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No.16543の一覧
[0] 宇宙の片隅で『童貞のまま死にたくない』と叫んだヒーロー 【XXX改定版】 [メメクラゲ](2010/05/09 02:30)
[1] 第2話[メメクラゲ](2010/05/09 02:37)
[2] 第3話[メメクラゲ](2010/05/09 02:43)
[3] 第4話[メメクラゲ](2010/05/09 03:55)
[4] 第5話[メメクラゲ](2010/05/09 03:21)
[5] 第6話[メメクラゲ](2010/05/10 16:30)
[6] 第7話[メメクラゲ](2010/05/12 01:57)
[7] 第8話[メメクラゲ](2010/05/14 16:58)
[8] 第9話[メメクラゲ](2010/05/15 19:42)
[9] 挿話①[メメクラゲ](2010/05/18 23:06)
[10] 第10話[メメクラゲ](2010/05/21 19:23)
[11] 第11話[メメクラゲ](2010/05/29 00:14)
[12] 第12話[メメクラゲ](2010/06/09 03:20)
[13] 第13話[メメクラゲ](2010/06/09 03:23)
[14] 第14話[メメクラゲ](2010/08/27 13:19)
[15] 第15話[メメクラゲ](2010/09/15 12:38)
[16] 作業用未完成品 スルーしていただけると嬉しいです[メメクラゲ](2010/10/25 16:57)
[17] ネタバレ年表です。本編を読まれた方のみ興味があればどうぞ。[メメクラゲ](2010/05/21 23:49)
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[16543] 第9話
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:583704fc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/05/15 19:42
 「きゃっ!!」

 神聖騎士ハル・オンブズガレルドは思わず悲鳴を上げた。泣いていたハズの男が、空中へと冗談みたいな勢いで飛翔したからだ。ハルを腕に抱きかかえたまま……。
 つい先ほど地上で、ハルが胸へと男を抱きしめた時、鼻水、涙をこぼしながらガクガクと恐怖に震えていたというのに。
ぐんぐんと迫る天井を蹴り、後方へと回転しながらも見事なバランスを見せる白き男。直前の恐怖、怯えなど微塵も感じられない……。

『恐怖を知り、人生は無意味だと理解してもなお、それを乗り越えようと足掻くモノ。それこそが人である』

 聖書の一節が脳裏へと浮かぶ。思わず男の首へとまわした腕に力がこもる。胸……、『夢の水』の作用でぷっくりと乳首が立ってしまっている胸を、無意識にハルは男の胸へと押し付けてしまう。こんな状況だというのに、神聖騎士の唇から甘い吐息がこぼれ落ちていく。
 その時……。

「XXXXXX!!!」

 聞いたことの無い不思議な叫びを男があげた。それは、荒々しく、怒りと生命に満ち溢れた咆哮。そして……。

 ――――ッ!!!!!!!!

 鼓膜が破れそうなほど凄まじく高い音。それと共に、目がつぶれそうな閃光が部屋中を覆い尽くす。熱……。まるで聖なる太陽が突然、間近に出現したかのように思えるほど、それは眩しく、熱く、神々しい。

「きゃあああああああっっ!!」

 ハルの喉から絶叫が溢れる。ストンッと床へと着地したような感覚が体へと伝わるが、そんな事はどうだってよかった。
怖い……。何が起こったのか全く解らない。解らないが、これはもはや個人で対処できるレベルではない。畏怖……。人知を超えたモノに対する畏れが、ハルの胸へと湧き上がる。

「大丈夫……、守る……。俺、あなた、守る。大丈夫」

 フワ……と包まれる感触……。怯えた視線で見れば、ハルの体は白い男に抱きしめられており、目の前にはその男の顔があった。マスクで鼻と口が覆われてはいたが、その黒い瞳が優しくハルを見つめ続けていた。
 熱と閃光からハルのカラダを守るように、壁に押し付けた形で白い男が彼女を抱く。彼女の褐色の肌、むき出しの肩や太ももへピッタリと男の体が密着……。

「んっ、あっ……、あ……」

 ハルの胸へと安心感が満ちる。守られている……、包まれているという幸福。今まで、こんな気持ちになった経験などハルには無かった。
『蟻殺しのドガロ』という大陸中に名を轟かす傭兵を兄に持っている彼女。両親ともに優れた剣士である家庭で育ったハルにとって、他人は弱き者、守る対象だった。己よりも剣士として遥か高みに立っている兄へ、追いつかねばならないプレッシャーの中、ひたすら腕を磨き続ける日々。
 だが今、彼女は守られていた。この白き男の腕の中、一人の女として胸に抱かれ、まるで……恋人のように包まれて。不思議な気持ち……、圧倒的な幸福感。いつまでも、こうやって抱いていて欲しい。
 それは、『夢の水』の作用なのか、それとも己の心からの本心なのか。ハルにも解らぬまま、ただ、彼女は白い男と抱擁を続ける。
 が、しかし……、

「終わった。もう、大丈夫、です。ええ」

 突然そうカタコトで言い放ち、何故か股間を隠しながら、慌てて彼女から遠ざかる白き男。確かに部屋の中には、熱も、狂気の気配も全てなくなっており、ただぼんやりと光っている壁だけが彼女たちの姿を照らしていた。

「えっ……あ……」

 唐突に夢から覚めたような気持ちのまま、もっと……抱きしめて欲しい……、ハルはそう願った。体中が熱っぽく、唇から吐息があふれ出す。無意識に太ももをモジモジと擦り合わせてしまう。
 純潔たる処女、神聖騎士。神と剣だけに人生の全てを費やしてきたハルは、男女の性の知識など全く知らなかった。
だから、目の前の白き男が半裸のハルの姿から真っ赤になって目をそらし、股間を隠すように中腰になっている理由など、何一つわからない。
 そして、己の胸を覆っていたボロボロの白い布が完全に破れており、ボリュームのある見事な胸、硬く尖ったピンク色の乳首がむき出しになっている事にも気付けていなかった。ただ、自分の気持ちに突き動かされるまま、フラフラと顔を赤く染めている男へと近づき、そして……、両腕を男の首へと……、

「ああーーーーっ!! ハルッたら!! ダメーーーーッ!!」

 甲高い少女の声が部屋中へと響き渡る。その声にハッと己を取り戻すハル。自分は、一体……何を……!?

「キャッ!! う、うわわわわッッ!! 見、見るなっ!! お、俺を見ちゃダメだっ!!」

 褐色の体を真っ赤に染め、ハルは慌てて男から飛び退き、胸を抑えながら背中を向けて座り込む。だが、剥き出しの肩、女性らしく丸みを帯びたヒップ、引き締まった太ももは隠せない。それでも背中を男へ見せたまま、首を後ろへと捻り、ハルは声をかけた。

「そ、その……。あ、ありがとなっ! お、俺は神聖騎士、ハル・オンブズガレルド。その、よければ……お前の名前を……ってっ!! うわッ!! バカっ!! お前、なんてことっ!!」

 肩越しに白い男を見ていたハルは驚愕の言葉を漏らす。なぜならば、白い男が上半身の服を脱ぎ、真っ赤になりながらソレをハルへと渡そうとしたから……。
神聖騎士の目に、男の上半身裸が目に入る。ごく普通の体つき。とてもあんな怪力があるとは思えない肉体……。
 でも……、さっきまであの中に抱かれていたんだ……、と考えてしまう。またもや、ムラムラとした不思議な気持ちが湧き上がる。

 (いや……、問題はソコじゃなくて……! その、こいつ……、は、裸の肌を男女が見せ合う意味が、わ、解ってるのか……。えと、つまり……教義では……その……求愛っていうか……プロポーズ!? お、俺……、プ、プ、プロポーズ、さ、されちゃったの……? え、でも、でも、こういうのは二人っきりで、し、寝室で行うって母様から聞いた……。え、でも、でも……)

 互いに何も隠すことは無くありのままを見せ合い、愛を捧げ、思いを受け入れる。それは聖なる誓。婚姻の儀式……。
神聖騎士は冷静になろうと必死に足掻く。足掻くのだが、マスクを外し、真っ赤な顔でハルへと服を渡そうとする男の裸に脳が沸騰してしまう。

「きゃあああっ!! もう、ダ、ダメだったらっ!! ハルにはエリンがローブを貸すからっ!! 貴方はそれをちゃんと着てなさいっ!!」

 再び少女の絶叫が部屋へと響く。

「ハルっ! いい、これは事故よっ!! いい? ヘンなコトを考えちゃダメだからね? ほらっ、これを着て!」

 バサっ! と何故か幸せそうな神聖騎士の顔へ、巫女エリンの羽織っていたローブがぶつけられる。不思議と凄まじく機嫌が悪そうな巫女エリン。
慌てて白い服を着なおす男。
 広い部屋の中。そこは先ほどまで死闘が繰り広げられていたとは思えない、どこか弛緩した空気が流れていた。





◆ 宇宙の片隅で『童貞のまま死にたくない』と叫んだヒーロー

 ○ 第9話



 
 俺は頭を掻きながら、部屋の隅へと落ちていた青いブレードを拾い上げて、右手へとセットした。部屋の中央では、エリンと名乗った眼鏡、黒髪の少女と、ハルと名乗った素晴らしすぎる褐色の美女がナニか激しく言い争っている。が、あまりにも早口であることや、聞いたことのない単語が飛び出すためにとても理解出来ない。
 ゆえに、俺はそそくさとブレードの回収、そして先ほどの怪物の確認へと移った。

「うお……。すげえな……」

 『陽子加速式ハンドガン』。その名のとおり、陽子を加速し、亜光速で撃ち出す武器。その破壊力は凄まじく、そして、レーザーよりも霧や水蒸気の影響が少ない為、非常に重宝されている武器だ。地球を立つ直前、全ての財産を処分して用意した俺のパーソナルウェポン。俺の指紋、俺の血流、精神にのみ同調、反応する武器。本当はもっと高価な軍用が欲しかったのだが、これでも十分すぎる破壊力を持っていた。

 そう、『アレ』がいた部屋は完全に破壊されていた。未だに正体がわからない『アレ』。精神に干渉を行うタイプの生き物は非常に珍しいとされるが、『アレ』は容易に俺の心へ侵入し、精神を砕いた。きっと、地球の学者が知れば大喜びだろう。
 が、もう無駄だ。『アレ』の痕跡は、もはや影も形も無い。壁と床はドロドロに溶けており、部屋の中にはどんな生き物もいない。

 しかし……と、アゴへ手をあてながら考えに沈む。この部屋……というか、この遺跡はおかしい。明らかに、俺の見聞きしてきたこの星の科学よりも、進んだ技術で建築されている。
 俺はドロドロに融解しそのままの形で冷えて固まった床を、思い切り蹴り上げ、空中で回転し、着地をする。やはり……、割れない……。俺が思い切り蹴ったにも関わらず、この床には小さなヒビ一つ入らなかった。
 それに、ライトがついたままの壁……。こんな科学力はこの星には無い、と断言できる。そもそも電力すらない科学レベルの星なのだ。こんないつまでも壁自体が発光する施設など作れるハズがない。と、いうことは……。
 
「ねえっ!! 貴方っ、お礼が遅くなって御免なさい。私、エリンと申します。この国の巫女なの。本当にありがとうっ!」

 ドロドロに融解した壁の部屋の中、ぼんやりと考えにふけっていた俺の腕を少女がプニプニと突く。それに反応し振り向けば、何時の間に近づいてきていたのか、真っ赤に顔を染めたハルと名乗った美女と、サラサラとした黒髪の眼鏡をかけた少女が立っていた。

「あっ! いや、その、別に……」

 なんとなく気まずくて二人と目を合わせられない。特に、ハルとはなおさらだ。彼女が触手のようなモノで喘いでいた姿、俺を抱きしめてくれた時の胸の膨らみの感触……、さっき見たツンと見事に上を向いた大きなバストとピンク色の乳首。それが一気に脳裏へと蘇り、また股間が元気になってきそうな感じ……。
 視線を逸らし、なんとなくうつむいたままボソボソと返事を返す。

「ところで……、貴方、もしかして『ヒロ』ってお名前? セラ=フリードガルデとガレン=アウリシュナと共に暮らしている。ね、そうでしょう?」

 少女エリンの言葉……。それに俺は衝撃を受け、驚きのあまり咄嗟に声も出せない。確かに、俺はセラとガレンから『ヒロ』と呼ばれている。俺の地球での本名はこの星では発音し辛く、最も近いのが『ヒロ』だったからだ。だから、そう呼ばれているのだが……、どうして、この少女が!? いや、問題は……。

「えっ、あっ、うっ! その……何で!?」

「うふふ……。やっぱりそうなのね。セラ=フリードガルデは私の友人なの。3年前位からかな……、彼女がエウードにいた時からずっと文通で意見交流を行ってたのよ。それに最近、セラは毎日、私の屋敷へと来てるんだから。それで、貴方のコトも色々聞かされてたわ。黒い瞳、全身白い服、低めの身長で、優しそうな顔。そして、良く見れば生え際が黒くなっている髪……。何よりも……、人間を越えた能力。ううん、違うわよ? セラは貴方を疑っているだけ。そうとでも考えないと辻褄が合わないって。貴方が人間そっくりの別の種族じゃないかってね」

 どこか自慢げに眼鏡を触りながら微笑んでいる少女。そのまま眼鏡の奥の黒い瞳を輝かせ、エリンは言葉を続ける。

「それで、セラから密かに依頼を受けてるの。過去の文献で、はるか人間以上の力を持ち、黒髪、黒い瞳を持つ者の記録はなかったか? って。私、こう見えても宗教学校始まって以来の天才って言われてるんだからっ。ふふ、でも吃驚。私はありえないって言い張ってたんだけど、結局、セラの勘は当たってたってコトか。ふーん……」

 その少女の話した内容……。まさか、セラが俺のコトを調べていた!? 俺が自分たちとは異なる種族だと疑っていたのか……。
確かに……、この三ヶ月、ガレンとは親しく行動をともにする事が多かったが、セラは一歩引いているような雰囲気もあった。それに、あの屋敷からの脱出騒ぎの時、セラの使用人には俺の正体を知られている。もし、セラが手紙などでやり取りしていたとすれば……。
 恐怖……、胸の中、ジワリと恐怖が湧き出す。三ヶ月前にガレンを助けた時の皆の視線……。ガレン……、セラ……、彼女達に、あんな目で見られてしまう……。

「ちょ、ちょっと待って。その……、す、すまない……。セ、セラには秘密にして……。た、頼む。頼むっ!」

 少女に頭を下げ、カタコトながら必死で言葉を紡ぐ。こんなところで独りきりになりたくない。もしかすると俺の正体を知っても、セラ、ガレンは気にせずに接してくれるかもしれない。しかし、それはあくまで表面上のコトだろう。この星の人間に比べたら俺は怪物以外のナニモノでもない。できるなら今のままの関係でいたい。

「ま、待てっ! お、俺は絶対に言わないよっ! 神に誓ってもいい。命の恩人で……そ、その……俺の将来の、え、えっと…………に、ヒ、ヒロっ! 頭を上げてくれよ。なっ? もし、ナニかあったら俺の家に、ふ、二人で住めばいいしよ。そ、そんな泣きそうな顔をすんなってっ」

 ローブを纏った姿で紫の髪を揺らしながら、ハルはそう言いきり、優しく俺の手を握る。その温かい感触。イマイチ単語の意味が解らないが、彼女の優しさに救われた気持ちになった。ハルは俺の能力を知りつつも、怯える事無くこうやって接してくれている……。

「あーーっ! ハルっ! だからっ、アレは事故だって言ってるでしょ! もう、手を離しなさい。今は巫女たる私が話をしているのっ! もう……。そう……、えっと、ヒロ? 内緒にしておくって件だけどね。エリンのお願いを聞いてくれたら、秘密にしてあげるよ? わかった?」

 手をつないだままの俺達に少女が強引に割り込み、ニヤリとした微笑みを見せる。なんというか、幼い外見に似合わぬ大人びた……というより底意地の悪そうな表情だ。だが……、俺に他に打つ手など無い。
 ナニか……、悪い予感を感じながらも……、俺はコクコクと眼鏡の少女へと頷いた。


 ◆◆◆


 宗教国家ガルズガレロ。その広大な街外れにある貧民街。その日、ゴミと汚物に塗れた貧民街で、一つの伝説が生まれていた。
最初に伝説をばら撒いたのは一人の孤児の少年。彼が、夕方に港へと魚釣りに出かけた時、大量のマーマンへと出くわした。
 古代遺跡より時折あらわれて、人間をさらって行く怪物であるマーマン。少年がそのマーマンに殺されそうになった時、白い覆面の男が現われ、一瞬のうちに怪物どもを退治したのだ。
 その信憑性を疑う者達も、少年の案内した路地で、胸に大穴を開けられて腐食しているマーマンの死体を見ては、納得するしかなかった。
そして更に、白い男の伝説はその日だけに留まらなかったのだ。

 ある日の事……、貧民街の人々が隠れ農地で作物を耕していた時、大量の半獣人へと襲いかかられた。
 宗教国家ガルズガレロでは身分制度がはっきりと戒律によって定められ、それを覆すのは容易ではない。上の者が下の階級を半ば奴隷のように扱い、富を公然と搾取する。その為、貧民たちは上位階級の者に見つからない場所で農業を行う事が多かった。だが、農地にされていない場所というのは、必然的に危険の多い土地でもある。
 その農地も近くの遺跡に半獣人が住み着いており、危険ではあったのだが、貧民たちが生きるために仕方が無かった。勿論、隠れ農地ゆえに軍隊へと安全確保を依頼する事はできない。恐怖に怯えながらも多くの貧民は日々、田畑を耕し、必死に生きていた。
 が、ある日……、唐突にその日が訪れた。身長1.5メートルほどの屈強なイノシシと人間のハーフのような半獣人達。手に槍を持ち、男は殺し、女性は慰み者へと迷宮へと連れて行くものども。人間をはるかに凌駕する筋力と残忍さ。
 貧民たちに抵抗する手段は無く、悲鳴と嘆きが田畑へと響こうとした、その瞬間……。

「待てっ!!」

 そこへ忽然と姿を見せたのは、白い服、白いマスクを着けた男。紫の髪をポニーテールに結んだ、男とおそろいの白い甲冑を着た剣士。そして、その背後へと腕組みをして立っている白い服とマスク、眼鏡をかけた少女。童話の登場人物のような三人組の姿だったが、その強さは本物だった。
 瞬時に獣人を追い払い、そして、眼鏡の少女は残った貧民へと作物の状態のチェック、育成方法への的確な助言を告げる。そして、最後に……、

「こんな事しか……、出来なくって御免なさい。でも、私、私っ! 絶対に早く偉くなるから……。だから、だから、頑張って下さい」

 涙をこぼしながら眼鏡の少女はそう言って、残る二人と共に立ち去っていった。
彼ら、貧民たちは何も知らない。その少女がかつて同じ貧民であり、今、天才として宗教学校で必死に頑張っている少女だとは。
 9年前、その少女がわずか4歳で才能の片鱗を見せた時、入学金を払うため、多くの貧民たちが、貧しい蓄えの中から金を出し合い入学させた少女だとは。
だが、何も知らずとも貧民達の胸には希望が灯った。いつか、きっと……今よりもまともに生きることが出来ると。
 その希望は白い男の伝説となり、ひそかに、だが凄まじい勢いで人々の噂へとなっていった。

 宗教国家ガルズガレロ。その国に今、ヒーローの伝説が生まれた。それは新しい希望。将来、きっと今よりも良くなるという夢。それはゆっくりと、だが確実に、人々へと勇気を与え始めていた。
 


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