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No.25212の一覧
[0] 【完結】ろくでなし子供先生ズ(ネギまでオリ主)[えなりん](2011/08/17 21:17)
[1] 第二話 打ち込まれる罪悪と言う名の楔[えなりん](2011/01/01 19:59)
[2] 第三話 脆くも小さい英雄を継ぐ者の誓い[えなりん](2011/01/05 21:53)
[3] 第四話 英雄を継ぐ者の従者、候補達?[えなりん](2011/01/08 19:38)
[4] 第五話 ムド先生の新しい生活[えなりん](2011/01/12 19:27)
[5] 第六話 第一の従者、ネカネ・スプリングフィールド[えなりん](2011/01/15 19:52)
[6] 第七話 ネギ先生の新しい生活[えなりん](2011/01/22 21:30)
[7] 第八話 強者の理論と弱者の理論[えなりん](2011/01/22 19:25)
[8] 第九話 闇の福音による悪への囁き[えなりん](2011/01/26 19:44)
[9] 第十話 勝手な想像が弱者を殺す[えなりん](2011/01/29 20:15)
[10] 第十一話 私は生きて幸せになりたい[えなりん](2011/02/05 20:25)
[11] 第十二話 棚から転がり落ちてきた従者[えなりん](2011/02/09 20:24)
[12] 第十三話 他人の思惑を乗り越えて[えなりん](2011/02/12 19:47)
[13] 第十四話 気の抜けない春休み、背後に忍び寄る影[えなりん](2011/02/12 19:34)
[14] 第十五話 胸に抱いた復讐心の行方[えなりん](2011/02/16 20:04)
[15] 第十六話 好きな女に守ってやるとさえ言えない[えなりん](2011/02/23 20:07)
[16] 第十七話 復讐の爪痕[えなりん](2011/02/23 19:56)
[17] 第十八話 刻まれる傷跡と消える傷跡[えなりん](2011/02/26 19:44)
[18] 第十九話 ネギパ対ムドパ[えなりん](2011/03/02 21:52)
[19] 第二十話 従者の昼の務めと夜のお勤め[えなりん](2011/03/05 19:58)
[20] 第二十一話 闇の福音、復活祭開始[えなりん](2011/03/09 22:15)
[21] 第二十二話 ナギのアンチョコ[えなりん](2011/03/13 19:17)
[22] 第二十三話 満月が訪れる前に[えなりん](2011/03/16 21:17)
[23] 第二十四話 ネギがアンチョコより得た答え[えなりん](2011/03/19 19:39)
[24] 第二十五話 最強の従者の代替わり[えなりん](2011/03/23 22:31)
[25] 第二十六話 事情の異なるムドの従者[えなりん](2011/03/26 21:46)
[26] 第二十七話 いざ、京都へ[えなりん](2011/03/30 20:22)
[27] 第二十八話 女難の相[えなりん](2011/04/02 20:09)
[28] 第二十九話 大切なのは親友か主か[えなりん](2011/04/06 20:49)
[29] 第三十話 夜の様々な出会い[えなりん](2011/04/09 20:31)
[30] 第三十一話 友達だから、本気で心配する[えなりん](2011/04/16 21:22)
[31] 第三十二話 エージェント朝倉[えなりん](2011/04/16 21:17)
[32] 第三十三話 ネギの従者追加作戦[えなりん](2011/04/20 21:25)
[33] 第三十四話 初めての友達の裏切り[えなりん](2011/04/23 20:25)
[34] 第三十五話 友達の境遇[えなりん](2011/04/27 20:14)
[35] 第三十六話 復活、リョウメンスクナノカミ[えなりん](2011/04/30 20:46)
[36] 第三十七話 愛を呟き広げる白い翼[えなりん](2011/05/04 19:14)
[37] 第三十八話 修学旅行最終日[えなりん](2011/05/07 19:54)
[38] 第三十九話 アーニャの気持ち[えなりん](2011/05/11 20:15)
[39] 第四十話 友達以上恋人未満[えなりん](2011/05/14 19:46)
[40] 第四十一話 ネギの気持ち、ムドの気持ち[えなりん](2011/05/18 20:39)
[41] 第四十二話 契約解除、気持ちが切れた日[えなりん](2011/05/25 20:47)
[42] 第四十三話 麻帆良に忍び寄る悪魔の影[えなりん](2011/05/28 20:14)
[43] 第四十四話 男の兄弟だから[えなりん](2011/05/29 22:05)
[44] 第四十五話 戦力外従者[えなりん](2011/06/01 20:09)
[45] 第四十六話 京都以来の再会[えなりん](2011/06/08 21:37)
[46] 第四十七話 学園祭間近の予約者たち[えなりん](2011/06/08 20:55)
[47] 第四十八話 麻帆良学園での最初の従者[えなりん](2011/06/11 20:18)
[48] 第四十九話 修復不能な兄弟の亀裂[えなりん](2011/06/15 21:04)
[49] 第五十話 アーニャとの大切な約束[えなりん](2011/06/18 19:24)
[50] 第五十一話 麻帆良祭初日[えなりん](2011/06/26 00:02)
[51] 第五十二話 ネギ対ムド、前哨戦[えなりん](2011/06/26 00:03)
[52] 第五十三話 仲良し四人組[えなりん](2011/07/02 21:07)
[53] 第五十四話 麻帆良武道会開始[えなりん](2011/07/06 21:18)
[54] 第五十五話 この体に生まれた意味[えなりん](2011/07/06 21:04)
[55] 第五十六話 フェイトの計画の妨げ[えなりん](2011/07/09 20:02)
[56] 第五十七話 師弟対決[えなりん](2011/07/13 22:12)
[57] 第五十八話 心ではなく理性からの決別[えなりん](2011/07/16 20:16)
[58] 第五十九話 続いて欲しいこんな時間[えなりん](2011/07/20 21:50)
[59] 第六十話 超軍団対ネギパ対完全なる世界[えなりん](2011/07/23 19:41)
[60] 第六十一話 スプリングフィールド家、引く一[えなりん](2011/07/27 20:00)
[61] 第六十二話 麻帆良祭の結末[えなりん](2011/07/30 20:18)
[62] 第六十三話 一方その頃、何時もの彼ら[えなりん](2011/08/03 20:28)
[63] 第六十四話 契約解除、ネギの覚悟[えなりん](2011/08/06 19:52)
[64] 第六十五話 遅れてきたヒーローユニット[えなりん](2011/08/10 20:04)
[65] 第六十六話 状況はより過酷な現実へ[えなりん](2011/08/13 19:39)
[66] 第六十七話 全てが終わった後で[えなりん](2011/08/17 20:16)
[67] 最終話その後(箇条書き)[えなりん](2011/08/17 20:18)
[68] 全体を通しての後書き[えなりん](2011/08/17 20:29)
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[25212] 第十六話 好きな女に守ってやるとさえ言えない
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/23 20:07
第十六話 好きな女に守ってやるとさえ言えない

 刹那はムドに手を打ち払われてから直ぐに寮の自室へと戻り、正座で身を正していた。
 今は既に夜もふけ、二十時頃であろうか。
 半日以上、何も口にせず正座をしている為、正確な所は分からないが大きくは違うまい。
 刹那は本来生真面目で、物事の融通が利かない性格であった。
 だからあの時、自分が何をしてしまったのか受け止められるまで、動かない事に決めたのだ。
 幾度となくあの時の光景を思い出し、自分に問いかける。
 自分は一体何をしたのかと。
 神鳴流を扱うものとして、魔にのまれたという言い訳はしない。
 自分のクラスの担任の先生であるネギの弟、保健医でもあるムドを殺そうとした。
 その理由は、一番の理由はなんだ。
 木乃香の為なのか、それとも護衛が外される事が怖かったのか。

(少なくとも、彼を殺しても何も変わらない。私のした事は無意味だ。無為に、幼い命を……)

 つっと額の上を汗が流れ落ちていく。
 学園長は、何も詳しい事を刹那には教えてくれてはいなかった。
 教えてくれたのは、木乃香が魔法の存在を知ってしまった事と、ムドには特に気をつけろという言葉だけである。
 本当にムドが木乃香に魔法を教えたのかどうかは分からない。
 ただの刹那の早とちりでしかなかった。

(私は一体何をしているのだ?)

 一歩進み、何をしたのかではなく今現在、何をしているのかを問いかける。
 答えはもう既に出ているではないか。
 謝罪して許されるような問題ではないが、許す許さないを前に誠意を見せなければならない。
 痺れる足に活を入れ、無理に立ち上がる。
 少しふらつくが、それ以上の苦しみを自分はムドに与えてしまったのだ。
 この程度の痛みは甘んじて受け入れ、謝罪しに行こうと一歩踏み出し、立ち止まる。
 グッと唇をかみ締め、恐る恐るといったように腕の臭いを嗅ぐ。
 次に降ろしていた髪を一房掴んで鼻に近づけて、くんくんと嗅いだ。
 自分で自分の体臭は分からないものだが、少なく見積もっても臭くはないはずである。
 そうであって欲しいと切に願う。

「な、何をしているんだ。刹那?」
「た、龍宮、いやこれは!」

 急に背後からルームメイトの真名に話しかけられ、掴んでいた髪の毛を離しつつ飛び退る。
 今の私に近付くなと、一度指摘された体臭が気になってしょうがない。
 そんな刹那の態度をいぶかしみながらも、ふと真名が笑みを浮かべた。

「昼間から一体何を悩んでいたかは知らないが、その様子だと少しは前進したようだな。お前は一度悩み出すと、梃子でも動かないからな。正直、邪魔なんだ」
「う……すまない、そう言えばずっとちゃぶ台前を占領していたな」
「真に受けるな、冗談さ。堅物なのも、考え物だぞ」

 そう呟きウィンクしてきた真名に、何か紙のようなものでちょいちょいと鼻先を突かれた。
 魔法生徒としての仕事仲間となって二年近いが、こういう所はかなわないと思う。

「ところで、それはなんだ?」
「ああ、何やら保健医のムド先生からの手紙らしい。刹那は、アレルギー持ちか何かだったか? 刹那?」
「え、ああ……いや、違うが。すまない、貰い受ける」

 謝罪しようとした矢先に渡されたムドからの手紙に、刹那は動揺を隠せないでいた。
 明らかに不自然だからだ。
 刹那から謝罪を行いにいくならまだしも、最悪ムドは学園長に告げ口するだけで済む。
 一体何が書かれているのか、直ぐに人のいない所で読もうと玄関へと向かう。

「しかし、あのムド先生とやらも可哀想な人だ」

 だが、ふいに真名が呟いた台詞にその足を止められた。

「な、何がだ? ムド先生の何が」
「なんだ知らないのか、魔法生徒の間じゃ有名だぞ。体質的に魔法も気も使えないそうだ。高畑先生の体質の強化版といった所だな」

 初めて聞いた内容に、刹那は我が耳を疑い、手にしていた手紙さえ取りこぼしかけていた。

「こちらはどちらかというと単なる噂だが、魔法学校でも随分苛められていたらしい。デマだろうと、割と真実を突いているんじゃないかと私は睨んでいるが、おい、刹那」

 嘘だと、胸中で叫びながら刹那は部屋を飛び出していた。
 真名の声を振り切り、手の中の手紙を握り締めながら人気のない非常階段を目指す。
 平時は出入りを禁止されているが、今がその非常時だとばかりに非常口を開けて外に出る。
 春先とはいえまだ肌寒く、封を切って取り出した手紙は風にバタバタとあおられた。

「ムド先生は一体……な、馬鹿な!?」

 ありえない手紙の内容に驚愕し、つい先程聞かされた真名の言葉とのギャップに苦しむ。
 手紙からの印象と真名から聞かされた印象が全く逆転してしまっている。
 一体どちらを信じるべきか。
 刹那の迷いは、最悪の可能性を考慮して心で決められた。
 一番大切なのは木乃香だ。
 この手紙が仮に誰かの悪戯だったとしても、自分が下手をうつだけで済む。
 だがもし本物であった場合は、その一番大切な木乃香の命に関わってくる。
 未だ迷いは心の隅で燻ってはいるが、刹那は立ち止まっていられないと走り出した。
 向かった先は、木乃香がいるであろう寮の部屋であった。
 どうかご無事でと願いながら呼び鈴を鳴らし、同時に扉を開けて失礼しますと入り込む。

「わ、桜咲さん……え、あ。もしかして木乃香?」
「お嬢様はおられますか!?」
「おじょ、え? 木乃香、なら……寮長室に。ごめん、今のなし。行かないで!」

 パジャマ姿で出てきた明日菜の言葉を聞き、やはりかと刹那は駆け出した。
 だが直ぐに明日菜に行かないでと懇願され、腕をつかまれてしまう。

「神楽坂さん、私は遊んでいる暇は!」
「待ってほら、お茶用意するから。今、木乃香は魔ほ、違……ああもう、桜咲さんってこんな人だったの!?」
「私はそれの関係者です。放してくだッ」
「あ、関係者だったの。ならいっか。はわふぅ……木乃香なら、ネカネさんに教えてもらってるはずだから。それじゃあ、お休みなさい」

 一瞬、明日菜もグルかと疑ったのが恥ずかしくなる程、あっさり解放されてしまった。
 どうやら単純に魔法の秘匿の為に、足止めしようとしたらしい。
 本当に一体誰が敵で、誰が味方なのかもわからなくなってくる。
 学園長が言っていた気をつけろとは、コレを指しての事か。
 急ぎ今度は寮長室へと向けて、階段を飛び降りていく。
 途中誰かに怒られた気がしたが、立ち止まる所か謝罪さえ後回しにして駆ける。
 そして寮長室に辿り着くと、木乃香の部屋での時と同じように呼び鈴を鳴らして直ぐに扉を開ける。

「申し訳ない、こちらにお嬢様は来ていらっしゃいませんか!?」
「しーっ!」

 今度は玄関先ではなく、奥にまで踏み込んだ刹那の前には口元に指先を立てたネカネがいた。
 思わず刹那が口元に手を当てたのは、ジャスチェーの意味を察しての事ではない。
 二段ベッドの下では、寮長であるアーニャが既に就寝していたからだ。
 そしてネカネが二階への階段に足をかけていたということは、上の段でも誰かが寝ているという事である。

「桜咲さん、こんな夜更けに大声で人様のお部屋に入ってはいけませんよ」
「申し訳……それよりも、お嬢様は。木乃香お嬢様はここに来ていらっしゃらないのですか!?」
「木乃香さん? この部屋には来ていませんけど……」

 ネカネの言葉にさっと顔色を変えた刹那は、断りもなく二段ベッドの上へと続く階段に飛び移った。
 身を乗り出すように覗き込んだそこには、疲れきった様子の、だが満たされた表情で眠るネギがいただけである。
 そこに、ムドの姿はない。

「こら、いい加減にしないとネカネさん怒るわよ?」
「ムド先生は、どちらに?」
「全く、あの子なら仕事があるとかで遅くなるって連絡があったわ」

 聞くや否や、またしても刹那は寮長室を飛び出して、駆け出していた。
 分かっている、自分が混乱しているのは。
 木乃香を一番に考えるのなら、この手紙が悪戯であろうと指定された場所に真っ直ぐ向かうべきであった。
 昼間に自分が仕出かした事への罪悪感か、それとも真名から聞かされた話の内容故にか。
 信じてみたかったのかもしれない。
 未だ良く分からないながらも、ムド先生という魔法も気も使えない極普通の子供先生の事を。
 だからムドが刹那による仕打ちの腹いせに、木乃香を誘拐して誘い出そうとした事など信じたくはなかった。

「お嬢様ァ!」

 愛刀である夕凪を手に寮を飛び出し、寒空の下を大きく跳躍する。
 指定された場所は、昼間とは別の場所にある森だ。
 そこもまた人払いの結界が張られており、一般人は近づけない仕組みである。
 寮からもそこまで遠いわけではない。
 まだ二十時という時間からも木乃香を誘拐し、人知れず運ぶには程よい距離だ。
 罠の可能性も考慮しなければならないが、何よりも木乃香の安全が最優先であった。
 森の前にたどり着いても躊躇せず、刹那は茂みの中へと足を踏み入れていく。
 制服というこんな場所で活動するには不向きの格好ながら、常人とは比べものにならない速さで駆け抜ける。
 目一杯、心臓が破れるほどに気で己を強化して駆け抜け、ついに刹那は見つける事ができた。

「お嬢様、ご無事ですか!」

 木乃香は力なくぐったりとした様子で、薄い水色のパジャマのまま木の幹を背に座らせられていた。
 薄暗く、灯りのないこの場所では、さらに俯いている木乃香の細かい様子までは伺う事は出来ない。
 半分は罠の存在も忘れ、木乃香へと駆け寄った刹那は細い両肩を掴んで揺さぶった。

「ん、ぅっ……せっちゃ」

 蚊の鳴くようなか細い声ながら、反応が返って来る。
 そして、刹那が木乃香を抱えようとしたその時、逆に両腕を掴まれていた。

「お嬢ッ!?」

 一体何をと叫ぶより早く、木乃香の唇が押し付けられた。
 混乱の駄目押し、しかし同性ながら敬愛する木乃香からの要求を突っぱねられない。
 いや寧ろ木乃香が望むならと、身も心も捧げる所存で受け入れる。
 次の瞬間、貧しい星明りでさえ届かない森の中の暗闇が、足元から明るく照らし出されていた。
 何事だと唇を離した刹那が見たのは、目の前の木乃香ではない人物の顔であった。
 ムドですらない、他の誰か。
 その人を突き飛ばし、唇を拭いながら飛び退る。

「貴様、何者だ。お嬢様を、何処へやった!」
「痛ッ……二度目、ですよ。刹那さんにこうして木に頭をぶつけられるのは」
「ムド、先生?」

 信じられないという刹那の呟きには意味があった。
 木の幹を背中に背負いながら立ち上がろうとした少年の頭から、黒髪のヴィッグが落ちた。
 その下から現れた髪は、金髪を短く借り上げた髪型であった。
 男物でも、女物でもないパジャマもまだ、カモフラージュの為だと分かる。
 殆ど知らないが記憶の中にある少年は、ここまで背が高くなかったはずだ。
 双子でありながらネギよりも背が低い少年は、現在刹那の目の前で木乃香と同じ程度には背が高くなっていた。

「年齢詐称薬というものがありまして……それで五、六年歳をかさ増ししてみたんですが、ショックです。百五十と少しですよ?」
「本当に、ムド……お嬢様は、お嬢様を何処へやった。何故、私だけを狙わない」
「ふふ、さあ何故でしょう」

 ふらふらと立ち上がったムドは、瞳の焦点を合わせる事ができなかった。
 ネカネに頼み、ムドの体質に合った年齢詐称薬を作っては貰ったが、やはり無理はあったらしい。
 ムドの集中力よりも、体の中で暴れる魔力による発熱が勝っていた。
 この大事な時にと、目の前に落ちてきた仮契約カードを手に取る。
 真っ白な翼を持つ剣士の絵柄が浮かび上がっていた。
 今しがた、刹那とのキスで作成されたばかりのカードであった。
 絆を試すものでありながら、キス一つで作れるというのは大きな問題である。

「なんだ、それは? それが目的か?」
「目的の一つではあります。どうしても、私は復讐したいのですよ」
「ぐッ……その事については、首を絞めるなど私の愚かな振る舞いについては謝罪する。土下座しても良い、だからお嬢様だけは」
「違います。刹那さんは、何か勘違いをしていらっしゃいます」

 怒りや焦り、混乱を踏み越え謝罪をと口にした刹那の言葉を、ムドは簡単に振り払った。
 それ所か、勘違いだとさえ言ってのけた。

「私は殺されかける事には、結構慣れてるんです。魔法学校時代に二度、同じ生徒に殺されかけました。麻帆良に来てからは、学園長にも」
「がく……私は、本当に何も聞かされていない。だが、それでは何故です。違うというならば、貴方がお嬢様を巻き込んだ理由はなんですか!?」
「私の復讐の理由はですね、刹那さんに努力していないと言われたからです」

 グッと刹那が歯噛むのを見ながら、ムドは続ける。

「私は生まれつき、魔力も気も使えません。その事については、体質なので仕方ありません。ただね、我慢出来ない事もあるんですよ」

 本当に、体質なのは仕方がないとムドは思っていた。
 その体質を含め、ムド・スプリングフィールドなのだ。
 それを理由に苛めてくる相手は下らないと見下せる。
 何か勘違いして殺しにくる相手には、怒りを通り越してもはや呆れ果てた。
 ムドが本当の本気で怒りを覚えるのは、何もしていないと思われる事だ。
 魔法や気が使えず、存在すら知らなくても人は一人一人、一生懸命生きている。
 頑張っているんだ、それを否定する事は誰にもできやしない。

「刹那さんは、木乃香さんが大事ですよね? 守りたい、私が守る。力があるんですから、そう言えますよね。本人を目の前に言えるかどうかは別にして」
「私は、お嬢様を護る事が全てです」
「羨ましい、実に羨ましい。大切な、好きな相手を自分が守る。俺もね……言ってみたかったですよ」

 突然の雰囲気の変化に、下手に出ていたはずの刹那が身構えた。

「大好きなアーニャを、俺が守るって言ってみたかった。本人を前にして、俺がお前の全てを守ってやるって言いたかった。分かるか、簡単だ。日曜の朝八時のヒーローのように、格好良く言ってみたかった。言いたかった!」

 怒りが、熱に浮かされ焦点の合っていなかった瞳を無理に引き寄せる。
 光の届かない森の中で互いの姿を完全に視認する事は難しいが、刹那が戸惑っている様子は手に取るように分かった。
 絶対にそこを動くなと思いながら、激しく頭を振り喚く。

「本当に、もう力が使える奴が羨ましい、妬ましい。なんで俺だけ、畜生。好きになっちゃいけないのかよ。プロポーズの時、どう言えばいいんだよ!」

 喚く声に紛れ、密かに隠し持っていたナイフで木の幹の後ろに隠していたロープを切り裂く。
 そんな遠い場所に手が届いたのも、未だ続いている年齢詐称薬のおかげだ。
 直後、ビンッと弦のようなものが弾かれた音が森の中を過ぎ去っていった。
 刹那もそれに気付いたのだろう。
 何が飛来するかではなく、即座にその場を離脱し夕凪を抜いた。
 つい先程まで刹那がいた場所に突き刺さったのは、別々の方向から放たれた弓矢であった。
 硬い地面に突き刺さった事からも殺傷能力は考えるまでもない。

「こんな稚拙な罠で……舐められたものだ」
「あ、そこ落とし穴。犬の糞入れときました」
「え!?」

 今まさに飛び退った刹那が着地しようとした場所を指差し、ムドが呟く。
 慌てた刹那は、素早く視線を巡らせ近くにあった木に夕凪を突き立てた。
 極僅かに夕凪はしなるだけで、刹那の自重を全て支えてくれる。
 ホッとしたのも束の間、自分へと向けられたモノに気付いて驚愕に目を見開く。
 何しろムドが手にしていたのは、拳銃だったからだ。
 夜目で確認はし辛いが、両手に一丁ずつ、確かにムドのような人間が決闘をするにはおあつらえ向きの代物である。

「安心してください。落とし穴は嘘ですから」
「なに!?」
「ちなみに、これは本物。兄さん、魔法銃のコレクターなんですけど、時々間違えて本物の銃を購入しちゃうんですよね!」

 言われて目を凝らしてみれば、確かに現代の拳銃とは見た目が異なる。
 外装は木で作られている古式銃であった。
 だが刹那はそれでも、特にムドを脅威とは認識してはいない。
 稚拙な罠であろうと、銃を持ち出そうとやはり無理なものは無理なのだ。
 気を扱える者と、扱えない者の間にある絶対的な差。
 小さな火花が飛び散り、ムドが手にする古式銃から弾丸が放たれた。

「神鳴流の剣士に飛び道具は……え、アレ?」

 足をついた地面に本当は落とし穴があった、などというわけではなかった。
 刹那が振るった夕凪は、確かに弾丸を弾いていた。
 ただし、一発だけ。
 銃弾は二発放たれた事は、肩幅に離れた二つの火花が示していたはずだ。
 ならばもう一発はと考えた所で、刹那は気付いた。
 神鳴流の剣士も、弾丸をその目で見て弾いているわけではない。
 相手の銃の角度を視線、殺気を感じて何処を狙われたのかを肌で感じ、弾くのだ。
 つまり弾丸を見ているわけではないのだが、刹那には見えないはずの弾丸がその目で見えた気がした。
 一発目より半歩遅い、いや弾速そのものが遅く調節されている。

「くっ……おォッ!」

 夕凪を切り返し、再度弾くが遅かった。
 弾道をずらす程度しかできず、左肩を撃ち抜かれる。
 弾は肩を貫通せずに体内で止まり、全ての衝撃が肩から体全体へと伝わっていく。
 実際に怪我を負わされた事で、ようやく刹那もムドの本気を察する事が出来た。
 自身の混乱もあるが、やはり魔法も気も使えないという点が大きい。
 相手を油断という点では、最高の手札だと思わざるを得なかった。

「だが私もお嬢様を守る剣だ。貴方の怒りはどうあれ、素直に破れさるわけにはいかない!」

 左肩の怪我を悟らせない、普段と殆ど変わらない動きで刹那が夕凪を振りかぶる。
 その身に宿る気を練り合わせ、神鳴流の技を放つ。
 ムド相手に過剰な対処かもしれないが、一撃で決めなければ何をされるか分からない。
 本気で剣を向けると決めた今でも、ムドの本当が何処にあるのか掴みかねているのだから。
 夕凪を納刀し、目線にまで掲げ呟く。

「神鳴流奥義」

 刹那の反撃の意志を前に、ムドも身をかわそうと逃げ出した。
 まだ作戦の要を発動させる段階には入っていないのだ。
 なんでも良いから、動き回って次の罠を作動させる。
 そんなムドの必死の逃げをあざ笑うように、一足飛びで刹那が追いついてきた。
 幾らムドの体が弱いとはいっても、やはり気の力が理不尽なまでであった。

「斬岩剣!」

 かわせ、そればかりを願っていたムドの胸を、刹那が峰を返した夕凪にて袈裟懸に斬り裂いた。
 あばらの二、三本ぐらいは折れただろうか。
 吹き飛ばされ、本日三度目となる木の幹へと背中から叩きつけられた。

「ガハッ」

 衝撃に飛び散った唾液に、血が混じっているように見えた。
 遠慮のない一撃に、本当に一撃でリタイヤ寸前であった。
 何しろ怪我以前に、ムドは暴れ出した自分の魔力に殺されそうになっていたのだから。
 魔力や気によって怪我を負えば、過敏に反応した体が使えもしない魔力を生み出し始める。
 そのまま意識が遠くなりそうな所を、唇を噛み切った痛みで引き戻した。
 本当に、どうしようもない体であったが、まだ倒れるわけにはいかない。

「お終いです。ムド先生、昼間の謝罪は改めていたします。だから、お嬢様を返してください」
「無理、です……」
「これで最後です。お嬢様を、返してください」

 ムドの途切れ途切れの返答に、刹那が瞳の色を消し、夕凪を振り上げた。
 背中を木の幹に預けながら、座り込んでいるムドの首を落とすかのように。
 それでもムドは首を横に振り、その気がない事を示す。
 振り下ろされる夕凪は、ムドの短い髪をさらに切り落としながら地面へと振り下ろされた。
 ヒュッとまさかという思いで息を飲んだムドの前で、刹那は勝者でありながら這い蹲り頭を下げる。

「お願いします。私ならば、何でも言う事を聞きます。だから、お嬢様を……返して、ください」

 切なる願いには、ほんの僅かにだが涙が込められているようであった。
 本当に、刹那は木乃香が大切なんだと感動さえ覚える。
 今のネギもそれなりにムドを優先してくれているが、ここまでしてくれるだろうか。
 そもそもムドがネギを信じられない時点で、そう望むのは酷というものだ。
 木乃香が羨ましいと思うが、それはそれであった。
 美しい友情、素晴らしささえ感じられるソレだが、所詮は他人のモノだ。
 ムドに何か恩恵があるわけではない。
 そんな現実的な考えから、ムドは土下座する刹那の上から言葉を投げつけた。

「刹那さん……それで本当に、木乃香さんが感謝してくれると思ってます?」

 ピクリと刹那の頭が揺れたが、土下座は続く。

「麗しのお嬢様を浚った下衆な悪漢。颯爽と現れた従者は見事悪漢を撃ち砕き、麗しのお嬢様の元へ。だが投げつけられたのは罵詈雑言、何故守ってくれなかった。妖怪の薄汚い血の力を使えばそもそも浚われずに済んだんじゃないのっと」
「待って、一体なんの話を……」
「ん? 何のとは、現状の話をです。麗しのお嬢様の言葉は続きます。一体何の為に貴方みたいな薄汚い血の小娘を傍に置いていると思っているの。こんな時の為でしょうと」

 刹那は震えていた。
 ムドは、現状の話をと言ったのだ。
 確かに麗しのお嬢様である木乃香は浚われており、下衆な悪漢と呼ぶにしても力不足なムドはいる。
 そして妖怪の薄汚い血を持つ刹那、配役は全て揃っていた。
 ならば現状とは何だ、何故その麗しのお嬢様は刹那の正体を知っている。
 動悸が激しくなり、過呼吸を起こしたように息を荒げ、刹那は地面の土を握り締めた。

「もう貴方なんかいらないわ。何処へでも消えなさい。私ね、何時も思ってたの。後ろをついて回る貴方が、何か、臭うって」
「うあああああああッ!!」

 それ以上喋るなと、ムドの頬に刹那の拳が撃ちつけられていた。
 両手で投げ捨ててもこうはいかないぐらいに、見事にムドの体が錐もみ状態で吹き飛んだ。
 地面に頭から落ちたムドは、ジワリと地面に血の跡を広げ始めている。
 肋骨が折れている相手に行う所業ではないが、刹那の瞳は完全に魔に取り付かれていた。
 ムドが語る現状のお話を完全に自分達に重ね合わせ。
 どす黒く染め上げられた瞳に、縦に一筋の光が宿る。

「お、じょうさ……ま」

 狂気の中に僅かに光る宝物の名を呟きながら、刹那は地面に置いていた夕凪を手に取った。
 そして暗闇の中でも銀色に輝く刀身を、鞘の中からゆっくりと解き放っていく。
 シャランと刃が鞘を走る音を響かせ、銀光を闇の中に生み出し構える。
 足は肩幅よりも広く、手にした夕凪は真っ直ぐ空に一直線にして柄を両手で握った。
 斬り捨てる相手は、既に地面の上で血の池を広げているムド、その止めだ。

「神鳴流奥義」

 空へと一直線に立てた夕凪の刀身に、パリパリと電光が帯び始める。
 足りない、まだ足りないと力を求めて刹那は、隠し通してきたそれを夕凪のように解放した。
 制服の背中を突き破り、開かれるのは純白の翼。
 烏族の中でも禁忌とされた白い翼だ。
 人とのハーフである事を示す半妖体の姿で、さらに夕凪に力を集めていった。
 最初は静電気程度の雷が、バチバチと放電現象を起こすにまでなっていく。
 その放電に呼び出されたように、空では雷雲が集まってきていた。
 ついに刹那が地面を蹴り上げ、翼を使って空高く剣を掲げ、放つべき技の名前を叫んだ。

「雷鳴」

 その瞬間、気絶していたかに思われていたムドが動いた。
 やや震える手で一枚の仮契約カードを掲げ、必死に声を絞り出す。

「契約執行、無制限。ムドの従者、桜咲刹那!」

 雷の爆光が周囲一体を破壊しつくしていった。
 森を形成していた木々をなぎ倒し、燃やすのではなく塵に返していく。
 荒ぶる風にムドは吹き飛ばされ、もう数えるのも億劫な程に木の幹に体をぶつける。
 ただ元々の怪我が怪我であったのだ。
 最後の力を振り絞っての契約執行の直後には気を失っており、痛みに悶え苦しむ事もない。
 上空で生まれた爆発なのに、地上ではこのありさまである。
 さぞ空はと思うかもしれないが、爆心地ならぬ爆心空は、最初からこざっぱりしたものであった。
 単純に雷によるエネルギーを放物線上に広がっていき、嵐のような風を吹き荒れさせる。
 全てが収まった後に残っていたのは、体を痛め、翼をも痛めた刹那の姿だけであった。
 心身共に、半妖体になってまで気を練り上げての渾身の一撃であったはずだ。
 そこにムドが仮契約カードを用いて、自分の過剰魔力を一気に流し込んだ。
 魔力と気は本来、相容れないものである。
 先日、地下図書館で古がネギの契約執行に不満を抱き、気で弾き飛ばしたように。
 反発しあう性質を持ち、弱いほうが純粋に弾かれるのが普通であった。
 だがそれはあくまで総量が互いに少ない場合である。
 刹那はまだ十四の身で扱えるには驚愕する程の気を体内に練りこんでいたのだ。
 そこに流し込まれたムドの魔力も、並みのものではなかった。
 つまり気の嵐と魔力の嵐を直接、それも刹那の体内でぶつけ合ったに等しい。

「お、じょ……」

 背中の白い翼が消え、刹那が落ちる。
 意識は既になく、このまま地面に激突すれば元の怪我を加えて駄目押しとなってしまう。
 だが今この場にはムドしかおらず、そのムドも重症により気絶中だ。
 仮に起きていたとして、刹那を受け止められたとは思えないが。
 誰も気絶した刹那を受け止められるものがおらず、ついに刹那は地面へと衝突した。
 ふわりと、影にささえながら。

「ククク、ここまでされてはサービスせねばなるまい」

 刹那を受け止めた影は、蝙蝠の集団であった。
 一切の衝撃を加えないように、刹那を地面へと降ろしていく。
 その内の一匹が、金糸の髪を持つ最強の魔法使いを思わせる声で呟いた。

「素晴らしい結末だ。過程は少々アレだが、十二分に楽しめた」

 けらけらと一匹の蝙蝠は笑いながら続ける。

「全く持って、素晴らしい。発想の転換、仮契約を利用して相手の気と自分の魔力を反発させて倒すなど、誰が考え付こうか。弱者ならでは、ではないか!」

 最も、その場合には魔力だけは人並み以上という制約はつくのだが。
 蝙蝠は満足そうに刹那とムドの双方の上空を飛びまわり、やがて飛び立っていく。
 その先は、麻帆良女子中学校の寮である。
 気絶した二人は今すぐにでも治療しなければ、命が危うい。
 使い魔である蝙蝠の主、エヴァンジェリンとしてもそれは面白くない。
 何かまだ、面白い筋書きが残っているのではと、ネカネを呼びに飛び立った。









-後書き-
ども、えなりんです。
先読みして書いておきます。ムドはこのかを浚ってません。

気を使う相手に仮契約って武器にもなるよね。
と、やってみたかったシチュでした。
そして体内で気と魔力が反発し爆発した刹那。
XXX板として、次がどういう展開か分かりますね?
ヒント:ムドは魔力タンクです。

あと、使い魔で覗いてたエヴァンジェリン。
お話の最後の方にヒーローにクチュってされる三流くさいw

では次回は水曜。
やったねせっちゃん家族が増えるよ。


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