俺がシャツの端を掴むと、これにはさすがに、少女は慌てて手を掴んだ。
「そ、そんな!? お願いや、し、島田さん、こ、これ以上は、これ以上は、ホンマに、ホンマに堪忍してぇや」
至近距離。
潤んだ瞳で見つめながら、ふるふると首を振って懇願する。
「ヨイではないかヨイではないか」
でもそんな弱々しい抵抗では、今夜の俺は、いや、スイッチの入っちゃってるエロオヤジは、ぴくりとも、止まりませんよお嬢さん。
そんな苛めて光線を出されては、牡生命体としてはむしろ燃えるね。
「あンっ!?」
がばりと一気に捲り上げた。
「見んといて。……見んといてくだ…………さい、…………島田、…………さん」
睫毛を震わせながら、羞恥に顔を背ける紅葉ちゃん。
それとは逆に身を乗り出す俺。
これといった飾り気の、まったくないブラだが、そんなものは一切いらないくらいに、その白さは堪らなく眼に眩しかった。
良々。
しかしこれはまた、物の見事に思ったとおり。
洋子のには予想外に驚かされたが、紅葉ちゃんには予想通り驚かされたぜ。
「でかい」
思うよりも先に、口から言葉が飛び出てやがる。
巨乳と呼ばれる野卑な感じはない。
だが、
そのふんわり上品なふくらみにある谷間は、なにがナニとは言わないが、下品なものを、軽く挟んで隠せてしまえそうなほど深かった。
「…………」
俺のが特別ビッグじゃないのを、勿論、差し引いてもだからな。
「うっうう」
当然紅葉ちゃんの耳にも、俺の間抜けな呟きは聴こえて、ぎゅっと目を瞑り、小さく可愛く、子供みたいにイヤイヤをする。
ぺちぺちと当たるポニーが気持ちい。
乳房がサァッと恥じらいの色に染まるのが、今度は、絶対完璧間違いなくで色っぽかった。
ごっくん。
喉が大きくみっともなく鳴る。
生唾を飲み込むなんて、随分と久しぶりの経験だった。
その前はなんだったっけ? ……そうそう、無礼講って言葉に騙されて、酒の席でうっかり、上司のヅラ取っちゃったときだったな。
頑張ってバイルダ~~オンてやったんだけど、誰一人として笑わなかったね。
「……まぁ、そんなんいいや」
封印しときたい記憶を穿り返しても仕方ない。
いまはただ紅葉ちゃんと、素敵な思い出を作ることに集中しよう。うんうん。そうしようそうしよう。
「くぅん!?」
不意打ちの感覚に、少女の身体が跳ねる。
肩を抱いていた手をするすると、こっそり降ろして、俺はティーシャツに突っ込むと、ブラの背中のホックに指先をかけた。
刹那。
島田誠さん(27)独身は、こんなんだけ、すこぶる付きで巧いのです。
特技は綾取り。
とにかく“ぱちんっ”と、小さく小気味いい音がして、まろやかに白く、ふんわりと大きなふくらみが、窮屈な戒めから解放された。
「グレィト」
それだけでボリュームが、ゆさりと重たげに揺れて、一段も二段も増している。
「あ!? もう、……いや、……やわ」
清純派の乙女の行動としては、そうしたのは極めて正しかった。ささっと紅葉ちゃんは、両腕を組んで、胸元を隠そうとする。
しかしそんな程度で、平均を大きく上回る乳房を、とてもではないが隠し切れるわけがない。
結果。
乙女の恥じらいでぎゅっと、力を入れているのも仇になり、意図に反して谷間をより深いものにして、俺の熱すぎる視線を誘っていた。
切れたね。
乳房の奏でる(俺脳内)むにゅって音と同時に、ぶちんっと、残っていた理性が、二、三本まとめて切れた。
男はみんなオオカミ。
はぁはぁと、聞き苦しい荒い息を吐きながら、不安そうな顔で俺を見つめる少女へと、猛然と獣性丸出しで襲いかかる。
「も、紅葉~~~~~~~~~~っ!!」
どこを触っても柔らかな身体を押し倒し、ブラを引き千切るように力任せに毟り取った。ふるるんと揺れる頂点、乳首の色はピン――。
「…………」
って、とこまでの夢を見ましたとさ。
「やれやれ」
髭を剃った顔を撫でる。色んなとこから苦情がきそうな夢だったぜ。
「しっかし」
オナニー覚えたての中学生じゃねんだから。
まだまだバイアグラに興味はないが、その必要も当然ないが、それにしても、今朝の我が息子のハッスルぶりは滅茶苦茶凄い。
近年稀に見るくらいに、びんびんかちかち、立派なテントを張って勃起してる。
うれしはずかし若返りだぜ。
「…………」
はて?
そんなヒットソングがあったような、なかったような、いまいち記憶は定かじゃないが、……まぁ、いまこの際はそれはどうでもいい。
時計を見る。
「……九時か」
休みだというのに、えらくまた早くに、目が覚めてしまった。続きが見れないかと、二度寝にも挑戦したが眠れない。
ちらりと視線を壁に、202号室に走らせる。
「ふむ」
昨日はまた明日と言われたが、朝から、それもいくらか親しくなったのは、それこそ昨日からなのに、訪ねて行くのはマズいかな。
腹を撫でる。
なんだか寝てる間に、精神エネルギーは大分使ったみたいで、昨晩カレーを食べたのに、腹はしっかり減っていた。
「朝飯でも買いに行くかね」
ジーパンを穿いて、尻のポッケに仕舞っといた、小銭入れの中身を見る。
じゃらりと唸る三百二十一円。
「パンだな」
アレも手持ちの金額も中学生みたいなら、それらしく、久しぶりにヤキそばパンでも喰ってみるかと、俺は部屋の扉を開けて外に出た。
「おお、天気良いじゃない」
雲一つない晴天。
普段はだったら三文やるから、もっと寝かせてくれって感じだけど、偶にはこうして、早起きしてみるのも悪かないかも。
ついでだから散歩でもしちゃうかな?
と。
まぁそんな感じの、さわやかな気分で持って、階段をてふてふと降りる。
「…………」
202号室の扉が開いたりしねぇかなぁ、なんて未練がましいことを考えつつ、一度そっちを振り返って見たりなんかした。
天岩戸のように、びっちり閉まって、少しも扉は開いてない。
「ちぇっ」
勝手なもんなんだが、がっかり、とまではいかなくても、もやもやして、俺は再び前にと向き直る。
するとそこへと、狙ったかのように、
「!?」
きらりと網膜に襲い掛かってくる太陽光線。
眠くてシバシバしてるところに、問答無用でムヒを塗られたように、俺は何故か懐かしい修学旅行の朝を思い出しながら目を閉じた。
痛いほど眩しい。
「…………」
しばらくして、といっても、精々二秒とか三秒だが、目蓋を開けると、階段の下に、女の子がむっとした顔で立っていた。
紅葉ちゃんと同じくらいだろうか?
すらりとした長身。
緩やかにウェーブのかかった長い髪が、ふわっと肩にかかっていて、その娘の大人びた雰囲気もあって、モデルみたいな印象を受ける。
服装はフリフリがいっぱいの、多分、噂に聞くゴスロリって奴だった。
けれども外見のパラメーターが、ロリよりもセクシーに傾いてる少女には、はっきし言って似合ってない。
あまりファッションセンスは良くなさそうだった。
しかし、一通りこの少女を観察してみて、もっとも視線が集中してしまうのは、やぱっし、ここしかないだろうね。
「…………」
広いおでこ。
思わず目を細めて見てしまった。
前髪をすぅっと、後ろに流してるせいもあるだろうが、それにしてもこれは見事におでこが広い。
べつに生え際が後退しているわけではなく、単に顔の造作が小さめで、さらに下の方にコンパクトにまとまってるのもあるのだろうが、
いくら理屈で納得しようとも、おでこが広いというチャームポイントに変わりはない。
「…………」
だが少女の方はそのポイントを、あまり、どうもチャームだとは考えてないみたいだった。
露骨なまでに不躾な俺の熱視線が、どこに注がれてるか判明すると、《きっ》と、殺気を帯びたような視線で睨んでくる。
そればかりかそのまま、ずんずんと階段を上がってきた。
「わっと!?」
「きゃっ!?」
殴られるんじゃねぇかと、一瞬身構えてしまった俺が、思わずびびりの本能で後ろに下がると、真後ろにいた誰かにぶつかった。
「あ? すいませ、って、なんだ洋子か」
こいつも悲鳴だけは、しっかりと可愛い乙女だな。……いつもこうなら、もっと可愛いのに。でもそれじゃ洋子じゃないか。
「なんだはないでしょ。おはよう、誠」
足音をまったくさせず、ぴとりと、身体と身体がくっつくくらい接近していた洋子は、俺の背中から抜け出して、ゴスロリ少女を見る。
「まどかも、おはようさん。早かったじゃないの」
手をにぎにぎさせて、すでに目の前にまで来ていた少女に、親しい間柄を感じさせて挨拶した。――要するに友だちだな。
「今日もおでこ、素晴らしく、ぴかりと輝いてるね」
言いたいことが言える仲である。ああ、仲良き事は美しき哉。だから当然、言われた相手だって、言いたいことを好きに言う。
「あんたこそっ!! 今日もお目々ぱっちりね、この子ネコちゃん!!」
どうやらこの娘、まどかって言ったっけ、悪口のセンスもないらしい。どっちかていうと、それは褒めてるんじゃなかろうか?
「…………」
まぁ、それで本人が納得してるみたいだから、それはそれで、べつにツッコミを入れなくていいだろう。
洋子もまどかちゃんも、一通り言って、気が済んだみたいだし。
「それじゃまどかも誠も、そろそろ朝ご飯にするから、とっとと来ちゃってくれる」
「ちょ、ちょっと待ってよ。洋子、この人は、……誰よ?」
その疑問を持ったきみはとても正しい。
ごもっとも。
それは当たり前の話で、さわやかな休日の朝、友人を訪ねて行たらば、知らない男とご飯を食べるって、全然少しも意味わからん。
「昨日の晩に、縁が合って洋子と友だちになったんだよ。それで紅葉ちゃんとも仲良くなってね。カレーをご馳走になったんだ」
って、これでも意味がまったくわからない。
しかし、説明するんならば、もう少し言い方があるかもしれないが、大体、掻い摘んで言ちゃえば、こんなとこでいいはずだよなぁ。
「あたしと誠は、昨日の夜、電車の中で、友だちに、……なったんだよ、ね?」
「え? あ、ああ。そう……だよ」
気のせいだろう。
洋子が俺に望んだだろう言葉が、友だちではなかった気がするのは、自惚れに似た勘違いに決まっていた。
「ふ~~ん。へ~~。洋子の友だちねぇ」
まどかちゃんはもしかして、目が悪いのかもしれない。
これは飴かガムによるものだろうか。それとも少女特有のものだろうか。
吹きかかる吐息は滅茶苦茶良い匂いがする。
俺が行動力はあるが常識のない男なら、キスできるくらいに、リップでも塗っているのか、濡れてる鮮やかな桜色の唇は近かった。
「三対一なら変なこともできないか」
類は友を呼ぶ。
まどかちゃんは間違いなく、俺のシャツの背中をぎゅっと掴んでいる、山本洋子の友だちだった。