終章 『それでも貴方とわたくしは』 4/16
――夜の砂漠の上へ浮かんでいる月が、凍りつくような銀色に輝いている。わずかの欠けもない完璧な満月。その月はあまりにも、あまりにも美しすぎるが故に、逆に何かの『おぞましさ』を象徴しているかのよう。
工業エリア、地虫たちの棲む夜の砂漠へ絶え間なく吹き荒れる砂混じりの強風。その轟々とした音の中に、突如『グシャリ』という音が混じる。そして、ドサリッ……と重い物体が落下する音が続いた。
「ウシアブ!!」
自治人サキモリ・ハガネが部下の名を叫ぶ。夜の砂漠、列車の清掃ポイントの近くで彼女の予想もつかない事態が起こり始めようとしていた。
強襲用の一等自治人専用装備に身を包んだサキモリ。そんなものものしい完全武装であるのに、心細さと不安を抱く。
「何が……」
呟いた彼女の目前には、部下ウシアブが倒れていた。つい先ほどまでアバラを太い腕で拘束していた部下が……。まるで糸の切れた人形のごとく、夜の砂漠へその巨体を投げ出していた。
そしてユラリと、ウシアブの側へ目標の男『アバラ』が幽霊のようにたたずんでいる。
「……ッ!」
いったい何が? サキモリは唾を飲み込みながら混乱した脳を落ち着かせようとする。
アバラは部下から確かに強烈な打撃を受け、ほとんど失神状態で拘束されていた。その不自由な体勢から、恐ろしいほどタフなウシアブを一瞬でダウン出来るはずがない! はずがない……のに、目前でウシアブは砂漠へ倒れ、ピクリとも動く様子さえなかった。
「くっ」
アバラが何をしたのか? それは全く理解できなかったが、とにかくサキモリの前でアバラはボンヤリと立ったまま。
――ならば『やる』しかない。
自分の足元にうずくまっている天使……顔をサキモリから滅茶苦茶に蹴られ、苦痛にうめいているゾウムシをいつでも盾にできる様に移動しつつ、素早く、けれど慎重に腕を動かす。
サキモリの中へある『夢』。それを媒体とし、右手人差し指の夢武器へと力を収束させていく。
「ふぅぅぅ」
「ア、アバラ。逃げて、お願い」
血だらけの唇から、ぼろきれのような天使ゾウムシがか細い声を出す。けれどその囁きにどちらの人影も反応を見せない。
アバラは相変わらずただ砂漠へ立ったまま。
サキモリもゾウムシの相手をする余裕などなく、ひたすらに力を人差し指へと集め……そして射出準備が終わる。
けれど発射するタイミング、それが掴めない。いつ射出しても命中するような……が、どれだけ狙いすましても絶対にあたらない気もした。
「くそっ」
「あうっ!」
夢武器をあてる為のタイミングが欲しくて、サキモリは足元に横たわるゾウムシの顔……口元へと蹴りを入れる。力などほとんど入らないおざなりの一撃ではあるが、元々の傷口へとヒットさせたため、相当の激痛があるはず。
目論見どおり天使の弱弱しい悲鳴が響いた瞬間、アバラの体勢がユラリと揺れた。
「今!」
その時を逃さず、一等自治人は心の中の引き金を絞る。アバラの体を赤い光線で貫き、歓楽街エリアへ連行するために。
しかし……。
(――えっ?)
次の瞬間、サキモリの視界へ映ったのは砂の大地。指先へと集めた夢を射出する間もなく、何故か己の肉体が砂漠へと倒れこんでいる。
苦痛や衝撃は一切ない。ないのだがドサリ……という音、頬に冷たい砂の感触が触れ、自分が倒れこんでいる事を伝えてきた。
(な、なにっっ!!)
ピクリとも動かない。指先一本動かすことができない。驚愕で衝撃が走るが、それを表情に表す事さえ出来なかった。まるで死体のようにサキモリは砂漠へと倒れ伏す。まるでさっきの部下、ウシアブのように。
そして混乱している彼女の耳へ、ザクザクという砂漠を踏みしめて近づいてくる足音が響いた。
(こ、これは……)
襲撃直前、ウシアブから聞いたセリフが脳裏へと蘇る。不思議な地虫アバラ。かつてヤツと相対したウシアブは数秒しか立っていられなかった……と。
これがその原因なのか? 夢? これはヤツの黒夢なのか? やはりヤツは夢人で、一瞬の間に何かをされてしまった!?
「――!!」
何も出来ず砂漠へ横たわったままの体が、容赦のない勢いで蹴り上げられた。近づいてきたアバラの足が、無造作に小動物でも蹴るように打撃を加えたのだ。
肋骨から腹部へと襲い来る凄まじい衝撃。けれど悲鳴をあげる事さえ出来ない。蹴りの衝撃で仰向けとなる。
かろうじて見える視界に映っている目標アバラの姿。その足がゆっくりと上がり、何のためらいもなく自治人の顔面へと踏みおろされる。
(っううう!!)
ぐしゃりという己の顔が踏まれる音と、ゴーグルと鼻が折れる衝撃。凄まじい激痛がサキモリを犯す。けれど変わらず体は動かすことが出来ず、悲鳴さえ出ない……いや、そんな痛みよりも。
(呼吸! 呼吸がっっ!! できていないっ!!)
脳裏を襲ったのは痛みを越える衝撃。
いつから呼吸できていないのか? それは砂漠へ倒れた時、自治人の体が死体のように麻痺した瞬間から?
そう、悲鳴が出ないのも当然だった。サキモリの肉体は今呼吸さえしていない。指先一つ動かせないどころか、臓器である肺までもが麻痺していた。
(これは死ぬ……わ)
驚愕を受けている間も、断続的に迫るアバラの足。それは全く無頓着に何の容赦もなく、繰り返し繰り返し彼女の顔、胸、腹を思い切り踏みつける。
気が遠くなっていく。激痛によるものか、それとも呼吸できないからなのか、あるいは両方の理由からか。
とにかく意識は急速に薄れ始め、ただ何度もアバラの靴で顔を踏まれ続ける。眼鏡とゴーグルはすでに跡形もなく、顔面は血まみれ。前歯は全て折れ、頬の肉が裂けて白い骨とピンク色の筋が見えた。
しかも、頼みの綱である右手――姫から直々に賜った夢武器のリングが接続されてある――指までも念入りに踏まれており、骨は複雑に折れ曲がってあらぬ捻れかたをしていた。
「アバラッッッ!」
ほぼ絶望しかけたその時、サキモリの耳へ響く野太い声。それは部下ウシアブの叫び。そして、激しい足音の直後にドスンっという重い打撃音が響く。
(っ!! こ、呼吸が……、う、動く……)
その瞬間に自由になるサキモリの肉体。顔や全身を襲う痛みを忘れ、ただひたすらに呼吸をむさぼった。気管へと血が入り込みむせる。が、文字通り何とか息を吹き返し、ガクガクと震える両足へと力を込めた。
今しかないっ!
「ぐ、あああああっっ!!」
悠長に夢を貯めている暇はなく、サキモリは空気を裂くような声をあげつつ、思い切り左手にもった自治人用のトンファーを振るう。
ほとんど視界はきかないが一等自治人の勘、そしてなかば破れかぶれの一撃。
「ぐっ」
しかし、それはあやまたずにアバラの腰へとぶち当たる。一方的にウシアブへ拳を振るっていたアバラの背後から、腰骨への容赦ない一撃。
メキッと重い音が確かに耳へ届く。トンファーを握り締めた左手にも、かなりの手ごたえがあった。足や腕ならば間違いなく骨を砕いたと思う。
「くぅう」
そのまま追撃はせず、サキモリは転がるようにアバラから距離をとる。あまりにも得体の知れない麻痺能力を警戒し、一呼吸置こうとしたのだ。
けれど……。
(ま、またっ!?)
数メートルほど転がりはなれた所で、再び自治人の体が硬直した。指一本動かせない……いや、やはり呼吸さえ出来ない。
サキモリの心を恐怖が犯す。せっかく得体のしれない麻痺から逃れたと思ったのに……。
「アバラ、どこを向いてやがる。俺はまだッ!」
けれどその瞬間に響く力強い部下の声。そしてその瞬間に謎の麻痺は解除された。
あわてて呼吸を再開させつつ、サキモリはアバラとウシアブのほうを見る。
「ウシアブッ!」
サキモリの視線の先には何故か棒立ちのままでアバラの打撃を受けているウシアブの姿があった。部下のその様子はまるで死体のようで、さきほどの自分と同じ。巨体は完全に麻痺し、アバラのサンドバックとなっていた。
「これは……」
サキモリの脳へ閃きが走る。そう、考えてみればおかしい。不思議な麻痺がアバラの能力であったとして、なぜこうも途切れ途切れなのか?
それに、決まってサキモリが麻痺している時にウシアブの助けが入るのか?
「つまり」
言葉をこぼしながらサキモリは前方へと足を出す。アバラの手品の種は割れた。危機的状況に変わりは無いが、一縷の望みが全身に力を満たしていく。
「おおおっ!」
アバラの背後から声をあげつつ、思い切りトンファーを振りかぶる。視線の先で驚いたようにこちらへ振り向くアバラ。
その瞳から『何か』ドス黒いモノを感じた瞬間、サキモリの体から力が抜ける。呼吸さえ止める恐るべき麻痺。
――しかし、これは予想の範囲内。
「ぐっっ」
こちらへアバラが振り向いた瞬間にやはり麻痺が解けて動き出すウシアブ。その巨大な拳がアバラの後頭部へと振るわれる。
ゴツンッと鈍い音が響き、アバラの肉体が衝撃で揺れた。
(やっぱり……)
動かない肉体の中、サキモリは心中で納得と同時に勝利を確信する。
――標的アバラの得体のしれない能力。それは、『一人の肉体へ対する麻痺』だと。
黒夢なのか、それとも別の催眠術のようなものか? わからないが、今は十分。
これが一対一であれば、まったく何も出来ずに殺されていただろう。けれど、この状況であれば何の問題もない。
サキモリの肉体の麻痺が解ける。見ればアバラは背後のウシアブへと視線を向けていた。
「はははっ」
手繰り寄せた勝利に興奮しつつ、サキモリは素早く左指を腰のポーチへと這わせた。そこに装備してある『携帯再現機』を操作する為に。
――携帯再現機――それは一等自治人のみに使用が許された道具。夢武器を除いて考えれば、これこそがエリート中のエリートである一等自治人の最終兵器。通常の任務では支給されることさえ決して無い切り札<ジョーカー>。
噂に拠れば、人間の脳が部品に使われているという携帯再現機は恐ろしく高価であり、かつ使い捨ての消耗品。
――けれどそれ以上の価値はある。十二分に。
「ふぅぅぅぅ」
操作、発動したサキモリの肉体へみるみる内に漲る万能感と力。受けた傷の痛みさえ全く感じない。視力、嗅覚の強化はおろか筋力は常人の数十倍へ飛躍し、ゆっくりかつ僅かではあるが怪我さえも回復していく。
まさに擬似夢人と呼べる存在。通常、これを所持しているだけで敵対行為とみなされるために、こういう完全装備の時でしか使用できないが、その効果は圧倒的。
「シッ!!」
つま先にミシミシと音が鳴るほど力を込め、サキモリは砂を蹴る。瞬時にその肉体は数メートルの距離をゼロにする。蹴られた足元の砂が大量に舞い、まるで爆発したかのよう。
銀の月に照らされた姿は、まさに魔影。
サキモリは人間の目では確認し辛いほどのスピードを保ったまま、トンファーをアバラの背骨へと振るう。あたれば確実に背骨を砕き、瀕死になるパワーを乗せて。
――これで勝ち。
「がッ!!」
メキィィ! という音。そして完璧な手ごたえが左手に伝わる。アバラの背骨は砕かれ、余韻で2メートルほどその地虫の肉体が宙を舞う。
「フッ!」
サキモリは空中に浮いたアバラを見つめながら腰を一瞬落とし、両足の膝を曲げてバネを溜める。そして、再び爆発したように舞う足元の砂。マントを翼のようにはためかせて自治人は跳躍し、中に浮いているアバラのさらに上へ飛翔。
「その目を貰う!!」
あの麻痺の力はアバラの両目から照射されていた、とサキモリの勘がささやく。
その勘に従って、化鳥のように空中へ舞い上がったサキモリは、何の躊躇もなくアバラの両目を狙う。
常人をはるかに凌駕する速度と正確さを持って、左手の指先をアバラの両目へ……。
「うあああああっ」
もしかしたら麻痺させられるかも知れないと覚悟していたが、サキモリの指先が一瞬早かった……のか、それとももはやアバラにそれだけの力が残っていなかったのか?
とにかく結果的にサキモリの左手は凶鳥の嘴のごとくアバラの両眼球の中心へ突き刺さり、ブチュリという音と悲鳴が響き渡る。
「アバラっ! アバラ、やだっ、やだぁあああああああああああ!!」
ゾウムシの魂を絞るような悲痛の叫びが砂漠へ響く。その声を自治人は勝利の余韻とともに味わう。
(これで、勝った)
ヌルヌルとした液体と血にまみれた左指をアバラの眼から抜き取りつつ、サキモリはほっとため息をついた。
――それがあまりにも甘い考えだったと、後に後悔することも知らず。
◆
同じ頃、工業エリア市街地区にある大理石造りの一室にて。
『妖精』アマヤギリ・瑠璃は独り、お気に入りの椅子――数十人ぶんの頭皮をなめした皮で出来ている――に、その幼い外見のカラダを預けていた。
長い睫毛の下に小悪魔っぽく輝く瑠璃色の瞳はパッチリとした二重で、愛らしいと誰もが思う。ぷっくりとしたピンクの唇はつややかに輝き、わずかに覗く舌先さえも魅力を感じさせる。紫色の髪は、幼いながらも強烈な色気を漂わせる肢体を飾るよう。
黒色のゴシックドレスに身を包んだ夢幻のような美少女。伝説の赤夢使い。夢人のトップ。死の妖精。アマヤギリ・瑠璃。
全ての夢人の中で――原初の『男』その人を除けば――もっとも旧い存在の一人。ゆえにその能力は研ぎ澄まされ、元来戦闘向きではない赤夢使いでありながら、恐ろしい殲滅力を誇る。普通人は言うに及ばず、並の夢人であれど束になろうと歯牙にもかけない。
「……」
けれどこの所、妖精は確かに疲労していた。『転生者』という新しいタイプの夢人との連戦が、瑠璃のカラダに簡単には拭えぬ傷を与えていたからだ。
「あのお兄ちゃん……、アル・バラッドとか言ったよね?」
だからこそ今日の昼間に出会い、鮮やかに瑠璃のカラダから黒夢をヌいた男が気になっていた。転生者の『夢』はあまりにも今までの『夢』と構造が異なっていて、流石の妖精でさえ中和に苦労していたのに。
けれどあのみすぼらしい男は見事にヌいた。しかも、最高クラスの夢人たる自分から。
「おもしろーい」
椅子に座ったまま瑠璃はくすくすと笑う。あの男と出会った時に感じた波動は強烈だった。
夢人ではない……とだけは理解できたが、ただの普通人ではありえない。永い永い時を生きてきた瑠璃にとっても理解不可能な人物だった。
信頼している部下、獣人ユキの話では薄汚れたギャングだったそうだが、そんな事はどうでもいい。
「ああ、とっても楽しみ……」
この館へ招待したらどうやって歓迎しようか? 瑠璃はニコニコと輝くような笑みを浮かべながら考える。
まず、あの男の肉体をあどけない少年にまで退行させてみようか? もちろんペニスだけは現在のままで。
「ふふ……」
脳の記憶も弄ろうと、瑠璃は自分の唇を淫らに舐めながら思う。射精は何よりも恥ずかしい事……それ人に強制され、見られる事は死ぬほど情けない事だと意識を植え付ける。
そんな少年と化した男をひたすらに嬲りぬく。あどけない少年となった肉体で、わけもわからず必死で瑠璃に懇願するだろう。射精させないで、見ないで下さい……と。
「ああ、楽しそう」
瑠璃は自分の手をゆっくりと胸にはわせつつ吐息をもらす。脳内の予定で発情したその乳首は、黒色フリルドレスの布の下でぷっくりと硬くなっていた。
「ん……」
泣いてわめいて、死ぬほど恥ずかしい射精を見られたくないと抵抗する少年。そのペニスを唇と舌で追い詰める。
瑠璃の幼い小さな唇が少年の亀頭を這い回り、指でクニクニと肛門の前立腺を責める。涙を流している少年に、尿道をほじる舌を見せつけながら、おもいっきり射精させよう。
「ん、んん、ああぁ……」
瑠璃の左手がドレスの上から乳首を弄り続ける。そうしながら右手がゆっくりと下へと動き、ドレスの裾をずり上げていく。
大理石のように真っ白な太ももがあらわとなり、その奥……黒のレースがあしらわれたパンティが少しだけ空気に晒された。少女に似つかわしくないそれには、真っ赤なリボンが飾られている。
陰毛のまったく生えていないピッタリと淫唇の閉じた少女の性器は、持ち主の外見どおりに美しく、なんの穢れもないように見えた。けれどソコへ触れていく少女の指先。
「ん、んんんっっ」
はっきりと官能を感じさせる吐息。少女とは思えないほど固くなったクリトリスを黒のパンティ越しに撫でる指。
「――っん」
淫らな自慰を続けながらも瑠璃の妄想はとまらない。
――泣きながら瑠璃の口の中へ射精した少年。そのザーメンは全て空間を捻じ曲げて少年のペニスへと戻す。何度射精しても尽きぬザーメン。延々と繰り返される快楽。
それを全て瑠璃に見つめられ続ける。笑い、思い切り軽蔑され、罵倒の言葉を吐き出す瑠璃の前で、少年は止まらない射精を繰り返させられる。
「はやく、会いたいな……」
自分を慰めながら瑠璃は淫蕩につぶやく。あの男に渡したリング――瑠璃の夢武器――は、もちろん妖精自身と繋がっており、発動した瞬間に男の場所がわかる。
その時、瑠璃は空間と時間を一時的に捻じ曲げて、どんな障害があろうとも男を手に入れる。
それはきっと遠い未来ではなく、ごく近い……と思った瞬間。
「あっ!」
妖精の中で赤い夢が弾ける。遠く離れた場所で、今、この瞬間に夢武器が発動したのだと、はっきりと認識できた。
が、しかし、それは大きく瑠璃の予想と異なっていた。
「うっ、――っっ!!! な、なによコレ!!」
少女――伝説の夢人――である自分の制御を越えて、恐ろしい勢いで夢が引きずりだされていく。
それは夢武器の範疇をはるかに越え、もはや通常の夢人であっても夢に飲み込まれて消滅してしまうレベル。
永い永い時の間、さまざまな通常人や奴隷、ときには夢人から搾り出して蓄えてきた夢――それは瑠璃そのものと呼べる――が、彼女の制御をあっさりと無視して流れ出していく。
「あは、あははははっ。すごい。わたし、わたし、レイプされちゃってるっ。あああっ、すごい、あああああっ。痛い、痛いのに気持ちいいぃ!」
椅子の上で妖精のカラダがバタバタと跳ね、愛らしい顔には苦痛の表情が浮かぶ。その奥に見え隠れするのは紛れもない快楽の顔。
「すごい、ああああっ、すごいよぉ。イク、すぐに会いにイクからっ。あっ、あっ、あっ、イク、イクっ」
苦痛にあえぎながら、パンティの上の指を動かし続ける瑠璃。
「あ、痛いっ。痛いっっ。ああああっ、絶対、絶対に許さないからっ。あははっ、ああああああ。瑠璃もレイプしちゃうからね。お兄ちゃんを滅茶苦茶に、あっ、ああああっ。すごい、何コレ、何コレ、何これ!!」
部屋の中に響く妖精の絶叫。苦痛と快楽の混じりあった、表現しようもなく淫らな叫び。
ドレスの上からでもはっきりとわかるほど幼い乳首は勃起し、下着は沁みだした愛液でドロドロに濡れる。
整った愛らしい顔は、思い切り唇を開き、長く真っ赤な舌が見えた。
「あああっ、いく、いくっ、いくぅ!!」
ひときわ大きな絶頂の声……。
――そしてその直後、瑠璃の姿は椅子の上からあとかたもなく消えた。部屋の中に響く淫らな叫び。そのかすかな反響を残し。