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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] チンクEND
Name: 角煮◆904d8c10 ID:1e7f2ebc 前を表示する
Date: 2010/04/23 23:35

雨はいつ上がる? そのフレーズはなんだったか。
止まない雨は存在しない。いつかは止まる。
時間が過ぎると共に終わり何かがあると同時に、始まる何かも存在している。

「なーなーエスティマくん、時間までまだ余裕あるやろ?
 ご飯食べに行かへん?」

「……悪いけど、先約があるからさ」

背中にのしかかって話しかけてきたはやてに断りを入れて、首に回された手をやんわりと解く。
すると、ちぇー、と残念そうな声が背後から聞こえて渋々と手が引かれた。

椅子を回して振り返ると、何やら面白くなさそうな顔をしたはやてがいる。
ここ最近セミロングまで髪を伸ばした彼女は、その毛先を弄りながら溜息を吐いた。

「つれへんなぁ、ここ最近のエスティマくん。
 前まではご飯ぐらい付き合ってくれたやんかー」

「その度に酔い潰れる寸前まで酒飲まされるんだから、好い加減に学習するさ」

「ほんならこれは自業自得ってやつやなー。
 ううむ、やっぱりアルコールやなくて怪しげなお薬に頼らへんかったのが敗因かもしれん」

「管理局員が怪しげなお薬とか云わないように。
 逮捕するぞ逮捕ー」

「やーん、捕まえてー」

「……」

「嘘、冗談やから。
 そんな真顔で何云ってんのコイツみたいな目で見んといて……」

大袈裟になリアクションを取るはやてに、つい吹き出してしまう。
笑うなんて酷いやんかー、と頬を膨らませる彼女を尻目に、俺は腕時計へと視線を落とした。

もう良い頃合いだ。そろそろ出よう。

「じゃあ、もう行くよ」

「……ん」

どこに、とは云わない。彼女も分かっているはずだ。
きっと分かっていて夕食に誘ってくれたんだろう。
そんなはやてが何を思っているのか。
俺に言葉をかけてくれる意味を理解しつつも、彼女への返答は六課の頃に向けたものと変わっていない。

だからこそ突き放しはしないものの、絶対に譲らない線引きをしてずっと過ごしていた。
幼馴染みで、同僚。信頼できる戦友。はやてとはそれだけの関係だ。
それ以上でもそれ以下にもなりたくないし、なっちゃいけない。

椅子から立ち上がり背筋を伸ばすと、何も云わずに立ち尽くしているはやての隣を素通りする。
その際、

「……まぁ、分かってたんやけどな」

呟きに対して、俺は聞こえないふりをした。



















ありがたいような、違うような。
これから社会へと復帰――否、踏み出す自分たちに向けられ続けている訓辞は、もう十分に差し掛かろうとしていた。
海上収容施設の責任者が述べる口上を聞きながら、チンクはそっと視線を泳がせる。
自分と同じように並んで話を聞いているのは、ディエチとセイン。
自分と同時期に逮捕されたディエチはともかく、何故セインが肩を並べているかと云えばそう難しいことではない。
彼女は他のナンバーズと違い、スカリエッティと共に管理局へと出頭したのだ。
そのため刑期は自分たち二人と近いところまで短縮されていた。
他の妹たちは月単位だが遅れて出所することになっている。
更正プログラムを受けた姉妹たちが外で顔を合わせるのは、そう遠くないだろう。

……長かった、とチンクは胸中で呟く。
エスティマに捕まり、結社の壊滅に力を貸して、罪を償い続けて四年。
それだけの時間を社会奉仕に費やして、ようやく自分たちは外の世界に出ることができる。

罪を償いたいという気持ちに嘘偽りはなかったが、この瞬間を待ち望んでいたこともまた、嘘ではない。
この四年間、管理局の下で働きながらチンクは多くの物を目にしてきた。
それは自分たちに向けられる悪意であったり、怨嗟であったり。
また、自由を手にしたときに触れてみたいと思う世界の広さであったり。
枷をはめられながらも目にした事象は、夢を抱かせるには十分なほどで――おそらく、ディエチもセインも同じことを考えていることだろう。

ディエチは長い社会奉仕の間に溜まった蓄えを使ってバイクの免許を取り、旅行に出ると云っている。
セインは彼氏を獲得しつつ遊びたいので時間が自由に取れる仕事に就きたいと云っている。
そして自分は――

「――以上で訓辞を終える。
 もう私は君たちの顔を二度と見たくない。ここへ戻ってくることがないように」

今までの張り詰めた表情ではなく、柔らかな笑みを浮かべて、所長はそう締めくくった。
瞬間、沈黙が降りて、

「いよっしゃー!」

素っ頓狂な声をセインが上げると共に、彼女は抱きついてくる。
片腕にディエチの首を引っかけて、痛いと思うほどに強い力で締め付けてきた。
苦しくもある締め付けを、だが今だけは心地良く思う。
振り回されるディエチも迷惑そうな顔をしながら、口元に微かな笑みを浮かべていた。

「じゃあ早速遊びに行こう!
 カラオケ? ボーリング? どこでも行っちゃうぞ今の私は!」

「セインうるさい。
 そんなにはしゃがなくたって良いのに」

「これがはしゃがずにいられるか!
 うっひょー、なんだか心持ち身体が軽い!
 あ、そうだまずご飯! ここの近くに美味しそうな店があって、いつも行きたいって思ってたんだよね!」

「……それは良いんだけどさ」

首に回された手をタップして、ディエチは出口の方を顎で指し示した。
セインはきょとんと目を瞬くがすぐに意味を理解したようで、チンクを抱きしめていた腕を解く。

「行きなよ、チンク姉」

「……いや、私は」

「セインのご飯なら私が付き合うから大丈夫」

「……良いなー彼氏羨ましいなー」

「ほら」

絡んできそうなセインを無視して、ディエチはチンクの背中を押した。
やや躊躇いながらもチンクは頷き、そして歩き出す。

ゆっくりと一歩一歩を踏み出して、屋内運動場を抜けると廊下を、そして施設の出口へ真っ直ぐに。

見慣れた無機質な廊下を一人で歩き、ここで過ごした毎日に思いを馳せる。
良いことずくめであったとは、決して云えない日々だったのは確かだ。
外であったことに妹たちが愚痴を漏らし、それを宥めて。宥めることができず喧嘩になったこともあった。
四年という時間があまりにも長くて、その間、彼が待ってくれているのか疑心暗鬼に駆られることもあった。
そんな甘えで彼と険悪になり、どうして分かってくれないのかと憤慨して悲しくなったりもした。

けれどそれも踏み越えてしまえば、胸を張って誇れる記憶の一つとなる。
背後に残る轍は自分が今日この時を迎えたという喜びを満たす後押しとなり、心を躍らせる。
けれど、まだだ。
妹たちには悪いと思いながらも、チンクは胸の中で一つのことを決めていた。

それは――

海上収容施設の出口が見えてくる。
自動ドアの向こう側には一人の男が立っており、彼は花束を片手にじっと立ち尽くしていた。
その姿を見た瞬間胸が高鳴ったのは錯覚ではない。
ドクドクと脈動する心臓は心とシンクロして、チンクは頬を緩めないよう努めながら一歩一歩を刻んで進む。

決して歩調を早くしないように気を付けて、自動ドアを抜けた。
瞬間、彼がこちらに身体を向けた。真正面から自分を――自分だけを見てくれている。

そう思った瞬間、ずっと一定の歩調を守っていた脚が勝手に動き出す。
変なところを見せたくないと思っても、もう我慢などできるわけがない。
地面を蹴って、風を浴びて、髪を踊らせ、彼女はエスティマ・スクライアの元へ一気に駆け寄った。

エスティマは待ち受けていたように、両手を広げて笑みを向けてくる。
そうしてチンクは――昨日までは許されていなかった行動、彼の胸元に飛び込むと共に、満面の笑顔を見せた。

チンクを受け止めたエスティマは花束を取り落とし、両手で彼女を抱き締める。
戦闘機人でもなんでもないというのに、その力はセインよりも強かった。
けれどその力強さが求めてくれているように思えて、喜びにすら転化される。

「おめでとうございます」

「ありがとう!」

普段見せている年上の余裕も吹き飛んで、チンクは童女のような笑顔のままにエスティマの首元へ顔を埋めた。
重くないはずはないのにエスティマは苦も見せずチンクを抱き締めたまま、長い銀髪へと鼻先を埋める。

お互いにお互いの匂いを胸一杯に吸い込み、もう離さないと云わんばかりに抱き合って。
そしてほぼ同時に顔を上げると、くすぐったいように笑い合い、唇を重ねた。














リリカル in wonder

   ―After―













「……あ、あの、大丈夫です?」

「……無理だ。歩けん」

シーツにくるまって無言の抗議を向けてくるフィアットさん。
じとーっと粘着質な視線を受けつつ、俺はフローリングの床に正座。
虚ろな笑いをすると、思わず目を逸らした。
ちなみに逸らした視線の先、シーツには赤黒い染みがあったりなかったり。

「……だから私は無理だと云ったのだ」

「……いや、無理でもやってくれって」

「それとこれとは話が別だ、この馬鹿め!
 うう、くそ……痛みには慣れていたと思ったが、これは別物だ。
 もう少しお前が手加減すれば……」

「すみません、つい。
 いやでも俺、泣いても止めませんからね、って念を押しましたよ?」

「つい、で済むか!
 大体、本当に泣き出したのに止めないお前はどこまで鬼畜なのだ!」

どうやらフィアットさんにサイズ差補正無視のパイロットスキルはないようだった。
ぶーぶー抗議の声を上げるフィアットさんに苦笑しつつ、

「……嫌でした?」

「……卑怯者。女の敵め」

微かに頬を染めながら、彼女はシーツの中へと顔を隠してしまう。
どうやらお姫様の機嫌を損ねてしまったようなので、床に投げ捨ててあるスラックスを手に取り立ち上がった。

「お腹空いたでしょう? ご飯作ってきますよ。
 何かリクエストはありますか?」

「……なんでも良い。
 お前が作ってくれるものなら」

「了解」

ズボンに脚を通しながら聞くと、シーツの中から顔を出して、フィアットさんはジト目のまま呟いてくれた。
嬉しいことを云ってくれるよ。

そのまま自室を抜けてリビングへ。
そしてキッチンに立つと、早速フライパンをコンロの上に乗せた。

フィアットさんがいると云っても静かなもので、朝のやや冷たい空気が家の中には満ちている。
ただそれに厳しさを感じることはなく、むしろ目を覚ます冷ややかさが心地良い。

今、この家には俺とフィアットさんしかいない。
三日前までここに住んでいたシグナムは今、管理局の隊舎へと引っ越している。
曰く、当てられたくないから、だそうな。すっかり見透かされている。

けれどそれは当然かもしれない。
こうやってフィアットさんと過ごせる時間が近付くにつれて、浮かれた気持ちが顔に出ていたらしいし。
事実、俺は待ち望んでいたこの時を心の底から喜んでいる。

正直、四年は長かった。長すぎたとすら云える。
あの人と別離して、捕まえて、そこから更に、だ。
今だから云えることだが、あの人を浚ってどこか別の――なんてことを冗談半分で考えたことは何度もある。
けれどそんな馬鹿げた考えも、今じゃ笑い話にしかならないだろう。

そして、そんな馬鹿げたことを実行しなくて良かったと思える時間を――それだけの価値がある触れ合いを過ごすことができた。
ならばまぁ、今までの時間も無駄じゃなかったとはずだろう。

「……っと」

考えごとをしていたせいでフライパンを熱してたの忘れてた。
慌てて卵を溶いてバターを落とすと、溶解しきった瞬間に溶き卵を投下。
またか、と思われるかも知れないが作る料理はスクランブルエッグ。朝食というくくりの中で一番上手く作れるのはこれなんだから、仕方がない。
だって、どうせなら美味しいものを食べて欲しいじゃないか。



















キッチンから漂ってくる匂いとバターが溶ける音に触発されたのか、くうくうとお腹が空き始めた。
餌を待つ雛のごとくシーツにくるまって、てるてるチンクとなった彼女はぼーっとエスティマが戻ってくるのを待っていた。
何も考えないでいたら、自然と昨晩のことが思い起こされてしまう。

エスティマに連れられてちょっと気取った店に行き、酔わないていどにお酒を飲んで、なんでこんな苦いものを美味そうに飲むんだお前は、と絡んだら大人ですからと云われてむっとしたり。
タクシーでも使えば良かったものの二人で夜景を見ながら酔い覚ましに散歩をして。
閉店間際のデパートに慌てて駆け込んで、すっかり忘れていた自分の日用品を揃えに行って。

買い忘れはありませんか、あったら飛んで買いに行け、なんて軽口を叩きつつこの家に招き入れられて。
そして――

「……美味しく頂かれた、ということなのか」

わざわざ固く云ってみたものの昨晩に囁き、囁かれた言葉の数々を思い出して一瞬で真っ赤になった。
うーわーとシーツにくるまりながらゴロゴロとベッドを転がるチンク。そして腰の辺りに響く鈍痛で身動きが取れなくなる。
その痛みを忌ま忌ましさ半分嬉しさ半分に感じ入る。
今日は二人で遊びに出掛けようと予定を立てていたのに、これじゃあ外を出歩けるかどうかも怪しい。
もうちょっと……身長があと二十センチあれば、とちょっとどころではない水増しをどこかの誰かにお願いしながら、熱の籠もった溜息を吐く。

「……あいつは喜んでくれただろうか」

喜んでくれただろうとは思う。
けれどもうちょっと……やっぱりあと二十センチ。
できればバストランクAAのこの胸もなんとかしたい。高ランク貧乳なんて称号は微塵も嬉しくない。
なんとかなれば、もうちょっと、こう……。

『……出しなさい。いい加減にここから出しなさい。
 デバイス虐待で訴えますよ二人とも。ここは暗いです。狭いです。寒いです。
 可及的速やかになんとかしなさい』

ううむ、と一人でチンクが唸っていると、地獄の底から響いてくるような念話がどこかから聞こえてきた。
いや、チンクはその出所を知っているのだが。

横着して匍匐前進の要領でエスティマの机、その引き出しに指を引っかけ、引っ張った。
そして紐を指に絡めて腕を引けば、掌にはSeven Starsが。

憤慨した様子でSeven Starsはコアを瞬かせ、虐待反対、と表面に映し出す。

『……昨夜はお楽しみでしたね』

「よし、仕舞おう」

『待ちなさい。今のはウィットに富んだジョークです。
 大体、何故この私があんなところに押し込められなければならないのですか』

「……お前は自分のやろうとしたことを覚えてないのか?」

『旦那様に彼女ができた決定的瞬間、サイズ差補正無視の荒技が披露される所を映像として残し、未だに独り身のマスターに所持されてるレイジングハートへ自慢しようとしただけです』

「……ああ、今理解した。
 お前、実はかなり愉快な性格だろう」

『馬鹿な。クールビューティーであるこの私を捕まえて愉快だなどと。
 だとしたらバルディッシュは一流のコメディアンです』

「そうか。それはすごいな」

『なんですかその可哀想な物を見る目は。
 こら、止めなさい。なんでまた私を引き出しに――』

Seven Starsをガン無視しつつ再び引き出しに放り込むと、チンクはデバイス扱いで渡されているシェルコートを起動し念話のジャミングを開始。
これで少しは静かになる、と息を吐いた。

「あれ、フィアットさん何してるんです?」

「ああ、なんでもない。気にするな」

「……そうですか?」

トレーに朝食を載せて姿を現したエスティマに清々しいほどの笑顔を見せるチンク。
Seven Stars、哀れ。

何か着るものはないかと見回すも、昨日身に着けていた衣服は部屋の入り口に脱ぎ散らかしてある。正確には脱ぎ散らかされた、だが。
困った、とチンクは眉尻を下げつつ、自分が着れそうな物を見付ける。
フローリングに丸まって転がっているそれは、エスティマのカットシャツだ。
チンクはそれを手に取ると、だぼだぼの袖に手を通してボタンを留める。
装着完了、と自分の姿を見下ろすと、無性に嬉しくなり着たばかりのシャツを抱き締めた。
無地の布からはエスティマの匂いと、僅かな汗臭さが。だが決して不快ではない。

「……あの、目の前でそういうことをされると、その……」

「……わ、私に構うな」

そっぽを向きつつだぶだぶの袖を捲り、エスティマの持ってきたトレーへと目を向けた。
盆に載せられた料理からは湯気と共に食欲をそそる香りが立ち上っているが――

「エスティマ、一人分しかないぞ?」

「……すみません、はりきったら失敗しちゃって。
 半分ずっこ、ってことで勘弁してもらえません?」

「ほう。どうしてはりきったんだ?」

「そりゃ勿論、フィアットさんに食べて貰いたいからに決まっているでしょう」

「ぐっ……」

照れもせずそんなことを云うエスティマに、チンクは歯噛みする。
が、エスティマはそんな自分を見たいがためにあんな台詞を口にしたのだと、すぐに気付いた。
にやにやとした笑顔を向けられるのは全然嫌ではないものの、年上の威厳がっ。

「そ、そうだエスティマ」

「なんです?」

「あーん、で食べさせてやろうか?」

「ぐっ、それは……あ、はい。
 お願いします」

「なん……だと……」

一瞬躊躇いながらも即座ににやにや笑いに戻ったエスティマに恐怖を覚える。
この男……私に何をさせる気だ……!

「あれ? あーん、してくれないんですか?」

「貴様……!」

「なんだ、ガッカリだな……」

「ま、待て。姉に二言はない。
 それぐらいのこと、造作もない」

多分ここで断ったら自分がそれをされる立場に。
そんな嫌な予感というか、間違いなくこの男はやるという最悪の確信があったためチンクは折れてしまった。

スプーンでスクランブルエッグを掬い、持ち上げる。
羞恥のあまりにぶるぶると手は震えて、エスティマの作った朝食は不気味な踊りを見せていた。

「ほら、食べると良い」

「……あーん、って云わないんです?」

「お前、この……あとで覚えていろよ!?
 あ、あーん……!」

「あーん」

真っ赤に染まりながらチンクは清水の舞台から飛び降りる覚悟でスプーンを差し出したというのに、エスティマは照れも何も見せずに食らいついた。
なんだか無性に納得いかない気分でいると、スプーンを奪い取られてしまう。

「じゃあ次は俺の番ですね」

「待て、なんだそのルールは。聞いてないぞ」

「あれ? 口移しの方が良いですか?」

「ふざけるな貴様!
 く、口移しだなんて卑猥な!」

「卑猥じゃないですって。皆やってますよ」

「嘘だ!」

「……嘘じゃないのに」

「そ、そうなのか?」

残念、といった様子でエスティマが溜息を吐くと、ついつい慌ててしまうチンク。
残念な顔を見せている一方で、彼女の死角になっている顔半分はにやにや笑っているのだが。

チンク、更正プログラムを果たしても自分が世間知らずという自覚が一応はあった。
彼女の読んでいる女性週刊誌などはこういったじゃれ合いに関して書かれていることが少ないため、エスティマの言葉を信じそうになる。

「ほら、少し深く考えてみれば分かりますよ。
 恋人同士ならキスぐらい普通にするでしょう?
 口移しなんてそれの延長なんだから」

「そう……なのか?」

「そうです」

「……そうか」

愛し合うのは奥が深い、理解がまだ及ばない、とチンクが一人で思っている一方、フハハハハ状況はすべてクリアされた、とエスティマは喜んでいたり。
それに気付かないチンクは、上目遣いの視線を彼に向ける。

「そ、それでどうすれば良いんだ?」

「どう、とは?」

「知っての通り私はそんなの、したことがない」

「じゃあ俺がリードしましょう」

「したことがあるのか!?」

「いやまぁ、俺もないんですけどね。
 何事もレッツトライッ」

「待て。何やら猛烈に嫌な予感が――」

止めようとするチンクをガン無視して、エスティマは少量のスクランブルエッグを口に含む。
そしてやや強引にチンクの後頭部に手を回し、顔を近付けてきた。
その瞬間、彼の瞳に悪戯めいた輝きがあったことに気付いて、この男は――! と憤慨するも時既に遅し。

唇同士が重なり合い、こじ開けられると、顫動するように二人の頬が蠢いた。
舌がチンクの舌と絡み合って、卵が押し込まれてくる。
彼女はそれを嚥下しようとすると、邪魔するように、エスティマの舌がチンクの頬を内側から舐った。
やっぱり卑猥じゃないか、と目を白黒させつつ、彼女はされるがままに。
そのまま押し倒しそうな勢いで水音が撹拌され続け、解放された時にはお互いの口元がべたべたになっていた。

はふ、と熱っぽい息を吐くチンクとは逆に、エスティマは満足そうな表情をしながら手の甲で唾液を拭った。
惚けたようにそんな彼の様子を眺めて、唾液が顎を伝うくすぐったさで我に返ると、再びチンクは沸騰しそうなほど真っ赤になる。

「こ、この、この、この……っ!」

「この?」

「このドSが――!」


















ドSが、と罵りつつも満更ではなかったのか、そのまま口移し朝食は続けられたり。
無論そんなことをすれば服は汚れて顔はべとべと。ついでに云えば昨晩の汗も洗い流したいということで風呂に入ることになったわけだが――

「……なんで一緒に入っているのだ」

「嫌でした?」

「……もうその手には乗らないからな」

湯船に浸かったチンクは、さっきまで良いように弄られたのを根に持っているのか。
風呂に持ち込んだタオルでぶくぶくと泡を立てつつ顔を俯けている。
だが彼女の頬は朱色に染まっており、それは決して風呂に入っているからではなかったり。

「髪長いと大変そうですね」

「こら弄るな。解ける」

後ろから束ねた髪をつつかれて、チンクは抗議の声を上げる。
が、後ろは振り向かない。どうせまた意地悪な笑みを浮かべているに決まっている。
そう、すぐ側にエスティマはいるのだ。
大して風呂場は広くないものの、それはそれ。チンクが小さないのでなんとかなっている。

まるで父親が幼い娘を入れるようにエスティマが浴槽に背を預け、彼の胸板にチンクが背を向けている状態。
ただ父親と娘のようではあるものの、その密着具合は恋人のそれだ。なんだかんだでチンクも嫌がっていないようである。
ちなみに風呂には入浴剤が入っているため、白濁したお湯の中がどうなっているのかさっぱり不明だった。

「んっ……こ、こら!」

「どうしました?」

「不意打ちで触れるんじゃない」

「あはは、そんな。手が滑っただけですよ。
 こんなに密着してるし、お湯の中見えないし」

「もう騙されないぞ私は」

「酷いなぁ。騙した覚えなんてないのに」

「……ついさっき私を、その……抱きかかえて脱衣所まで連れてきた人間の云う台詞じゃないな」

「お姫様抱っこは嫌でした?」

「お姫様云うな!……くぅ、どういうことだ。
 キャラが違うぞエスティマ。お前がこんな男だとは思わなかったっ」

「あー……まぁ、はしゃいでる自覚はありますよ。
 けどそれもこれも、フィアットさんが可愛いのが悪い」

ざ、と湯の表面を波立たせてエスティマは腕を持ち上げた。
そしてそのままチンクを背後から抱き締めて、腕に包まれたチンクは更に顔を真っ赤にする。

――このままではまた良いように弄ばれてしまう……!

それは駄目だ。年上の威厳とか台無しだ。
羞恥で顔から火が噴き出そうな気分だったがそれを乗り越え、チンクは腕を持ち上げると、すぐ側にあるエスティマの後頭部に掌を添える。

「フィアットさん?」

「そ、そういうふざけたことを云う奴は、こうだ!」

ぐいっとエスティマの首を手繰り寄せて、同時に首を捻って口吻を。
決して楽な体勢ではなくむしろ苦しいので、唇は触れるだけに留まった。

「ふ、ふふ……どうしたエスティマ。
 顔が真っ赤だぞ?」

「ぐっ……」

エスティマの頭を解放しつつ、後ろを振り返ったままチンクは得意げな笑みを浮かべた。
勿論、顔はさっき以上に真っ赤だ。だがそれはエスティマも同じ。
さっきまでの勢いが嘘のように、彼は視線を泳がせていた。
主導権を取り戻したチンクは不敵な笑み――を恥ずかしさから浮かべられず、せめてもの抵抗とばかりに口元をひくつかせる。

「そ、それにだな。
 人のことを可愛いと云っておきながら……これはどういうことだ?」

ざ、と今度は湯を波打たせたのはチンク。
やっぱりお湯に隠れて何が起こっているのか分からないものの、彼女は動かした手で何かを掴んでいるようだった。
なにを掴んでいるのだろう。

「可愛いと云うならこれは何か違うんじゃないのか?」

「フィアットサンガ、セクシーダカラデスヨ」

「そうか、そうか」

棒読みなのをわざと黙殺するも、チンクの顔は以前赤いまま。
掴んでいるものが掴んでいるものだからだと思われる。

「まったく……昨日のだけでは足りなかったのか、お前は」

「……すみません、やっと触れ合えたから」

「……そ、そうか」

密着したまま頬を染める二人は、まるでサクランボのよう。
お湯に浸かったまま肌を重ねることは当たり前のように熱い。
汗は次々と流れ出すものの、不快と思わないのは側にいる者を愛しく思う故だろう。

そのままのぼせる寸前まで、二人はそうしていた。



















「えっと、本当に大丈夫ですか?」

「心配するな」

云いつつ、がくがく震えた足取りでチンクとエスティマはクラナガンへと出ていた。
風呂を上がった二人はそのままゆったりと時間を過ごしていたが、時間が勿体ない、とチンクは外に出るための準備を始めたのだ。
エスティマが心配するように体調は昨日のあれこれで良くはないものの、しかし、彼女はじっとしていることが我慢できなかった。
家の中で一緒に映画でも見ていれば、と彼が提案したものの、それは帰ってからでも十分。

チンクはずっと、エスティマと一緒に昼間のクラナガンを歩きたいと思っていた。
まだエスティマが幼い頃に歩き回ったこともあったが、だからこそ余計に――恋人同士となった今、彼と一緒に、と。

……しかし少し無茶だったかもしれない。
ベルカ自治区ならともかく、人がごった返しているクラナガンの駅前は、身長の低いチンクにとって壁が歩き回っているようなものだった。
エスティマがそれとなく人の流れに巻き込まれないよう気を遣ってくれているものの、歩くことすらやや辛い彼女には厳しいものがある。
それに加えて――

「……むぅ」

「喫茶店にでも入って休みますか?」

「いや、違うんだ。気にしなくて良い」

――すぐ近くにいると、どうしても背の高さが気になってしまう。
五十センチ近く身長差がある二人。
腕を組めば抱きついているようにしか見えないし、手を繋いでもなんだか風船を持つ子供のようになってしまう。
それがチンクからすると大層不満だったのだが、云えばまた弄られると分かっていたため口を噤む次第。

が、

「……人が多いですね」

「あっ……」

やや苛立たしげにエスティマは呟くと、チンクの肩を抱き寄せた。
本当だったら腰を抱き寄せて、となるのだろうか。
そんなことを考えながら、これはこれで悪くない、と小さく笑んだ。
お返しとばかりにエスティマの腰へ手を回すと、くすぐられたように彼は身体を震わせえる。

「ふふ、どうした?」

お返しだ馬鹿め、と悪戯っぽく笑いかけると、エスティマは苦みを堪えるような顔になる。
無論それは嫌がっているからではない。照れ隠しだろう、とチンクは思った。

「……なんでもないです」

エスティマに庇われつつゆっくり歩いていると、ふと、雑踏の中に自分たちと同じカップルの姿を見かける。
一昨日までは羨ましいと思っていたが、今は違う。そんなことは絶対しないものの、私の彼氏はどうだ、と自慢したい気分だった。

が、些細なことで幸せに浸っていても歩きづらいことに変わりはない。
強がってはみたもののやはりエスティマには見抜かれていたのか、喉が渇きました、と強引に喫茶店へ連れ込まれた。

店はそこそこ繁盛していたが、空席は残っている。
ウェイトレスに通されて禁煙席に進むと、ようやく腰を落ち着かせる場所へと辿り着いた。
変な歩き方をしたせいか、座った際に股関節が軽い音を鳴らす。正直に云えば思った以上に辛かったため、声には出さずチンクは感謝した。

「俺はコーヒー……いや、ケーキセットにするかな。
 フィアットさんはどうします?」

「そうだな……」

メニューを手に取って開きつつ、どれが良いだろう、と視線を彷徨わせる。
ケーキは十種類。喫茶店にしては多い。エスティマと違うものを頼んで半分ずっこも悪くないかもしれない。
そんなことを考えながらメニューをひっくり返すと――

「こ、これは……」

――THE トロピカルジュース。無論、合体ハーティーストロー。
なんでこんなものが喫茶店にあるのだ、と心の中で突っ込みを入れながら、そっとエスティマの顔を伺った。
彼は死んだ目になりながら、まさか頼みませんよねははは、と訴えかけてくる。

「……何事もレッツトライが信条だったな」

「嘘です反省してますすみませんでしたっ!」

「うん。ならば良し」

……実を云うと流石に自分もこれは無理だったけど。

店員に注文をしてケーキが届くと、それぞれのを交換しつつ時間を過ごして休憩は終わり。
再び外に出ると相変わらずの混雑具合だったが、エスティマと一緒にやり過ごして二人はウィンドーショッピングを楽しんだ。
やや疲れてきたら休憩がてら映画館に立ち寄って、見終わったらパンフレット片手に公園で感想を言い合ったり。
そんな、有り触れている、と形容するのが正しい恋人同士と過ごす休日を、チンクは噛み締めるように過ごす。

ずっとこの時を待ち望んでいた。
その時間をエスティマと共に過ごすことが出来るのは、やはり嬉しい。
まだまだ遊び足りない気もするけれど、エスティマといるだけで腹八分目、彼と笑い会えて満腹に。
これ以上は贅沢だとすら思える。

徐々に陽が傾いてきた頃合いを見計らって、帰りましょうか、とエスティマは言い出した。
やや未練は残っているものの、これっきりではない。また来週くれば良い。
そう思うだけで、彼と一緒に住む家に帰ることも嫌ではなく、むしろ楽しみですらあった。

きた時と同じように肩を抱かれ、腰を抱き、二人は寄り添って岐路に着く。
海上収容施設に戻るのではなく、彼の家へ。
妹たちには申し訳ないと思いながらも、やはり共に暮らすホームへ戻ることは格別だ。
……ふと、愛の巣、という単語が浮かんできて何かが込み上げてくる。
そんな形容はまだ早いと思いつつも、今の自分にとっては夢じゃない、とも。
今までは夢を見るような話だと思っていたが、こうしてエスティマの隣に立っている自分は嘘じゃない。
鈍い痛みも、肩に置かれた温もりも、長い時間をかけて掴み取った宝物だ。

「……あっ」

「な、なんでもないぞ!?」

「え?」

どうやらこちらの様子に気付いたわけではなかったようだ。
彼はチンクが上げた素っ頓狂な声に首を傾げる。笑って誤魔化すと、チンクは視線をエスティマが見ていた方に向けた。

そこには一人の少女が立っていた。
杖をついているが盲目というわけではないだろう。彼女のことはチンクも知っている。
あの子と知り合ったのは四年も前のことだ。その間、顔を合わせなかったわけではないものの、病院の外で彼女の姿を見たのはこれが初めてになる。
年月のせいだろう。前は短かった髪が、今は背中を覆うほどにまで伸びていた。

彼女もどうやらこっちに気付いたようで、足を止めながら顔を向けてきた。
まずエスティマを。
そして隣に立つチンクを驚いたように見て――しかし笑みを浮かべて、手を振った。

屈託のない表情に僅かな罪悪感を抱きながらも、いや、とチンクは口元を緩める。
そして真正面から彼女と目を合わせるとチンクは手を振り返し、エスティマの腰に回した手で、ぎゅっと彼の服を握り締めた。















END



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