第三話 脆くも小さい英雄を継ぐ者の誓い
日本へと向かう飛行機の中、アーニャの隣、窓際の席に座っているムドは、焦点の合わない瞳で空と雲の二色を何気なく眺めていた。
やがて何度目になる事か、溜息をついて約半年前の卒業式を思い出す。
正直な所、失敗であった。
自分の冷遇を明かし、ムドを守らなければという意識はネギの中に生まれた。
アレからネギは甲斐甲斐しく、時にやり過ぎな程にムドに構ってくるようになった。
これまでの自分の役目を取られたアーニャが嫉妬して、ムドの取り合いで喧嘩する程に。
それでも、ムドはネギから肝心の言葉を引き出す事が出来ず、目的を完全に達成する事は出来なかった。
世界よりもムドを、アーニャやネカネを守ると言う、一番欲しかった言葉をだ。
(あの時……)
チラリと横目で、ネカネと一緒に日本の観光マップを見ているネギを盗み見る。
ネギが父であるナギの手記、正確にはアンチョコを持ち出さなければ、最後まで冷静でいられたのに。
(いずれ立派な魔法使いになる兄さんは、さすがに一筋縄ではいきません。たった半年では、卒業式以上のインパクトあるできごともありませんでしたし)
ただ、ムドもまだ諦めたわけではない。
(修行が完了するまでは、まだ十年近くあります。兄さんは、私が立派な魔法使いにしてみせる。だから……世界よりも、私達をとってもらいます)
門出の日に、改めてそう誓う。
苦渋を舐めてきた五年が半分ふいになっての意地ではない。
そうなってもらわなければ本当に困る。
英雄の息子でありながら、生まれつき魔法が使えない身としては。
他力本願な、情けない願いであっても自分だって幸せになりたいのだ。
「う、うん……」
何やらわざとらしい寝言に、ネギを見ていた横目から視線を落とす。
するとやや顔の赤いアーニャが、ムドの肩にもたれかかろうと座席の上で体勢を崩していた。
兄であるネギはアーニャより背が低く、その双子でありながらさらにムドは背が低い。
先程の寝言は体勢が苦しい故の、呻きであったのかもしれない。
そんなアーニャの健気さに報いる為に、ムドもまた体を傾けて肩をピッタリとつけて頭をコツンとぶつけた。
ピクリとアーニャが身じろぎしたのも気付かぬ振りで、体の間で潰されていた手を恋人握りで繋ぐ。
「大好きです、アーニャ」
髪の色以上に赤くなっているであろうアーニャの顔を想像しながら、ムドもまた瞳を閉じていた。
長いフライト時間に対し睡眠で対抗する為ではなく、すぐ傍にいるアーニャをより強く感じる為にだ。
そんな微笑ましい小さな恋人達をこっそりネギとネカネは見ていた。
見知らぬ日本に思いを馳せて、観光マップを見ていたのはただのカモフラージュであった。
「ネカネお姉ちゃん、一つ聞いて良いかな?」
「なあに、ネギ?」
「ムドは……どうして魔法を使えないの? やっぱり、辛いものかな?」
ここが公共の場である為、こらっとネギの鼻の頭をネカネが突いた。
しまったと両手で口を押さえながら、それでもネギは考える。
ネギは文字通り、生まれた時から、それこそ生まれる前からムドと一緒であった。
これまでずっと、ムドが魔法を使えない事は普通、当たり前と思っていた。
林檎が木から落ちるように、太陽が東から上り西に落ちるように。
だからこそ、魔法学校での虐めの原因が、そこにあるとは当初とても信じられなかった。
あの衝撃的な卒業式から半年経った今でも、あのできごとが夢だったのではと思うこともある。
それはネギと同じように、魔法が使えない事をムドも同じように普通の事として受け入れているように見えたからだ。
少なくとも、ムドがあの虐めを引きずっているとは思えなかった。
ムドが全く気にしていないように見えたから、これまでそこに深く踏み込む事が出来ずにいた。
「正確なところは分かっていないわ。簡単に言えば体質、難しく言えば突然変異的な遺伝子疾患。高畑さんと似たようなものよ」
「タカミチと……」
タバコをふかし、苦笑しながら渋い笑みを浮かべる父の友達を思い浮かべる。
「そう言えば、自分は落ちこぼれだって。やっぱり、それって辛いんだ」
「それはどうかしら、使えない事よりも使えない事を責められる方が辛いんだと思うわ」
ネギにこそ見せなかったが、卒業式後しばらくの間、ムドは荒れていた。
表面上は、ネギとアーニャの前では普段通り、礼儀正しく良い子であった。
荒れていたのは、ネカネと二人きりの時、魔力を抜いている時である。
つまりはベッドの上で、ネカネも随分影響されたと言うか、開発されてしまった。
だがおかげで、ムドが何を考えて虐めに耐えてきたかを知る事ができた。
正直な所、かなり驚いたが、ネギの夢とも多少合致しており、ネカネとしては賛成であった。
自分の可愛い弟を何時までも手元に置いておきたいという、我が侭にも合致する。
「ナギさんの子供だからって、貴方達に期待する人は多いわ。けれど、ムドはその期待を寄せる多くの人に認めてもらえない。使えない、それだけの為に」
「変だよ。ムドは僕やアーニャよりも勉強が出来るのに……」
「だからネギが認めてあげて、守ってあげて。将来、立派な魔法使いになるんでしょ?」
「うん、僕が守るよ。ムドもアーニャも、お姉ちゃんも。立派な……あ」
ネカネのうっかりに気付き、もうっと肘で突く。
いけないと舌を出して笑ったネカネと共に、笑いあう。
それから話はここでお終いと、二人もムドやアーニャのように身を寄せ合って眠った。
長い、長いフライト時間をつぶす為に。
四人の魔法使いを乗せて、飛行機は日本を目指す。
埼玉県麻帆良市、長い空の旅を終えたムド達は、今度は地上を走る電車に乗っていた。
その電車が現在停車しているのは、麻帆良女子中学生寮の最寄り駅である。
寮長として修行する予定のアーニャは、一度ここで下車しなければならない。
ネカネと共に一足先に仕事場兼住居に向かい、ネギとムドの分まで生活圏を整えるのだ。
一応二人も、今日中にはここの責任者である学園長のもとへと行く手はずである。
ただ現在生徒が登校中の今、先に仕事が発生するネギとムドが先に学園長に挨拶に行く予定であった。
「ネギ、ちゃんとムドの面倒見なさいよ。何かあったら直ぐに私か、ネカネお姉ちゃんに連絡するのよ。良いわね?」
「なんでアーニャに連絡するのさ。意味がないよ。その時は直ぐにネカネお姉ちゃんに、連絡するよ」
「なんですって、少なくともチビでボケのアンタよりは役に立つわよ!」
「チビってそんなに変わらないじゃないか。ほら!」
場所をわきまえず、どちらが高いかで二人は背比べを始めてしまう。
他の乗客から微笑ましそうな視線を向けられているとも知らずに。
ネカネはあらあらと笑っているが、ムドは少し羨ましく思いながら張り合う二人を見ていた。
「大丈夫だとは思うけれど、少しでも具合が悪ければ直ぐに呼びなさい。駆けつけるから」
「分かっています。その時はお願いします、姉さん」
呼ぶという言葉にイントネーションを強め、ネカネがムドへと言った。
その意味を察して、仮契約カードを入れているスーツの胸ポケットを叩いて答えた。
それから直ぐに、発車のベルが鳴り響き、電車の扉が閉まる。
行ってらっしゃいと優雅に手を振るネカネと、両手をぶんぶんと振るアーニャに二人も手を振り返した。
走り出した電車の中で、窓の外を統べる景色を眺めながら、取り留めのない会話を繰り返す。
だが目的の駅、麻帆良学園中央駅と近付くにつれ、車内の客層が妙に偏り始める。
同じ年頃、小学生ぐらいの生徒は降車して姿を消していき、やがて周りは女子中高生ばかりであった。
そんな中に、明らかに小学生ぐらいのネギとムドがいれば、目立って仕方がない。
「何? あの子達」
「髪の毛の色は違うけど顔つきが似てるから、双子かな?」
明らかに注目を浴び、ひそひそと話す声が聞こえていた。
「なんか見られてる。そうだ。髪の毛といえば、どうしてムドは髪を短くしてるの?」
「兄さんみたいに長いと、熱がこもって逃げないからです。短い方が涼しいですよ」
「あ、ごめん。そっか、考えてみればそうかも」
別にそこまで気にしなくてもと言おうとした所で、電車がガタンと大きく揺れた。
車内は満員というわけではなかったが、それでも電車が揺れれば乗車している人波も揺れる。
近くにいた女子生徒達にムドが押し潰されそうになった瞬間、ネギが両腕を精一杯使って囲ってくれた。
とは言え、やはり体格的に二人もろとも押し潰されてしまう。
「あう~、ムド……」
「くッ……苦し」
本心では割と嬉しかったのだが、せめてもう少し粘って欲しかった。
立派な魔法使いは遠いなと思っていると、ようやく荒れた波が元に戻る。
ほっと息をついていると、慌てた様子のネギにかなり心配された。
「ム、ムド大丈夫? 辛くない!?」
「これぐらいなら、大丈夫ですよ」
「僕、どうしたの? もしかして、さっきので怪我でもしちゃった?」
「嘘、なんでこんな所に子供が乗ってるの。大丈夫だった?」
ネギの声が大きかったせいか、周りの女子生徒達が心配そうにムドを伺ってきた。
「すみません、大丈夫です。少し体が弱いだけで、これぐらいは。ね、兄さん」
「良かった、分かれて直ぐにムドに何かあったらアーニャになんて言わ、ハッ……ハ」
「え、嘘。兄さん待って!」
「ハックション!」
ムドの制止も虚しく、ネギがくしゃみをした途端、密閉された車内に風が巻き起こった。
魔力制御があまり得意ではないネギの、癖とも言えるものである。
その風が、二月の寒さに対抗して分厚いコートで武装している女子生徒達のスカートをまくっていく。
次々に露になる色とりどりな下着の花園に、羞恥の悲鳴が各所で巻き起こる。
「あっ」
思わずといった感じでネギが口元を押さえるが、何もかも遅かった。
魔法がばれるばれないといった問題ではない。
「カッ、ハ……うぅ」
胸を押さえて、立つ事もままならず膝をついたムドであった。
先程の風は、ネギの魔力が風花武装解除という魔法を無意識に形成したものである。
つまりは攻撃魔法の一種であり、それを間近でムドがうければどうなるかは明らか。
体が防衛反応で魔素を周囲から吸収し、ムドの体から出る事が出来ず暴れまわり始めた。
小さな風船に空気を沢山詰め込んだように、胸の奥で魔力が膨れ上がる。
「ムド、ごめん大丈夫!」
「ちょっと大変、誰か席空けて。男の子が病気みたい!」
「この子、凄く体が熱いわよ。空けて、席を空けて座らせてあげて!」
事前に体が弱いと聞いていたせいか、車内は右へ左へ大騒ぎとなってしまった。
病人のようなムドを相手に、やれ席に座らせろ、いや寝かせろ。
どちらにするべきか迷った挙句、電車は終着駅である麻帆良学園中央駅についてしまう。
今度は駅内のベンチだと、お神輿状態でムドは運ばれていく。
そらからも、やれ脱がせろ、いや寒そうだとコートを何重にも着せられたりと。
救急車を呼ばれる事だけはなんとか避けられたが、ムドが落ち着いた頃には乱暴された後のように半脱ぎ状態であった。
ありがた迷惑ではあったが、こちらの為を思ってくれていた為、文句は言えない。
「具合が悪くなったら、近くの大人に直ぐに言うのよ!」
「気をつけて行くのよ!」
「ありがとうございました。ネカネお姉ちゃんの言った通り、日本の女性って親切だな」
最後まで残ってくれていた女子生徒が何度も振り返りながら去り、ネギがぺこりと頭をさげる。
とりあえずムドも容態が落ち着いて、呼吸も正常に戻ったからだ。
「ごめんね、ムド……つい、気が抜けて制御出来なかった」
シュンと子犬のようにうな垂れるネギを前に、辺りに人がいない事を確認してからムドが言った。
「半年前より随分数は減ってますよ。でも、気をつけてください。本当に私の死活問題ですから。ほら兄さん笑って。立派な魔法使いを目指す人が下を向いていてはいけません」
「うん、本当にごめん。それじゃあ、ちょっと遅くなっちゃったけど行く?」
「そうですね、もう動けそうです。でも、待ち合わせに遅刻しちゃいましたね」
「大丈夫、僕が全部説明するから!」
電車を降りてから二十分程経っただろうか。
既に次の電車がこの麻帆良学園中央駅へと入って来ようとしていた。
ただし、先程の電車に比べて随分の乗車人数は少なく、一つの車両に五人いるかいないかだ。
その誰もが入り口手前で足踏みしており、自分達と同じ遅刻確定組みだろうか。
急がないとと、ムドがネギの手を借りて立ち上がろうとすると、よろめいて支えられた。
「あう、やっぱりお姉ちゃんに連絡した方が……」
やはりまだ歩くのは無理らしく、ここはネギだけでも先に行かせるべきか。
そうムドが考えていると、
「ああ、良かったここにいたのか、二人とも。その様子だと、ネギ君のくしゃみでムド君が発作を起こしたってところかな?」
馴染みとまでは行かないが、聞き覚えのある深みのある渋い声を投げかけられた。
「タカミチ、そうなんだ。僕がくしゃみをしちゃって、だから悪いのは僕なんだ」
「はっはっは、誰も責めたりしないさ。お迎えの二人とはすれ違っちゃったけど、麻帆良学園へようこそネギ先生、それにムド先生」
「お世話になります。早速で申し訳ないですけれど、背中貸してもらえませんか?」
「お安い御用だよ。ほら、ネギ君もこっちだ」
ネギが必死に支えていたムドを、ひょいっと軽く背負い高畑は歩き出した。
その後ろを慌ててネギが追いかける。
ネギと高畑とでは重ねた年齢が違うので比べるのは酷だが、やはり頼りがいがあった。
背負われたムドは広い背中に安心感を抱き、将来ネギもこんな風になって欲しいと願いながら身を任せる。
すっかり人通りの絶えた通学路を歩き、三人は麻帆良女子中等部へとやってきた。
和風という言葉にまるで喧嘩を売るような煉瓦造りの西洋風な校舎である。
ここは日本だったはずと疑問を抱きながら、ネギとムドは学園長室へと連れられていった。
「失礼します、学園長。ネギ先生とムド先生をお連れしました」
「おお、入ってくれタカミチ君。二人も待ちくたびれとるよ」
待ちくたびれたという言葉に胸を押さえたネギの頭を撫で、高畑が扉を開けた。
その次の瞬間、三人を出迎えたのは、悲鳴にも似た大声であった。
「あーッ!」
焦点の合わない瞳でムドが見たのは、自分を指差す一人の女子生徒であった。
オレンジ色の髪をカウベルのような鈴の髪飾りでツインテールにしている。
左右の瞳で色が異なる事が印象的な少女。
彼女が大声を出しながら、何やら高畑に背負われているムドを指差していた。
なんだろうと、ムドはネギへと視線を向けるがもちろん答えが返って来るはずもない。
「明日菜、言葉になっとらへんえ。可愛え子やな、高畑先生。隠し子?」
「か、隠し……嘘、ですよね。嘘って言ってください、高畑先生!」
「冗談がきついよ、木乃香君。このネギ君が今日から僕に代わって君達A組の担任になってもらう子だよ。ほら僕とは髪の色も違うし、顔つきも似てないだろ?」
日本人形のような黒髪を持つ少女、木乃香に、高畑は笑って答えた。
その答えに、オレンジ色の髪を持つ少女、明日菜が安堵する。
高畑に気がある事が丸分かりな態度であった。
「この度、この学校で英語の教師をやる事になりました。ネギ・スプリングフィールドです」
だがその安堵も長続きはしなかったようだ。
「え……ええーッ!」
「それでこっちの子が、養護教諭……保健の先生をする事になったムド君さ」
ムドが紹介された途端、先程から、ずっと叫んでいるばかりの女子生徒、明日菜が叫ぶのを突然止めた。
「アンタ、大丈夫? 目の焦点、合ってないわよ? と言うか、いい加減に高畑先生の背中から降りなさい。うらやまッ、じゃなくて高畑先生の迷惑でしょ!」
「高畑さん、ここで降ろしてもらって良いですか?」
「お、そうかい?」
確かに学園長室の中でまで背負ってもらうのは悪いかと、自分の足で立って挨拶を行う。
「養護教諭のムド・スプリングフィールドです。目の焦点が合っていないのは、少々病弱だからです。平熱が三十八度なもので」
「ちょッ、そういう事は早く言いなさい。ほら、立ってなくて良いから。ソファーに座る。と言うか、病弱な保健の先生って何、ギャグなの!?」
律儀にムドを抱えて即座にソファーに座らせてから、叫び直す。
「急に優しくしても、突っ込みは忘れんのやな。と言うか、明日菜忘れとるやろ。この子が私らの担任やて。ウチ、近衛木乃香。ほいであの子が明日菜。よろしくな、ネギ君」
「よろしくお願いします。木乃香さん、それに明日菜さん」
「そこ、普通に話を進めない。学園長先生、一体どういう事なんですか!?」
「まあまあ、明日菜ちゃんや」
自分の執務室でありながら、これまでずっと無視される形となっていた学園長がようやく話を振られ、なだめるような声をあげた。
明日菜とは対照的に落ち着き払って、長く伸ばした白い顎鬚を撫でている。
白髪や顔に刻まれた皺の数は、魔法学校の校長と変わらないが、威厳という意味では校長の勝ちであろうか。
もっとも、恐らくは一般生徒である木乃香や明日菜がいるからかもしれないが。
この日本にある最大級の魔法組織、関東魔法協会の会長である。
それに魔法学校の校長とは、長い付き合いの友達だとも聞いていた。
きっと、校長と同じく優しくも厳しい人なのだろうかと、ムドはその朗らかな笑みから想像していた。
「まずネギ君には教育実習という形で今日から三月まで過ごしてもらう。ムド君の方は……」
ネギのときとは違い、何やら意味深な視線を向けられる。
「一応の形として臨時の養護教諭というぐらいかの」
「だからちょっと待ってくださいってば。大体子供が先生なんておかしいじゃないですか!」
「大丈夫だよ、明日菜君。ネギ君は頭が良いから、ムド君は博士号だってもってるよ」
「はか、え……うそ」
自分の低空飛行な成績を思い出し、明日菜が固まる。
すると今のうちだとばかりに、学園長が話を進めていく。
「二人とも、この修行はおそらく大変じゃぞ。駄目だったら、故郷に帰らねばならん。二度とチャンスはないが、その覚悟はあるのじゃな?」
「は、はいっ。やります。やらせてください」
「兄さんの為に、頑張ります」
「……うむ、分かった。では、今日から早速やってもらおうかの。ネギ君の指導教員のしずな先生を紹介しよう。しずな君」
「はい」
先程ムド達が入ってきた扉が開き、一人の女性が入ってくる。
二十代後半、ネカネをさらに大人にしたような女性であった。
ただ学園長はネギの指導教員と言ったが、それではムドの指導者は誰となるのか。
そんなムドの視線を察して、学園長が笑みを浮かべた。
「ムド君には君の姉であるネカネ君が補助につく事になっておる。ここは女子中だからの。女性でなければ出来ない仕事もある。今は、寮の方に出向いとるアーニャ君の指導もしてもらう予定となっとるよ」
しずなは定かではないが、ネカネはムドとアーニャの師匠も兼任というところか。
もっとも、ムドは魔法使いとしての師匠がいたところで、あまり意味はないが。
「それでは木乃香と明日菜ちゃんも、しずな君と一緒に二人を案内してくれるかな?」
「て、気がつけば話が終わってる。ああ、もう。この子を保健室に放り込んでくれば良いんでしょ? 木乃香としずな先生は、そっちの子をお願い!」
「神楽坂さんは何時も、元気ね」
「それが明日菜やから。ほな、行こか。ネギ君」
口では文句を言いながらも、誰よりも率先して行動しているのは気のせいか。
恐らくは、そういう性格なのだろう。
学園長と高畑に挨拶をして退室してから、ムドはネギと分かれた。
何やらぷりぷりと怒っている明日菜に、仕事場となる保健室へと案内される。
その足取りは少し速く、時々頑張って走っていると、振り返った彼女がそれに気付いて足を遅めた。
ぺこりと頭を下げるとふんっと顔を背けられるが、今度は走らずに済む速度であった。
やがて辿り着いた保健室の扉を開けると、消毒や薬の独特な匂いに出迎えられ、胸が少しスッと涼しくなっていく。
「ほら、ここが保健室。頭が良いなら、一発で憶えられるでしょ? じゃあ、私はいくから。指導の人が来るまで大人しくしてなさいよ」
「ありがとうございました。あ、それと明日菜さん」
「なによ、まだなんかあるの?」
「高畑さんとの事、応援してます。頑張ってください」
今正に閉めようとしていた扉を開け、明日菜が舞い戻ってくる。
そして首根っこを掴もうとした手を、病弱という言葉で自制し、掲げた手の降ろし場所に困りながら叫んだ。
「なんで、初対面でバレたわけ。なに、アンタエスパー。博士号ってエスパーに与えられるものだっけ!?」
「いえ、私が高畑さんに背負われてる時、明日菜さんが羨ましいって言いかけたじゃないですか。私、明日菜さんみたいなお節介な人は好きなので、応援してます」
自爆が原因かと、首根っこを掴もうとした事を自制した自分を内心で明日菜は褒める。
だが、さすがに自分よりも小さなムドに淡い想いを知られた事は悔しかったらしい。
赤面しつつも、ムドの頬を手でギュッと挟み込み、顔を近づけて凄む。
「良い、絶対に高畑先生に言わないでよ。ガキが大人の恋愛に顔を突っ込まない。でも、まあ応援してくれるって言うなら、ありがたく受けとくわ」
「しませんよ。けど、相談ぐらいなら受け付けますよ。日本の養護教諭は、そういうのも仕事なんですよね」
割と本気で言ったのだが、生意気を言うなと鼻の頭をデコピンされた。
「全く、何処で仕入れた知識よ。気が向いたらね。大変だろうけど、頑張んなさいよ。じゃね」
「はい、明日菜さんも授業頑張ってください」
廊下をしばらく歩き、子供が気付いて何故高畑が気付かないと頭を抱えている明日菜を見送る。
何だかんだ言いつつも、面倒を見てくれるようなお節介な人が好ましいのは本当の事だ。
それに、高畑はまだ独身だったはずなので、若い恋人が出来たらきっと嬉しいだろう。
ムドは、明日菜と同様に高畑の事も好きだ。
自分と同じように呪文詠唱が出来ないハンデを追いながらも、立派な魔法使いの呼び声が高くなるまでなった人だから。
父の友人というマイナス面はあれど、尊敬に値する人である。
「さてと、姉さんが来るまで……アレ?」
一人になった途端、膝が折れ、四つん這いになるように転んでしまう。
床を見つめる視界が、水の中に潜ったように滲んでおり、急速に熱が上がり始める。
知らない人にたくさん会い緊張していたせいか、それとも電車でネギの魔力を受けた事が響いているのか。
少しまずいかもと必死に立ち上がって、保健室の扉に鍵をかける。
それから窓に白いカーテンをかけて、外からの視界を完全に遮断すると、ポケットから一枚のカードを取り出した。
ネカネと結んだ仮契約のカードであった。
それを額に触れさせ、カードの機能を使って念話を飛ばす。
基本的に魔法が使えないムドだが、道具によっては例外もあり、その一つが仮契約のカードである。
「姉さん、聞こえる? ちょっと熱が出てきてしまって……」
しばらくの沈黙が続き、取り込み中かと諦めた頃に反応があった。
『え、た……大変直ぐに。あ、でも待って。ちょっと立て込んでて、電車の時間も』
「電車なら心配ないですよ。今から姉さんを召喚しますから」
『え、ちょっと待ッ』
何やらネカネが慌てているが、結構な緊急事態であるのだ。
突然ネカネがいなくなり、アーニャが驚くだろうが後で謝ろうと思いながらカードの機能を使う。
「召喚、ムドの従者。ネカネ・スプリングフィールド」
カードが自動的にムドの魔力を吸い上げ、召喚の魔法陣を目の前に描いてくれる。
ただしその魔力は微量であり、とてもムドの具合を改善させるには至らない。
やはりネカネの手により、直接魔力を抜くのが一番効率が良いのだ。
そしてカードにより描かれた魔法陣から、ネカネが転送された。
つい今しがた分かれた明日菜と同じ、麻帆良女子中学校の制服を着たネカネが。
あがり出した熱の事も忘れて、茫然と見つめてしまう。
「姉、さん? 髪型まで、ツインテールに変えて、一体何を」
「ち、違うのよ。アーニャのお仕事に生徒の服のクリーニングもあって、ほら日本の学校の制服って可愛いのが多いじゃない。実は憧れてて、それで最近の子は結構発育も良くて」
「私もまだまだイケるんじゃないかと、悦に入っていたと」
「は、はい……」
ついに諦めたように、チェックのスカートを両手でギュッと握りながら、真っ赤な顔でネカネは頷いた。
その真っ赤な顔を覗き込んでみれば、化粧の仕方も普段と異なり、顔つきが幼くなっている。
明日菜や木乃香と並んでも、なんら遜色ないように見えた。
熱に浮かされた今のムドの見識では、やや怪しい評価でもあったが。
「普段の姉さんも綺麗ですけど、今の姉さんも可愛いですよ。借りた人には申し訳ないですけど、我慢出来ないんです」
より一層、顔を赤くしながらも、ネカネは拒否の言葉や行動を示さなかった。
それを同意と見たムドは、正面からネカネに抱きついた。
顔が胸の下に受け止められ、嗅ぎ慣れた甘い匂いに混じって、別の女性の匂いが感じられる。
恐らくはネカネが勝手に借りた誰かの匂いだろうが、まるで女性二人を同時に抱きしめているようだ。
ネカネはそれを感じないのか、体を丸めるように抱きしめ返してムドの匂いを吸い込んでいた。
「ムドの匂いがするわ。ちょっと汗の臭いも」
そう呟いたネカネの呼吸が妙に荒い。
少し考えれば分かるが、他人の制服を着るなど、アーニャの傍でするはずもなく、一人きりであったはずだ。
そして仮契約をして以降、異常な程に性に対してアグレッシブとなった事を考えると、想像はつく。
「あ、こらムド。いきなりそんな所、順番は。ん……指、ムドの指が気持ち良い。もっとして」
チャックのスカートの中へ手を伸ばし、ショーツの上に指を走らせる。
するとピッタリと肌に張り付いた布地の上を走るはずが、ぬるりとした感触と共に指が埋もれてしまう。
これ以上ない、決定的な証拠であった。
「姉さん、もしかして一人でシテたんですか?」
上目遣いに尋ねると、召喚された時以上に顔を赤面させて唇を固く結び、首を横に振られた。
首が振られるたびに、ツインテールに括られた金髪が翼のように波打つ。
その様子では肯定しているも同然だが、求めているのは言葉での返答だ。
正直なところ、一刻も早く魔力を抜くべきなのだが、先に頭のネジが外れたらしい。
頭より先に指が動き、ショーツの上から秘所をなぞる。
ムドの指の動きに反応するように、腰が引けたネカネの体がビクンと震えた。
「ん、んーッ!」
そのまま擦り続けていると、固く結んだ唇から呻くような声で抵抗される。
声ではなく言葉、それが欲しいと、ムドはさらに指の進行を進めて、ショーツの上から秘所を指で割っていく。
その先にあるものを察したのか、ネカネの足が震えていた。
「一人でシテいましたよね?」
再度の確認にも、ネカネは首を横に振ろうとしていた。
だがその首が横に往復するより先に、ムドは秘所の中に隠れていたクリトリスを掘り当て、爪の先でカリッと擦りあげた。
一瞬ネカネの体が浮き上がり、ムドを抱きしめながら腰砕けになっていく。
頭を抱きしめていたはずの腕はムドの首に掛かっており、ネカネの顔が目の前まで落ちてきていた。
「頑固なのは、スプリングフィールドの家系なんですかね?」
カリカリと今度は連続して、爪でクリトリスを引っかいていく。
その度にネカネの腰が引け、体勢が崩れていくが、逆の手でお尻を抱き寄せる。
「次は、爪で抓ります。イクのは構わないですけど、床を汚しちゃだめですよ。私の新しい仕事場なんですから」
そうネカネの耳元で呟き、はっきりと分かるようにゆっくりと指を秘所に埋没させていく。
「……から」
蚊の鳴くような声での告白は、あっさりと無視する。
最初に中指の爪を下から伸ばし、クリトリスをさせるようにして、上から親指の爪で押さえた。
後は力を込めるだけ、その時になってついにネカネが折れる事になった。
「だって、移動中は出来ないのに、ムドがアーニャとの事を見せ付けるから。我慢出来なくて、オナニーしてました。お姉ちゃんは、人様の制服を着てオナニーしてました!」
「駄目じゃないですか。アーニャのお仕事の邪魔をしては、でも言えないですよね。だから、私が罰を与えてあげます」
「あ、駄目。あッ、イク、そんな事されたらイッちゃう!」
ショーツ越しとは言え、強めに抓りあげた瞬間、ムドでは支えきれない程にネカネの体が痙攣を起こした。
促がしたムドが驚く程の反応に、頭を打たないように注意して床に降ろすのが精一杯であった。
今度はパイプベッドの近くなり、場所を考えようと思いながら果てた姉を見下ろす。
赤みを帯びた顔を隠すように腕を額に乗せ、荒い呼吸で喘いでいる。
愛液にまみれたショーツを隠そうともう一本の腕をスカートに伸ばしているが、目的を果たしているとは言えなかった。
腕はお腹の辺りで止まっており、まくれたスカートから愛液にまみれたショーツが覗いていた。
「うぅ……ムドのばか。オナニーしてたなんて、言いたくなかったのに。言わされた挙句、指だけでいかされて。ばかぁ」
涙交じりの声に、さすがに罪悪感が湧き上がってくるはずだった。
緩慢な動きながら、ネカネがショーツを脱ごうとさえしていなければ。
さらには、自分で両足の太ももを抱え、秘所を見せ付けるようにさえしていなければ。
「責任とって、お姉ちゃんをムドのでイかせて。ほら、ここ。お姉ちゃんの中に来て」
言葉のみならず、秘所を両手で開かれ誘われる。
今は女子中学生にしか見えない姉を、保健室で犯すなど言語道断だろう。
これからの養護教諭としての生活が不安にさえなるが、抗えるはずがない。
それにそろそろ本当に、体の限界も近かった。
ムドはその誘いを受けて、スーツのズボンのベルトを外し、トランクスをずりさげた。
「姉さん、いきます」
「来て、ああ……来た、ムドのが入ってくる。私を押しのけて、無理やり」
ネカネの体重を自分だけでは支えられない為、腰だけを突き出しムドは前のめりとなる。
そのまま前へと両手を伸ばし、分厚いブレザーとシャツに覆われた胸へと手を伸ばす。
厚い布地に覆われた向こうに柔らかい肉がある、そのもどかしさにさらに腰を進めた。
「あん、ムド焦っちゃだめよ。押すだけじゃ駄目、引いて押して。そう、腰を使って。お姉ちゃんが教えた通りにね」
名残惜しいが胸は諦め、ネカネの腰を掴んで固定し、自分の腰を前後にグラインドさせた。
膣内で何枚もの舌に舐められるような感触、引き締まったネカネの腰と快楽には困らない。
けれど足りない、先程一度手にしてしまった柔らかさが欲しくなってくる。
気が散れば、それだけ腰の動きも緩慢になってしまった。
「ほら、頑張ってムド。ご褒美上げるから」
そう呟いたネカネが、ブレザーのボタンを外し、さらにはシャツを肌蹴させる。
最後の砦はライムグリーンのブラジャーであるが、そこで止めてしまう。
「姉さん……」
「可愛い、餌を取り上げられた子犬みたい。でも駄目よ、まだ腰がおろそかになってる。ちゃんとしないと、ご褒美はお預け」
「絶対、後で憶えておいてください。くぅ!」
「あん、そう。ムドは出来る子よ。もっと、力一杯ぱんぱんしてぇ」
ご褒美欲しさに、ムドの腰が加速していった。
そして性器同士の淫らな拍手を、一心不乱に叩き続ける。
繰り返すたびに、あふれ出す愛液が飛び散り、より肌をぶつけ合う音が大きくなっていく。
「来た、お姉ちゃんまたイク、またイッちゃう。ムドも、今度はムドも一緒に!」
「姉さん、出すよ。姉さんの中に、精液出すよ!」
「出してお姉ちゃんの中に、手伝ってあげるギュって絞って!」
「姉さん!」
ネカネが太ももを抱えていた腕を下から回し、ムドの袋をそれぞれの手で握り締める。
瞬間、ムドの腰が跳ねて、コレまで以上に強くネカネの秘所へとねじ込まれた。
二度、三度とムドの腰が跳ねるが、一度目よりは小さかった。
竿を通してネカネの膣へ、その奥の子宮へと流し込まれていく。
「はあぁ……ムドの精液、温かい。もっともっと欲しい。お姉ちゃんに飲ませて」
「そんなに何度も、絞らないで下さい」
射精が止まるたびに、ネカネがムドの袋を握って搾り出す。
やがて力尽きたようにネカネが腕を落とし、抱えていた足も床の上に落ちる。
だがムドは、ご褒美を貰ってはいない。
了解すらとらず、ブラジャーへと手を伸ばしてずらす。
ようやくお目見えとなったネカネの胸に、倒れこむようにして口に先端を含む。
舌でころがし、ミルクではなく母性を吸い上げるように吸い付く。
「ふふ……大きな、赤ちゃん。あんなに出したのに、また腰を動かして。ムドの匂いが染み付いちゃう。ねえムド、私の胸はそんなに美味しい?」
「ええ、美味しいです。姉さんこそ吸われながら、出されるの好き、ウッ」
「あは、まだまだ出るわね。それじゃあ、次は姉さんが上になる番ね。あらあら、このまま続けられそうなほど硬いわね」
ムドを抱きしめ、ごろりと転がり、上下逆転する。
最高で連続五回の経験を持つムドは、元気であった。
抜かずの二回目に突入して、ネカネが気だるげに腰を動かし始める。
だが行為に没頭する二人は忘れていた。
ネカネは女子中学生の制服を着たまま保健室に召喚され、寮に戻る為の服を用意していない事を。
気付くのは、借り物の制服をムドの精液で汚しきった後であった。
-後書き-
ども、えなりんです。
四人が麻帆良に到着、比較的何も起こらず。
今回はエッチも軽くて短め。
しばらく相手はネカネのみなので、シチュを懲ります。
第一弾としてネカネのなんちゃって女子中学生。
感想の返信は感想板の方で行います。
それでは、次回は土曜日の投稿です。