牡生命体なら誰でも一度は、ムラムラくる欲求を抑えられずに、やっちゃったことがあるんじゃないかな。
その行為はとてもみっともない。
でもさ、そんなの俺だってわかっちゃいるけど、って類なんだよねこれは。
「…………」
まぁ、勿論、そんなのは言い訳だけどさ。
だけどそんなの、わたしは一度もしたことなんてありません、なんて言い切る奴より、すまなさそうに、若気の罪を告白する奴の方が、
同じ一人のオトコとしても、同じ一匹の牡としても、俺には余程信用できるね。
「…………」
まぁ、勿論、そんなのも言い訳だけどさ。
女性には誠にごめんなさい。
ずりずりと、ずりずりと、少しずつ少しずつ、電車のシートに、異常なほどの集中力を発揮して、深く沈み込むように腰掛けていく。
前の席に座ってるOL風の女性。
半分寝ちゃってるのか、短いスカートを穿いてるのに、足のガードがべらぼうに緩い。
「…………」
もう何をしようとしてるかわかるよね?
この様子をもしもどこかで、第三者の視点で見ていたとしたら、呆れて失笑くらいしかできないだろう。
携帯でも構えて捕まった方が、何なら世の中の為にはいいかもしれん。
だが、
「あ~~疲れたっ!!」
がらがらの車両中に響くほどの大きな声を出して、どさりと隣りに座った少女は、俺と女性の目を、寸でのぎりぎりで覚ませてくれた。
「あ?」
ちょうど女性は降りる駅に着いたみたいで、ドアが開くと慌ててホームへと駆け出していく。
少女と俺。
これでこの車両は完璧に二人っきり。
誰も邪魔する者のない空間になった。
「……見てたわよコーチ」
「え? い、いや、ま、まだ全然、ちこっとも見てないですよ」
しかし、まぁ、だからといってべつに、特別に色っぽい話になるわけでもなく、どころか速攻で、乙女のお説教タイムに突入である。
ばっちりしっかりがっつり観察されてたみたいだ。
「情けないとは思わないの?」
「思います」
「じゃあどうしてするのよ?」
「本能です」
「…………」
「…………」
う~~ん。なんだか俺さ、小学校の先生にガミガミと叱られてる、年中鼻垂らしたアホの子みたいじゃない?
まどかちゃんは滅茶苦茶に怒ってらっしゃった。
「そういうのに興味があるっていうのも、そりゃ男の人だからわからなくはないけど、でも下着を見たからどうだっていうわけ?」
「……それは」
いくら説明してもわかってはもらえないだろう。
何故パンツを見てしまうのか?
うん。
お答えしましょう。
それはそこにパンツがあるからなんですね。女の人を馬鹿にした答えのようですけれど、それ以外には的確に真面目に答えようがない。
「…………」
だけどそれを女性に言ったところで、それも少女に言ったところで、火に油を注ぐだけなのはわかり切ってる。
「なんなのよ?」
「なんでもない」
そう答えとくしかなかった。
「女性は男性が考えるより、ずっとそういう視線に鋭いのよ。例えそれが見てるだけだって、迷惑防止条例とかもあるんだからねっ!!」
「……はい」
それに的確に真面目に文句なく、少女のいってることの方が徹頭徹尾で正しいし。
「下手をしたらさっきだって、女性が目を覚まして騒ぎ出したら、捕まってる可能性だってあるんだからっ!!」
少女がおでこを真っ赤にさせてヒートアップしてきたし。
「……いつもいつもあんなこと、まさかしてるんじゃないでしょうね?」
ジト目で睨む少女の視線を横面に感じながら、俺は派手に雨の降り出した窓の外を見つつ、蚊の泣くようなか細い声で答えた。
「そんなん全然してへんよ」
「何故、エセ関西弁なの?」
ずいっと寄せてくるまどかちゃんのおで、じゃなく顔から、俺は逃げたくないけど逃げるように、反対向きへすっすっと素早く反らす。
「コーチ……あのさ。そんなに、さ。その、そんなに見たい……わけ? あの、えっと、……下着?」
「…………」
あるよね。人に本当のことを言うことも、人に嘘を吐くことすらも、どちらもできないときってのが誰にでもさ。
俺の場合はいまだ。
どっちを選択しても、幸せな未来が、まるでちっとも、自信ありありで見えやしない。
「……まったく……もう……」
寄せていた身体をすっと離すと、まどかちゃんは立ち上がって、隣りの席から、OLさんの座っていた正面のシートに移ってしまう。
「…………」
あれ?
ってな感じで、思わず自分で驚いちゃうくらいに、それだけのことが、ずきんっと痛みを伴って、意外なほどショックだったり。
これは嫌われたかなぁ。
今時の若者といったところで、やはり少女って生き物は、永遠に変わることのない清純派だからねぇ。
なんて。
都合のいい想像と感想と妄想をしてると、
「うん?」
コンコンと、踵を鳴らすような、いや、間違いなく、踵を鳴らしてる音が、こっちを見ろってな風に、正面のシートから聴こえた。
「…………」
要望通りにそちらを見ると、まどかちゃんが、首は動かさずにきょろきょろと、やたらと左右に視線を走らせている。
なんだべさ?
と。
思って、なんとはなしに眺めていると、
「へ?」
長いスカートの裾を掴んでいた少女の手が、ゆっくりと、でも確実に上へと、少しずつ少しずつ、肌を露出させながら捲くられていく。
「…………」
その速度に合わせるかのように、俺もゆっくり、キレイな足から視線を上へと移すと、少女の顔はおでこまで、真っ赤々になっていた。
図らずもさっき自分で言ったように、男性の視線を鋭く感じているらしい。
視線を左右に飛ばしながらも、どんどんと、そしてあきらかに、怒りによるものではなく、羞恥で肌を赤く赤く艶やかに染めていく。
「…………」
メチャ可愛かった。
紅葉ちゃんみたいにわかり易くはないが、まどかちゃんも、男に尽くすってタイプなのかもしれない。
いや、間違いなく、そうなのだろう。
口では色々と言うけれど、野郎の身勝手な望みを、結局はこうして、恥らいつつも(ここがポイント高い)叶えてくれるんだから。
ええ娘や。
「…………」
勿論。
それがなくても、みんながみんな、それぞれがええ娘で、魅力的なのは変わらないけれど。
「…………」
ずりずりと、ずりずりと、少しずつ少しずつ、電車のシートに、異常なほどの集中力を発揮して、深く沈み込むように腰掛けていく。
少女の手はスカートを、もう膝まで捲り上げていた。
これで足のガードさえ緩んでくれれば、これ以上はないベストポジションである。
ただ、これ以上のステップとなると、さすがに、少女の手はぴたりと、乙女の恥じらいで止まってしまったみたいだ。
俯かせていた顔を上げて、俺をちらりと仰ぎ見る。
スカートの裾を握り締めてる手が、ふるふると震えて、力の入れすぎで白くなっていた。
「…………」
ああ苛めたい。
普段が随分と勝気な印象だけに、助けを求めるような視線は、俺の最近寝起きのいい嗜虐心を、ふつふつと煽って煽って仕方がない。
「まどかちゃん」
短い言葉と目配せだけで、少女に意図を伝える。
すると、
「はぁ……」
少女は諦めたように、また顔を俯かせて、切ないため息とともに、ぴっちりと閉じていた両の足を、その奥が俺に見えるよう静かに、
左右へと大きくはしたなく広げた。
「…………」
薄いピンク。
着ている服とやはり同様で、過剰なほどに、フリフリのレースが付いてる。
着ている服とこちらも同様で、ぱっと見ただけでも、その穿いている下着のセンスは、あまりよろしいものとはいえない。
だけどそれがいい。
まるで小学校高学年の女の子が、初めて自分で買った下着みたいで、やたらめったらで異様にどきどきする。
「…………」
確実に俺のアレな病気は進行していた。
とはいえ。
瞳をぎゅっと目一杯閉じて、見られているだけなのに、はぁはぁと、肩を緩やかに、そしてエロく上下させているまどかちゃん。
この病気に治療法なんてもんがあるわきゃない。
否。
あったとしても、断固とした決意で、俺はこのアレな病気と、一生涯付き合っていこうと思う。
まぁ、少女に負けないくらい息を荒くしながら、びんびんに勃起していては、かなりの高レベルで、説得力てもんがないけれどさ。
「まどかちゃん」
「…………」
「まどかちゃん」
「…………」
呼びかけても少女から返事はない。
時折り。
羞恥に耐えかねるように呻いて、いやいやと、首を小さく振りはするが、まどかちゃんから返ってくる言葉はなかった。
オーケー。
いま思いついたことには、その反応はとても好都合です。
「嫌なら嫌って」
「…………」
「ちゃんと言ってね」
「…………」
「もっと近くで、まどかちゃんを、見ちゃ駄目かなぁ?」
我ながらこれは物凄く卑怯もんだ。
「え?」
「駄目かなぁ?」
「……あ、……ううっ………ああ…………」
予想通り。
まどかちゃんは何も言えずに、顔をさらにさらに、鮮やかに赤くさせるだけである。
「いくよ」
「……あ?」
返ってきては困る返事を待たずに、俺は足腰と腹筋だけの、気持ちの悪い動きで身体を起こすと、そのままの勢いで少女の前に跪いた。
なんかここまでクルと、もう心身ともに、完全無欠の変質者だね。
「…………」
けれどそんなの空前絶後で構いやしないぜ。
いい匂いがする。
少女の大切に大切に守らなくてはいけない秘密が、誇張抜きで目と鼻の先に、可憐でありながらも生々しく息づいていた。
「……可愛い」
意識せずとも自然に言葉が出てくる。
「んッ!?」
吐く息が肌に触れたのか、まどかちゃんの身体が、鼻に掛かった呻きを洩らして、大きく短く、そして激しくぴくんっと揺れた。
それに反応して、
「ひゃッ!?」
少女の滑らかな内腿に、俺は思わず条件反射で、ぺろりと舌を伸ばし這わせる。
「…………」
それってどんな条件だって、真面目に訊かれたりしたら、それはそれで大いに困っちゃうけどね。
って。
そんなのいまはどうでもいいんだ。
「ふぅッ……んンッ……あ…うぅッ……んッ……はぁッ……ン……んふぁ…………あッ…………」
唾液を粟立つ肌に塗り込むようにして、丁寧に丁寧に、丹念に丹念に、麗若い女子高生の、張りのある太ももを熱心に舐め回す。
目指す先は絶対不可侵である少女の聖域。
けれどさ、
「うッ…うッ…んあッ……あッ…はぁんッ……あ…あぁんッ……ふぁッ…………ぁッ………はぁ……んぁッ……」
そんなに簡単にそこへは、辿り着けるわけがないんだよね。
頭のどっかではわかっちゃいたんだ。
少女のスカートに突っ込んだ頭のどっかでは、人に見られたら容赦なく警察に捕まる姿のどっかでは、残念だけどわかっちゃいたんだ。
ガクンッ。
「ぶえっ!?」
電車が大きく下手くそに揺れる。
ゴムのラインにまでは達していた舌を噛みながら、俺はスカートから弾き出されるように、無様にもんどり打って床に這いつくばった。
「あっ?」
ぷしゅ~~っとドアの開く音に、まどかちゃんが慌てたように足を閉じてしまう。
「…………」
若干だが鉄の味のする口を押さえながら、俺は運転手を泣いて謝っても許さないってほど、思いっきりぶん殴りたくなってきた。
「コ、コーチ。も、もう着いたから、お、降りないと」
「……ほうだね」
痛くて呂律が廻らん。
まどかちゃんが降りたので、俺も仕方なしに、急いで電車から降りると、まだ雨はぱらぱらとしか降ってなかった。
そういや大雨になるんだったけ。
「まどかちゃん」
「は、はい?」
俺が声を掛けると、まどかちゃんは裏返った声だが、車内とは違って、嬉し恥ずかしの沈黙ではなく、ちゃんと返事を返してくれる。
走り去る電車を横目で見ながら、返す返すも、運転手を殴りたくなってきた。
「傘持ってる?」
「う、うん」
「そう。それはよかった」
本当に。
持ってなかったら、相合傘になるんだろうけど、それはロマンチックなんだろうけど……。
「我慢できそうもないもんな」
「え?」
「いやいや。なんでもありませんよ」
考えてみれば今回は、先週の白鳳院家の一夜と比べても、あまりに、そして遥かに、電車内だってのに暴走の度が過ぎていた。
「コーチ。そこじゃ濡れちゃうわ」
「うん」
頭を冷やすとしよう。
社会にはバレないようにって、同僚にも釘を刺されたばっかりだしな。――自分のためにも、少女のためにも。
「そうだコーチ」
「なに?」
「先に言っときますけど、その場の雰囲気でするわけじゃ、絶対にないんだからね? この一週間、わたしなりに考えてみたわ」
「あい?」
「一週間なんて短すぎるかもしれないけど、こういうのはきっと、時間じゃないんだよね?」
「うん?」
「これ見て」
「どれ?」
まどかちゃんはポケットに、そっと手を入れ、何かを取り出すと、大事そうに包むようにして俺の前へと翳す。
「逃げちゃうから、もっと顔を近づけて」
言われて俺は素直に、背を屈めて顔を近づけ――チュッ。
「はい?」
唇を奪われた。
「ファーストキスはレモンの味って、あれってやっぱり嘘みたいね」
俺の血が少しついた唇を、まどかちゃんはぺろっと舐めて、ハニカミ照れながら微笑む。
「早く行きましょ。洋子たちが待ってる」
くるりと少女は背を向けて、改札口へと歩き出したが、不意打ちにぼ~~っとなってしまった俺は、しばらくそこから動けなかった。
「…………」
唇を軽くぺろっと、少女を真似て舐めてみる。
「やれやれ」
雨で冷ましたはずの頭は、あっという間に、眩暈がするほど熱くなっていた。