校舎手前にある広場。その中央にあるモニュメントに、腰をかけ寝転ぶ一人の少年。 苦渋の表情を浮かべ、口から吐き出すのは溜息ばかり。「はあ、長谷川さん、僕の話を聞こうとしてくれないんだもん。どーしよ……」 少年は手に持つクラス名簿を開くと、自分の受け持ったクラスの少女達の顔写真をボーっと眺める。 このクラスの前任の担任であったタカミチ・T・高畑が書き込んだ文字。 それに気づくとバッと起き上がり、目を皿のようにして見る。 何か、役に立つ事が書いてあるかも。 少年は期待を胸に、出席番号25番、長谷川千雨に注目する。 帰宅部、パソコンが得意。「ダメだーーーーッ!」 手をバンザイの形に大きく広げると、バタン、と再び仰向けに倒れた。 昼を告げるチャイムが校舎から聞こえてくる。 ワイワイと少女達の楽しそうな声。 少年は重い息を吐きながら目を瞑る。 日の光で真っ赤に染まる瞼の裏側。 太陽の眩しさに耐えかね、右腕で目を覆い隠す。 最初に思い浮かんだのは、尊敬してやまない父親の顔、続いて故郷の姉や幼馴染の笑顔。 こんな所で躓く訳にはいかない。僕は、マギステル・マギになって父さんを…… 次に浮かんだのは、話を最後まで聞かずに逃げてしまった長谷川千雨の顔。 いっそ、記憶を消してしまおうか。そうすれば、何も問題は無くなるんだし…… 最後に思い浮かんだのは、自分の保護者となった横島の顔。 学園長に言われた、面倒事があれば全部押し付けろ、その言葉が脳裏に過る。 そして、朝のやり取りも。『そうだネギ。もしもその千雨ちゃんって娘が空飛んでたトコを見てたとしても、安易な行動はとんなよ?』『えっと、どう言う意味ですか?』『安易に記憶を消そうとすんなって事だよ』『でも、秘密を知られたら……』『最終的にはそうせな成らんかも知らんが、焦る必要はねーって事だな。スグに世界中に魔法の事が知られる、ってんじゃ無い限りはよ』 焦っちゃダメだ。 安易に魔法に頼ったらダメだ。 キチンと話を聞いて貰えるまで、諦めたらダメだ。 話を聞いて貰って、それでもダメだったら、その時、初めて横島さんに相談すれば良い。 ネギはギュっと口元を引き締める。 頑張ろう、そう思いながら目元を隠していた腕をどける。 すると、不意に真っ赤だった瞼の裏に影が差す。 何だろう? ネギはゆっくりと瞼を開いた。「こんなトコで何やってんのよ?」「アスナさん……?」「なに悩んでんだか知んないけどさ、話ぐらいは聞いてあげられるわよ?」 寝転んでいたネギを立たせ、背中やお尻についた埃をパンパンと叩き落す。 そして困惑気味のネギの手を握り、そのまま彼を引っ張って歩き出した。 ギュっと握り締められた暖かく柔らかい手の感触に、ネギは顔を赤らめながらも素直にアスナの後ろについて行く。 握り締める手の力をちょっとだけ強くして。「お姉ちゃん……?」 その後ろ姿に、故郷に居る姉のネカネを見てしまい、思わず口にしてしまう。 アスナは少し驚きの表情を浮かべ振り返る。 ネギは口にした言葉が恥かしかったのか、ちょっと赤かった顔がこれ以上無い位に朱に染め上げ顔をうつむかせる。 そんなネギを見て、ほんの数分前まで横島や茶々丸と淫蕩に耽っていたとは思えない程に、アスナは自然と優しい笑みを浮かべた。 おねえちゃん、か…… これまで、妹ではあっても、姉になった事は無かった。 胸の中が暖かい何かに包まれ、もしもあの人と出会わなければ、この子の為だけに生きた可能性もあったのかもね? そう思いながら、横島の顔を思い浮かべ、そして次に姉のタマモの顔を思い浮かべる。 大切な家族と出会わない未来。それを想像した途端、瞬時に暖かかった心に寒風が吹き込んだ。 それは、思ったよりも冷たく、そして……、恐ろしい。「ど、どうしたんですか、アスナさん!」 昨日、自分を折檻した時の鬼の様な顔と違って優しく微笑んでいたのに、急に顔を真っ青にさせたアスナ。 そんなアスナを、ネギは心配そうに下から顔を覗き込んだ。「あ、な、何でもないわよ、何でも……。 ほら、そんな事よりさっさと行くわよ! 早くしないとお昼ご飯、食べられなくなっちゃうわよ!」 そう言って誤魔化すと、ネギに顔を見られないように前を向いて走り出す。 手を引っ張られ、戸惑いの声を上げるネギに気を掛ける余裕も無い。 アスナの心には、さっきまであった暖かい何かが完全に消え去り、今は得も知れぬ恐怖に包まれていた。 エヴァンジェリンと茶々丸に挟まれ、血を流し倒れ伏す横島の姿を思い出す。 それは、彼を、大切な人を失うかも知れない恐怖。 ガトウ、雪之丞、次々に居なくなってしまう大切な人達。 それ等の人達と出会わなかったかも知れない未来。 怖い、怖いよ、忠夫、タマモ姉さん…… 何気なく考えた彼等の居ない自分の世界。 そんな可能性の世界を必死に脳裏から振り払い、アスナはひたすら走る。 そして思うのだ。 もしも、再び同じような場面に出くわしたら、例え相手が大切な友達や恩人の息子でも迷わず戦い、そして…… 後悔はする。罪悪感で夜も眠れなくなるかもしれない。 それでも、『今』の神楽坂明日菜にとって、横島忠夫は何者にも代えられない。 それは奇しくも、彼女の大切な家族の一員となった雪広あやかが、先刻心に刻んだ事と同じ答えだった。 ネギま!のほほん記 第6巻 ちーむYの昼休み つい数時間前にはアスナが暴れていた中等部の屋上。 そこは、まだ春に成り切れていない肌寒さを感じさせる。 それでも太陽が照っている所為なのだろう。寒さよりもほんのりと暖かさを先に感じさせるのは。 フェンスの向こう、その眼下には、グラウンドや校庭で楽しそうな声を上げる、アスナ達と同じ学校の生徒達。 所々に窪みや破砕した後があるのは、さっきまであやかに怒られていたアスナの戦闘行為の跡。 自分達以外が居ないのは、あやかが張った認識阻害と結界のおかげ。 そんな場所で、各々用意したお弁当や購買のパンを食べながら、ネギの話に耳を傾ける一同。 話はこうだ。 長谷川千雨は間違いなく、ネギと木乃香の空の散歩を目撃した。 その事を確認したネギは、魔法の事を千雨に話して内緒にして貰おうとしたのだが、最後まで話を聞いて貰えず逃げ出されてしまう。 すぐに追いかけようと後を追うネギ。だが、今ここで苦笑しているハルナを始めとする2-A生徒達に捕まり……「説得する事が出来なかった、と言う訳なのですね?」「あっちゃー。ゴメンねー、ネギくーん。そんな理由だって知らなかったしさー」「い、いえ。どの道、最後までお話する事は出来なかったと思うし……」「ふう……、それは私の責任でもありますわね。もう少し足止めしておけば良かったですわ。申し訳ありませんでしたわ、ネギ先生」 千雨に魔法を見られちゃったのか、と授業後のネギとあやかの行動に納得する夕映とのどか。 魔法関係者にとって、魔法の隠匿は大切な義務。 それを犯してしまった以上は、なんらかの行動を起こさなければならない。 魔法生徒に成り立ての夕映やのどかには、痛い程良く解る。 自分達の魔法の先生、シスターシャークティに耳にタコが出来るほどに言われ続けているのだ。 特に自分の先輩(?)に当る美空なんかは特に。 ハルナは他の2-A生徒達とネギを追い掛け回した事もあり、居心地が悪そうに笑う。 あやかはそんなハルナに呆れた視線を向けながら、もう少しだけおバカさん達を食い止めておけば、と少しだけ反省。 ネギはネギで悩み事を口にした所為か、先程までの重苦しかった悩みも軽くなった気がして、ちょっと嬉しそう。 「要するに逃げられなきゃ良いんでしょ? 私に任せなって!」「早乙女さん……、えっと、どうするんですか?」「ハルナで良いわよ。どうするかって、部屋に押しかければいいじゃん。確か千雨ちゃんて一人で部屋を使ってたよね?」「ええ、どう言うわけか彼女は2人部屋を一人で使ってますね。ちょっと前のこのかみたいに」「だったらさ、万が一の時も対処しやすいっしょ?」 ハルナを中心にして千雨対策を考えている中、アスナは胸元とスカートの裾を押さえて何処かモジモジ。 ここに来る前に感じた恐怖……からではない。 大体において、ネギが敵対する可能性は低いだろう。 それ以外の身近な相手で危険なのは、木乃香に何かあればそのまま敵となる桜咲刹那と、エヴァンジェリン主従くらいなものだ。 友人の茶々丸は信頼に値する子だし、エヴァとは何らかの協定を結んだようだから信用しても良いだろう。 ただ、常に用心を怠らなければ良い。 此処に来てすぐ、あやかに怒鳴られながら、アスナはそう思った。 何より自分は一人ではない、同じ使徒であるあやかが居る。 彼女は自分よりも冷静に物事を判断出来る。 それに大事な家族である夏美や千鶴もいる。 まだまだ覚悟と精進が足りないけれど、木乃香、のどか、アキラ、夕映もいる。 彼女達が力と覚悟を手にしたその時、アスナは一人で頑張る必要が無くなるのだ。 それに、元来アスナは物事を深く考えるタチではない。 咽もと過ぎれば熱さを忘れがちな性格と言っても良い。 だから、何時までもイジイジと悩んだりはしないのだ。 では、何故モジモジと落ち着かない様子なのか? それは、彼女のうっかり、と言うか、天然?的な行動の所為である。 履き忘れ。 制服の下が、何も無い。 ブラウスの下はノーブラ。スカートの中身はノーパン。 辛うじて黒のニーソックスを履いているだけ。 何だか横島が喜びそうな格好である。 そんなだから、スカートの中がすーすーして仕方無い。 もしも何かの拍子に捲れでもしたら……、と考えてしまい落ち着かなくなったのだ。「アスナさん?」 不審な行動をとるアスナに、訝しげな視線を送るあやか。 アスナはビクンっと身体を跳ねさせ、適当に愛想笑いしながら勢い良く立ち上がり、彼女の方を振り向いた。 両端に縛られた髪がフアッと弧を描き、隣で座って話し込んでいたネギの鼻の辺りを通り過ぎる。 少し鼻の粘膜が弱いのか、ネギはちょっとした刺激で鼻をムズムズさせると、「は……ハクシュン!!」くしゃみをした。 一度あることは何度でもある。 アスナは当然ネギの暴走『風花・武装解除』の魔法に備えていたし、この時もネギの魔力の不自然な膨れ上がりに気づいて反応する。 ネギの武装解除の魔法が自分に届く前に、霊力を腕に纏わせ振り払う。 だが、対茶々丸戦で使い切ってしまった気力や魔力や霊力。 例え横島の性魔術で少しは回復していたとは言え、本調子には程遠く、疲れもあった。 魔法を振り払うための行動が微妙に遅れ、その上で絶対的な霊力の量も足りなかった。 手を振り抜くよりも早く彼女に魔法が到達してしまい、完全魔法無効化能力を発動させる前に、彼女の武装を解除した。 風がアスナに絡みつき、ズバァッ! と音を立てて服が吹き飛ぶ。 シーンと静まり返り、周囲の者達が唖然とした面持ちでアスナを見る。 昨日はまだ下着一式が残っていた。だが、今のアスナの格好は靴下を除けば何も残っていない。 悩みが解決に向ってホッとしたネギだったが、自分がやってしまった事に慌てふためく。 何せ、昨日よりも状況が遥かに悪いのだ。「あ……ああ……ご……ごめ……」 恐怖で言葉が上手く出せない。 思い起こすのは昨日の調教、もとい折檻、いや教育。 恐怖と絶望で身体がガタガタと震え止まらない。 ネギの目には見える。怒気を撒き散らしながら自分を地獄へと誘う悪鬼の姿が。 その悪鬼たるアスナの髪が、下からすくい上がるように風でフアッと舞い上がった。「ひ、ヒィッ!?」 昨日の懲罰を思い出したのか、その瞬間ネギは両腕で顔を覆い隠し目を瞑った。 恐怖で身体をガチガチに硬直させながら、その審判の時、鉄拳と言う名の制裁の衝撃に備える。 だが来たのは、自分を殴り飛ばす拳と言う名の災厄では無く、ペタン……と何かが貼り付いた様な音。 何だろう? ネギは恐る恐る目を開ける。 そこには悪鬼の様なアスナでは無く、尻餅ついて両手で胸を覆い隠し、膝に顔を埋めてピクリともしない少女の姿。 ネギからはアスナの桃の様なお尻と、スラッとした背中しか見えないが、アスナが何やらショックを受けていると言う事だけは分かる。「あ、あの、アスナさん、どうしたんですか……?」 ネギは恐々アスナに問いかける。 てっきりぶん殴られ……もとい、修正されると思っていたので、ネギも少し困惑気味。 そしてアスナの背中に目にがいく。 キレイな肌。だが、幾つもの赤い点々が目に入った。 虫刺され? ネギがそう思ったと同時、他の少女達もそれを見てドキッとする。「ちょっ、アスナ! その背中のって虫……じゃないよね……?」 珍しく顔を真っ赤にさせたハルナの言葉に、身体をビクンッとさせる。 そのアスナの反応に、ハルナは妄想逞しくさせる。 ネギ君、の訳ないし、って事はやっぱり横島さん!? ボンッ! 唯でさえ赤かった顔がこれ以上無い位に赤くなる。 頭から湯気が出そうなくらい、オーバーヒート気味。 そんなハルナを不思議そうに見るネギと、そしてコレは不味いと思ったあやか達。 何とかせねばとあやかが口を開こうとしたその時、彼女よりも早く動いた者がひとり。「ネギ先生、背広の上、脱いでくださいー」「あっ、はいっ!」 突然後ろから、彼の背広の上を奪うように脱がせるのどか。 ネギはやっぱり困惑気味だが、のどかの勢いに乗せられ、言われるがままに背広を脱ぐ。 のどかはネギから背広を剥ぎ取ると、そのままアスナを包み込むように肩からかける。 少し小さめだが、晒された肌をネギやハルナの視線から隠すには充分で。「あんがと、のどか」と囁く様な声が聞こえると、「ううん、気にしないで、あすなん」優しく労わる様な笑みを浮かべた。 そしてのどかは顔に笑みを貼り付かせたまま、ネギとハルナの方を振り向く。「男の子が、女の子の裸を何時までも見てたらダメだよ──。ねっ?」 首を小さく傾けながら可愛らしくそう言うのどかだが、ネギと、そしてハルナの背筋はゾゾッと怖気走る。「は、はいっ! そうですよねっ、のどかさん!! 本当に申し訳ありませんでした! アスナさん!!」 笑顔ののどかの迫力に押され、更には昨日のアスナの修正も思い出し、ネギは深々と頭を下げた。 背中は汗でびっしょり。大人しそうで、今もほんわかとした笑みを浮かべているはずののどかに、死を感じさせる程の恐怖…… 怖くて頭を上げられない。 この時ネギは、日本の女性は大人しそうに見えるけど、凄く怖い別の何かだ! アーニャなんか目じゃない! と遠くイギリスの姉に心の中で報告していた。「ハルナー、ネギ先生を連れて先に教室に戻ってて。私達はあすなんが落ち着くのを待つから──」 「イエス、マム! ネギ君、行くよ!!」「はい、ハルナさん! 行きましょう!!」 2人は回れ、右! をすると、手に手を取り合い校舎内を目指して走り出す。 後ろは振り向かない。怖いから。 のどかだけじゃなく、普段と違う様子のアスナも怖い。言わば爆発寸前の火山みたいで。 教室へと向う廊下を歩きながら、ハルナは思う。 見てはいけないものを見ちゃったと。 アスナと横島の情事を容易く連想させるキスマーク。 のどか達が急に怖くなったのは、嫉妬……? と真実を知る者からすれば、少し的外れな結論を出すハルナ。「ネギ君さぁ、さっき見たの、誰かに言ったりしちゃダメだからね」 教室前に差し掛かった辺りで足を止め、人差し指を立ててお姉さんぶりながらそう言った。「えっと、アスナさんを裸にしちゃった事ですか? 言われなくても喋りませんよ!」「そうじゃなくてさ、虫刺されの痕の事とかよ。女の子の肌のこと、みだりに誰かに話しちゃいけません、ってね!」 「は、はあ……」 良く解っていないのか、生返事で返すネギの頭を、グシャグシャと掻き混ぜるハルナ。 彼女は、今まさに屋上で繰り広げられているだろう色恋刃傷沙汰に、巻き込まれなくて良かったと思う反面、好奇心の赴くままに観戦出来ないのがやっぱ残念。 あのアスナがねー。そんな感じもあったけど、まさかねぇ。 のどかとゆえは失恋かね、こりゃー。それとも略奪愛ってか。 あの様子じゃ、今頃は血の雨が降ってたりして。 くー! 見られないのが残念な様な、そうじゃない様な…… ま、どっちにしても、今日はネギ君の事まで気が回らないでしょうから、しゃーない、私が一人で面倒見るか。 こっちはこっちで面白そうだし。「ネギ君もさ、複数の女性に好意を寄せられる時は気をつけなさいよー。nice boatになっちゃうからさ」「はあ……? なんのことです? ハルナさん」「千雨ちゃんのトコに押しかけるの、私とネギ君だけになっちゃったって事かな?」「意味がわからないんですが……」 そのアスナは、顔を俯かせたまま、拳を握り締め、プルプルと震える。「どうしたんですの、アスナさん。そこまでショックを受けるアナタだとも思えないのですけど? 私も見られるのは断固イヤですが」「まあね。裸にされたのはムカツクけど、それで落ち込んでいる訳じゃないわね……」「なら、どうしてですの?」「情けないのよ! あんなガキの暴走魔法をマトモに喰らう私自身が! 初めてだったんならまだしも、今日で2回目よ! さっきあんなに反省して……」 ギリッ……、歯軋りが静かな屋上に響く。 あやかは周囲の認識阻害を強めると、アスナの背中に回りこみ、背後から彼女の胸を優しく揉みしだく。 アスナに快感を与えて反応を確かめながら、霊力の流れを見る。 それは簡単な性魔術の応用。「ひゃん……ちょっ!? あやか! なにすんのよ!」「昨日のとは思えないキスマークの痕といい、霊力の流れが少しおかしいところといい、何がありましたの? そう言えば詳しく聞いてませんでしたわね」 あやかに促され、ポツリポツリとアスナは話す。 茶々丸とエヴァンジェリン相手に戦った事を。 それが全て勘違いから始まった事を。 そして、さっき感じた得も知れぬ恐怖まで。「ホント、おバカさんなんですから、アナタは……」 優しい声色。あやかはきゅっと優しくアスナを抱きしめる。 そして、他の少女達もまた、思い思いの言葉をかける。 暖かい言葉、アスナはそっと目を瞑ると、自分は一人じゃないんだと強く思う。 例え茶々丸と敵対しても、例えネギと敵対しても、此処にいる皆は最後まで自分達の味方でいてくれる。 そう信じたい。「今日からエヴァンジェリンさんのお世話をなさるのでしょう? でしたら今の内に、ある程度霊力を回復しときませんと」「へっ?」「私、性魔術の実験台を欲していたんですの!」「いいんちょさんは聖魔術を使えるですか!?」「ええ、多分ですが。ですがなにかが足りない気がするんです。それがなんなのか解らない内は、使える、とは言い切れない気がしますわ」「横島さんには聞いたのー?」「いいえ、あの方は私達が性魔術を覚える事に、どこか抵抗があるみたいで。 ですが、私達が最低限これを使いこなせれば、もっと効率良くあの人に精気を提供出来るのではと」「ああ、なる程ね。良いんじゃないかな? 私達にも教えてくれる?」「いいですわよ。とりあえずはアスナさんを……」 アキラはあやかの言葉に従い、逃げようとするアスナを捕まえる。 何とか逃げ出そうと試みるも、既に力はあまり残されておらず、ただでさえこの中で一番力が有るアキラに押さえ込まれては抵抗も出来ず。 妖しく笑うあやかに恐怖を感じ、首を激しく振り回しながら抵抗するアスナは、少しだけ場から離れていた千鶴と木乃香に助けを求めた。 だが、千鶴は楽しそうに笑うだけで、木乃香も何が起きようとしているのか解らずオロオロ。 他の子達は恥ずかしそうにしながらも、ヤル気満々。 何せスキル修得のチャンスなんだから、アスナと言う犠牲はあるが。「ちょっとー! 私は女同士なんて嫌よーっ!!」 ついさっきまで茶々丸と乳繰り合ってたヤツのセリフではない。 もちろん、あやか達は知らないが。「もうすぐ5時限目が始まるわよ! だから……」「あすなん、授業よりも大切な事ってあるよね?」「あやかー! アンタはクラス委員長なんだから授業サボるの不味いでしょうが!!」「3年になったら、クラス委員長は辞めようと思ってますわ」 あやかの言葉に絶句するアスナと、小学生の頃からずっと委員長だったのに辞めちゃうの? と言いたげな木乃香 そして、夕映は何かに気づいたのか、ブツブツと独り言。「聖魔術は、性的絶頂による魔力の収奪行為が基本です。アレ? もしや聖なる魔術ではなく、性的な魔術なのでは……?」「どうしたの、ゆえー?」「もしや私はとんでもない誤りをしていたのでは……。そう言えばあの時、皆さんが私を見て顔を赤くしていたのは…… ひぅっ! 私は何てハレンチな事をあの人に! ああ、エッチな子と思われてはいないでしょうか!?」「大丈夫だよ、ゆえゆえー。横島さんはエッチなゆえでも気にしないと思うよ?」「むしろ喜ぶわね」「私もそう思うよ?」「うんうん」 授業開始のベルが鳴り響く校舎に、閑散としている筈の屋上から2人の少女の悲鳴が響き渡った。 「「イヤァアアアアアアッ!?」」 後書き 裸黒ニーソ!(挨拶) 百合展開が苦手な方、申し訳ありませんw ですが、横島×ヒロインS’だけではマンネリ化しますし、書いてる方もネタ切れ感が激しくなりますので。 他の男×ヒロインS’はやりたく無いので、微百合的展開も有りになります。 ただ、ガチ百合は無く、前提に横島ラブがありますので、その辺はご安心を。 ちょっとおんにゃのこ同士でキャッキャウフフ的に絡むだけです。