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No.18522の一覧
[0] 黒き天使デビルマン(ゼロの使い魔クロス作品)[スラム](2010/05/01 23:27)
[1] 悪魔の名[スラム](2010/05/01 23:27)
[2] 砕けたサイコロと悪魔[スラム](2010/05/01 23:29)
[3] 盗賊と悪魔のこと(微スカ注意)[スラム](2010/05/01 23:30)
[5] 魔人生誕[スラム](2010/05/01 23:32)
[6] 少女と王女と悪魔のこと[スラム](2010/05/01 23:32)
[7] コキュと悪魔のこと[スラム](2010/05/01 23:33)
[8] 傭兵になった悪魔のこと[スラム](2010/05/01 23:34)
[9] 戦を食らう悪魔のこと[スラム](2010/05/08 21:52)
[10] 戦を味わう悪魔のこと[スラム](2011/02/21 22:50)
[11] 淫らな仕置きと悪魔のこと(スカトロ注意)[スラム](2011/02/27 01:48)
[12] 悪魔とふたりのメイジのこと。[スラム](2011/11/15 22:02)
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[18522] 少女と王女と悪魔のこと
Name: スラム◆c44dd1f6 ID:4a45094c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/01 23:32
『俺の人生は素手で砂を掴むようなもんだった。握り締めた指の間からどんどん砂が零れて行きやがる』

      連続殺人犯チャールズ・スタークウェザーが独房の壁に書き残した言葉


『徒刑場がところを変えたとさ。徒刑場という名が消えたとさ。かわりにでっかい刑務所ができたとさ。
ファントブローがそれだとさ。つまり墓場の意味だとさ』

            ジャン・ジュネ/堀口大學訳『薔薇の奇跡』


愛の秘密を知る者。地獄の野獣。太陽と融合する存在。計り知れぬ力を持つ悪魔。豊穣をもたらす風。殺戮の化身。生命の霊水を司る精霊。
これ等は皆、悪魔アモンを指す言葉だ。
オスマンの許可を得て、宝物庫から引っ張り出した石版の中からコルベールは悪魔アモンに関する伝承を探していた。
太古の時代より伝わるとされる石版をひねもす解読し、書見台の上に置かれたそれからコルベールは決して眼を離そうとしない。
象形文字と単純なピクトグラム(絵文字)で彫られた石版から断片的にではあるが確実にコルベールは石版に書かれた文字の意味を読み取っていく。
これが事実だとすれば、このアモンなる悪魔はあらゆる精霊を統べる王という事になる。
本棚に納められた書物の黴臭さが今のコルベールには心地よく感じられた。
もしかしたら自分は伝説に触れているのかもしれない。まるで老人から英雄忌憚を聞かされる幼い童のような心躍る思いに駆られていく。
少年のように好奇心旺盛なこの男は知りたがった。圧倒的な力を見せつけたヴァリエールの使い魔を。
──貴方の名はアモン、悪魔の勇者……アモンッッ
悪魔の勇者アモン。あの場でルイズの言い放った言葉がある時を境にコルベールの耳につねに引っかかってきた。
彼が何者であり、どこからやって来たのか。それを知る者は今のところ自分ひとりだけだろう。
コルベールは誰も知りえぬ秘密を知った者が感じずにはいられぬある種の後ろめたい暗さと背徳的な喜びに浸った。
今日は王女が学院をお尋ねになるらしいが、そんな事は自分とは関係ない話だ。舞踏会など知った事ではない。
それよりもこの石版を調べ上げるほうがはるかに重要であり、新しい刺激に満ちている。
冷めた紅茶を飲み干すと味気ない乾燥パンを齧り、コルベールは再び石版の研究に没入した。


今夜は舞踏会となった。ただの晩餐会では味気ないと学院と王室側が相談した結果だ。
無茶な要求のせいで学院の下男やメイド、料理人は全員、疲労困憊の余り倒れる寸前だった。
特にマルトーは大事な右の中指を疲労骨折させてしまったほどだ。
そんな事も露知らず学院の教師も生徒も一番高価な服装で着飾り、能天気に踊りと音楽と談笑に長々と興じる。
ずらりと居並ぶ純金の三叉蜀台がいかめしく輝いていた。食卓を明るく灯すのは蜀台に突き立てられた三本の蝋燭だ。
去勢した雉と鶉のソース煮、深海ロブスターのワイン蒸し、貝のコンソメスープ、胡椒で香り付けした牛肉のタルタルステーキ、
荒猪の丸焼き、白兎のシチュー、鹿肉のベーコンオリーブ添え、白鳥とアヒルの姿焼き、ニンニクと鰯のソテー、
牡蠣のビネガー漬け、青カビのチーズを乗せたクラッカー、干し杏のクッキー、葡萄のプッティング、林檎のシャーベット。
上げていけばきりがないほどの数々の料理が大皿を抱えた列をなすメイドの手によって運ばれてくる。
所狭しとテーブルの上に次々と盛り付けられていくのは王女には見慣れた海の幸と山の幸ばかりだ。
料理にはほとんど手をつけず、アンリエッタは人々の喧騒の真ん中で銀杯に注がれた葡萄酒を手で暖めるだけだった。
お追従する生徒達に軽く挨拶を交わし、アンリエッタはいつもの仮面じみた笑みを浮かべる。何も変わらない。
学院も王宮も何一つ変わらない。目新しいものなど期待するだけ無駄だ。アンリエッタは蒼く彩られた指輪に視線を落とした。
何もかも鮮烈だった。瞼を閉じれば飛び去る若者──悪魔の姿が蘇る。この指輪が、水の精霊が導いた、束の間の蜃楼か。

横からぬうっと伸びた手が一メイルを超えるロブスターの胴体を鷲掴み、皿の上からごそりともぎ取る。
周りの生徒達は、この不躾とも取れる行動に最初は難色を示したが、この無礼者が誰であるのかを知ると納得したように頷いた。
「なんだ、アモンか。それなら仕方ないな」
大海老の鋏に食らいつき、殻ごとガリガリと咀嚼しながら明は自分を見つめるアンリエッタに気づかない素振りをした。
ロブスターを掴んだまま、ルイズの待つバルコニーへと向かう。
「あの……」
アンリエッタが明に声をかけた。アンリエッタの小さな呼び声は喧騒に飲まれ、明の耳には届かなかった。
いつしか明は人ごみの中に吸い込まれるように消えていき、アンリエッタはその後ろ姿を見送るしか出来なかった。
「無駄ですよ、姫君。彼には人間の言葉は通じません」
「あの、貴方は?」
突然、見知らぬ生徒に声を掛けられ、アンリエッタは戸惑いの表情を見せた。
「これは失礼。僕の名前はギーシュ・グラモン。グラモン元帥の四男でございます」
丁寧にお辞儀をし、ギーシュがアンリエッタにニコリと微笑む。そして胸につけた薔薇をとり、アンリエッタの手に添えた。
「どうぞ。ささやかながらお近づきの印に」
ごく自然的な立ち振る舞いであり、そこには伊達男の嫌らしさがない。
グラモン家の男達は女泣かせで通っているが、この生徒も例外ではないようだ。
だが、今のアンリエッタの興味はアモンと呼ばれた若者に向けられている。
アンリエッタはギーシュとの立ち話もそこそこに切り上げると、その場を後にした。

ルイズから贈られた武骨な太い特注の銀鎖の首飾りを巻き、明は手鏡を覗いた。中々の見栄えだ。悪くない。
常人が首に巻けるような代物ではない事を除いてではあるが。ルイズといえば、予期せぬ明からのプレゼントにはしゃいでいる。
明のプレゼント──巻き毛の少女モンモラシーから貰った薔薇の香水と女教師シュヴルーズがくれた虹瑪瑙のブローチだ。
ルイズは喜んで胸にブローチをつけた。シルクの淡いピンクドレスに身を包み、真珠の七宝細工で耳を飾ったルイズ。
人差し指に通したサファイアの指輪がルイズの幼さを残す清らかな魅力を引きだす。
清澄とした硬質な透明感を纏わせたルイズは、少女から女へと開花していく蕾のように映り、男の心を惹きつけた。
貴族の子弟はドレスアップした少女の美しさに眼を奪われた。そして遠巻きに魅入り、中々立ち去らぬ使い魔に苛立ちを募らせる。
明の格好もルイズに負けてはいない。赤いビロード帽子とマントを着け、新しいジボンは黒豹の毛皮だ。
雄鹿の皮をなめしたブーツが明の野性的な男の色香を弥が上にも際立たせる。
細かい草木模様が彫られたゴールドのバックルがしなやかな体躯から醸し出される官能さは強調し、女心をくすぐった。
帽子とマントはルイズからの贈り物だが、ジボンはマチルダ、バックルはキュルケが明に与えた物だ。
「よく似合ってるよ、お嬢ちゃん。旦那も奇麗だと褒めてる」
「ありがとう、デルフリンガー。アモンもとっても素敵よ」
「おお、そうだ。旦那からもう一つ、贈り物があるぜ」
明が手製のギターを引き寄せ、バルコニーに置かれた椅子に坐る。悪魔がリュートを弾くのかと人々はバルコニーに注目した。
左手でネックを持ち、明はオーク鬼の腸で出来た弦を鳴らして見せた。灰色に振動する弦。
明はデーモンのパワーを注入した。甲殻類めいた生き物のように変形するギター。明は頷くともう一度、ギターを弾く。
デルフリンガーがギターに合わせて歌いだした。

夜雲が浮かんだ尾根の上 暗い山道突き進む、老いた騎士が足を止めた 割れた雲から現れた赤目の牛の轟きに

騎士は慄き、後ずさる 蹄鉄を踏み鳴らし、黒き角を振り上げて、悪魔の群は進軍す

イッピーアイエー、イッピアイオー 悲痛の叫び 幽駿に跨った妖しの騎手が悪魔の群れを追いかける

荒れる空模様。明がギターをかき鳴らすほどに天候が様変わり、激しい嵐が飛来し、稲妻が怒り狂った大蛇の如く唸りあげた。
幻想的と呼ぶにはあまりにも激越すぎる。大地は凍てつき、彼方には空を覆ういくつもの濃い影が姿を現した。
影は牛の群れとなり、黒い騎手へと形作られて黒曜石のように幽玄なる輝きを放ちながら夜の空を駆けていく。
影馬が甲高くいなないた。黒き騎手が鞭を振り上げ、牛の群れへと振るう。天上の星々もあの双月でさえ、影の騎手達の前では色褪せた。
それは永遠の空を彷徨う伝説の騎士達の物語だった。悪魔の群れを追いかける呪われた宿命を背負いし、古き戦士の軍勢。
楽士は楽器を演奏する手を止め、メイドは料理を運ぶ手を止め、貴族は何の生産性もない無駄話を止めて、夜空に展開する抒情の物語を見上げた。
触手と化した弦が自らの胴体の穴をホルンに見立てて乱暴に吹き鳴らす。誰も物音一つ立てようとはせず、唖然として息を呑んだ。

妖しの騎手が老いた騎士を導くように呼びかけた 汝の魂は凍りつき、悪魔は地獄の底へと引きずり込まんとしている

もしも、魂を救いたければ、己を悔い改めよ 嫌だというのならば我々と一緒に来るがいい 果てぬ苦しみを背負い、悪魔を地獄へと連れ戻すのだ

イッピーアイエー、イッピアイオー 悲痛の叫び 幽駿に跨った妖しの騎手が悪魔の群れを追いかける

曲が終わり、明がギターを傍らに置いた。影は一瞬で宙に溶け込み、嵐は嘘のように掻き消えた。一拍子の静寂が流れ、喝采が人波から湧き上がる。
「今まで生きてきた中でこれほど驚いたのははじめてだわ」
キュルケがハンカチを投げながら賛辞の言葉を述べた。花束が舞い、大量の金貨がチャリンッと鳴り響き、明の足元に降り注ぐ。
「インテリジェンスソードが吟遊詩人も裸足で逃げ出すほどの歌声を持つとはわしも驚いたわい」
オスマンが両手を広げて万歳する。明におくられる声援は鳴り止まなかった。
悪魔の披露したバラッドに感動と衝撃を受けた人々は、熱ででもうなされたかのように顔を火照らせた。
舞踏会はいよいよ盛り上りを見せ、貴族の生徒達は明とルイズの手をとり、ホールへと誘った。


やはり自分の寝室が一番安らぐ。我が家ほど素敵なものはない。自由。ここでは何をしようとも咎める者はいない。
自由気ままにふたりは裸のままでダンスを踊る。
身体を入れかえ、明がステップを踏めば、ルイズがそれにあわせてクルクルとまわって見せた。
快い感奮。ルイズの心臓が一つの楽器のように高鳴る。身体中の毛穴から汗が滲み出た。冷めぬ興奮。冷めぬ悦び。
髪を振り上げたルイズの額から珠の汗が飛び散る。心が疼く。熱を持った心が疼く。
明が身を屈めてルイズのほっそりとした右の足首を柔らかく掴み、片腕で軽々と持ち上げた。
白鳥のように双の腕(かいな)を広げ、左足を肩の高さまで上げてみせる。百合の花と薔薇が咲き広がった。明が不意に手を離した。
テーブルから転げ落ちる水晶細工のようにルイズの裸体がたゆたうように落下する。舞い落ちる花びらの美しさと儚さよ。
地面へとぶつかる瀬戸際──明の腕がルイズをすくい上げた。身体を密着させ、互いの吐息を感じあう。
ルイズの鼻腔をくすぐる精気に満ちた雄の匂い。明はルイズのきめ細かい腰を撫でた。鮮やかな指使いにルイズの明眸が潤む。
珊瑚色の唇を重ね、ふたりは熱い舌を絡ませた。濡れつく茂みの奥。尻の挟間にあるルイズの薔薇の蕾に明が指腹を這わす。
浅く中指を沈めれば、ルイズの羞恥心が湧き上がる。ルイズが明にしがみつき、身体を振るわせた。
「あ……ッ、ア、アモンッ……」
水気を含んだ唾液の味。篭る熱の臭気。胸元と背に滲んだ汗がぬめりつく。
そこで無粋なノックが響いた。三回のノック音が続き、ルイズの鼓膜を不快に撫でた。興冷めだ。
こんな夜更けにドアを叩くには一体誰だ。折角の雰囲気を壊され、咎めるような視線でルイズがドアに注視する。
「ルイズ、いないのですか?」
「え、その声は……し、しばしお待ちをッ」
その声を聞いた瞬間、慌ててルイズが衣類を身に纏いはじめる。普段の制服姿に戻ったルイズがドアノブを回した。
下の物を履き直した明が革張りの肘掛け椅子に背をもたれさせ、興を削いだ張本人を出迎える。

「久しいですね、ルイズ。達者でなによりです」
王女が懐かしげな眼差しをルイズに向けた。膝を突いたルイズがアンリエッタに頭を垂れ、恭しく恐縮して見せる。
「勿体無いお言葉でございます。姫様」
「頭を上げてください、ルイズ。今日は貴方に頼みごとがあって尋ねてきたのですよ」
アンリエッタが跪くようにルイズの肩に手を掛け、身体を起こさせる。
「どのようなお頼み事でしょうか。姫様のお力添えが出来るのであれば、微力ながら全力を尽くす所存でございます」
「そのように畏まらずに力を抜いてください。私と貴方は友人のはずでしょ」
悪戯っぽく笑い、砕けた口調でアンリエッタはルイズの手を握る。ルイズの手を握りながら、アンリエッタは後ろに控えた明を一瞥した。
半裸の明にアンリエッタは視線を注ぐ。若者は黙ったままだ。あの時と同じ真っ直ぐな瞳。
獣のように純粋で誇り高く猛々しい、何者にも媚びぬその光る瞳。明の眼光がアンリエッタを見据えた。
ルイズがアンリエッタの視線に気づく。ルイズは王女に明を紹介した。
「彼は私の使い魔アモンです。今は人間に化けていますが人ではありません。悪魔です」
鷹揚に頷くアンリエッタ。明は静かにふたりのやり取りを観察した。
「オスマン学院長から彼の話は聞き及んでおります。なんでも恐ろしい力を持つ悪魔とか。それに私達は初対面ではありませんよ」
これにはルイズが驚いた。いつ、どこで、どうやって知り合ったのかアンリエッタに矢継ぎ早に尋ねる。
アンリエッタが落ち着いて事情を話すとルイズの顔が青くなった。
「も、申し訳ありませんッ、どうかアモンの失礼を許してあげてくださいッ」
ルイズがアンリエッタに必死で寛恕を乞いはじめる。アンリエッタがルイズを落ち着かせた。そして一歩、明の前に出る。

「あの時は衛士達が貴方に無礼を働き、申し訳ありませんでした。許してください、アモン殿」
使い魔に頭を下げるアンリエッタにルイズは慌てた。それとは対照的に明はあくまでも落ち着き計らっている。
「そ、そのような、使い魔に姫様が頭を下げるなどおやめください」
「いいのですよ、ルイズ。例え王女といえども、こちらに非があるならば、詫びるのが当たり前です。
まして、アモン殿は貴族でも平民でもない。オールド・オスマンの言葉を借りるならば彼は勇者にして最高の使い魔だと」
ルイズがアンリエッタの己の使い魔に対する賞賛に目尻をほころばせた。
「勿体無いお言葉でございます。これ以上の名誉はございません。貴族冥利に尽きる思いでございます。
それで姫様、私へのお頼み事とはなんでございましょうか?」
気落ちするようにアンリエッタが急に目を伏せた。ルイズの問いかけに弱々しく答える。
「ルイズ、私はゲルマニアに嫁ぐ事になりました……同盟を結ぶ為にです……」
その言葉だけでルイズは理解した。以前に風の便りで聞いた噂は本当だったのだ。
アルビオンの貴族から端を発した内乱が起こり、アルビオンのみならず、このトリステインまで狙われているという噂は本当だったのだ。
「でも、いくらなんでもあんな成り上がっただけの伝統も何もない大きいだけの野蛮人の国へと嫁ぐなど……」
「でもそうするしか手はないのです。いま、同盟を結ばなければこの国は……ルイズ、
貴方に頼みたい事はウェールズ皇太子へと当てた恋文をなんとしてでも取り戻して欲しいのです」
アンリエッタは恐れていた。手紙がアルビオンの貴族の手に渡る事を。政治とはそれほど合理的ではないことをアンリエッタは知っていた。
政治とは人間と同じだ。人間は感情によって自己に対して不利益が明白な選択をも選びうるのだ。
それが自分自身に当てはまる事もアンリエッタは承知している。ゲルマニアがあの手紙を呼べば怒り狂うだろう。
そして同盟は破棄され、最悪の場合、トリステインはアルビオンとゲルマニアからの板挟みとなりかねない。
喜ぶのはアルビオンの貴族だけだ。

アンリエッタとルイズを尻目にデルフリンガーと明は成り行きを見守った。
デルフリンガーの言葉を要約すれば敵がうようよしている場所へいって手紙を奪い返して来いという内容のようだが。
──そんなに大事な手紙ならばもっと手練の者に向かわせればいい。何を思って生徒などという未熟者を戦地に送り込む必要がある。
──旦那の言う事はもっともだ。でも、あの姫さんにも何か考えがあるんでしょうよ。
──あるいはオスマンが何かを吹き込んだか。それとも敵を欺く為か。
「アンリエッタ王女とヴァリエール家の名に恥じぬよう、私とアモンが見事、アルビオンから手紙を取り戻して参ります」
ルイズが意気込みながら杖を掲げた。その意気込みを挫くようにデルフリンガーがルイズに声をかける。
「危ないから旦那がひとりでいくってよ。お嬢ちゃんとそこの姫さんは待っていればいいさ」
「それは嫌よッ、私も一緒にいくわッ」
「遊びじゃねえんだぜ。お嬢ちゃん。下手すりゃ命を落とす」
「貴族は名こそ惜しむ者、命を惜しむは貴族にあらず。お母様が常々言っていた言葉よ」
「身共(みども)の勇気を眼にも見よ。そう叫んで敵陣に突っ込み、死んでいった連中を俺は知ってるぜ。いいかい、お嬢ちゃん。
あんたは女だ。女は女の幸せを考えろ。戦は男どもにまかせておくんだ。旦那の事なら心配するな。旦那にゃこの俺がついてる」
それでもルイズは頑なにデルフリンガーの申し出を拒否した。

「アモンと離れるなんて考えられないわッ、それにウェールズ皇太子と何か間違いを起こさない為にも私もついていくべきよッ」
──困ったな。どうします、旦那?
──仕方がない。少し心配だが俺がルイズを守ればすむ話だ。
「わかったよ、旦那もお嬢ちゃんをつれていくってさ。安心しな。旦那が守ってくれる。その代わり、無事に帰ってきたときゃ、
旦那が仕置きとしてお嬢ちゃんと姫さんの尻をひんむいて、赤剥けになるまで引っ叩くってよ」
勿論、明はふたりの尻を叩くなど一言もいっていない。最後の部分はデルフリンガーの冗談であり、デタラメだ。
だが、根は生真面目な少女ふたりはデルフリンガーの言葉を真に受けた。
「お、王女様は関係ないわッ、叩くなら私だけにしてッ……出来れば手加減してほしいけど……」
ルイズが竦むように掌で尻の感触を確かめながら、仕置きの痛みを想像した。
「かまいません。ルイズ、私も一緒に我侭を言った罰を受けます。でも……お尻を叩かれるなんて幼い頃に乳母からされただけで」
赤くなったり青くなったりと顔色を忙しなく変えるふたりの少女を明は怪訝そうに眺めた。
──デルフリンガーよ、ふたりに何かおかしな事でも吹き込んだのか。可哀相だからあまり怖がらせる真似はするなよ。
──へへへ、わかってますよ。旦那。ちょいとした洒落を飛ばしただけでさあ。
顔を赤く染め、身体をもじつかせていたアンリエッタが、思い出したようにハッと我にかえった。
指輪をするりと抜き、ルイズに手渡す。水のルビー。トリステイン王家に伝わる魔法の指輪だ。
母から贈られたこの指輪はウェールズ皇太子とも思い出の詰まった指輪でもある。
「お守りとしてこれを持っていきなさい。ルイズ。何か困った時は売ってもかまいませんから」
明には言葉はわからない。でも、人の機微だけはわかる。切なそうなアンリエッタの瞳を明は覗いた。
──それはお前の大切にしている指輪なのだろう。お前の思い出を人に譲る事だけはするな。あとでお前が苦しむぞ。
ルイズの握った水の指輪を摘み、アンリエッタの指へと押し戻す。アンリエッタは白い涙を零した。
旅支度を整え、明とルイズはアルビオンへと向かう。始祖ブリミルよ、どうか心優しき少女と悪魔をお守りください。
アンリエッタはその後姿に一心に祈りを捧げた。


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