サイレンが鳴り響く中私はネルフ本部に戻り、入り口にいた保安部の人の誘導でジオフロント内のシェルターに入った。
しばらくすると上の方から揺れが伝わってきた。
不安にな思いに自分の身体を抱きしめる。
大丈夫・・・
“僕”の時と違って、今回はエヴァが3機そろってる。
それにアスカも“僕”が知っているアスカより強い。
だから、きっと勝てる・・・
勝てるよね・・・
振動は次第に激しくなり、爆音も時々響いてきた。
多分、ジオフロント内での戦闘が始まっているんだ。
アスカ・・・綾波・・・死なないで・・・
ドガッーーーーーン!!!
突然、大きな音とともにシェルターの照明が一瞬消え、すぐに赤い照明に切り替わった。あちこちで悲鳴と鳴き声が聞こえる。
ガガガガガーーーーーードドッンッ!!!
次の瞬間、シェルターの天井が裂け、赤い物が瓦礫とともに崩れ落ちてきた。
「キャーーーー!!」
「逃げろーーーーー!!!」
「助けてーーーー!!!」
人々が一斉に出口に向かって走り出した。
でも、私は逃げないで呆然と落ちてきたその物体を見つめていた。
「あ・ああ・・・そ、そんな!」
それは赤い大きな腕・・・・
弐号機の・・・
アスカ!
次の瞬間、私は出口に向かって走り出していた。
他の人たちが向かっている出口とは反対方向にある出口に向かって・・・
「はあ、はあ、はあっ・・・くっ・・・」
私はジオフロントの森を走っていた。
息が切れて足がもつれる。
何度も転びそうになりながら私は走り続けた。
アスカ、アスカ、アスカ!
お願い!無事でいて!死なないで!
森を抜け、突然視界が開けた。
そこは高台のようになっていて、ジオフロントを一望できた。
そこから見えた物は・・・
白黒の体に布のような腕を振るう使徒。
パレットガンを連射しながら使徒の周りを走る初号機。
まだ片腕が修復されていないらしい零号機が、使徒から離れてポジトロンライフルを構えている。
そして、右腕を肩から無くしながらも使徒の腕を避けながらスマッシュホークを振り回す弐号機の姿があった。
アスカ、良かった・・・生きてる!
でも苦戦してる。今のアスカでも楽には勝てないの?
あの使徒はやっぱり強いんだ・・・
「アスカさん!」
弐号機が正面から使徒の腕をスマッシュホークで受け、凄まじい火花が散った。
そのまま横に受け流し、弐号機の脇をすり抜けていく腕にスマッシュホークを叩き降ろして切断する。
「凄い・・・」
やっぱり今のアスカは強い。これなら勝てるかも・・・
「ユイちゃんじゃないか?!」
突然、背後から声をかけられる。
「加持さん?どうして此処に・・・」
私が聞くと加持さんはあきれたような顔をした。
「おいおい、そりゃ俺のセリフだろ。こんな所で何やってるんだ?目の前で戦闘が行われているんだぞ。危ないだろ。」
「シェルターに、弐号機の・・・アスカさんのエヴァの腕が落ちてきて・・・私、居ても立ってもいられなくなって・・・」
私の言葉に加持さんは困ったような顔になった。
「気持ちはわかるよ。俺だってアスカが心配だからな。でも、こんな所にいちゃいけない。速く逃げよう。」
「でも・・・」
私が言葉を続けようとした時、轟音を立てて初号機が吹き飛ばされた。
辛うじて攻撃を避けた弐号機も背中のケーブルを切断される。
いつの間にか切断されていた使徒の腕も再生していた。
「アスカさん!シンジ君!」
「まずいな・・・」
私達は逃げることも忘れてその光景を見つめていた。
シンジは気を失ってしまったのか、初号機の目から光が消えて動かなくなった。
使徒がさらに弐号機を攻撃しようと腕を振り上げた瞬間、使徒に光の束が連続して襲いかかった。
零号機がポジトロンライフルでアスカを援護しようとしている。
でも、全ての攻撃は強固なATフィールドに阻まれ使徒には届いていない。
湖に浮かぶ戦艦も援護射撃を始め、使徒は爆煙に包まれた。
かなり距離があるはずの私達のいる高台まで、その熱と爆風は届いてきた。
加持さんが私を守るように抱きしめる。
「か、勝てるの?」
「いや・・・まだ解らんな・・・」
私の呟きに加持さんは否定的な答えを返した。
「攻撃が届いていない。あれでは・・・」
爆煙の中で何かが光った。
その途端、零号機が持っていたポジトロンライフルが爆発し、零号機は吹き飛んでいく。
「綾波さん!!」
地面に打ち付けられた零号機は何とか立ち上がろうともがいていたが、やがてその動きが止まってしまった。
戦艦からの攻撃がさらに激しさを増す。
しかし、また使徒の目が光り戦艦は爆発をおこし炎上した。
次の瞬間、機会をうかがっていた弐号機が姿勢を低くしながら使徒につっこんでいく。
使徒の直前で身体を回転させ、ATフィールドの波紋を突き破りながら強烈な膝蹴りを使徒のコアに炸裂させる。
たまらず使徒は仰向けに倒れた。
「良し!上手いぞアスカ!」
加持さんが思わず声援を上げた。
弐号機はプログナイフを取り出すと、使徒の顔面を串刺しにして光線を封じた。布状の手もそれぞれ両足で踏みつけて動きを封じる。
そしてカバーがかかったコアを片手で何度も何度も殴りつけた。
ガシンッ、ガシンッ!
弐号機がコアを殴るたびに鈍い音が響き、空気が震えた。
バリーンッ!
ついにコアにかけられたカバーが砕け散る。
「やった!・・・何っ?!」
歓声を上げた加持さんの顔が、次の瞬間凍り付く。
「えっ・・・」
とどめを刺そうとした弐号機の動きが、腕を振り上げた形でピタリと止まった。
「まずいっ!電源切れか!」
「アスカさん!」
使徒は布状の手で弐号機の頭を巻き付けゆっくり持ち上げると、投げ捨てるかのように放り投げた。
凄い勢いで弐号機は止まったままの初号機に激突して、二体は並ぶように地面に横たわった。
使徒の顔面からナイフが押し出されて地面に落ちる。傷が急速に治ると、その目に光が点った。
「きゃあぁぁぁ!!!アスカさん!シンジ君!」
弐号機、初号機の胸が爆音を立てて弾け、私は悲鳴を上げていた。
煙が晴れると、二体のエヴァの胸元には赤い光を放つ玉が露出している。
「あれは・・・コアか・・・」
加持さんが呆然と呟く。
使徒はゆっくりエヴァに近づくと、両手を板のように固くしてそれぞれのエヴァのコアに向かって打ち付け始めた。
ガン!ガン!ガン!
使徒の腕が振り下ろされる度に、二体のエヴァはその衝撃で跳ね上がる。
死んじゃう・・・アスカが死んじゃうよ!
「やめてぇ!お願い!もうやめてぇ!!いやぁ!こんなのいやぁ!!」
「くそっ、これまでなのか・・・」
泣き叫ぶ私を抱きしめながら、加持さんが絶望に満ちた声を出した。
もうだめなの?
此処で終わってしまうの?
私はアスカ達が殺されていくのをただ見ていく事しかできないの?
こんなのヤダ・・・
アスカ達は幸せになって欲しいのに・・・
罰せられるのは“僕”だけで良いのに・・・
助けて・・・
だれかアスカ達を助けて!
突然、使徒の動きが止まった。
それどころか怯えたかのように後ろに下がる。
「なんだ?」
失神寸前だった私は、加持さんの呟きに意識を取り戻した。
なに?・・・まさか・・・
次の瞬間。
バシャッ!
弐号機の顔が上にずれ、四つの目が光を放った。
バキンッ!
初号機の口が拘束具の破片をまき散らしながら開く。
『『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!』』
二体のエヴァが唸りを上げて立ち上がった。
そして、獣のような動きで使徒に襲いかかっていく。
「暴走・・・いや、まさか、これは・・・」
加持さんは今何が起こっているのか薄々解っているらしい。
あの時と同じだ・・・
なら二人は・・・
使徒が布状の腕を伸ばし、二体のエヴァに襲いかかる。
初号機は横っ飛びで軽々それを避け、弐号機は無造作にその腕をつかみ取る。
そのまま弐号機は使徒の胸に足をかけると、使徒の腕を強引に引きちぎった。そして、それを自分の切れた右腕の先端にあてる。
びくんっと弐号機が震えると、使徒の腕は形を変えて灰色のエヴァの腕になっていった。
片腕を無くした使徒はふらつきながらも残った腕で攻撃しようとしたが、飛びかかってきた初号機にあっさりと組み伏せられてしまった。
初号機は爪を立てて使徒の腹を引き裂いていく。使徒が光線を撃とうと目を光らせた瞬間、初号機はその顔にかじりついていた。
ぴいぃ!ぴいぃぃぃぃ!
使徒が悲鳴を上げている。
それ以降は、一方的だった。
抵抗をほとんど無くした使徒を、二体のエヴァが好き勝手に引き裂いていく。
最早それは殲滅ではなく・・・それは強姦だった・・・
使徒はもはや二匹の獣に陵辱されていく、か弱い少女にすぎなかった。
「あ、ああ・・・」
初めて外から見たエヴァの凶暴さに、私の身体は恐怖にガタガタ震えた。
自分の身体を力一杯抱きしめても、歯がカチカチと鳴る音が止まらない。
内股を伝って熱い物が流れ、私の足下に黄色い水たまりが出来ていった。
使徒の腹が大きく引き裂かれ、二体のエヴァが頭をつっこんだ。
グチャ、グチャ、グチャ
咀嚼音が響き渡る。
使徒を・・・食べてる?!
初号機が顔を上げた時、その口元には赤い内蔵がぶら下がっていた。
「うぐっ!」
たまらず私は口元を抑えてその場に跪く。
熱い物が喉の奥からこみ上げてくるのを必死に抑えた。
「ユイちゃん、あんなもの見ちゃ駄目だ!」
その光景を隠すように、加持さんが私の前に回りながら背中をさすってくれた。
『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!』』
加持さん越しにエヴァの歓喜に満ちた叫び声が聞こえていた。
しばらくして2体のエヴァは動きを止めた。さらに、ジオフロントの各所からワイヤーが射出され、エヴァをがんじがらめに縛り上げていく。
「大丈夫かい?」
加持さんが近くに置いてあった荷物から水筒を持ってくると、お茶を注いで渡してくれた。
「ありがとうございます・・・」
礼を言って受け取る。
汚れてしまったショーツの感触が気持ち悪い。早く着替えたい・・・
お茶をすすりながら周りをよく見ると、荷物の脇にはバケツやら鍬が置いてある。そう言えば加持さん、菜園の趣味があったっけ・・・スイカだったかな?
ドドドドドドドッ
轟音が響き、見れば大きなクレーン車がエヴァを専用搬送車に固定しようとしていた。
二人は・・・アスカとシンジは・・・やっぱりエヴァに吸収されてしまったのだろうか・・・
帰ってくるよね・・・
“僕”の時はどうやって帰ってきたのか、その時の記憶がぼんやりしていてよくわからない。
でも、姉さん達がサルベージ作業をしてくれるはず・・・
大丈夫だよね・・・
「いやはや・・・二体同時にエヴァの覚醒か・・・これから大変だな・・・委員会も黙っていないでしょうし、碇司令、どうなさるおつもりですか?」
加持さんがそれを見ながら呟く。でも、その顔はなんだかニヤついている。
やっぱり加持さんってなにか“真実”っていうのを調べているんだ。
でもこのままだと・・・
脳裏に留守番電話を聞いて泣き崩れているミサトさんの姿が浮かんだ・・・
駄目だよ。そんなの・・・
しばらくして警報が解除され、私は加持さんに送られて家に向かっていた。
車の中でも私は考え込んでいた。
どうしたら加持さんを死なせないですむのか・・・
ミサトさんが泣いてる所なんて見たくない。
良い答えなんて出なかった・・・
やがて私達のマンションの前で車が止まる。
「さあ、お嬢様。到着ですよ。」
加持さんがおどけたように言った。
でも私は車から降りず動かなかった。
「どうしたんだい?気分でも悪いのかい?」
加持さんが心配そうに聞いてくる。
私はしばらく迷っていたが、意を決して加持さんに話しかけた。
「加持さん・・・加持さんって危ないこと、してるんですか?」
私の問いに加持さんは一瞬、きょとんとした顔をした。
「なんだい急に。危ないことって?」
おどけた調子で聞き返してくる加持さん。でもその表情は何かよけいなことを話してしまったのかと考え込んでいるようだった。
「加持さんにお願いがあるんです・・・」
「な、なんだい?」
私は加持さんの目をじっと見つめた。
「死なないでください。」