革命軍の支部はほとんどの場合、人が大勢集まっても不自然でない場所に構えてある。バルティゴのような無人島に一から造り上げてしまう方が稀で、本部のように基地としての役割を持つのでもなければ、多大な資財と時間を工面するだけ非効率だからである。
南の海でも三指に入り、大勢の貴族を要する大国の玄関に当たる港町の、ごく普通に立ち並ぶ中心街の一角の、年中無休という触れ込みの本の店が、裏で革命の火をこっそり暖めている犯罪組織の隠れ蓑だなどと、一般市民は普通に生活しているからこそ想像だにしない。
立ち読み可、座り読み可。椅子まで置かれており、儲ける気があるのか疑わしい本屋として有名で、ただ読みしたい人間がいつも多く詰め掛けている。故にどこの誰が何人出入りしようと気にされない。
擬装用――だけでなく支部長の趣味も介在したが、蓄えられた多くの書物は革命軍の資料を隠すにも打って付けだ。物資の補給状況や各地の情勢など、本の形に記された機密情報は他の多すぎる書物に埋もれ、搬入するのも船に積み込むのも容易であった。
しかし世界政府の地道な諜報活動により、十数年もの間隠匿されていた支部はとうとう白日の下に引きずり出された。海軍の動向を悟った時には全てが遅きに失して、海は五隻の軍船で塞がれ、陸は検問と包囲が敷かれ、蟻の這い出る隙間もない。
進退窮まった支部長は血気盛んな部下が無謀な突撃に逸るのを抑えながら、防諜用の電伝虫を併用し青い顔でバルティゴへと指示を仰いだのである。
~pm.3:24~
「状況を説明する。敵は軍艦五隻、封鎖の人員を除く実働兵数は概算で三千前後。中将が最低でも一人はいると推定される。見た限りの敵の装備は拠点制圧用の重火力武装。陸戦を見据えた迫撃砲も多数確認されている。今はまだ市民の避難誘導を優先し本格的な攻撃には出ていない様子だが、威嚇に一発撃ち込まれたせいでメンバーの動揺が激しい。今は支部長が抑えてくれているが、それもいつまでもつか分からん。また支部の人員はほとんどが非戦闘員だ。何人かは避難民に混じり脱出したが、支部長に近い人間は顔が割れていると想定しておくべきだろう。とは言え、それもどの程度か不明だ。実質五十名余りの人間を隠れて救出するのも無理がある。――つまり、正面突破しか道はない」
何か質問は? とドラゴンは目を向ける。厳しい視線はドラゴンの私室ではなく、作戦会議用の司令室に集う面々を見渡した。
情報官、幹部陣、準幹部クラスの人間。それらに混じって、場違いな子供の姿が三つ。
現地の街路図が広げられた大テーブルを挟み、鳶色の少女はドラゴンの言葉になど興味もない様子で座っていた。だが退屈しているのとは違う。人目に委縮しているのでもない。猛禽のように鋭い瞳はじっと一点に向けられて揺らがず、他の人間とは異なる種類の警戒心を剥き出しにしている。
そこから椅子を一個挟んで、黒髪の少女が神妙に座っている。男たちが溜息を漏らすほどに整った面差しはドラゴンを向き、しっかり話を聞いているようだが、片手は隣にある赤い裾をぎゅっと握って離さない。いつ走り出すか不明な暴れ馬の手綱を必死になって抑えているような、危ういほどの緊張感が黒曜石の瞳に漂っていた。
そして少女二人に挟まれ、警戒と緊張の原因となっている赤紫の少年はと言うと。
「……………………………………………………」
上を、向いている。茫、と眠たげに。鮮血色の上着と敗血色の半袴を着て、心ここになく天井を見つめ、あるいはその向こう側に蒼穹を見据え、静か過ぎるほど静然とそこに座っていた。
ドラゴンがファンを見る。全ての視線が集中する。少年は揺らがない。仰ぐ焦点はずれない。微動だにせず、呼吸をしているのかさえ怪しい。痺れを切らしたドラゴンが身を乗り出す。
「ファン。お前に、言ってるんだが」
「……………………」
つ、と。瞳が落ちた。視線の向く先に、ドラゴン――この場で最大の強者を、赤紫の瞳が映した――刹那。
「「「っっっ…………!!」」」
部屋の空気が、ざぁっと冷えた。
エルの翼がぶわっと羽毛の先まで膨らみ、裾を握ったラナの手に信じられないほどの力が籠もる。
濃密な、少年を源泉とする触れられそうな殺気が、無機物さえ侵しそうなレベルで全員の肌を浸潤した。余りにも死を予感させる、さながら死神の手に撫でられたような怖気に、気の弱い情報官の一人が蒼い顔で崩れ落ち、慌てた仲間が介抱するも既に意識はなく、部屋の外へ運ばれていく。
沈黙――沈むような淵黙が澱と降り積もる。
この場の誰よりも幼い少年に、誰よりも猜疑と不審と警鐘が向けられる。
それは眠たげでありながら刺々しく、無表情でありながら苛烈に過ぎた、凶暴な殺意に濡れる赤紫。
だが、少年は動かない。動けない。
机に投げ出された両腕。育ちきらない細さ、未成熟な華奢、だのに殺戮を是とする両の手首に、石造りの堅牢な枷。
海楼石。
能力者を封殺する、手錠。
それがなければ――きっと、“また”、少年は後も先もなく暴れ出していただろう。
「……」
しかし、こう見えて存外に聡く、座学も優秀だと知るドラゴンは、未だ刺さるような殺意の奔流に安堵した。刺さる程度ならまだ言葉が通じる状態だと、否応なく肌で知った経験則がそう教える。念のため黒髪の少女にも目線で確認を取れば、硬い表情だったが、今なら大丈夫と言うようにこくこく頷かれた。
ふぅ、と安堵を吐息に変え、心持ち表情を緩め、ドラゴンはテーブルに肘を付き、胸の前で指を組み合わせる。
「もう一度聞くぞ。質問はあるか? ……なければ俺の、俺たちの頼みを、聞いてほしい」
「…………頼み?」
薄い唇が開き、幽かな声を放った。だが不思議と、聞き逃せない響きを持つ。音は波である。声は音である。鼓膜をすり抜けて意識にまで届きそうな、能力を封じられようと発揮される、それはファン・イルマフィの特質なのかもしれない。
「現状は話した通りだ。近くの海域から足の速い脱出艇を送ることはできる。……が、包囲を破るための戦力がない。仮に隙を突いて救助に成功し、包囲の外に出たとしても、今度は追撃を受ける。五十四人の人間が乗り込めばそれだけ船足も落ちる。逃げるだけでは、絶対に振り払えん」
「…………」
「だがお前なら――お前の能力なら、最短で半月の航路も一瞬で移動できる。陽動も、封鎖の突破も、お前なら無理なくやってのけるはずだ。そのぐらいの力は見込んでいる。機転も利く方だ。……何より、ファン。お前の透過能力と移動能力なら、恐らくはどんな窮地からでも、生還できる」
依然として殺気が収まる気配はない。怒りにせよ悲しみにせよ、そして殺意にせよ、一つの情動をこれほど長く保ち続けられるのは既に才能と言えた。普通は感情にも波があるはずなのだ。しかし放出され続ける殺気を、もし、“覇気”に流用できたならば――
「…………くふ」
と。
ぞわり、と。
周囲に怖気をもたらし、少年が嗤った。
ドラゴンでさえ数カ月ぶりに見る、仄暗い幽かな笑み。
「…………赤く、するよ?」
「……どの程度だ」
「“全部”。…………街、一個ぐらい」
「……」
ラナに確認を取るまでもない。やると言えば、ファンは本気でやる。
ドラゴンは指を組み直した。
「殺しすぎるな――と、前に言ったはずだが。大体、殺さずとも済ます方法はある」
「嫌」
ぷい、とファンはそっぽを向く。嫌、と来た。そこに論理はない。あるのは単純極まる感情だ。故に翻意させるのは難しい。かと言って街一つなど容認できるはずもなく、ドラゴンは眉間にしわを寄せた。
これが、理由――ファン・イルマフィを易々とは送り込めない、致命的な、理由。少年に言質を取らせたが最後、いやそもそも殺さないと確約させなければ何を仕出かすか予測は全く不能。無口な分、やると言えばやる、やらないと言えばやらないのがファンである。……“人喰い”の時は幼馴染の少女を傷つけられていたため、例外にカウントされるだろうが、しかし問題を起こさないなんて一言も言ってない、と反省文にあった時は問答無用で書き直しを命じたものだ。
アイアンクロー如きで抑止になっていたあの頃が懐かしい。胸の奥でドラゴンは溜息する。もう一つ、万が一の時にファンを止められる人材の欠如が不安要素とも言えるが、こればかりはどうにもならなかった。世の中ままならないものである。
「……あの」
交渉の余地なく、息詰まる空気に緊張の面持ちで、ラナが手を挙げた。
「こんな偉い人が集まってる場所で、発言させてもらうのも恐縮なんですけど……それに、ちょっとファンに聞きたいことがあるだけで」
「いや、ファンの取扱いはラナが一番だ。言ってみろ」
「…………危険物、扱い」
不服そうにファンが呟くも、取り合う人間はいなかった。唯一隣に座る黒髪の少女が微妙な顔をしたのみである。鳶色の少女はそもそも議題に興味がなく、ファンの殺気が薄れ始めた段階で退屈気に毛繕いを始めていた。
ラナは数秒、言い辛そうに指をもじつかせ、意を決して赤紫の少年に身体ごと向き直る。
「えっとね、ファン。……ファンは、人助けするの、嫌?」
「――――――――」
一瞬の出来事だった。ぞっ、と背筋が粟立つほどの荒涼とした寒気が室内を席巻し、ファンが椅子から立ち上がり手枷の嵌まった両腕を振り上げ、凝然と目を瞠ったドラゴンが割り込む暇もなく、凍えるような赤紫の瞳が重量のまま石枷を少女に向かって振り下ろし―――それが忽然と抜き放たれたトンファーと衝突し硬質な悲鳴を奏で、直後猛禽の速さで翻った五指が少年の襟首を鷲掴んだかと思えば、有無を言わさぬ膂力で少年を背中からテーブルに引き倒した。
沈黙。――皆、唖然。
「生きてるか、小娘」
「……ちょっと腕が痺れてるぐらい。ありがとエル」
礼を言って黒髪の少女が少年を見る。だが周囲の意識が集中する先は、早くもベルトにトンファーを納めた少女である。少年の激発をまるで予期していたように平然と防いだ手際に、周りの目が変わった。噂は噂と、態度を保留していた者たちが噂に一定の真実性を見出した。
“常識の鬼姫”――何も語るだけが常識ではない。襲いかかられたら、身を守る。“例え恋人だろうといつ如何なる時に如何なる理由で錯乱するか分からないから”、少女は常に備えているだけである。ファンの恋人なんだからこれくらい当然、とラナは“常識的”に思っている。
それが果たして常識の範疇なのか非常識に分類されるか。向けられる視線の意味に気付かないまま、ラナは恋人の傍に立つ。
「……ファン」
打ちつけた背中に呼吸が詰まり、幽かに歪んだ赤紫の瞳が無秩序な殺意を宿す。だがそれ以上反撃できないようエルに手足を押さえられ、殺意は具象せず幽玄に留まる。
ラナは自分に向けられる視線には鈍かったが、自分の頭上を通り越して行われる無言のやり取りは肌で察した。ドラゴンと革命軍幹部陣が、ファンに作戦を任せるべきか否か意見を戦わせている。声にならないのは、まだ少し見守る余裕があるからだ。
小さく深呼吸し、少年と囁くほどの距離で目を合わせた。悶えるような殺意が皮膚に喉に肺に潜り込む。
――けど、
「悶えてるのは……ファンだよね」
「…………っ」
赤紫の瞳が揺らいだ。ラナは恋人の、子供らしく柔らかい髪を撫でる。手負いの獣に、優しく語りかけるような。
「ちゃんと、分かってるよ。誰が分からなくても、私は分かるよ」
「っ…………」
「でも一つだけ、教えて。……どうしてファンは、人を赤くしたいの?」
それは。
それは誰もが胸に抱き、聞けなかったことだ。
そして誰もが疑問視しながら、少年の性情に確たる理由を求めず各々が勝手に納得していたことだ。狂ってるから、殺したがりだから、殺人に快楽を覚えているから。そう勝手に理屈付けていた。
一度として、ファンが自らその理由を語ったことがないにも関わらず。
「答えにくいなら、これだけ教えて。ファンは、人を赤くしたいの? ……それとも、“赤くしなければならない”って思ってるの?」
「…………」
少年が、そっと顔を逸らした。
「…………分かって、もらえない。……ラナでも」
「そう、だね。……そうかも、しれない。でも私は、教えてほしいよ」
静寂は逡巡の時間だった。赤紫の瞳が迷い、彷徨う。
やがてぽつんと、皆が成り行きを見守る中で、少年が口を開く。
「ずっと…………感じてた。……息苦し、かった。村に、いた頃から、ずっと……」
「どういう、意味?」
言葉を探して、瞳が揺れる。
「……人も、世界も…………赤いのが、本当。あの夜に、やっと分かった……。村が、燃えて。みんな、赤くなって…………すっきりした」
「ぇ……?」
小さく、ラナが目を瞠った。少年は続ける。
「胸で、もやもやしてたのが…………消えた。みんな、ちゃんと赤くなって…………“正しい”状態に、なったから……」
「正、しい? 死んでるのが正しい……?」
こくん、と少年は頷く。
「生きてるのは、全部…………赤く、なり続けてる。……でも、変に赤いから…………ちゃんと、赤くしたく、なる」
「死生観、か?」
アゼリアが、思わずといった調子で口を挟んだ。
「もしや、少年には――“死に続けている”ように見えるのか? 私も、ラナ娘も、羽娘も、司令官殿も、この場にいる全員が、生きながらに死んでいるように見えるのか!?」
「ど、どういう意味何ですか?」
「どうもこうもそのままだろう! 人間は生きている限り死に向かって歩き続けている。永遠に生きられる生命などないのだから当然だ。生きることは緩慢な自殺だという言葉もある。だがこれは心理学と言うより、もはや、哲学……」
「…………赤いのに」
赤紫の瞳が、茫洋と、どことも知れぬ宙を見て。
だが不意に――くしゃりと、歪んだ。
「赤いのに、赤くないから………………気持ち、悪い」
だから殺せば、すっとする。殺し尽くせば楽になる。中途半端な赤を、鮮血に塗り直す。
「……そっか」
そんなはずはないのに、何だか今にも泣いてしまいそうで。少年の髪を、ラナは優しく撫で続けた。
思うところがないわけではない。本音を言えば、ラナも複雑な感情で揺れていた。
だけどようやく分かった。少年は別に、殺したいわけじゃないのだ。少年にとっての殺人は、目的ではなくただの手段。目の前にある気持ち悪いものをなくしたいから、奇麗にして、すっきりしたいから、赤くする。
そう、ファンは殺すなんて言葉は使わない。ファンは赤くするだけ。だから赤くしてしまう時、赤紫の少年はああも楽しそうで、嬉しそうで。赤くすることに意味があるのであって、いたぶるのも、嬲るのも、興味の外。
それでもまだ、疑問は残る。
「じゃあ、何で私とエルは赤くしないの?」
「………………いつか、する」
目を逸らしての台詞は言い訳めいて響く。だけど赤くしたい気持ちも本当なんだ、と少女は読み取り、仄かに目元を和ませる。
「いつかって、いつ? 今すぐ? 明日、明後日? 来週? それとも半年後?」
「…………知らない」
「赤くしたいけど、したくないんだよね」
「…………」
ファンの論理に従うなら、ラナもエルもとっくに赤くされてなければおかしい。だが二人とも、殺されかけたことはあっても結局生きている。
矛盾を衝かれて、少年が心底から黙りこくった。
それが一生懸命辻褄を合わせようとしている子供みたいで、ラナはくすりと笑う。
「今、赤くしたくないんだったら―――無理にしなくて、いいと思うよ」
「………………ぇ?」
そんな常識的で、当たり前で、自然な言葉に一瞬息を止めて、少年がラナを見上げる。
恋人の驚いた仕草にラナは微笑み、伸ばした指先で、意外とふにふにした頬っぺたをつつく。
「赤くするのも、しないのも。奇麗にするのも、しないのも。その時次第でいいと思う。こうしなきゃとか、変に決め付けたっていいことないし。ほら、どんなに美味しいお菓子でも、食べすぎたら見たくもなくなるのと一緒だよ。赤くしすぎたらきっと飽きて、疲れちゃうんじゃないかな。だから時々、気まぐれに赤くしないで、逆に赤を取り除いたりしても、ファンが見てる赤い世界とファンの行動は、全然矛盾しないんだよ」
「…………」
「私、好きなことして、楽しそうなファンが好き」
「…………」
「で、うじうじ鬱屈を溜め込んでるファンは嫌い」
「…………!」
ガーン、と珍しくショックを受けたような少年にくすくす笑い、ラナはそっと自分の胸に手を当てる。
「嫌いでも、私はファンの隣にいるよ? でも、私の気持ちと行動は、矛盾してるようでしてない。……もう、分かるよね」
「…………うん」
「ファンの感じてる気持ち悪さを、理解できるなんて言えないけど……いつでも、私にぶつけていいから。辛くなったら溜め込まないで、ちゃんと教えて」
「わ、私だっているぞ! さすがに、殺されてやるのは無理だが……け、喧嘩なら、殴り合いだったら付き合ってやる!」
「…………うん」
殺気が消える。赤紫の瞳に、いつもの眠たげな気配が戻る。
張り詰めていた部屋の空気が弛緩し、やれやれと、ドラゴンは深く椅子に座り直した。にこりと笑ったイナズマが進み出てニョキリと鋏を生やし、初めて見たエルがぎょっと目を瞠る。ファンを戒める枷がかちゃかちゃ解錠される。
「ふふふ果報者だな少年。両手に華で微笑ましいと羨んでみ」
ごん、と台詞の途中で投げつけられた海楼石が額に命中。ぐおぉ、と蹲るアゼリア。テーブルから降り、投げつけたファンはすっきりした表情でドラゴンに向き直る。
「…………電伝虫」
「行ってくれるのか」
「行っては、あげない。…………僕が、行きたいから、行くだけ」
「赤くするためにか」
「それは…………その時……考える」
「俺との殺しすぎない約束は?」
「守る」
「よし」
それからファンは、自分を好いてくれる少女たちを振り返る。
「…………じゃ、行ってくる」
「怪我、しないでね」
「次に喧嘩する時は私も行くからな」
ラナと、エルと、それぞれちょっとだけ目を合わせて、だが名残も惜しまずファンは戦場に視野を馳せる。
ドラゴンは防諜用の白電伝虫と共にある、もう一匹の電伝虫を通して事情を説明していた。
「ああそうだ。これから援軍を送る。いいか? 今から送る奴に決して命令はするな、お願いしろ。……ああ、部下じゃあない。恐らく今回限りの助っ人だが、いささか気難しくてな……」
「ファン君」
話が終わるのを待っていたら、イナズマが携えていたものを差し出した。
「これを。付けていた方がよいでしょう」
「…………お面?」
「いえ、仮面です。少なくとも今の段階で、ファン君の顔はできる限り広めない方がよいと判断しました」
「…………ん。分かった」
それを被る。すっぽり顔を覆い隠す形だが、ファンに呼吸がし辛いということはない。視界も許容できるレベル。耳の後ろで落ちないよう、きっちり紐を結ぶ。同時にドラゴンの話も終わり、電伝虫の受話器を手渡された。
「無事成功したら褒美をやる。何がいいか考えておけ」
「…………頑丈な、ナイフ」
「……それはお前の使い方が悪い。ああそれとだな――」
一つ、囁かれ、赤紫の瞳を瞬かせる。それから分かったと答え、ファンは受話器を耳に当てた。
ドラゴンが一歩下がる。ラナも、エルも、イナズマも、若干腫れた額を抑えるアゼリアも、その他大勢の革命軍一同も、少年に強く視線を注いだ。何が起こるか知っている者も、知らない者も、一様に。
そしてファンは、目を閉じ、
「“幽界…………独歩”」
呟いた少年の姿が、消える。がたんと空の受話器がテーブルにぶつかり、拾い上げたイナズマは、繋がった向こう側でどよめく声を聞いた。
薄く微笑し、通話を切った。
~pm.3:57~
その寸前、受話器を手にしていた支部長は不思議な声を耳にした。いや、音だったかもしれない。だが意識の奥まで響く、不思議としか言いようのない音程だった。
それを聞いたと思った瞬間、ふっ、と影が落ちた。
影は赤かった。血のように赤い上着と、死のように暗い膝下ズボンを穿いて、気が付けば現われていた。忽然と、脈絡なく、瞬きの隙間に入り込んだみたいな、そんな唐突さで出現した。まさしく降って湧いたとしか言いようのない登場に、支部長は思わず受話器を取り落とし椅子にへたり込む。
「……き、君が、ボスの言っていた援軍かね?」
「…………」
赤い影は答えない。ぐるりと部屋を見渡す。壁際は書物の納められた棚でびっしりと埋め尽くされ、数多の本に見下ろされる形で数人が立ち尽くしていた。それぞれの部門を束ねる、支部の下級幹部である。しかし彼らをも視線はすり抜け机上を滑り、無造作に転がっていた物をゆら、と手に取った。マッチ箱だ。
「…………これ」
「あ、ああ。私はタバコを吸わんのだがね、来客用に置いてあるのだ」
「…………借りる」
「構わないが、その、すまない。本当に君が援軍なのかね? ボスを疑うわけではないんだが……君は、子供だろう?」
戦えるのか。戦わせてよいのか。そんな支部長の気遣わしげな台詞に、赤い影はどことなく、笑うような気配を滲ませる。あくまで、気配だけ。実際に笑っているかは窺い知れない。
「…………船、は?」
「……脱出艇なら間もなく沖に到着する頃合いだとも」
いまいち不信感を拭い去れないまま、止む無く支部長は額の汗を拭きつつ説明に入る。
「内陸に逃げても人海戦術でいずれ見つかる。目指すべきはやはり海なのだ。しかし無論、政府の連中もそれは分かっている。だからこそ陸よりも海の包囲が厳しい」
「…………経路は」
「三千人がひしめくと言って想像が付くかね? ここを中心に海へ続く道は完全に押さえられている。逃げる途中で見つかったが最後、我々は蟻にたかられる死骸の気分を味わえるだろうとも」
打つ手がないのだ、と肩を落として締めくくり、支部長は悄然と項垂れた。
「こうなればもはや、ボスクラスの人間でないとどうにもならん……」
「…………そう?」
「違うかね? ボスにざっと聞いた限り、君は電伝虫の念波に“乗って”来たようだが……それならそれで、ボスを連れてきてほしかったとも。いや、無理だから君が一人で現れたのは承知してるがね。……すまない、年寄りの繰り言だ」
「…………」
赤い影がゆらりと踵を返す。爪先が廊下に向いているのを見て、支部長は呼び止める。
「どこに行くのかね。外は敵だらけ。いつ攻撃が始まってもおかしくない状況だ。せめて中にいるか……君だけでも、ボスの元に帰りなさい」
「朝は、これ呼ばわり。…………さっきは、危険物扱い」
「?」
「そして…………今度は、子供扱い?」
ぞくっ、と。何かが支部長の身体を走り抜けた。それが恐怖であると思い当たるまでに数秒を要した。
赤い、小柄な影が振り返る。その表情は見えない。隠されて。だが視線に籠もる、例えようのない寒々しさは、遮られることなく場を圧した。下級幹部の一人が腰を抜かし、青い顔で尻餅をつく。
「な、なん……何なんだね君はっ?」
「…………見て、分からない?」
くふ、と笑い声。開かれたドアに片手をかけ、小さく首を傾ける。
「危ない、危ない…………狐さん♪」
最後になぜか、上機嫌な声音で。ゆらりゆらゆら、ドアの陰。隠れて消える、狐面。
はっとなった支部長が慌ててその姿を追い廊下に飛び出るも、白い狐の面は残像さえ見せず、跡形もなく消えていた。廊下の先で焦慮にやつれた部下の顔が、訝しげに向けられるだけ。
「……化かされたか?」
そんな言葉が口を衝く。狐につままれたような気分で、部屋に取って返した。
その僅か数分後である。
状況が、大きく動いたのは。
~pm.4:05~
ゆらゆらとファンは歩む。破れかぶれの突撃に備える銃兵部隊を横目に、避難完了を告げる伝令の脇を抜け、白兵戦を見据えた突入部隊の横を通り、その指揮を執るらしく声を張り上げる中尉の顔を近くで眺め、更に後方の砲撃部隊まで誰に見咎められることなく進んだ。途中、摘み食い気分で何人か赤くしたくなったが、考え直す。
『――いいか? 能力を決して見破られず、作戦を遂行してみろ』
出がけにドラゴンが囁いた条件――と言うより、課題である。
無敵に近い能力を持つファンだが、弱点は他の能力者と共通する。水、海楼石、覇気。逆に言えばこれ以外の方法でファンを傷つける方法は皆無なのだが、しかしどんな能力であろうと知られれば対処を考えられ、処置なしと言えども心構えの有無は生死に直結する。
故に能力を知られることなく脱出させてみろ――と、ドラゴンは言ったのである。
「…………課題、難題」
眠たげに呟き、ファンはゆらりと砲兵の一人に歩み寄る。
線の細い男だ。不安げに前方を見つめる男は足元に樽を置いていた。大人が両手で抱えられるほどの大きさ。ファンの手にはちょっと大きい。だけどよいしょ、と持ち上げればファンの姿共々、樽は跡形もなく幽玄に消える。
男が気付き、同僚の兵士にどこに行った!? と慌てふためく傍ら、別の男から束ねられた紐を失敬する。それもまた気付かれ――大事な仕事道具が消え失せたのだからさすがに気付く――騒ぎが少しだけ大きくなるも、既に関心はドラゴンの条件をいかに達成すべきかに向けられていた。
ファンは紐の一本を樽にすり抜けて突き刺し、ゆらゆらと来た道を戻る。
そして適当な建物の中から、わざわざ閂を外して扉を開け、突入部隊の前にてくてく姿を現した。
~pm.4:08~
海軍中尉ボロッツォは目を疑った。避難が終わったはずの建物から何でまた子供が出てくるのだ? と。
しかも子供はなぜか仮装カーニバルで見るような白狐の面をして、荷物らしい樽を一生懸命運んでくる。無防備に姿を晒した時点で敵とは思えず、仕方なくボロッツォは部隊を停止させた。
「あー、そこな少年? 少女? とにかく君! そこは危険だ、こっちに!」
叫ぶと、子供はピタリと足を止めた。面の奥にじーっと窺うような気配がある。
「……中尉、中尉の顔が怖いせいで来たがらない感じですよ」
「そそそんな馬鹿な!? 私は孤児院への視察でも子供たちに泣いて喜ばれて、海兵ごっこではやられ役になって遊んでるんだぞ!」
「……それ、本気で泣かれて本気でやっつけられてるんじゃないんですか?」
「…………え、ええいとにかく君! 怖くないからこっちに来なさい! 私じゃなくこっちの部下が後ろまで連れて行く!」
その呼びかけが功を奏したのか否か、数秒の沈黙を挟み子供はてくてく歩き出した。
ボロッツォがほっと安堵するのも束の間、副官が訝しげに目を側める。
「中尉、あの子の持ってる樽、何だか見覚えがあるんですが」
「うむ? 言われてみれば確かに。……はて、私の記憶が確かなら、あれは昔砲撃部隊で一等兵をやっていた頃に見た……」
そこでボロッツォは沈黙する。副官も黙る。
狐面の子供が歩きながらポケットに片手を突っ込み、マッチ箱を取り出していた。肘の内側で樽を挟んで支え、手首から先だけを使って器用にシュッと擦る。ボッと火が付く。
ボロッツォは顔中にびっしりと冷や汗を浮かべた。副官の表情も引き攣った。樽の表面に書かれた文字が見えた。
【DANGER:火気厳禁】
「まっ……まま待て待て待て早まるな――っ!!」
「…………?」
何で? 待つわけないじゃん。とばかりに首を傾げた狐面が、ボロッツォを無視して一切の躊躇も見せずマッチを動かした。
シュボッと致命的な音がして―――“火薬樽”の導火線に火が付いた。
「ばっ、馬鹿ですか――っ!?」
「たた退避っ! 退避ぃ!! 下がれっ、下がれ下がれ爆発するぞ――!?」
うわぁああああ! と我先に逃げ出す突入部隊。必然、先頭にいたボロッツォと副官は最後尾。
ジジジジ、と導火線の燃えるカウントダウン的な音はしかし遠ざからず、必死で走る副官が首だけ振り返ると、
「――ちゅ、ちゅちゅ中尉! 追って来ますっ、あの子供爆弾抱えたままたったか走ってきますぅぅぅっ?!」
「いいから走れ死ぬ気で走れ死ぬまで走れ――っ!!」
ジジジジジジジジジ……。
~pm.4:10~
中将は軍艦の上にいた。小さな城ほどもある軍艦を並べただけで、半端な海賊は抵抗の意思をなくす。莫大な金と権力を背景に圧倒的な威容を誇る本部の軍艦。それが五隻。船の数だけ見れば国家級戦力と呼ばれるバスターコールの半分であるが、裏を返せば国家の半分と渡り合えるほどの兵をその海域に揃えたことになる。
中将に油断はなかった。それどころか、臆病とそしられるほどの慎重さをもって万遍無く兵を配し、市民を逃がし、万全を期した。包囲開始から攻撃まで大きく時間がかかったのはそのためである
故に、最初は事故だと思った。
大砲を幾つも同時にぶち込んだような爆発が突如天を焦がし、びりびりと大気が身を捩らせた。
「何事だ」
「はっ、第二狙撃隊から報告が入りました。革命軍のメンバーと思われる人間が火薬樽を抱え特攻、自爆したとのことです」
「自爆だと?」
「結果、突入部隊が爆発に巻き込まれ、指揮を取るボロッツォ中尉は生死不明。現在死傷者の確認を急いでおります」
「……」
腑に落ちない。中将は眉をひそめる。
世界最悪の犯罪者、ドラゴンを首魁とする革命軍はその理想故に犠牲を好まない。政府を打倒し国家を転覆させるのは、彼らなりに悪政を正し、市民を救うためである。そしてその市民には、革命を行う“彼ら自身”も含まれるのだ。
掲げる正義が異なる以上相容れることはないが、それでも中将は彼らの行動に一貫する目的意識の高さは評価していた。その手段を認めるわけにはいかずとも、人々を救うという理想だけは共感せざるを得なかった。
だからこそ、腑に落ちない――妙なのだ。進退窮まったとして、絶海の監獄送りが確定したとして、自爆という革命の礎にすらならない一手を、あの革命家共が打つだろうか……?
だが思索は長く続かなかった。突入部隊とは全くの反対側にて、再び同種の爆炎が天を焦がした。
「……また自爆か?」
「は、はっ! 第四狙撃隊からです。混乱が見られますが、同様の火薬樽を持っていたと――」
その報告を遮る形で三度爆音が轟き渡り、もはや猶予ならず舌打ちした中将はじかに通話を繋ぐ。
「全部隊、厳戒態勢。後退しつつ包囲の輪を広げ、敵の自爆に備えよ。繰り返す、敵は自爆戦術に打って出た。部隊の損失を最小限に防ぐことを第一とせよ」
《ザ……ほ、報告……こちら第七砲げ…………ザザッ》
各部隊から鮮明な応答が返る中、一つだけノイズ混じりの通信があった。中将は片目を眇め、訝しげに陸を見やる。喉奥から妙な感覚が競り上がろうとしていた。この距離で、青空の下で、こうも通信に影響が出るなど考えにくい。――妨害念波が出ているならともかく。
「こちら一号艦。第七砲撃隊、何があった」
《ひっ……た、助けっ…………狐が、火薬を……ぎゃぁああああっ!!》
「狐だと? どういう意味だ!? 応答せよ、第七砲撃隊応答せよ!」
電伝虫は答えない。ぎり、と中将の奥歯が軋む。胸の奥で得体の知れない違和感が嵩を増す。それをも吹き飛ばすように四度目の爆炎が花開き、だが今度は止まらなかった。五度、六度、七度八度九度と街中で大爆発が連続し、船の上にまで混乱が伝播する。
《第五歩兵……き、狐の……が、自爆――》
《こちら第九…………か、壊め……戦闘、不能……!》
《ザザッ……白……仮面……狙って》
《……あ、や、やめろ……来るな、来るな来るな――あがぁあああっ!》
狂騒が悲鳴し、壊乱が絶叫する。惑い、逃げ、逃れられず。死に、倒れ、招かれる。地獄へ、奈落へ、死神に手を引かれ。命が散る、塵のように。燃え落ちる、灰のように。不条理に。無情理に。
「っっっ……!! 全攻撃部隊持ち場を放棄、離脱せよ! 繰り返す! 全攻撃部隊持ち場を放棄っ、離脱したのち検問の部隊と合流せよ!!」
「よ、よろしいのですか中将? それではせっかくの囲いが――」
「ならば貴様が現場に行き、包囲の一角を担うか?」
絶句する部下を睥睨して震え上がらせ、中将は黒煙たなびく街へと視線を戻す。
「足がないのだ。どうせ奴らは逃げられん。……全艦、砲撃準備! 部隊が下がり次第、街の全てに砲火を放つ!!」
市民はいない。あるのは犯罪者。もはや街の被害を考慮に入れられる段階でもなかった。
想定していた最悪の状況に中将は歯噛みし、これから消え去る街の姿を目に焼き付ける。
油断はなかった。
慢心もなかった。
厳然たる事実として、彼我の戦力差を鑑みて、作戦の成功を疑いもしなかった。
―――だが、最悪は常に想像を裏切る。
ドォンッッッ!!!
と、爆発する。
海上を封鎖する五隻の軍艦。半円状に並ぶ右端の一隻が突如として土手っ腹に火を噴いた。
《こ、こちら五号艦、砲列甲板にて大規模な爆発が発生! 急ぎ消火を行っております!!》
「どういうことだっ、原因は何だ!?」
《わ、分かりませんっ。弾薬庫から運ぶ途中で突然爆発し――》
声が途切れた。がちゃん、と受話器のぶつかる騒音が耳を引っ掻いた。
「おい、どうした!?」
未だ途切れぬ通信の向こうで悲鳴が響く。出鱈目に撃ちまくる銃の乱射が轟く。明らかに戦闘音だった。中将の乗る一号艦からでさえ、甲板から慌てふためき船内に駆け込んでいく兵の姿が見えた。包囲のために各艦には砲撃に支障がない程度の人員しか残しておらず、恐らくはその全てが内部の戦闘に駆り出された。
だが、船にはまだ予備戦力として数人の左官が控えているはずであった。仮に侵入者が潜り込もうと、彼らの手で直ちに排除される。――されなければ、おかしい。
「五号艦、何が起こっている!? 誰かっ、応答せよ!」
《あ、ぐ……こちら、五号艦……っ》
切れ切れの、手負いに掠れた苦悶の声を、電伝虫が吐き出す。
《た、大佐たちが、奴の相手を……自分は、報告に》
「奴? 一人か?」
《は……一人、ですが……奴は、奴は……人間じゃ、ありません……!》
種族的なそれではない。中将も、周りの兵も、そう察する。
必死さがあった。訴える声に恐怖がこびりついていた。尋常ではない“何か”を見てしまった声音だった。
《見た目に、騙されては……っ、幽霊、みたいに……あちこち、出たり、消えたり……っ、そのくせ、鬼のように、強、い……! ……幽……奴は………ゆ、幽鬼、で――》
言葉の余韻を探す間もなく、直後、恐ろしい悲鳴が響き渡った。大量の液体をぶちまけたような、途方もない水音を最後に。
しんっ、と音が絶えた。
静かに、なった。
「……」
誰も何も言わない。言えない。いつしか浮き上がっていた玉の汗が、中将の頬を滴り顎からつぅっと落ちた。
「……五号艦?」
囁いた。囁くことしかできなかった。
そして、
《…………………くふ》
ぞわっ、と。
背筋を大量の百足が這いまわるような怖気に、総毛立った。
ごとん、と。
重い物が転がる音に、だから気付くのが遅れた。
振り返った中将は見る。【DANGER】と描かれた四角い木箱が、誰も知らない内に置いてあった。ジジ、ともう僅かしかない導火線が、最後の火花を散らそうとしていた。
逃げろと、叫ぶ時間さえ与えられず、着火する。――爆発する。火薬が、木箱が、炎が、大気が、黒煙を吐き、全てを呑み込んだ。―――否、呑み込もうとして、“逆に呑まれた”。
氷、に。
「……っ!!」
冬が来た。爆発の瞬間に冬が殺到し、内部から微かに破裂した状態で木箱の時を凍らせていた。
パキ、パキンと氷の張る涼やかな音が、絶対的な安堵を引き連れ訪れる。
「手ぇ出す気はなかったんだが……どうも、おちおち寝かせちゃくれんらしい」
「た、大将殿……!」
氷塊の傍らに佇む長身痩躯の人影が、五号艦に視線を飛ばす。
「状況は大体把握してる。中将、部隊の指揮と再編成は任せた。俺はこんな真似を仕出かした、幽鬼だか狐だか分からん奴の相手をする。これ以上兵を失う愚行は避けたい」
「や、奴がどこに行ったか分かるので?」
「さて、分からねぇ……が、向こうから出て来るに決まってる」
すっと男は街を指差した。潮風が黒煙を吹き流し、だいぶ晴れた煙の向こうに中心街が見えていた。
青雉は、凄絶に言い放つ。
「俺が連中の支部を堂々と目指せば、嫌でも出て来ざるを得んだろうよ」
氷と、波。
氷結人間と量子人間。
先の見えない戦いが、今、始まろうとしていた。
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何だかすらすら書き上がったので投稿にございます。……これまで遅かった分、描写が掛け足になってしまったような気もして怖い;;
ファン君は只今縛りプレイ中。能力の正体を悟られず、殺し過ぎず、無事作戦を遂行させてみろ、と。……青雉参戦で難易度跳ね上がりましたけど、どうなる事やら(汗)
次も一応一カ月を目処に……なるべく早く書きたいなぁ。
以上。