私は、目の前の光景に溜め息をつく。
なんなんだこの状況は……
「ユーノくん、あーん」
「ユーノ、あーん」
「えっと、ユーノくん、あ、あーん」
なのはとフェイトにすずかがあーんをするのはここ最近の恒例行事となっている。
目の前の砂糖を吐きそうな光景に、私は一口目以降のメロンパンに口が進まなかった。
ちらっと周りを見る。ティアナとヴァイスはあーんはしてないが、甘い空気を周りに振りまき、エリオはキャロとルーの間で迷い、トーマは美由希さんの手料理で撃沈してリリィに介護されている。
この場にいないはやても相手ができたみたいだし、私の親友たちは全員相手ができてしまった。私だけ浮いてない。沈んだまま……
ふん! 別にいいわよ。そういうのは人それぞれだしね。私はゆっくりといい人を見つけるわ。
と、チラッとユーノを見る。にしても、なんでみんなユーノなのかしら……
確かに美形ではあるが、どちらかというと女顔で、男にしちゃひょろい体系でちょっと頼りない。
ま、まあ最近は恭也さんに鍛えられて少しは逞しくなったみたいだけど……まだまだよ!
性格だって、どの箸からか迷ってる姿を見ればわかる通り、優柔不断だ。
それに話を聞く限り三人とも最初はユーノからじゃなかったらしいし、男ならしゃんとしなさい!
でも、優しいし、三人を包み込めるくらい包容力がある。それに、一度決めたらなかなか曲げない根性はあるし……ま、まあそこは認めて上げるわよ!
「アリサ、僕の顔になにかついてる?」
なんてユーノが声をかけてきた。なのはやフェイトたちは私の顔を見てなんか意味深な笑みを浮かべている。
あ、えっと……
「な、なんでもないわよ。なのはもフェイトにすずかも、ユーノばかりじゃなくて自分でも食べなさい!」
私の言葉に三人は、少し不満そうにえーと文句をぶー垂れるのを一睨みで黙らせる。
『ありがとうアリサ』
と、頭にユーノの声が響く。
どうやら、私だけに念話を飛ばしてるみたい。
『別に、あんたのためじゃないわよ。まったく、少しは周りを気にしなさい』
私は再びメロンパンを食べる。その時だった。
〈緊急警報! 帝国の部隊一個大隊がこの世界に転移した模様! 総員第一種警戒態勢!!〉
その警報に基地は騒然となった。
私たちは自分たちのトレーラーのガレージで準備を進める。
一個大隊となればただの視察やらじゃない。恐らく私たちのことがバレたのだろう。
となれば包囲されるまえにこの基地を引き払わなければならない。
幸いなことに、近日中に私たちは新アジトに場所を移す予定だったから、準備はあっという間に終わったからよかったけど……
戦闘の準備を進める。私たちのグループは私と恭也さんがフォワード。すずかとユーノになのはがバックアップ。
フェイトはまだバルディッシュのヴァージョンアップが終わってないから、トレーラーの運転を任せている。
バトルジャケットに着替えるた途端に、私の髪が紅く染まり、長さも昔みたいに伸びる。
すずかは特にそう言った調整はしておらず、恐らく私の特異体質だろうって言ってたわね。最初は困惑したけど、最近はまあ綺麗だしいいかなと思ってる。
準備を終えて、トレーラーの上に待機する。
部隊が付いた時点でこの周囲はジャミングされ、転移はできない。
そのため私たちは転移が使える範囲までトレーラーで逃げる必要があった。その間、私たちがトレーラーを死守しないと!
「行くぞ!」
恭也さんの号令に私たちのトレーラーが基地から飛び出す。同じように四台が併走する。
すぐに帝国が量産する自動兵器が私たちに迫ってきた。私は炎の翼を広げてトレーラーに並走する。恭也さんとすずかは飛べないけど、私はジャケットのバッテリーが続く限りなら、空中戦はできる。
「こんのー!」
私は仕込み番傘の引き金を引き、傘の先端から撃ち出される弾丸が自動兵器を貫く。
この傘もすずかが作ってくれたもの。いざとなれば広げて盾にできる優れものだ。
さらに近づくものは恭也さんが排除、なのははバスターで、すずかは私たちの背くらいはありそうな大砲で、遠距離から攻撃する敵を撃ち抜く。
ユーノもバインドやシールドで援護に入ってくれる。
順調に私たちのトレーラーは基地から離れる。
よし、このままいけば……
その時だった。私たちのトレーラーに青い道が伸びてくるのは。
えっ?
そして、その上を誰かが走っている。
ローラーブレードのようなものを履き、その右手にギアが付けられたナックル。表情は仮面に阻まれ伺えないが、青い髪を靡かせている。
まさか……
「スバルなの?!」
「リボルバーシュート」
なのはの呼びかけの直後に、抑揚のない声で攻撃が返ってくる。
私はそれを切り裂く。
一回だけ、それに少ししか話したことないけど、今のは確かにスバル!
スバルらしき人物は私たちのトレーラーの上を通り過ぎると、またこっちに迫る。私は身構えて……
「いやああああああ!!」
そばで絶叫が上がって、振り向く。レイジングハートを取り落としたなのはが頭を抱え、がたがた震えていた。
「ごめんねごめんねごめんねごめんねごめ……」
泣きながら誰かに謝り続けるなのはをユーノが慌てて睡眠魔法で強制的に眠らせ、すずかが支える。
それを見て、ぎりっと私は歯軋りした。
「行くわよユーノ」
「うん!!」
とユーノは頷く。私たちはスバルへ向けて飛び出した。
炎を撃ち出しつつ、空中で私はスバルに斬りかかる。
それを右手のリボルバーナックルで受けられ、タービンの回転で弾かれる。
「チェーンバインド!」
さらにユーノのバインドが伸びるけどするっとスバルは避け、一瞬で私の後ろに回る。
確かに早いわね。でも!
翼の一部を爆発させる。一瞬で反転、攻撃を傘で弾く。
それでできた隙に私は大上段に構えた刃に炎を這わせる。資料から知り、エリオから教えられた技。
「目を覚ましなさいよ! 紫電一閃!」
振るった剣が、ガードに入った両腕を弾いて顔の仮面に傷を付ける。
ちっ、浅い! 刀を構え直し、
「ああああああああ!?」
その瞬間スバルが苦しみ出した。
な、なに?
そして、いきなり私たちに背を向けて走り出した。
ちょっ!?
「待ちなさい!」
「アリサ?!」
私は翼を広げて追いかけようとして……真横からの衝撃に飛ばされる。
えっ?
痛みに耐えながらそっちを見ていたら、大型の自動兵器。
しまった、スバルばかり見てたから周りに集まってるのに気付かなかった……
「アリサ!」
ユーノの声とともに、私は抱き止められる。そして、ユーノが自動兵器から背を向けるのを見ると同時に、私の意識は落ちた。
ポツポツと頬に当たる冷たいものに、私が目を覚ますと、誰かにおぶさられていた。
まるでパパの背中に背負われてるみたいな、広くて暖かい背中に安心してしまう。
「ん、ん? ここは……」
「あ、アリサ起きた?」
その相手、ユーノが振り返った。
「ユーノ?」
「うん、よかった起きたんだ」
ユーノが微笑む。その微笑みにドキッと胸が高鳴る。
な、なんでユーノにドキドキしてるのよ!
「あ、あんた怪我は平気なの?」
確かあたしを庇って……
「ああ、大丈夫。直前にプロテクションで防いだから」
そう、よかった。
「ここはどこなの?」
周りを見れば鬱蒼と生い茂る森の中だった。そんな場所を雨の中、ユーノは自分の上着をかけた私を背負って歩いてた。
「ああ、ここは……」
あの後、気絶した私を引っ張って、ユーノはあの場を脱出。転移を行ったものの、帝国の追っ手から逃げるため、碌に座標を指定しなかったため、よくわからない場所に転移してしまったらしい。
で、捕捉されるかもしれないから、今は転移するのはマズイと判断し、しばらく隠れられる場所を探して歩き回ってたということだ。上着は私が雨に濡れないようにというユーノの判断ね。
「ありがとう。もう歩けるから降ろして」
私がそう言うとユーノはそっと私を降ろしてくれる。
そのタイミングで雨足が強まった。
「うわ!」
「アリサ、あそこ!」
ユーノが指差した場所に丁度いい洞窟があった。
慌てて私たちはそこに駆け込んだ。
私たちは、洞窟の中で私が起こした炎を挟んで座りながら、雨が止むのを待っていた。
「ねえ、アリサ、なんでアリサはスバルを追いかけようとしたの?」
と、ユーノが唐突に聞いてきた。
「気になるの?」
「その、アリサはスバルとは接点が少ないのに何でかなあって、やっぱりなのはのため?」
ふん、確かにあたしとあの子の接点と言えば、なのはの教え子で、一度あったくらいね。
「まあ、それもあるけど、気に入らないからよ」
「気に入らない?」
そう、気に入らなかった。
「あの子、誰かを助けるために頑張ってたんでしょ? なのに、今はその逆。弾圧の片棒を担がされてる。それが気に入らないのよ」
命を守りたかった女の子に真逆のことをさせる。さらに、どう考えてもあれはなんらかの処置をされたとしか思えない。それが腹立たしくて許せなかった。
ユーノはそっかと笑う。
「アリサはやっぱり優しいね」
なっ……
「なにいきなり言いだすの、このバカフェレット!」
「だって、ちょっとしか関係のないスバルのためにそんなに怒れるなんて、スゴいと思ったから」
まったく、このバカはなんで恥ずかしがらずに、そんなこと言えるのよ……
私はユーノの顔を見れずに、洞窟の外を見る。
「止まないわね」
「そうだね……」
そこで気づいた。ユーノの声はどこか張りがなかった。
「ユーノ?」
振りかえる。なんか体が少し揺れてる?
直後、ユーノは倒れた。
「ユーノ?!」
私は慌ててユーノに駆け寄る。
気づかなかったけど、顔を覗き込めば、真っ赤だった。試しに額に手を当てるけど……
「ちょ、あんたすごい熱よ?!」
「そ、そう……?」
息も絶え絶えにユーノが答える。
えっと、こういうときは、濡れた服を脱がして、火ももう少し強く……
緊急時の対処を思い出しながら、私はユーノの服を脱がした。
「あんたってバカよね……」
「そうだね……」
服を脱がせてから、ユーノのジャケットのおかげで濡れなかった私の服を無理やり着せられたユーノが笑う。
ユーノが倒れた理由はすぐに検討がついた。
恭也さんの厳しい訓練。なのはやフェイトにすずかとの関係、表向きの考古学者としての仕事、これらで体力は相当消耗してただろう。
そして、ここにきて、先の戦闘で私を庇った時に相当量の魔力を消費した上で、雨の中で私が風邪をひかないようにと、自分のジャケットをかけて歩き回ったのが駄目押しになったのだと思う。
「なんで、あんたは自分を二の次にするのよ……」
本当に人を心配にさせる。目が離せない。
「そんなつもりはないよ。ただ、僕はみんなが無事でいてほしいだけだよ」
無事でいてほしいって……
「僕はなのはたちを助けられなかった。でも、今はあの時よりも少しだけ力があると思うと、なのはにフェイトとすずか……それにアリサのためならちょっとくらい無理しちゃおうって気になれるんだ」
ユーノの発言に私は噴き出した。
「な、なんでそこで私の名前が出るのよ?!」
なのはたちはわかるけど、なんで私まで!
「だって、アリサも僕を助けてくれた人だから、いつか恩返ししたかったし」
助けた? 私がユーノを?
「ほら、僕が一人で無茶して倒れた時、アリサもなのはやすずかと一緒に助けてくれたでしょ?」
首を捻ってた私にユーノが言った。ああ!
「あんた、そんなことで?」
「そんなことじゃないよ。それに、なのはが墜ちた時も慰めてくれたし、僕らに合流した時も勇気づけてくれたし」
ユーノが赤い顔できれいに微笑む。
「アリサは命だけじゃない、二度も僕の背中を押してくれたから、だからね」
……まったくこのバカは。
自分より周りを優先して、危なっかしくて放っておけない。そして、天然で今みたいな不意打ち。狡いじゃない……
顔が紅くなると同時に少し寒さに震える。さすがに下着だけじゃね……
「ねえアリサ、やっぱり寒い? 服返そっか?」
「病人なんだから余計な気を回さなくていいの!」
その申し出を私は切り払う。
そう、とユーノが引き下がり、ちょっと思いついた。
少しくらい……いいよね?
そう考え、私はユーノに近寄る。
「アリサ?」
そして、ぽすっとユーノの太腿に座り込んで、ユーノの腕を私の前に回させた。
「あ、アリサ?」
「あんたもあたしも温かまる。それにあんたはあたしの身体に触れられっていう役得ありで、一石二鳥でしょ?」
にししと笑う。真っ赤になるユーノにちょっとだけ溜飲が下がった。
しばらくして、だいぶ雨が弱まってきた。
「だいぶ弱くなってきたね」
「そうね」
そろそろ転移しても……
その時気づいた。洞窟の入り口に妙な機械があるのに。
「な!」
見つかった!?
私は慌ててそばに置いといたデバイスを取って、
『あー! アリサちゃん、ユーノくん大丈夫! 私! 私だよ!!』
と、それからすずかの声が聞こえた。
「すずか?」
その声にユーノが目を丸くした。
それから、すずかの指定した場所に転移し、私たちはみんなに合流した。
「ランダムに転移したのによく見つけられたね」
と、ユーノがすずかに尋ねる。
あ、確かに。いつの間にサーチャーを?
「私のいじったデバイスには独自のリンクシステムを組み込んであるんだ。だからそれを利用すればすぐに見つけることが出来るの」
なるほど、それは便利そうなシステムね。
「にしても、アリサちゃん……ふふ」
……ちょっと待て。
「すずか、あんたまさか……」
「大丈夫、なのはちゃんたちには話さないから」
ぐっとすずかがサムズアップ。
やっぱり見られてた!?
あたしは頭を抱えて……
「ユーノ! なのはが目を覚ましたよ!」
フェイトの言葉に私たちはなのはのいる仮眠室に移動した。
「ユーノくん、スバルが、スバルがあ……」
ユーノの服を掴みながらなのはは泣き続ける。
ユーノはそんななのはの背中を優しく撫でる。
少しだけなのはを羨ましいと思ってしまい、慌ててその思考を振り払って、なのはの握りしめられた拳にそっと手を添える。
「うん、絶対に助けてあげよう!」
「ありがとう、アリサちゃん、ありがとう……」
なのははユーノの腕の中で泣きながら何度も頷いた。
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第八話差し替えました。
理由、やっぱりそれぞれでちゃんと話し作った方がいいと思ったためです。
アリサ編、次でハーレム入りかなあ。