背中に焼けるような暑さを感じて目を覚ます。
耳には何かを引きずるようなズルズルという音が聞こえた。
「ん~~?・・・なんだ、このずるずるって・・・・・・・」
目を開けば、視界に入る景色がすごい勢いで流れていく。
「って、おわああああ!?なんだなんだぁ!?」
どうやら俺は何かに引きずられているようだ。
背中が熱い。摩擦熱で火傷しそうだ。
「あら、お目覚めになって?」
声のした方を見る。
そこには俺を引きずって走るトリのようなものと、それに乗るあやねがいた。
「昨晩はみっともないところを見せて申し訳ありません。
行人様は今日、お婆の家で大事なお話があるとか。
お詫びに私がすずに代わって案内しますわ。
よろしければ、お話の後に島中を案内しましてよ?」
「んなこといいから止めろ!」
俺は抗議の声をあげるが、あやねは聞いていないのか無視して話を進める。
イテッ。頭を石にぶつけた。
「なんでしたら今夜から私の家に・・・あ!?」
話している最中、急にあやねが驚いた声を上げた。
「キャアアアアアアアアア!?」
あやなの叫びが遠ざかっていく。
離れたところでドボンという何かが水に落ちる音がした。
そういえば、引きずられるのが終わっている。
立ち上がってみれば、先ほどまで俺を引っ張っていたトリがこけていた。
「い~や~~~~~~!?」
近くの川ではあやねが流されていた。
「よっ、旦那。朝から災難だったな。」
背後から声が掛けられた。
振り向くと、羽織をマントのように肩にかけた女の子がいた。
背が高く、170はありそうだ。
片手にロープを持っていて、その先は一本の木に括られていた。
どうやらこの子が助けてくれたみたいだ。
「君は・・・」
「あたいは、大工のりんってんだ。よろしくな。」
「よろしく、りん。俺は東方院行人。
昨日この島に来たんだ。
ありがとう、助かったよ。
でもいいのかい、あれ・・・ホッといて。」
そう言って俺はあやねの流された川を指さす。
「あー、いいっていいって。いつものこと。」
そういってりんは手を振り、何でもないとジェスチャーをする。
見ればあやねの乗っていた鳥もあーあ、といった感じで特に焦った感もない。
本当にああいうのがあやねにとってはいつものことなのか・・・
「そ、そんなことよりさ・・・あたいと、その・・・」
りんは急に照れながら、頬を指でかいてごにょごにょと話し出す。
なんだろう、俺に何か用なのかな?
その時、背後の茂みで音がして、大きなクマが姿を現した。
「うわああああ!?クマー!?」
突然のことに驚く俺。何、何でいきなり熊が!?
「なんだ、ゆきの。めずらしくお前にしちゃ早起きジャン。」
「へ?知り合い?」
熊が出たというのにりんには全く焦った様子がない。
「そーいうりんちゃんだって人のこと言えないんじゃないのー。」
熊の背後から頭の上に小さな女の子がよじ登った。
「いったい何をたくらんでるのかナー。」
「う”。」
それはまだ幼い子供だった。
「あ、子供・・・」
この島をまだ見て回ってはいないが、ここにきて初めて子供らしい子供を見た。
だからなのか思わず口にしていた。
「シツレーね!!くまくま!!」
「ぐげ!?」
女の子を怒らせてしまったのか、俺は熊をけしかけられた。
頭部に熊の手刀を喰らう。地に倒れ伏す俺。
「と、言うわけで・・・お詫びとして今日はゆきのとでーとするのよ。」
ゆきのがそう言うと、熊は器用に俺の上半身をもって引き寄せた。
「で、でえとお!?」
りんがそれを聞いて慌てだした。俺の脚をもって熊から奪取しようと引っ張る。
「おまえにゃ10年はえーんだよ!このませ餓鬼!!」
「いーやー!!このこはゆきののものなのー!!」
「ぐああああ!!」
上下に体を引かれ、全身が悲鳴を上げる。
「聞き分けのねー餓鬼だな!!」
「がきがき言うなー!!」
いつしか俺を地面に放って二人は喧嘩しだした。
今のうちに逃げよう。
俺は格好悪くも地面を這うようにしてその場を離れた。
茂みに隠れ、りんとゆきのが見えなくなってから立ち上がる。
「あいたたた、なんなんだこの島の連中は。
なんでこうもむちゃくちゃな子が多いんだ?」
ぼやきながらしばらく歩いていると、集落に着いた。
ここがこの島の村なのだろう。
すずの家の周りと違っていくつかの家屋が見える。
また、その周囲には広い田んぼや畑が広がっている。
そこでは女性たちが仕事に精を出していた。
それにしても何か違和感を感じる。
ちらちらと見られている視線を感じるのはまあいい。
見知らぬ男がいれば何者だろうと思うだろう。
しかし何だろうか、胸に引っかかる違和感がぬぐえない。
別段、この時間に農作業をしているのはおかしくない。
むしろ農民の生活をしていれば、仕事を始めていなければおかしいだろう。
俺はモヤモヤとしたものを抱きながらも、とりあえず婆さんの所に行くことにした。
「しっかし、婆さんの家ってどこだろう?」
「あのー・・・」
「ん?」
声の方を向くと、眼鏡をかけた肩までの長さをした髪の子がいた。
なんだか今までの子と違い、おとなしそうな女の子だ。
「何かお困りのようですが・・・どうかされましたか?」
どうやら俺の困り顔を見かねて声を掛けてくれたようだ。
優しそうな子だな・・・
「あー、いや。ちょっと道に迷ってね。
長老の家を探してるんだけど。」
「あら、それでしたら私が案内しますわ。」
「本当か、助かるよ。」
よかった、どうやらこの子はまともそうだ。
「あ、申し遅れました。私ちかげと言います。
気軽にちかげとお呼びください。」
そう言ってちかげちゃんは頭を下げた。
「こりゃご丁寧に。俺は東方院行人、よろしく。
昨日この島に流れ着いてね、まだよくわかってないんだ。」
「ええ、知ってますよ。」
「あれ、知ってるの?」
「はい、こんな島ですから噂はすぐに広まりますわ。
今日は朝から行人さんの話題でもちきりですよ?」
そう言ってくすくすと笑うちかげちゃん。
どっかのお嬢様みたいな上品な笑い方が、サマになっていた。
やっぱり、今までの子とどっか違うな。
ちょっと癒されそうな気分になった時、背後で気配を感じた。
「くっ!!」
反射的に右に避ける。俺のいたところを何か小さなものが飛んで行った。
「はうっ。」
何かがちかげちゃんの額に刺さる。
その途端、ちかげちゃんは急に眠ってしまい地面に倒れ込んだ。
「誰だ!?ってああ、ゴメンちかげちゃん!?」
ちかげちゃんに駆け寄り抱き起してみると、気持ち良さそうに寝息を立てていた。
その間にガサガサと茂みからはい出してくる女の子。
ゆきのとどっこいの小さな背丈の子だった。
その手にはいましがた発射したと思われる吹き矢が握られていた。
「・・・私の吹き矢・・・かわした・・・」
何かぼそぼそとつぶやきながら、じーっとこっちを見ている。
目が合った。にまぁっとあやしげに笑う少女。
背筋に悪寒が走った。
懐に手をつっこんで新しいものを取り出した。
それは先ほどの吹き矢を束ねたような形をしている。
あれはまるで・・・
「・・・連射・・・式?」
頬が引きつる。少女は期待のまなざしを向けながらそれを咥えた。
やばい、ゴメンちかげちゃん!!
俺は心の中で謝ると、ちかげちゃんをその場に残し逃走した。
後方で矢を次々と噴き出す音が聞こえる。
「だーーーーー!!何なんだ一体!?」
叫びながら走る、走る。
しばらく逃げているが後ろから気配が消えない。
恐る恐る走りながら振り返ると、さっきまで一人だった追手が数十人になっていた。
「なーんーでーだーーーーー!?」
気づけば今日出会ったりんやゆきのを含め、村で見かけた女の子たちが俺を追いかけていた。
くそ、意味がわからない。
混乱しながらも走っていると・・・
「ちょっと待ったーーー!!」
前方からすずが走ってきて跳躍。
俺を飛び越えて、女の子たちとの間に着地した。
「すず?」
「ぷー。」
僕もいるよといわんかのようにとんかつも鳴く。
「大丈夫?行人さん。」
「あ、ああ。」
すずは俺の無事を確認すると女の子たちに向きなおった。
腰に手をあてて、私怒ってます的なポーズをとる。
「もう!みんなして仕事さぼってなにやってんの!?
行人さんは私が面倒見るようにってお婆に言われてるんだよ?」
すずはみんなに対してそう言ったが、一人の女の子が反論する。
「そったらこと言って、男を独り占めする気だべ!?」
「そーだ、そーだ!!」
「すずばっかするいさ!!」
それに合わせて周囲の子もすずに反論する。
すずばかりずるい、とぶーぶーぶーぶー大合唱だ。
「そ、そんなつもりないよぉ。」
さすがにすずも半泣きになっている。
「私らもすずみたいにでえととかいちゃいちゃとかしてみたいさね!」
「そーだ、そーだー!!」
「んなことしてねえよ!?」
「うにゃ、いちゃいちゃって何?」
さすがに女の子たちのその言葉には俺が反論する。
すずは言葉の意味がわかってないようだ。
「静まれえええええええええええええええええいいいいい!!!!」
収集がつかなくなったとき、背後から鼓膜を響かせる大声が聞こえた。
耳が痛い。耳を押えながら振り向くと婆さんがいた。
「婆さん!!」
「お婆!!」
「まったく、遅いと思ってきてみれば。
どいつもこいつも盛りおってからに!!」
婆さんが娘たちを叱りつける。
「だって~、年頃なんですもの~。」
女の子たちはめそめそと泣いていた。
さすがに年長者に怒られるのは堪えたか?
その様子に婆さんはため息をつく。
「ふう、まぁ気持もわからんでもないがの。
このままじゃ仕事に手がつかんじゃろー。」
そこで婆さんは俺を見て・・・
「お前さん、この中の娘から嫁を選びなさい。」
爆弾発言をした。
「はぁ!?なんじゃそら!?」
俺の驚きも無理はないと思う。
というか、この島で生活すると決めた翌日に嫁作るって、どんな急展開だ。
「この事態を丸く収めるためにも仕方ないじゃろう。」
「いやいやいや!?なんでそんなわけわからん極論になってんの!?」
「なんじゃ婿殿、不服か?」
「当たり前だろ、てか婿言うな!
この島どこかおかしいんじゃないのか!?
外の人間が物珍しいのはわかるけどさ?こんなに追いまわして?
あげくいきなり嫁選んで結婚?ありえねえー!?」
「仕方ないじゃろ、この島にはおぬし以外男がおらんのじゃからな。」
「・・・・・・・は?・・・・・・」
・・・なんか、今、凄い発言を聞いたような・・・?
もしこれが漫画なら、俺の頭上にはカラスか鳩がゆっくり飛んでいるだろう。
まぁ、要するに呆然としてしまって、阿呆な顔をしているんだが。
もしかしてもしかしなくとも、男が俺以外いないって言った?
首をめぐらして俺を取り囲む娘たちを見る。
どの子もみんな獲物を狙うハンターの目をしていた。
「ふ・・・はは・・ふはは・・は・・・なあああんんんんじゃあああああそおおおおりゃああああああ!?」
俺の今の想いをのせた雄たけびが、島中にこだました。
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ちかげに関する呼び方は、原作でもひとりさんづけだったので
ちかげちゃんにしました。
感想より
紅蜥蜴さん
すいません。作者は雑誌よりコミック派、しかも五巻までしか持ってません。
あとは、があるずがいどだけで・・・
おいおい残りも集めるつもりですが、今わかっている時点での設定を元に
書いています。
矛盾した場合、都合の悪いキャラや設定を出さないか、大幅に変化させると思います。
なにとぞご容赦ください。