天高く登る火柱。
「いやっ!いやぁっ!!姉さん!アスカ!綾波・・・」
私は泣き叫んだ。いやだいやだいやだ・・・私を一人にしないで・・・私の前からいなくならないで・・・
「ユイさん。」
カヲル君が私の肩に手を置く。
「見てごらん。大丈夫。」
「え・・・」
涙でにじむ視界の中、火柱は急速に消えていった。そして見えてくる第3新東京市の街並み・・・
「街が・・・」
運転手の黒服の人が無線機で何かを話している。
「・・・了解。使徒は殲滅されたようです。」
黒服の人はカヲル君にそう伝えた。
「だそうだよ。大丈夫、みんな無事だよ。」
「ほんとに?」
「ああ。」
よかった・・・
車は元来た道を戻っていく。
学校に着くと、私たちは車を降りた。
「学校が・・・」
窓ガラスが吹き飛び、酷い有様だった。
「建物は大丈夫そうだからすぐ再開できるさ。」
「うん・・・」
私が頷いた時、学校の中から人影が三つ飛び出してきた。
「いてえっ、いてえよおぉ~」
「目が、目がぁ!」
「死にたくねえよぉ~」
私を犯そうとした3年生達だった。全身ガラスが刺さり血まみれになっている。
「あの・・・」
私がカヲル君の袖をつかみ声をかけると、彼は全部言わせずに微笑んだ。
「わかったよ。・・・すみません、救護班を呼んでやってください。」
黒服の人は「了解しました。」と言うと無線機に呼びかけ始めた。
「君は優しいね。」
「私・・・優しくなんか・・・」
違う・・・私は優しくなんて無い・・・
ただ・・・あの人達も私と関わらなければ助かったかもしれないから・・・
きっと私が悪いんだ・・・
聞かなきゃ・・・
「あ、あの、カヲ・・・渚君・・・」
「ん?なんだいユイさん。それに僕のことはカヲルでいいよ。」
カヲル君は微笑んで言葉を続けた。
「前にもそう言っただろ。“シンジ君”。」
ああ・・・
目の前が真っ暗になり、“あの時”の光景が脳裏をよぎる。
握りつぶされる体。落ちていく頭部・・・
気がつくと私はカヲル君に倒れそうなところを支えられていた。
「うそ・・・」
「うそじゃないさ。」
「そんな分けない!」
「じゃあ、僕は誰なのかな?」
微笑を絶やさないカヲル君。
「だって、だって・・・“カヲル君”は・・・私が・・・“僕”が・・・殺した。」
「この手で・・・体を握りつぶして・・・首が・・・」
「首がぽろって・・・私が・・・私がぁ!」
だめ・・・気が変になる・・・
「落ち着くんだユイさん!」
カヲル君に抱きしめられた。
「僕は生きている・・・ここにいる・・・わかるね。」
「でも・・・」
私が殺した・・・
「たしかにあの時、僕の体は滅びた。でも、僕自身は“死”という概念がない存在なんだよ。ただ器が壊れたにすぎないんだ。」
「だったらどうして・・・」
「君に教えなかったのは申し訳ないと思っている。でも決まりなのでね。口外できなかったんだ。」
ほんとうにすまない。カヲル君は真剣な顔で頭を下げた。
「それが原因で君に辛い思いをさせてしまった・・・」
もういい・・・私は涙を流しながら首をふった。
「もう二度とあんな・・・」
「わかってる。」
「あんな居なくなり方しないで・・・」
「誓おう。タブリス、いや渚カヲルの名にかけて。」
カヲル君は胸に手をおき、肩膝をついた。
中世の騎士のように・・・
『あー、こんなとこにいおった!』
この声・・・ケンちゃん?
振返ると子猫のケンちゃんが毛を逆立ててうなっていた。
「ケンちゃん?どうしてここに?」
「やあ。」
『嬢ちゃんこそなんでこんなとこにおるんや・・・まあいいわ。おい、そこのアホボン!』
フーとうなるケンちゃん。怒ってる?
『人が迎えに行ってやればどこにいっとんや!おまけにかってに嬢ちゃんと会いおってからに!』
「僕は猫よりレディーを優先するのさ。」
二人知り合いなの?それにケンちゃん、人じゃなくて猫でしょ。
『アホか!だいたいなんでおまえが来るんや?!連続して三つは仕事したことないやろ!アルカディアで寝とるんじゃないんか?!』
三つ?アルカディア?なんのこと?
「愛しい人のピンチにはいつ何時でも駆けつける。それが僕さ。」
『こ、こ、こ、こんのっどアホがぁ!!』
い、愛しい人って・・・
えっ、もしかして・・・
「カヲル君・・・」
「なんだい?」
「カヲル君・・・リリスに言われて来たの?」
「ああ、君の現状を聞いてね。君を助けるように言われた。」
知っている・・・カヲル君は私が何をしているか・・・何をされているか知っている・・・
私はカヲル君から離れた。
「ユイさん?」
「近づかないで・・・」
カヲル君が困惑顔をしている。
「止めさせない・・・たとえカヲル君でも・・・私の贖罪は止めさせない。」
「ユイさん!」
「それに私はカヲル君に近づける資格なんてない・・・」
私はもう汚れている・・・
それに・・・
校舎裏で抱き合うカヲル君とアスカの姿が思い浮かんだ・・・
なぜか知らないけどこの二人は・・・アスカはカヲル君のこと・・・
だったら私はなおさらカヲル君に近づいてはいけない!
「僕のせいなのか・・・」
カヲル君が辛そうに呟いた。
「違うわ・・・これは“僕”の罪・・・」
カヲル君と分かれ、家に帰ると電話が鳴った。
「はい、赤木です。」
『ユイ?』
「姉さん・・・無事だったんだ・・・よかった。」
『おかげさまでね。あなたも怪我無い?』
「うん・・・」
『よかった・・・それでね』
姉さんが言った言葉に私は耳を疑った。
三人とも入院?!
姉さんが手配してくれた保安部の車に送ってもらい、私は病院に駆けつけた。
ロビーに入るとミサトさんと鉢合わせした。
「あらユイちゃん。お見舞いにきてくれたの?」
「ミ、ミサトさん。み、みんなは・・・」
やけにミサトさんお気楽な感じがする。
「大丈夫よ~大した事ないわ~」
そうなの?私は脱力してその場にしゃがみこんでしまった・・・
その後、ミサトさんが何があったかを教えてくれた。
「作戦はね、落ちてくる使徒を皆で受け止めるってヤツだったの。」
前と同じだ。
「でね、実際落ちてくると一番近かったのはシンジ君だったんだけど・・・」
それも前と同じ・・・
「シンジ君、出遅れてね。アスカが先に使徒の下に着いたのよ。」
シンジ・・・なにやってるの?!
「それでアスカ一人で使徒を支えて、その後シンジ君とレイが同時に到着。二人が支えてる間にアスカが殲滅ってとこかな。」
それじゃアスカ一人に負担が・・・
「だから入院って言ってもシンジ君とレイは検査程度、アスカもしばらく筋肉痛が続く程度らしいわ。」
「そうですか・・・」
私は許可をもらって最初にアスカと綾波の病室に向かった。
「ユ゛イ゛ィ゛~・・・がら゛だじゅうい゛だい゛の゛よぉ~・・・・」
「あはははは・・・・」
筋肉痛にうめくアスカに私は笑うしかなかったり・・・
「綾波さんは・・・て、もう着替えてるし・・・」
検査の終わった綾波はすでに制服に着替えて帰るばっかりの状態。ベットの上で本を読んでる。
「だいたいねぇ~頭脳派の私が肉体労働なんて向いてないのよぉ~」
りんごを私に食べさせてもらいながらぶつぶつ文句いうアスカ。元気だね・・・
「こんなんじゃユイにセクハラもできやしない・・・」
私の胸に手を伸ばそうとして、いだだだだぁ~とうめいている。
「しなくて良いです!」
セクハラって認めてたのね・・・
「そうはいかないわ!ユイにセクハラするのは私の一番の楽しみなのよ!」
腕を振り上げ力説したせいで、またぐうぅぅっとうめいてる。
「そんな楽しみはやめて・・・」
お願いだから・・・
「うぅ・・・ユイの胸、ユイのお尻、ユイの太ももぉ~・・・」
「ア、アスカさん?!」
スケベ親父ですかあなたは?!
「くうぅぅぅぅ・・・こ~なったら・・・レイっ、やぁ~っておしまい!」
「任務・了解。」
何時の間にか私の背後に立っている綾波が、がばっと胸を両手で掴んだ。
うそぉ?!
「はっん、ちょっちょっと綾波さん?!やめてぇ!」
「だめ、命令だから。私にはこれしかないもの・・・」
嘘だ、絶対嘘だぁ~
「ふかふか・・・」
「あっ、ちょっ、なに言って、だ、だめっ、んんっ、あ、あうっ、ああ、ああんっ!」
「あ~、これよこれ!やっぱりユイのこの声聞くと生きてるって実感わくわぁ~♪」
「そんな生きがい持たないでぇ~(泣)」
それから看護婦さんが来て怒られるまで綾波は延々私の胸を揉みつづけた・・・
でも綾波、なんなのその指使いはぁ・・・何処で覚えたのよぉ~
うう、今日は急いで来たから変えの下着持ってないのにぃ・・・
やっと二人に開放された私は、シンジの病室に入った。
こちらは個室でシンジ一人しか居ない。
シンジはひまそうにベッドの上でぼーとしていた。
「シンジ君・・・」
「ユ、ユイ・・・さん・・・」
シンジはおびえた表情を浮かべて、ベッドの上で後ずさった。
まだ君は・・・そんな・・・
むかつく。
「大丈夫?」
「は、はい・・・な、なんとも・・・ないです。」
私と目をあわさないシンジ。
「何を怯えているの?」
「・・・」
「もし怯えるとしたら、それは私の方じゃないの?」
「ご、ごめんなさい・・・」
「なにが・・・?」
「だ、だから・・・その・・・」
「わからないの?」
「・・・」
「わからないのにとりあえず謝ってるの?」
「そ、それは・・・その・・・ぼ、僕はユイさんに・・・酷いこと・・・しちゃったから・・・」
今更だと思う・・・それに・・・それこそが私の望むことだから・・・
「怒ってないわ・・・」
「ほ、ほんとに?・・・で、でも・・・」
「私は怒ってないし、君のことを嫌ってもいない。」
本当は大ッ嫌い。“僕”なんて・・・
でも、シンジは明らかにホッとした表情を浮かべている。単純・・・
「それにシンジ君は言ったわ・・・」
「えっ?」
「私は、君の“物”だって・・・」
「あ、あれはっ。」
「自分の“物”にしておきながら、今更捨てないで。」
絶句するシンジに私は微笑んだ。
私は、君の“物”なんだから・・・壊すまで・・・遊んで・・・