「ママ、私、どうすればいいのかな?」
「ママにもわからない。だから、ヴィヴィオがよく考えて自分で決めなさい。これからどうしたいか、どうするのか。私も一緒に考えるから」
助けられた日、ママは私にそう言ってくれました。
どうしたいのか、言われても私はよくわからず、数日を過ごしていました。
「あれ、ヴィヴィオ?」
たまたま廊下を歩いていて、かけられた声に振り返ると、そこに一人の男の子がいました。
あれ? えーっと……見覚えがある気はするのですが、誰だかわかりません。
「誰?」
私の問いに彼はちょっと残念そうに笑います。
「俺、トーマだよ。トーマ・アヴェニール」
トーマ……あ!
思い出しました。スバルさんがお世話をしていた男の子で、私も何度かあったことがあった。
「え? トーマなの?! ひ、久しぶり!!」
本当に久しぶりです。その私の反応にトーマは笑っています。
なんていうか、言われるまで気づきませんでした。背も高くなってるし、雰囲気も違うし、なんか……かっこいいし。
「うん、久しぶり。その、話は聞いたんだけど、大丈夫?」
その問いに私はこくこくと頷きます。うん、大丈夫。ちょっと戸惑っていますけど、全然平気です。
それによかったとトーマが笑います。
「俺もレジスタンスに参加してるんだ。だから、これからよろしく」
「う、うん」
差し出されたトーマの手を取ります。うわ、大きくて硬い。なんていうか、戦っている人の手みたいです。
「じゃあ、俺スゥちゃんのお見舞いに行くから」
それから、トーマはスバルさんのところに行こうとするんですが、
「あ、あの、トーマ!」
ちょっと気になったことがあったので、呼び止めました。
「なんでトーマはここにいるの?」
そう、なんでトーマはここにいるんでしょうか?
前にトーマとあった時は、その普通の少年でした。いえ、境遇は知っていますから、普通であろうとする少年と言ったところでしょうか?
そんなトーマがなんでこんなところに? そんな私の問いにトーマは困ったように笑うと、
「奪り返したいから、かな?」
奪り返したい?
「最近、わかったことなんだけど、俺って日常が好きだったんだ。スゥちゃんたち、みんなで過ごす日常が」
静かにトーマは語りだします。それを、私は黙って聞きます。
「でも、それは奪われた。俺の大切なものは。だからって、諦められないだろ、ああそうですかなんて思えるわけないだろ」
そう、トーマはまだ諦めてない。だから抗うって言っている。
「スゥちゃんは助け出した。まだお姉たちも捕まっている。だから、助け出すんだ」
ぎゅうっとトーマは拳を握りしめるのでした。
奪り返す、か……
トーマと話した後、私は考え込みました。
私は特にここでする事が、ありません。身体は大人でも、中身は子供ですから、させようとしないのは当たり前と言えば当たり前だけど。
だから、考える時間はありました。そして、考えた末の私の答えは……
「奪り返したい」
平和な世界で家族仲良く暮らしたい。こんな体になっちゃったけど、できたらちゃんと学校通って、友達を作って、そして、そのうち弟や妹ができたらお姉ちゃんとして頑張る。
そんな未来をママたちと一緒に作る。そのために、ママたちと一緒に戦う!
まあ、戦うと言ったらなんか言われそうな気もしますが、ママたちは私にしたいことをしなさいって言ってるし、うん大丈夫。
そうと決まったらすずかママにデバイスをお願いしなくちゃ!
というわけで、私はすずかママの研究室まで来ました。
一度、すうっと息を吸ってから、渡されていたカードキーを使って部屋に入ります。
「すずかママ、お願いがあるんだけど……」
って、あれ? すずかママいない。もしかして訓練室かなあ?
と、私はUターンしかけ、奥でごそごそ物音がしているのに気づきました。
もしかして、奥の倉庫にいるのかな? 私は部屋を出ずに、そっちに行ってみる。
そして、倉庫の中を覗き込んで、慌てて口を押えました。
だ、だって、奥の倉庫で、すずかママがユーノパパと抱き合っていたんだもん!
そっと私は覗き見します。え、えっと、そういうの気になるお年頃なんだもん!!
そこで、なにかおかしいのに気づきました。
最初、すずかママがユーノパパの首筋に顔を埋めてるように見えたけど、なんか違います。よく見れば首筋に噛みついてる?
じゅる、ぴちゃっとなにかを啜るような音も聞こえます。
な、何をしてるの?
そして、すずかママがユーノパパの首筋から口を離すと、その歯が、ユーノパパの首筋が紅いのに気づいてしまいました。な、なんで?
「はあ、ごめんねユーノくん。やっぱり、一度味わうと輸血用って不味く感じちゃって」
ゆ、輸血? と言うことは、あれって……
すずかママってなんなの?!
はは、っとパパが笑います。
「僕は構わないよ。それに、すずかが僕のに夢中なら嬉しいし」
もう! っとすずかママがパパを叩きます。こ、このバカップル!
で、でもとりあえず今見たのがなんなのかはまた今度聞くことにします。別に怖いわけじゃないよ?
では、私はちょっと距離を離して、
「すずかママ、いるー?」
ママを呼びました。
「ごめんね。ちょっと倉庫にものを捜しに行ってたんだ。で、ヴィヴィオちゃん、用事はなにかな?」
と、倉庫から出てきたすずかママに尋ねられました。よ、よかった気づかれてないみたいです。
よ、よし! さっそくすずかママにお願いするよ。
「わ、私用のデバイスを作ってください!」
パパはえ? と声を上げて、すずかママは、驚いたように目を丸くしてから、小さく笑いました。
「どんな、デバイスがいいのかな?」
「すずか?!」
ユーノパパがすずかママに振り向きます。
「い、一番良いデバイスを頼みます」
具体的なイメージが出なかったから、ついそう言っちゃったけど、すずかママはニンマリと笑うと、「聖王は言っているスゴいのを造れと」と言って図面を引き始めました。
「ちょ、ちょっとすずかいいの?!」
慌ててユーノパパがすずかママを止めようとする。
「うん、だって私たちといるなら護身用にデバイス必要かなって思ってたし。ちょうどいいかな」
う、っとパパが唸る。
ま、まあ確かにそういう意味でも必要かも。でも、私はみんなと戦いたいのに。でも、それは言わないでおこう。
自分で決めなさいって言ってたけど、本当のこと言ったら反対されると思うしね。
「そ、それもそうだね」
「というわけで、あとでなのはちゃんとフェイトちゃんの説得手伝ってね。あの二人少し過保護すぎるから」
パパは了解というと、恭也おじちゃんとの訓練だからと部屋を出ていきました。
それをすずかママは見送って、
「ヴィヴィオちゃん、本当は戦いに参加したいんでしょ?」
ぎくう!!
ば、ばれてた?
にこっとすずかママが笑う。
「ヴィヴィオちゃん、一つ約束して」
約束?
「絶対に無理はしないこと。いいね?」
真剣な言葉でママは言いました。
そのママの言葉に私は頷きました。うん、大丈夫。ママたちとこれからも一緒にいたいから、無理なんかしないよ。
そして、晩御飯の時間、
「あれ? すずかちゃんは?」
「ああ、研究室で新しいデバイスの設計をしてるよ」
すずかママはまだ研究室にこもっています。
「あ、またなんだ」
「夢中になると止まらないもんねすずかちゃん」
やっぱりそういうタイプなんだすずかママ。
そして、ママたちにあーんされるパパと言う相変わらず砂糖がだばだば出そうな光景を眺めながら食後のコーヒーをいただきます。
こっちに来てから毎日ブラックです。大人の体というのもありますが、目の前のあれで糖分は充分過ぎます。
席変えようかなあ?
なんてちょっと考えてたら、たまたまトーマ、エリオくんにキャロさん、それから、一人知らない女の子が一緒にご飯を食べているのを見つけました。
チャンス!!
「あ、トーマたちいるんだ。一緒に食べてくるね!!」
そう言って私はそそくさとトレーを持ってトーマたちの席へと向かいました。
「一緒にいいかな?」
「あ、ヴィヴィオ、いいよ」
すぐにトーマはいいよと言ってくれました。
ふう、よかった。私は安心して空いている席に腰かけました。
「はは、やっぱりあの空気はダメだったんだね」
と、エリオくんが笑いながら、ちらっとママたちの方を見ます。
「うん……」
ブラックコーヒーを飲みながら答えます。
そういえばクロノさんも気をつけろって言ってましたが、あれはこういうことだったんだね。周りも砂糖吐いてるよ。
それから、トーマの隣に座ってる知らない子がじっと私を見ているのに気付きました。
「自己紹介まだだったね。私、高町ヴィヴィオ。よろしくね」
すると女の子が笑ってくれます。
「私、リリィ・シュトロゼック。リリィって呼んで。よろしくねヴィヴィオ」
と自己紹介をしてから、握手を交わします。
よかった、悪い人じゃなさそう。まあ、悪い人がこんなところにいるとは思えないけど……
なんとなくみんなのことを見てしまいます。
ぎこちなく義手の方の腕でご飯を食べようとするエリオくんに、それを横からサポートするキャロさん。
トーマはリリィと仲良くご飯を食べてます。
……あれ? また私来る場所間違えちゃった? いえ、そんなことはない。きっと、たぶん……そう自分に言い聞かせながらご飯を食べます。
それからだいたい食べ終わってから、
「トーマとリリィってもしかして恋人同士?」
「ぶーーーー!!?」
ふと思って口にすると、トーマが飲んでいたコーヒーを噴き出してしまいました。
「と、トーマ、大丈夫?!」
むせてしまって咳き込むトーマの背を慌ててリリィが撫でます。
「だ、大丈夫だよリリィ。えっと、リリィとの関係だけど、そういうのじゃないかな。俺の頼りになるパートナーだよ」
パートナーなんだ。
なんかリリィがどう反応すればいいのか困っているような笑みを浮かべてるけど、もしかして、リリィとしては不本意な答え?
ま、まあ、人のことをあれこれ詮索するのもあれだし、別の話題にしようかな。
「えっと、トーマたちにちょっと相談があるんだけど」
そして、私はママたちにはできない頼みをしました。
訓練室。
「本当にいいのヴィヴィオ?」
でかい剣と銃を合わせたような武器と黒いバリアジャケットのような服を着たトーマと相対します。
そう、私はトーマたちに戦闘訓練に付き合ってくれないかと頼みました。
「うん、お願い」
私の返事にトーマはため息を吐いてから、仕方ないと言いたげな顔をしてから剣を構えます。
「じゃあ、行くよヴィヴィオ!」
そして、私はみんなと戦うための第一歩を踏み出しました。
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大修整しました。
とりあえず、ユーノ×ヴィヴィオは大幅カット。ちょっと無茶のあるカップリングだったと反省。