せと言わず、ただ瞳をそらした。
「一線こそ越えてはいませんが、何度肌を重ねてきたと思っているんですか。仮に姉さんが何処かの暴漢に傷つけられたらどうします?」
唐突なムドの例え話に応えるのに時間はいらなかった。
「殺してやるよ。そいつが死なせてくれと懇願するぐらい残忍にな」
意外すぎる自分の言葉に、慌てて吸血鬼らしい言い訳を添える。
「ネカネは気持ち良いからな。胸も、撫でてくれる手の平も」
「では、私が何処かの馬鹿な魔法使いに殺されたらどうします?」
間髪入れないムドの再度の問いかけに、エヴァンジェリンは即答することができなかった。
しなかったといった方が正しいだろうか。
自分の思考が今ムドの手によって誘導されていると感じたからだ。
言葉での舌戦に敗退し、胸の疼きにより暴力は封じられ、手も足も出ない。
この状況での先程の質問。
(私が貴様達を愛しているとでも言わせたいのか?)
ムドの存在を知らないまま迎えた初対面。
その後に行った自慰の虚しさから、憎しみに近い殺意を浮かべていた。
だが次第にその存在の面白さに気付き、悪を教え導き、成長を楽しんだ。
気がつけば確かに一線こそ越えてはいないが、肌を重ね合わせるまでになっていた。
肌を合わせ唇をむさぼりあい、幼い性器同士を擦り合わせては果てた。
自慰による空虚とは違い、心が満たされたような光を何度も感じながら。
一度手に入れたその光を、今さら手放したくない気持ちがある事は事実だ。
「確かに私は、常に強い従者を求めています。けれど、誰でも良いわけじゃありません。私は私の従者をきちんと愛したい。愛したいから、貴方を従者にしたい」
「認めてやる。確かに私は貴様やネカネが嫌いではない。だが、私は……まだ貴様の父の事が、死んだ奴の事が」
超えられない一線に立ちふさがるのは、過去の想い人だ。
「父さんなら、恐らくは生きていますよ。六年前に、兄さんが会ってますから」
「生きて、る?」
未練を残したまま愛されたくはないと、ムドはあえてそれを教えた。
エヴァンジェリンが瞳をそらす事を止めて、視線を合わせてくる。
一時の間を置く事なくその視線を戻せる相手であろうと、勝てると確信しているからだ。
例え生きていたとしても、ここにはいない父に。
「ええ、生きてます。分かりますか? 父さんは絶対にここに現れない。けれど、私はここにいる。貴方に触れて、愛していると伝えられる。私は貴方の傍で生きている!」
引き戻させた瞳を身を乗り出しながら覗き込み、ムドはエヴァンジェリンの心に刷り込むように声を大きくして言った。
「生きているなら、探しに……」
「何処にいるかも分からず、愛してくれる保障もない男を探しに? 貴方を愛している私や姉さんを置いて? 貴方を置き去りにした父さんのように?」
「や、やめろ……どうしろと言うのだ。どうすれば良い、どうしたら良い。私は吸血鬼だ。貴様達とは違うのだ」
合わせた瞳を揺らし、そうエヴァンジェリンが呟いた。
永遠を生きる者として、刹那を生きる者とは絶対に添い遂げられない。
仮にムドの父であるナギを探し当てたとしても、同じだ。
その頃には既に歳を取り、見る影もなくなっている可能性さえある。
今目の前にいるムドを愛しても、いずれは同じ結果が待っていた。
そんなエヴァンジェリンの苦悩を察して、ムドが提案する。
「気軽に私も吸血鬼にとは申しません。私の愛はそんなに軽くない」
「だったら……」
「私は、一度目の人生を共に老いる事でアーニャや姉さん達と添い遂げます。ですが、私が息絶える瞬間から、私の全てはエヴァンジェリンさんのモノです」
私のと呟いたエヴァンジェリンに、ムドは静かに頷いた。
「息絶える瞬間、私を吸血鬼にしてください。その頃にはよぼよぼかもしれませんが、姿ぐらいは魔法でなんとかなります。どうですか?」
「それで私の事を良く、強欲と言えたものだな。数多の女を手に入れる事を前提に、この私を口説き、人の生も、化け物の生も生きる。呆れ果ててモノが言えん」
「背負わなくても良いハンデを背負って生まれたんです。それぐらいで、丁度良いと思います。答えがイエスであれば、このまま動かないで下さい」
エヴァンジェリンが何かを言う前に、ムドはその手を引いて身を寄せ合い唇を奪った。
今日の私は強引だと宣言した通り、無理やり答えをイエスにした。
だが抵抗らしい抵抗はなく、エヴァンジェリンが瞳を閉じるのに合わせて自分も閉じる。
これでもまだ数度目、滅多に許されなかった唇の柔らかさを堪能していく。
やがて小さく呻いたエヴァンジェリンから舌を伸ばしてきた。
湿り気を帯びた吐息と舌に、先程飲んだばかりの紅茶の味が染み付いている。
その甘さを舌と舌でぬぐいあい、より深く唇に吸い付いた。
「ん、あふ……相変わらず、舌使いが上手いな」
「自覚は……ないんですが、姉さんのおかげかもしれません」
紅茶の甘い匂いと味が薄れる中で、ようやく唇を離す。
「茶々丸さん、申し訳ないのですが紅茶の片づけをお願いします。私は……エヴァンジェリンさんを運びます」
「了解しました、セカンドマスター」
「勝手に何を登録している茶々丸!」
セカンドマスターとは、茶々丸も有事の際には守ってくれるのか。
茶々丸が紅茶セットを片付けるのを眺めながら、一粒で二度美味しいと思う。
エヴァンジェリンを手に入れたら、茶々丸もついてくるのだ。
そんな邪な気持ちを含みつつも、心底愛しますと心に秘めながら誓う。
そしてティーテーブルを回りこんで、椅子に座っていたエヴァンジェリンを抱きかかえようとする。
「おい、弱いくせに無理をするな。降ろせ。安心感より恐怖が勝るわ!」
「暴れないで下さい。一度、やってみたかったんです。アーニャとの結婚式の予行演習にもなりますし」
そう言った瞬間、頬に加減した拳が押し付けられた。
ぐりぐりと頬の上で拳がねじりこまれ、彼女が抱いた感情を明確に教えてくれる。
そのぶん、ムドの細腕では小さなエヴァンジェリンですら支えられずふらふらと歩く。
なんとかエヴァンジェリンを、パイプベッドの上に降ろしてから頬をさすった。
「貴様、わざとだろ?」
「ええ、妬きもちやいてくれるのかなと。それから、ムドです。名前で呼んで貰えると嬉しいのですが、エヴァさん。私も実は妬いてましたよ。高畑さんが愛称で呼んでいる事に」
「奴は単に馴れ馴れしいだけだ。一時期は、同級生だったからな。それと外では兎も角、これからスル時は、さんはいらん」
白い肌の頬を僅かに赤く染め、そっぽを向きながらエヴァンジェリンがそう呟いた。
名前の呼び方一つとは言え、十分過ぎる程に嬉しいものだ。
ムドは自らもパイプベッドに上がりこみ、エヴァンジェリンに跨った。
といっても、刹那の時のように変に身長をあわせる必要は無い。
先程のお姫様抱っこからも分かる通り、二人の身長はほぼ同じ。
これ程までに身長がマッチする相手とは、ムドも初めての事であった。
女の子と肌を重ねる事は結構慣れてきたが、妙に緊張してくる。
改めてキスからと顔を近づけると、エヴァンジェリンの両手で止められた。
「ちょ、ちょっと待て。ガッツクな。ちゃ、茶々丸ちょっと来い!」
「マスターまさか私に同衾せよと? さすがに私にはそのような機能は……今度、超鈴音とハカセに提案を」
「するな、今日の事も絶対に言うな、見せるな! 良いから手、握っていろ……」
どうやら、緊張しているのはお互い様であったようだ。
特に本番をした事がないエヴァンジェリンの緊張はすさまじいらしい。
口調こそ普段通りだが、握っていろといって差し出した手は震えていた。
六百年生きようが、やはり処女だからか。
初体験をする事で、自分がどう変わってしまうのか怖いのだろう。
「エヴァ……大丈夫、私はこれでも経験はそれなりに豊富です」
「ムド、貴様本当にムカつくな。遊び慣れて……いや何時でも本気か。ややこしい。ネカネ仕込みなのは先刻承知だ。さっさとやれ」
スーツの上着とシャツを脱ぎ、上半身裸になってから唇を落とした。
すっかり紅茶の味は消え、お互いの生の味と匂いを感じながら吸い付き合う。
すると、何やらビデオで撮影するようなジーという音が聞こえたが、無視する。
無視したまま、エヴァンジェリンの制服を脱がし始めた。
春先となりノースリーブとなったブレザーを脱がし、中のシャツはボタンだけを外す。
飛び出したという表現すらおこがましい、ブラジャーすら必要ない哀れ乳が光に晒される。
「誰とも比較するなよ」
「自爆ですよ、それ」
睨みつけながらのそんな言葉に苦笑で返し、哀れ乳を見下ろし手を伸ばす。
脇に手の平を挿し込み、親指でなだらかな丘の上の苺を押し潰していく。
ころころと弄び、採取しようと摘み上げるとエヴァンジェリンが小さく呻いた。
「くぅっ……」
やや苦しげなそれは、痛いという意味なのか。
胸に関する性感帯はまだまだ未発達らしい。
胸の肉が殆どなく、筋肉と皮だけならそんなものだろう。
早々に手での乳首虐めは中断して、舌での愛撫に切り替えた。
「っぁ……ぅん、そっちの方が良い」
胸の周りから肉を集めてくるように、舌で胸の周囲を舐め回していった。
すると次第に喘ぎ声にも艶が混じり始めた。
もっと続けてくれとばかりに、茶々丸が握っていない方の手で頭を抱きしめられる。
だが質量のない胸を愛撫するのは意外と疲れるらしい。
やや急くように空いた手を下腹部へと伸ばして、秘所を包み込むショーツへと触れた。
たったそれだけで、エヴァンジェリンがビクリと体を振るわせる。
「大丈夫、大丈夫です。茶々丸さん、エヴァンジェリンさんの頭を撫でてあげてください」
「了解しました。マスター、セカンドマスターに身を委ねましょう」
「こ、子供扱いふぁ……ぁっ、するな」
エヴァンジェリンを落ち着ける為に、茶々丸に頭を撫でさせ、ムドは密着するように抱きついた。
左胸に耳を当て、ドキドキと乙女チックな心音に聞き入る。
その心音を伝えるように、音に合わせて秘所の部分をショーツの上から指でトントン叩く。
「ぁっ、ゃっ……そ、それ、止め。ンんっ、やあぁっ!」
心音とシンクロさせたのが良かったのか、エヴァンジェリンが小さく果てた。
真っ白だった肌を桜色に染め上げ、ふうふうと小動物のように息を荒げている。
震えもなくなり、体が弛緩して良い具合に力が抜けたようだ。
ショーツをズラした隙間から、愛液が溢れる秘所を指先で突いても足を閉じたりしない。
むしろ少ししか触れられないのがむず痒いのか、僅かに腰を動かしている。
「入れます、よ。うわ、キツい……」
「ぁぅ、ぁっぁっ……くぅん、んっ!」
舌以外でまだ一度も触れたことがない、ある意味特殊な場所を指で貫いていく。
エヴァンジェリンの膣の中は、ムドの細い指でさえ処女膜を破いてしまいそうな程に狭い。
体の殆どが一度小さく果てて弛緩気味だというのにだ。
きゅうきゅうと締め付けては、指から出もしない精液を搾り取ろうとする。
「これはちょっと、かなり解さないと裂けそうですね。茶々丸さん、少し手伝ってください。エヴァの胸を、こうバイブ機能とかないですか?」
「指や舌先に内臓されていますのでご安心を、セカンドマスター」
正直、製作者の頭の中身を疑うが、あるのなら使うまでだ。
胸への愛撫を茶々丸に任せ、ムドは指による秘所への挿入へ集中する。
ゆっくり、まずはこの大きさを憶えてくれと。
「エヴァ、指の動きに合わせてゆっくり深呼吸です」
「んっ、ぁっ……無理、ムドのはこれよりぅ、ぁん。太い、よな?」
「もう少し大きいぐらいです」
頭が良く働いていないようで、口で咥えた事もあるのにそんな事を聞かれた。
少しどころか三倍も四倍も大きいが、正直なのも酷だろうと嘘を吐く。
そのおかげで、少しぐらいならと締め付けていた膣が膨らむように広がった。
それでも十分にキツかったが、そろそろかとぬるりと指を抜いた。
「くぅっ、ん……や、止めろ馬鹿」
一際大きく喘いだエヴァンジェリンの目の前で、愛液にふやけた指を舐める。
舌は僅かな酸味を感じてはいるが、脳が甘味を感じてしまう。
脳髄を侵すようなその甘味が、どうしようもない程に一物を刺激する。
できればもう少しゆっくり愛撫をして、解したかったが限界が近付いていた。
一物がズボンまで突き破りそうな程に膨張してしまった。
茶々丸に目配せし、胸への愛撫を中止させ、エヴァンジェリンに覆いかぶさる。
そして愛液の代わりに唾液でふやけさせた指を舐めさせては、キスをした。
「愛しています、エヴァ」
「はやく、しろ」
「愛しています」
「ぅ……私もだ、ムドやネカネ。あと明日菜も少し」
意外な名前に驚いていると、機転を利かせた茶々丸がベルトを外し、ズボンを下ろしてくれた。
二人のマスターの営みを円滑に進める、最高のサポートであった。
エヴァンジェリンは覆いかぶさられ、膨張しきったムドの一物が見えてはいない。
指よりほんの少し太いだけ、そんなプラシーボ効果が消えないうちに秘所へ先端を添える。
「少し痛いですよ」
瞳を閉じ、瞼を震えさせながらエヴァンジェリンが頷いた。
もはや手馴れた腰使いで、一物を秘所の奥へと推し進めようとする。
「ぃ、痛っ……」
一物に対して小さすぎる秘所の穴が押し広げられ、痛みにエヴァンジェリンが小さく呻く。
だが亀頭の半分も入りきらないところで、引っかかってしまった。
ムドと歳の変わらない状態で年齢を止めてしまったエヴァンジェリンの限界である。
ぐずぐずしていては、痛みが続くばかりだが、無理をすれば本当に裂きかねない。
さすがに経験のない状況に、ムドが僅かに迷いを抱いた。
「このままの方が辛い、一思いにやれ」
「もっと抱きついてください」
自分の背中に腕を回すように抱きつかせ、直ぐそこに来たエヴァンジェリンの耳に行きますと呟く。
次の瞬間、ムドは己の一物にも同時に掛かった負荷すら省みず、一気に貫いた。
背中に回させた手が掴むものを求めて、爪を立てて皮膚や肉を抉った。
一物と背中、二箇所に凄まじい痛みを覚えたが、奥歯を食い縛って耐える。
何故なら痛みに関していえば、エヴァンジェリンの方が圧倒的に上であったからだ。
きつく閉じた瞳からはポロポロと涙が零れ落ちており、呼吸すら満足にできないように口をぱくぱくと開けていた。
下腹部がムドの一物を受け入れ盛り上がっており、秘所からは破瓜の血が止め処なく流れ落ちている。
下手に推す事も引く事も出来ない中で、茶々丸が動いてくれた。
「マスター、血をお飲みください」
「はぁ、くっ……自分の破瓜の血など、意味あるか。無駄に、喋らせ」
「マスターが女性となられた記念すべき血です。相応の価値はあるかと」
ムドの一物を滴っていた血を茶々丸が指で救い上げ、エヴァンジェリンに差し出した。
最初は渋っていたエヴァンジェリンも、一生に一度のものとして口に含んだ。
数滴の血を大事に、味わいながら唾液と混ぜて小分けにして飲み下す。
今は完全にただの少女のはずが、喉元をそれが過ぎる度に痛みが薄れ、呼吸が整っていった。
女になったのだと、六百年の時を超えてようやくと痛みに変わり温かい気持ちが下腹部から広がっていく。
「茶々丸、ご苦労だった……ムド、私が愛してやる。お前の望み通り、愛し守ってやる。だから私に光をくれ、お前の愛をここにくれ」
ここという言葉を発すると同時に、膨れ上がった下腹部を撫でる。
「動きますよ」
一物を絞り上げる膣から逃げるように引き抜き、もう一度押し広げて進む。
快楽とは程遠い様子で、その度にエヴァンジェリンは呻き、ムドを抱きしめた。
言葉らしい言葉は発しないまま、二人は獣のように荒い息遣いでおだやかに交尾する。
快楽を求める人間らしいそれではないが、そこには確かに愛があった。
ムドはできるだけエヴァンジェリンに負担をかけないよう、一定のリズムで挿入する。
一方のエヴァンジェリンも、引っかいてしまった背中を撫で、必要以上に膣を締めないよう呼吸に気をつけていた。
お互いがお互いを思いやりながら、交尾を続け、小さく声が漏れる。
「……ぁっ」
体同様に、小さな快楽の声だ。
その声に一瞬反応し、腰を止めかけたムドが続ける。
ほんの少し腰を動かすスピードを速め、より奥へと膣内をえぐりながら。
膣の狭さに最奥への接触を諦めていたが、文字通り掘り起こしていく。
「ん、ゃっ……ぁ、良い。もっと、私の中を犯してくれ。くぅん、あぁっ」
「そんな締めないでください、私のものが千切れそうです」
「はぁ……はぁ、ゃっ……んんっ、これ以上無理。やん、ぁぁっ、ぁっ!」
最奥にある子宮口へと到達するより先に、エヴァンジェリンの喘ぐ間隔が短くなっていった。
ムドの一物はまだ半分までしか入っていないが、今日は無理だろう。
膣の奥をほじるのではなく、開拓した中を匂い付けするように擦りあげていく。
「いつもより、ぁっ……良い。こんなに、凄かったのか。ん、くぅっ、イク。イかされる!」
「出しますよ、エヴァの中に。私の精液を」
「出せ、ことごとく私を犯せ。奴を思い出せなくなるぐらい、お前で染めろ!」
叫ぶや否やエヴァンジェリンの膣が大きく開いた。
よりムドの一物を飲み込むように、最奥へと導き、下半身でのキスを果たす。
子宮口と鈴口が衝突する勢いで密着し、連結した途端に爆ぜた。
「あっ、あぁぁぁぁぁっ!」
ムドの一物から溢れた精液は、瞬く間に小さな子宮を犯しつくしていく。
壁という壁に白濁液を叩きつけ、息をつく間もなく半分近くを埋めていった。
やがて溢れたそれは子宮口から逆流し、膣と一物の隙間を流れ、秘所からあふれ出した。
それを助長するように、ムドが一物のカリを使って放ったばかりの精液と愛液をかき出す。
「このまま、二回戦いきますよ。真っ白な光を、エヴァにあげます」
「はぁ、ぁっ……こひ。もっろ、ひかり。キスも」
半分意識が飛びつつも、しっかり要求を出したエヴァンジェリンに答える。
むさぼりあうように唇に吸い付きあい、ムドが一向に萎える様子のない一物を酷使していく。
挿入する度に精液と愛液、それと破瓜の血が混じった液体が飛び散った。
じゅぶじゅぶと淫らな音さえ快楽に変え、求め合う。
「ちょっと、待て。もう治った。具合悪いの治ったから。今入るのまずい、絶対にまずいって!」
「大人しくしてください、長谷川さん。私を見て逃げるなど、怪しすぎます。少々話を聞かせてもらいます!」
そんな営みの空間を破壊するように、二人の人物が飛び込んできた。
顔を青ざめさせながら入室を拒否する千雨と、はがい締めにしながら入室してきた刹那である。
そして、頭痛をおさめるように頭に手を置いた千雨をはがい締めにしたまま刹那が硬直してしまった。
二人の主が行う営みと、それを撮影している茶々丸を見て。
「あっ」
「あっ」
「鍵、閉めていませんでした。申し訳ありません、皆様」
三人も人払いすらしていない事に、遅まきながら気付いた。
長谷川千雨は三-Aの中でも、ある意味で特異な人間であった。
常識人であるが故に、常識外の事が起きる麻帆良の常識に耐えられない。
麻帆良学園都市を覆う認識障害の魔法が全く効かない体質の人間なのだ。
ただそういう体質にしろ、単に間の悪い人間であった事も否めない。
昼食後に具合が悪くなり、保健室に来て見ればそこでは性交が行われており、逃げる直前で刹那に見つかったのだから。
何故か正座で床に座る事になった状態で、刹那が頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。私が早とちりをしたばかりに……」
「いや、あんたが謝る事でもねえよ。というか、ソレを止めろよ。ここは学校だぞ!」
地をさらけだしてまで叫んだ千雨が指摘したのは、エヴァンジェリンとムドであった。
二人に相対するようにパイプベッドで座るムドとエヴァンジェリンがまだ続けていたからだ。
パイプベッドから足を投げ出し、背面座位の体位で挿入を繰り返している。
二人の目の前では、無毛の性器が卑猥な形であるべき営みを行っている光景が見せ付けられていた。
「んっ……ぁっ、私とムドの営みを勝手に覗いて、飛び込んで来たのは貴様だろう。なんだ、混ぜて欲しかったのか?」
エヴァンジェリンが尋ねたのは、スカートを握り締めて正座した足をもじもじさせている刹那であった。
千雨に謝罪する間もずっと、その視線はムドの一物を物欲しそうにみつめていた。
だが本人が言い返せるはずもなく、千雨が過剰に反応する。
「なわけあるか。もう嫌だ。十歳のガキが担任になったかと思えば、その弟は淫行教師かよ。この学校は、本当にどうなってるんだよ!」
髪を振り乱し、床に何度も叩きつけながら泣き叫ぶ。
「ん? どういう事だ、コイツまさか認識障害が効いてないのか?」
「長谷川さんは、そういう体質だから三-Aに含められているんです」
「体質か。全く、あの爺は。おい、刹那」
「あ、は……はい!」
何やら希望に溢れた返事が返って来るが、それも直ぐに萎む。
「貴様が連れ込んだんだ。責任を持って魔法を教えておけ。ゃっ……ぅん、私とムドは忙しいからな。昼休みが終わるまでまだ少しある。後何度、注げる事か」
「人を早漏みたいに言わないで下さい。今夜は、皆でエヴァの歓迎会ですよ。四方八方から愛を注ぎますから」
「先の事よりも、ぁっ……またイク、ぁっぁっあぁっ!」
今にも果てそうな、エヴァンジェリンの喘ぎ声を前に刹那は千雨の手を取って走り出した。
泣きそうな顔を見せないように伏せ、保健室を飛び出しその扉を叩きつけるように閉める。
その音の大きさと刹那の剣幕に驚いた千雨が、握られていた手を振りほどく。
実際、手首には跡が残る程、強く握られていたのだが。
痛みを逃がすように手を振っていると、無理やり心を落ち着けた刹那が振り返った。
「申し訳ありません。取り乱しました」
「いや、いいけどよ。それで、何を説明してくれるって?」
こいつもしかしてと邪推しながら、催促を行う。
何しろ自分が絶えず異常だと思ってきた学園の秘密の一端に触れられるかもしれないからだ。
「長谷川さんは、魔法という言葉についてどう思われますか?」
「魔法って、マジ……なんだよな?」
質問を質問で返す愚行を行いながら、千雨は自問自答する。
そして、聞かされた衝撃の事実に硬直する間も、刹那の説明は続いていく。
正直なところ、我に返った頃には既に刹那の姿は目の前から消え失せていた。
胸の内に何かが収まった納得と、湧き上がる苛立ち。
だが千雨一人にできる事などあるはずもなく、何時ものように仕方がないと諦め、溜め込んでいく。
一方、千雨の前から立ち去った刹那も、胸の内に溜め込みすぎていた。
直ぐに近くのトイレへと向かい、一番奥の個室へと駆け込んだ。
個室の扉に背を預け、歯を食い縛りながら制服のスカートの中へと手を伸ばす。
「ん、あぅっ……」
下着代わりのスパッツのとある部分に触れる。
肌に張り付いているはずのスパッツが、愛液によりぬるりと肌の上で滑った。
悔しさに涙が滲み、それでも指は止まらず秘所を広げては指で刺激する。
足りない、刺激が足りないと秘所の部分を破いて指を飲み込ませていく。
「ゃっ、足りない……あの太さ、熱さが」
細すぎる指がより切なさを呼び、記憶の中にある自分の処女を奪った一物を思い出す。
エヴァンジェリンの小さな秘所を貫いていたムドの一物が思い出される。
「どうして、私だけ……ネカネさんも亜子さんも、エヴァンジェリンさんでさえ。何故、私だけ何もしてくれないんですか」
好きなわけでも、愛しているわけでもないはずだ。
それでも体がムドを求めてしまう。
契約代行で魔力を充填されるたびに、子宮が魔力に犯され染められる。
ムドを受け入れるだけの蜜壷として、下半身が調教されてしまっていた。
「しかし明日菜さんやアーニャさんは……私、だけなのか。私が、おかしいのか。犯してください、ムド先生。エヴァンジェリンさんをエヴァと呼んだように、刹那って」
個室の扉を背中で滑り落ちながら、両膝を抱える。
破れたスパッツの穴から秘所が盛り上がり、外気に触れて冷えた。
それだけ熱く熟れているというのに、解消する手立てがない。
少なくともムドよりも愛らしく愛おしいと思える木乃香でも不可能だ。
「学校のトイレでオナニーするような変態を、叱りながら犯してください。ムド先生……」
刹那は泣きながら秘所に指を埋め、後の空虚感にまた涙を零していた。
-後書き-
ども、えなりんです。
エヴァの落とし方は賛否あると思います。
というか、現時点でもまだ作者も迷ってます。
刹那のときに比べて、中途半端な感が否めません。
強いのに子供なところがあったり、扱いが難しいです。
あと、そのせっちゃんですが、色々と限界です。
題名通り、最強の従者の座も奪われ後がなくなってきました。
次回閑話的なお話を挟んで、修学旅行編に入ります。
そろそろ放置プレイも終わりです。
それでは次回は土曜日です。