第十七話 復讐の爪痕
ぼんやりと見えてきたのは、見知らぬ二段ベッドの天井であった。
ここは、そう呟こうとした瞬間、刹那の体に電流を流し込まれたような痛みが走る。
だが一瞬で過ぎ去ってはくれない。
最初の痛みこそ一瞬であったが、残照のような痛みがじくじくと溢れてきた。
体のそこかしこから、それこそ一体何処が震源かも分からない程に。
意識がハッキリするにつれ、痛みとそれによる熱をはっきりと自覚出来る様になる。
おかげで視界と同じく、ぼやける記憶の中から昨晩の事を引っ張り出してくれた。
「私は、負けた……のか? おじょう、お嬢さぐぅ」
ならば木乃香はどうなったのかと、跳ね起きようとして痛みに悶える。
上半身を起き上がらせる事も出来ず、この痛みが不可解な事を教えてくれた。
痛みには結構強い方のはずで、この程度ならば過去に何度か受けた事はあるはずだ。
先程のようにさすがに跳ね起きるのは無理だが、普通の動きはできるはず。
何かおかしい、気で痛みを和らげようとしても寧ろ痛みが増してくる。
むしろ、それそのものが痛みの元であるかのように。
「あ、刹那さん……目が覚めたみたいですね。お加減はいかがですか?」
「ムド、先生……」
「無理に起きなくて良いですよ。全部、説明してあげます。刹那さんは、私の大切な従者ですからね」
なにを勝手なと憤る言葉も出てこない。
本当に自分の体に何が起きているのか、同時に木乃香の安否も気がかりだ。
総合的に考え、刹那は大人しく説明とやらを聞くことにした。
ベッドの脇に、執務机用の椅子を引いてきて座ったムドを多少、睨みはしたものの。
「怒らないでください。木乃香さんなら無事です」
「ほ、んとう……だろうな」
「ええ、だって最初から誘拐なんてしてませんから。昨晩は、姉さんに治癒魔法の講義を受けて、平穏無事に寮のお部屋に戻られましたよ」
どういう事だと、体の痛みをおして起き上がろうとする刹那を手でムドが制する。
「この部屋、寮の一階にある姉さんの研究室なんです。学園長から正式に提供された。木乃香さんは、この部屋で夕映さんと共に魔法の勉強をしてました」
「ネカネさんも、グル……だったのか」
「姉さんは、寮長室に来ていないと言っただけですよ? 貴方が早とちりして、話を最後まで聞かなかっただけじゃないですか。以外におっちょこちょい、通信簿に良く書かれませんでした?」
木乃香が無事と聞き安堵する一方で、悔しげに刹那が唇を噛んでいた。
四つも年下の、十歳児に何もかもを手玉に取られたのだ。
本当に、ムドが本気で木乃香をどうにかしようと思った時が怖い。
魔法も気も使えない、それこそがムドの最大の武器であった。
誰も彼もがその一言でフィルターをかけてしまい、一番恐るべき武器を見逃してしまう。
知恵、太古から脆弱な人間が猛獣達に打ち勝ち、大陸を制覇していった最大の武器。
もっとも木乃香に対し盲目的な刹那だからこそ、盛大にひっかけられた面もあるのだが。
「では木乃香さんが無事だと理解して貰えた所で、本題に入りましょう」
「お嬢様に、手を出さないのであれば好きにしてくれ……私は、貴方を殺そうとした罪人で、しかも敗者だ」
「はい、刹那さんの全てを頂きます」
「え……あ、痛ッ」
無邪気な笑顔と共に放たれた言葉に目を点にし、次に刹那はとある事に気付いた。
治療の為にか、普段巻いているサラシでさえも今は見につけていない。
スパッツはもちろん、薄手の毛布の下は何も身につけていなかったのだ。
地肌に直接触れるのは衣服でも肌着ですらなく、一枚の毛布の肌触り。
首から下は完全に隠されていたがそれでも羞恥が増し、体を丸めようとして痛みに悶える。
いやまさか、彼はまだ十歳と心の中で何度も繰り返しながら。
「比喩ではなく、刹那さんが刹那さんとして生きるには私という存在が欠かせません。気付いてますか? 気が全く使えない事に」
「怪我が治りきっていない、だけ……」
「それがそうでもないんです。昨晩、刹那さんが私を最大威力の奥義で殺そうとした時、私は仮契約カードを使って魔力を送り込んだ。気と魔力は相容れない力です」
刹那との仮契約カード、白い翼を持った刹那の絵が描かれているそれを見せながら、分かりますかと目で尋ねる。
「結果、刹那さんの気と私の魔力が反発し合って爆発しました。刹那さんの体の中で……経絡系というらしいですが、気の通り道がズタズタです」
次第に理解し始めたのか、刹那が顔を青ざめ始めていた。
少しの動きでも体は痛むだろうに、小刻みに体を震わせながらも痛みだけは訴えない。
むしろ、痛みそのものさえ無視できるぐらい、最悪の未来を想像しているのだろう。
もはや未来ではなく、現在であるにも関わらず。
「い、や……」
「普通に歩く事ぐらいは直ぐにでも出来ますが、二度と気を使う事が出来ません。つまり、もう刹那さんは、木乃香さんを守る事ができません」
「このちゃ……私が」
青かった顔色を蒼白に変え、ガチガチと歯を鳴らす刹那を上から覗き込み、笑う。
「ようこそ、弱者の世界へ」
これで同じ穴のむじなだと。
もう大好きな人を誰一人守れない。
むしろ傍にいる事で足を引っ張るだけの、無意味な存在だ。
言葉通り、刹那はムドの仲間入りを果たした。
「いや、いやや。このちゃんは私が守るって、約束したんよ。もう二度と、あんな思いはしたない。やから、辛いのも痛いのも耐えて!」
満足に動けない状況でありながら、刹那がベッドの上で暴れ始めた。
ただ怪我の具合は余り思わしくなく、芋虫の様にジタバタするのが精一杯だが。
薄手の毛布の下は素っ裸で、その最後の一枚が捲れあがってしまう事さえいとわず。
ただその薄手の毛布一枚でさえ、今の刹那は蹴り飛ばす事ができない。
その事が、聞かされた弱者という言葉を強く印象付けられ、涙の飛沫が飛ぶ。
私が守ると、今までずっとお嬢様と他人行儀だった木乃香の呼び方を、このちゃんに変えて。
恐らくはそれこそが刹那の地なのだろう。
ムドの話が本当かと確かめようと、気を練ろうとして拷問を受けたように喘ぐ。
ベッドの上で七転八倒しては、やがてそれもなくなってくる。
終いに完全に諦めたように悔しげに涙を流し、声を押し殺すように歯を食い縛っていた。
完全に落ち始めた、そうムドは確信した。
(しかしながら、幸不幸の天秤は実に平等です。本来なら気を封印か、姉さんに経絡系を破壊してもらうつもりが、本当に経絡系がズタズタになるなんて)
気の封印は、誰かにそれを気付かれる恐れもある為、後者が確実だ。
だからといって、ネカネに刹那の一生を変える手段を行使させるのも気がひけた。
刹那にとっては不幸な出来事であったが、ムドにとっては幸運な出来事であった。
何一つ躊躇う事なく、弱者となった刹那の前で笑う事ができる。
「ウチが、ウチが悪かったから嘘や言うて。このちゃん、このちゃんに会いたい。もう、守られへん、謝まらな。嘘ついてごめんって、ごめんなさいせなあかん!」
しばらくの間、ムドは刹那が喚き疲れるまでずっと静観していた。
より深く刹那が絶望のふちにまで落ちていくように。
それでこそ、救いの手を差し伸べる意味が出てくる。
ムドは刹那を谷底へ突き落とした悪魔であり、谷底から救い上げる天使にもなるのだ。
だから涙ばかりでなく、刹那が鼻水さえ流しても、敷布団を噛み締めた時の涎が滴り落ちてもただ見ていた。
「こ、の……ごめんなさい。ウチ、ウチ……」
叫び疲れ、忘れていた痛みに体を痙攣させる刹那の瞳を覗きこんだ。
自我の存在さえあやうく思えるような濁った色をしている。
そろそろ、頃合だろうか。
ムドは半身でうつ伏せになっている不恰好な刹那を、仰向けに寝かせなおす。
お姫様抱っこなど到底無理なので、刹那をごろんと転がしてだが。
「刹那さん、最後までお話は聞きましょうね?」
タオルなどなかったので、薄手の毛布の端で涙と鼻水、涎で汚れた刹那の顔を拭きながら微笑みかける。
それから刹那との仮契約カードを手にしながら、語りかけた。
「刹那さんが戦える方法は、一つだけあります。契約執行、無制限。ムドの従者、桜咲刹那」
契約執行により、ムドの無駄に高い魔力が刹那の体へと流れ込んでいく。
相変わらずというべきか、やはり子宮を中心にして魔力の光が広がっていった。
ぐったりとしていた刹那が、満たされる快感に体を痙攣させる。
力なく虚ろであった刹那の瞳も、やがて別の色が浮かぶ。
まだ男を知らない生娘でありながらも、淫靡に蕩けた瞳へと変わっていった。
「ぁっ、ふぁ……え、あ。動く……痛みがんっ、消え」
生まれて初めてであろう快感に悶えながらも、その変化には気付いたようだ。
淫靡な光はそのままに瞳が少しだけ自我を取り戻した。
そして確かめるように包帯だらけの腕を顔の上に持ち上げ、次に上半身を起こす。
あれだけ苦しんでいたにも関わらず、酷くあっさりと。
「力が、でも……止め、お腹が熱い。ぁっ、駄目!」
ムドが薄手の毛布を取り上げると、すぐさま刹那は見ないでとばかりに身を捩った。
信じられないぐらいに白い刹那の裸体は後でたっぷりと、ベッドの上に身を乗り出す。
ますますベッドの隅に寄り、ますます体を小さくする刹那をよそに、敷布団の一部を指で拭う。
先程まで、刹那のお尻があった場所をである。
「あ、あかん。ちゃうんねん、粗相したわけやあらへん!」
ぬちゃりと、指で拭い取ったもので糸を引かせると、羞恥に刹那が両手で顔を覆った。
もう本当に自分の魔力が分からなくなる効果である。
以前、明日菜に契約執行した時も、実は人知れず濡れていたのか。
その追求はいずれと脳に刻み、刹那の愛液を口に含みながらムドはさらにベッドに身を乗り出した。
「刹那さん、今の刹那さんは気を使えた時と変わらないはずです」
「きちんと動けとる、動けています。むしろ、以前より力に溢れる気さえしています」
体操座りで小さくなりながらも、必死に冷静さを取り戻して返答してきた。
予想はしていたと、スーツの上着を脱ぎながら頷く。
「これが契約執行。魔法使いが従者に分け与える力です。私がガソリンタンクで、刹那さんがエンジンもしくは車そのもの」
「私が今まで通りに振る舞いたければ……」
「ええ、私の協力が必要です。それだけじゃない。時には心を鬼にして、木乃香さんより優先させなければならない。私が死ねば、木乃香さんを守る事すらできなくなるのですから」
「このちゃんよりも、ムド先生を優先して……って、なんでこっち来るんや。あかん、ウチ今、今!」
上着の次はシャツを、さらに肌着を脱ぎながら、ベッドの隅にいた刹那ににじり寄る。
「ムド、で良いですよ。これからは先生と生徒ではなく、主と従者なんですから。それとも、気も使えない状態で木乃香さんを守りますか?」
上半身裸で迫られ焦っていた刹那が、少しだけ冷静さを取り戻した。
ムドの問いかけは、まず不可能であった。
魔力や気による肉体への加護は、嫌という程知っている。
例え刹那が烏族とのハーフであろうと、気が使えなければなんの意味もない。
実際、ムドからの契約執行は刹那にかなりの力を与えてくれていた。
重症に近い体であるにも関わらず普通に動け、傷が高速に治っていっているのか痛みも消え始めている。
ならば木乃香に主になって貰えばという考えはなくもない。
だが、本当にそれは可能であろうか。
これ程の力を常に従者に流し続け、木乃香もムドのようにケロッとしていられるものか。
「だいたい、考えている事は分かります。関東最大の魔力を誇る木乃香さんでも無理です。先程の例えですが、私は真にガソリンタンクならぬ魔力タンクなんですよ」
これまであまり気にした事がなかったが、ムドは魔力だけで言えば木乃香すらも凌ぐ。
実際の潜在値までは分からないが、例えるならフグが自分の毒で死ぬ程の猛毒。
絶大な魔力に加え、外にそれが一切漏れず溜まり続ける。
ムド自身はたまったものではないが、勝手に中身が増える貯金箱のようなものだ。
刹那がムドの魔力を全て使い尽くそうとしたら、一週間は不眠不休で戦い続ける覚悟がいる。
しかも戦い続ける間にも、ムドの魔力は回復して増え続けるはず。
事実上、刹那一人で使い尽くす事は不可能だ。
「言ったでしょう。刹那さんの全てを頂くと」
「くッ……体は好きにしろ。だが、私の心は絶対に渡さない。心だけは、お嬢様のものだ」
自分がこれから何をされるのか、快感に震えるのではなく、恐怖に脅えて震えていた。
気丈な人だと、そこまで誰かに自分を捧げられる所は尊敬できる。
できればその心さえ手に入れたかったが、今はまだここで満足するしかない。
「では、もう一度こちらで仰向けに寝てもらえますか?」
「分かりました。ですが、や……優しく」
「あ、毛布邪魔なので預かりますね」
意地悪くにこりと笑われながら、刹那はあっさり毛布を奪われてしまう。
抵抗すれば抵抗できたが、契約執行を解かれたら待っているのは地獄の痛みだ。
自分より年下のムドから受けた辱めに、刹那は奥歯を噛み締めていた。
悔しい、だが全ては自分の勘違いが招いた部分もある。
人に聞けば、十人中十人ムドがやり過ぎだと答えるような状況であろうと。
それに何より、言う通りにしなければ木乃香を守れない、幼い頃の約束が守れない。
何度もそう自分に言い聞かせながら、刹那はベッドの中央に仰向けで寝転がった。
発育不良な胸に片腕を、もう片方の腕は粗相したかのように愛液を垂らす秘所を隠すようにして、赤面しているであろう顔をムドからそらす。
「寝転がり、まし……な、なんなんそれ!?」
何も返答がなかったので、少しだけ視線を向けた時にみた物に悲鳴を上げる。
そのムドは、刹那を見ていなかったわけではなく、最後のズボンとトランクスを脱いでいた。
刹那の悲鳴の正体は、ムドの一物にあった。
毛の一本も生えていないくせに、大きさだけは大人顔負けであったのあ。
しかも刹那に負けないぐらい肌は白いくせに、どす黒く先端の皮はむけきっていた。
「あかん、無理や。そんなん、入るわけあらへん!」
「そりゃ、いきなり入れたりしても入りませんよ」
別の意味で脅えた刹那とは対照的に、ムドはあっさりそう言い放っていた。
そしてムドの一物から目が離せないでいる刹那のお腹の上に跨ってぺたんと尻をつく。
「うっ……熱、お腹の上にごわごわしとるぅ」
袋と竿の根元がお腹に辺り、刹那がそんな事を呟いた。
ムドがぐらぐらと揺れるのは、子宮の上に座られ反応してしまい股間をすり合わせているせいか。
しかし、我ながら間抜けな場所に座り込んだとムドは思っていた。
だが、仕方がないのだ。
挿入の際には移動が必要になるが、こうでもしなければ体を重ねた時に唇に届かない。
高熱覚悟で年齢詐称薬を持ってくればよかったと思いながら、体を前のめりにする。
体を倒した分だけ、竿の裏筋がピッタリ刹那のお腹の上を遡っていく。
刹那もそれが分かるのだろう、顔が引きつっていった。
「覚悟は良いですか?」
「傾いたらあかん、熱いのが伸びて……と、とま。止まるつもりなど、ないのだろう。さっさと済ませろ」
焦っている時は可愛いのだが、少しでも冷静になった時の言葉使いが可愛くない。
思わず膨れそうになるが、我慢して耐える。
刹那は先程からずっと、チラチラお腹の上にあるムドの一物を見ていた。
威勢の良い言葉で焦りを悟られないようにしているのだろう。
相変わらずムドの契約執行によって、体は疼いているだろうに、別の震えを感じる。
体と心は全くの別物なのだ。
「刹那さん、目を閉じて……キス、します」
返答はなく、耐えるようにギュッと瞳を閉じられた。
少し悪戯心が湧き、唇をつける前に舌で刹那の唇をなぞっていく。
驚いて目を開ければムドが間近で舌を伸ばしており、刹那が少し暴れる。
その瞬間、顔を両手で挟んで一気に唇を押し付けた。
「んーッ!」
抗議の声は無視して、強く唇を押し付けそのまま数秒の間、待ち続ける。
最初は蹴り飛ばされて悶絶する事さえ覚悟していたが、次第に刹那も大人しくなってきた。
何か勘違いをしているのか、一切の呼吸を止めており、段々とその顔が真っ赤になっていく。
キスの間は鼻で息をしてはいけないとでも思っているのか。
確かにお互い少しこそばゆくなるが、経験がないのであればしかたがない。
「鼻で息、しても良いんですよ?」
「え、あう」
そうなのと、きょとんとした隙をついて、もう一度強く唇に吸い付いた。
今度はちゃんと唇の上辺りに、刹那の鼻からの呼吸を感じて次の段階へと移る。
唇を押し付けるのではなく、しゃぶりつくように舐めていく。
舌を差し出し、唇を分け入って頑なに閉じられている歯の上をキュッと擦った。
それだけであっけなく牙城は崩れ落ち、舌先という尖兵を送り込んだ。
奥に引っ込もうとする引っ込み思案な舌を突いて誘う。
駄目と顔を少し振られてしまい、ならこうだとあらゆる歯に舌先を擦りつけていく。
「ぷはぁ、止め……それ駄目なんです。恥ずか、しい……」
少しぐらい我が侭は聞いてやるかと、唇を離れて体を下にずらしていく。
顎先から喉元へ、さらに鎖骨と舌を這わせながら、同時に両手も下げていった。
「凄く、すべすべで……気持ち良い肌です。京都美人という奴ですか?」
「嘘、そんな事……」
「自信持って良いですよ。木乃香さんに引けとりません。本当に、日本の女性は控えめなんですね」
必死に隠していた腕をどけ、控えめと称した小ぶりな胸の上に舌を上らせる。
「あかん、来たらあかん。そこ、先っぽ」
ムドの手にすら丁度良い大きさの胸を下から支えるように持つ。
そうする事で大きさがかさ増しされ、頭頂部がピンと際立った。
その乳首へとまずはご挨拶と舌先でぐりぐりと押し潰し、胸の中へと陥没させる。
小さいだけあって感度が良いのか、刹那が身震いを起こしていた。
「そんなに気持ちよかったですか?」
「う、うるさい。妙な事を聞いていないでさっさと」
恥ずかしがったり強がったり、不安定な人だと少々の怒りと共に胸に吸い付いた。
まるごと口の中に胸を納めるぐらいのつもりで。
胸全体を唇で甘噛みして、乳首を舌で突きながら前歯で噛みつく。
こちらは甘噛どころではなく、歯型が残るぐらいに強く噛み、引っ張る。
「痛、痛い止めて、ください。痛いのは、嫌ぁッ!」
「え?」
突然、刹那の腰が跳ね上がり、あやうくムドは投げ出される所であった。
ふよんと再び刹那のお腹の上にお尻を置き、目を白黒させて見下ろす。
息も絶え絶えの刹那は、真っ白な肌を薄紅色に染め上げ、ややぐったりとしていた。
まさか、そんな意図は全くなかったのだが、乳首を噛まれてイッたらしい。
「あっ……」
後ろ手に伸ばした秘所へと手を伸ばすと、大洪水であった。
触っては駄目と伸ばそうとした腕も、閉じようとした足も弛緩して力が弱い。
直接見てはいないのだが、ベッドの敷布団も愛液が広がり染みこんでいる事だろう。
だが、なんか納得いかない。
挿入さえせずに女性をイかせるのは誇らしい気分がするものの、意図せずという言葉がつくとどうにもやるせなかった。
ふつふつと湧き上がるものを胸の内に蓄え、呆けている刹那の耳元に口を寄せる。
「痛くされるのが好きなんですか?」
「え……ち、ちゃうねん。今のはびっくりして、とーんって腰が」
「それがイクというものです。苛められてイクなんて、刹那さんは意外と変態さんですか?」
「イクってなんや。ようわからんけど、虐めんといて。もう、はよう入れて終わらせてや」
両手で顔を覆いながら、刹那が身をよじる。
いやはや、日本の慎ましい女性はこうでなくてはと、間違った知識でうんうんとムドは頷く。
何しろ今までの経験は、性に対してアグレッシブなネカネか女王様気取りのエヴァしかない。
攻めも受けも五分五分で、いやむしろ攻められる方が多いぐらいか。
そんな事を考えつつ、ムドは刹那のお腹の上からずりずりと下に下がっていった。
力なく伸ばされていた足を開いて膝を立てさせ、挿入の準備にはいる。
「刹那さん、入れますね?」
両手を顔から少しだけ外し、ムドと一瞬だけ目を合わせてまた隠す。
だが、了承を示すように一度だけ小さく頷かれた。
腰を浮かせ、既に濡れそぼって久しい秘所の入り口へと亀頭を触れさせる。
それが分かったのか刹那の体が強張った。
大丈夫だとムドがお腹の上に手をぽんぽんと置くと、顔を覆っていた両手のうちの片方を刹那が伸ばしてきた。
握っていて欲しいという事だろうか。
その手を取って握り、自分の頬に触れさせたムドは、ついに挿入を始めた。
「うっ……」
亀頭が半分も入らないうちに、刹那が小さく呻いた。
契約執行中にも関わらず痛みを感じたとは、感覚的なものなのか。
ムド自身も今自分が刹那の処女膜を押し広げ、引き裂いていく感触を感じている。
刹那が助けを求めるように手を握られたが、ムドは逆に推し進めていく。
そしてある一点を超えると、一気に挿し貫いた。
「大丈夫ですか、刹那さん?」
「ぐぅ、こんなにも痛いものなのか……」
口元を真一文字に引き絞り、衝撃や痛みを逃すようにやや上を見上げていた。
しばらくは動かない方がよいのか。
経験済みでありながら、自らの意思で処女膜を破った事のないムドは迷いを憶えた。
だから少しだけ体制を前に倒し、あまり刹那が痛がらないように気をつけながら手を伸ばす。
刹那の頭を撫でようと。
だがその手は途中で止められ、刹那自身により胸に持っていかれた。
「このままでは、何時まで経っても終わらない。男は一度出せば終わるのだろ、続けろ」
「えっと、私の場合、この頃は五、六回ぐらいしないと」
「五、六回……い、いいからやれ!」
異様に恐れられた気もしたが、刹那が無理をしているのは明らかだ。
口調が毅然としており、これはこれで分かりやすい人なのかもしれない。
そんな事を考えながら、腰を動かし始める。
最初はゆっくりと、少々もどかしいので悪戯にわざと水音を立てながら。
すると痛みに耐えながらも、毅然としていた刹那の態度が早くも崩れ始める。
睨みつけていたはずの瞳がそらされ、ムドの手は離さないまま顔を覆い隠す。
「音、立てたらあかん。恥ずかしぃ」
「気持ち良いですよ、刹那さんの中。十二分に潤ってるのに、さらさらすべすべで、ほら、聞こえますか? 愛液がどんどん出てきます」
「いやや、聞きとうない。ウチ、いやらしくなんかあらへん」
否定されては、是が非でも聞かせたくなってしまった。
単純に挿入を繰り返すだけでなく、奥に突き入れた後に腰を回し秘所の周りで愛液をこね回す。
ムドはまだつるつるだが、産毛が少しマシになった程度の陰毛を持つ刹那は愛液でべとつくそれがはっきりと分かる事だろう。
聴覚と触覚、二つの感覚を使って刹那を辱める。
顔を隠しながら体を丸めて小さくなって隠れようとする様が、愛おしくてたまらない。
しかしながら、本当に刹那のこの二面性は何なのだろうか。
疑問は尽きないが、それはおいおい解き明かしていけば良い。
「刹那さん、そろそろイキそうです」
「イク?」
一度味わったくせになにそれとばかりに返され、プライドが刺激された。
破瓜の痛みを労わる気持ちを捨て去り、ガンガンと突き始める。
普段ネカネとしている時と変わらないペースで。
刹那が息を飲んだ音が聞こえたが、同時に体が震えるのも感じられた。
「痛ッ、けど……気持ちええ。ムド先生、もっと痛いぐらいが丁度ええんや」
「みたいですね。では遠慮なく突かせてもらいます」
「ぁっ、ぁぅ……んぅぁ、はぁぅ、ぁっ」
手では足りないと、突かれながら刹那が体を起こしてムドの首に抱きついてきた。
丁度良いとばかりに、押し付けられた胸の先端を口に含む。
やや強めに甘噛みして、秘所と同時に二点攻めを行う。
「もっと強う噛んでええよ。あぁ、ええわ。来る、乳首噛まれた時のアレが来る!」
「それがイクです。言ってみてください」
「ウチ、イク。乳首噛まれてイッてしまう。ぁっ、ぁぁっ!」
「わ、私ももう。刹那さん!」
僅かに早くムドが果て、膣の一番奥深い場所にて白濁の液をぶちまける。
直後に刹那も快感の波に押し流され、より強くムドを抱きしめて果てた。
初めて中で出され、濃い精液を流し込まれる度に、体を小さく痙攣させている。
やがて意識さえも保ちきれず、ムドの首から両手が離れ、ベッドの上に仰向けに落ちた。
息を乱し、蕩けそうな瞳で上を見上げながら刹那が呟く。
「このちゃん……」
混濁した意識の中、確かに刹那はそう呟いていた。
無意識にそう呟いたのは、母親の事を呼ぶのに等しい行為かはわからない。
男の名前でないだけマシかと、複雑な思いを抱きながらムドは一物を刹那の中から抜いてそのまま尻餅をついた。
蓋を外された壷のように、刹那の秘所からは流し込んだばかりの精液が流れ落ちてくる。
破瓜の血と愛液が混ざり合った状態で。
それを見ながら、もう少ししたいなと思っていると、刹那が飛び起きた。
ムドと視線がかち合うと、ぼふりと顔から湯気を出して赤面する。
「あ、あ……ウ、ウチ」
何を慌てているのか、腰砕けの状態でベッドのそばに捨てられていた毛布へ手を伸ばし、そのまま転がり落ちる。
そして直ぐに毛布を体に巻き付けて、部屋を飛び出そうとしていた。
今は昼間で、しかも春休みなので寮内で過ごしている者も多くそれはまずい。
「刹那さん、制服ならそこです!」
まだ頭がよく働いていないのか、執務机の上の制服と毛布を見比べる。
比べるまでもない事は明白だ。
少々の時間を置いて、そう気付いた刹那は毛布の中に制服を引っ張り込んで着替え始めた。
ムドには全く意味が分からない行為であった。
男女として一線を越えながら、何故そこまで恥ずかしがるのか。
「これが俗に言う、男女の機微とやらです?」
頭に思い浮かんだ事を呟いてみれば、毛布を投げつけられた。
さすがに毛布ぐらいならと、受け止めてその辺に投げ捨てる。
改めて刹那へと視線を向けると、口元を横一文字に引いて赤面していた。
やや着崩した状態ながら制服は身につけており、一緒においてあった夕凪もその手にあった。
「約束は約束だ。貴様の言う通り、お嬢様のついでに守ってやる。良いな、勘違いするな。木乃香お嬢様より、貴様を優先させる事など絶対にない!」
「刹那さん……がに股になってますよ。しばらくは、歩く時に気をつけてくださいね。周囲にバレちゃいますよ」
「う、煩い。これはちょっと、まだ中に何かはさまっているような……くっ、帰らせてもらう!」
壊れるんじゃないかというぐらいに強く扉を閉めて、刹那は去っていった。
その扉を眺めながら、ムドはしばらくの間、全裸でベッドの上に座りながら呆けていた。
情事の後の気だるさは、さほどでもない。
ネカネとはもっと濃ゆい内容で、回数もずっと多いのだ。
ただ何か、胸の辺りがすっきりし過ぎている。
「エヴァンジェリンさん、私何か変なんですけど」
胸の辺りをさすったりしながら、やがてムドは二段ベッドの二階部分を見上げて呟く。
数秒と経たないうちに、上の段からエヴァンジェリンがひょっこり顔をだしてきた。
長い髪の毛が重力に従って垂れ落ち、逆立ったようで少しおかしい。
そのエヴァンジェリンは、ムドの表情を眺めてから何か納得したようであった。
ベッドの手すりを掴み、鉄棒の様に体を回転させ、一階部分に下りてきた。
「お前の想像通りだろうよ。私から言わせれば、良い傾向さ。お前が何をしたか言ってやろうか? あれこれ理由を付けて追い込んで、桜咲刹那をレイプしたんだ。アレはアレで楽しんでいた部分もあるがな」
「ですよね……レイプなんて酷い事したのに、前みたいに吐き気が殆どない。最低だ、死にたくなってきた」
「思ってもいない言葉を使うな。今の貴様は罪悪感なんて言葉とは無縁だ。無縁になってきたと言うべきか。それもまた、一つの成長の形だ。それとも性長か?」
クククと何時もの忍び笑いをしつつ、エヴァンジェリンがムドへとにじり寄る。
この為に、わざわざエヴァンジェリンは二階部分に隠れていたのだ。
混ざりたい気持ちをなんとか押さえ込んで。
四つん這いになったエヴァンジェリンは、胡坐をかいて座るムドの股間部分へ顔を寄せた。
情事を終えたばかりの濃い性臭と破瓜の血の臭いに、うっとりと惚ける。
「桜咲刹那の破瓜の血か。サービスで奴の命を助けた代価は貰わないとな」
「本人から直接貰ってください。今私は、かなり凹んでいるんですが」
「ふん、この私が貴様の汚らしい一物から血を舐めとってやるのだ。感謝こそされ、無下にされるいわれはないな」
まだまだ十分元気なムドの一物を、エヴァンジェリンが小さな舌を伸ばしてペロリと舐めた。
チロチロと子猫がミルクを舐めるように、小さな刺激を与え続ける。
刹那の破瓜の血を舐める方が、エヴァンジェリンにとっては重要であったのだが。
「烏族と人間のハーフの破瓜の血か。味わい深い。貴様は本当に面白い、娯楽を与えてくれるよ。いっそ、私の下僕にしたいぐらいだが、それでは楽しみが半減してしまう。惜しい事だ」
「吸血鬼になると容易く言わない自分に安堵します。まだ、正気は保ってるんだって」
「言うじゃないか、弱者のくせに」
「痛ッ、噛まないで……何処から血を吸ってるんですか!」
刹那の破瓜の血をあらかた舐めきったのか、足りないとばかりに亀頭に噛み付かれた。
「煩い、精液だろうが血だろうが飲ませろ。あとネカネを呼び出せ、こっちは貴様と桜咲刹那の営みを聞かされていたんだ。発情しているんだよ」
「あの私が頑張りますので、姉さんは勘弁してもらえませんか? 一昨日のが結構、腰にきてるみたいで寝込まれでもしたら困ります」
「ほう、私に口答えか? まあ、それでも構わんぞ。ただし、一切の射精を禁止して何時まで耐えられるか試してやろう」
挑発的なエヴァンジェリンの瞳を前に、ムドは即座に姉を売る事を決意した。
-後書き-
ども、えなりんです。
前回煽っておいてアレなんですが……そこまで鬼畜でもなかった。
だとしても、ムドの鬼畜度は今回が最高潮。
以後はそこまであくどくもなく、中途半端が続きます。
あと刹那のエッチ時の方向性はM属性。
縛ったり、お尻叩いたりそう言う役柄になっていきます。
どうしてそうしたかは忘れました。
次回は亜子で除幕式するよ。
それでは土曜日に。