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No.15558の一覧
[0] [エログロナンセンス!!!] 夢の国、地虫の話 [オリジナル][メメクラゲ](2010/07/20 11:41)
[1] 『地虫の話』 第一話[メメクラゲ](2010/03/12 19:57)
[2] 『地虫の話』 第ニ話[メメクラゲ](2010/03/12 19:57)
[3] 『地虫の話』 第三話[メメクラゲ](2010/03/12 19:58)
[4] 『地虫の話』 第四話[メメクラゲ](2010/03/12 19:58)
[5] 自治人の話 ①[メメクラゲ](2010/03/12 20:00)
[6] 『地虫の話』 第五話[メメクラゲ](2010/03/12 19:58)
[7] 『地虫の話』 第六話[メメクラゲ](2010/03/12 19:58)
[8] 自治人の話 ② 前編[メメクラゲ](2010/03/12 20:00)
[9] 自治人の話 ② 後編[メメクラゲ](2010/03/12 20:00)
[10] 『地虫の話』 第七話[メメクラゲ](2010/03/12 19:59)
[11] 『地虫の話』 第八話[メメクラゲ](2010/03/12 19:59)
[12] 挿話 普通人の話 前[メメクラゲ](2010/02/09 18:55)
[13] 挿話 普通人の話 中[メメクラゲ](2010/02/09 18:55)
[14] 挿話 普通人の話 後 [メメクラゲ](2010/07/20 03:27)
[15] 『地虫の話』 第九話[メメクラゲ](2010/03/12 19:59)
[16] 『地虫の話』 第十話[メメクラゲ](2010/03/12 20:00)
[17] 『地虫の話』 第十一話[メメクラゲ](2010/03/12 20:00)
[18] 自治人の話 ③ 上[メメクラゲ](2010/03/12 20:01)
[19] 自治人の話 ③ 中 [メメクラゲ](2010/03/12 20:01)
[20] 自治人の話 ③ 下 [メメクラゲ](2010/03/12 20:01)
[21] ※※※ 設定、用語集など 未完成 ※※※[メメクラゲ](2010/02/13 18:11)
[22] 『地虫の話』 第十二話[メメクラゲ](2010/03/12 20:01)
[23] 自治人の話 ④[メメクラゲ](2010/03/12 20:01)
[24] 『地虫の話』 第十三話 [メメクラゲ](2010/03/12 20:02)
[25] カッコウの話[メメクラゲ](2010/03/12 20:02)
[26] 自治人の話 ⑤[メメクラゲ](2010/03/12 20:02)
[27] 挿話 元普通人の話 前編[メメクラゲ](2010/03/14 05:04)
[28] 挿話 元普通人の話 後編[メメクラゲ](2010/03/19 02:14)
[29] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 1/16[メメクラゲ](2010/07/20 03:33)
[30] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 2/16[メメクラゲ](2010/07/20 03:33)
[31] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 3/16[メメクラゲ](2010/08/04 04:39)
[32] 終章 『それでも貴方とわたくしは』 4/16[メメクラゲ](2012/05/20 18:27)
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[15558] 自治人の話 ⑤
Name: メメクラゲ◆94ad61bb ID:583704fc 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/03/12 20:02
 挿話 夢の国、自治人の話 ⑤



 駅の床にぶちまけられた大量の肉片と血。周囲には悲鳴、怒鳴り声が駅の中に響き渡っている。
そんな悪夢のような状況の中、私は無くなってしまった左足の切断面を出血を防ぐ為、左手で押さえる。
出来るなら両手で押さえ込みたいが、右手は指先から右肩、鎖骨まで完全に砕け、肉を骨が食い破り白いモノが覗いている。
 たが、そんな事は気にならなかった。私、サキモリ ハガネの目の前で対峙する二人の『夢人』に視線が吸い寄せられる。

 一人は、右半身がグズグズに焼け焦げ、裂けた皮膚から覗く真っ赤な肉から血を滴らせている転生者。
しかし、そんな状態でありながらも、狂気に満ちた瞳を開き、爛々と殺意に目を輝かせている。
その顔の半分は骸骨と化し、右目は頬辺りまで零れ落ち、見る者の吐き気をさそう。
 ほとんど生ける屍とでも言えるその状態。だが、戦闘能力は失ってはいない。眼前を睨みながら左手に光珠を集束し始めている。
その危険なほどの大きさ。直径50センチに達しようかというサイズ。その破壊力を思い、背筋に冷たい戦慄が走る。

 転生者の目前に立つ、もう一人の夢人。それはまさに、女神としか言いようの無い存在。
就寝中だったのか、シンプルな白いワンピースを着ているダケの姿にも関わらず、周囲を支配するほどの圧倒的な美しさを持っていた。
 悠然と遥か高みから『転生者』を見下ろすような微笑を浮かべ、時折吹く風に肩までの長さの紫髪を揺らしている。
『姫』 アマヤギリ・翡翠。その名の通り、美しく翡翠のように輝く瞳。ワンピースの裾から透き通るほど白く、細い足を伸ばし、血と肉で汚れた床へ立つ。

「引き際を知らぬ下郎よな。妾の手を汚すのもおぞましいが、これほど多くの人々を害した罪。妾が直々に罰を下す」

 ルビーのように真っ赤な唇を笑みのカタチに歪め、姫が言葉を告げる。その言葉に応じるように、姫の周囲へまるで霧のような白いモヤが漂い始めていく。
形の良い足から、華奢な全身を覆うようなその白きモヤ。ソレが私の目には、まるで『姫』を飾る純白のドレスのように見えた。

「あぁぁあああああ!!」

 転生者がおぞましい叫び声を上げ、左手を『姫』へと向ける。
ビリビリと空気が震えるほどのエネルギーを放つ光弾。回転しながら、ソレが凄まじい速度で転生者から射出される。

「ひ、姫ッ!!」

 出血多量で霞む私の視界。消えそうになる意識。だが、ぎりぎり自我を保ちながら、姫の身を案じ喉の奥から叫び声を上げる。
アレをまともに喰らったら、流石の姫でも……。己の顔が青ざめていくのが解る。
 だが、『姫』は優雅に立ったまま回避しようともしない。あくまでも優雅に、迫り来る光弾へと微笑んでいる。
何故!? 心配のあまりパニックになる。その瞬間、気付く。姫と転生者の立っている場所……。
なんてこと……、もし姫が回避すれば私だけでなく、まだ辛うじて生き残っている人々へと光球が着弾してしまう。まさか……。

 カッ!! と目に焼きつくほどの閃光が煌く。直撃……。微笑みながら立っていた姫の上半身へモロに光球が当たる。
その瞬間、姫の周囲を飾るように漂っていた白い霧が集束。瞬時に『姫』へと集まる。
 一体、何が……。見守る私の目の前で、そのモヤが晴れ、視界が開ける。

「ふむ……。これがキサマの全力か? 所詮、まがい物の夢人よな。能力も、外見も、考え方も、その経験すら全てが借り物、寄生虫よりもおぞましい下種。存在するだけで虫唾が走る、ただの自己顕示欲の塊。生まれ出でて、即座に巣を乗っ取る鳥、カッコウよりも歪で醜いナルシスト」

 そこには、全く微動だにせず、悠然と立ったままの『姫』がいた。髪の毛一筋ほどのダメージも無い。
鮮血のような真っ赤な唇を、笑みの形に曲げ、失望したような声で呟いている。
その呟きに呼応するように、周囲を漂う白い霧。ソレがよりいっそう濃く広がり始め、血まみれの空間全てを包み込むように広がっていく。
 これは……。その白い霧、私の右手、左足に触れる。その途端、全身を通り抜ける心地良い振動。
体の疲労、出血からくる倦怠感、それら全てを吹き払うような快感。右手の砕けた骨が、何の痛みもなく回復していく。
驚きに目を見張る私の前で、ほとんど一瞬の間に骨折が治り、裂けた皮膚、筋肉すら修復していく。

周囲はミルクのような霧に閉ざされ、視界が全く効かない。しかし突然、その霧を切り裂くような恐ろしい苦痛の叫び声が上がる。
聞くだけで鳥肌が立つほどの、喉の奥から搾り出すような絶望のうめき声。

「キサマの全身、細胞全てを腐らせた。生きながら、体が腐れ落ちる苦痛。それをキサマが害した人々への手向けとしよう。おぞましき存在よ、悪夢の中で逝くがよい」

 姫の凛とした声が、転生者の苦痛の叫びを切り裂くように響き渡る。恐ろしいほどの苦痛の叫び声、そしてガラスが砕ける音。
そして、周囲から歓喜の声が上がり始める。瀕死だった人々、彼らが『姫』の霧に助けられたのか、次々と目を覚まし、驚愕しながらも喜んでいる。左半身がグズグズになっていたウシアブですら怪我一つ無く、きょとんとした顔で周囲を見渡している。
 その光景に呆然としながら、私は左足を見る。膝から下が完全に消失したはずの左足。その場所へ大量の霧が集束し、まるで足のように形作っている。
突然、ずきりとした痛み。驚きに目を開きながら、ソレを見る。足が、無くなった足が『再現』されていた。
どんな白夢再現機にも出来ないほどの奇跡……。『姫』の底知れぬ能力に、恐れにも似た畏敬の感情が沸き上がる。

「大丈夫か、サキモリ。もう、案ずる事はない。僅かでも生きていた者は助かるであろう。そなたの己を犠牲にしての行動、そこの下等自治人の男ともども、見事、大儀であった。妾は、そなた達を誇りに思う」

 だんだんと薄くなっていく霧。その中を足音一つ立てず、姫が静かに歩み、私に向かって口を開く。そのあまりにも美しい顔……。
戦闘後なのに、汗一つかかず優雅に微笑んでいる。その笑顔と、あまりにもったいない褒め言葉。自然と頭が下がっていく、まともに顔を合わせられない。
その存在感。何か言葉を言わなければと焦るのだが、圧倒的な美しさに気おされ、何も思いつかない。
 しかし、何か言わなければ、そうだ……。列車の中で見たあの男。私の勘に触るあの男の姿。ソレを姫に読んで頂ければ……。そう思いつき、口を開こうと……、

「あらあら、瑠璃のエリアで随分好き勝手してくれたのね『姫』 お久しぶりね、と言うより初めまして、かしら? ふふっ、普通人に媚びを売り、恋に狂った『姫』にはお似合いのお洋服だこと。『妖精』アマヤギリ・瑠璃よ。ここは私のエリア。その忌々しい顔を下げ、瑠璃へと平伏なさい」

 突如、はっきりとした、しかし幼い声が響く。鈴が鳴るように美しいその声。その方向を見る。
そこには『姫』そっくりの紫色の髪を腰まで垂らした、美しい少女が立っていた。フリルの沢山ついた、黒曜石のようにキラキラと輝くドレスを纏い、妖艶な微笑みを見せる少女。
 圧倒的な気配……。見ているだけで心が折れそうになるほど、強烈な力を漂わせている。『姫』を瑠璃色の瞳で睨みながら、小さな手をヒラヒラと舞うように動かす。
その動きに合わせ、崩れ落ちた建物。ソレが轟音を響かせながら、みるみるうちに元の場所へと戻っていく。ありえない……。ありえないほどの『赤夢』
 これが……、『妖精』か……。ごくりと唾を飲む。工業エリアの支配者、何歳とも知れぬ、圧倒的な夢人。ほとんど伝説のような存在、アマヤギリ・瑠璃。

「初めてお目にかかる。そして、久しいな『妖精』 先代より継承した記憶通り、相変わらず夢を生む為、全てを犠牲にしておるのか? 恋も知らず、200年もの永い時を、ただただ機械の如く夢を生み出す存在。その呆れるほどの精神に挨拶をしよう。妾は、9代目『姫』アマヤギリ・翡翠なり。今回は非常事態ゆえの事。そなたと争う心算は無い。早急に此処を去る。それでよかろう?」

 優雅に微笑みながら、睨み合う二人の『夢人』……。先ほどの転生者との一戦が、まるで子供だましだったかのような緊張が高まっていく。
怪我から回復した人々が、這うような動作で二人から必死に遠ざかる。その気持ちが痛いほどよく解る。見ている私の肩がガクガクと緊張で震え、喉が渇く。
 ただひたすらに恐ろしい。この二人の発する、とてつもない量の覇気が空間を歪めていくようにすら感じる。

「うふふ、そんな話が通ると思っているの? そこの二人、眼鏡のお姉ちゃんと豚そっくりのお兄ちゃん、どうやら自治人でしょ? 瑠璃のエリアに、アナタの薄汚い手下を送り込んで、一体どういうつもり? また争う? アナタの先代とは随分遊んだわ。さっさと目的を教えなさい。貴女を殺す事は流石に無理。でもね、そこの自治人なら一瞬で殺せるし、殺すわ」

 『姫』の美しい唇が一瞬、苦悩するように歪むのが解った。当然ながら、己の管理エリアで『夢人』を殺害された事を知られたくないのだろう。
無言のまま立っている『姫』
 だが、その様子に業を煮やしたのか、『妖精』は私達の方へとチラリと視線を向ける。その顔に張り付いた微笑……、恐ろしいほど美しく、冷たさを感じた。
膨れ上がる『妖精』の殺意。折れる、心が砕けてしまう。軽く視線を向けられただけなのに……。圧倒的な力の差を感じさせられてしまう。
何も出来ないまま殺される。はっきりとした現実に、歯がガチガチと鳴り、思わず後ろへと後ずさりを……、その時、背後からドンッっと強い衝撃。

「しっかりしろ、サキモリ一等殿。俺達は『今』生きてる。醜くても足掻け。相手なんて関係ない。クソ塗れの地虫らしく、最後の最後まで足掻け」

 力強いのに、ボソボソとした低い呟き声。私の背後に立っていたウシアブ。制帽を深く被り、濃いブルーの制服の胸を張り、堂々と立った姿。
まるで怒った豚のような顔。一気に緊張がほぐれ、笑みが浮かぶ。全く……、やはり私の勘は正しかった。この男は立派な自治人になる。

「ふふ、私は地虫じゃないわよ。そして……、貴方も違う。もう貴方は自治人よ。でも、その意見……、全面的に賛成するわ」

 背後へ強く言い返しながら、赤い眼鏡のズレを直し、膝の震えを誤魔化しながら立ち上がる。『姫』が驚いたような、そして嬉しそうな顔で微笑んでいる。
それを横目で見ながら、妖精へと向き直り、しっかりとその瑠璃色の瞳を見つめ返す。

「申し遅れました瑠璃様。私は歓楽街一等自治人、サキモリ ハガネと申します。背後に控えますは、我が部下のウシアブ。ご挨拶が遅れた事、深くお詫び致します。この度、私どものドラッグ密売、販売調査におきまして、努力不足の為に犯人を工業エリアへと捕り逃しました。瑠璃様へとご挨拶に向かう途中、先の騒動に巻き込まれた次第であります。ただし、犯人の居場所の見当はついております為、私どももすぐにこのエリアを立ち去ります。ご心配なきようお願い申し上げますわ」

 深く頭を下げ、堂々と大きな声で言い切る。内容は嘘塗れ。元々、挨拶に行くつもりなど欠片も無かったし、内容もでっちあげだ。
だが、歓楽街エリアでのドラック捜査が最近まで行われていた事は周知の事実。
 そもそも、『夢人』は薬物系ドラッグを嫌っている。ドラッグディスクでの夢に比べ、あまりに体や精神に害を与えるからだろう。
この言い訳は通る、と思うが……。内心では冷や汗を流しながら、頭を起こし『妖精』に向かって優雅に微笑む。

「そう……、ここ最近、確かにドラッグの捜査についての報告がギルドから来ていたようね。まあ、瑠璃には関係ないからギルドに任せてたけど……。ふーん、でも本当なのかなぁ。お姉ちゃんが着けている指輪、夢武器でしょ? ちょっと見た感じ相当のモノよね。いくら『姫』が夢人の責任を放棄して、下民どもの仕事を手伝っているとは言っても、どうなのかなぁ。うーん、お姉ちゃん、何か隠してない?」

 小さな手を顎にあて、首をかしげながら考えている妖精。本当にあどけなく、可愛らしいのにどこか妖艶な気配が漂っている。
とにかく、思考を読まれたらアウトだ。『姫』のフォローを願うしかない。
 横目で姫を見る。満足そうに頷き、微笑んでいる。どうやら、乗り切れるか? 対峙したまま、誰も口を開かず数分の時が流れる。
緊張で胃が痛む。背後で岩のように立っているウシアブが頼もしい。何か、言うべきだろうか。最後の一押しとなるような言葉を……。
頭の中で必死に考える。と、その時、

「る、瑠璃さまー。も、も、申し訳ありませんって、キ、キサマら、何者だっ!!」

 突如、甲高い声が、対峙を続けている私達の間に入る。息一つ乱さず、素晴らしい速度で駆けつけてきた女性、いや獣人がいた。
瑠璃を庇うように、その前に立ち油断なく両手を構える。黄色の髪を後ろに纏め、頭上に生えている猫のような耳をピクピクと動かしている姿。
虎、だろうか? まあ、そういう大型の獣との混在存在だろう。濃いブルーの瞳で、姫と私達を強い眼光で睨んでいる。

「ちょっと、ユキ。お兄ちゃんはどうしたのっ!! あなた、まさかっ!!」

「は、はい。逃げられちゃいました、申し訳ありません瑠璃様……。屋敷に入る直前、いきなりドアを『ヌキ』され、あの男の仲間らしき者たちが次々と……。どうやらあの男は薄汚いギャングだったようです。本当に申し訳ありませんっ」

 妖精の声に、耳を垂らし必死で謝り始める獣人。本気で謝罪しているのだろうが、どことなくユーモラスで憎めない。
場の空気が一気に緊張感を無くし和む。長い尻尾を足の間に巻き込み、ペコペコと涙目で頭を下げている。
 妖精が何かブツブツと文句を言うたび、両手をこすり合わせ哀願している。だが、悲壮感は無い。どうやら、見る限りでは妖精とこの獣人は良い主従関係のようだ。

「もうっ、ユキったら、いいわよ。どうせお兄ちゃんがアレを使えば、位置は解るんだし。仕方ないわ。瑠璃の想像以上に凄腕の『ヌキ屋』だったって事よね。ふふっ、ますます欲しくなっちゃった。さっ、その話はもういいわ。それじゃあね、こっちのお客様はどうしようかなぁ……」

 あどけない笑顔で瑠璃が言葉を話す。先ほどまでの張り詰めた殺気が薄れている。なんとかなりそうな気配がする。
私は気取られぬように、ゆっくりと息を吐き出しながらたたずむ。

「妖精よ、妾はもう飽きた。審議は充分であろう? 先ほどの宣言通り妾は此処を去る。我が自治人は優秀だ、そなたに迷惑は加えぬ。ドラッグは我等共通の害のはず。妾の不出来からこういう状態になったが、今日、妾が工業エリアの人々の命を救った事で良しとせぬか? 無意味な争いはそなたも望まぬであろう?」

 姫がゆったりと言葉を紡ぐ。その足元から立ち上る白い霧が、どんどんと濃さを増していく。姫の美しい肢体を隠し、純白のドレスのように姫へ纏わりつき始める。

「そうね、瑠璃も今日は流石に疲れたわ。だけどっ、そこの自治人の行動監視としてユキを連れていって貰うわ。これは譲れないわよ。ユキ、解ったわね? この自治人に同行し、このエリアを立ち去るまで見届けること。ただし、その期間はいかなる理由があろうとも二日間。その二日間を過ぎても、瑠璃のエリアにまだ居残っていたら、絶対に殺すわ。わかった?」

 妖精の提示条件に舌打ちしそうになる、が、仕方ないと諦める。姫を見れば、ゆっくりと頷いていた。驚異的な身体能力を誇る獣人と言えども、妖精よりはマシだ。どうにかするしかない。妖精の言葉に深く頷き、感謝の言葉を返す。

「寛大な処置を頂き、ありがとうございます。それでは歓楽街エリアの2名は盟約通り、残り48時間以内にこの工業エリアを立ち去ります。それでよろしいですか、妖精様」

 瑠璃色の瞳を見ながら、言い終える。どことなく不機嫌にしながらも、妖精は頷いて、小さな口を開き欠伸を始める。
何があったか知らないし、興味も無いが、疲労していると先ほど言っていたことは嘘ではなさそうだ。

「ええっ!! ワ、ワタシは瑠璃様と一緒がいいです。こ、こんな他エリアのやつらと行動するなんて、しかも最大2日もですか……」

 気落ちしている獣人。それでも瑠璃に睨まれ、しょんぼりした様子で私達へと近づいてくる。よほど妖精の側に居たかったのだろう、顔を伏せているが、悔しさのあまりか、歯を噛み締めながら歩いてきた。
 右手を差し出し、握手を行う。簡単な自己紹介を行い、挨拶をする。さて、問題はどうやってこの獣人を騙すか、だ。
考えようとした私、だがそこへ姫への言葉がかけられた。

「サキモリ、すまぬが妾は戻らせて貰う。そのリング、補充しておいたからの。使用回数は3回。勿論、最後の1回にはアレを仕込んである。それに前回のリングよりも威力は上げておるゆえ、あまり無茶はせぬように。よいな? そう、それから、お主達の気概と精神、非常に喜ばしかった。最近妾は思う。夢人とソレ以外の人々、実はなんら変わりはないのではないか? とな。己に恥じぬ生き方が出来れば良いと思うのだ。まあ良い……。それでは、そなたらの無事を祈っておるぞ」

 その言葉を最後、瞬時に姫の体に白い霧が纏わりつき、白い輝きが放たれる。目がくらむほどの美しい光。その直後、姫が消えていた。まるで夢だったかのように……。

「ふんっ。自分のエリアに己自身を『再現』したのね。姫の白夢、相変わらず化け物だこと……。じゃあ、ユキ、瑠璃も帰る。その自治人について行ってね、頼んだわよ。あ、そうそう、眼鏡のお姉ちゃんっ!!」

 妖精が私に向かい、ニコニコと微笑みを向ける。殺意は感じられない。感じられないが、とても逆らえない雰囲気を発している。

「瑠璃はね、姫みたいな甘い希望は持ってないんだ。アルカディアは夢で維持されてる。だから、夢を創り、維持できる人々に従うのは当然だと思うの。つまりね、このエリアで瑠璃に逆らったり、変なコトしたら、殺すよ……。いい?」

 唾を飲み込みながら、そのあどけない笑顔に頷きを返す。納得したのか、駅の出口に向かい歩き去っていく妖精。
背中からドッっと汗が噴出し、その場に座り込みそうになる。いけない。気力を振り絞り、ウシアブと獣人へと視線を向ける。

「さ、それじゃあ夕方の列車まで待機しましょう。ユキさん、貴女に紹介しとかないといけない天使もいるしね。さぁ、行きましょう」

「えっ、もう一人? あれ、瑠璃様は二人だって言ってなかったか?」

 驚いたようなユキの声。まあ、妖精がそう思ったことは事実だろう。シャーロットお嬢様は、ここから離れた場所にいるのだから。
が、どんな理由であれ妖精と約束したのは二人だ。時間制限通り、48時間後にこのエリアを出て行かなければならないのは二人だけ。
最悪の場合、私だけは、此処に残れる。

「え? ああ、貴女が来る前に天使についての話は終わっていたの。全部で三人、いやユキさんを入れて四人ね。さ、行きましょう。随分疲れたわ。列車が予定通りに運行すればいいんだけど……」

 何気ない口調で嘘を吐き足を進める。背後からウシアブの大きな欠伸が聞こえた。先ほどまであった、崩れ落ちた瓦礫、飛び散った肉片や血痕は影も形も無く、清潔な駅の風景が広がっている。
 大勢の人々があわただしく駆け出し、待合室に多くの人々が座っている。

「ウシアブっ!! わたくし、もう、心配してましたのよっ!!」

 その中に大きな声が響く。笑顔でこちらへ駆けてくるお嬢様。必死で人々を誘導していたのか、額に汗を流し、高級なドレスも所々破れている。
だが、そんなことは気にならないとでも言うように、私達に向かい駆けて来る。横目でウシアブの姿を見る。
 妖精にも動揺していなかった巨漢が、醜い顔を真っ赤に染めて立ちすくんでいる。

 自然と頬が緩む。が、内心気合を入れなおす。ここから先も容易なコトでは済まないだろう。
私は自治人だ。あくまでもノーマルの生活を守る事が使命であり、そもそも私の力ではノーマルを守ろうとするのが精一杯。
 地虫、そう、これから向かうのは地虫の棲家。はたして、ウシアブはエリアは違うとは言え、かつての同僚である地虫と戦えるか?
いや、場合によっては殺す必要もあるだろう。

 微笑んでいるシャーロットお嬢様の顔。途方にくれたようなウシアブの真っ赤な顔。
これから、この二人は厳しい現実に直面する事になる。
 幸せそうな二人の姿を見ながら、その現実を二人が乗り越えてくれる事を願いつつ、私はゆっくりと、ため息を吐いた。 



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