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No.2293の一覧
[0] 少女病 《完結版》[青色](2011/02/06 13:48)
[1] 少女病 二話[青色](2009/05/26 18:03)
[2] 少女病 三話[青色](2009/05/26 18:06)
[3] 少女病 四話[青色](2009/05/26 18:07)
[4] 少女病 五話[青色](2009/05/26 18:10)
[5] 少女病 六話[青色](2009/05/26 18:11)
[6] 少女病 七話[青色](2009/05/26 18:14)
[7] 少女病 八話[青色](2009/05/26 18:16)
[8] 少女病 九話[青色](2009/05/26 18:19)
[9] 少女病 十話[青色](2009/05/26 18:20)
[10] 少女病 十一話[青色](2009/05/26 18:23)
[11] 少女病 十二話[青色](2009/05/26 18:24)
[12] 少女病 十三話[青色](2009/05/26 18:25)
[13] 少女病 十四話[青色](2009/04/27 18:10)
[14] 少女病 十五話[青色](2009/04/27 18:11)
[15] 少女病 十六話[青色](2009/05/26 18:28)
[16] 少女病 十七話[青色](2009/04/27 18:11)
[17] 少女病 十八話[青色](2009/04/27 18:12)
[32] 少女病 二十話[青色](2011/02/06 13:23)
[33] 少女病 二十一話[青色](2011/02/06 13:25)
[34] 少女病 二十二話[青色](2011/02/06 13:26)
[35] 少女病 二十三話[青色](2011/02/06 13:28)
[36] 少女病 二十四話[青色](2011/02/06 13:29)
[37] 少女病 二十五話[青色](2011/02/06 13:30)
[38] 少女病 二十六話[青色](2011/02/06 13:32)
[39] 少女病 二十七[青色](2011/02/06 13:33)
[40] 少女病 二十八話[青色](2011/02/06 13:35)
[41] 少女病 二十九話[青色](2011/02/06 13:36)
[42] 少女病 三十話[青色](2011/02/06 13:38)
[43] 少女病 三十一話[青色](2011/02/06 13:40)
[44] 少女病 三十二話[青色](2011/02/06 13:43)
[45] 少女病 三十三話[青色](2011/02/06 13:46)
[46] 少女病 最終話[青色](2011/02/06 13:47)
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[2293] 少女病 《完結版》
Name: 青色◆ec0575d6 次を表示する
Date: 2011/02/06 13:48


 左肩にこてんっと、なにかが乗った。

「…………」

 重さからいってそれは、人の頭だということはわかるし、ふわりと香るシャンプーの匂いで、相手が若いオンナだというのもわかる。

 ところはがら空きの電車内。

 時間は帰宅ラッシュも過ぎた午後九時半。

「…………」

 視線だけを動かす。

 どこのものかまではわからないが、短い制服のスカートが見えた。

 どうもこれは寝てるらしい。

 最近の女子高生は、学業に友情に恋愛に、それから他にも、おっさんとかの交遊とかで色々あって、かなりお疲れなんだろうね。

 そんなことを適当に考えた。

 俺はそのまま女子高生に、肩を貸した状態で、ゆっくりと、べつに眠くも何ともないのに瞼を閉じる。

「…………」

 勿論悪い気はしない。

 その証拠に俺の口元の筋肉は、自然と笑みの形を作っていた。

 癒される。

 行きたくもない会社に行って、下げたくもない頭を下げたくもない奴に下げて、リストラに怯え、安い給料で扱き使われるそんな毎日。

 殺人許可証と拳銃。

 あったら撃ってやろうかって奴が、俺にはいくらでもいる。

 こんなラッキーが偶にはないと、とてもじゃないが、俺は真っ当な社会人をやってられない。

 まぁ、とは言っても、

「はぁ……」

 思わずため息。

 それはちょっとでも冷静になれば、三十歳目前のオトコの癒しとして、やっぱし、誤魔化しようがないくらい虚しいのも事実だ。

 ぎりぎり若者二十代。

 なのにこれは枯れ過ぎてる。

 潤いがない。

 思考が見事におっさんそのものである。

「はぁ……」

 なんてな風にそれこそ、疲れたおっさんみたいな哀愁のため息を、深く深く再度吐いたらば、

「悩みごと? あたしで良かったら、相談に乗るよ」

「……あん?」

 左から瑞々しい声をかけられた。

 そっちに首を捻ると俺の肩を、勝手に無断借用している女子高生が、大人を見透かしたような、生意気そうな瞳でじっと見ている。

 子ネコみたいな印象。

 まるで《ふふん》とでも、いまにも言いそうだった。しかしそれがまた、この娘は滅茶苦茶に可愛い。

 ……女子高生はホント得だね。

 丁寧に揃えた短めの、おかっぱみたいな髪型も(この例えもおっさんだな。正式名称わからん)良く似合ってる。


「誰かにしゃべっちゃえばね、悩みなんて、九割は解決してるもんなんだから」

「残り一割は?」

「またそれを誰かにしゃべればいいんじゃない? そしたらまた九割減るでしょ? そのうちどうでもよくなって、きっと消えてるよ」

 多分ね。

 そう言ってパチンッとウインクしたのが、その娘にはえらくハマってて、最高にカッコよろしく男前に決まっていた。

「面白いこと言うね、きみ」

 っても大人の悩みは、人に相談できないことが、ほとんどだったりするんだけど。

 でも面白い。

 でも素敵だ。

 でもイカす。

「それに一割くらいなら、他人に頼らず何とかする強さも、長い人生には必要なんじゃないかなと、少ししか生きてないけど思うわけ」

「ごもっとも」

 その考え方も見習いたいものだ。

 全面的に。

「気に入ってもらえたみたいで嬉しいな。それじゃこの頼りになるお姉さんに、一丁溜めてる悩みを打ち明けてみたまえよ」

「実はですね――」

 後になってから思い返してみると、軽いノリでの返事、これが良くなかったんだろう。

 ネコ少女を完全に調子に乗せてしまった。

 しな垂れかかってる女子高生の身体の重みと、頬から首筋にかけてをくすぐる、甘くぞくぞくとさせる吐息。

 大変心地いい。

 俺は確実に少女以上に、調子に乗りまくってたね。

 少女と俺。

 二人の力関係がこの瞬間決まった。

「日々の生活に張り合いがないのですよ。ビールとバッティングセンターさえあれば事もなしなんて、全然嘘っぱちなのです」

「ふむふむ」

 わかったように、そして大仰に、少女は深く頷く。

「今日も会社でですね、それはどう考えてもてめぇが悪いんだろうが、ってミスで部署の人間を説教してるお馬鹿な上司に――」

「うんうん」

 娘さんはとても聞き上手。

 お若いのに立派。

 将来はきっとどんな道に進んでも、大成するだろうねこの娘。

「部下の後輩はわかってるのかいないのか、いや、あれはわかってないんだろうなぁ」

「なるほど」

 などと。

 こんな感じで会ったばかりの少女に、日頃の鬱憤を電車内でぶつけていたらば、最寄り駅にあっという間に着いてしまった。

 うぅ~~ん。

 楽しいことは過ぎるのが、つまらない話をしてても早いねぇ。

「そいじゃ俺、次の駅だからさ」

「そう」

 すっと少女がくっつけていた身体を離す。

「…………」

 消えていく温かさが名残惜しいと思ったのと、その様子が以外にあっさりしていて、結構がっかりしたのはここだけの内緒だ。

 しかし何だかなぁ。

 これはやっぱりあれなのかな、もしかしたら、なんてのに期待しちゃってたのかねぇ俺は。

 ……カッコわり。

「そうだ。おじさんのお名前は?」

「ぐはぁっ!?」

 不意打ちで無邪気(だよな?)の刃が、まったく持って気にしてないと思ってたけど、思いの他深く抉るように胸に突き刺さる。

 それはいかんよ女子高生。

 三十路前のオトコはきみたち以上にデリケート。

 髪の毛とその話題は気をつけなきゃ。

「うん? ああ? あははは、ごめんごめん。カッコいいお兄さんのお名前は?」

 頼むよホントにさぁ。

「島田」

「下は?」

「誠」

「オーケー。誠ね。そういやそんな名前だったけ」

「はい?」

「なんでもない。こっちの話だよ、誠」

 言って少女はすくっと座席から立ち上がると、さっきまで自分の頭を預けていた俺の肩を、親しげに軽くぽんぽんと叩いた。

 さり気に呼び捨てにされてるが、不思議と嫌な感じはしない。

 どころかちょっとにやけたりして。

「あたしは洋子。山本洋子。ファーストネームで洋子って、気安く呼んでくれたら嬉しいかな」

「また随分と普通の名前だな」

「ほっといって」

 会ったばかりのおじさんと、これだけ普通にしゃべれるっていうのは、おそらく普通じゃないんだろうが、名前とのギャップが笑える。

「よしっ それじゃ誠、早速呼んでみてよ」

「あん?」

「な・ま・え あたしの名前。恥ずかしがらずに呼んでみて」

「……よせやい」

 こっ恥ずかしい。

 きみは知らないだろうけど、これでも俺はナイーブ誠って、巷じゃなかなかに有名人で通ってるんだぞ。

 ……まぁ、当然で嘘なんだけどさ。

 でも無闇に照れが入るっていうのは本当だ。

 元カノの下の名前を呼ぶまでに、なんせ、二ヶ月も掛かった実績がある。そして三ヶ月目に別れた。

 泣けるぜ。

 笑えるぜ。

 どっちでも好きな方の台詞を選んでくれていい。

「ほらほら誠」

 フレンドリー洋子の方は慣れたもんだ。

 何の抵抗も躊躇もなく、年上の、それも会ったばかりの、ストレス一杯おじさんの下の名前を、実にフランクに呼んでいる。

「早くしないと、もうすぐ駅に着いちゃうよ?」

「あん?」

 外の景色を見ると確かに、行きつけの定食屋とかコンビニがあって、駅に着くまでもう一分もなさそうだ。

「よ・う・こ」

 言いつつ洋子はぴっと、自分の顔を勢いよく指さす。

「……山本じゃ駄目なわけ?」

「洋子じゃなきゃ駄目なわけ」

 生意気な女子高生は疲れてるおじさんに、意地でも下のお名前を言わせたいらしい。

「…………」

「……さあ」

 ブレーキが掛けられて、がくんっと大きく身体が揺れた。この感じだと乗車口からはかなりずれるだろう。

 新人か? 下手くそめ。

 案の定電車は止まってから、バックして微妙な修正を始めた。

「はぁ……」

「…………」

「いくぞ」

「どうぞ」

 くっそう。

 恋に恋する思春期乙女(沙織ちゃん中学二年生)みたいに胸が滅茶苦茶どきどきするぜ。

「よ、洋子ちゃん」

「ちゃんはいらないかな」

「……洋子」

「もう一回」

「洋子」

「…………」

「あのさ」

「なに?」

「お前さん、人に言わせといて、その反応はねぇだろ?」

 ホントにこの小娘。

 あれだけしつこいくらいリクエストしておきながら、耳の先まで一瞬で《病気ですか?》と心配するほど真っ赤々になってやがる。

 可愛いじゃん。

「ああ、……ははは、ごめん。いや、なんかびっくりするくらい、すごくて、その、……予想外のパワーだったんでさ」

 電車がまた大きくがくんっと揺れた。

「…………」

 俺の心も不覚にもがくんっとまた、揺れたり揺れなかったり。

「…………」

 洋子はどうだろう?

「…………」

 なんて、な。

 まぁ、それはそれとして、腕を組んで誤魔化すみたいに、ふいっと洋子は明後日の方向を向いている。

 そんな年頃の仕草が妙に可笑しく、そして似合ってないのが、逆に洋子のキャラとのギャップを感じさせてくれて、可愛らしかった。

 正直もっと俺は、洋子と一緒に居たい。

 最高にハイって奴だ。絶好調のハレバレとした気分。

 けれどぷしゅ~~っと音を立てて、やっとこさで電車の扉がゆっくりと開きやがる。

 あ~~あ、ここでこの洋子とはお別れだ。

 心底波長が合わん。

 いまだったらうっかりと次の駅に行っちゃっても、俺は新米くんを絶対に怒らないのになぁ。

 しかしそれはしゃあない。

 彼だってこれが仕事なのだから。

 慣れてないとはいえ、うっかりで済む限度を、それだと越えちゃうしな。

「んじゃ」

「うん?」

 意味もなく気取って手を軽く上げると、俺は片足だけをホームへと踏み出す。

 洋子は何故か不思議顔だ。

「またな」

「あん?」

 さらに小さく首を傾げる。

「……洋子」

「……ああ」

 ちょっと自分に酔ってるマジ顔で、俺が心の中でBGMを掛けながら別れの挨拶をすると、そこで洋子は合点がいったという顔をした。

 にっこり、ではなく、にやりと、悪戯っぽく微笑むと、

「誠」

 俺の腕を掴み引っ張る。

 すぐにぷしゅ~~っと間髪置かずに、背中で電車の扉が閉じた音がした。

 ホームには二人の姿しかない。

 がたんがたんという音の中で、洋子がネコみたいに眼を細めて笑っていた。気に所為かもしれないが、その瞳が緑色に光ってるような?

「あたしもこの駅に、今日は用があるのだよ」

 ネコ娘の顔は愉しそうに、にやにやとしていやがった。

「ああ……さいですか」

「ふふふ、さいですよ」

 早く言えって。

 ほんの少しだけ過去の島田誠さん(27)が、なんだかモノ凄ぅんごく、恥ずかしい大人になってしまったではないか。

「誠、もう晩御飯は食べた?」

「いや、まだだけど」

「ふ~~ん。……そう、まだなんだ」

 はて? 一体何故だろう。

 どうしてはてんでわからないのだが、俺が晩飯を食べてないという事実は、洋子のお気に召したらしく、その笑みを一層深くさせた。

「コンビニ?」

「の予定」

「グッド。ちょっと待ってね」

 それを訊くと洋子はびっと親指を立て、ソニックのストラップの付いた携帯を取り出し掛ける。

「あ? 紅葉? ホント偶然なんだけどね、電車でお隣さんと一緒になっちゃってさ、うん? そう。201号室の島田誠さんだよ」

「…………」

 待ってくださいよ、女子高生の山本洋子さん。

 わたし、初対面のあなたに、色んな事聞いてもらちゃいましたけど、お部屋の事とかはお話しましたっけ?

「今日はカレーでしょ? なに? それしかできない? そんなんいいから、これから招待するんで、ちゃんと部屋片付けとくんだよ」

 言いたい事だけ言い終えると、洋子は自分勝手に電話を切った。

 天上天下唯我独尊。

 受話器を離したその一瞬、通話口から悲鳴のようなものが聴こえたのは、おそらく空耳とか気の所為だけじゃない。

 そういや何か声に聞き覚えがある。

 隣に住んでいるポニーテールがよく似合っていた、いまどき珍しい苦学生タイプのあの娘だ。

 え~~っと名前は、なんていったかな? 

 全国的にも非常に希少だろうし、特徴的かつ独創的なのは、かろうじてではあるものの覚えてるんだけど。屋号みたいな感じの奴。

「誠」

「なんでしょう?」

「あたしの友人で理由あって一人暮らしをしてる女子高生、松明屋紅葉の部屋で行う、カレーパーティなどにご招待したいんですけど」

「はぁ……」

 そうだったそうだった。

 あの娘は松明屋紅葉ちゃんだったな。うん。近くにある行きつけのコンビニの、地域みんなのアイドルである看板娘だ。


「来るよね? 一人でコンビニ弁当を淋しく食べるのと、可愛い可愛い女子高生とカレーを食べるのを、果たして比べられるだろうか?」

 俺の眼に人差し指をびしっと、突き刺しそうにしながら、洋子は断られるなど露ほども考えてない態度で、自信満々高らかに宣言する。

「…………」

 決めつけられるとこれで、誠さんは子供の部分が大概残っているので、つい逆らいたくなるのだが、

「来るよね?」

「……はい」

 ずずいっと顔を寄せてきた洋子の迫力には、それすらも許されない感じだった。

 いや、勿論、後者の提案の方が遥かに魅力があり、断る気なんて始めから、さらさらありはしないんだけどね。

「オーケー。じゃあ、紅葉の掃除の時間もあるし、ゆっくり行こ、あ? そうそう。明日は土曜日だけど、誠は仕事があったりするの?」

「んにゃ」

「ベリーグッド」

 親指を立てるとそのままその手で、洋子は俺の手を取りきゅっと握る。――ちっちゃい手。ほんのりと人肌に温かくて柔らかい。

 何とはなしに繋いだ手を、じっと見ていたら、洋子が小さく、ぽつりと呟いた。

「どうしよう。これってウマくイキすぎ」

「あん? 何だって? なにがイキすぎだって?」

 確かに俺の言葉が聞こえたはずなのに、洋子は振り向きもせずに、手を引っ張るようにして、ずんずんとえらく早足で歩き出す。

「ゆっくりじゃねぇの?」

「…………」

「なあ?」

「…………」

「なあ?」

「うっさい!!」

 このときはこれで諦めたのだが、無理矢理にでも、爆進するネコ娘の顔を見ときゃよかったと、後でちょっとだけ俺は悔やんだ。




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