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No.7038の一覧
[0] リリカル in wonder Ⅱ【完結】[角煮](2010/05/11 14:32)
[1] カウントダウン5[角煮](2009/03/07 02:30)
[2] カウントダウン4[角煮](2009/03/12 10:38)
[3] カウントダウン3 前編[角煮](2009/03/30 21:47)
[4] カウントダウン3 後編[角煮](2009/03/30 21:49)
[5] カウントダウン2[角煮](2009/03/30 21:46)
[6] カウントダウン1[角煮](2009/04/25 13:06)
[7] カウントダウン0 前編[角煮](2009/05/06 20:21)
[8] カウントダウン0 後編[角煮](2009/05/06 20:23)
[9] sts 一話[角煮](2009/05/06 20:33)
[10] sts 二話[角煮](2009/05/20 12:15)
[11] 閑話sts[角煮](2009/05/20 12:15)
[12] sts 三話[角煮](2009/08/05 20:29)
[13] sts 四話[角煮](2009/08/05 20:30)
[14] sts 五話[角煮](2009/08/05 20:27)
[15] sts 六話[角煮](2009/08/09 11:48)
[16] sts 七話[角煮](2009/08/28 21:59)
[17] sts 八話[角煮](2009/08/20 21:57)
[18] sts 九話 上[角煮](2009/08/28 21:57)
[19] sts 九話 下[角煮](2009/09/09 22:36)
[20] 閑話sts 2[角煮](2009/09/09 22:37)
[21] sts 十話 上[角煮](2009/09/15 22:59)
[22] sts 十話 下[角煮](2009/09/25 02:59)
[23] sts 十一話[角煮](2009/09/25 03:00)
[24] sts 十二話[角煮](2009/09/29 23:10)
[25] sts 十三話[角煮](2009/10/17 01:52)
[26] sts 十四話[角煮](2009/10/17 01:52)
[27] sts 十五話 上[角煮](2009/10/17 01:51)
[28] sts 十五話 中[角煮](2009/10/21 04:15)
[29] sts 十五話 下[角煮](2009/11/02 03:53)
[30] sts 十六話 上[角煮](2009/11/10 13:43)
[31] sts 十六話 中[角煮](2009/11/19 23:28)
[32] sts 十六話 下[角煮](2009/11/27 22:58)
[33] ENDフラグ はやて[角煮](2009/12/01 23:24)
[34] ENDフラグ チンク[角煮](2009/12/15 00:21)
[35] ENDフラグ なのは[角煮](2010/01/15 15:13)
[36] ENDフラグ フェイト[角煮](2010/01/15 15:13)
[37] sts 十七話[角煮](2010/01/08 19:40)
[38] sts 十八話[角煮](2010/01/15 15:14)
[39] sts 十九話[角煮](2010/01/21 20:26)
[40] 幕間[角煮](2010/02/03 21:17)
[41] sts 二十話 加筆 修正[角煮](2010/02/03 21:18)
[42] sts 二十一話[角煮](2010/03/10 23:25)
[43] sts 二十二話[角煮](2010/03/11 19:00)
[44] sts 二十三話[角煮](2010/03/12 17:41)
[45] sts 二十四話[角煮](2010/03/13 18:23)
[46] エピローグ[角煮](2010/03/14 20:37)
[47] 後日談1 はやて[角煮](2010/03/18 20:44)
[48] はやてEND[角煮](2010/04/18 01:40)
[49] 後日談1 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[50] 後日談2 フェイト[角煮](2010/03/26 23:14)
[51] フェイトEND[角煮](2010/03/26 23:15)
[53] 後日談1 なのは[角煮](2010/04/19 01:27)
[54] 後日談2 なのは[角煮](2010/04/18 22:42)
[55] なのはEND?[角煮](2010/04/23 23:33)
[56] 後日談1 チンク[角煮](2010/04/23 23:33)
[57] 後日談2 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[58] 後日談3 チンク[角煮](2010/04/23 23:34)
[59] チンクEND[角煮](2010/04/23 23:35)
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[7038] カウントダウン2
Name: 角煮◆904d8c10 ID:63584101 前を表示する / 次を表示する
Date: 2009/03/30 21:46

『あの、キャロが字の練習を始めたので、その一環としてお手紙を書くことになりました。お元気ですか? 兄さん。
 いざ書き出してみると、上手く書けないな。電子メールじゃないのは慣れてないからかもしれない。あまり経験がないから。
 たくさん思い出を作った学校を卒業してから、私はスクライアでいつも通りの毎日を送っています。
 いつもは護衛隊の一員として発掘に付いて行って、それと、嘱託魔導師の資格を再取得したので管理局のお手伝いをしたり。
 よく、なのはとも顔を合わせるようになれたのは嬉しいな。
 兄さん、そっちはどう? 怪我はしてないよね? あと無茶も。何かあったら遠慮せずに呼んでね。力になるから。

 フェイト
 
 追伸 バルディッシュの調子が最近良くないので、一度見て欲しい。近い内に帰ってきて欲しいな』

『やあエスティ。元気にしているかな? こっちはボチボチ。君のお陰で賑やかになってる。
 ル・ルシエの人たちもようやく馴染んできたようで、問題らしい問題もないよ。
 こっちのことは気にせず、君は君のやりたいことを済ませると良い。とっととね。

 ユーノ

 追伸 非童貞クロノの増長がいい加減に鼻につくから、今度二人で叩こうか』

『帰ってこい馬鹿!

 アルフ』

『はじめてお手紙書きます。
 アルザスではヴォルテールを止めてくれてありがとうございました。
 それと、誕生日プレゼントでデバイスありがとうございました。だいじにします。
 魔法の勉強、がんばってます。
 がんばってください。

 キャロ』



読み終わった手紙を折りたたんで、封筒へと戻す。

最後にスクライアへ戻ったのは随分前だからなぁ……もうそろそろ帰らないと。シグナムを連れて行けないから、どうしても長居はできないのがネックだ。

しっかし……紙一枚にでかでかと殴り書きの文句ってのはどうなんですかアルフさん。

一番インパクトがあったよ。おかげでキャロのたどたどしい手紙の印象が吹き飛んだ。

……馴染んでいるようで良かった。それがある意味一番の心配だったからなぁ。

アルザスにキャンプへ行ってからそれなりに時間が経ったが……ようやく事件も解決って感じなのかね。

アルザスの森を焼き払ったことでル・ルシエは居場所をなくし、引取先を俺に打診してきた。

中将にそれとなく話を振ってみると、育成の手間がかからない者だけならば引き取るとのこと。一人で生活できる者は引き抜かれて、結局は管理局に入ることになった。

そして残った者たち。魔法は使えても、使えるだけ。正規の教育を受けていない者や、魔導師としての資質を持たない者たちは、俺の実家――スクライアが引き取ることとなった。

とは言っても、スクライアが受け入れたのは子供やその親が大半だ。老人などは難民として管理局に保護されている。労働力にならない人を受け入れるほどスクライアにも余裕があるわけではない、とのこと。

……ま、俺ができるのはこれぐらいだ。不満があるなら何かやからしたであろうスカリエッティに言って欲しい。

ちなみに、キャロはスクライアに引き取られたル・ルシエの中でも孤立している。同族の彼らから見ても――いや、同族だからこそか。キャロの召還したヴォルテールはよっぽど異常に見えたのだろう。

そうして一人じゃないのに一人になってしまったキャロだが、お人好しのマイブラザーとマイシスターが放っておけるわけもなく。

いざとなったヴォルテールを止めることもできるということで、キャロの面倒はユーノたちが見ることになったのだ。

……召還魔法に関してだけは、どこぞのネゴシエーターに頼んでいるけど。激しく不安だ。

そんなことを思い出しつつ、手紙を戻した封筒を指先で撫でる。

あー、なんだろう。なんかわくわくするな、こういうの。

どんな返信をしてやろうかと考えるだけで、妙にくすぐったい気分になる。

「……んー? どうしたん、エスティマくん」

ふと声をかけられ、顔を上げる。

そこにいたのは、はやて。彼女は身を乗り出しながら首を傾げ、俺の手元を覗き込んできた。

体重をかけられた机がきしきしと軋みを上げている。上目遣いでそんなことを問われ、少しだけ椅子を引いた。

……角度的な理由でそれとなく目を逸らし、口を開く。

……もう女の子女の子し始める年齢なんだからさぁ。もうちょっと他人の目とかを気にした方が良いんじゃないかなこのお嬢さんは。

「何が?」

「なんか、すっごい楽しそうな顔してる。良いことあったん?」

「ああ、うん。今朝ポストを覗いたら手紙が入っててね。実家の兄妹ズから」

「あー……ユーノさんやフェイトさんからな」

二人の名を口にした瞬間、はやての表情に陰りが生まれた。

しかしすぐにそれを打ち消すと、彼女は温かくなるような笑みを浮かべて、良かったやん、と口にして乗り出した身体を元に戻した。

「仕事人間と化しているエスティマくん、ちーっともスクライアに帰らんからな。
 縁が断絶してないか、ちょっと心配やったよ?」

「スクライアには帰ってないけど、ユーノたちとはクラナガンで会ったりしてるんだ。
 だからまぁ、全然顔を合わせてないってわけじゃない」

「そっかー」

よしよし、と頷くはやて。そんな心配しなくたって大丈夫だってば。

どんな風に見られているんだか。

……しっかし、この時期に手紙とはね。

狙っているんだか狙っていないんだか……いや、考えすぎだろう。

手紙を送ってくれたこと自体は嬉しいけれど、嫌な偶然もあったものだ。




















リリカル in wonder


















「なのはちゃん、大事なお話ってなんですか?」

「ん……込み入った内容だから、着いたらね」

はーそうですかー、と不思議そうな顔をするシャマル。彼女と繋いだ手をきゅっと握り、なのはは聖王教会の本部へと続く道を歩いていた。

市街地から離れるにつれ、道が煉瓦で敷き詰められたものとなる。

それがカウントダウンのようにも思えて、なのはは唇を少しだけ噛んだ。

……今日、遂にシャマルに隠してきた事実を伝える。シャマルだけじゃない。エスティマが預かっているシグナムにも、だ。

この日がくるまで短かったような長かったような。

シャマルを高町家で預かってから四年近くが経っている。もう九歳か十歳。二人も自分が管理局で働き始めた年齢になった。

だからなのだろう。これから二人に以前の自分たちが行ったことを打ち明け、管理局に所属しなければならないことを明かす。

避けることができない日が、やってきてしまった。

気付かれないようにシャマルへと視線を向ける。これから何を伝えられるのかも知らず、おそらく、ヴィータやザフィーラ、シグナムたちと会うのを楽しみにしているであろう守護騎士は、鼻歌をうたいながら、なのはに歩調を合わせている。

……この子には随分と助けられた。任務に連れていくようなことはしていないけれど、夜遅く帰っても待っていてくれて、治癒魔法で疲れを癒してくれた。

厳しい訓練を続けることができたのも、きっとこの子が支えてくれたからだろう。守護騎士という意味で、シャマルは充分に自分の役に立っている。

……足が重いよ。

行かなければならないと分かっていても、どうしても駄目だ。

以前の自分たちが何をしたのか知ったら、きっとこの子の笑顔は曇る。

シャマルは何も知らない――そう、何も知らない、ただの女の子なのだ。

少しだけ魔法の使える、どこにでもいる女の子。できることなら何も知らないまま第二の人生を過ごして欲しいと願ってしまうぐらいに。

……けど、約束だから。

そうだ。自分は約束をした。闇の書を破壊する際に、二度と間違いを犯さないよう導いてやって欲しいと。

この子をそんな風に育てられただろうか。

悪いことは見過ごさない。人には優しく。そんな当たり前の価値観を持つ子に育ってくれたとは思う。

ただ、芯の強さだけは分からない。

どんな風に――

「よう」

考え込んでいると、不意に声をかけられた。

見れば、エスティマが壁に背を預けてこちらに手を振っている。仕事帰りなのだろう。茶の陸の制服姿だ。隣にいるシグナムも、学校の制服を着ている。

「シグナム!」

「シャマル!」

久し振りー、とはしゃぐ二人の様子に苦笑しつつ、なのははエスティマへと念話を送る。

『少し時間に遅れてるぞ』

『ごめん。転送ポートが混んでて』

『それならしょうがないか。さ、行こう。皆待ってる』

『皆?』

『ああ。はやてにヴィータ、ザフィーラ、シスター。それにクロノも。あいつが闇の書事件の担当だからね』

シスターとは、おそらくシャッハのことだろう。

小さく頷くと、なのははシャマルとシグナムを連れて聖王教会の建物へと入った。

年季の入った廊下を進みながら、エスティマくんはどう思っているのかな、と疑問が浮かぶ。

自分と同じように守護騎士を預けられた彼は、今日のことをどう考えているのだろうか。

『エスティマくん』

『なんだ』

『大丈夫?』

『何がさ』

『その、シグナムちゃんのこと……』

『ああ……ま、蓋を開けてみなけりゃ分からないかな。ウチの娘がどう思うのかは。
 駄目親父だからね。性格やらなんやらは把握しているつもりだけど、何を考えているのかはさっぱりだ』

その言葉に、なのははエスティマの顔を見上げた。最近では彼の方が身長が高いため、自然とそうなるのだ。

『幼年期の終わり、ってね。満足に導いてやれなかったことを嘆いてもしょうがない。
 今度は独り立ちが出来るよう、補助輪役をしてやるだけさ。
 お、今なかなか上手いこと言った気がする。元ネタと絡めて』

『ごめん分からない。
 ……それにしても、なんだか突き放した言い方だね』

『カルチャーショックだなぁ。
 それにしても……まぁ、そうか。あんまり心配して、いざ悲しまれたらやっぱりそれなりにショックだし……護身なのかもな』

それで念話を打ち切って、エスティマは歩調を早めた。

先に進んだエスティマに追い付こうと、シャマルと話していたシグナムは駆け足になる。

それに気付いたエスティマは振り返ると、彼女の手を取って一緒に進み始めた。

エスティマに先導されて皆が待つ部屋へと入ると、彼が言っていた人たちが既に揃っていた。

はやてと目が合うも、これから話すことがことだからか、彼女は小さく頭を下げるだけ。なのはも同じように返すと、勧められた椅子へと座る。

ようやく全員が揃った。それを確認すると、クロノが席を立って周囲を見渡した。

「それでは、早速話を始めようと思う。まず最初に、自己紹介をしよう。
 シグナム、シャマル。僕は闇の書事件を担当している執務官、クロノ・ハラオウンだ」

している。していた、ではなく。まだ終わっていない闇の書事件。それの終わりが、ようやく始まろうとしている。

「まず君たちには、現状の確認から行おうと思う。ヴォルケンリッターである君たちが、なぜエスティマとなのはの守護騎士となったのか覚えているか?」

「いえ、分かりません。私は父上の守護騎士として呼び出されただけですから」

「はい。私もなのはちゃんに」

「そうか」

疑問にも思っていなかったのか。思うには幼かったというのもあるのだろうが。

クロノの神妙な顔に、シグナムとシャマルの二人は顔を見合わせる。

クロノは苦虫を噛み潰したような顔をした後、慣れた調子で無表情になり、先を続ける。

「それでは、君たちに知ってもらおう。ヴォルケンリッター、烈火の将シグナムと湖の騎士シャマル。君たちが何故、本来の持ち主から離れているのか」























お腹の中に重い何かが溜まった感じ。妙に息苦しくて、胸が潰れそう。

握り締めようとした手は震えていて、上手く力が入らない。

「……そうですか」

隣から上がった声に、びくりと身体を震わせた。

真っ先に思ったことは、なんで、の一言。

私の隣にいるのは、シグナム――同じ守護騎士のシグナム。一緒に初期化された子。

俯いて桃色の前髪で隠れていた顔は上げられ、瞳に真摯な色を浮かべている。

それがどうしても信じられなくて、私はどうすれば良いのか分からなくなった。

たった今聞かされたこと。私たちが初期化された理由。

闇の書が危険なロストロギアだった頃、私たちは魔力を蒐集するためにたくさんの人を殺したという話。

冗談なんかじゃないことは、ここにいる皆の顔を見れば分かった。

けど、だからこそ私はシグナムが信じられない。

……なんで受け入れることができるの?

だって、そんなこと……!

「どの道、私は管理局に入るつもりでした」

「……シグナム」

……そう。そうなんだ。

今の一言で、自分とは違うんだと分かってしまう。

これから自分がしなければならないことと、したいことがぐちゃぐちゃに混ざって分からなくなる。

俯き、ぎゅっと両手を膝の上で握り締めた。

「シャマル」

そうしていると、不意に隣から延びてきた手が私の握り拳を包み込む。

なのはちゃん。私のマスター。

おずおずと顔を上げて、どうか、と思うけれど――

なのはちゃんが思い詰めた顔をしていて、本当なんだ、と今度こそ納得してしまった。

本当に私は人を殺したんだ。

絶対にやっちゃいけないことだと、桃子お母さんやお父さん、お兄ちゃんたちから口を酸っぱくして言われたことをやっていたんだ。

「や――」

「あのね、シャマル。シャマルも――」

「やだ!」

なのはちゃんの手を振り解き、その場から逃げ出す。

後ろから誰かの声が聞こえたけれど、止まるつもりはない。

段差とも言えない段差に躓いて転び、ふえ、と泣き声を上げそうになる。

それを必至に我慢して廊下の隅まで這うと、私はその場で体育座りの格好になった。

膝を抱えて顔を埋める。ぎゅっと腕に力を込めるも、身体の震えは一向に収まってくれない。

知らない。人を殺したことなんて覚えていない。良い子で――そう、なのはちゃんに迷惑をかけないように、ずっと良い子でいたのに。

それなのに、なんでこんなことになったんだろう。

思わず、以前の自分に対して怒りを向けてしまう。どんなことを考えていたのか知らないけれど、なんでこんな……。

「う……」

しゃくり上げるのを必至に我慢するけれど、震える喉は止まってくれなかった。

なんとか口だけは閉じるけれど、うー、と声が漏れてしまう。涙が埋めた腕に染みて、湿っぽい。

「わたし、は、なにも、悪いことなんか、していないのに……!」

ず、と鼻を啜りながら、なんとかそれだけを呟いた。

けれど口にしてみたところで、誰もそれを肯定してくれない。

違う。私の知らないところで、私は悪いことをしていたのだ。

怖い。怒られる。誰に、かは分からない。

私が人を殺していたことを皆は知っていたのかな。

知っていたのなら今までずっと優しくされていたのが嘘だ。だからきっと、知らないと思う。

……怖い。もし私が人を殺していたなんて知ったら、皆は私をどんな目で見るんだろう。

ふと、酷く冷たい目をした家族の顔を想像して、ぞ、と鳥肌が立った。

絶対にやっちゃいけないよ、って言われていたのに……。

……それに。

「魔導師になるだなんて……できるわけないです」

私にはマスターみたいな才能があるわけじゃない。怪我を治すのが精一杯。

だから守護騎士でも、なのはちゃんの疲れや怪我を癒して、おかえりを言うぐらいしかできないのに。

……ううん、違う。

そんなのは言い訳で――

「……なりたかったのに」

口に出した瞬間、じわ、と涙が量を増す。

お菓子屋さん。桃子お母さんと一緒にお菓子を作って皆と仲良く食べて。

けれど、私は管理局で働かなければならない。お菓子屋さんになる修行は大変よ、と言っていた桃子お母さんの言葉がどこかから聞こえた気がして、胸に宿っていた熱が急激に冷え始めた。

……諦めなきゃ。

悪いことをしたら謝って、罰を受けなければならない。そんなことは学校でも言われていること。

だから私は、罰を受けるために管理局に入らなければいけなくて――きっとお菓子屋さんにはなれない。

……ううん、絶対になれない。

それを認めちゃった瞬間、なんとか否定しようとしていた熱が一気に冷めて、諦めなきゃ、と思い始めた。

せっかくお菓子の作り方を教えてもらったのに。

海鳴のなのはちゃんのお友達にも、頑張って、って言われたのに。

きっと美味しいお菓子を御馳走します、って約束したのに。

応援してくれた皆に申し訳なくて、嘘を吐いてしまったみたいで、お腹が痛くなる。

どうしよう。どうすれば良いんだろう。

本当にこれから自分がどうすれば良いのか分からなくて――

「シャマル、やっと見つけた……!」

息切れに混じった声と一緒に、なのはちゃんの声。

なのはちゃんは胸を上下させて汗を頬に浮かべながらも、私ににっこりと笑顔を向けた。



























シャマルが飛び出して行ったのを目で追って、そうか、とどこかで納得する。

流石に放っておけないからか、なのはが後を追うように部屋を飛び出した。

それを声もかけずに見送る俺たち。

……こっちにはこっちで、しなきゃならない話があるだろうしね。

溜息一つ。それで諦めとも決意ともつかないものを飲み込むと、俺は娘であるシグナムに顔を向けた。

守護騎士シグナム。彼女はクロノの説明を聞いて、あっさりとそれを受け入れた。

どんな心境なのか。それを見極めて、正しい方向に導く。それが俺の役割だろう。

「シグナム」

「はい、父上」

「お前が管理局に入るつもりなのは前から知っていた。
 それは、守護騎士として俺の部隊に入りたい、ということか?」

「そうです、父上。私はあなたの守護騎士です。いつもそばに立ち、脅威からあなたをまもる盾です。
 父上が管理局にいるのならば、私は管理局にはいります。はいって、父上をまもります。
 ……そうです。もう二度と、私の手の届かない場所で父上がたおれることのないように」

そう言い、シグナムは胸に手を当てて目を瞑る。

さっきの言葉。そして、何かを思い出しているその様子。

……もしかしたらシグナムは、三課が壊滅した任務で俺が重傷を負ったことを引き摺っているのか?

だから、あんなに平然と管理局に入ることを受け入れたのだろうか。

それは……どうなんだろう。

別に問題はないんだけど、さ。

これでも俺だって執務官の端くれだ。贖罪を行う場合、本人が何を考えていようと、まともな勤務態度で管理局所属の魔導師として戦ってくれればそれで良いことぐらい、分かっている。

ただ、それとは別の部分。守護騎士である以上ある程度は仕方がないのかもしれないが、今のシグナムは過去の罰よりも今の――非常にアレな言い方をするならば、俺のために管理局入ろうとしている。

……重ねて言うが、それ自体に問題はない。誰も普通は気にしないことだ。

ただ、それが露見したとき、周りがシグナムをどう受け取るか。

……彼女にとって幸いじゃない状況になることだけは確かだ。

罪を償うために管理局に入ったはずの者が、違うことを目的として働く。プログラムとはいえ人間のようなものなのだ。そういったことがあっても不思議じゃない。

不思議じゃないが――

「……シグナム」

「はい、父上」

腰を上げて、椅子に座ったシグナムの前に立つ。そして腰を屈めると、彼女と目線の高さを合わせた。

真っ直ぐに俺の瞳を見る視線は真剣そのもの。そして、おそらく先程の言葉……いや、宣言に対しての反応を待っているようだった。

……悪いな。

シグナムが本来とは別の意図で管理局に入る。そこに問題はない。

しかし、周囲との摩擦から守ってくれる緩衝材に、俺はなれないのだ。

そう、

「俺は、お前を第三課に入れるつもりはない」

「……え?」

そうだ。近くでこの子を守ってやることなどできない。

ずっと胸に秘めてきたことだったのだろう。それを一言で否定され、シグナムの瞳が揺れた。

しかし、視線はすぐに力強さを取り戻すと、彼女は舌で唇を湿らせ、おずおずと口を開く。

「なぜ、ですか?」

「首都防衛隊第三課は、ミッドチルダ地上部隊の中でも過酷な任務をこなしている部類に入る。
 だから、お前を受け入れる余裕はないんだ」

「任務が過酷ならば、私がひつようなはずです!」

「いらない。必要ない。空戦Bランク程度の魔導師なんて、いても役に立たない」

「な……!?」

『エスティマくん!』

シグナムが絶句すると同時に、だ。

ゴツ、と後頭部を殴り付けるような念話がはやてから届いた。

『言い方ってもんがあるやろ!? そこまで正面から否定せんでも、ええやんか!』

『……駄目だよ、はやて。この子は本気だ。本気で俺の役に立ちたいと思っている。
 だからこそ、柔らかい言葉で宥め賺そうとしても最後まで食らい付いてくるさ。
 ……気持ちは嬉しいんだけどね』

『せやけど……。
 ……ううん、ごめん。私が言えた義理やないもんな』

『気にしないで。助かってるから』

……本当に。俺には勿体ないぐらいだ。彼女も、シグナムも。

はやての時でさえあれだけ渋ったのだ。それが彼女よりもランクの低いシグナムとなれば、俺がどんな態度を取るのか分かったのだろう。

……少し考えれば、シグナムの好意に俺が折れた場合の未来が容易に予想できてしまう。

戦闘機人が闊歩する戦場に、シグナムがいてどうなる。この子を守ってやれる余裕が、その時の俺にあるわけがないんだ。

今の三課を、前の三課と同じ結末を辿らせるつもりはない。

あんな悲劇は、苦しみは、もう腹一杯なんだよ。

「……いや、です」

ポツリと呟かれた言葉に、いつの間にか外れていた視線を彼女に戻す。

シグナムは俯き、前髪で目元を隠している。どんな目をしているのかは分からない。

しかし、注意せずとも分かるほどに悔しさの滲んだ声色。引き結ばれた口元からは、拒絶の意志が見て取れた。

「私は父上の守護騎士です! それ以外にどう在れというのですか!?
 嫌です。嫌に決まっています!
 父上の背中を守るために、ずっと鍛錬を続けていました!
 それがようやく花開くと思ったのに、なんでそんなことを言うのですか!?」

だん、と肘掛けを拳で叩いて、シグナムは椅子から跳ね上がった。

そしてポケットから待機状態のレヴァンテインを取り出すと、ペンダントを握り締めて顔を上げる。

青い瞳は、薄く涙で濡れている。

「戦ってください。
 あなたが思っているほど弱くはない。私は、父上に守られてばかりじゃありません!」

「……そうか」

短く応え、俺も胸元にSeven Starsを握り締める。

……この子もベルカの子だもんな。

だったら、こっちで分からせた方が早いか。

『旦那様。カスタムライトは局の方に置いてきましたが』

「……問題ない。切り結ばなければ良いだけの話だ。
 分かった、シグナム。お前がそれで納得するのなら、戦ってやろう。
 俺を切り伏せることができたら、認めてやるよ」

「……分かりました」

全力ではないことに不満があるのか。シグナムは憮然とした表情をしながらも、小さく頷く。

ピリピリとした空気にそれぞれが神妙な顔をした部屋を後にして、俺とシグナムは模擬戦を行った。

……別に勝負の結末を詳しく記す必要もないだろう。

バリア出力にものを言わせて接近し、切り伏せる。そのスタイルはこのシグナムも変わっていない。

ただ、それを補佐する技能、技量があまりにも低い。

彼女は逃げ続ける俺に追い付くこともできず、ヴァリアブルバレットでの削りに対処することもできず、敗北した。

……それで全部は終わり。そうなるはずだった。はずだったんだが――

どうやら俺は、地味に親馬鹿だったらしい。

これから配属される部隊では俺のことを考えず、きっちりと仕事をする。

そして、AAAランク。そこまで実力を付けたら俺のことを守ってくれと、そうシグナムに約束した。



























「そっか。ショックだったんだね」

「……はい」

ぐすぐすと腕の中で鼻を鳴らすシャマルを抱き締めながら、なのははシャマルに気付かれないよう、目尻を下げた。

ついさっき、はやてから念話が届いた。

どうやらエスティマの方も穏やかに説得することができなかったらしい。

エスティマの部隊に行きたいというシグナムの願いを断り、模擬戦になったと。

模擬戦への流れはともかくとして、

……分からない。なんでエスティマくんは、そんなことを言ったのかな。

腕の中でしゃくり上げるシャマルを見て、とても自分にはそんなことができないと、軽い怒りすら感じる。

考えなしに彼がそんなことをしないことぐらい、なのはも理解している。

きっと自分とは違った考え方が、彼にはあるのだ。

しかし、エスティマだって言われたはずだ。導いてやって欲しいと。

……そう。私はこの子を導いてあげなければならないんだ。

胸中で渦巻くものを仕舞い込んで、なのはは笑顔を浮かべる。

守護騎士と言っても、まだ子供。魔法を覚えたばかりの自分と同じ歳。

……私だってたくさん迷って、色んな人に助けてもらったんだ。だから、今度は私が助ける番。

「シャマル」

「……はい」

「シャマルには夢があるんだよね。大事な夢が。
 だったら、それを諦めちゃ駄目だよ」

「でも、私は管理局で働かなくちゃいけなくて……」

「そうだね。でも、それだけが全部じゃないから。
 大丈夫。誰かがシャマルを責めても、私が一緒にいてあげる。
 だから、大事なことを捨てたりしないで。
 一緒に頑張ろう。そして、考えよう?
 一人で抱え込んだりしないで。シャマルの周りには、たくさんの人がいるんだから」

「けど、私は悪いことをして……」

本当は嫌われてるんじゃ、とシャマルが口にした瞬間、なのははシャマルを抱く腕に、少しだけ力を込めた。

どんな言葉をこの子にかければ良いのだろう。

闇の書事件の被害者遺族。償いをしたとしても尚向けられる怨嗟に、シャマルやシグナムは耐えられるだろうか。

すべての人がシャマルに恨みを持っているわけではない。それはなのはの家族がそうだし、友達もだ。

しかし、全ての人がそうではない。この子はそれに気付いてくれるだろうか。

純真なままのシャマルでいることができるだろうか。

……ううん、いさせるんだ。

それが、この子を預かった私の役目だから。

罪を償うために、シャマルたちは生まれ変わった。そして今は、罪を償う以前の問題として、これからどう生きて行けばいいのか分からなくなっている。

罪の償い。それとどう決着を付けるのかは、なのはにも分からない。

ただ今は、この子が潰れずにいるにはどうすれば良いのか。それだけを考えよう。

「守ってあげる」

「……え?」

「折れず、曲がらず。シャマルが今のまま、夢を追い続けるままでいられるよう、私が一緒にいて守ってあげる。
 シャマルが一人で大丈夫になるまで」

「……けど」

「守ってあげるから」

再びぎゅっとシャマルを抱き締めて、なのはは心の中で小さく呟く。

……寄り道になったとしても構わない。この子と一緒にいよう。

シャマルが自分で決着をつけることが出来るようになるまで。




























暗い、暗い部屋。

多くの本棚に囲まれ、遮光カーテンによって窓を覆われた部屋。

その中を、光源となるいくつもの紙片が舞っている。

イエローの光を纏った紙片。そこに書かれている古代ベルカ語を頭の中に入れながら、カリム・グラシアはマルチタスクを使用して文字の羅列――予言の内容を見極めようとしていた。

彼女の稀少技能、予言者の著書。それに記される事柄に、ここ最近、一つの新たな項目が増えたのだ。

内容は確定してしまった。もはや避けることのできない未来なのだろう。

四行からなる予言。

それを見極めようと目を細め、彼女は同じテーブルについている二人に声をかけた。

「わざわざごめんなさい、はやて。忙しいところに、ごめんなさい」

「ええんよ。大変なのはエスティマくんやなのはちゃん。
 私には、二人の手伝いしかできへんし」

そう言い、はやては力なく笑う。

少なからず無力感を味わっているのだろう。元は彼女のものだった二人の守護騎士。愛着だってあったであろう彼女たちを、ただ見ていることしかできないのは。

カリムは目を伏せて息を吐くと、意識を切り替える。

今は彼女を呼び出した用件を伝えないと。

周囲を舞っていた紙片の内一枚が、不意にはやての手元に飛んでくる。

はやては首を傾げながらそれを手に取ると、眉を潜めながら書いてある文字列を解読しようと試みる。

しかし、さっぱりだ。古代ベルカ式の魔法を使うとはいえ、言語まではマスターしていない。

「カリム、これは?」

「私の稀少技能は知っていますね?」

「あ、うん。前に言っていた、予言の。
 それが、これ?」

「ええ。そこに記されているのは、ここ最近、ようやく確定した未来の情報です」

「……ええっと、ごめん。何が書いてあるのかさっぱりです」

そうでしょうね、とカリムは苦笑すると、小さく喉を鳴らして、予言の内容を口に出す。

「法を守る者たちと彼らの砦が焼け落ちる中。
 王の証、もしくは印を持つ者、邂逅を果たす。
 暗幕の跡地で力果て、死者の列に加わり。
 親しき者との別離が、緩やかな終焉の始まりとなる。
 ――と、予言にはそう記されています。
 内容の方は解析が進められていますが、未だはっきりとしません。
 しかし、いくつか分かっていることがあります」

「分かっていること?」

「はい。これに記されている、王の証、もしくは印を持つ者。
 この人物が鍵となっているようです」

「王の証……」

「はい。そして重要なのは、王の証を持っているだけで、王である、と断言されていないことでしょう。
 ……王の証、と一言に言っても色々あります。既に失われていますが、聖王教会ならば、ずばり聖王の血筋。
 聖王に限定しなければ、古代ベルカで他に王の証明となったものも多くあります。
 ミッドチルダの場合もまた、色々と。
 それに関わる者のリストをあとで送るので、あなたにはその人物をそれとなくマークして欲しいのです」

「分かった」

二つ返事で、はやては頷きを返す。

管理局に籍を置いていると言っても、はやては聖王教会の人間なのだ。上司であるカリムの頼み事を断ることなどできない。

それにこれは、頼み事ではなく命令に近いものなのだろう。

そこから続くカリムの説明を聞きながら、はやてはマルチタスクで先程聞いた予言を思い出して、それにしても、と呟く。

焼け落ちる中。酷く不吉な一文。

もし予言に記されたできごとが起こったのだとしても、発生すること自体が既に災いではないのか、と。

……後手に回るのが前提か。せやけど、無視することはできひん。

小さな覚悟を決めるも、嫌な予感がどうしても拭えず、はやては言い表せない気持ち悪さを感じた。



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