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No.20637の一覧
[0] ふたりのひみつ[午後12時の男](2010/07/26 02:29)
[1] 1.巧[午後12時の男](2012/04/29 05:43)
[2] 2.陽菜[午後12時の男](2010/09/15 22:57)
[3] 3.アイレベル(前編)[午後12時の男](2010/12/27 22:59)
[4] 間章 はじめてのよるのこと[午後12時の男](2012/03/30 01:59)
[5] 4.アイレベル(後編)[午後12時の男](2012/04/24 02:21)
[6] 最終話.ふたりのひみつ[午後12時の男](2012/08/06 22:31)
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[20637] 4.アイレベル(後編)
Name: 午後12時の男◆96f3d9c1 ID:3561ecbb 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/24 02:21
#0

 陽菜がまだ小学校に入るか入らないかの頃。
「ね、あたしの、お父さん、どんな人だった?」
 母親の紗枝に向って、彼女は口癖のようにその言葉を口にしていた。
 子供は子供で、やはり自分と周囲の環境が違えば、それを不思議に思ったりするものだ。
 他の子たちには「お父さん」がいるのに、自分にはそれがいない。
 何で自分には「お父さん」がいないんだろう。
 自分の「お父さん」は元からいないのか。
 それとも、自分にはやっぱり「お父さん」はいて、でもどこかに行ってしまっただけなのか。
 いたとすれば、どんな「お父さん」だったんだろう。どうして、今、自分のそばにはいないんだろう。
 夫婦になるための法的手続きも、親が子を成すために行う行為も、陽菜はまだその当時分かっていなかった。当然、片親であることが、例えば事故であったり、離婚であったり、そういう「不幸」からくる結果である事が往々にしてあるという事も知らず――だから彼女にとって、それは純粋に、単なる好奇心の対象でしかなかった。
 子どもであるが故の無垢な残酷さで、かなりしつこく、何回も聞いたような記憶が陽菜にはある。
 そんな陽菜に対し、記憶の中の母親は、いつも決まって、どこか困ったような笑みを返してくるのだった。
「うーん。秘密」
 当時、二十代の半ば、女ざかりであった紗枝。
 少しおどけたように唇に人差し指をあてて首をかしげる様子は、一児の母とは思えぬほどにあどけないものだった。
 綺麗なお母さんだね、とよく言われたことを覚えている。
 陽菜にとって、紗枝は自慢の母親だった。
 優しくて、綺麗で、可愛くて、時々格好いい。
 今思い出しても、紗枝はいい母親だったと陽菜は思う。若干二十歳にして陽菜を産み、それからほとんど女手一つで、自分を健康に育ててくれたのだ。並みの親以上に苦労することも多かっただろうに、そんなそぶりを見せず、死の直前、病で倒れるまでずっと陽菜を大切に扱ってくれた。
 だけどそんな紗枝は、陽菜の父親についてだけは、決して詳しく語ろうとはしなかった。
「お母さん、そればっか」
「ごめんねえ、こればっかりは教えちゃ駄目なの」
 なぜ駄目なの、とは、もう陽菜は聞かなかった。
 それを問いただしても、やっぱり母親はたおやかな笑顔を返すだけで、いつも答えようとしてくれなかったから。
「ただ、そうね……かわいい人だった。笑顔が素敵でね」
「……それじゃ、全然、分かんないよ」
 何かを懐かしむように笑みを深める紗枝に、陽菜は頬を膨らませる。
 大抵の話題には誠実に新味に応えてくれる母親だったが、父親については、いつもこうやってはぐらかされてばかりだ。
 はうー、とため息をついて、伸びをしながら食卓に突っ伏して。
 ふと思い出したように、ぼそりと陽菜は呟いた。
「たくみくんなら、知ってるかなあ」
「知らないよ」
「ええ? 何でよう」
「だって。教えてないもの」
「……うー」
 陽菜が恨めしそうに見上げても、相変わらず紗枝はひょうひょうとした笑顔。
 本当に、これもいつもの反応だ。陽菜の方も毎度のことで慣れてしまっていて、大した不満も抱かなくなっている。
 思い出したように時折問いを投げて、その度にははぐらかされて――それは、この母娘の間の定番のじゃれあいのようなものになりつつあった。 
「それにしても、陽菜は、巧ちゃんのことが大好きね」
「んー。うん」
 流石にそうストレートに言われると恥ずかしくて、何となく顔を伏せながらも陽菜は頷いた。
 そんな愛娘の仕草が微笑ましかったのか、紗枝はどこか嬉しそうに顔を綻ばせていた。
 巧は、紗枝にとっても仲の良い従弟だ。
 だから、自分の娘と大切な従弟の仲が良い、というのは、やはり嬉しいものだったのだろう。仲の良いお兄ちゃんと妹を見てる気分なのかな、などと、陽菜は子供心に納得していたりしたものだ。
「たくみくんに、会いたいなぁ」
「またね。今度の休み、また遊びに行こっか」
「うん。今度はクッキー、焼いてみようかな」
 ――
 ――それは、陽菜と紗枝の間で、何度となく繰り返されたやりとりだった。
 何度も何度も繰り返した、違う昔の同じ風景。
 何度も何度も繰り返されたがゆえに、そこで母が見せていた表情を、陽菜ははっきり覚えている。
 優しい笑顔。温かい笑顔。
 後から思えば、その時の紗枝の笑顔は、いつもと少しだけ雰囲気が違ったように思う。
 それはやはり、自分のもとにいない夫への愛情が彼女の中でも特別なものだったということなのだろう。それを想うたび、陽菜は何となく、羨ましいような、切ないような、そんな気持ちを抱いてしまう。
 でも――紗枝が死んで。巧のもとに引き取られて。
 そんな今になって、陽菜は時々思うのだ。

 ――お母さんの、けち。

 結局、陽菜は母親の笑顔に遮られて、自分の父親について知る機会を失ってしまったのだから。
 巧に聞いても分からない紗枝は言っていた。
 本家とは縁を切られているし、取り合ってもくれないだろう。
 結局、自分は誰の子なのか――そのことを、多分自分は、一生知らずに生きていくことになるのだろう。陽菜にとってはそれだけが、やはり不満ではあった。

 ――紗枝が本家から勘当を受け。
 陽菜が巧と会えなくなったのは、それからしばらく経ってからのことである。



#1

 ふさがれた唇から、それでもそれと分かる嬉しげなため息が聞こえてくる。
 たまらなくなって巧は半脱ぎのブラウスに腕を差し込み、陽菜をかき抱いた。
 何もかも小ぶりな陽菜の身体は腕に抱くと、身体を重ねるというより包み込んでいるというような印象がある。庇護欲と嗜虐心という矛盾した情動が巧の中でせめぎ合い、さらに大きくなっていく。自然、陽菜を抱く腕に力がこもる。
 きゅっと息をつまらせる気配。薄眼を開けると、陽菜の目がこちらを見ていて何かを懇願しているように見えた。
 何を――? 勿論、そんなの、考えるまでもない。
 熱く火照った身体を抱きしめ合い重ね合わせ、濡れそぼった陽菜の女の部分に自分の剛直を差し入れる。そうなれば、巧はもはや陽菜と一つの存在だ。彼女の望むことは巧の望むことである。
 ――もっと気持ち良くなりたい。
 だからもはや、何の気兼ねもなく巧は腰を動かし始めた。
 反応を見ながらだとか、まずはゆっくり刺激して快楽に慣らして行ったりだとか、そんな姑息な手管は必要ない。
 最初からラストスパートをかけて、陽菜を貪る。
 ずちゅ、ずちゅ、といつになく下品な水音が結合部から聞こえていた。
(……すごい)
 普段よりもひどい膣の濡れ様に、巧は少し驚いた。
 開けた場所ではないとはいえ屋外ですることに興奮を得ているのか。
 それともずっとキスをしたままで行われる行為に期待しているのか。
 おそらく、どっちもだろう。
 本当にこの子は、いやらしい。
「ん、んんっ、ん、っは、ん、むぅぅっ」
 陽菜は、ただ無心に、積極的に、巧の口内で舌を絡ませてきて、巧の唾液を嚥下する。身長差があるため、キスしたままの体勢だと、陽菜は常に見上げるように顔を上へ向けなければならない。必然的に、はだけられた胸元から首筋のラインが強調され、そのか弱さは同時に恐ろしく扇情的でもあった。
「ん。く。んんんっ」
 キスを繰り返すごとに、胸が熱くなっていく。
 心なしか、いじらしく蠢く陽菜の舌が甘くなったようにも感じられた。
 気のせいではないだろう。陽菜の気持ちが絡み合った唾液を通して伝わってきているのだ。甘くない筈がない。味蕾に染み込んでくる情欲の想いそのものを巧は無心になって求め続けた。
 陽菜の喜びを伝えるのは口ばかりではない。大の男の欲望をねじ込まれた聖域もまた、巧を受け入れることに最大限の快感を示していた。
(ああ……)
 いつもより格段に柔らかい肉感で欲望を包まれて、巧は陽菜と同じようにふさがれた口の中で喘ぎを漏らす。
 膣の具合が、普段と全然違う。
 関係を重ねて随分とたったものの、身体の大きさの違いのためか、未だ二人の身体の相性は良くない。ある程度陽菜も男の受け入れ方を分かって来たのか、最初のころに比べて硬さはなくなったものの、それでも肉体の感触だけを言うなら、陽菜のものは心地よいというより、巧にとって単にきついだけのものだ。
 絶頂の頃だけに限って、変な緊張が抜けるのか、遊び女顔負けのねちっこい柔らかさを持つようになるのだが――しかしなぜか今日は入れた傍から酷く柔らかい。
 狭いのは相変わらず。今だって最奥まで差し入れても、まだ巧の陰茎には余裕がある。それが悔しいとでも言うように、陽菜の膣は、もっと、もっとと巧をねだる。襞の一つ一つが別の生き物のように動き、自らの吐きだす愛液を巧になすりつけながら、既に満杯状態の自分の中にさらに巧を引き入れようと蠢いている。
 そうやって、巧の精液を、巧の快楽を、巧の気持ちを、全部絞り取ろうとしてくる。
「ん、ふあ、んんっ、ん! んん……っ! んく」
 細い腕が巧の背中にまわされ、きゅっと力が込められる。抽挿を一分も続ければ、陽菜の反応はますます甘くとろけたものになった。唾液を貪る喉の動きは更に情熱的になって、まるで舌にフェラチオをされているよう。
 たちまちのうちに、二人は互いの体液にまみれていく。
 重ね合わされた唇からは混ぜ合わされて泡になった唾液が漏れて陽菜の顎を、首筋を汚している。
 愛液は既に本気汁となっており、精液のように粘っこい、白く濁ったそれは少女のあどけない太股を伝って既に膝のあたりにまで達しようとしていた。
 どろどろ、だ。
 体液を垂れ流しながら、それを擦りつけ合い、なめ合い、飲み込み合い――はたから見ればひどく浅ましい行為に見えたに違いない。
 しかしそうであっても、唾液と、そして愛液から伝わってくるのは、酷く純粋な感情だった。
 濃い行為と濃い体液のおかげか、言葉として直接は伝わってこなくても、それは巧の中で明確に翻訳することが出来る。
 足りない。
 足りない。
 こんなんじゃ、全然足りない。
 だから、もっと。
 もっともっともっと、欲しい。
 膣で巧を抱きしめるだけでは足りない。
 自分の女としての部分は、巧を咥えこむには、あまりにも未発達で。未成熟で。
 巧を抱きしめるのには、自分の身体はこんなにも小さくて。
 だから、やれる事をすべてやりたい。
 そんなひたむきで、いじらしくて、まっすぐな気持ち。
 肉感ではなく精神の面から陽菜は巧の快楽を昂ぶらせる。
 これこそが、陽菜とのセックス。
 立ったままの状態、それも巧にされるがままの体勢で、それでも陽菜は腰を動かし始めた。
 控え目で恥ずかしげな動きだが、むしろ緩やかな動きであればこそ、膣内の微妙な動きの一つ一つが巧にはっきりと伝わって、巧の情欲を掻き立てていく。
「んく、ぅんんっ、っは、ぁぅ、んむ、んんんんっ」
 濃厚な淫液が空気に触れる。開けた場所だというのに、二人が抱き合うその空間にだけむせ返るほどの性臭を漂わせ始めていた。
(ああ……駄目だ)
 巧は絶望的にそう思った。
 勝てる筈がない。
 いじらしい陽菜の仕草。いやらしい陽菜の仕草。陽菜の汗の臭い。陽菜の欲情の匂い。
 一呼吸するごとにそれが鼻腔を通り、肺の中に目いっぱいしみ込んでいく。それを意識するや否や、下半身がかっと熱くなり、いても立ってもいられないような激しい情動が巧の股間に固まっていく。
 こんなのを嗅いで、まともでいられる筈がない。
 そうだ。足りない。巧だって足りる訳がない。
 もっと陽菜を。もっともっと、陽菜を。
「んんっ、んあ、あ、ふ、ぅんんんんっ」
 唇にふさがれた喘ぎ声が間断なく巧をさいなんでいる。
 ――ああ、本当に、駄目だ。
 とまれない。

 ――ごちゅん。

 ほとんど無意識のまま、巧は欲望のままに、渾身の力で自分自身を陽菜の奥へと突き込んでいた。
 遠慮会釈なしの一撃。収まりきらない筈の肉棒が子宮を押し上げ、撃ち込まれた腰の勢いによって陽菜の小さな身体がわずかに浮き上がる。
「ひう……っ」
 流石に悲鳴じみた声が陽菜から漏れるが、しかしそれさえも快楽によるものだと唾液と愛液が伝えてくる。
 陽菜は悦んでいる。
 嬉しがっている。
 だから止まらない。そもそももう、止まることなどできはしない。
 自分の欲するままに、もう一度。
 ゆっくりとなぶるような遅さで膣から陰茎を引き抜いていく。
 まだ中にいて欲しいとねだるように、奥へと引き込もうと蠢く膣の感触がいじらしい。キュンキュンと小刻みに震えるそのさまは陽菜の心情そのものだ。愛おしくてたまらなくなる。
 だから、こちらも最大限のお返し。
 目いっぱいまで確保したストロークを活かして、勢いをつけた腰を最奥まで叩きつける。

 ――ごちゅん。

「ひ……ぁぅぅっ」
 先ほどより更に大きな悲鳴。先ほどよりさらに大きな快感。
 突き込んで亀頭が陽菜の子宮口を押し上げる瞬間、無理をしてその全体が咥えこまれた巧の陰茎全体を、陽菜の膣がきゅっと絞り込んでくる。
 膣内に溜まりこんでいた愛液がぶちゅりと下品な音を立てて溢れだし、二人の空間をさらに濃い性臭で包んでいく。
「ん、んむ……んん……っ」
 キスをしながらの性交が気に入ったのか、それとも唇を離すという発想すら思い浮かばないのか。
 息苦しそうにしながらも陽菜はなお情熱的に舌を絡めてくる。巧を抱きしめる腕にはさらに力がこもり、どこにも逃すまいと、膣も、身体全体も、しがみ付いてくる。
 快楽に震えながらのそんな陽菜の仕草がたまらない。
 きゅっと、巧も腕に力を入れて陽菜を抱きしめる。
 抱きしめ、抱きしめられ、二人は互いの反応をから全体で貪っていく。
 重なり合った陰茎と膣のひくつき、じっとりと汗を描いた肌、体温。息遣い。舌の蠢き、視線。そこから感じられる二人の気持ち、そのもの。
 膣の動きはますます淫に蕩けたものになっていた。
 ぬるぬるとした襞の感触に気持ち良くなって巧のものがひくりと震えると、それに合わせるようにして陽菜もわずかにきゅっと膣をひくつかせ、締め付けてくる。そうしてより密着したことで巧のものを更に近くに感じて悦んで、更に濃い愛液が滲みでてくる。
 すごい。
 たまらない。
 きもちいい。
 だから。そう――もう一度。
 きつく抱きしめたままの体勢で――陽菜の身体を固定して、ゆっくりと腰を引き、そしてまた奥の奥まで一気に駆け抜ける。

 ――ごじゅん……ッ

「んむ、んんんっ、んんんんん――ッッ」
 今までよりさらに奥へと子宮口を押し上げられて、陽菜がひときわ大きく嬌声を上げる。
 甘い声を上げてくれたお礼に、今度は奥に突き入れたまま、腰を揺さぶって子宮口と鈴口を擦り合わせてやる。
「んんっ、ん! んんんっ、 む、ぅ、んん……っ」
 とんでもない。
 あくまで甘い陽菜の反応に、巧は内心驚嘆の声を上げた。
 膣の具合すら未成熟な陽菜の女の部分だが、だというのに子宮への刺激の味を覚えつつある。体格差のせいで、普通に抽挿をしても子宮を小突くような行為になっていたからなのかもしれないが――しかしそれにしてもこのセックスに対するちぐはぐな慣れぶりはどうだ。
 今まで関係を持った女性の中にはそれなりの好き者だっていたのだが、しかしポルチオの刺激はたいてい痛がられるだけで、積極的に好きだという者はいなかった。
 誰が彼女をここまでいやらしくしたのか。
 言うまでもない。
 巧だ。巧自身だ。
 巧が、陽菜の未熟な色香に溺れて。狂って。好き勝手に弄んだ末に。
 若干十四にしかならない少女を、こんなふうに変えてしまったのだ。
(……――っ)
 ぞくぞくする。
 そして、同時に思う。
 ――この娘はどこまで堕ちるのだろう?
 このまま、気の向くままに陽菜を犯して。犯して。いやらしいことをずっと彼女にし続けて。彼女の身体を貪って。貪って。貪り続けて。巧もまた貪られ続けて。
 そういていくことで、どこまで陽菜の女の部分は、巧好みのものになっていくのだろう。
 彼女は成長期だ。これから身長も伸び、胸や腰の肉づきもよくなって本格的に男を咥え込める準備が整って行く。その過程でずっとこうして巧の行為に「慣らして」行くとすれば。あるいは。
 膣の形も。抱き心地も。体臭も。喘ぎ方も。
 いずれは、そのすべては巧のための、巧のためだけのものになる――
(――は。はは)
 湧きあがってくるのは絶望的なまでに殺伐とした衝動だ。
 見てみたい。
 そうやって女として完成された陽菜を。巧のためだけに用意された肉体を、味わいたい。喰らい尽くしたい。
 そんな陽菜を、一刻も早く見てみたい。味わいたい。
 だから、急かされる様に、巧は腰を振って陽菜の女の子の部分を耕していく。
 ごちゅ。ごちゅ。ごちゅ。ごちゅ。
 ごじゅんっ
「ん、んんんっ、ぅ、んんっ」
 甘い香りと甘い声に全身を戦慄かせ陽菜を責め立てながら――しかし一方で巧は思うのだ。
(――俺は)
 どうして自分は、こんなふうになってしまったのだろう。
 今まで、ここまでセックスに積極的になったことなど、なかった。
 破壊衝動まで伴うほどに、深く熱く深く深く、女の身体というものを貪り味わいつくそうなどと、そんな風に考えたことなど、なかった。
 全ては陽菜と交わるようになってからだ。
 あるいは――この破滅的な衝動も、あるいは陽菜の気持ちに知らずのうちに呑まれてしまって、自分の中の何かが変質してしまった結果ではないのか。
 だとすれば――しかし。
 しかし、それが何だというのだ。
 そうだ。陽菜は巧と関係を持つようになってから、変わった。初心だった幼い少女が、幼い身体のまま、路地裏での情交をねだり、大人のペニスを受け入れて腰を動かし悦ぶような淫乱に変わってしまった。
 そして巧も、変わった。
 幼い少女との行為に味をしめて、幼いがゆえに奔放に性を求める少女を、いいように自分の好きなように弄んで、そしてその事自体に得難い興奮を覚えている――そんな外道へと堕ちてしまった。
 だが、それは、それだけのことではないのか?
 互いがそれでいいのなら、そんな関係だって、あるいは幸せの一つのあり方に過ぎないのではないか?
 ……ふと。目が合った。
 場違いな程に純粋な瞳が、巧をとらえている。
 何かを求めるその瞳。巧を求める、その瞳。
(――何で)
 自分はこんなにもこの少女に酷いことをしている。自分たちはこんなにも道に外れたことをしている。
 なのに何で、陽菜は、そんなにも嬉しそうな顔をしているのか。
 どうしてこんな――デートの時にすら見せなかった、満たされた笑顔を浮かべているのか。
 ああ。やはり。
 つまるところ。そうなのだ。
 どうしようもなく。逃げようもなく。
 二人の関係は、やはりセックスをしているときが一番「いい」のだ。
 絶望的に、巧はそんなことに気がついて。
 しかし、「だからこそ」、巧はいい気持ちになってしまう。
 湧きあがってくる喜びは、ひどく醜い。

 ――自分のこのペニスで、女の子を手篭めにした。
 ――手篭めにした上で、何度も何度も犯して、自分のちんこの虜にした。

 あさましい自己承認。独占欲が満たされる感覚。
 亀頭の先――陽菜の身体の奥にねじ込まれた、陽菜を孕ませる精を放つ鈴口が、子宮口とこすれ合い睦みあって、むず痒さに悲鳴を上げている。
 唇同士の絡み合いに負けず劣らず、子宮口と鈴口のキスも情熱的だ。
 精を今にも吐き出さんとパクつく鈴口を、子宮口が包み込み吸いついて一滴たりとも漏らすまいと愛してくる。
 限界が近い。
 射精の欲求はもう止まらない。

 ごちゅっ。ごちゅっ。ごちゅっ。ごちゅっ。

「んふ、んんんっ、んむっ んんんぅっ んんんッ!?」
 最後の瞬間に向けて、巧はさらに、自分勝手に陽菜へと腰を叩き込み続けた。


#2

 口がふさがれて満足に呼吸が出来ない。
 こちらの状態を分かっているくせに、いやむしろ判っているからこそ、そんな陽菜に無理を強いるように、身勝手に、激しく残酷に打ち込まれる熱く大きな塊。巧の欲望そのものに翻弄され、何もかも分からなくなって、奇妙に切ない感覚が子宮にどんどん蓄積していく。
 最高の気分だった。
 外でセックスをやっているという恥ずかしさなんてとっくに吹っ飛んでいる。
(たくみくん、たくみくんっ たくみくんっ)
 陽菜の意識にあるのは、巧だけだ。
 散り散りになっている意識を必死にかき集めて、巧を想う。巧を感じる。巧を求める。そのことだけに一生懸命になっている。
 巧の何もかもが愛おしかった。
 獣のように荒い息遣いも。時々唇から洩れる喘ぎ声も。浅ましく自分を求めるその腰の荒ぶりも。
 それはすべて、巧が陽菜に欲情している証だ。
 欲情して、膨れ上がった欲望をすべて陽菜に向けている証だ。
 セックスをしている、その瞬間だけ、陽菜は巧を独占できる。
 そして陽菜も、巧だけの存在になれる。
 巧のためだけの、存在になれる。
(……そうだよ)
 巧の欲望に膣肉ごとかき乱される意識の中で、その確信だけが明確に形になっている。
 巧と関係を持ったのは、まず何より独占欲にかられてのことだった。
 何せ陽菜は、巧と母が関係を持っていることを知っている。この目でその現場を見てしまっている。それは彼女にとって何よりのトラウマだ。だからこそ、他の女が踏み込んでしまっていた領域に自分も早く到達しなければ我慢がならなかった。自分の身体が女として出来あがっていないことなど百も承知で、誰も知られることがないようにと気を配っていた自分の体質を利用してまで、何とかして巧を「取り返そうと」した。
 そうして何度も身体を重ねるうち、自分の肉体が巧の性癖にだんだん適応していくうち、陽菜の中で全く別方向の欲求が生まれてきていた。
 ――巧くんのものに、なりたい。
 そうだ。巧を独占したいだけじゃない。
 それだけでは、陽菜は満たされない。
 巧に独占されたい――そう陽菜は考えるようになったのだ。
 唇も。髪の毛も。視線も。吐息も。唾液も。汗も。肌も。おまんこも。そして当然、人生そのものも。
 愛情や恋慕というより、それは背徳交じりのあさましい欲望だ。
 おそらくは巧と肌を重ねるうち、「開発」されたしまった雌の本能のようなものだろう。
 でも、だからこそなのか。その事を想像するとひどく胸が高鳴る自分を陽菜は自覚していた。
 十四歳で処女を捧げ、女として成長し、妊娠に適した身体になり――その過程で変化する自分の性器の感触を、ずっと巧に知ってもらうのだ。
 子供の時の自分から、だんだん、巧の性癖に、巧のペニスの形に合わせて完成されていくその変化を、性徴を、ずっと巧に知ってもらうのだ。
 そしてその暁に、巧専用となった性器に精子を注ぎこんで、何よりの独占の証に、孕ませてもらうのだ。
 ぞくぞくする。
 ぶわりと濃厚な愛液が、今までにない勢いで自分の膣に溢れてくるのが、陽菜には判った。
「んぅぅぅっ」
 相変わらず巧は容赦ない勢いで、杭打ちのように陽菜の中に欲望を打ち込んでくる。
 ずどん、ずどん、と衝撃が背筋を通って脳を直接揺さぶってくる。
 めまいがするほどのそれは、巧が陽菜を耕す音だ。
 ずどん、ずどん、ずどんっ
 陽菜を、「巧の女」に耕す音。
 痛みすら伴うその極悪な性運動は、しかしだからこそ陽菜にとって至福の悦楽。
 一突きごとに自分が変えられてしまっているような、そんな錯覚までして、胸が甘くなる。
 だからもっと突いて欲しい。
 もっと自分を、巧のものにして欲しい。
 もっと激しく、もっと早く、もっと情熱的に。
 そうすればきっと、陽菜はもっと巧のものになれるから。
 キスをしながら唾液を啜りあい、汗を擦りつけ、愛液でドロドロになる中で、そんな思いをめいっぱいに伝えていく。
 そして――
(ぁ……)
 激しい性運動の中、何故かその瞬間が来るのが、不思議と陽菜には判った。
 巧の荒い呼吸に切羽詰まったものが混じっている。
 陽菜の中を抉りまわす巧のものが、ひときわ膨らんで引くついている。
 子宮口に擦りつけられている鈴口が、ぴくぴくと小さく開閉を繰り返し、濃厚な先走りを噴き出している。

 しゃせいが、くる。

(――ああ)
 胸が締めつけられた。
 幸せなのに。幸せな筈なのに。息が苦しい。切ない。いてもたってもいられなくなる。涙腺から涙があふれる。辛くて、しんどくって、もうどうにかなってしまいそう。
 だって、一秒も待てない。
 早く精液が欲しい。
 巧が陽菜で気持ち良くなった証を、陽菜が巧を満足させられた証を、はやく子宮に叩きつけて欲しい。
 早く。
 早く早く。
 早く早く早く――!
「んむ、ん、んんっ ん、ちゅ、んんんんっ」
 だから、思いのたけを乗せて口づけをする。
 愛液を巧になすり付ける。
 言葉で伝える必要はない。
 そうすれば、陽菜は何よりも正直に巧に思いを伝えることができる。
 陽菜だけが、そうやって生の想いを伝えることができる――
「んぁ……っ」
 流石に息苦しさが限界だ。
 行為を始めてからほとんど重なりっぱなしだった唇同士が、離れた。
「あ、ぁ……だめぇっ」
 絶頂に耐えるだけの酸素を辛うじて吸い、陽菜は離れかかる巧の顔を追うようにして再び唇の粘膜を求める。
 せっかくの射精の瞬間なのだ。どうせならキスをしながら味わいたい。
 そして巧もそんな陽菜の我儘を受け入れてくれる。
 ひとつとなった口内で互いに舌を伸ばし合い、絡ませる。
 ずん、と下半身も、改めて最奥まで突き入れられた。
 ぎゅっと互いを抱きしめ合う。
 燃え上がるような熱気の中、迫りくる衝撃に耐えようとするかのように二人は身体を硬くして――
「……ん、」
 互いノ唇から、わずかに息が漏れる。
 そしてそこが、限界だった。

 ど くん。

 陽菜の腹の中で、あついなにかが、爆発した。
「ん、んんんっ!?」
 いつもより明らかに量が多い。
 密着した子宮口にそのまま叩きつけられる感覚に、陽菜は思わず身悶える。
 だから、それが陽菜の限界。
 子宮の奥に蓄積していた巧への思いと、昂ぶっていた快楽が、射精を引き金に爆発した。
「んんっ んんんんっ、んんっ、んんん――――ッッ!?」
 何度到達しても慣れることのない、幸せの瞬間。絶頂の感覚。
 もう何も見えない。視界が真っ白にはじけている。
 抱き合い、キスをしている巧の感覚すらも既に曖昧。
 何とかして巧をつなぎ止めようと腕に力を込め――そしてそんな中で、女性器の感覚だけはやけに明確だった。
 元から降り切っていた子宮口はさらに下がって鈴口に自らを押し付け、その入り口をぱくつかせて精液を咀嚼し嚥下している。

 くぽ、くぷ。くぷ。くぷ。

 精液を外に逃さないために、粘度の高い本気汁にまみれた小さな肉門が、収縮し開閉を繰り返して鈴口から直接精液を子を成す聖域に送り込んでいる。何故かそのねばっこい音が、聞こえた様な気がした。
(――あはは)
 心の中で、笑う。
 すこし、滑稽だ。
 十四歳になって間もない成長の遅い陽菜の身体は、まだ初潮を迎えていない。
 だというのに、もうセックスしている。セックスして、巧の射精に、こんなにも自分が孕むための反応を返している。
 あまつさえ膣はさらに柔らかく、激しく収縮し、巧のものを更に奥へと引きこみ、さらなる射精を促してさえいる。
 まだ陽菜の子宮には、卵子の一つもないというのに。
 そんな虚しい反応をしている自分が、でも誇らしくもあった。
 着実に自分は巧のものになりつつある。
 処女を捧げて。抱かれ続けて。女になって。
 身体も、初潮を迎えて。女になって。
 その暁には――
(はやく、孕ませてほしい、な……)
 そんな事を考えながら。
 腹の奥で爆発し続ける射精に胸を甘くして。
 陽菜の意識は白い深淵に落ちていった。


#3

 結局、何度絶頂しただろう。
 途中数回気絶してしまったため、もう正確に数えることもできない。
 巧も一度の射精では情欲は収まらなかったようで、明らかに三回分以上の量が腹の中に詰め込まれたのを陽菜は感じていた。
 既に二人の結合はとかれ、陽菜は地べたにへたり込み、背中を路地の壁に預けている。未だになにもする気も起きず、視線を無意味に中に放散させながら、荒い息を吐きつつ、快楽の余韻に時折身体を痙攣させたりしていた。
 巧も、そんな陽菜に覆いかぶさるようにして壁に手を付いている。
 表情は良く見えない。ただ彼も陽菜と同様に相当な無理をしていたのだろう、呼吸は荒いままだった。
「……陽菜ちゃん、大丈夫?」
「ん……うん……」
 息継ぎをしながら、辛うじて返事を返す。
 巧がようやく身体を持ち直して、労わるように陽菜の頭を撫でてきてくれた。
 幸せだ。
 本当にそう思う。
 大好きな巧と激しいセックスをして。大好きな巧に犯されて。
 それですべてが終わってからも、こうして労わりの行為を与えてくれる。
 もっともっと、えっちになろう。
 そうすればもっと陽菜は、幸せになれる。
 そう、思ったのだが――
「そっか。よかった」
「……?」
 とろりと蕩けた意識のまま、巧の言葉尻に違和感を覚える。ぼんやりながらも何とか頭を巧の方の向けると、そこに、奇妙な表情をした巧の顔があった。
「……」
 行為の後特有の、多幸感と倦怠感。どこかやり解けた様な顔。それはいい。だか、何だかそれだけではないような気がする。
「ごめん、ちょっと、やりすぎたかも」
「……たくみくん?」
「何か、気が大きくなりすぎたっていうのかな。ごめん」
 何だろう。
 優しい言葉だ。
 そんな巧の台詞に、嬉しさを感じている自分も、いない訳ではない。
 だけど、何だか、欲しい台詞と違う気がする。
「次からは、気を付けるから」
「……ぁ」
 唐突に。
 巧のその台詞で、陽菜は、気づいた。
 自分が一つ、大きな思い違いをしていた事に。
 全身を包み込んでいた多幸感が、音をたてて崩れ落ちてしまう。
「……陽菜ちゃん?」
 息も絶え絶えに、壁を頼りに立ち上がる。巧が手を貸してこようとするが、拒否。
 そのまま無言でポケットに入れてあったティッシュで汚れを拭い、サイドバッグから下着を取り出し身だしなみを整える。
「……あたし、先に帰る、ね」
 顔は、巧の方に向けられなかった。
 合わせる顔がない。
 ただ、困惑の息遣いが何故だか奇妙にはっきり分かった。
「ごめん、なさい」
 そういうのが精いっぱい。
 巧の制止を振り切って、陽菜はその場から逃げだした。


 いつの間にか、快晴だった空に暗雲が立ち込めている。
 この様子だとしばらくすれば雨が振るかもしれない。
 昼間なのにやけに薄暗い町中を、 涙が出そうになるのを必死にこらえ、陽菜は世の中も何もかもを振り切るようにして走っていく。脚を止めることはできない。きっと優しい巧は、何とかして陽菜に追い付こうと追いかけてきているだろうから。追手を巻く様にあちこちの交差点で複雑に曲がりながら、ただやみくもに逃げていく。
 ――さっきまであれだけ幸せな気分だったのに、今は最悪の気分だ。
「っう」
 無様だ。
 浮かれていた。
 一体何なのだろう、今まで自分のしてきたことは。
 今まで何で「そのこと」に気がつかなかったのだろう。本当に自分はバカで、子供で、愚鈍の極みだ。
(巧くん……)
 巧とセックスをするとき、今までも何度か違和感を覚えることがあった。
 行為をしない時の、普段の巧は、いつも陽菜を気遣ってくれている。それも過度に。
 腫れものを触るように、とまではいかないが、なるべく陽菜を傷付けないようにといつも気を張っているような印象があった。
 距離感を測りかねていたところもあるのだろう。それは巧らしい、不器用な優しさ故のことだと陽菜は考えていた。
 だというのに、行為の時にはひどく激しく陽菜を求めてくるのだ。
 まるで「この娘は自分のものだ」と宣言をしているような、荒く乱暴な行為。
 巧しか男性経験のない陽菜は今まで、セックスとはそういうものだと思っていた。
 そもそも人間の性質なんて言うものは一面的なものではない。性行為の時に見せる、彼本人の性格なのだろう、とも思っていた。
 普段の巧に幾分かの不満を抱いていたというのもあるのだろう。むしろそうやって乱暴に求められることに満足感を覚えていたため、一番ありそうな可能性に気がつかなかった。
 ――『次からは、気を付けるから』
 行為のあと、最後に放った巧の台詞を思い出す。
 そうだ。
 そうではないか。
 セックスをしていた時に彼が向けてきていたあの荒々しい行為。
 あれが、巧の望むセックスのやりかたではないではないとしたら。
 あれは、彼本来の性格によるものではなく、陽菜が望んで、体液の接触を通して、そう仕向けていたものなのではないのか。
 いや、そもそも、そうでない方がおかしいのだ。
 何せ今日、陽菜は、巧がやるつもりのない筈の野外セックスを、わざわざするようにとキスを使って仕向けたのだ。お膳立て程度の事でも粘膜の接触によって陽菜の望む方向へと巧の行動を捻じ曲げられるなら、より濃密な接触を伴う性行為で、どうしてそれがないと言い切れるだろう。
(あたし、は……)
 今まで、巧のそばに居たいがためにセックスをしてきた。
 過去に巧のそばにいた他の女に早く追いつくように。負けないように。
 何度も行為を繰り返すうち、身体も慣れてきて、セックスの快楽というものが何となくわかったような気がしていた。
 好きな男とひとつになれるということ。一緒に気持ち良くなって、心も身体も溶け合って行くような、究極の至福の瞬間。
 次第に陽菜は、行為の時の巧の、荒々しい表情をいちばん知っているのは自分だ――そう思うようにすらなっていた。
 だけど。もし。
 陽菜の悪い予感が当たっていたら。
 陽菜は、巧の身体を使って、自分自身の願望とセックスをしていただけだということになってしまう。
「ぅ、く」
 自分への嫌悪感に、吐き気を覚える。
 陽菜は、巧のことが好きだ。それだけは間違いない。
 幼いころから抱え続けてきた想いは、ずっと変わらず陽菜の胸の中にある。
 幾年かのブランクの後再会を果たして、ますます巧のことが好きになった。
 彼の立場からすれば複雑な立ち位置にならざるを得ないだろう厄介な陽菜という異分子と、ともに暮らすことを受け入れてくれた。多少のぎこちなさはあるものの、それでも陽菜と一緒に笑いあって生きていこうとしてくれている。
 その巧の優しさを、陽菜は愛さずにはいられない。
 だというのに、そんな最愛の相手を、陽菜は自慰の道具として使ったのだ。
 自分が酷く卑しく、汚らしい女に思えた。
「ぅ。ううっ」
 とうとう、涙があふれ出てくる。
 周囲の怪訝そうな視線を振り切りながら、陽菜はただ逃げ続けた。

#4

「あら、陽菜ちゃん?」
 どこをどう走ったのか。
 自分でもよくわからないまま逃げ続けて、息を切らせて立ち止まったところで、荒く上下する背中に声がかけられた。
「……」
 胸を抑えながら、何とか振り返る。
「……おばさん」
 声の主は、小太りの、どこかおっとりした印象のある中年女性だった。
 いかにも熟年の主婦といった印象で、余裕を感じさせる表情は何と言うか「年季の入った」というか「主婦の道のベテラン」といった趣がある。美人ではないが彼女のいる家庭はきっと円満なのだろう――思わずそう感じてしまうような温かさがあった。
 椎野政子――他ならぬ、巧の母である。
 あらためて周囲に視線を巡らしてみると、今陽菜がいる場所は、二人の住むマンションのすぐそばだった。やみくもに走っていたつもりだが、知らずのうちによく知る道を走り続けてしまっていたらしい。
「久しぶりねえ……どうかした?」
「……いえ、その」
 息を切らせている陽菜の様子を心配してくれているのが、何だか、気まずい。
 事情が事情のために含みのある視線を投げかけてくる親族も多い中で、政子は数少ない「信頼できる大人」である。
 巧と陽菜が一緒に暮らしていく上で、政子には何度となく助けてもらっている。
 料理のあれこれ、彼の好みの味付けなんかを教えてもらったこともあった。あるいは陽菜の中にある巧への思いにも気付かれているかもしれない。
 しかし流石に彼と肌を重ねた後にその母親に会うというのは、やはりうしろめたさを感じてしまう。
「大丈夫、です……おひさしぶり、です」
「そう? 何かあったらすぐにおばさんに言いなさいね。助けになるから」
 どう見ても平気じゃなさそうな陽菜の様子に食いつくことなく、意外なほどあっさり政子は引っ込んでくれた。
 歳の離れた男女が暮らしていれば当然それなりの軋轢は生まれるもの。それは、ならば基本的には本人たちが解決すべきであって、必要がなければ干渉はしない――というのが政子の基本方針であるらしい。無暗に首を突っ込まないでいてくれる気遣いが今はありがたかった。
「ああ、そうそう、実は巧と、陽菜ちゃんに渡したいものがあってね」
「渡したい、もの?」
「そう。郵便でもいいのだけど。ものがものだから、直接渡した方がいいと思ってねえ。たまたまこの近くに来る用事があったから、せっかくだから届けようと思って」
 おっとりとそういいながら、政子がサイドバッグから取り出したのは、一枚の封筒だった。
 そっけない郵便用のそれには、見覚えのある筆致で「椎野巧様へ」と宛名が見える。
「それ……」
「ええ」
 さっと顔色が変わった陽菜に、政子は頷いて見せた。
「預かっていた荷物の整理をしたら出てきて。たぶん、紗枝ちゃんの、遺言状」
 いいながら、封筒を手渡してくる。
 受け取る時、指が若干震えているのを陽菜は自覚していた。
「おかあ、さん、の……」
 大好きな母が、大好きな巧に宛てた、最後の手紙。
 八年間、ずっと巧と連絡すら取ろうとしなかった母が、死を前にして、何か思うところがあって、書かずにはいられなかった、言葉。
「内容は、みてないから。何書かれているかは分からないけれど。きっと紗枝ちゃんにとって、とても大切なことを書いていたと思うの」
「……はい」
「ちゃんと、巧としっかり受け止めてあげてね」
「……」
 神妙な面持ちで頷く陽菜を見て、政子は満足そうに頷いた。
「出来ればこのままお茶でもしたかったけれど。今日はまだ用事があるからこれで失礼するわね。また時間があったらお茶でもしましょう」
「はい」
 封筒に見とれたまま頷いて、陽菜は思い直して改めて政子を見た。
「ありがとう、ございます」
「うん」
 そのままいそいそと政子は姿を消してしまった。
 確か彼女は華道の師匠をやっていると聞いたことがある。知り合いの家の生け花をしてあげたりということもしょっちゅうやっているらしいので、おそらくその手の用事だったのだろう。
 少し躊躇して、陽菜はまずマンションに戻ることにした。
 何となく、の行動だ。
 出来れば今は、巧と顔を合わせたくない。
 だけど、ずっとそうして避け続ける訳にもいかない。
 あるいはこの紗枝の遺言状が、巧と改めて話し合うきっかけになるかもしれない――そんな期待もあったかもしれない。
 でも――
「…………」
 鍵を開けて。扉を開けて。玄関に入って。靴を脱いで。
 改めて、手の中にある封筒を見る。
『椎野巧様へ』――そう、母の字で書かれた封筒。
 陽菜の中でじくじくと湧いてくるこの釈然としない思いは、やはり、嫉妬、なのだろう。
 紗枝の子としての嫉妬。
 巧の女としての嫉妬。
 自分にはこんなものを残してくれなかったのに、どうして巧には。
 八年間、巧とは会うことも、電話をかけることもしなかったくせに、どうして今になって。
 巧との一件があって。やはり陽菜は不安定になっていたのだろう。
 いつもの彼女ならそんなことはしなかったに違いない。
 いけない、と思いつつ、封に指がかかる。
 丁寧にのりづけされたそれはしかしあっさりと破れ、中から数枚の便箋が見えた。
 震える手で抜き取り、玄関に立ちっぱなしで、その内容を確認する。
「……」
 そして――
「……あたし、は」
 紗枝の言葉が、はらりと舞いながら床に落ちた。

#5

 陽菜との情事で体力を使い果たしてしまったらしい。 
 慌てて追いかけたが、足がもつれて上手く動かず、早々に陽菜の姿を見失ってしまった。
「……陽菜ちゃん」
 早く陽菜を見つけないと。
 行為の後、逃げる直前に覗かせていた寂しそうな表情を思い出すと、居ても立っても居られない。
 自分が傷つけてしまったのなら、なおさらだ。
 陽菜は、繊細な女の子だ。
 どこかぼんやりとした印象を持つ外面とは裏腹に、胸の内では驚くほどいろんなことを考えている。自分や相手のちょっとした挙動に気を止め、いちいちこだわりを持って受け止め咀嚼する。
 どの巧の失言で彼女が傷ついてしまったか、おおよそ見当は付いているが、今は何より面と向かって話すべきだ。
 おそらく、そうやって互いの気持ちを自分の都合で推し量り続けた結果が今の状況なのだから。
 唇をかむ。
 やはりあんな場所でセックスなどすべきではなかった。
 あんなところで行為に及べば、ただでさえ巧の中にある矛盾が浮き彫りになる。おそらくそこのところを陽菜は敏感に感じ取ってしまったのだろう。
 面倒な話だ。
 陽菜を大切にしたい。
 陽菜を滅茶苦茶にしたい。
 一見つじつまの合わないそれらの感情の根っこは、しかし同じなのに。
(くそ……)
 陽菜のキスでの誘惑を拒否することだって、出来た筈なのだ。ずっと粘膜で触れ合っているわけではないのだから。
 野外セックスに及んでしまったのは、他ならぬ巧の意思だ。
 巧も、期待していた。
 デートをして。互いに寄り添って。
 そして、最終的に、二人きりで熱く交わることを。
 だから、流された。
 でもだからと言って何でもしていい訳ではないはずだ。
 愛しいと思うからこそ、やはり巧は陽菜を守らなければならない。
 この上なく陽菜を愛するために。
 この上なく陽菜を滅茶苦茶にするために。
 ――ケータイで何度か呼び出してみたが一向に繋がらない。
 今は会いたくないということだろう。
 だがそういうわけにはいかない。してやらない。
「……見つからない、か」
 だが、闇雲に走り回っても、広い街の中で見つけられるものではない。
 三十分ほど探しまわった後、一旦巧はマンションに戻ることにした。
 もしかしたら陽菜も戻っているかもしれない――そんな期待も若干あってのことである。
 だが、やはり世の中はそんなに易しくは出来ていない。
「……やっぱりいないか」
 鍵を開けて扉を開け、陽菜を呼ぶ。部屋に入り、陽菜を呼ぶ。小柄な女の子が隠れそうなとこをを手当たり次第にひっくり返す。
 やはりそれでも陽菜の姿は見当たらなかった。
 ため息をひとつつき、気持ちを切り替える。
 ならば今すぐここを出てまた陽菜を探しに走り回るべきだ。
 手掛かりなどどこにもありはしないが、見れば窓の外がやけに暗くなっている。今にも雨が降り出しそうだ。陽菜のあの様子では傘も持っていないだろうし手に入れる余裕もないだろう。
 早く追いつかなければ、風邪をひかせてしまう。
「――ん」
 部屋を出ようというとき、玄関に申し訳程度にしつらえられた靴箱の上に放り出された封筒が目にとまった。
 思わず、立ち止まる。息をのむ。
 どこか見たような筆跡で、「椎野巧様へ」とだけ書かれた封筒。
 一瞬混乱し、そしてすぐにそれが何かに思い至る。
「これ……」
 鳥肌が、たった。
 巧の初恋の相手。椎野紗枝の、遺言。
 見れば、封が切られている。
 やはり一度、入れ違いの形で陽菜はマンションに戻っていたらしい。
(陽菜ちゃんの行き先の、手掛かりがあるかもしれないし)
 ひどく滑稽な言い訳を胸の内でしながら、巧は震える手で封筒と取り、中身を取り出した。
 飾り気のない便箋には、紗枝らしい、優しい字体がズラリと並んでいる。
 食い入るように読む。
 勝手なもので、読み始めれば止まれなかった。一刻も早く部屋を出て陽菜を探さなければならないのに。
 そして――
「なんだ……これ」
 読み終わって。
 巧の口から、茫然とした声が、漏れた。
 思い違いのないように、もう一度、最後の文面だけ読み直す。
 理解、できない。
 そこには、こう書かれていた。
 

 ――ごめんなさい、巧ちゃん。
   今まで黙っていて、ごめんなさい。
   ずっと裏切っていて、ごめんなさい。
   ずっと黙っているつもりだったけれど、でも、やっぱり、私は陽菜の母だったようです。
   陽菜の父親は、巧ちゃん、です。
   私が、巧ちゃんの知らない間に巧ちゃんに悪戯して、そしてできた、巧ちゃんと私の子供です。
   今更のようなお願いをして、ごめんなさい。押しつけるような形になって、ごめんなさい。
   陽菜を、私たちの娘を、どうか、大切に、大切に、育ててください――


 なんだ、これ。


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