第十八話 刻まれる傷跡と消える傷跡
寮からほど近い、人払いがされた森の中。
早朝にムドから呼び出された刹那は、制服姿で夕凪を鞘から解き放って正眼に構えていた。
夕凪の刀身が枝葉の隙間を潜り抜けてきた朝日を照り返す。
まだ完全に怪我が治りきっていない今、その刀身がわずかにゆらゆら揺れる。
その刹那が向かい合う相手は、ムドでなければ、人間ですらなかった。
両手を広げてもまだ全長に届かないぐらいに大きな岩である。
もちろんそれがゴーレムで、突然動き出したりもしない、完全な無機物だ。
「ではお願いします。キーワードは、教えた通りに」
「ふん……契約代行、無制限。ムドの従者、桜咲刹那」
鼻白んだような声を出した後で、刹那が仮契約カードのコピーをポケットから取り出した。
夕凪は右手で支えつつ、仮契約カードのコピーを目の前に立てる。
そして、教えられた通りにキーワードを呟く。
主から従者へと魔力を与えるのではなく、従者が勝手に主の魔力を吸い上げる契約執行の亜種だ。
もっとも他者に魔力を委ねるなんて奇特な人がいるはずもなく、昔の犯罪者が作り出した外法でもあった。
刹那の言葉により、仮契約カードその身にムドの魔力が流れ込んでいく。
先日、ムドの精液を受け止めた膣の先、子宮から体全体を犯していくように。
「んふぅ、この程度の快楽に」
「快楽とは認めるんですね」
魔力に包まれ、艶やかな吐息を漏らした刹那に尋ねると、ギロリと睨まれた。
明らかに非友好的な態度だが、ムドがしでかした事を思えば優しいぐらいだ。
今ここでムドの魔力を使って斬られても文句は言えない。
「行くぞ。神鳴流……」
トンッと軽く地面を蹴り上げた刹那の体が、いとも容易く上空へと上り詰める。
五メートル近いだろうか。
その上空にて体勢を整えた刹那が、朝日を受けて鈍く光る夕凪を閃かせた。
「斬空閃!」
宙を斬った夕凪の刀身から、魔力の刃が放たれた。
それが向かう先は、先程まで刹那の手前数メートルにあった大岩である。
気と全く同じように魔力が扱えた事に、技を放った刹那自身少し驚いていた。
だが本当に驚くべき光景は、放った直後からであった。
刃に形を変えた魔力が確かに、夕凪から放たれていた。
ただしその大きさが問題なのだ。
三日月型の刃となった魔力は、全長が五メートルは超えている。
その三日月形の刃が大岩を破壊ではなく、斬り裂き、その先の地面までもを割っていた。
まるで空に浮かぶ三日月がそのまま大地に落とされたような光景だ。
「は?」
地面に降り立った刹那の第一声が、それであった。
斬空閃は純粋に気の刃を飛ばす技で、斬れ味は斬岩剣に劣る為、岩はもちろん斬れない。
なのに普段通りに技を放ったはずなのに、斬岩剣以上の威力となっていた。
「こ、殺す気ですか……」
「え、あ……も、申し訳ありません!」
地面の切れ目はムドの足元にまで至っており、珍しい事にムドの顔色がやや青ざめていた。
あと三十センチでも魔力の刃が大きければ、斬られていた事だろう。
さすがの刹那も、恐縮して平謝りであった。
その刹那を手で制してから、ムドは一度考え込んでから口にした。
「本当ならアーティファクトも試してみたかったですけど、止めておいた方が良さそうですね。流石に森を破壊するような事は避けたいですし」
「ムド、先生の魔力が大きすぎるんです。私の未熟も在りますが……その方が、懸命です」
「なら今日はこの辺りにしておきましょう。刹那さんも明日からは、兄さん達と一緒に修行してくださいね。明日菜さんに剣を教えて欲しいので」
それじゃあと去ろうとするムドを、慌てて刹那が止めた。
「そ、そんな勝手な私はお嬢様の護衛で……とても、お傍になど」
「それは刹那さんの事情でしょう? 私には関係ありません。良い機会なんじゃないですか。遠くで見守るボディーガードなんて聞いた事もありませんよ」
グッと言葉に詰まる刹那を尻目に、それではお願いしますと今一度手をあげる。
今日はまだ、ネカネとの朝のお勤めがまだなのだ。
一度刹那が技を使ったぐらいでは到底魔力の消費が足りない。
こうして早朝の貴重な時間を使っているのだから、なおさら急がねばならなかった。
だからまたしても刹那に呼び止められては、多少不機嫌になっても仕方のない事だろう。
「待ってください!」
「もう、なんなんですか。急いでいるんですけど……」
「あ、う……その」
鞘に収めた夕凪を制服のスカート辺りで横に持った刹那が、足をもじもじさせている。
正確には両足の付け根、秘所の疼きを納めようと太ももを擦り合わせていた。
ただ呼び止めた時の威勢はどうしたのか。
瞳を潤ませながらムドを見つめるだけで言葉が出てこない。
いくら契約代行による魔力で体が疼いているとはいえ、抱いてくれとはとても言えないのだ。
処女を散らしたとはいえ、まだまだ花も恥らう乙女。
ムドが獣欲に身を任せて、無理やり刹那を抱くという体裁をとらなければならない。
刹那は失った力を取り戻す為に、木乃香を守り続ける為に、仕方なくムドに抱かれる。
自業自得な部分は多少あれど、力を得る事を代償に純潔さえ奪われた。
怒り、嫌悪、感情は様々だが、ムドの魔力に犯された体は正直であった。
体は抱かれたがっているのに、全ては木乃香の為という想いが、刹那を縛り付けていた。
「なにか?」
相手がネカネやエヴァンジェリンならば、ムドもそれがお誘いである事は分かっただろう。
だがムドは刹那の方から誘いを掛けてくるとは、思いも寄らなかった。
どんな綺麗ごとを並べ立てようと、ムドがしたのは女性に対する最大の罪であるレイプだ。
自分が下衆だという自覚はあれど、やはり愛がなければ抱き合いたくはない。
簡単に他人を切り捨てるのは良いが、無駄に他人を蹂躙する事だけはしたくなかった。
「なにか用であれば、またにしてください。修行の件も心の折り合いがつかなければ、明日までは待ちます。良いですね?」
「あ、はい……」
念を押したムドが急ぎ足で去っていくのを、所在なさげに見送るしかなかった。
どうして何もしないのかという思いは言葉にならない。
早朝に呼び出され、結局したことと言えば刹那が戦えるかどうかの確認だけ。
我知らず瞳の中に滲んだ涙を拭い、刹那は自分が木乃香の剣であると何度も心の中で繰り返していた。
じわりと染みが浮かぶスパッツの事を忘れるように。
やはりと言うべきか、ネカネとの朝のお勤めは中途半端に終わってしまった。
お互いに体を持て余しながら、起きてきたネギやアーニャと共に朝食を取る。
それから今日も元気にネギは修行へ向かい、アーニャも遅れて参戦の予定だ。
ならばその後で、というわけにもいかなかった。
ムドはムドで保健医としての仕事があるし、今日は亜子の背中に薬を塗る日である。
魔力が抜けきらず、ぼうっとする頭を抱えながら保健室へと急いだ。
「亜子さん、おはようございます」
「あっ、ムド先生……きゃッ、すみません!」
保健室の扉を開けようとすると、反対側の廊下から走ってきたのか扉の取っての上で亜子とムドの手が重なった。
その亜子が驚いて飛び退った時、履いていたスカートの裾がふわりと舞う。
やけに短いそれは内部を隠す意図を放棄し、淡いピンクのショーツが半ばまで見えていた。
淡いピンクのレースがついたショーツである。
ただ問題なのは、普通のショーツではなくエヴァンジェリンが愛用しているタンガタイプだったのだ。
改めて亜子を見上げると、他所行きの格好は何時も通りだが何か少し気合が入っていた。
カーテンを何重にも重ねたようなティアードチェックのスカートは丈がやけに短い。
長袖の黒いティーシャツは、肌にピッタリと張り付いて胸のポッチが浮かんでいる。
しかも、ムドがショーツを見た事に気がついているはずなのに、何も言わなかった。
むしろムドが見た事を潤んだ瞳で確認したかのような節がある。
「今日はまた、一段と可愛らしい格好ですね。お似合いですよ」
「そ、そやろか。なんや派手すぎかなって思っとったんやけど」
亜子の意図はどうあれ、褒めておいて損はないと照れる亜子を見ながら保健室の鍵を開ける。
保健室の時計を確認すると、まだ九時半と亜子が来るには少し早い時間であった。
分かりやすいと言えば、分かりやすい。
春休みは残り数日であり、薬を塗るのもあと僅かとは言い聞かせてある。
媚薬による体の火照りを上手く勘違いしてくれた亜子が勝負に出たという所か。
「少し雑務がありますので、そこで待っていてください」
「なら何時も通り、ベッドでムド先生の事を待っとるえ」
挑発のつもりか、そんな自分の台詞に赤面して亜子は俯いてしまう。
そんな亜子を尻目に、ムドは執務机に座って本当に雑務を片付け始めた。
それにしても亜子を従者に加える事ができれば、ネギと同じ五人目の従者となる。
まだ未熟な面々も多いが、やはり完成形に近い刹那の加入は大きかった。
亜子がどんな従者になるはか未定だが、ムドも一通り前衛後衛、治癒と揃った事になる。
刹那と明日菜が前衛、アーニャが後衛でネカネが治癒、亜子は何処に入るのか。
(それもまずは、亜子さんを手中に収めてからですね。餌を目前に、落とし穴に落ちるのは御免です。朝のお勤めが中途半端だったですし)
就業日誌に出社時刻と目的を記述し、引き出しに仕舞いこむ。
それから代わりに亜子専用の媚薬入り傷薬の瓶を手に、執務机を立ち上がった。
向かう先は、パイプベッドに腰掛けながら頭を抱えて振り回している亜子である。
(ウチの阿呆、十歳のムド先生に分かるわけないやんか。もっと、お姉さんっぽく……ムド先生にはネカネさんがおった。あかん、勝てるわけがあらへん!)
何を考えているかは、ムドには分からなかったが、亜子が一杯一杯である事は一目瞭然であった。
だからここで思い直されないようにと、あえてこちらから引いてみる。
「亜子さん、顔が赤いですよ。春先とはいえまだ冷えます。薬は背中全体に塗るので、体調が優れないのであれば……」
「全然、平気です。何時も通り、直ぐ脱ぎますから!」
さすがに格好から気合を入れていたせいか、直ぐに亜子はくいついてきた。
さらには慌てたようにティーシャツを脱ごうと、裾をまくり上げ腕にかける。
気付いたのは、室内に吹くかすかなそよ風が、直接胸に触れたからだろうか。
半分以上脱いだティーシャツの下から、ブラジャーをしていない亜子の胸が露となっていた。
脱ぎかけのティーシャツで顔が隠れたまま、亜子が固まっていた。
ちなみに亜子の顔が隠れている事を良い事に、ムドはガン見であった。
刹那の胸よりも一回り大きく、ネカネの胸より三回りも四回りも小さい。
だがその分、乳房の重さに負ける事なく乳首が堂々と上をツンと向いていて綺麗である。
その賞賛に値する胸も、慌てて下げられたティーシャツの奥に隠された。
「ちゃ、ちゃうんねん。これは……ブラジャー全部洗濯してん。それで、それから!」
「亜子さん、落ち着いてください」
目をぐるぐる回しながら懸命に言い訳をする亜子に言い含めても、効果は薄い。
この状況に耐えられなくなったのか、亜子が立ち上がると同時に走り始めた。
「やっぱり体調が悪いんで、薬は今度にしてください」
亜子の心変わりに焦ったのは、ムドだ。
一度目の決心を逃すと、二度目は一度目の失敗を気にして気後れしやすい。
折角のこのチャンスを逃してはと、思った時には遅かった。
(あ、まずッ)
ムドもムドで色々と、下半身的な意味で溜まっていた為、思わず走り出した亜子の足を引っ掛けてしまった。
足は直ぐに引っ込めたが、亜子は思い切り床にずっこけていた。
気合をこめて履いてきたティアードチェックのスカートから、勝負パンツが丸見えであった。
それはともかく、ムドは血の気が引く思いである。
高価な薬を無償で提供してまでと、慌てて亜子に駆け寄って抱き起こす。
「亜子さん、大丈夫ですか。怪我とか、していませんか?」
「もう、いやや」
その言葉に、全て終わったとムドは思った。
「ヒック……なんでやの。今度こそ、ちゃんと主役になれる思ったのに。失敗ばっかり、脇役は一生脇役なんか」
少し赤くなったおでこも気にせず、亜子は流れ落ちる涙を拭い続けていた。
どうやら、ムドが足を引っ掛けた事には気付いていないらしい。
安堵もあるが、それは一先ず置いておいて亜子の傷の具合を見る。
赤くなったおでこは少しすったぐらいで、肌に傷の一つも見えてはなかった。
転んだ時に怪我をし易い膝や肘も、赤くはなっているが出血する程ではなかったようだ。
それから改めて安堵し、亜子が呟いた脇役という言葉にハッとする。
(あんな傷が背中にあったら……それも女の子なら、普通そう思いますよね。亜子さんも、私と同じ脇役でした。脇役だったんです)
刹那の事で愛がなければと思っていたくせに、性欲を優先させようとした自分を戒めた。
確かに自分は、弱い自分を守る為に、強い従者を求めている。
だがその他人が自分の従者になった途端、その人は自分にとっては小さな手の中にある宝物の一つになるのだ。
こちら側に引きずり込んだ代償に、可能な限りの愛を捧げる。
それが下衆に落ちながらも、ムドが胸に掲げた最後の矜持だ。
(刹那さんにも、二度と手を出さないでおこう。それが、今の私に出来る刹那さんへの愛し方だ。逆に、亜子さんが私を求めるのなら)
しゃくり上げながら涙を拭き続ける亜子の瞳に、指先を添えて溢れるそれをすくいあげる。
涙はそれでも止まらなかったが、亜子の注意は十分にひけた。
「亜子さん……私は、亜子さんの事が大好きですよ。脇役だった日々は、とうの昔です。完璧な主役になる為に、薬塗りましょう?」
「ムド、先生……ほんまに、ウチでも主役になれるやろか。確かに傷は消えるかもしれへん。けれど、傷がなくてもウチはウチや。引っ込み思案で、今までだって傷が良い言い訳になっとっただけで」
男女問わず、亜子のように傷を持っていても人生を謳歌する者はいる。
確かに単純に傷が消えただけでは、亜子が望む主役が転がり込んでくるわけではない。
やはりそこで必要なのは主役になろうとする努力であり、意志だ。
そういう意味では、特に意志が足りない事に気付いているのだろう。
俯こうとする亜子の顎に手をかけ、キスをする時のように視線を自分へと向けさせた。
「だったら、私が付き合います。亜子さんが自分に満足出来て、多くの人の前で私が主役だと誇れる日まで。今度は引っ込み思案を治す、心の薬を探しましょう?」
「一緒に、探してくれるん? ウチが、主役になれるまで」
「ええ、なれるまで。一生付き合いますよ」
一生という言葉に、亜子の涙がついに止まった。
今まで流れ落ちていた涙を蒸発させる勢いで、顔を赤面させていく。
そして今度こそと、亜子はスカートを両手で握り締めながら、ムドに尋ねた。
「ムド先生は、年上は好きですか?」
ついに来たと、その問いかけを前にムドは隠れて拳を握っていた。
だがまだ慌てるなと、自分に言い聞かせながら分からない振りをして小首をかしげる。
「あの、アーニャちゃんがいる事は分かってます。ムド先生はまだ子供で、私は四つも年上で。最初はただ感謝してるだけだと思っとったんよ。この背中の傷を消してくれる、魔法使いみたいな尊敬できる人」
しつこく分からないという表情を顔に浮かべ、真摯な亜子の瞳を見つめる。
「やけど、段々……薬を塗ってくれる小さくて柔らかい手が、好きになって。傷が消える事より、ここに来る事が、ムド先生に会いに来る事の方が大事になってん。だから」
「亜子さん、まさか……」
「好きです。ムド先生の事が、大好きです。時々、エッチな事を考えてまうぐらい」
そう言いきられた瞬間、抱き起こしていたはずのムドが逆に抱きしめられていた。
ムドは常々、アーニャが好きだと公言している。
そのせいか拒絶されないかと、抱きしめながらも亜子の体は小さく震えていた。
玉砕を恐れ、強く抱きしめてくる亜子の体をムドもそっと抱きしめ返す。
直接的な言葉は用いず、アーニャへの気持ちを言及せずに誤魔化していく。
「ウチ、もういややから。振られるのは勘弁やから止められへん。ムド先生、堪忍な」
覆いかぶさるように、ムドへと亜子が唇を押し付けてきた。
これ以上時間を与えて、拒絶の言葉を口にさせないとばかりに。
直前の言葉が示す通り、そんな亜子の行動は振られた経験があってこその行動なのだろう。
お互いに瞳を閉じて、唇を触れ合わせるだけのキスを続ける。
校庭から響く部活動の声が、保健室内の時計の針が時を刻む音が妙に耳に残る時間であった。
長い、長い時間を置いて、亜子が唇を離して微笑んでくる。
「ほんまムド先生、かわええな。唇も柔らかくて、想像した通りに気持ちよかったん」
「私の台詞、全部とられちゃいましたね。何も、言う事がありません」
「そのまま、何も言わんといて」
ムドの唇に人差し指を当て、亜子が口止めを行ってきた。
振られるかもしれない答えを得る事よりも、今のこの繋がりを大切にしたかったのだろう。
「ムド先生、ベッドに座って。ウチが……気持ちええ事してあげるわ」
今は亜子に任せようと、ムドは言われた通りパイプベッドの上に座り込んだ。
ベッドの縁から足を投げ出した形で座り、その正面に亜子が跪く。
スーツのベルトを外され、チャックを下ろされてトランクスも下げられる。
半立ちながらもトランクスの中から出てきた異物のようなそれに、亜子が目を向いた。
刹那もそうだったが、そんなに大きいだろうかと当の本人であるムドに自覚はない。
ネギは風呂嫌いであまり一緒に入った事もなく、比べる相手もいなければ、比べる気もあまりなかったのだ。
「こ、これを舐め……」
「亜子さん、無理はしなくても」
「なに言うとるん。ウチに、お姉さんに任せとけばバッチリやて」
そんな口ぶりとは裏腹に、どうして良いか分からず亜子が指先で一物をつまみ上げた。
それはそれで刺激にはなるようで、ムドの一物が膨らみ硬くなっていく。
逐一驚いてはうろたえる亜子を前に、いい加減ムドももどかしくなってくる。
「亜子さんなんだか、切ないです。早く、なんとかしてください」
「分かっとるんよ、分かっとる。手でこうやって」
ようやく亜子の手による愛撫が始まるが、ぎこちない事この上ない。
むしろ愛撫される前よりも、切なさが溜まり、もどかしくなってしまった。
「舌も使ってください」
「……なんか、ムド先生慣れとらへん?」
「私、保健の先生ですよ。性交の仕方ぐらい、一通りの知識はあります」
「ほんまはウチの方がリードせなあかんのに……」
一物の竿をさすりながら、ようやく亜子が亀頭へと小さく舌を伸ばした。
ペロッと一瞬舐められただけで、ようやくかと先走りの知るが亀頭の割れ目を通してあふれ出す。
そのままチロチロと消極的な愛撫が続く。
必要以上に積極的なネカネやエヴァンジェリン、完全にマグロな刹那とも違う。
消極的な愛撫だからこそ、一挙一動に神経が過敏となり、鋭い快感を感じさせられる。
上手いんだか下手糞なんだか、微妙に判断に困るところであった。
「ふふ、震えとるやんムド先生。可愛い、あむ」
数分は舌先だけで攻められ、気分が出始めたのかようやく亜子が亀頭を口にくわえた。
ただし、亀頭だけ。
「もっと深く、咥えられるだけ咥えてください」
「んーん?」
「ええ、そうです。その代わり、私も」
竿を深く咥え込む亜子を見下ろしながら、足を伸ばしてティアードチェックのスカートをまくりあげる。
ピクリと一瞬反応した亜子だが、上目遣いでエッチと呟きながら口淫を続けた。
お許しが出たようなので、膝立ちとなった亜子の秘所へと足を伸ばす。
勝負下着らしき淡いピンクのタンガショーツの上から、円を描くように指先でまさぐっていく。
既にじわりと愛液が染みていたのかすべりはよく、竿を加えた亜子が身悶える。
「濡れてますね。愛液、男性の性器を受け入れる為に女性が膣内から分泌する液体です。逆に言うと、女性が男性器を欲しがってとも言いますね」
「ぷはっ、いやらしい事、言わんといて。気持ちええ事、してあげへんよ?」
「その分、私が亜子さんに気持ち良い事をしてあげますよ」
「むう、言ったな。ならムド先生が、ウチに気持ちええ事してや」
売り言葉に買い言葉、口淫を中断した亜子がパイプベッドの上に上がりこんできた。
服を着たまま仰向けに寝転がり、ティアードチェックのスカートの中に手を入れる。
少し腰を浮かせた後に膝まで下ろしたのは、淡いピンクのタンガショーツであった。
その亜子の上にムドは覆いかぶさり、顔は胸の上に、片腕をティアードチェックのスカートの中に入れた。
ティーシャツの上から胸を甘噛みし、亜子が自分で脱いだタンガショーツに隠されていた秘所の中に指を一本入れる。
「分かりますか? 私の指が入ってるのが、ほらこれです」
「はっはぅ……あかん、喋られへん。ムド先生の指が、ウチの大好きな先生の手がウチの中に。くにくにしとる」
「段々と濡れてきましたね。ほら、音が聞こえますか?」
「ウチ、欲しがっとるん? ムド先生のを欲しがっとるん?」
くちゅくちゅと音をたてられても恥ずかしがらず、むしろ喜んでいるようであった。
そういえば、先程の告白の中でムドの手が好きだと言っていた。
そのせいだろうか。
試しに指を二本に増やし、処女膜を破らないように気をつけながら秘所を広げたり弄ぶ。
「ムド先生、おっぱいも。ウチのおっぱいも手でして。好き、先生の手の平大好き」
「シャツをたくし上げてもらえますか?」
上も下もは、今のムドには体格的に厳しいものがあった。
だがそれでも出来る限りは、亜子の要望に答えてあげたい。
亜子がたくし上げたティーシャツの下から出てきた小ぶりな双丘に手を伸ばす。
揉みがいを得る程まで大きくはないが、弄ぶのには丁度良い大きさだ。
縦に押し潰して突出した乳首にむしゃぶりついてみたり、乳首ごと押し潰してみたり。
ムドが手の平で触れれば触れるほど、秘所から湧き出る愛液の量が増えていった。
本当に、ムドの手の平が大好きなのだろう。
媚薬入りの薬を塗り続けられ、条件反射となっているだけかもしれないが。
「亜子さん、そろそろ良いですか?」
さすがに挿入ともなると、これまでのように気軽には返事ができなかったらしい。
無言のままこくりと頷かれ、ムドは仰向けに寝転がる亜子の両足を抱え込んだ。
邪魔にならないようM字に広げさせ、秘所の入り口に亀頭を押し当てた。
「ムド先生……アーニャちゃんと比べんといて、ただ好きって言ってや。どちらがやなくて、今はウチを好きって言ってや」
「好きです。亜子さんが、大好きです」
好きだと言いながら挿入を始める。
「もっと、もっと言って。ウチの事、好きやって」
「好きです。大好きだから、薬を塗りながらエッチな事を考える事もありました。前に胸に触った時、本当は薬なんてついてませんでした!」
「ウチも、ウチも好きや。背中に薬塗られるたびに、気持ちよくておめこからいやらしいのが出とったんよ。胸は嬉しかったから、許してあげッ、るくぅ」
ミシリと処女膜を押し広げられ、痛みからか亜子の言葉が途切れていく。
痛みを堪えるようにベッドのシーツを握り締め、その痛みの証を誰が与えているのか涙が滲む瞳で見つめていた。
「痛ッ……ええよ。来たってや、ムド先生。そのまま一気に」
「大好きです、亜子さん!」
その叫びと共に、一気にムドは亜子の膣内を蹂躙していった。
小さからぬ悲鳴を亜子があげ、痛みを逃がすように全身を痙攣させながら伸ばす。
ただ痛みそのものに慣れていないようで、ムドが僅かに動くだけでも苦しげに呻いていた。
突き進みも、引き返す事も出来ず、ムドは苦しげにする亜子を見下ろしている事しか出来なかった。
それは一物を愛液と締め付ける膣の感触に包まれながら、拷問にも近い諸行である。
だが言葉に嘘はないと、亜子への気持ちを表すようにムドは耐え続けていく。
やがて、痛みが落ち着き出したのか息も絶え絶えの亜子が、ムドへと微笑みかけてきた。
「まだ、少し痛いけど。ええよ、ムド先生。ウチの中で気持ちようなってや。ウチがお姉さんやから、ちょっとぐらい痛いのは我慢するわ」
「本当に痛い時は言ってください。動きますよ」
「ふぐぅ……痛ッ、くないわ。これぐらい。もっと辛い事ぐらい一杯あったやんか」
膣の中から竿を引き抜き、また突きこむ。
たった一回の挿し抜きを繰り返しただけで、亜子がぐったりと疲れていく。
口ではたいした事のないように言っているが、やはり辛いものは辛いのだろう。
だがここで終わりにとは口が裂けても言えなかった。
痛みを訴えている亜子としても、ここで止められるほどプライドに触る事はあるまい。
ならば、できるだけ早く終わらせるのがせめてもの情けというものだ。
「亜子さん、すみません。一気に、突かせてもらいます」
「え、ぁっ。痛っ……あかんて、そんな急に痛いやなくて熱いッ!」
血と愛液の混ざる亜子の膣内を、普段通りの腰遣いで攻め立てていく。
くちゅくちゅなどと生易しい音ではなく、ごぼごぼと誰かが溺れているような音さえ聞こえる。
「熱ぅ、ぁぅ……痺れて、わけわからんくなってもうた。気持ち、ええ」
熱っぽい瞳で天井を見上げながら、亜子がそんな事を言い出した。
ムドに気を使っているとはとても思えない。
恐らくは本気で、痛みが快感に摩り替わっていったのか。
喘ぐ声も絶え絶えになりながら、亜子の手がムドの手を掴んだ。
そのまま自分の胸へと持っていき、押し潰すように強引に触らせる。
「本当に、私の手の平が好きなんですね」
「あ、ぅぁ。触られるとなんでか、温かくなってぁっ」
「なら協力しますよ。もっと、もっと気持ちよくなってください」
腰を動かしながら、亜子の小ぶりな胸を両の手の平でこね回す。
丹念にこねればこねる程、じわじわと膣の中がすぼまり、締め付けてくる。
そういう風に体が作り変えられてしまっているのだろう。
作り変えたのはムドなのだが。
亜子はすっかり破瓜の痛みが消え失せたようで、快楽だけに気持ちを奪われていた。
そろそろムドの方も、一度目の限界が近い。
体を寝かせてより亜子と体を密着させ、腕を背中の方へと回して少し抱き上げる。
その時、明らかに亜子の体が奇妙な反応を見せた。
「ひゃぅっ、背中はあかん。傷のとこ」
悲鳴を上げて痙攣した亜子が、これまでで一番膣を締め上げてきた。
考えてみれば当然で、ムドが一番触れ、媚薬で敏感に仕上げてきたのは亜子の背中だ。
「あかん、あかんて……」
背中と言う大雑把な部位ではなく、殆ど薄まった亜子の傷跡を指で描くようになぞっていく。
「ひっ、ぅん。あかん、なんか来る。背中、ムド先生の手が連れて来る」
「イッてください、僕もイキます。ほら、私の指が分かりますか?」
「なぞったらんっ、あひゃぁん。イク、イクっっっ!」
腕を首に、足をお尻に回されより奥へと誘われる。
亜子の一番奥で果てたムドも、溜まりに溜まっていた精液を流し込む。
その度に、亜子が短く悦びの声を呻いて上げていた。
浴びるほど膣の中で精液を飲み込んだ亜子は、力を失いムドへの拘束を解く。
それでもまだムドは、足りないとばかりに硬さを失わない一物で亜子の中を蹂躙していた。
隅から隅へと自分の匂いを染み込ませるように、マーキングを続ける。
「やす、休ませて……」
亜子の懇願の声に、初めてなら仕方がないかと腰を動かせるのを止める。
それでも一物を中から抜く事はせず、亜子の上に倒れこんだ。
果てた後の気だるさの中で、より強くお互いを感じるように抱きしめあう。
「エッチ、してもうた。ムド先生は、先生やのに。先生のくせに、ウチより年下やのに」
「とても気持ちよかったですよ。ほら、まだ足りないって言ってますよ」
「あん、もう少し待ったって。腰が痺れて……」
繋がったまま、亜子が少し首をさげお互いに唇を触れ合わせる。
今度は触れ合うだけに留まらず、舌を絡めあい、むさぼりあう。
「好き、ムド先生。大好きや」
「私も、大好きです。だから……」
やはり抱き合うなら愛し合うほうが良い。
改めてそれを確信しながら、ムドは亜子を見上げた。
「亜子さんが主役になれるその日まで、一生お付き合いします。だから、亜子さんの一生を私にください」
そしてプロポーズのような言葉に亜子が頷くと、ムドは再び唇を押し付けた。
パイプベッドの下に隠されていた仮契約の魔法陣が光る。
一体何が起こっているのか、分からないながらも亜子は抵抗しない。
ただただムドと唇を重ね合わせる行為に没頭し、仮契約はなった。
-後書き-
ども、えなりんです。
ムドの弱点は、魔力云々よりも、中途半端に情があること。
前回とは異なり、割とラブいエッチ回でした。
ネカネ? ありゃ、ただの淫乱です。
そして、見事にパワーアップを果たしたせっちゃん。
ムドが鈍感なせいで、しばらく放置プレイとなります。
抱いてくださいと言えた時が「木乃香<ムド」の時です。
次回は春休みの最終日、そして次々回で桜通り編です。
それでは次回は水曜です。