私はシェルターの隅に蹲って、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
今度の使徒は・・・なんだっけ・・・
なんだかどうでも良い・・・
ムサシ君とケイタ君は私をシェルターまでつれてくると、どこかへ行ってしまった。
私は今一人。
自分を抱きしめるように肩を抱いた。
まだ身体の節々が痛い・・・
腰も痺れたような感覚がまだ残っている・・・
あの女の子達が中を洗浄してくれたと言ってたけど、その名残なのだろう、ショーツがじわじわと濡れてきて気持ち悪かった・・・
なんでこんな事になったんだろ・・・
軽い気持ちで知らない男の子達についていった私が悪いのかな。
それともこうなるのが私の運命なのかな・・・贖罪のための・・・
何時間たったんだろう・・・時間の感覚も無い・・・
ビービービー
「シェルターの皆さんにお知らせします。当シェルターは危険と指定されたため、地下通路を通って速やかに移動を開始してください。」
アナウンスが流れ、避難していた人たちが一斉に動きはじめた。
私も流れに従って歩き始める。
通路に入ってしばらく歩いていると・・・
「キャー!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
後ろで悲鳴が響き、すぐに途絶えた。
「何・・・?」
振り返ると・・・さっきまでいたシェルターの入り口付近が消えていた・・・
ただ何もない空間に・・・
ああ、そうだっけ・・・今度の使徒は・・・
「君!何やってる!速く逃げるんだ!!」
呆然と立ちすくんでいた私の手を誰かが掴み、引きずられるように走り出した。
それでも私は後ろを見続けていた・・・何もない空間を・・・
かなりの時間を移動し、たどり着いた新しいシェルターで避難している人たちは不安そうな顔をして過ごしている。
あれから何時間たったんだろう・・・もう深夜になっているみたい・・・
使徒・・・どうなったのかな・・・
“前回”、“僕”は使徒の影に飲み込まれ何もない空間の中で死にそうになった。
初号機が・・・いや、“母さん”が助けてくれたけど・・・今回はどうなるだろ・・・
シンジ、落ちたのかな・・・
まさか、アスカか綾波が落ちてないよね・・・
不安だけがつのる・・・
「赤木さん?」
膝を抱えて考え込んでいると、誰かに話しかけられた。
「あ・・・洞木・・・さん・・・」
「やっぱり赤木さんだった。よかった、無事だったのね。」
「うん・・・洞木さんも・・・」
「私は今日、家にいたから・・・お姉ちゃん達と一緒に避難してたの。」
振り返った洞木さんの視線の先には、以前見かけた二人の女の子が座って話し込んでいた。
「今回は長いわね・・・」
「うん・・・」
洞木さんが私の隣に座った。
「大丈夫よ。きっとアスカ達が何とかしてくれるわ。信じて待ちましょう。」
「うん・・・」
「元気ないわね・・・大丈夫?何かあったの?」
「・・・私・・・」
その時シェルターを激震が襲った。
「うわぁぁぁっ!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「お母さ~ん~!」
「もうダメだぁ~!!」
一斉に悲鳴が上がる。
私は頭を抱えてただ震えるだけ。その時、誰かに抱きしめられた。
洞木さん?
揺れはしばらく続き、そして急に止んだ。
「・・・大丈夫?赤木さん。」
「うん・・・ありがとう・・・」
洞木さんが微笑んでいる。でも、私を抱いたままの手は微かに震えていた。
洞木さんだって怖いはずなのに・・・
「ごめんなさい・・・」
「え?!何が?」
不思議そうな顔をされた。
ごめんなさい・・・
それから1時間後、避難警報は解除された。
誰もいない家に帰宅する。いや、ケンちゃんがいた。
にゃぁ~
『おお、嬢ちゃん。無事だったんか。心配したで。』
「うん・・・」
『どうしたん?元気ないの。』
「ううん・・・疲れただけ・・・シンジは?」
『いんや、昨日は帰ってこなかったで。そのままネルフへ行ったんやろ。』
ああ、もう日付が変わってるんだ。
「そう・・・私、寝るね・・・」
『ああ、お休みな。』
軽くシャワーを浴びて汗を流し、私は裸のままベットに倒れ込んだ。
視線を下げると、乳房にいくつもの吸い後が薄く赤くついていた。
明日には消えるかな・・・
シンジに見つかったら・・・なに言われるだろ・・・
問いつめられるかな・・・
誰に何をされたかじゃなくて、他人としたのかを・・・
だって、彼にとって私は“自分の物”だもの・・・
怖い他人じゃなくて、良いなりに出来る唯一の物・・・
私、いっぱい汚されちゃった・・・
シンジももっと私を汚して・・・
それが私の望みなんだから・・・私の・・・
「う・・・うう・・・・うっ・・・」
なんで泣いてるんだろ・・・望みは叶っているのに・・・
朝、目が覚めると裸のままだった。
あのまま寝ちゃったんだ・・・
携帯を見ると、学校連絡網のメールで休校のお知らせが来ている。
そんなメールを読みながら着替えると、気がついたら制服着てるし・・・まあいいか・・・
ケンちゃんと朝食を取っていると、電話が鳴った。
「はい、赤木です。」
『あ、ユイ?』
「姉さん?よかった・・・大丈夫だった?」
『おかげさまでね・・・でも・・・』
そこで姉さんが言いよどんだ。何かあったの?
『シンジ君がね・・・』
「え・・・?!」
独房入り?!
ネルフに駆けつけると、アスカが迎えに来てくれた。
かなり機嫌が悪いみたい。
「アスカ・・さん、シンジ、君が・・・独房って・・・」
「そうよ。・・・あの馬鹿・・・」
「どうして・・・」
「敵前逃亡よ・・・」
話を聞くと前回同様、シンジが使徒に向けて発砲。その直後使徒の影に飲み込まれそうになるが、まるで予測していたかのようにアスカが駆けつけ救出。
そこまでは良かった・・・
すっかり怯えたシンジが錯乱してケーブルをパージ、逃走したという。
ミサトさん達の呼びかけも無視し走りつづけ、電源切れで街外れで止まったらしいけど・・・
怖いのは解るよ・・・でも・・・そこで逃げるなんて・・・
その後、時間がないため初号機は放置。
“前回”と違い人質もいない為、零号機と弐号機で使徒を囲みATフィールドを中和。N2爆弾の大量投下で殲滅したということらしい。
あの激震はその時のものだったんだ・・・
誰も怪我が無くて良かった。
でも・・・
シンジは一体何を・・・何をやってるの!
「碇司令はカンカン。結局シンジは5日間、楽しい一人暮らしよ。リツコも当分帰れないらしいし・・・ユイ、あんたその間あたしん家にきなさい。」
まだプリプリしているアスカがいきなりそう言った。
「え・・・で、でも・・・」
「デモもストもないの!5日もアンタをひとり暮らしなんて危なくてさせられるわけないでしょ!」
「え、えっと・・・」
私がまだ迷ってると、アスカはいきなり私の胸を両手で鷲掴みにした。
「ひゃんっ!」
「あんたは胸ばっかり成長して頭はお子様なんだから、おねーさまの言うこと素直に聞きなさい!」
「あっ、んっ、わ、わかったから、わかりましたから、胸揉まないでぇ~」
う~、またセクハラだよぉ・・・
「それってなんか酷い・・・私の頭が子供って言うより、アスカさんがたまにおじさんみたいなんじゃ・・・」
「そんなこと言うのはこの口かぁ!」
「い、いひゃい、いひゃいってばっ、ひょ、ひょめんなひゃいぃ~」
頬っぺた引っ張らないでぇ~
「うふふ・・・ぷにぷにぃ~♪」
「ふぁなひぃてぇ~・・・」
でも・・・
何時の間にか鬱な気分が消えていた・・・
アスカといると元気になれる・・・“昔”からそう・・・
アスカはまるでお日様のよう・・・今の私には眩しいくらい・・・
「そうと決まればあんたん家に荷物取りに行くわよ。善は急げってね。」
「なにが善なの???」
「うっ、ふ、ふ、ふ・・・おじょうちゃん、おじさんがええことしてあげるけんねぇ~」
「ア、アスカさんっ?!アスカさんが言うと冗談に聞こえないってば!誰がおじさんですか?!」
自分でおじさんって言ってるし!
「気にしない~気にしない~♪」
「気にします!」
結局、アスカの家に引きずられるように連れて行かれた。
途中話を聞きつけてきた綾波が現れ、何故か今日はお泊まり会が開催。
なんかやな予感が・・・
「おじゃまします。」
「どうぞぉ~♪」
アスカの家に入るとこざっぱりした清潔そうな部屋だった。
隣がミサトさんの家だとはとうてい思えないな・・・
やっぱり、隣は汚いままかな?
「ケンちゃん、今日からしばらくここでお世話になるからね。」
私は家から抱えてきた猫用バスケットを降ろし、扉を開けた。
にゃんっ
『お~、なかなかいいとこやんか。美少女も3人おって、こりゃ極楽やな♪』
部屋の中をとことこ歩きながらそんなことを言ってるケンちゃん。
アスカがケンちゃんの言葉解ったら蹴り出されるよ。
くえぇ!
この鳴き声って・・・
『お、なんやあんさんは?』
ペンペンだ。今回は初めて会うんだっけ。
「この子が家のペンペンよ。仲良くしてね。」
アスカがペンペンの頭を撫でながら言った。
くえっくええっ
『ほお、なかなかハードな体験しとるんやな。よかったのう、今の主人に会えて。』
くえっ
ケンちゃん、ペンペンの言葉解るの?!
ともかく私達の騒がしい5日間が始まった。
夕食・・・
「お~、さっすが専業主婦!美味しいわぁ~♪」
「誰が専業主婦ですか?!」
「お代わり・・・」
「あ、はいはい。」
「私もおかず追加!ユイを食べていい?」
「ダメです!」
お風呂・・・
「やっぱりでっかいわねぇ~」
「重いばっかでやなんだけど・・・」
「贅沢者ぉ~・・・わ~い、ふかふかぁ♪」
「ふかふか・・・」
「ちょ、ちょっと、二人で触らないで~、あっ、やんっ!」
就寝・・・
「あんたそんな格好で寝てたの?」
「へ、変かな・・・」
「馬鹿シンジには刺激が強い気がするけどね~」
「あ、綾波さん、パジャマくらい着て寝ようよ~」
「これが一番気持ちいいのに・・・」
「じゃあ寝るわよ~♪」
「なんで私を押し倒すのぉ?!」
でもって朝・・・
あれっ・・・身体が動かない?
「って、アスカさん!私は抱き枕じゃないってば!あ、綾波さん?なんで私の足にしがみついてるの?やっ、ちょっ、そんなとこ頬ずりしないでぇっ・・・あっ・・・あんっ・・・やっ・・・ああっ!」
なんか疲れた・・・
朝食の準備をしながらため息・・・
まあ、楽しいのは確かなんだけど・・・ね。
「ユ~イッ♪」
「きゃんっ!」
びっくりした~
「あ、アスカさん!後ろから抱きつかないで!フライパン持ってるんだから。」
「あ~・・・ごめんごめん、あっはははは♪」
「あ、やめっ・・・」
胸揉みながら言わないでぇ~
「赤木さん・・・裸エプロンじゃないの?」
「あ、綾波さん?!」
何でそんなに残念そうなの~?!
「浪漫なのに・・・クッ・・・」
唇噛み締めるほど?!
やっと朝食・・・
「いや~美味しいわぁ~」
「あのぉ・・・」
「んっ?何、ユイちゃん♪」
「どうしてミサトさんがここに?」
当然のように椅子に座って朝ご飯食べてるミサトさん。
お仕事は?まだ使徒出てすぐでしょ?
「あ~、戦い終わったから作戦部は暇なのよ~」
「んな訳ないでしょ!どうせ日向さんに押しつけて帰って来ちゃったのよ!」
「うっ・・・」
顔引きつってる・・・
「日向さんが過労死したら確実に犯人はミサトね!」
「葛城一尉・・・最低・・・」
「姉さんはずっとお仕事で泊まりなのに・・・」
ミサトさん、固まっちゃった・・・
「ち、違うわよ!ただ着替え取りに来ただけなの!私だって今夜は徹夜よ!」
「ふ~ん・・・」
「・・・」
「・・・」
「そ、そんな目で見ないでぇ~(泣)」
たまにミサトさんが年下に見えます・・・
いや、悪い意味で・・・
「そ、それにしてもユイちゃんのご飯って美味しいわね~、どう、私のお嫁さんにならない?」
「はいぃ?!」
「何言ってんの!」
何で私が女の人の所にお嫁に行かなきゃ・・・
「ユイはアタシのお嫁さんになるって決まってんのよ!」
ア、アスカァ~・・・
「おっ、じゃあアスカは私の恋敵ね!」
「ふんっ、望む所よ!」
「なんなんですかぁ~・・・」
私のために争わないで~・・・とはとても言えなかった。
なんか違うし・・・
て、綾波、なに潤んだ目で見つめてるの?
「ウェディングドレスを着て私にお姫様抱っこされている赤木さん・・・タキシード着た私はそっとキスするの・・・(うっとり)」
あなたもですかぁ~(涙)
こんな感じで5日があっという間に過ぎたのでした。
これはほんの一時の安らぎ・・・
楽しい時間はあっという間に過ぎ、そして辛い現実が私を縛り付ける・・・