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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] カウントダウン0 前編
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/05/06 20:21

暗い、暗い部屋。

多くの本棚に囲まれ、遮光カーテンによって窓を覆われた部屋。

その中を、光源となるいくつもの紙片が舞っている。

イエローの光を纏った紙片。そこに書かれている古代ベルカ語を頭の中に入れながら、カリム・グラシアはマルチタスクを使用して文字の羅列――予言の内容を見極めようとしていた。

彼女の稀少技能、予言者の著書。

カリムは確定してしまった予言をじっと見詰めながら、ため息を吐いた。

いつ起こるとも分からない災厄。それを防ごうと動いていても、成果といえる成果はない。何が起こるのかすらはっきりとしない。

自分たちに出来ることといえば、忠告を関係者に行い、有事の際に備えておくことぐらい。

ミッドチルダ地上本部へ、予言の内容を伝えはした。しかし、それで何か動きがあるとは思えない。

彼らが聖王教会を好んでいないことも関係しているのだろうが、それ以前に金も人も足りない。

必ず起こると断言できない以上、それに注意を払いたくはないのだろう。

……まぁ、それならそれで。こちらは勝手に動きますが。

「はやて」

「はい」

カリムと同じテーブルに着いていたはやては名を呼ばれ、背筋を伸ばす。

「報告をお願いします」

「うん。指示された人物の調査は終わった。せやけど、予言に記されていたような、大災厄の火種になりそうなことをしとる人はいなかったわ」

「そうですか」

短く応え、カリムは目を伏せる。

……成果らしい成果はなかったか。しかし、それは自分たちも似たようなものだ。

ならば、次は違うアプローチを行うべきだろう。手段が何かは、まだ決定していないが。

「ありがとう、はやて。忙しい中わざわざ」

「ううん。これもお仕事の一つやし、しゃーない。それよりごめんな。何か成果があれば良かったんやけど」

「いえ。何もなかった、というのも一つの答えですよ」

「そか」

どうしたものか、とカリムは小さく溜息を吐く。

はやてを信用していないわけではないが、彼女が調べた人物を、違う視点を持つ人物からも調べて貰ってはいたのだ。

しかし、その人物からも報告らしい報告はない。

もしかしたら予言が示しているのは、まだ先のことではないのか。

そんなことすら考えてしまう。

「……では、はやて。引き続き調査をお願いします」

「分かった。他に何かある?」

「いえ。……ああ、そうだ」

そう言い、カリムは動かしていなかった頬を、笑みに変える。

「……今日は管理局のお祭りがあるんでしたね。三課は何かをするんですか?」

「んー、サイン会とかをなー。エスティマくんは勿論やけど、私も一応ストライカーに数えられているみたいなんよ」

「それはそうでしょう。ミッドチルダ地上ならば、オーバーSランク級魔導師はそういませんからね。
 あなたもストライカーの一人でしょう」

「そうかなぁ。あんま実感湧かないんやけど」

照れ臭そうに笑うはやてに、カリムは苦笑する。

自分を過小評価しているのだろう。しかし、それも仕方ないのかもしれない。

前線で戦う三課。その主力は、部隊長であるエスティマと、表向きは捜査犬扱いのザフィーラだ。

はやては補助と、いざという時の大火力。積極的に戦闘をするタイプではないのだから。

「あ、そだ。私は出ないんやけど、今年もエスティマくんとなのはちゃんの戦技披露会があるんよ。
 やっぱり目玉イベントらしくて、皆楽しみにしてたわ」

「らしいですね。シャッハも楽しみにしていました。はやて、どちらが勝つと思いますか?」

「なのはちゃんの方が魔導師ランクは高いからなぁ。けど、エスティマくんがどれだけ強いかは良く知っているし、なんとも。
 オッズはなのはちゃんの方が――」

「賭博は禁止じゃ……いえ、まぁ良いでしょう」

首を傾げながら、まぁ良いか、とお茶を濁す。

「それでは、はやて。頑張ってくださいね」

「うん。それじゃあ」




















リリカル in wonder


















さて、と。

……どうしたもんだか。

椅子の背に体重をあずけて、ギシ、と軋む音が耳に届く。

ブラインドカーテンから差し込む陽光。細かい埃の舞っている三課のオフィスで、俺は一人思案に暮れていた。

考えることは一つ。現時点での原作との相違点だ。

もはや考えることすら馬鹿らしいと言っても良い事柄なのだが、昨日のことを思い出して、どうしても考えてしまう。

現在、なのはの住んでいる世界――第九十七管理外世界は、ゴールデンウィークへと突入した。

その時に、本来ならば一つの事件が起こるはずなのだ。

空港大火災。スバルが魔導師になる切っ掛けとなる、重要な事件。

今日、クラナガンでは地域住民との交流を行う、管理局祭りが開催される。そこで遊ぶため、ギンガちゃんとスバルの二人はゲンヤさんの部隊へと遊びに来ているのだ。

移動には飛行機を使う――そう、実際に使って彼女たちはクラナガンへと到着した。

無論、俺もただ黙っていたわけではない。

……クイントさんから頼まれたこともあるしね。

レリックの爆発事故が起こる可能性があります、と中将に無理を言ってその日一日をフリーにしてもらい、ゲンヤさんに許可をもらって彼女たちを迎えに行き、いつ事が起こっても良いよう備えていたのだが――

……何も起きなかった。

実際のところは酷い肩透かし。ギスギスした空気の中、二人をゲンヤさんの元へと届けて一日が終わったのだ。

セメント対応のギンガちゃんに、俺と話をしようとしないスバル。正直、胃が痛んだ。

……それはともかく、だ。

どう考えるべきだろう。何かしらのバタフライ効果で、積み荷の日程がずれたのだろうか。

空港火災はいずれ起きる。そう考えるべきか、回避されたと思うべきか。

どうにも気持ちが悪い。今までターニングポイントに関わってきた所為なのだろうか。自分が何をして今の結果が生まれているのか。それが分からないのが、酷く不気味だ。

良いか悪いかで言えば、良いことだろう。空港火災が起きなかったことは。

施設が一つ消し炭にならずに済んだし、運が悪ければ、死人だって出たかもしれない。

だから喜ぶべきことなのだろうが――

「……変な話だ。介入して、目に見えて好転したら不気味がるんだからな」

『何を言っているのかは分かりませんが、好転したこと自体は喜ばしいことではないのですか?』

「どうだろうな」

首に下げたSeven Starsを人差し指で突きつつ、息を吐く。

……最近、息を吐くことが増えてきた。身体が煙草を吸いたがっているのかもしれない。

まぁ、息切れやだるさは魔導師の天敵なので吸うつもりはないが。

失って分かる健康のありがたみ、ってね。今以上に身体を虐める趣味はない。

……それにしても、空港火災は別にして、このままスバルが魔導師にならなかったとしたら、それは良いことなのか悪いことなのか。

彼女が六課以前に所属していた部署で救うはずだった命は、どこかの誰かが救ってくれるのか。それとも、誰にも救われず散ってゆくのか。

本当、今更だ。無限書庫が動いていないだけでも、かなりの影響が出ているというのに。

動いている状態をこの目で見たことがないから、どう違うのかはさっぱり分からないが。

「まぁこんなこと、考えたって意味はないのかもしれなけどさ」

などと考えていると、

「だーれだ」

不意に視界が塞がれた。

目元に暖かな感触。手で押さえられているのだと分かる。

「……フェイト」

「正解!」

手を解いて、俺の座っている椅子をくるりと回すと、フェイトは俺を正面にもってきた。

背中に流れる金髪。最近はそうでもないが、それでも俺と似通った顔立ち。

シャツの上に黒いジャケットを羽織り、下はジーンズ。男性的な格好はアルフの趣味だろうか。

それでもこの子が女だと一目で分かるのは、女性的な体つきになってきたからだ。

……しかし、お茶目なことをするようになったもんだなぁ。

フェイトは悪戯っぽい笑みを浮かべ、おはよう、と声を上げる。

「すぐにバレちゃった。もうちょっと悩んでくれても良いのに」

「フェイトの声、間違えようもないからね」

好きな声優だったし。

しかし、どんな風に受け取ったのだろう。

喜色満面といった感じで、そっか、と彼女は頷く。

「それにしてもフェイト。なんで施設内に入っているんだ? 関係者じゃないだろう」

「え? 受付の人にお願いしたら、通してくれたけど」

……まぁ、男が美人に弱いのはどの世界でも共通だけどさぁ。

「それで、変身魔法を使ってフェレットになってここに潜入。覚えてみると便利だね、これ」

「使い道は間違ってないけどさぁ」

「む……あ、そうだ。受付の人なんだけど、兄さんの妹だって言ったらサイン欲しいって言われたり。
 兄さん、思っていたよりも有名人だったんだね。
 妹としても鼻が高いかな」

どこか誇らしげに胸を張るフェイト。なんだか破壊力が増している気がする、この仕草。

「それにしても、ここが兄さんの仕事場かぁ。
 うん、きちんと掃除しているみたいで安心した」

「いや、掃除しているのは俺じゃないし。清掃員さんだし」

「机の上とかだよっ。だって兄さん、スクライアにある自分の机がどうなっているのか覚えてる?
 油汚れで酷いんだから。工作機械で作った傷とかも」

……すみません、自宅の机もそんな感じです。

しかし、そんなことを言えば久し振りにあった妹様の機嫌を損なうので黙っておく。

「兄さん、これからどうするの? 朝ご飯は食べた?」

「出勤する前に少しね。フェイトはまだ?」

「うん。けど、そっか。兄さんが食べちゃってるなら――」

「いや、付き合うよ。コーヒー飲むぐらいしかしないけど」

「充分。ありがとう、兄さん!」

行こう、とフェイトに腕を引っ張られ、ふらふらとオフィスを後にする我ら。

と、いうかだね。

「こらフェイト。腕を引っ張るのは止めなさい。逃げないから」

「ん……しょうがないなぁ」

少しだけ唇を尖らせながらも、繋いだ手だけは離さず、フェイトは歩調を緩める。

……もういい歳なんだからさぁ。

なんだかなぁ、と思いつつフェイトを見ると、えへへ、とくすぐったそうに笑っていた。

……まぁ、良いか。

「どこでご飯食べようか。せっかく隊舎にきてみたんだし……食堂とか興味あるかも」

「やめといた方が良いよ。部隊の食堂は盛りつけがアホだから。
 動いてないのに朝からあの量は泣ける。
 ここの近くに二十四時間営業の喫茶店があるから、そこにしよう」

「分かった。……アホ盛り、ちょっと興味あったんだけどな」

「太るぞ」

「失礼だなぁ兄さん。私、あまり太らない体質なんだよ?」

「栄養が胸に行くってか」

「セクハラ! セクハラです!」

「兄妹でセクハラも何もないだろうに」

「そうかもしれないけどっ! デリカシーが欠けてると格好悪いよ!」

「気を付けます」

ぷりぷりと怒るフェイトの声を聞き流し、隊舎から外へ。

ちなみに現在時刻は朝の七時。手を繋いでいるせいなのか、なんか視線が突き刺さる。昼間にこれは辛そうだ。あと釘を刺しておこう。

管理局祭りが本格的に始まるのは十時から。

今は最終準備に局員の皆様が奔走していたり。シャーリーもそうだ。はやてとザフィーラ、リインフォースはまだ出勤していないが。

エクスやヴィータ、シスターも来るようだし、今日は賑やかになるな。

喫茶店に入ると、禁煙席へ。全席禁煙ではないこの店、良心的である。

俺はブレンドを。フェイトはモーニングセットを頼んで、再び談笑へと。

「ユーノたちは?」

「まだホテルだよ。キャロ、朝弱いから。散歩がてら、私だけ先にきたんだ」

「そっか。まー、局員でもない奴らをおおっぴらにオフィスへ通すわけにもいかないから、フルメンバーでこられても困るんだけどさ」

と、言っていると注文したものが届く。

フェイトの元に届いたのは、ホットドッグとミルクティー。腹が空いているわけじゃないけど、こうやって目の前に食べ物を置かれると食べたくなるのは人のサガか。

……いやぁ、食べ過ぎるのはどうにもね。午後にはあんちくしょうとの模擬戦もあるし。

フェイトはホットドッグを口に運び、一囓り。プチ、ともなんとも言えない、ソーセージの弾ける音。

「ん、おいし。ねぇ兄さん、そういえば、身体の調子はどう?
 なのはが気にしてたよ。本調子じゃなかったら困る、とか」

「そっちかい。戦う気満々じゃないか」

「だって、兄さんとなのはが戦って決着がついたことないじゃない。
 なんだか今年は妙に気合いが入っていたよ、なのは。隠し球があるから、それで驚かせるって」

「……あのさ、フェイト」

「うん」

「隠し球の存在をお前が言ったら、俺は驚かない」

「そうだよね。あははは。
 ……ごめん、なのは」

ふむ。隠し球か。

しかし今年はこっちにも隠し球があるのだよ。

試作に試作を重ねて、試作九号機・改×5となったカスタムライト。

ようやく公衆の面前で使っても恥ずかしくない出来になったのである。

シャーリー、本当にお疲れ様。

「あ、兄さん。コーヒー少しもらって良い?」

「どうぞー。味でも気になった?」

「うん。あ、私のもどうぞ」

言いつつ、それぞれのカップを交換する。

「あ、フェイト。ミルクと砂糖は入れないように……って遅かったー!」

「ご、ごめんなさい」

いやに手際よくミルクと砂糖を入れちまったフェイト。真っ黒だったコーヒーが、一気に濁る。

……いいよもう。おかわりすれば良いんだ。

肩を落としつつフェイトのミルクティーを一口。甘い。や、そういう飲み物だけどさ。

ふと、手に持ったカップに視線を落とすと、フェイトが口を付けたであろう場所に薄く唇の跡が残っていた。

……もう化粧する歳になったんだなぁ。

感慨深いようなそうでないような。

まーそれでも、

「兄さん兄さん」

「どうした?」

「これ、間接キスだよ」

「そうだね」

「……照れてくれない」

中身は変わってない気がする。





























人が次々と出てくる転送ポート。

そこから少し離れた場所にあるベンチで、私はなのはちゃんを待っていた。

なのはちゃんが来るであろう時間までは少し余裕がある。手にもった文庫分に視線を落としながら、人が出てくる度に顔を上げる。

……少し早く来すぎたかなぁ。

後悔、というほどではないけれど、肩身が狭いことに息苦しさを覚えたり。

無遠慮ではないけれど、そこら中から視線を感じる。

込められている感情はきっと、物珍しさとか、そういったもの。

……なんだかんだ言っても、やっぱり三課は有名やし。

エスティマくんに言わせるとやっかみが集中している三課だけれど、しかし、それだけというわけではない。

確かに私たちが決まった管轄を持たずに首を突っ込むことを善く思わない人だって多いけれど、それと同じぐらい応援してくれる人もいる。

広報の記者さんが三課にくるのがその証明だと思うし。

……それでも、人に見られるのはいつになっても慣れないけれど。

エスティマくんとかすごいからなぁ。不満たらたらだけどカメラの前だと笑顔作れるし。

本人曰く、黒歴史の遺産らしい。どういうことだろう。

「はやてちゃん、はやてちゃん」

「んー? なんや、リイン」

隣に置いたバッグを見ると、リインハウスから顔を出したリインフォースⅡが。

ようやく二度寝から起きたか。まだお子様のリイン、朝は弱いもんなぁ。

「なのはちゃんはまだですか?」

「もうすぐ来ると思うよ。えっと……」

『待ち合わせまではあと三分です、主』

念話で答えてくれたのはザフィーラ。

ありがとな、と頭を一撫でする。

「あと三分やって」

「三分ですかー。短いような長いような。
 そうだ、はやてちゃん! 聞いて欲しいです!」

「どうしたん?」

「エスティマさん、酷いんですよ! 今日の戦技披露会で、リインと一緒に出てくれるって思ったのに!」

「あー……だってリインは私のデバイスやからなぁ。それにその言い方だと、リインが主役みたいや」

「違いますけど、リインも一度で良いから晴れ舞台に昇ってみたいです!」

「んー、ちと難しいかもなぁ。私が選ばれればリインも出られると思うけれど。
 ほら、決闘とか向かないやろ?」

「むー……ちゃんとユニゾンしたときの名乗りとか考えてたのにー……」

「そうやったんか。ちなみに、どんな?」

「はい! グレート・エスティマGXです!」

「……そうか」

「エスティマ・ザ・グレートとかもあるですよ!」

「……センスとしてはダサカッコイイ部類かもしれへんけど、絶望的にエスティマくんの名前と噛み合っとらんな」

こう、プロレスラーみたいな。

マッシヴな名前はエスティマくんに似合わない。うん。

もっとスマートなイメージだ。

「……も、もしかしてリインのネーミングセンスのせいでユニゾンを拒否されているのですか!?」

「やー、違うやろ」

おそらく融合事故を恐れているんだろうけれど、しっかりと調整を重ねて、今ではその可能性がゼロに近い。

それでも嫌がっているのは、何か理由があるからなのかなぁ。

「うう……はやてちゃんからも言って下さい。リインともたまにはユニゾンして欲しいですよ」

「ふむん。私とユニゾンするだけじゃ、リインは不満なんか?」

「そ、そういうことじゃないです! はやてちゃんとの融合相性はバッチリなので気持ちいいです!
 ……けど、エスティマさんと一緒に戦うと、とりゃーって感じで暴れることができて、気分がすっきりするですよ。
 ああいうのもたまには悪くないです」

「と言っても、エスティマくんがリインとユニゾンしたのって片手で数えられるしなぁ」

融合事故で一回。調整で二回。お仕事で一回。

その最後の一回がよっぽど気に入ったのだろう、リインは。

『主。高町とシャマルが到着したようです』

再びザフィーラからの念話。

リインから転送ポートへと視線を移すと、ザフィーラが言ったとおり、なのはちゃんと、手を繋いだシャマルの姿があった。

一緒に出てきたのはクロノくんとエイミィさん。そして、エリオくん。

なんだか大人数だ。これにフェイトさんやユーノさん、エスティマくんやシグナムが加わったらすごい人数。

席を立って手を上げると、なのはちゃんがこっちに気付いてくれる。

バッグを持って近寄り、ザフィーラたちと一緒に皆と合流。

「おはよう、みんな」

「おはよう。ザフィーラさんも、リインフォースも」

「おはようです!」

元気良く挨拶するリイン。ザフィーラは尻尾を一振りしただけ。

「おはようございます、八神さん!」

「んー、エリオくんもおっきくなったなぁ」

腰を屈めて頭を撫でてあげると、くすぐったそうに笑うエリオくん。

その様子に、クロノくんは苦笑していた。

「元気だったか」

「はやてちゃんもまー、大人っぽくなって」

「私もエスティマくんも元気です。それに大人っぽいっていったら、クロノくんだってすごい背が伸びたし。
 エイミィさん、良かったじゃないですか」

「いや、どうなんだろうねー。私としては可愛げが段々抜けてるから、どうしたもんかって感じ」

「……可愛げ」

「小憎たらしくもあったんだけどねー」

そう言い、脇でクロノくんを突くエイミィさん。

……良いなぁ。

なんとなく、そんな感想が浮かんできた。

バカップルじゃなくて、落ち着いてる。良いなぁ……。

あまり転送ポートの前で喋っているのも邪魔だから、皆で移動を開始。

エリオくんはザフィーラが気に入ったらしく、歩きながらおっかなびっくり触ってる。

リインフォースは久し振りに会ったシャマルと話し込んでいたり。

私の方は――

「はやてちゃん、どう? 最近」

「何か進展あった?」

女の子三人で話し合いです。クロノくんはエリオくんのお守り。お兄さんが板に付いてきているみたい。

「え、と、進展って……」

「なのはちゃんから聞いたよ? エスティマくんの世話をずっと焼いてるんだって?
 まー、世話の焼き甲斐ならクロノくんと良い勝負っぽいからね、あの子。
 それで、どうなの? 今どんな感じなんだい? お姉さんに言ってみなさい」

「私も気になるなー」

「なのはちゃんまで!? や、そんな、進展とかっ……!」

なんでこんな話に!?

一気に顔が熱くなるのが分かる。私はどんな顔をしているんだろう。

うう、と口ごもりつつ二人の顔を見てみるけれど、逃がしてくれそうにない。だって楽しそうなんだもの。

「ねぇ、なのはちゃん。
 はやてちゃんって確か、エスティマくんの家に入り浸ってるんだよね?」

「はい。時間があればいつも一緒にいるみたいで」

「いつも一緒とか、ちゃうって! ご飯作りに行ったりしているだけやし!」

「毎日一緒に出勤してるとかー」

「エスティマくんが先に行くこともあるから、いつもじゃないです!」

「ふむふむ。いつもご飯を作りに行って、何かない限りは一緒に出勤。同じ職場で愛を囁き合っているわけだね」

「シャーリーやザフィーラ、リインもいるからそんなこと出来へんって!
 っていうか愛って!?」

「……あれ?」

「……あれ?」

そこまで言って、不思議そうに首を傾げる二人。

「……なんやの、二人とも」

「えっと……間違ってたらごめん。はやてちゃん、エスティマくんと付き合ってるんだよね?」

「つつつつつ、付き合ってるとかないですよ!」

あれ? と再び首を傾げる二人。

つ、付き合うとか!

「なのはちゃん、なんだか話がずれている気がする」

「……おかしいなぁ。ねぇ、はやてちゃん」

「……なんや」

「エスティマくんのご飯とか作ってあげてるんだよね?」

「うん」

「お弁当とかもだよね、確か」

「うん」

「時間が合うなら一緒に出勤退勤、って前に言ってたよね?」

「うん」

「……付き合ってなかったの?」

「だ、誰がそんなことを言ったんや!?」

「……考えてみれば誰も言ってなかった気がするの」

「……ごめん、はやてちゃん」

「ごめんね」

……謝られても、余計に辛いだけなのはなんでかなぁ。

や、そりゃー私だってエスティマくんとは、その、お付き合いしたいとか、ずっと考えているけれど。考えているけれど!

けど、いざ勇気を出そうとすると毎回毎回何かしら邪魔が入るんだからしょうがないやんか。

……うう。

「げ、元気出してはやてちゃん!」

「そうだよ。もうそこまでしてるなら、はやてちゃんに落ち度はない!」

と、自信満々に言い切るエイミィさん。

「クロノくんもさぁ、まんざらでもない態度をずっと取っている割には何もしてこなくて。
 本当、どうかと思うんだよねそういうの。
 だからこっちから――」

「エイミィ、今は陽が昇ってるんだぞ!? そして公衆の面前だ! なのに何を言おうとしていた!?」

「げ、聞き耳立ててたの? クロノくん。最低。気を利かせなさい。
 せっかく女の子同士で楽しく話してたのにさー」

「そういうことじゃないだろう! 常識的に考えてだな――」

「はい、これが上手いこと言いくるめて煙に巻こうとする駄目な男の典型です」

「それは酷くないか!?」

さっきまでの話はどこかへ行って、クロノさんとエイミィさんの夫婦漫才が始まった。

尻に敷かれているクロノさん、なんだかんだ言って、やっぱり楽しそう。

……良いなぁ。

「はやてちゃん」

「ん、何? なのはちゃん」

「私、そういうのに疎いからなんてアドバイスもできないけどさ。
 エスティマくんに、はやてちゃんをどう思っているのかそれとなく聞いてみようか?
 もしくは、発破かけたり。それぐらいしか出来ないけど」

「ありがとう。けど――」

エスティマくんが私をどう思っているのか。それは、本当に知りたい。

けど、それはやっぱり……。

「――出来る限り自分でやってみたいんよ。
 やっぱり、その……す、好きな人のことやから」

好きな人。それだけを口に出すだけでも一苦労だった。

さっきからずっと顔が熱い。付き合うとか、好きな人とか。

そういう話は、ちょっと刺激が強すぎる。

……だからって今のままで良いってわけでもないけれど。

駄目だなぁ。いつの間にか、変な癖がついているのかもしれない。

エスティマくんの隣は心地が良い。心配することがたくさんあっても、だからこそしっかり見てあげないとと思ってしまうし。

何より、仕事や、好きなことに打ち込んでいるエスティマくんの姿は格好が良いから。綺麗な顔が生き生きし始めると、なんだかずっと見ていたくなる。

それに、オフの時にだれているエスティマくんは可愛いし。

フラれて今の関係が壊れてしまう、などとは思わない。きっとフラれても、私は近くにいる気がする。

問題は――そう。今のままでも満足してしまっていることだ、きっと。

高望みをすれば、彼氏さん彼女さんの関係とかになりたいけれど。

彼が私をどう思っているのかは知りたい。けれど、付き合っていなくても一緒にいることはできる。たまに甘えて構って貰えれば、エスティマ分は充電できるし。

……こういう考えだから、なのはちゃんやエイミィさんに誤解されていたのかもしれへんなぁ。





























フェイトと喫茶店を出ると、近況報告をしながらの散歩を堪能。

スクライアではやはり目立ったことはないようで。基本的な話題は、キャロのことだった。

妹分ができて本当に嬉しいのか、キャロのことを話すフェイトは、お姉さんそのものだ。

わがままをあまり言わないのが悩みの種。困ったところはそれぐらいで、すごく良い子。

フェイトの話から想像できたキャロの様子は、そんな感じ。

……さて、実際に会ったらどんなもんなんでしょうね。

シャーリーに九時までには戻ると連絡すると、ユーノたちが泊まっているホテルへと脚を向けた。

奴らの朝食はバイキングらしい。プチブルジョアめ。

ロビーを通って、そのまま部屋へ。暖色系の灯りに照らされたカーペットを踏みながら廊下を進むと、ようやく着いた。

「ただいま」

「ただいまー」

カードキーをスリットに通して部屋へ。家に帰ってきたわけでもないのに、ただいま。変な気分だ。

部屋を覗き込むと、アルフと並んでテレビを見ているユーノがいた。

眼鏡をかけているのは原作と一緒。ただ、髪の毛は伸ばしていない。

……きっとまぁ、共通の黒歴史のせいなんだろうなぁ。

「おかえり。ん、エスティを連れてきたねフェイト」

「おかえりフェイト……それに、エスティマ。
 なんだい、局の制服も着こなせてきたじゃないか」

「まぁねぇ。何年着てるんだって話だし」

アルフの言葉に苦笑しつつ、フェイトと並んでソファーに座る。

こうして四人揃うのはどれぐらいぶりだろうか。二ヶ月……や、三ヶ月?

たしかそれぐらい。

「それにしても、泊まりがけでよくきたな」

「うん。キャロが遊園地に連れていって欲しい……とは言わないんだけど、行きたがってはいたみたいだから。
 こう、雑誌の特集ページがそこだけ折り目ついていたりとか、テレビのCMをずっと見ていたりとか。
 だから旅行も兼ねてだよ」

「へぇ。しっかし、露骨なのか、お前が目ざといのか」

「酷い言い様だなぁ。エスティ、君だってフェイトに似たようなことをしていたじゃないか。
 兄さーん、って甘えてくるフェイトに流されて」

「む、昔の話だよ!? 今は甘えてない!」

「水族館連れていったりとかなー」

「それと、動物園に行ったりとか」

「兄さんもユーノも楽しんでたじゃない!」

「……そのどっちも、アタシは連れていってもらってないんだけどねぇ、二人とも」

「ごめんなさい」

懐かしい。懐かしいが、根に持っていたのかアルフ。

「そうだ、ユーノ。もう一泊して明日も遊び歩かないかい? 博物館とか、アタシも行ってみたいんだ。
 これでもスクライアの一員だしねぇ。興味があるんだよ」

「魅力的だけど予算の問題で却下だって、アルフ」

「ちぇー。まぁ、良いけどね。昨日だけでも充分写真は撮れたし」

まだ写真に飽きてなかったのかアルフ。

「ね、兄さん。クラナガンって、遊べる場所はどんなのがあるのかな」

「どうだろ。あんまり俺も遊んでるわけじゃないからなぁ。
 ……そうだ、カラオケ行こうぜ! 面白い機種見付けたんだ!」

最近趣味の一つとなった一人カラオケ。それで偶然行った店のカラオケ機器が頭悪くてなぁ。

DOM・ディメンション。各世界から楽曲引っ張ってくるという恐怖のマシーン。何が怖いって、権利とかそこらへん。

カラオケ、と聞いてフェイトは興味が湧いたらしい。が、逆にユーノは無表情に。

「……エスティ。君は、吹っ切ったんだね」

「トラウマなんてくだらねぇぜ! 俺の歌を聴けぇ! ってな」

けど女装だけは勘弁な。

そんな風に会話を続けていると、奥の部屋から小さな姿が出てくる。

眠気眼を手で擦り、ずるずると枕を引っ張っている女の子。着ているパジャマは髪の毛と同じ、桃色だ。

「……お腹空いた」

「キュクルー……」

「……ってフリードに起こされました」

ずるずると引っ張っている枕に噛み付いて、ずるずると引っ張られているフリード。

あっちは眠いのかお腹空いているのか。両方なのか。

全員がその姿に苦笑する中、真っ先に席を立ったのはフェイトだった。

「ほらキャロ、顔洗おうか。それで着替えたら、ご飯食べよう」

「はいー……」

フェイトはフリードを抱きかかえると、キャロと一緒に洗面所へと消えていった。

さっぱりして眠気が抜けると、

「え、エスティマさん!? お、おはようございます!」

なんか異様に恐縮されたり。

なんでだ。





























フェイトたちと別れたあと、隊舎に戻って打ち合わせ。

三課の全員が揃うと、管理局祭りの会場へと。

午前中はサイン会。……魔導師のサインなんてなぁ、などと思うけれど、需要はあるのか。

まぁ、雑誌で特集が組まれるぐらいなんだ。サイン欲しがられてもおかしくはないだろうよ。

そして会場入り。

純度百%の作り笑顔で対応し続け、握手し続けて腫れた手を治癒魔法でなんとかしつつ、午後へと。

午前中のサイン会は前座である。メインは午後の戦技披露会。

ミッドチルダ地上部隊の精鋭と、海のエース級の対決。

大将戦というか、目玉は俺となのはの勝負、となっている。

……スポーツ感覚で戦うのは楽しいけれど、なのはの相手は疲れるんだよなぁ。

「エスティマくん、ご飯食べよ」

……っと。

視線を向けると、はやてが重箱を手に持っていた。

「ん、じゃあ行こうか。
 シャーリーはどうする? 一緒にくる?」

「あー……行きたいのは山々なんですけど、私も家族とか友達がきているので、そっちに行きます。
 また午後に会いましょう」

それじゃあ、と一礼して、シャーリーは退室した。

俺たちも行くかね。

ザフィーラとリインフォースⅡを引き連れて、待ち合わせの場所へ。

疲れたなー、などと世間話をしつつ廊下を進んでいると、108部隊の皆様と顔を合わせた。

シグナムの様子を見るために何度か脚を運んだから、顔見知り程度にはなっているのだ。

が、彼らの中にシグナムの姿はない。ゲンヤさんもだ。

まだ何かしらの作業をしているのかな?

そんなことを考えていると、

「先輩方、昼食の準備が――ち、えと、スクライア執務官」

背後から声をかけられ、振り向く。

そこにいたのは娘を連れたゲンヤさんとシグナムだ。

皺の寄っていない真新しい制服。細かい規律まで守っているように、服装にも乱れがない。

シグナムは俺を見ると、脚を閉じてきびきびと敬礼を行う。

「ご苦労様です。何か用事でしょうか」

「や、通りがかっただけなんだけど……シグナム、これから皆に会うんだ。
 一緒に昼食を食べよう」

「……その、申し訳ありません。まだ仕事が残っているので」

失礼します、と頭を下げて、シグナムは俺の横を通り過ぎてしまう。

彼女の様子に苦笑するのは、ほぼここにいる全員だ。

最近のシグナムは、ずっとこんな調子。

……反抗期、ってわけじゃないんだろうが。

やっぱり、突き放したことが原因なのかね。

「すまねぇな、エスティマ。じゃ、またな」

「また」

ゲンヤさんに続いたのはギンガちゃん。スバルは、顔を背けてシグナムのあとを追って行った。

振り返って二人の様子を見てみれば、年齢が近いからなのか、普通に言葉を交わしている。

……良かった、かな。

俺だけじゃなく、シグナムにも無関心無反応を徹底されていたら少しだけ困ったのだが、違うようだ。

「その、エスティマくん」

「ん?」

「行こう」

「……ああ」

ぼーっとゲンヤさんたちの後ろ姿を眺めていると、はやてに心配そうな声をかけられる。

ザフィーラなんかは俺の脚を頭で押して、急かしていたり。

……行くか。

止めていた脚を、再び待ち合わせ場所へと。

予約しておいた個室に行くと、すでに何人かは――というか、海側の皆様は到着していたようで。

フェイトたちはまだみたいだ。

「ようクロノ」

「エスティマか。それに、はやても」

「リインとザフィーラもいるですよう!」

「そうだったな。今日はお招きありがとう――と言えば良いのか」

「どうだろ。提督様を招待したわけだからなぁ」

「様をつけるなエース・アタッカー。
 ユーノはどうした?」

「その名で呼ぶな。
 どこに集まるかは伝えたから、大丈夫だろう。迷ったら局員に聞くだろうし」

「いい加減だな」

「信頼してるんです」

クロノと会話をしつつ、視線をはやてたちの方に。

普通に話しているみたいだけど、フェイトたちが来たらどうなるのか。

同窓会気分で顔を合わせるのも良いことばかりじゃないってか。

『で、だ。エスティマ。
 悪いんだが、少し仕事の話をさせてもらうぞ。
 お互い忙しくて顔を合わせることも少ないからな』

『どうぞ』

マルチタスクを使い、雑談をしつつ念話を交わす。

明るい表情をしているが、念話の口調には苦いものが混じっていた。

何かあったのだろうか。

『ここ最近のことなんだが、別の世界からミッドチルダに違法研究組織が集まっているようだ。
 水際で捕まえているんだが、それでもいくつか取り逃がしてしまっている。
 そのことは知っているな?』

『ああ』

知っている。

ここ最近の中将の悩みがそれだから、何度か愚痴も聞かされたし。

ここ最近、と言っても、事が起き始めたのは二年前ぐらいからだろうか。

分かり易いものならばプロジェクトFやレリック、他は質量兵器スレスレの機械兵器。

そういったものを主に研究している者たちが、ミッドチルダに流れ込んでいるのだ。もしくは、彼ら宛の資材やら何やら。

もっとも、それが最初というわけではない。駆り立てられた獲物がどこかへ逃げ込むことは珍しくもないこと。

問題なのは、逃げるというよりは、助けを求めるように、彼らがミッドチルダへ向かってくることだろうか。

今のところ目立った動きはないが、それでも、無視できないレベルにはなっている。

重ねて言うが、これは別に珍しくもないこと。

ただ海と陸の境界線を跨ぐ事件が多い所為で、縄張り争いで捜査が難航している。

そのせいで、他の事件と比べたら目に見えた成果を挙げられないのだ。

『で、それがどうした?』

『三課も捜査に協力しているのは知っている。
 だが、今の火消しのようなやり方は非効率的だ。
 もうそろそろ腰を落ち着けるつもりはないか?』

『腰を落ち着けて、そっちとの合同捜査の橋渡しをしろってか』

『ああ。無理を言っているのは分かっている。そこをなんとか頼めないか?』

『どうだろう。俺は一介の課長にしか過ぎないからね。上司の意向も聞いてみないとだから、即答は無理だ。
 ……ただまぁ、そうだな。
 知り合いに密輸品の捜査を主にしている部隊の人がいるから、それとなく話をしてみるよ。
 資材の流れから、取り逃がした連中の足取りも掴めるはず』

『頼む。その人は当てにできるのか?』

『有能な人だよ。それに、クロノも会ったことがあるはず。
 戦闘機人事件のとき、指揮を執っていたから。覚えてる?』

『ん……いや、はっきりとは思い出せないな』

『そっか。ま、顔見知りってだけでも随分とマシだろうさ』

などと話していると、

「エスティマくん」

「ん? ああ、なのは」

いつの間にか女性陣から離れて、なのはがこちらに来ていた。

「や、久し振り。今日の調子はどう?」

「握手のし過ぎでデバイス握れないかも。それと、頭痛が痛い。
 模擬戦は無理っぽいかな」

「そっか。楽しみだね、模擬戦」

「人の話を聞けよ。そんなに模擬戦が好きかお前は」

「頭痛が痛い、なんて日本語間違った嘘言えるぐらいには元気じゃない。
 それに、私は模擬戦が好きなわけじゃないから。
 人をバトルフリークか何かと、勘違いしているんじゃないの?」

違うんですか、とは言えなかった。

……まー冗談はおいといて、実際のところこの子は、魔法を使うのが楽しい、ってタイプだし。

それでいつの間にか俺をライバル認定するもんだから、決着付けるのを楽しみにしているのか。

なんて思っていると、レイジングハートとSeven Starsがチカチカと光り始めた。

……また喧嘩でもしているのだろうか。

「……レイジングハートも、いつもは大人しいんだけどね」

「……ウチのも。変な確執とか、いつできたんだろう」

「……いや、マスターの影響じゃないのか?」

「クロノくん。その言い方だと、まるで私とエスティマくんが仲悪いみたいじゃない」

「良くもないけどな」

「そこは否定しようよ!」

なんだかご機嫌斜めのなのはさん。

まぁ良いの、と彼女は腕を組むと、じっと俺の方を見てくる。

「とにかく、今日の調子は良いんだね? 体調不良とかじゃないなら、手加減無しの全力全開で戦うから。
 今年の私は一味違うよ?」

「お互い限界突破しない範囲で全力な。それに俺だって、伊達に前線で戦い続けているわけじゃない。
 簡単に勝てると思うなよ?」

「教導隊のエースを、甘く見ないで欲しいの」

ふふ、とお互いに不敵な笑みを浮かべる。

そして――

……そして?

ふと、俺となのはは同時に視線を落とした。

腰ぐらいの高さに、何やら赤毛のお子様が。

妙に瞳を輝かせて、俺となのはを見ているエリオ。

どうしたんだろう。

「エリオ、どうした?」

「エスティマさん、なのはさん! 一緒に写真に写ってもらっても良いですか?」

そう言い、エリオはポケットから一枚のカード、いや、待機状態のデバイスを取り出した。

……S2U? クロノにもらったのだろうか。それとも、同型の?

どうなんだろう、と考えていると、困った風に笑うクロノがエリオの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「すまないな、二人とも。こいつ、エース級の魔導師に夢中なんだ」

そうなのかー。

いや、初めて会った時からそんな感じはしていたけれど、まだ飽きていなかったんだね。

「エスティマさん、僕、魔法が少しだけ使えるようになったんです! 今度A.C.Sの使い方を教えてください!」

「駄目だ。こいつに教わったらロクなことにならない」

「なんでさ兄さん!」

「あー……なのは、頼む」

「うん」

話をなのはに放り投げるクロノ。面倒に思ったのか、宥められないと思ったのか。

……というか、俺、別にA.C.Sが得意ってわけじゃないんだけど。

どんな目でパンピーに見られているんでしょうか。

「あのね、エリオくん。なんでお兄さんが駄目って言っているか、分かるかな?」

「……危ないから」

「じゃあ、なんで危ないか私と一緒に考えてみようか」

エリオ相手に始まるなのはさんの魔法講座。

とは言っても、子供でも分かるように説明を噛み砕いているのは流石か。

なのはの説明を復習のつもりで聞いていると、フェイトたち、そしてヴィータやエクス、シスターたちが到着した。

大人数になると、やはりいくつものグループができるもので。

俺、ユーノ、クロノ。

お子様組と教会組。

なのは、フェイト、アルフ、エイミィさん。はやてもそこに入ってはいたが、何か話を振られない限り愛想笑いをしているだけだったようだ。

ちなみに男達の挽歌の方では、時折勝ち誇った顔のクロノが恋バナを振ってくるのが酷くウザかった。

増長いくない。



























「で、シグナム。おめぇ、本当に良かったのか?」

「何がでしょうか」

「エスティマと一緒にメシ食わなくても、ってことだ。
 友達だってきてたんだろう?」

「はい。ですが、私は部隊の皆さんと食事を取りたかったので」

そう言い、シグナムは空になった弁当箱の山に容器を乗せて、緑茶を口に運ぶ。

彼女を見て、どうしたもんか、とゲンヤは胸中で呟く。

エスティマからシグナムを預かってしばらく経つが、部隊に彼女がいる時間が増えるのに比例して、どうにも二人の距離が空いているような気がするのだ。

シグナムの面倒を見ている部下から聞いた話では、エスティマに無断で寮への転居も考えているのだとか。

親離れ――とは、少し違うだろう。

何が彼女をそこまで追い立てているのか、聞くべきか聞かないべきか。

歳が近いことからギンガやスバルに頼もうと思っても、娘たちがどんな感情をエスティマに抱いているのか分かっているつもりだ。

それで変にこじれては、シグナムを預かっている意味がない。時間が経って一時よりはマシになったと言っても、クイントのことを娘たちは忘れていない。

ままならない。

娘が一人増えたみてぇだ、と苦笑して、ゲンヤは温くなった緑茶を口に含む。

娘。ならば、エスティマは長男か何かだろうか。

クイントとの間には、結局子供を作ることができなかった。

ギンガやスバルがいるから満足はしているが、それでも息子の一人は欲しかったかもしれない。

「……私は」

「ん?」

「私には、スクライア執務官と一緒にいる資格がないのです。
 今はまだ。
 それを手にするまでは、戻りません。そう、決めたんです」

「……そう、か」

喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、相槌を打つ。

言いたいことはあるが、余計なお世話か。

……説教臭くなっていけねぇ。

歳は取りたくないものだ。

空になった紙コップを握りつぶして、ゲンヤは昼食を終えた。

































『セットアップ! レイジングハート・ヱルトリウム!』

『セットアップ! Seven Stars・カスタムライト!』

仄暗い広間の中に浮かぶディスプレイ。

そこに映っているのは、管理局祭りの会場で行われている戦技披露会の大将戦。

お互いに白を基調としたバリアジャケットを着た、少年と少女。

エスティマ・スクライアと高町なのは。

高町なのはが握っているデバイスは、デバイスコアの下に二つのパーツが取り付けられている。

マギリング・コンバーターとカートリッジシステム。つい先日までアヴァランチと名付けられていたデバイスは強化され、ヱルトリウムと名を新たにしていた。

一方エスティマは、左手に片手槍を。右手には白金の手斧を握っていた。モードA・EX。

両者は一言二言言葉を交わすと、開始の合図と共に空へと上がる。

その光景を見ているのは――いや、見ているのだろうか?

数多のプレートが浮かぶ空間の中、シリンダーに収められた三つの脳髄。

生命維持装置の重い駆動音が響く中、スピーカー越しの声が発せられた。

『足がかりになれば良いと思っていたが、よもやここまでとは』

『ああ。我らの悲願である、優れた指導者による次元世界の救済。
 それを実行する者を生み出すための、人造魔導師計画。
 まだ不安定な技術故に、彼には捨て駒になってもらうつもりでいたが――試作型であるあの少年が、もっとも理想に近いとはどんな皮肉か』

『我らが望む王は、あの程度では足りぬ。
 しかし、無視できないのも事実。
 レジアスの後釜として、今から鎖に繋ぐのも悪くないやもしれぬ』

最高評議会。

旧暦の時代から生き、人の姿を捨ててまで生きながらえている存在。

彼らはエスティマとなのはが戦う映像を見ながら、これからの進路を決めようとしている。

彼らがスカリエッティを飼っているのには、先程上がったように、一つの目的があったからだ。

生命操作技術によって、人の姿を模しながらも人を越えた存在を生み出し、それを傀儡として次元世界を統べる。

王の選定者とでも言えばいいのだろうか。いや、人を導く存在を選ぶのではなく、生み出す。それに拘る彼らは、また別か。

彼らが望む王とは、魔導師としての絶対的な力と、人を統べる能力を兼ね揃えた者。

未だにそれを誕生させることは出来ていないが、その踏み台とするはずだったエスティマが、今や彼らの理想に近付いている。

故に、レジアスと同じ次世代への繋ぎ。その役目を彼に負わせようかと、彼らは考えているのだ。

『ジェイルも一時と比べ、成果といえる成果を出せていない。
 やはり計画を白紙に戻しつつ、人材を入れ替えての再起を図るべきではないのか?
 幸いエスティマは、プロジェクトFの素体だ。組織運営に関する記憶を焼き付ければ、すぐに使えるだろう』

『しかし、計画は順調と言えなくとも進んではいる。焦って博打に出る必要もないだろう。
 我々に残された時間も多くはないのだ』

『左様。方向性を変えることで、また違った――』

言葉を重ね、議論を交わす。

それを不毛と取るかどうかは、人によるだろう。

そうしている内にディスプレイの向こう側で行われていた戦技披露会が終了する。

――そうして、

パチパチと、どこからか拍手の音が上がった。

気怠げではなく、手を打つ音には熱が籠もっている。

ゴボリ、とシリンダーに気泡を発生させ、最高評議会は言葉を止めた。

『……誰だ』

「これは失敬。邪魔をしてしまいましたかな?」

カツカツとプレートを踏み締める、革靴の音。

暗がりからゆっくりと姿を現した人物。

ジェイル・スカリエッティ。

両手にはデバイスである、グローブが嵌められている。

白衣の裾をはためかせながら、彼はゆっくりとシリンダーへと近付いてゆく。

暗がりでも分かる、猫のような金色の瞳。それを目にして、最高評議会は焦りを滲ませた声を上げた。

『貴様、なぜここにいる』

「そう邪険にしないでもらいたい。今まで世話になったスポンサーの顔を、一目見ようと足を運んだだけですよ。
 しかし、なかなか辺鄙なところにお住まいだ。や、私も人のことは言えませんがね」

『失せろ、ジェイル。貴様に用はない。こんなところで遊ぶよりも、やるべきことがあるだろう』

「それがそうでもないのですよ。あなたたちの悲願に、これは重要なことですから」

言いつつ、スカリエッティは右腕を持ち上げた。

目の前で開いた右手をゆっくりと握り締める。ぎちり、と鈍い音と共に、シリンダーの周りに浮かぶ赤い魔法陣。

『ジェイル! 貴様、なんのつもりだ!』

「なんのつもり? 言ったでしょう、あなたたちの悲願に必要なことなのだと。
 ――偉大な王をご所望でしたな、蒙昧な老人方。
 しかし、ああ、いけない。
 別に私は、あなたたちの理想とやらに興味はないのです。
 私の夢の手助けをしてくれるのならば、大人しく使われているフリぐらいは出来ました。
 ……ですが」

ゆっくりと閉じていた手は、勢いよく握り込まれる。

それと同時に魔法陣からは魔力で編まれた数多のワイヤーが飛び、シリンダーを刺し貫く。

スカリエッティは満面の笑みを浮かべ、

「いけないなぁ! ああ、無視できない!
 エスティマくんは私の敵だ! 決して、同じ側に立ってはいけない! いけないのだよ!」

『ジェイル――!』

「死に給え、哀れな亡霊よ!
 あなた方の悲願は、役目は、私が継ぐとしようじゃないか。
 誕生するのは、少しばかり暴君かもしれないがね?」

腕を一薙ぎし、シリンダーとその中身がバラバラに切断される。

だが、既に彼らから興味を失ったのか。

培養液とガラスが爆ぜる音の中、スカリエッティは右手で顔を覆いながら、笑い声を上げる。

「はは」

指の隙間から覗く瞳は、戦技披露会を映していたディスプレイへと向けられていた。

なのはと一緒に担架で運ばれるエスティマに。

「ははは……!」

顔を押さえながらも身を折り曲げ、左手で腹を押さえる。

それでも口は開いたままで、スカリエッティは笑い声を上げ続ける。

「はははははは……!
 ……ステージは整った。
 あとは役者が揃うのを待つのみだ!
 さぁ、顔合わせといこうじゃないかエスティマくん。
 君が満足してくれるよう、最大級のもてなしを用意した。
 嗚呼――滾る。
 夢のような闘争を、始めようじゃないか!」


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