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No.25212の一覧
[0] 【完結】ろくでなし子供先生ズ(ネギまでオリ主)[えなりん](2011/08/17 21:17)
[1] 第二話 打ち込まれる罪悪と言う名の楔[えなりん](2011/01/01 19:59)
[2] 第三話 脆くも小さい英雄を継ぐ者の誓い[えなりん](2011/01/05 21:53)
[3] 第四話 英雄を継ぐ者の従者、候補達?[えなりん](2011/01/08 19:38)
[4] 第五話 ムド先生の新しい生活[えなりん](2011/01/12 19:27)
[5] 第六話 第一の従者、ネカネ・スプリングフィールド[えなりん](2011/01/15 19:52)
[6] 第七話 ネギ先生の新しい生活[えなりん](2011/01/22 21:30)
[7] 第八話 強者の理論と弱者の理論[えなりん](2011/01/22 19:25)
[8] 第九話 闇の福音による悪への囁き[えなりん](2011/01/26 19:44)
[9] 第十話 勝手な想像が弱者を殺す[えなりん](2011/01/29 20:15)
[10] 第十一話 私は生きて幸せになりたい[えなりん](2011/02/05 20:25)
[11] 第十二話 棚から転がり落ちてきた従者[えなりん](2011/02/09 20:24)
[12] 第十三話 他人の思惑を乗り越えて[えなりん](2011/02/12 19:47)
[13] 第十四話 気の抜けない春休み、背後に忍び寄る影[えなりん](2011/02/12 19:34)
[14] 第十五話 胸に抱いた復讐心の行方[えなりん](2011/02/16 20:04)
[15] 第十六話 好きな女に守ってやるとさえ言えない[えなりん](2011/02/23 20:07)
[16] 第十七話 復讐の爪痕[えなりん](2011/02/23 19:56)
[17] 第十八話 刻まれる傷跡と消える傷跡[えなりん](2011/02/26 19:44)
[18] 第十九話 ネギパ対ムドパ[えなりん](2011/03/02 21:52)
[19] 第二十話 従者の昼の務めと夜のお勤め[えなりん](2011/03/05 19:58)
[20] 第二十一話 闇の福音、復活祭開始[えなりん](2011/03/09 22:15)
[21] 第二十二話 ナギのアンチョコ[えなりん](2011/03/13 19:17)
[22] 第二十三話 満月が訪れる前に[えなりん](2011/03/16 21:17)
[23] 第二十四話 ネギがアンチョコより得た答え[えなりん](2011/03/19 19:39)
[24] 第二十五話 最強の従者の代替わり[えなりん](2011/03/23 22:31)
[25] 第二十六話 事情の異なるムドの従者[えなりん](2011/03/26 21:46)
[26] 第二十七話 いざ、京都へ[えなりん](2011/03/30 20:22)
[27] 第二十八話 女難の相[えなりん](2011/04/02 20:09)
[28] 第二十九話 大切なのは親友か主か[えなりん](2011/04/06 20:49)
[29] 第三十話 夜の様々な出会い[えなりん](2011/04/09 20:31)
[30] 第三十一話 友達だから、本気で心配する[えなりん](2011/04/16 21:22)
[31] 第三十二話 エージェント朝倉[えなりん](2011/04/16 21:17)
[32] 第三十三話 ネギの従者追加作戦[えなりん](2011/04/20 21:25)
[33] 第三十四話 初めての友達の裏切り[えなりん](2011/04/23 20:25)
[34] 第三十五話 友達の境遇[えなりん](2011/04/27 20:14)
[35] 第三十六話 復活、リョウメンスクナノカミ[えなりん](2011/04/30 20:46)
[36] 第三十七話 愛を呟き広げる白い翼[えなりん](2011/05/04 19:14)
[37] 第三十八話 修学旅行最終日[えなりん](2011/05/07 19:54)
[38] 第三十九話 アーニャの気持ち[えなりん](2011/05/11 20:15)
[39] 第四十話 友達以上恋人未満[えなりん](2011/05/14 19:46)
[40] 第四十一話 ネギの気持ち、ムドの気持ち[えなりん](2011/05/18 20:39)
[41] 第四十二話 契約解除、気持ちが切れた日[えなりん](2011/05/25 20:47)
[42] 第四十三話 麻帆良に忍び寄る悪魔の影[えなりん](2011/05/28 20:14)
[43] 第四十四話 男の兄弟だから[えなりん](2011/05/29 22:05)
[44] 第四十五話 戦力外従者[えなりん](2011/06/01 20:09)
[45] 第四十六話 京都以来の再会[えなりん](2011/06/08 21:37)
[46] 第四十七話 学園祭間近の予約者たち[えなりん](2011/06/08 20:55)
[47] 第四十八話 麻帆良学園での最初の従者[えなりん](2011/06/11 20:18)
[48] 第四十九話 修復不能な兄弟の亀裂[えなりん](2011/06/15 21:04)
[49] 第五十話 アーニャとの大切な約束[えなりん](2011/06/18 19:24)
[50] 第五十一話 麻帆良祭初日[えなりん](2011/06/26 00:02)
[51] 第五十二話 ネギ対ムド、前哨戦[えなりん](2011/06/26 00:03)
[52] 第五十三話 仲良し四人組[えなりん](2011/07/02 21:07)
[53] 第五十四話 麻帆良武道会開始[えなりん](2011/07/06 21:18)
[54] 第五十五話 この体に生まれた意味[えなりん](2011/07/06 21:04)
[55] 第五十六話 フェイトの計画の妨げ[えなりん](2011/07/09 20:02)
[56] 第五十七話 師弟対決[えなりん](2011/07/13 22:12)
[57] 第五十八話 心ではなく理性からの決別[えなりん](2011/07/16 20:16)
[58] 第五十九話 続いて欲しいこんな時間[えなりん](2011/07/20 21:50)
[59] 第六十話 超軍団対ネギパ対完全なる世界[えなりん](2011/07/23 19:41)
[60] 第六十一話 スプリングフィールド家、引く一[えなりん](2011/07/27 20:00)
[61] 第六十二話 麻帆良祭の結末[えなりん](2011/07/30 20:18)
[62] 第六十三話 一方その頃、何時もの彼ら[えなりん](2011/08/03 20:28)
[63] 第六十四話 契約解除、ネギの覚悟[えなりん](2011/08/06 19:52)
[64] 第六十五話 遅れてきたヒーローユニット[えなりん](2011/08/10 20:04)
[65] 第六十六話 状況はより過酷な現実へ[えなりん](2011/08/13 19:39)
[66] 第六十七話 全てが終わった後で[えなりん](2011/08/17 20:16)
[67] 最終話その後(箇条書き)[えなりん](2011/08/17 20:18)
[68] 全体を通しての後書き[えなりん](2011/08/17 20:29)
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[25212] 第十一話 私は生きて幸せになりたい
Name: えなりん◆e5937168 ID:1238ef7e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/02/05 20:25
第十一話 私は生きて幸せになりたい

 英単語ツイスターの石版を砕かれ、暗闇の中をネギ達は落下していく。
 その終着点は定かではないが、ネギはまわりの明日菜達のように無様に悲鳴を上げるだけではいられなかった。
 密かに杖で飛行術を行い、皆と同じ速さで下に飛びながら姿勢制御を行う。
 だが共に落下する瓦礫の間を縫い、全員を救い上げるなど不可能だ。
 魔法の秘匿をこの期に及んで戸惑っているわけではない。
 自分の力量では無理だと、微妙に焦った上でのそれでも冷静な思考からの結論である。
 ならばまずと、この暗闇を利用して詠唱を開始する。

「ラス・テル マ・スキル マギステル。風の精霊十七人、 縛鎖となりて 敵を捕まえろ」

 光と雷は、激しい発光を伴なう為に使えない。

「魔法の射手、縛めの風矢」

 風属性の魔法の矢がネギの杖から放たれ、暗闇の中を駆け抜ける。
 破壊ではなく、詠唱の通り捕縛の魔法だ。
 それらが向かう先は、ゴーレムの槌で砕け切らなかった巨大な瓦礫であった。
 石を持たない器物は抵抗の二文字を持たず、風の縛鎖に絡めとられ落下を停止する。
 次々に大きな瓦礫を狙い撃ち、落下する自分達との着地の時間差を生み出していく。
 全ての瓦礫とはいかなかったが、自分たちよりも大きなものは粗方、縛り付ける事が出来た。
 そして時間切れを示す、終着点の光が見え始める。
 改めて皆の位置を確認するが、なんとか魔法の効果範囲に全員がいる事を確認出来た。
 タイミングが重要で、しくじるなとネギは自らに言い聞かせる。

「もう二度と取りこぼさない」

 その言葉の直後、長い闇を抜けた。
 眩い光に目をくらまされるが、耐え抜いた先に見えたのは一面の湖であった。
 鏡のような澄んだ湖面へと向けて落下し、衝突の瞬間。

「吹け一陣の風、風花風塵乱舞!」

 ネギ自身を含めた七人全員を、風の突風で押し上げる。
 重力による速度を減速させつつ、湖の上から弾き飛ばした。
 その先は、湖の切れ目である浜辺である。
 絶妙な魔力操作を必要とする作業に、意識が飛びかけるが食い縛った。
 何故ならまだ終わりではなかったからだ。
 このままでは今度は砂浜に衝突するとして、最後の魔法を唱える。

「風よ!」

 今度は突風ではなく、受け止めるだけのクッションであった。
 ネギの耳にもボフリと風に受け止められた音が聞こえ、砂浜に滑り落ちた。
 最後の最後で気が抜けてしまったのか、皆も砂浜に顔から背中からと落っこちてしまう。

「べぇ……砂、食べちゃった。ぺっぺ」
「痛ぃです。ですが、突然の突風とはついてました。あのままではこの二月の寒空のしたで寒中水泳と……あれ、暖かい?」
「砂浜もぬくぬくやな。いい加減、眠くなってくるえ」
「何時もなら、とっくにお布団の中だもんね」

 明日菜が砂を吹きだし、夕映も髪に絡まった砂を振り払いながら起き上がる。
 逆に木乃香やまき絵は、温かい気温とふかふかの砂浜を前にごろごろと転がっていた。
 誰一人として大きな怪我はないようで、ネギはほっと胸を撫で下ろす。
 正直な所、アレだけ魔法を連発したのは初めての事でミスなく出来た事が嘘のようだった。
 それから改めてここが何処かと、辺りを見渡して驚愕する。

「って、ここは何処なの!?」

 頭を抱えて明日菜が叫んだ光景とは、上の階でも流れていた滝などの水流の終着点。
 一面の湖と、そこに半分沈みかけた多くの本棚であった。
 自分達がいる砂浜の近くには桟橋もあり、その桟橋が続く先には古びた洋館すら見えた。
 既に図書館の建物を突き抜け、地下洞窟にまで辿りついてしまったのか。

「す、すごい……落ちてきた天井がアレ、なに?」

 太陽ではない何か別の光が差し込むのは、湖から生える樹木が茂らせる枝葉からであった。
 そのさらに上から落ちてきたのかと、明日菜を筆頭に皆が空を見上げる中でそれに気が付いた。
 まるで太陽が落ちてくるような、赤い物体が先程の自分たちのように落ちてくる。
 いや、それは丸くもなければ光ってもない。

「あ、あ……」

 落ちてきたのは、血に塗れ赤く染まったムドであった。
 意識はないのか重力に引かれるまま落下しており、いずれ湖に叩きつけられる。

「ま、また……守れ、かっあ。ああ゛アァッ!!」
「ま、待つアル。今から泳いでも、間に合わないネ。楓、頼むアル!」
「心得た!」

 錯乱し、杖による飛行術さえ使用を忘れたネギが駆け出したのを、後ろから古がはがい締めにして止める。
 その古が全てを語るよりも早く、楓が砂浜の上に両足を沈み込ませた。
 砂浜が爆発し、楓の姿がその場から消え、砂を被った明日菜達の悲鳴を置き去りに高く跳ぶ。
 タンッタンッと、さらに空中にて何かを蹴りつける音が続く。
 その音を生み出した楓が、湖の上空にて落ちてきたムドを抱きかかえて回収する。
 そして、次の瞬間糸目の瞳を開き、唇を強くかみ締めて、再び空中を蹴って砂浜へと戻っていった。

「ムド、ムドッ!」
「こ、こらムド先生なら楓が……暴れるなアル、ネギ坊主」
「楓ちゃん、ムド先生は……大丈夫だよね!?」

 ムドを隠すように胸に抱いていた楓が、皆に詰め寄られ顔を伏せた。

「後頭部や背中に数多くの裂傷が、腕や足の骨にもダメージが……早期に、治療しなければ命さえ危ういでござる」

 苦しげに呟いた楓が、胸に抱いていたムドを砂浜へと降ろした。
 途端に、詰め寄っていた皆がハッと口を多い、瞳に涙を浮かびあがらせる。
 言葉だけでは伝わりきらない現実がそこにあったからだ。
 布団みたいだと木乃香やまき絵が喜んだ白く暖かな砂浜が、瞬く間にムドの血で染められていく。
 車に跳ねられても、まだここまで体が傷つきはしないだろう。
 素人の考えだが、そう思えてしまう程にムドの傷は深かった。

「真っ赤、これがムド君……え、だって。アレ、金髪が」
「どうするのよ。ネカネさんや、アーニャちゃんになんて言えば」
「わ、私が……魔法の本など、部室から地図を持ってこなければ」
「夕映、急いで治療するえ。早くなんとかせんと、謝る事すらできんくなってまう!」

 信じられないと赤く染まったムドの金髪を見てまき絵が呟き、唇を震わせながら明日菜が呟いた。
 さらに自分が原因だと呟いた夕映の前で、一人気丈に木乃香が背負っていた探検バッグから救急セットを取り出し始める。

「ち、治療は……後、奴が」
「ム、ムド、奴って誰。誰がムドにこんな事を!」
「もう直ぐ、ゴーレムが……先に身を隠し」

 ネギではなく、ただ上を見上げながらうわ言のようにムドが呟いた。
 途切れ途切れのその言葉の内容を聞き届け、ネギや楓、古はムドが落ちてきた天井を見上げた。
 樹木が多い茂る隙間、ぽっかりと空いた暗闇の中から、ゆっくりとだが何かが降りてくる。
 まだはっきりと姿は捉えられないが、魔法の本があった間のゴーレムに間違いはないだろう。
 まず楓が治療を始めようとしていた木乃香や夕映から、ムドを抱きかかえるようにして取り上げた。

「う、動かしたらあかんえ!」
「それは分かっているでござるが、このままこの場に足止めされてはムド先生の二の舞でござる。全員、身を隠すのが先決でござるよ」
「さっきの石像が降りてくるアル。私や楓は大丈夫アルけど、皆は駄目アル」
「アイツが……アイツが、ムドを!」

 ムドの忠告、楓や古の言葉が聞こえていないかのように、ネギが駆け出した。
 今まさに空から降りてこようとしているゴーレム目掛けて。
 皆の前にも関わらず、杖による飛行術さえ使い、ムドの無念を晴らそうと空を駆ける。
 はずであった。
 一足先にネギの正面に回り込んだ明日菜が、その頬を叩かなければ。

「何処に行こうって言うのよ。あんたみたいな子供が行って、なんになるのよ。そんな事よりも、ムド先生のそばにいるのが大切でしょ。あんた、お兄ちゃんでしょ!」
「あ……お兄ちゃん、そうだ僕がムドを守らないと。お姉ちゃんやアーニャもここにいないんだ。僕が」
「分かったら、まずは楓ちゃん達の言う通りに隠れるのよ。急ぎましょう」

 空元気を全開に、明日菜が先陣をきって砂浜から桟橋へと上がりこみ、走り出す。
 当初、遠くに見えた洋館を一目散に目指していた明日菜であったが、楓に引き止められた。
 例え寂れていても家という利便性がある、仮にそうだとしても追跡者がいる状態では危険過ぎたからだ。
 そこで楓の提案により、一行は身の隠し場所をある場所へと変えた。
 それが湖の水を養分にして巨大に成長した樹木のうちの一本、その根元であった。
 成長しすぎて根が地面を離れて幹部分が地上から浮いており、柱の様になった根を地に降ろしている。
 しかも根と根間は、身の丈の低い別種の樹木が集まった茂みが埋めていた。
 広さは二十畳近い広さであり、八人が身を寄せるには十分で洋館へも足を伸ばそうと思えば伸ばせる位置だ。
 直ぐさま明日菜と古が洋館へ使えそうな物を取りに向かい、楓とまき絵が茂みのカモフラージュの強化に務めた。
 簡易の隠れ家に寝かせられたムドは、ようやく木乃香と夕映の治療を受け、ネギは元気付けるようにその手を握っていた。

「あかん、血が止まらへん。兎に角、血を止めへんと。夕映、包帯はええからタオルとかで」
「救急セットでは全然足らないです。本格的に手術でもしないと、このままでは本当に……」

 ガーゼを患部につけたそばから、包帯を巻いたそばから血が溢れ意味がなくなっていく。
 二人とも泣きそうになりながらそれでも治療を続けるが、治療そのものの意味すら消え失せそうであった。
 一度、皆に逃げてと言ってから、ムドは一度も意識を取り戻していない。
 今にも途切れそうな息遣いで、必死に生きていると叫んでいるようであった。
 だがそれも何時まで持つ事か、ムドを死の縁から呼び戻すとばかりにネギはひたすらその手を握り締める。

「ねえ、ちょっと古かったけどベッドがあったから、マット持ってきた!」
「水や食料もあったから、持てるだけもってきたアル。特に水使うアルか!」
「あの石像、ムド先生の名前呼びながらあちこち歩き回ってるよぅ……」
「幼子にこんな仕打ちをした挙句、まだなにかしようと言うでござるか。まさに鬼畜の所業でござる」

 洋館の探索を切り上げた明日菜と古が、カモフラージュの強化を終えたまき絵と楓が戻ってくる。
 その頃には既に、木乃香と夕映の治療行為も終わりが見え始めていた。
 治療が完了したわけではない。
 治療の必要がなくなる時、生の終わりが見え始めてきてのだ。

「あかん……ウチら、無力や。なんも出来へん。ムド君、こない苦しそうやのに」
「すみません、すみませんです」
「ちょ、ちょっと何諦めてるのよ。諦めたら……だって、春先に本屋ちゃんが頭に怪我した時も、結構簡単にムド先生とネカネさんが治してくれて」

 持っていたマットを放り出し、諦めかけた二人に必死に続けてと懇願する明日菜の肩に楓が手を置く。
 無言で首を横に振られ、誰も彼もが言葉を失くす中でネギだけが顔を上げていた。
 たった今、明日菜が叫んだ台詞を聞いて。
 そう就任早々にのどかが頭に重症を負った時、ネカネが魔法で癒す所をネギは見ていた。
 あれ以来、簡単な癒しの魔法しか習っておらず、今のムドには焼け石に水だ。
 だから今は黙って木乃香と夕映の治療を見ていただけであったが、あの時にネカネが使った魔法ならばどうだ。
 一度しか詠唱の言葉は聞いていないが、就任当初の事件なので記憶は鮮明であった。
 迷っている暇はないと、ネギは今にも呼吸が途切れそうなムドを前にして立ち上がる。

「明日菜さん、そのマットをこっちに。楓さんはムドをその上に乗せてください」
「しかし、ネギ坊主」
「早く、急がないと間に合わなくなります!」

 突然のネギの剣幕に、楓の言葉は封殺され、明日菜と古が持ってきたマットにムドを寝かせなおす。
 一体何をするつもりか、そんな皆を視線を集める中でネギは父から譲られた杖を強く握った。
 簡単な治療魔法しか使えない自分に、重傷者を治す魔法はなおさら使えない。
 だとしても、そこで諦めるわけにはいかなかった。

「ラス・テル、マ・スキル、マギステル」

 ネギが始動キーを呟き、魔力を癒しの風と光に変えていく。
 記憶の中にあるネカネと自分を重ね、一言一句違わない詠唱を口ずさんでいった。
 その頭の中に、魔法の存在の秘匿という言葉は欠片も浮かんでは来ない。
 今はまず何よりもムドの生存が先決だからだ。
 たった一人の兄弟、大切な弟。
 苦しみを周囲に漏らすのが苦手の割りに、ネギの事は素直に褒めたり応援してくれる。
 それが何故と、浮かびかけた怒りを今だけは駆逐して心の奥底に溜めておく。
 爆発させるのは、まだ後。
 ネギは癒しの光でムドの傷ついた体を包み込み続けた。

「なに、これ……まさか、本とかじゃなくて。本当の、魔法?」
「凄い、ムド君の傷がどんどん癒えてくわ。これなら、助かるかもしれへんえ」
「良かった、良かったよぅ。腰抜けた……」
「魔法、傷が……まさか、のどかの怪我もネギ先生が?」

 明日菜が茫然と呟き、夕映もまた目の前の光景から憶測を立てていた。
 四人が茫然とする中で、それでも必死に働いていたのは楓と古である。
 何しろ今は、ネギが全力で魔法を使い輝かしい光を放っているのだ。
 外に漏れたらゴーレムに見つかると、古が食料を包む為に洋館から拝借してきたカーテンの布で周囲を覆っていた。

「拙者も人の事は言えんでござるが、魔法でござるか」
「子供先生の正体破れたりアルな。今考えると、納得アル」

 これでムドが助かる、誰もがそう思い胸を撫で下ろす。
 憂いを帯びた表情でムドに癒しの魔法をかけるネギが、そこはかとなく格好良いと数人が思い浮かべた程に。
 だがほっとしたのも束の間、ムドの体が痙攣を起こすように跳ね上がり、持ち上がった顔、その口から血を吐いた。

「くッ、やっぱり……皆、ムドの体を抑えてください。魔力の反発が」
「ぐゥ、アアアアッ! 熱い、熱い、アッガァ!」

 血を吐いたかと思った次の瞬間には、激しく暴れたムドが胸を掻き毟る。
 皮どころか肉までもを爪で抉り、背中が癒える代わりに胸が自身の手で傷つけられてしまう。
 肝が据わっているというべきか、やはり一番に動いたのは木乃香であった。
 ムドの片腕に体ごと抱きついて、胸を引っかくのをやめさせる。
 慌てて夕映が反対側の腕を、明日菜とまき絵が両足を抑えに掛かった。

「ちょっと、何よ。失敗したとか、この期に及んで言わないわよね!」
「痛い痛い、跨ぐんじゃなかった大事なところが!」
「ムドは病弱じゃなくて、魔力を外に出す機能がないんです。だから体内の魔力が常に飽和状態で、そこにさらに回復魔法で魔力を込めたから」
「破裂前の風船と一緒って事やな。それはどうやって治すん?」

 至極当然な木乃香の問いかけを前に、ネギは静かに首を横に振った。

「ネカネお姉ちゃんしか、知りません。特別な手法でしか無理らしくて……だから、ムドが落ち着くまで皆さんお願いします!」
「だ、だったらさっき持ってきた水が役立つアル。良く分からないけど、こんなのは風邪と一緒ヨ。楓、覆うのは任せたアル」
「任されたでござる」

 ネギとムドを覆うようにしていたカーテンから古が手を離し、洋館から拝借してきた飲み水でタオルを冷やしムドの体を拭っていく。
 怪我はおおよそ癒え始めているが、ムドの治療はまだまだこれからであった。









 ムドが目を覚ました時、辺りは薄っすらとだが暗かった。
 しばらく呆けたまま木の幹である天井を見上げつつ、ポツリと呟いた。
 信じられないという心情をありありと声にのせながら。

「どうして、生きてる……」

 学園長の操るゴーレムの手により、石畳の壁に叩きつけられてから記憶がない。
 だがそれでも重症であった事は間違いなく、本当に生きている事が不思議でならなかった。
 普段よりも少し熱っぽい気はするが、自分が怪我をしている自覚もない。
 何がどうなったんだと、そもそもここは何処だと起き上がろうとすると四肢が動かない。
 その代わり、ふにふにと大好きな感触が方腕に、肌触りの良い素敵な感触が方足に密着している。

「せっちゃんは甘えん坊やな……」
「あ、んん」

 腕を胸に抱えて眠っている木乃香と、脛に下腹部を密着させ腰にまで抱きついているまき絵であった。
 それ以外にも明日菜が太ももを枕にして寝ているし、夕映が木乃香と同じような格好で寝ていた。
 木乃香と同じ格好で寝ている夕映の方から、心地良い感触がもらえない事については深く考えない事にする。
 他にはネギと古が折り重なるように眠っており、楓だけはこの場に姿が見えなかった。
 良く状況が見えないが、このまま若き乙女達の肉林の中にいるとまた勃起して死にたくなりかねない。
 文字通り、本当に死に掛けた今、冗談ではすまないのだが、思いのほか皆がっちりとしがみ付いてきていた。

「本当に何が一体……動け、もう。ごめんなさい」

 雁字搦めの状態を抜け出すために、まずは木乃香のおっぱいを大胆に揉んでくすぐったいと力が抜けたところを引き抜く。
 夕映の場合は、何処が胸か班別が難しかったので小さなぽっちをさがして指先で転がしてから力の抜けたところを狙う。
 明日菜は膝に頭を乗せていただけであり、その胸の淡い想いも知っているのでそっと頭を持ち上げ膝を抜くだけであった。
 最後のまき絵が一番の難関で、足元から腰にまでしっかり抱きつかれている。

「この人、本当に寝ているんでしょうか?」

 妙に下腹部を足に擦り付けられ、やや赤らんだ表情のまま微笑んでいる。
 さすがにこれ以上されるとこちらとしても心臓に悪いので、やや強引に行動した。
 お腹の辺りにあるまき絵の頭を抱え込み、耳元にふっと息を吹きかける。
 くすぐったいのか逆に体を丸められしがみ付かれたが、同時に足の指を使ってショーツの上から秘所をなぞった。
 初めての感触だったのかぞくぞくと体を震わせたまき絵の力が抜ける。
 今のうちにとその手から抜け出して、ようやくムドは自由を取り戻す事に成功した。

「それで、ここは一体……」

 セクハラをした事は既に忘却の彼方で、ムドは大木の真下の空間から一番大きな隙間を通って外へ出て行く。
 まだ薄暗く、遠くまで見渡せないが古びた洋館に、近くには湖とそこに沈む本棚、周囲から天井を囲むのは巨大な樹木と幻想的な空間が広がっていた。
 しばしそれらに目を奪われていると、足元の砂を蹴るような音が近くで鳴った。
 振り返るより早く頭に置かれたのは、柔らかくも大きな手の平。

「もう動いても大丈夫でござるか。まこと、魔法とは不可思議な力でござるな」
「楓さん……魔法、魔法を知って。まさか……」
「ネギ坊主が、治癒魔法でムド先生の傷を癒したのでござる。最も、皆は過剰魔力とかで暴れるムド先生を抑えるのに必死でそのまま寝てしまったでござるが」

 ネギが秘匿の義務すら打ち払い、魔法で助けてくれたのかと嬉しくなる一方。
 治療を手伝ってくれたらしき皆にセクハラをしてしまい、胸がズキズキと痛む。
 ごめんなさいと心で謝罪しつつ、でも私は悪だからとセクハラの正当化に余念がない。
 とりあえずの生還に胸を撫で下ろしつつ、これからどうするかを考える。
 正直に言うまでもなく、学園長を許すつもりはない。
 むしろ、絶対に許さない。
 遊び半分で殺されかけ、アレでは魔法学校の悪がきと一緒ではないか。
 例え何か致命的な勘違いがあったにせよだ。
 このままでは済まさないと、考えをめぐらせていると、もう一度強く楓に頭を撫でられた。

「昨晩、ある時を置いて急に石像の動きが静かになったでござる。執拗にムド先生を追っていたにも関わらず。だが、油断は禁物。絶対に皆で生きて帰るでござるよ」

 段々と周囲が明るくなり、朝日のような光を受けてキラキラと光る湖面を眺めながら楓が呟いた。
 だが格好良く決めた傍から、楓のお腹がぐうと空腹を訴えた。
 言葉から察するに、一人でずっと見張りをしていたのだろう。
 仮にそうだとしても、タイミングが良すぎた。
 紳士としてそこは聞き流すべきだが、耐え切れずムドは吹き出してしまった。
 恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いていた楓もやがて諦めたように、笑い出した。









 楓と共に、皆を起こしにかかった途端、ムドは一斉に抱きしめられた。
 おめでとう、ごめんなさい、生きてて良かった、心配したとその言葉は様々である。
 ただ誰も彼もがムドの生還を喜んでいるのは間違いなかった。
 ムドも一人ずつにありがとうございましたと頭を下げ、ネギには特大の抱擁で感謝を示した。
 そして耳元に口を寄せて、魔法の事は任せてとその心情を察して元気付ける。
 折角これまで必死に隠してきた魔法を、一夜にして六人に明かしてしまったのだ。
 ムドの命が引き換えだったとはいえ、ネギも気が気ではなかった事だろう。
 それから木乃香とまき絵が、昨晩に明日菜と古が洋館から拝借してきた食料でスープを作り上げた。
 そのスープと起こされた火を中心に、皆で円となって朝食を食べる。
 話は、朝食がつつがなく終わった後であった。
 皆が満たされたお腹に満足し、少し気が抜けかけていた所でムドが立ち上がり視線を集めた。

「改めて、皆さんにはお礼申し上げます。ですが、まだ何一つ終わってはいません」
「で、ござるな。あの石像、少なくとも二体を倒さねばおちおち出口の探索もままならないでござる」
「それもそうだけど、魔法よ魔法。ネギ先生の魔法でバッとやっつけられないの?」
「えッ、それは……あの、ゴーレムが特大の一発を詠唱する時間をくれればなんとか」

 一般人からすれば至極全うな、明日菜からの質問にネギがしどろもどろに答える。
 できなくはない、できなくはないが条件付でと。
 だができるの一言を聞いて、明日菜達は既に勝ったも同然の喜びようであった。
 その気分に水をさすようで悪いが、ムドは待ったをかけた。

「明日菜さん、皆さんもちゃんと聞いてください。兄さんは、ゴーレムが詠唱をする時間をくれればと言ったんです。兄さん一人では無理です」
「まだ魔法について何も聞いてはいませんが……恐らくは、大きな力を使うには、それに伴う時間が必要という事でしょうか?」
「夕映さんの言う通りです。それに魔法の使えない私は、元々戦力外。兄さんも実戦という実戦は経験した事がありません」
「それならウチは、石像から逃げる方に賛成え。また、昨日のムド君みたいな事になったら嫌やし……」

 木乃香の言葉に、少々魔法と言う言葉に浮かれていた明日菜や夕映が口ごもる。
 魔法に過剰な期待を寄せてはしまったが、それを行使するのはまだ子供と言って良いネギなのだ。

「私も、逃げる派かな。危ないのも怖いのも嫌だし」
「確かに、肝心のネギ先生がやられちゃったら今度こそ誰も助けられないし」
「未知という魅力を前に過去の失敗を一瞬とは言え忘れるとは、一生の不覚です」
「でも逃げながらだと、楓の言う通り落ち着けないアル。危険アルが、やはり倒すのが一番確実アル」

 楓と古が元々二-Aの武闘派である事もあるが、それだけシビアに今を見つめてもいた。
 ゴーレムから逃走しながら出口を探すには、長期的な視野が必要だ。
 戦力の分配も、拠点の防衛と探索で分けなければならず、食料の問題もある。
 戦うか逃げるかで意見が真っ二つに割れる中、ムドはネギへと意見を尋ねた。

「兄さんは……どうしたいですか?」

 その質問により、口々に如何すべきかを話していた皆の視線が集まる。

「僕は、教師としては……皆の安全を考えて、逃げる方を選択するべきだと思う。だけど、ムドのお兄ちゃんとして敵は討ちたい。あのゴーレムを、完膚なきまでに叩き潰したい」

 杖を握り締め、教師としての使命より敵討ちを熱く語るネギを見て、ムドの背筋にぞくぞくとしたものが駆け上がる。
 思考を悪に染め上げ、心の中で笑う。
 それでこそネギだと、自分が望んだ自分だけの立派な魔法使いだと。
 だが今はまだ言葉と心意気だけで、ネギの力は小さく、学園長が操るゴーレムには及ばない。
 だから小さな力を背伸びさせるだけの案をと、ムドは提案した。

「逃げるにせよ、戦うにせよ。皆の生還と安全は絶対です。それを確かなものにする誰にでも使える魔法を皆さんに教えたいと思います」
「わ、私達にも魔法が使えるの?」
「それって私達も今から魔法使いになれるって事?」
「魔法使いではないですが、それに似たものになら」

 少しスペースを開けてくださいと、皆が描く円を広げさせてムドはその辺の石を拾って地面に魔法陣を描いていく。
 徐々に描かれていく魔法陣を見て、ネギもそれが何か気付いたらしい。
 それと同時に、ムドが言った誰にでも使える魔法が何であるかも。

「ムド、待って。まさかそれって僕がって事!?」
「当たり前じゃないですか、兄さん。私の魔法使いの従者にしても、契約執行できるかどうかも分からないんですから」
「でも!」
「皆さんの安全を確保しつつ、ゴーレムを破壊する。これが一番確実なんです。それとも、尻尾を巻いて逃げますか?」

 ムド自身に自分の敵から逃げるのかと問われ、ネギの感情が封殺された。
 ネギ自身にその自覚はないかもしれないが、全ては敵であるゴーレムの破壊へと、意識が向けられる。
 良い傾向だと満足そうに頷いたムドは、魔法陣の続きを描き、ネギをその中に招き入れた。

「では説明します。皆さんにはこれから、この魔法陣の中で兄さんとキスしてもらいます」
「へ?」
「キ……キス、それが魔法ですか?」
「とてつもない予想外が来たアルよ」

 まき絵が目を点にして呆けた顔となり、夕映がまさかと尋ねてくる。
 古の言葉は、もはや全員の気持ちの代弁といって過言ではなかった。

「ちょっと、ムド先生ふざけてるの? ネギ先生とキスって、ここにいる全員ファーストキスもまだなのよ。できるわけないじゃない!」
「年頃の娘が六人も集まって一人もとは、少し悲しくなるでござるな」
「明日菜は高畑先生がおるし、必死やな。ウチはキスぐらいはええけどな。ネギ君かわええし」
「必死にもなるわよ。仮に生きて帰って、ファーストキスを失って高畑先生になんて言い訳すれば。応援してくれるんじゃなかったの、それとも止め刺しにきたの!?」

 割りと余裕のある楓と木乃香とは違い、誰よりも必死なのは明日菜であった。
 まき絵や夕映、古は肯定的でも否定的でもなく、いやしかしと自身の心に問いかけている。

「私はいたって真面目です。これは列記とした魔法で、魔法使いとの従者契約。これを行う事で従者となった者は、パートナーである魔法使いの魔力の恩恵を受けられます」
「な、なる程、その恩恵を使って皆で石像を倒そうというわけですか。それなら」
「納得できないわよ。絶対無理、嫌!」

 手の平に拳をぽんと置いて納得を表した夕映の行動は、明日菜の叫びに吹き飛ばされた。
 さすがにそこまで嫌と言われると、さすがのネギも凹み始める。
 そのネギの頭に手を置いた楓が、何時の間にかパクティオーの魔法陣の中にいた。

「百聞は一見にしかず。誰か一人が、してみるのが一番でござるよ」
「か、楓ちゃん!」
「あの……本当に、良いんですか? あの僕はまだ魔法使いとしても、見習いで」
「その見習いの身でありながら、昨日は落下する皆を風の魔法でしっかりと助けていたではござらんか。もう少し、自分を誇っても良いでござるよ」

 糸目を一度わざわざ開いてから、楓がネギへと向けて片目を瞑る。
 お互い向かい合った状態で、真上から降り注ぐようなウィンクを前に、僅かにネギの頬に赤みがさす。
 それに反応したかのように、ムドが描いた仮契約の魔法陣が輝き始めた。
 背丈が親子程離れた二人ではあるが、契約の瞬間を祝うようにより一層魔法陣が輝いていく。

「む、なんだかいけない気分になってくる光でござるな」
「あの楓さん。よ、よろしくお願いします」

 ネギが瞳を瞑って唇を突き出すも、楓はそのさらに頭上高い位置に唇がある。
 仕方がないでござるとばかりに、楓が膝立ちとなってネギと背丈をあわせた。
 まさか同級生のキスシーンをこの目で見ることになるとはと、皆興味深々であった。
 魔法陣の光に心を刺激されたように、顔を真っ赤に染めつつ目が離せない。
 そんな皆の熱い視線を受けながら、ずっと待っているネギへと楓が唇を寄せていく。
 先生と生徒、男と女、何もかもが逆転したまま魔法陣の中でついに二人が唇を合わせた。
 そして魔法陣が最後の祝福にと、二人の頭上に一枚のカードを出現させる。
 カートには、忍び装束で巻物を口にくわえて印を組む楓が描写されていた。

「契約、完了です。お疲れ様です、もう良いですよ。心地良ければ、まあ構いませんが」
「わ、わわわわ。ごごめんなさい、長瀬さん!」
「ネギ坊主、成り行きとはいえ主従の関係を結んだからには、それはちと他人行儀ではござらんか?」
「は、はい……長、楓……さん」

 楓との仮契約カードを手にしながら、俯き加減にネギが楓の名前を呟いた。

「楓ちん、どんな感じ。ネギ君とのキスはどんな感じだった?」
「そうでござるな。ぷりぷりの、ふわふわでござったな」
「ぷりぷりのふわふわか、ええなあ。気持ち良さそうやえ」

 まき絵がダッシュで近付いて感想を聞き、楓の答えに木乃香が頬に手を当てながら羨ましがる。
 反対に踏ん切りがつかない組である明日菜達は、余計な付加情報に頭を抱えていた。
 まあ、女の子だからなとムドは赤面が収まらないネギから、カードの複製を作ってもらい楓に渡す。

「兄さんがこっちの世界に戻ってくる前に、説明します。楓さん、このカードを手にしてアデアットとお願いします」
「あい、分かった。アデアット」

 渡されたカードを掲げて楓が呟くと、カードが発光して巻物へとその形を変えた。
 何の巻物かと楓が開けると、クナイにかぎ爪、風魔手裏剣と忍者のありとあらゆる道具が絵として描かれている。
 道具図鑑と覗き込んでいたムドが思っていると、より忍に詳しい楓が手の平を前に伸ばしてさらに呟いた。

「口寄せ、クナイ」

 すると楓の手の中に何処からともなくクナイが現われ、巻物の中からクナイの絵が消えていた。

「良くは分からないでござるが、口寄せの巻物のようでござるな。しかも、空きが十二分に存在する事から新規に道具を入れる事も可能という事でござるか」
「なにそれ、超便利なんだけど!」
「楓さんが一瞬で忍から魔法使いに転職したです!」
「いや、忍者ではござらんよ?」

 契約により口寄せの巻物が与えられておいて今さらな事を楓が呟いた。

「これが恩恵の一つ、アーティファクトです。個人の資質によって、最も最適な道具が選定されて与えられます。これがアレば素人でもそれなりに戦う事が出来ます」

 さあ、どうですかとムドは残り五人へと向けて悪魔の笑みを見せた。









-後書き-
ども、えなりんです。

楓のアーティファクトは強すぎるので劣化させました。
倉庫(楓の部屋のクローゼット)から道具を取り寄せ、返すだけです。

それでは。


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